【神乱】反乱軍を探れ
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 1人
リプレイ完成日時: 2010/03/09 22:05



■オープニング本文

 天儀暦1009年12月末日、ジルベリア南部においてヴァイツァウ家の残党が決起し、破却されていたヴァイツベルク城を占拠。ヴァイツァウ家の忘れ形見であるコンラートの元には続々と兵が集まる。
 ガラドルフは決起地を領地に持つグレイス伯に暴動鎮圧を命じるが、グレイスの軍勢は、数十年の間に伝説にまで昇華したオリジナル・アーマーの復活、出現に恐慌状態となって敗走。リーガ城へ退却した。
 勢いに乗る反乱軍はグレイス領の支城二つを制圧し、正式に反乱を宣言した。
 対するガラドルフも改めて討伐軍を組織して現地に派遣するも、討伐軍はその途上で上級アヤカシの率いる軍勢に襲われ、アヤカシの軍勢を突破できぬまま、猛烈な吹雪によって得るところ無く退却を余儀なくされた。

 年明けて天儀暦1010年2月――
 一方、緒戦の勝利に沸く反乱軍であるが、彼等の喜びも長くは続かない。
 当初は好感を持って迎えられた反乱軍だが、コンラートの統治は失政続きで、アヤカシの手によると思われる集団失踪事件に対しても何ら有効な手立てを打てず、領民は不安な日々を過ごしていた。
 焦りを感じ始めた反乱軍は、吹雪が過ぎ去って天候が回復するに従い、支城に分散配置していた軍勢を集結させ、遂に、グレイス伯爵の領土へ向けて軍を動かした‥‥。

 ――神楽の都、開拓者ギルド。相談役の橘鉄州斎(iz0008)は、集まった開拓者たちを前に、現在のジルべリア南部の状況を説明していた。
「‥‥と、言うわけで、今回の反乱鎮圧に帝国軍のグレイス辺境伯から支援要請が来た。ギルドとしても何らかの対応が必要であると考える。お前さんたちには、この反乱鎮圧のために働いてもらいたい。まずはグレイス辺境伯に協力して、現地での情報収集に当たってもらいたい。反乱軍の頼みの綱は巨神機と呼ばれるオリジナル・アーマーで伝説の機械の巨人兵らしい。もっとも、いかに強力な兵器を揃えようとも、人間は食べなくては生きていけない。反乱軍の首謀者、コンラート・ヴァイツァウは失政が続いており、焦りからか早期に本格的な攻撃に転じるものと見られている。そこで、反乱軍の攻撃目標を探り出すことがお前さんたちの現地での仕事になる。次の反乱軍の狙いがグレイス伯の本城リーガ城か、支城のクラフカウ城か、それを探り出してもらいたい。特にどちらに敵の主力である巨神機が向かってくるか、それを突きとめることが出来れば、グレイス伯と味方にも反撃の機会はあるだろう。南部で集結しつつある反乱軍の陣に直接潜入するか、敵の偵察隊などを捕まえて尋問するなど、方法は幾つかある。反乱軍の攻撃目標を割り出し、敵主力の動きを探り出す、これが今回の依頼目的となる。精霊門からジルべリアへ飛んで、現地でグレイス伯と合流してくれ。では、幸運を祈っているぜ」
 鉄州斎は、そう言って開拓者たちを送り出した。


■参加者一覧
ヘラルディア(ia0397
18歳・女・巫
北条氏祗(ia0573
27歳・男・志
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
トーマス・アルバート(ia8246
19歳・男・弓
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志
ハイドランジア(ia8642
21歳・女・弓
観月 静馬(ia9754
18歳・男・サ
狐火(ib0233
22歳・男・シ


■リプレイ本文

 コンラート・ヴァイツァウ(iz0107)が率いる反乱軍の陣に、質素な身なりの娘がよろよろと向かっていた。娘――ヘラルディア(ia0397)は、反乱軍の兵たちの前で止められた。
「アヤカシや戦災等により奉公先を失ってしまいました‥‥衣食が心許無くなってきたので一時的な身寄りとして駐屯地へ手伝いに参りました」
 兵士たちは顔を見合わせると、ヘラルディアの様子を観察した。ヘラルディアは深々とお辞儀する。
「こちらの事はビシェスクの町で伺いましたね。同じく戦災で身寄りを無くした子を預かって彷徨っている身の上ですので宜しくお願い致します。数日だけでも働かせてもらえないでしょうか」
 兵士たちはヘラルディアの言葉を吟味した上で、武器を下した。
「コンラート様は寛大なお方だ。後で報告しておく」
「ありがとうございます」
 ヘラルディアはそうして、反乱軍の陣中に入った。
「よお、傭兵を募集していると聞いたが‥‥」
 王禄丸(ia1236)は兵士たちに足止めされていた。
「俺は勝ち易きに付くつもりでな。ま、よろしく頼まあ‥‥」
 菊池志郎(ia5584)もまた、自身を傭兵と売り込んでいた。
「この戦、勝つのはコンラート様でしょう。お味方させてもらいます」
「自身の能力が認められない帝国の現状に昔から不満を持っており、反乱軍に味方してジルベリア皇帝を打倒すれば自分にもチャンスがあると思った」
 トーマス・アルバート(ia8246)は、言って同じく傭兵とし自身を売り込んだ。
 天ヶ瀬焔騎(ia8250)は、他にも偶然数人の傭兵たちが合流しているところに、紛れ込んでいた。
「お前は」
「見ての通り、ま、報酬さえもらえれば幾らでも働くぜ」
「よし、行け」
 ハイドランジア(ia8642)は反乱軍を慰問すると言う名目で進入を試みる。
「皇帝と戦うみんなを、少しでも勇気づけることが出来ればと‥‥村長から言われてきたよ。兵士のみんなの労苦を慰めてあげるよ」
「娘、後で村には褒美を取らせよう」
 ハイドランジアは、そうして陣中に通される。
 工兵に紛れ込んで反乱軍に忍び込んだのはシノビの狐火(ib0233)。二千人の反乱軍で日々入れ替わる人足に紛れ込んで気付かれることは無かった。工兵たちは先行して、進軍の準備を整えていた。狐火はそこへ入り込み、巨神機や反乱軍のアーマーの動きを探ることにする。
 開拓者たちが大軍の反乱軍に紛れ込むことはそう難しいことではなかったが、ここからが至難である。

 北条氏祗(ia0573)と秋桜(ia2482)、観月静馬(ia9754)は、反乱軍の偵察部隊の動きを探っていた。定期的に周辺の村から物資を調達する兵士たちを、北条たちは観察していた。
「襲撃は難しそうだな‥‥」
「この辺りに襲撃に適した地形もありませんしね‥‥」
「機会はあるはずです。待ちましょう」
 三人は身を潜め、機会を待つ。三人の目的は、敵の哨戒部隊を捕えて尋問することである。ジルべリア軍も反乱軍には全く容赦する必要は無いというスタンスであったので、開拓者たちはそれに従った。

 ヘラルディアは達人級の家事の才をいかんなく発揮して、反乱軍に入り込み、洗濯や掃除をこなしていた。
 同じようにコンラートを頼ってきた民と打ち解ける。
「‥‥コンラート様は心優しい方と伺っておりましたから」
 戦となった時、彼らがどうなるのかと、脳裏をよぎるものがあった。
「これだけの兵士のみなさんの料理を作るのは大変。厨房は戦争ですね」
「ここには二千人近い兵隊がいますからね」
 娘の一人が、ヘラルディアに微笑みかける。
「そうなんですか。それはコンラート様も大変でしょうね」
「コンラート様は一人ではありませんから」
 そこで、ヘラルディアは兵士に呼ばれた。連れていかれたのは洗濯場。
「ここがお前の持ち場だ」
 ヘラルディアは恰幅のいい女将に預けられた。
「新入りかい。もうすぐ戦だ。しっかり仕事するんだよ」
「はい」
 洗濯が終わった衣服を抱え込むと、ヘラルディアは周りに目を向けながら歩いた。
 一般人が引いている荷車が続々と入り込んできて、物資を陣中に届けていく。
 ふと目を引いたのは、覆いを被せられた大きな物体。その下では工兵たちが行き交っている。
「あれは何ですか」
 ヘラルディアは同じ下働きの娘に尋ねた。
「あれは巨神機だと思いますけど」
「あれが伝説の?」
 ヘラルディアは怪しまれない程度に観察すると、その場を後にする。
 
「名前は‥‥だ。血は半々だよ」
 王禄丸は、傭兵たちに偽名を名乗ると、彼らの集まりに加わった。
「稼ぎはどうだい。コンラート様には潤沢な資金を持っているって聞いたけど」
「それが、コンラートの坊っちゃんは、俺たち兵士には厳格な規律と倹約を求めるばかりで」
「そうなのか。それはがっかりだな」
「ともあれ、こっちは二千の大軍に巨神機だ。マチェクさんさえまともに戦ってくれれば、負けることは無いさ」
「‥‥噂では、帝国軍も正規軍を派遣すると決めたようだが」
 王禄丸が言うと、傭兵たちは複雑な表情を浮かべる。
「ま、大帝の苛烈さは俺たちも知っているがね。取り合えずこの雪が溶けない限りは、大帝もジェレゾから動けないだろうさ」
「俺たちは、稼げる時に稼ぐ。命あってのものだねだからな」
「全くだな」
 王禄丸は、大きく笑いながら、傭兵たちのカップに酒を注いだ。
 そこへ、獰猛な風格の傭兵隊長がやってきた。
「帝国軍の討伐隊指揮官は、ハインリヒ卿だ」
 傭兵たちはざわめく。
 王禄丸は傭兵隊長のカップに酒を注ぎながら、「勝てそうですか」と聞く。
「あの男は敵に回すと厄介だな。奴の部下は精鋭揃いときている」
 傭兵隊長は、酒をあおって、冷たい瞳に鋭利な光を宿らせた。

 菊池は、装備を手入れする振りをしながら、天幕の近くで超越聴覚を使っていた。聴覚を研ぎ澄ませると、集中して雑音の中からキーワードを拾う。
 その瞬間、菊池は求めるキーワードを拾った。「コンラート」である。
「――コンラート様。カラドルフ大帝は、ハインリヒ・マイセン上級騎士卿を指揮官に、増援を送り込んできた模様です」
「どんな敵が来ようと、我々に敗北は無い。我が軍には巨神機がいるのだからな」
「コンラート様、大帝など恐れるに足りません。帝国軍のアーマーなど、巨神機の前には吹けば飛ぶような存在です」
「ロンバルール、お前がもたらした巨神機はまさに無敵。私に恐れるものは無い」
「しかしコンラート様、ハインリヒは甘く見ると痛い目に合いますぞ」
「恐れるな。ハインリヒの動きは想定内。問題は、敵の本城であるリーガ城に攻撃を掛ける時だ。巨神機と我が軍の本隊を以ってリーガ城を撃滅する、その間に、クラフカウ城に帝国軍の耳目を集めねばならん」
「その任にはマチェクが適任でしょう。あの男にクラフカウ城を攻略させましょう。死んでも我々にとって惜しくは無い男です」
「それは良い案だが、マチェクが言うことを聞くか‥‥」
 菊池はコンラート達の話を聞きながら、その後も盗聴を続ける。敵の本命がリーガ城であると判明したが、それにはまだ確証が無い。
 夜になると、菊池は影舞で姿を消して天幕に忍び込み、暗視で闇の中で書類を読み漁った。
 反乱軍の作戦計画の内情を記した文書に目を落とす。本隊を以ってリーガ城を突き、その間にクラフカウ城に陽動攻撃を掛ける。
 菊池は確実な情報を仕入れると、影舞で消えたまま天幕を抜け出した。

「来たばかりで分からない事が多く、目的を達成するためにもできる限りの事を知っておきたい」
 アルバートは、もっともらしい理由をつけて傭兵たちから情報を聞き出すことを試みていた。
「まあそう肩肘張るなって」
 傭兵たちは酒を勧めてきた。
「命あってのものだねだぜ。戦いの本番は巨神機に任せておけばいいのさ。帝国軍の騎士相手に、まともに戦おうなんざ正気の沙汰じゃねえ」
「そうは言っても、戦になれば」
「まあ死なない程度にやればいいのよ。積極的に前に出て、騎士と戦おうとしないことだな。帝国軍の一般兵相手に、適度にやってりゃいいのさ。前に出て銃士隊に撃ち殺されても洒落にならんからな」
 傭兵たちは、からからと笑って、アルバートにアドバイスを送った。アルバートは一歩踏み込んだ。
「ところで、リーガ城の守りは硬いようだが、やはり巨神機を使うのか」
「さてなあ。巨神機の動きは、俺たちも知らされてないからな」
 そこへ、傭兵隊長が声を掛ける。
「巨神機がどうした」
「隊長、俺たちはリーガ城の攻めに回るのですか」
「さて、コンラート様からはまだ何も聞いていないが、一応それらしい話は流れてきているな。早期に決着をつけるためにも、リーガ城の辺境伯を一気に叩き潰すべきだと。近く作戦が発表されるはずだ」

 天ヶ瀬は傭兵たちの訓練に同行する。
「よろしくな。懐かしいぜ。ジルべリアには十年ほど滞在していたんでな」
 天ヶ瀬は打ち解けそうな相手に声を掛けていた。
 その男は、屈強な偉丈夫だった。天ヶ瀬は男の力量を見抜いていた。相当の使い手だ。
「新入りか」
 天ヶ瀬が手を差しだすと、男はじろりと睨みつけてきた。
「仲良くしようぜ。しばらくは味方だろ」
「‥‥‥‥」
 無愛想な男は、天ヶ瀬の握手に応じた。
 訓練の後、天ヶ瀬は歩ける範囲で散策を行った。心眼を用いて各所の兵の配置を確認する。護衛が多い場所は記憶しつつ、手帳に地図を書き込んでいく。
 それから二日目。食事に持ち込んだ天儀酒を傭兵たちに振舞った。あの男は、実は中堅所の傭兵隊長であることが判明。天ヶ瀬に対して鋭い眼光を向けていたが、積極的に酒を向けると、気を許したのか、天ヶ瀬の酒を受けてくれた。
「次の攻撃目標はリーガ城だぞ。辺境伯を叩く」
「そいつは、気合が入りますね」
 それから天ヶ瀬は夜の見張りに立つ歩哨に酒を向けた。
「どうだ。この軍隊は」
「正直コンラートの坊っちゃんにはがっかりだな」
 天ヶ瀬は兵士の愚痴を聞きながら、ままならないことの方が多いものさ、と応じる。
「巨神機を向けた方角には、さすがの帝国軍も太刀打ちできないだろう。あの化け物じみた力は一軍に匹敵するぜ」
「負けは無いか」
「多分な。もっとも、コンラートの坊っちゃんも先に何を考えているのか分からんがね。余り指導者としては期待できないね」
 天ヶ瀬は話を聞きながら、胸の内でじっくりと構えていた。焦りは禁物だ。

 ハイドランジアは、傭兵たちのもとを訪れ、話を聞いていた。酒を勧めていると、傭兵は笑みを浮かべてハイドランジアを抱き寄せた。
「この戦、どっちにも大義はねえが、そんなことは関係ねえ。俺たち傭兵は、勝つ方に付くまでよ」
「自信たっぷりだね。帝国軍が怖くは無いの」
「大丈夫だ、巨神機は無敵だ。あれがある限り、コンラートの坊っちゃんに負けは無い」
「それに、大帝と言えども、南部の統治は盤石じゃないからな」
「巨神機か‥‥」
「まあ巨神機なんてどうでもいいじゃねえか。せっかく姉ちゃんが来てくれたんだぜ」
 笑声を上げる傭兵たち。
 ハイドランジアを忌々しげに見つめるのは、軍に同行してきた商売女。客を取られると思ったのか、ハイドランジアに殺気を向けていた。ハイドランジアは後で女に金を掴ませる。
「ボクは君の邪魔をしに来たんじゃないよ。村長から言われて仕方なくこんなことしてるんだ。ボクの気持ちわかるだろ?」
「そうかい‥‥ま、そんならいいんだけどさ」
「君はこの後も付いて行くのかい?」
「商売だから。負けてもらっちゃ困るのさ。次にリーガ城へ攻撃を掛けるそうだけど、みんなには無事で帰ってきて欲しいね」
 ハイドランジアは、「そうだね」と応じつつ、今の言葉を胸にしまい込んだ。

 狐火は、黙々と工兵に交じって作業を続けていた。反乱軍の次の攻撃目標が巨神機と30機のアーマーが投入される戦場であることは疑いようのないところであろう。従って、巨神機の動きが掴めれば、次の目標は自ずと定まる、狐火はそう考えた。
 また飛行船を所持しない反乱軍は戦の要になる巨神機やアーマーを陸路で輸送する必要があり、また次の戦地へ辿り着くには渡河の必要があり、敵の進軍に先行して工兵隊や人足が進路の整備を行うと予想したのだった。これは的中した。
 夜間、抜足で工兵部隊の中を歩き回り、計画の指示書など盗み見た。
 今迄の戦線への投入状況と投入された地域の情報統制や物資の運搬の様子などがどうであったかの過去の類型を調べ、今回の反乱軍内の動き、更に渡河の地点などから次に巨神機がどちらの戦場に投入されるかを予想した。
 反乱軍の進行方向は、確実にリーガ城を向いていた。

 タイムリミットの三日目、北条、秋桜、静馬は、目を付けた敵の哨戒部隊を急襲する。一般兵だけで構成された偵察隊を、森の中で補足して奇襲を掛けた。勝敗は一瞬。開拓者の前に5人の偵察隊はあっと言う間に取り押さえられた。
「お前たちは‥‥何だ! 辺境伯の傭兵か!」
 開拓者たちの余りの強さに、兵たちは何が起こったのか理解できずに狼狽していた。
「拙者たちが知りたいことはただ一つ。反乱軍の攻撃目標だ。お前たちがリーガ城か、クラフカウ城か、どちらを攻撃目標にしているのか」
「そんなことを言うと思うのか?」
「言わねば‥‥」
 北条は、手近な大木を真っ二つに切り裂いた。
「こうなる」
 反乱兵は恐怖に目を見張った。
 静馬は、強引に痺れ薬を飲ませる。
「どっかの若様の為に死ぬのと生きて親や恋人を喜ばせるのとどっちがいい? もう一服やるとあの世行きだぜ」
「や、やめ‥‥て! 言う‥‥言う!」
「よし、どうなんだ」
「そ、それは‥‥」
 すると秋桜は、兵士の装備を引っぺがすと、肖像画の入ったペンダントを押収する。美しい女性の絵が描かれていた。
「素敵な伴侶がいらっしゃるようですね。もしこの方の身に何か起こったら、どうしますか」
「な、何だと! 何をするつもりだ!」
「おとなしく話して下されば何もしませんよ」
「それが辺境伯のやり方か!」
「カラドルフ大帝が動き出せば、より多くの血が流れるでしょう。誰かがやらねばならぬと言うなら、私が悪になりましょう」
 そこで、北条が刀を突き付けて凄んだ。
「話せば命はとらん。約束しよう」
「リ、リーガ城だ」
「リーガ城、本当なのか。嘘じゃなかろうな」
「ほ、本当だ! 俺はこの隊のリーダーで、軍の隊長も務めている!」
「よし、ならばお前たちはジルべリア軍に引き渡す」
 北条たちは、反乱兵たちを馬に乗せると、敵陣に忍び込んだ仲間たちとともにリーガ城に向かった。

 リーガ城でグレフスカス辺境伯と会う。
「反乱軍の攻撃目標は、ここリーガ城で間違いなさそうです」
 手に入れた情報を伯爵に告げた。
「ご苦労だった。危険な依頼を良く無事にこなしてくれた。では、ハインリヒ卿が合流次第、迎撃の準備に掛かるとしよう」
 辺境伯はそう言って、卓上の地図に目を落とすのだった。