【神乱】民の説得へ
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/17 05:04



■オープニング本文

 天儀暦1009年12月末に蜂起したコンラート・ヴァイツァウ率いる反乱軍は、オリジナルアーマーの存在もあって、ジルベリア南部の広い地域を支配下に置いていた。
 しかし、首都ジェレゾの大帝の居城スィーラ城に届く報告は、味方の劣勢を伝えるものばかりではなかった。だが、それが帝国にとって有意義な報告かと言えば‥‥
 この一月、反乱軍と討伐軍は大きな戦闘を行っていない。だからその結果の不利はないが、大帝カラドルフの元にグレフスカス辺境伯が届ける報告には、南部のアヤカシ被害の前例ない増加も含まれていた。しかもこれらの被害はコンラートの支配地域に多く、合わせて入ってくる間諜からの報告には、コンラートの対処が場当たり的で被害を拡大させていることも添えられている。
 常なら大帝自ら大軍を率いて出陣するところだが、流石に荒天続きのこの厳寒の季節に軍勢を整えるのは並大抵のことではなく、未だ辺境伯が討伐軍の指揮官だ。
「対策の責任者はこの通りに。必要な人員は、それぞれの裁量で手配せよ」
 いつ自ら動くかは明らかにせず、大帝が署名入りの書類を文官達に手渡した。
 討伐軍への援軍手配、物資輸送、反乱軍の情報収集に、もちろんアヤカシ退治。それらの責任者とされた人々が、動き出すのもすぐのことだろう。

 ――ヴァイツァウ反乱軍領内、ボモレスクの町。
 町の公会堂に集まった人々は、一人の青年の演説に聞き入っていた。貴公子然とした青年の名をロビンと言った。
「みんな! いよいよコンラート様が出陣されるぞ! カラドルフ大帝の圧政から、俺たちを解放して下さるお方だ! コンラート様こそ‥‥」
 ロビンの熱弁を聞きながら、聴衆の中で二人の男、デットとバウムが囁き合っていた。
「いよいよ戦が始まるな」
「ああ。コンラート様だろうとジルべリア軍だろうと、とにかく戦はご免こうむりたいね」
「しかし、どうしたもんかね。ロビンの奴、本気かね」
「全く、このままじゃ俺たちも戦に駆り出されるぞ」
 そこで、二人の後ろから鎌が伸びてきて、椅子をごつごつと叩いた。
「デット、バウム、何をこそこそ話してる。ロビンの話を聞け」
 鎌を持っていたのは、いかつい強面の男であった。ロビンの片腕でギルモスと言った。
「す、すまねえギルモス‥‥そう怖い顔するなって」
 ギルモスはデットとバウムを睨みつけると、鎌を持って歩き去った。
 ボモレスクの町は、内実は二つに割れていた。反乱軍と合流して積極的に協力するか、それとも物資の援助など間接的な協力に留めるか。いずれにしても反乱軍に協力することには変わりはない。
 その音頭を取っているのが、ロビンであった。
 そうして、ロビンは演説を終えると、仲間たちとともに一軒の建物に入って行った。
 ロビンはどっかとテーブルに足を投げ出すと、聴衆の前とは一変して、歯を剥きだして酒をあおった。
「全く意気地無しどもめ。このままじゃ戦が始まってしまうぞ。コンラート様に協力して戦うしか、俺たちの生きる道は無いんだ。これ以上カラドルフの圧政には耐えられない。俺たちが立ち上がれば、他の日和見たちも後に続くはずだ」
 そこで、ギルモスが口を挟んだ。
「デットとバウムが気がかりだ。あの連中、戦うことには反対のようだからな」
「臆病者が!」
 ロビンはテーブルを蹴り上げた。室内にいる人々は、ロビンの血気が爆発するのを恐れるかのように後ずさった。

 デットとバウムは、町長のもとを訪ねると、風信機の使用を求めた。
「何をする気だ二人とも」
「こうなったら仕方ありませんや。グレフスカス辺境伯に救援を求めるんです」
「何? 辺境伯に? しかし、そんなことがロビンの耳に入ったら」
「このままじゃ、町のみんなは戦に駆り出されちまう。俺たちには止められないけど、辺境伯なら何とか手を考えてくれるはずです」
「ふうむ‥‥」
 町長は思案の末に、二人に風信機の使用を許した。

 リーガ城のグレフスカス辺境伯のもとに、ボモレスクから救援を求める声が届いたのはそれから間もなくのことである。
 辺境伯は、町の半数の民が武装して蜂起寸前であることを改めて間者を送りこんで確認すると、開拓者を呼んだ。
「反乱軍領内のボモレスクの町で、民の一部がコンラートに協力しようと動いている。どうも、かなり物騒なことになってきているようだが。少なくとも、戦闘が始まるまでに反乱軍へ合流する事態は避けたい。それにボモレスクはまだ中立化できる望みもありそうだ。私からの使者として、ボモレスクへ赴き、事態の鎮静化を図って欲しい」
 辺境伯はそう言うと、文書をしたため印を押し、開拓者たちにその文を託した。


■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
鉄・劉生(ia0849
18歳・男・泰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
飛騨濁酒(ia3165
24歳・男・サ
黎阿(ia5303
18歳・女・巫
シュヴァリエ(ia9958
30歳・男・騎
アレン・シュタイナー(ib0038
20歳・男・騎
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
ブリジット(ib0407
20歳・女・騎


■リプレイ本文

 出立前、開拓者たちの姿はリーガ城にあった。グレフスカス辺境伯と会う――。
「グレフスカス辺境伯‥‥御会いするのは、これで二度目ですね」
 秋桜(ia2482)は言ってお辞儀する。
「時に気掛かりが一つございまして‥‥以前の依頼で引き渡した捕虜のその後をお伺いしたく‥‥出来るのならば面会も。私のやった行為。例えどの様な結果であろうと受け入れます」
 秋桜は先の依頼で、反乱軍を捕縛し、実際綺麗とは言えないやり方で捕虜を尋問した。
「捕虜たちは投獄してあるが、面会してどうするつもりかね」
「もしまだ自我があるようなら、私のすべてを差しだして買い取ります」
 伯は首をかしげた。
「リーガ城の戦が始まったあとで、反乱軍に返します」
「それは承服しかねる。彼らは罪人だ。気持ちは分かるが、あなたが責めを追うことは無い。依頼をしたのは帝国軍なのだから。捕虜たちの処遇は戦が終わった後で決める」
 辺境伯は手を上げて、やんわりと秋桜の言葉を遮った。
「お初にお目にかかりますわ、辺境伯様。開拓者の末席に名を連ねる黎阿(ia5303)という者。お見知り頂ければ幸いです」
 コンラート軍の兵力と帝国軍の勢力の対比、仮にボモレスクが全員反乱軍に加盟した場合、激突する可能性のある軍との兵力の対比等を聞いておく。
「我が軍は武装した正規軍が1200、反乱軍は志願兵が大半を占めるが、数は2000を越える。巨神機さえいなければ恐れる必要は無いことだが‥‥」
「辺境伯様、ジークリンデ(ib0258)と申します。ボモレスクの民には、帝国への帰順を条件に、兵役の免除や租税の一時的な減免や民をアヤカシから護るなど何らかの実生活の改善案をお約束して頂ければ、交渉がしやすくなります」
「私とて民に必要以上の重税を課すつもりはない。だが、この地を治めるには、アヤカシ対策に必要な戦費を調達せねばならない。民の暮らしが豊かでないことは承知している、帝国に帰順するなら、一時的な減免くらいは約束しよう」
 グレフスカス辺境伯は領民思いな分、察するだけでも余りある心労ですね‥‥私の力で助けてあげたい。ブリジット(ib0407)は幾つか辺境伯に質問する。
「何か服装をお借り出来ないでしょうか。落ち着きのある文官服などです。町の年配者や女性達に好感を持って貰えるように、身形を整えておこうと思いますので。それから、交渉材料に軽めの金品宝石を頂けないでしょうか」
「結構ですよ」
 文官服と宝石類を手に取り、ブリジットはお辞儀した。
 それから開拓者たちはリーガ城を発った。 

 ボモレスクに到着、鉄・劉生(ia0849)はみなと別れて不審者などの捜索に回った。正使としてではなく、旅人を装って町に入り込んだ。
 町はどこか物々しい雰囲気に包まれていた。武器を持った男たち時折歩き回って、町中に睨みを利かしていた。
 劉生は武装した男たちと別れる。それからたむろしている町人に声を掛けた。
「ふーむ、この町は変わった町じゃ。女子供を見捨てて戦いに向かおうとしているんじゃからの」
「そう思うのも無理ないだろうがな‥‥」
「何か事情があるのか」
 町人たちは「くわばら」と散っていく。

「いや、すっげえアヤカシでさ。こんなにデカくて家くらい吹き飛ばしそうな勢いで殴ってくんだよ。おまけに一体じゃねえの。なんとか倒せたけど着く前に人とか家畜とかずいぶんやられちまっててさー‥‥」
 赤毛の熱血少年ルオウ(ia2445)は、偶然町に立ち寄った開拓者を名乗り、酒場などで人々にアヤカシの脅威を吹聴して回る。
「お前、開拓者とは言えまだ子供だろう。ミルクだな」
 酒場の親父は笑ってミルクのカップを置いてくれた。
 と、ルオウはミルクを飲みながら、酒場の一角から突き刺さるような視線を感じて、相手と目を合わさずに振り返る。武装した男たちがルオウを睨んでいる。
「あれは‥‥」
 傍らにやってきていたジークリンデが、手近な民に酒を奢り、武装している男たちのことを聞き出す。
「コンラート様に協力しようと言うロビンの部下たちだな」
「‥‥そのロビンは騎士か反乱兵なのですか」
「町の血気盛んな連中を集めて、戦争に出向こうとしているんだよ。この戦に乗じて、帝国に反感を持つ町の人々の感情につけ込んで、民兵を率いてコンラート様の軍に合流しようとしている」
「ふうん‥‥」
「行きましょうかルオウさん」
「おう」
 二人は酒場を出る。

 ブリジットは、女性達が集まるような市場や井戸端、洗濯場に出向き、町にアヤカシの危険が迫っている事や戦に旦那達も駆出される事を含ませた話をする。
「聞いた話だと、今町は意見が割れているそうですけど、みなさんは戦に反対ですか」
 最も町でデリケートな話に、気さくに話しかけたつもりだが、女性たちの警戒心を煽ってしまった。
「あんたよそもんでしょう。どこかのスパイなの」
 気の強そうな娘が怖い顔でブリジットを睨みつけた。
 ブリジットは肩をすくめると、辺境伯の使いで町を訪れていると説明する。
「北から帝国軍の援軍が到着しつつあります。帝国の正規軍です。これに千人を越える開拓者ギルドからの支援があります。志願兵の寄せ集めである反乱軍に勝ち目は無いです。どうか、血気にはやる人々を皆さんからもそれとなく止めて下さい」
「私達に出来ることは少ないけど‥‥」
「帝国の正規軍が来たことを伝えて下さい。反乱は鎮圧されようとしているのです」
 ブリジットは言葉に力を込めた。

 開拓者たちは一通り町の様子を確認すると町長のもとを訪ねる。
 辺境伯からの正使であることを伝えると、文書を確認して役人は開拓者たちを町長のもとへ案内した。
 町長は眼鏡の奥から思慮深げな瞳に光をたたえて、開拓者たちを見つめる。
「辺境伯からの正使とは‥‥伯もよほど切羽詰まっていると見えるね」
「町長様、民を集めて頂けますか? この無益な戦にこれ以上民を巻き込みたくありません。みなさんを説得したいのです」
 秋桜は言って、町長にお辞儀する。
「この国がどうなろうと俺の知ったことじゃねえが、それでも無辜の民が苦しんでいるのを放っておくことはできねえ‥‥町長さんよ、俺たちに協力してくれねえか」
 シュヴァリエ(ia9958)も町長にそう言って、腕組みした。
「町長さん、例えば町の商工会の有力者や職人の親方、自警団長などへの紹介をお願いできませんか。若者達を纏めている年長者を中心に説得活動をしたいと思います。軍事的な部分よりも辺境伯に対する内政面での不満を聞き、不満を踏まえて話をしたいのです。反乱軍に協力するよりも、自分達の生活を守る方に関心を向けさせたい」
 ブリジットが言うと、町長は額から流れる汗をハンカチで拭った。
「そう簡単に行きますかな。若者たちをまとめる年長者と言いましても、今武断派の音頭を取っているロビンを止めることが出来るものか‥‥」
 黎阿はどこか多くの民を集めることが出来る広間などを用意できないかと言った。アレン・シュタイナー(ib0038)も丁重な言葉で町長に説得への協力を呼び掛ける。
「待って下さい」
 町長は慌てたように手を挙げた。
「そう簡単にはいきません。ご存じないのかもしれませんが、コンラート様に協力するかで町を半分に割っている状況です。穏健派や中立の立場の者たちを集めるのは簡単ですが、武断派のリーダーであるロビンにことが知れたら騒動になりますぞ」
「今回の依頼主であるデットとバウムに会えませんか」
 樹邑鴻(ia0483)はそう言って、町長に二人を呼んでもらえないか尋ねる。
「一応町で下調べはしてきましたが、二人から詳しい話を聞きたいと思います」
「そうですな‥‥あの二人は中立で、何かと水面下では動き回っていますからな」
 町長は使いを走らせると、デットとバウムを呼びにやる。
「俺も行くぜい。嫌な予感がするんでね」
 ルオウは護衛を買って出ると、町長の使いとともに町に出で、デットとバウムを迎えに行く。

 二人はともにガラス職人で、作業中であった。
「デット、バウム」
「はい?」
「町長がお呼びだ。辺境伯から使いの方がやって来た。騒動を鎮めるためにな」
「そうなんですか!」
「やったな。騒動を鎮めるために、依頼を聞いてくれたんだ」
「二人とも、支度をするように」
「はい」
 ルオウは辺りに目を配っていた。

 デットとバウムは、開拓者たちのもとへやってくると、ぺこぺこお辞儀した。
「あっしらに出来ることは何でもしますので」
「ロビンと言うのが武断派のリーダーで町の半数を仕切っているそうですが‥‥」
「はい、あいつは恐ろしい奴です。みんなの前では貴公子然と振舞っていますが、一度かっとなったら手がつけられません。昔からそうでした。何と言うか‥‥とにかく血の気が多いんですよ。実は結婚もしてますが、女房の顔にはいつもあざが付いてます」
「とにかくも、今では多くの民衆に影響力を持っているのは間違いないのですよ」
「‥‥穏健派を取り込み、説得を試みたいと思いますが、可能でしょうか」
 アレンが問うと、デットとバウムは顔を見合わせて、不安そうに手を合わせる。
「辺境伯様からの正式の使者を踏み潰す勇気が、ロビンたちにあるかどうか‥‥」
「では、やってみましょう」
 秋桜は言って、町長を顧みる。町長は吐息して頷いた。
「分かりました。では民を公会堂に集めましょう」

 公会堂に集められた民たちは、ざわめいていた。開拓者たちは辺境伯からの正式の使者であることを伝えると、ロビンたちは怒号を上げた。
「ロビンとやらに聞く! この反乱に、どれ程の勝ち目があるのか!」
 樹邑は怒鳴った。
「コンラート様には正義がある! 無敵の巨神機も!」
「帝国軍には千名を越える開拓者が味方した! 40機のアーマーに精霊砲まである! 本当に勝てると思うか!」
「何があろうと‥‥俺たちは、コンラート様は負けん!」
 秋桜は静かに民衆たちに言った。
「私欲を貪る傭兵団は後方で静観し、國を憂う民が最前線で捨て駒同然の扱いを受けている、それがコンラート軍の実情です。あの様な戦をするコンラート卿が統治した世界が今と違うか。己だけでなく、親類縁者の命を差し出してまで荷担するに値するかどうか。良く考えて下さい。辺境伯は――」
 秋桜は伯から預かった書状を掲げる。
「説得に応じれば罪には問わない、そう言われています。正規軍は正義ではなく、この戦は悪と悪の争い。この國を作るのは、ガラドルフ大帝でもコンラート卿でもなく、民の皆様なのです」
 黎阿は秋桜の言葉を継ぐ。
「正規軍千人以上の帝国軍に、開拓者です。巨神機があろうと、コンラート・ヴァイツァウは決して有利ではありませんよ。オリジナルアーマーを支えにしているのかも知れないけど、そんなものだけで全て賄えるなら最初から兵など集めたりしないでしょう」
 民はざわめく。黎阿は続けた。
「アヤカシの問題だってあるのよ? 武装し、コンラート軍に参加して‥‥ここは誰が守るというの? そして‥‥コンラート軍が負けたらどうなるか、ちゃんと考えた事はあるの? 辺境伯は辞めれば不問にするって書状でも言っているのよ」
 武断派のロビンたちは怒号を発したが、シュヴァリエ(ia9958)は立て続けに言った。正使に反抗するとは相当の覚悟だろう。
「コンラート軍へ参加すれば戦場で戦わなければならない、そうなりゃ犠牲となるのはおめぇ等自身だ。敵は帝国軍だけじゃねぇぞ、アヤカシの事も忘れるな。男共が居なくなり、残った女子供はどうする? 奴等にこそ命乞いは無駄だぜ。
 だが中立を保てば、おめぇ等が帝国軍から被る被害は一切無ぇ。いつもと変わらねぇ日常が待っているだろうさ。もしコンラート軍に物資を強請られ、それを渡しちまってもそれは身を守る為だ、罪には問われねぇ。コンラート軍に参加さえしなけりゃ、だが。
 そしてだ、コンラートが本当に民の事を思ってるのならば、反乱なんか起さねぇよ。俺達が何故ここに居るか分かるか? 武力による解決を優先するなら俺達に出番はねぇ。グレフスカス辺境伯はそれを望んでいねぇからだ。誰一人として犠牲者を出したくねぇんだよ」
 うろたえるロビンたちにアレンが言う。
「現状の膠着は、帝国本軍がこちらに到着していないから起こっている事態‥‥本軍が到着すればコンラート軍は持ちません。本軍の恐ろしさを知らない訳ではないでしょう? 皇帝の敵となればコンラート軍に兵を出していたこの町自体が灰燼と化すかも知れないのですよ?」
 聴衆たちの多くが開拓者たちの言葉に耳を傾けていた。
「今は辺境伯が指揮しています。本軍の者が指揮を執る様になれば、交渉も出来なくなります。あなた方が反乱軍に参加したら誰がこの町を守るのですか? 最近は多くの町や村がアヤカシに襲われています。守り手がいなくなれば、他の町と同じ様な事態が起こるのですよ? 失礼ながら、コンラート軍はアヤカシや野党の取り締まりに熱心では無いようですね? 男手の無くなった町は、絶好の標的となりえると思うのですが?」
 アレンは民衆たちを見渡す。
「落ち着いて考えてください。あなた方はこの町を守りたくは無いのですか? 女子供まで犠牲にして、戦いをしたいのですか?」
 またジークリンデが進み出る。
「南部地域での大規模なアヤカシの襲撃に人攫いの横行、皆さんが街を空けてしまえば残された女子供はアヤカシに狙われましょう。そしてコンラート様は本来護るべきである民の命を護っておりません。理想を先行させ下の者に我慢と苦しみを強い街や民を護っていません、それがコンラート軍の現実です。
 辺境伯様は、戦が終われば、民の命を護り、生活を改善する用意があると言われています。一時的な税の免除を考慮して下さると。一度だけグレイス伯という人間を信じて頂けませんでしょうか」
「騙されるな! 辺境伯がこれまで俺たちの生活を考えたことなどない!」
 ロビンは叫んだ。
 するとブリジットは穏健派の有力者たちとともにロビンに自重を求めた。
「ロビンさん、私達の言うことをご理解頂けないでしょうか?」
「ロビン‥‥使者の方たちの言うとおりだ。戦になど‥‥とてもではないが私達は支持できない」
「それに、ロビンさんとか言いましたか? 万が一、誰かがあなたのことを密告したら、後であなたの身に危険が及ぶこともあるのですよ」
「そんな脅迫には乗らんぞ! おい! お前たち! 俺たちは穏健派とは違う! コンラート様に合流して、カラドルフに正義を示すんだ!」
 ロビンはこれだけの説得を受けても全く趣旨を翻そうとはしなかった。
 この集会の後、半数以上の民が話し合いの末に開拓者たちの説得を受け入れた。
 だが、反乱を強行するロビンたち100名余りを止められず、町を出てコンラートのもとへ走ってしまったのである。