【神乱】粛清の下に
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/13 07:45



■オープニング本文

 天儀暦1009年12月末に蜂起したコンラート・ヴァイツァウ率いる反乱軍は、オリジナルアーマーの存在もあって、ジルベリア南部の広い地域を支配下に置いていた。
 しかし、首都ジェレゾの大帝の居城スィーラ城に届く報告は、味方の劣勢を伝えるものばかりではなかった。だが、それが帝国にとって有意義な報告かと言えば‥‥
 この一月、反乱軍と討伐軍は大きな戦闘を行っていない。だからその結果の不利はないが、大帝カラドルフの元にグレフスカス辺境伯が届ける報告には、南部のアヤカシ被害の前例ない増加も含まれていた。しかもこれらの被害はコンラートの支配地域に多く、合わせて入ってくる間諜からの報告には、コンラートの対処が場当たり的で被害を拡大させていることも添えられている。
 常なら大帝自ら大軍を率いて出陣するところだが、流石に荒天続きのこの厳寒の季節に軍勢を整えるのは並大抵のことではなく、未だ辺境伯が討伐軍の指揮官だ。
「対策の責任者はこの通りに。必要な人員は、それぞれの裁量で手配せよ」
 いつ自ら動くかは明らかにせず、大帝が署名入りの書類を文官達に手渡した。
 討伐軍への援軍手配、物資輸送、反乱軍の情報収集に、もちろんアヤカシ退治。それらの責任者とされた人々が、動き出すのもすぐのことだろう。

 ジルべリア南部、反乱軍の占領地域ビシェスクの町――。
 一人の騎士が聴衆たちに演説を打っていた。
「聞け! 民よ! 間もなくコンラート・ヴァイツァウ様は正当な地位を取り戻されるだろう! カラドルフ大帝の圧政からこの地を完全に解放し、王道楽土を築かれることだろう! ここでは誰もがヴァイツァウ家の威光を知っているはずだ! そして、悪逆なるカラドルフがいかに残酷な人物であるかも! 民よ! 今こそ立ち上がる時だ! コンラート様は巨神機を以って、カラドルフの犬、グレイス伯爵どもを蹴散らし、ジルべリアに正義を示されるだろう! 我こそはと思わん者は、コンラート様のもとへ馳せ参じよ!」
 民衆たちの間にざわめきが広がっていく。
「おい‥‥お前どうするよ。戦うか」
「どうするって‥‥コンラート様には同情するが、俺は戦場に出るのはご免だ」
「だよなあ‥‥暮らしも少しは良くなるかと思ったが、アヤカシは増える一方だし、ジルべリアの正規軍と戦うために俺たちから軍資金を巻きあげようって言うんじゃ本末転倒だぜ」
 コンラートは失政から少なからず領民の信頼を失っており、民には不満も出ていた。
 それでも、反乱軍に協力を申し出る者も少なくない。
「カラドルフ大帝の犬を倒すんだ! 今こそ正義を示す時! コンラート様のもとへ駆けつけるぞ!」
「ああ! コンラート様こそ、大帝の圧政から俺たちを解放してくれる方だ!」
 物騒な雰囲気が町に漂う。
 ヴァイツァウの反乱軍は、今でも決戦に向けて兵を集めている。態度を決めかねていた民衆たちの半数が、騎士の言葉に奮起して反乱軍に合流しようとしていた。

 ジルべリア帝国正規軍の援軍を預かるハインリヒ・マイセン卿は、ビシェスクの状況を知って苦い顔だった。報告書を呼んでそれを握りつぶした。
「コンラートの小僧、ただでさえ不穏な南部の火に油を注ぎおって。この件についてグレイス辺境伯はあいまいな態度で臨んでいるようだが、俺は甘くは無いぞ」
 ハインリヒは遅れている行軍にいら立ちを募らせながら、開拓者ギルドと連絡を取った。今すぐに動ける開拓者をビシェスクに派遣し、ヴァイツァウの軍勢に合流する民の動きを阻止するように依頼を出す。民を扇動する反乱軍の騎士は粛清の対象、また反乱を企てる民に対しては断固たる態度で臨むべし、と。


■参加者一覧
静月千歳(ia0048
22歳・女・陰
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
白蛇(ia5337
12歳・女・シ
七郎太(ia5386
44歳・男・シ
雲母(ia6295
20歳・女・陰
アリア・ベル(ia8888
15歳・女・泰
狐火(ib0233
22歳・男・シ
ブローディア・F・H(ib0334
26歳・女・魔


■リプレイ本文

 ビシェスクの町に到着した開拓者たち。
「ずいぶんと派手に煽っていますね。言葉の聞こえは良いですが、自身の戦力不足を暴露しているような物ですね」
 静月千歳(ia0048)は、依頼書にて確認した扇動者の騎士の様子を思い出して、瞳が冷たい光を帯びる。依頼は粛清と鎮圧である。手を汚すことになるかも知れない。
「粛清、ですか‥‥」
 朝比奈空(ia0086)は憂いを込めて呟いた。どちらかと言うと穏便に済ませたいと考えていた。覚悟は決めていたが、心を強く持たねばならない。
「しかしまあ、人と戦うのはやはり慣れんな」
 それは王禄丸(ia1236)の本音であった。
 戯に民衆を扇動し、反乱に荷担させる‥‥また不要な血が流れてしまう。これ以上、もうこれ以上血を流させる訳にはいかない‥‥力を持たぬ弱き者達ばかりが血を流すのを、これ以上見過ごす訳にはいかない‥‥っ。秋桜(ia2482)は胸の内に誓う。
「志体を持たぬ住民達を如何わしい戦に巻き込んで欲しくない‥‥絶対に食い止めたいね‥‥」
 白蛇(ia5337)は住民に被害を及ぼすことは避けたかった。
「僕は説得に回るけど、まずは今回の戦について町の人たちがどう思ってるか聞いて回りたいね。もしかしたら役に立つ話が聞けるかもしれないし」
 七郎太(ia5386)は言って、思案顔で街並みを見つめる。このシノビに躊躇は無かった。
 反乱軍を野放しにするとは、帝國と言うのもたかが知れている。が‥‥粛清と言う響きと行為はとても尊敬するなぁ。雲母(ia6295)は胸の内に呟き、煙管を余裕で吹かせていた。
 粛清は開拓者になる前にもやっていた仕事なので特に感じるものは無い。作業的に淡々と粛清する。アリア・ベル(ia8888)は胸の内で淡々と呟いた。僅か15歳であるが暗殺者のような経歴を持つ。
「ビシェスクの民と反乱軍を切り離して、何としても民衆の蜂起を防ぎます」
 狐火(ib0233)は言って、微かに眉をひそめる。ハインリヒ・マイセン卿はこの地の為政者ではないですからねぇ。グレイス辺境伯ならどうでしょうねぇ。まぁ、マイセン卿とて大帝が怖ろしいのでしょうけれど。この国は敵も味方も命の価値が安いですねぇ。
「確かに巨神機は一軍に匹敵するでしょうが、たとえ大きな力を手に入れようと、それだけでカラドルフ大帝に抗えるとは思えませんね‥‥」
 ブローディア・F・H(ib0334)は言って、思案顔で吐息する。
 と、そこで、開拓者たちの目に、群衆が集まっているのが留まった。
「あれは‥‥?」
 近づいていくと、甲冑に身を包んだ男が、兵士に囲まれて、声も高らかに演説を打っていた。痛烈な帝国批判である。
 七郎太は、民の一人を捕まえて、問い質した。
「あの人は‥‥誰かな」
「コンラート様の軍からやってこられた騎士様だ。コンラート様の軍に加わるように俺たちに呼び掛けて来たらしいんだがね」
「ありがとう」
 七郎太は下がると、「あれが扇動している騎士らしい」と告げる。
「さて、どうするか」
「ひとまず、町の様子を探りましょう。住民たちにも説得の余地が無いとは言えませんかね。粛清方法は他の方に任せます。どの様な方法でも住民の方々の反応は割れると思いますが、煽られて冷静さを失っている状態をどうにかできれば方法に関しては問いません。穏便に済ませられれば良いですが、それも難しい感じがしますし。子供の前で相手の殺害などを公然と行えば、印象が非常に悪そうなので避けたい所ではあるのですけど‥‥」
 そうして、開拓者たちは宿を確保してから、情報収集に回った。
 狐火は変装して民に紛れると、市街地に消えていく。
 
 狐火はジルベリア人に変装して酒場に紛れ込んだ。酒を酌み交わしながら、民の意識を探る。反乱に積極的な人々、そうでない人々がいる中で、味方になりそうな人間に金を掴ませ引き入れる。
「コンラート様の軍には巨神機がいる。あの怪物を倒さない限り、帝国軍に勝ち目はないだろう」
「なあ、思うんだが、コンラート様は本当に俺たちのことを思ってくれるんだろうか? アヤカシの攻撃は激しくなるばかりだし、そんな中で戦を起こそうとしている。それに、大帝の親征が近いし、戦に参加して命までも持っていかれるのは馬鹿馬鹿しいと思わないか」
「確かにな」
「なあ、少し仲間を集めて協力してくれないか。あの反乱軍の騎士を止めたいんだ」
「何か策があるのか」
「噂じゃ、帝国軍から、反乱の粛清にやってきた人間が町に来ているらしいんだ」
「本当か?」
 狐火は、着々と準備を進めていく。

 開拓者たちは数日にわたって町の様子をそれなりに探った。
「余り、良い空気ではないようだな」
「さて、まずはあの騎士を止めたいものだが」
「騎士たちは‥‥民兵を率いてここから立ち去るつもりらしいね‥‥」
 白蛇は超越聴覚で得た情報を告げる。
「‥‥‥‥」
 アリアは沈黙していた。今のところ彼女の出番ではない。
「では行くか。ま、このような状況で人を切るのは気が重いがな」
 王禄丸は立ち上がった。

 ――その日も騎士は民衆たちの扇動に回っていた。声高に帝国批判を繰り返す。
「カラドルフを倒せ! 圧政からの解放を――!」
 開拓者たちは聴衆をかき分け、ずかずかと騎士のもとへと向かう。
「何だよ‥‥! 押すな!」
 騎士はざわめく民衆を察して、開拓者たちの様子に目を向けた。こちらへやってくるのを確認して身構える。
「何だお前たちは」
「帝国軍のハインリヒ卿から、反乱の鎮圧を依頼されてきた。野暮かもしれんが、一応聞いておくか。捕虜となるか、もしくは騎士として剣を抜くか。されば件がお相手しよう」
 王禄丸の威圧に、騎士は怯まなかった。
「帝国軍の手先か? 馬鹿め、捕虜となるのは貴様の方だ」
 すると白蛇が進み出た。
「僕はこの街を守るように依頼された開拓者‥‥反乱軍は巨神機を持つと言うけど‥‥その力をアヤカシ討伐に使用せず‥‥寧ろアヤカシ達を利用して戦ってる‥‥最近のアヤカシ増加は反乱軍の意図があるんじゃないかな‥‥? もし違うというなら‥‥この街から住民を引っ張り出すより‥‥街をアヤカシから守る算段をする事が大切だと判るはずだよ‥‥アヤカシは帝国軍の何倍も危険なんだから‥‥もし街を守る戦力が必要で‥‥君達反乱軍が忙しいなら‥‥僕達開拓者ギルドに依頼すればいい‥‥何時でも駆けつけるから‥‥」
「帝国の手先が考えそうなことだな! この地の民が困窮しているのはアヤカシのせいではない! カラドルフによる圧政によってだ!」
「みんな‥‥聞いて欲しい。反乱に加担するよりも‥‥アヤカシから町を守ることが大切だよ‥‥」
「民よ! 帝国軍の手先を倒せ!」
 騎士が叫んだ瞬間、王禄丸は大斧をぶうん! と一閃した。民は後ずさった。
「さて、私もできれば切りたくはない。これは本心だ。話を聞いてもらえるだろうか」
 牛面を外し、顔を晒しての説得行動。
「民衆に代わって矢面に立つべき騎士が民衆を戦に焚きつけるという矛盾した行為。失政からコンラートの反乱が成功したとして、民衆が幸福になれるかという不安。果たして、今の時点で戦う必要があるのだろうか」
 民は沈黙する。
「民の代わりに戦うべき軍が、戦争への参加を民衆に促す。そのような集団が実権を握ったとして、今後、諸君が戦場に立たなくてもよいと言える根拠はなんだろう? 少なくとも、今は戦わなくてもよいはずだ。これが騎士のあるべき姿だろうか?」
 朝比奈としては住民にはまず冷静になって考えて欲しかった。
「戦でとばっちりを一番受けるのは戦えない方々ですからね‥‥ハインリヒ・マイセン卿は、私たちに反乱を企てる方は断固とした態度を取って構わないと言っています」
 住民たちの顔に微かに恐怖の色が宿る。カラドルフ大帝の苛烈さは、少なくともここにも届いている。だが、ここ南部には抵抗勢力も多い無法地帯が広がっていることも事実である。だが、コンラートの決起と言う事態によって、戦闘が現実味を帯びてきた今、民の間に不安が広がっているのもまた事実であった。朝比奈は言葉を選んで説得を続けた。
「どうしても反乱軍に参加するという事なら止める義理もありませんが‥‥。その結果がどうなっても自己責任である事を忘れないで頂きたいと思います。言葉に煽られた結果だとしても、最後にそれを決めたのは自分の意思でしょう」
「俺たちが受けて来た苦しみは‥‥分からない!」
 朝比奈は冷静であった。
「戦う‥‥などと言うのは簡単ですが、その結果で生じた物に対する覚悟を持つというのは決して簡単な事ではありませんから。住む場所、大切な物、家族、果てには自分の命‥‥それらを失う事もありますからね」
「帝国軍の犬に何が分かるってんだ!」
「まあ落ちつけよ。この人は戦を止めに来たんだ。俺たちのために」
 ざわつく民衆に、秋桜が説得を続ける。秋桜は装備類を全て外し、丸腰で説得。
「私欲が為に戦に荷担する傭兵団の主力部隊は後方にて戦力を温存し、真に國を憂い、國を変えようと発起した志願兵が最前線に立たされ捨て駒同然の扱いを受ける。これが反乱軍の実状です。こんな輩が國を納めたとて、今以上の圧政は必然。私達は‥‥正規軍は正義ではありません、これは悪と悪の戦です。こんな無駄な戦いに、血を流す必要がどこにありましょう。真に國を憂うなら、今はただ耐え忍んで下さい。國を作るのは王ではありません。貴方達、民が國を作るのです」
「この国はカラドルフ大帝の恐怖政治によって治められているのじゃ。臣民はすべからく皇帝の所有物なのじゃ。この南部は確かに奇妙な均衡を保っておるが、民が国を作るなど‥‥幻想じゃ」
「俺たちは虐げられてきた! カラドルフの圧政のもとにだ! 民が国を作ると言うなら、皇帝を倒すしかないんだ!」
「待って下さい。戦となれば皇帝はあなた方にそれこそ容赦なく粛清の刃を振り下ろすでしょう。そうなってからでは遅いのです。どうか思いとどまって下さい」
 詰め寄る民の前に、秋桜は仁王立ちし、反乱への荷担を阻止する。
 石つぶてが飛んでくるが、秋桜はじっと耐えた。騒動が大きくなり、掴みかかってくる民の手が伸びてくるが、秋桜は立ち塞がった。押されても蹴られてもじっと耐えて、民を見つめていた。
「やめろ! やめるんだ!」
 やがて、一部の民が割って入る。
「その人は俺たちを助けに来たんだ。戦に行かないように説得しに来たんじゃないか!」
「何だお前! 帝国軍の犬の言うことに耳を貸すのか!」
「違う! 俺だって帝国軍は憎い! だが‥‥っ、その人の言うとおり、戦って何になるんだ?」
「貴様あ! いつから帝国の肩を持つようになったんだ!」
「今戦うのは無意味だって言ってるんだ!」
「みなさん、今は耐え忍んでください。お願いですから‥‥」
 秋桜は民の中で押し合いへし合いする中で、懸命に説得を続ける。
 七郎太は巨神機の件を持ち出して説得を試みる。扇動者は巨神機があれば勝てると言う感じで煽ってる、では、その巨神機を封じる策がすでに動いてると言ったら?
「少し前にギルドに巨神機に関する依頼が出ていたんだ、知ってるかい? 後で聞いた話だと、有名な腕利きたちが集まったらしいよ。それなりの時間が掛かるだろうが、彼らなら失敗は無いだろうさ。成功し巨神機を封じる事が出来れば反乱軍の敗北は決定的だよ」
「巨神機を倒せるだって? そんなことが出来るものかよ」
「そんな根も葉もない話、信じると思うのか?」
「でも巨神機が負けたら? 知ってるだろう、大帝は苛烈な人らしいし、反乱軍が敗北した場合、加担した人は勿論、その家族もどうなる事やら。僕なら間違いなく処刑するね。そこからまた反乱なんて起こすのが出てくると困るし」
「‥‥‥‥」
 市民は沈黙する。カラドルフ大帝の恐怖は市民たちもよく知る。
「なあ、少なくとも僕はこっち側に協力しろと言うつもりは無い。しばらく日和見して、戦局が決定的になった時にどっちかに付けばいいと思うのよ。ずるいけど、弱者が生きてくためにはね。それに、時期はどうあれ『協力した』って事実は変わらない。最後まで抗い続けるより扱いはいいはずだよ」
「コンラート様は、負けない、巨神機がある限りは」
「巨神機頼みの反乱軍に勝ち目は無いと思うんだけどね」
 七郎太は、最終的には市民が激発したなら容赦なく粛清するつもりであったが、今はまだ手を出すことは無かった。
 そこで大きな声が上がる。
「みんな! その人たちの言うとおりだ! 反乱軍に加担すれば大帝によって皆殺しにされるぞ! みんな早まるな! まだ間に合う! 俺たちは戦には行かない!」
 狐火が根回しを行ったサクラの民衆たちと一緒に反乱軍に対抗する。
「考え直せ! コンラートの失政を見たろう! 反乱軍も帝国軍と同じで俺たちを搾取して戦に駆り立てようとしているに過ぎない! 戦で犠牲になるのはご免だ!」
 ざわめく民に、苛立つ騎士は抜刀した。
「帝国の犬が! 後悔させてやるぞ!」
 打ち掛かってくる騎士に、千歳は呪縛符を解き放った。式がまとわりつき、騎士の動きを拘束する。
「力仕事は苦手なんでね。今ですよ」
「――!?」
 ブローディアはサンダーとファイヤーボールを撃ち込んだ。
 王禄丸は騎士を圧倒して腕を叩き落とした。騎士は鮮血が飛び散って悲鳴を上げて倒れ伏す。
「馬鹿な‥‥! 志体持ちの俺が」
 王禄丸は騎士の上体に斧を当てた。
「後は任せろ」
 雲母は後を引き継ぎ、楽しげにランスを手入れする。
「粛清‥‥何と甘美な響きか‥‥そう思わないか?」
 アリアが捕縛した反乱兵を引きずってきて、放り投げた。
 民衆たちは静まり返って行く。民が見ている前で、反乱兵の首に武器があてがわれ、公開処刑となった。
「動かないでくださいね。動くと、色々と保障できませんよ?」
 姿を現した千歳は、民に向かって牽制する。
「これが帝国からみなさんへの警告です。反乱の末路がどうなるか、目に焼き付けて下さい」
 ブローディアは、冷然と民を見渡し、これから処刑される騎士と兵士を指差した。
 民は恐れをなして沈黙する。
「助けてくれ! 私達はコンラートにそそのかされただけなんだ!」
 反乱兵は喚いた。
「今さら何を抜かすか。この国で皇帝に反旗を翻すことがどうなるか、お前たちの方がよく知っているだろう」
 雲母は冷たく言うと、ランスを振り上げた。
 アリアも双剣を抜いた。
「では、帝国軍の代行者として、刑を執行します」
 ブローディアは目で合図を送ると、腕を振り下ろした。
 そして、雲母とアリアは刑を執行して反乱兵に止めを差した。
 これを見た町の反乱勢力はたちまち勢いを失う。
「帝国の統治と言うのも盤石ではないようだな。これでは大帝の威信も損なわれようと言うものだぞ」
 雲母は、依頼が終わった後で、リーガ城のグレフスカス辺境伯に皮肉を言った。