【天龍】鳳華の戦い19
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/14 00:02



■オープニング本文

 連戦連戦また連戦‥‥戦続きの天儀本島、武天国の龍安家が収める土地、鳳華。この地は東西におよそ100キロ、南北におよそ100キロの領域であり、殊に東の大樹海と呼ばれる魔の森は東西およそ30キロ、南北およそ100キロと、鳳華の東方を覆い尽くしている。東の大樹海はアヤカシ達の発生源であり、そこから人里に向かうアヤカシとの間で目下激しい戦いが続いている。実際現在も複数の戦闘地域でアヤカシとの戦が進行中で、鳳華の主戦場である。
 また鳳華には北西部と南部に飛び地の魔の森があり、20キロ程度の広さを持っているが、その周辺でもアヤカシとの戦は絶えない。そして散発的なアヤカシの攻撃は他地域と同様にある‥‥。

 鳳華東方、東の大樹海――。
 アヤカシの将たちが集まっていた。牙馬王、破厳、右厳、王虎、翠天、蒼鬼、樹任、雹武次など、現在魔の森から出て最前線で龍安軍と戦っているアヤカシたちだ。
 そこへ人影がやってくる。一つ目のカラス頭に金色の瞳、闇帝羅と言う名前のアヤカシである。闇帝羅が進み出てくると、アヤカシの将たちは平伏した。
「龍安軍の内情に探りを入れてきた」
 闇帝羅がだしぬけに言うと、傍らにいた狐が人間に変身した。化け狐だ。人に変身して鳳華の人里に忍び込んで情報収集している。忍び込むと言っても巫女の瘴策結界やシノビの監視が利いているので限界はあるが。化け狐は口許を釣り上げた。
「ふふふ‥‥皆様方、鳳華の民の間には動揺が広がっております。ここ最近の東における皆様方の働きで、民の間には不安が広がっておりますぞ。確実に、不穏の種は広がっておりましょうな、ふふふ‥‥」
「そういうことだ」
 闇帝羅は頷くと、狐を下がらせた。
「不穏の種は確実に広がっている。そして、まだ足りない。お前たちの働きは上出来であった。龍安家と民の恐怖を増大させること、怨嗟の念を増大させること、これに尽きたわけだが。戦いはこれからだ」
 と、闇帝羅は新たなアヤカシの将を呼び寄せた。
「飛天、而璽、太破」
 すると、二体の人型アヤカシと、巨人が一人出現した。飛天は禍々しい鎧に身を包んだアヤカシ戦士、而璽は着物を着た見も麗しき女性、太破は太鼓腹の牙を持つ巨人であった。
 すでに何度か戦場に出ているアヤカシ達からは抗議の声が上がる。自分たちの出番はもうおしまいかと。
「去りたくば去れ。餌はどこにでもいるのだから」
 闇帝羅はそう言うと、くつくつと笑った。

 東の最前線、芝ヶ崎の丘――。
 総大将の黒田幸吉は、まだ若く十九歳の指揮官であった。鳳華の名家に生まれ、将来を有望視される勇敢なサムライである。
「黒田様――」
 兵たちが黒田のもとへやってくる。アヤカシを捕えたと言う。
「忍び込んでいたか」
「はい、化け狐でございます」
 引きずられてきた狐は、小柄であったが九本の尻尾を持っていた。
「この狐が、間もなく敵軍が攻めてくると言うのです」
「何?」
 黒田は化け狐を睨みつけた。
 狐は笑った。
「すでに貴様らの陣容は滞りなく伝わっている。貴様らの背後から我が軍の大軍が襲いかかることだろう。気付いた時には手遅れよ‥‥クカカ」
 次の瞬間、黒田は狐を両断した。瘴気に還元する狐。
「シノビを飛ばせ。敵が近いかも知れん。迎撃の用意を」
「狐の虚言ではないですか? 背後と言えば人里が近い。敵の姿などありませんが‥‥」
「東に警戒しろ。魔の森に動きがあるかも知れん」
 黒田の予感は的中する。東の魔の森からアヤカシの軍勢が出現したのであった。

 アヤカシ兵士や巨人を率いる飛天と而璽、太破は陣を敷いていく。攻撃態勢に入ると、龍安軍の動きを人面鳥に偵察させる。
「狐は死んだか」
 龍安軍の動きに動揺が無いのを確認して、飛天は冷静に呟いた。
 而璽はけらけらと笑う。
「そんなことだろうさ。あの程度の狐に何が出来るもんさね。大かたあっさり捕まって処分されただろうさ」
 太破は残酷な笑みを浮かべると牙を剥いた。
「何でもいい。戦となれば龍安軍を食う。食うの久しぶりだ」
「ふん、食いしん坊め。せいぜい死なんように気をつけろ。これほどの戦となれば援護は出来んからな」
「お前の援護なんて必要ない。俺は俺の好きにやる。部下たちも」
 飛天と太破のやり取りを聞きながら、而璽はにいっと笑う。
「そう言えば若い龍安指揮官がいるって話よねえ。あたしはそいつを食べに行こうかしらねえ」
 アヤカシ軍の攻撃が始まり、芝ヶ崎の丘で戦いの幕が上がろうとしていた。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
周太郎(ia2935
23歳・男・陰
幻斗(ia3320
16歳・男・志
各務原 義視(ia4917
19歳・男・陰
魁(ia6129
20歳・男・弓
叢雲・なりな(ia7729
13歳・女・シ
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
観月 静馬(ia9754
18歳・男・サ


■リプレイ本文

 龍安軍陣中――。
「あの、よろしくお願いします」
 ぺこりと兵士たちに頭を下げたのは、龍安家家臣の巫女鈴梅雛(ia0116)。慌ただしさと緊迫感を増していく戦場にあって、まだ十二歳の雛であるが、巫女たちを率いて戦闘配置に付く。
「前衛の人たちが前進したら、それに合わせて支援しながらついて行きましょう。巨人と戦う中央の部隊に対して、ひいなが真ん中で、左右に対巨人班のみなさんが半分ずつに、中央の部隊全体を支えます」
「私たち巫女は生命線よ。ばっちり仕事はこなして見せるわ」
 若い巫女の女が雛に片目をつむって見せた。
「さて、今回も皆はんの笑顔のために、がんばりやそう」
 言ったのは龍安家お抱え歌舞伎役者の華御院鬨(ia0351)。普段役者で女形をしている鬨はそこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。
「鬨殿に比べたらあんなアヤカシ女なんぞ月とすっぽんじゃ! 鬨殿が側にいてくれた方がよっぽどええわ!」
「それは褒め言葉と思いますえ」
 鬨は兵士たちの士気が挫けないように色気を振りまいた。
 龍安家家臣の焔龍牙(ia0904)は龍に乗って空にいた。
「さて‥‥アヤカシの布陣は‥‥」
 龍牙は呟きながら、手綱を手繰り寄せる。龍がアヤカシの上空を旋回して翼を羽ばたかせる。
 上空を舞う龍牙に向かって、ぱらぱらとアヤカシ兵から矢が飛んでくるが、当たることは無い。
 と、右翼のアヤカシから閃光がほとばしり、一瞬龍牙の目をくらませた。
「おっと、噂の術使いか‥‥」
 龍牙は撤退すると、自軍の陣地へ降り立った。対左翼隊の兵士たちを預かると、作戦について説明する。
「全員一丸となってアヤカシと対峙する。仮に敵将が突撃してくるようであれば、弓術士による遠距離攻撃で出鼻を挫く! その後、隊を二分させ、両翼展開してアヤカシを包囲し、攻撃する。敵将が突撃して来ない場合、サムライの咆哮により揺さぶりをかけ、突撃してくる様に仕向けるぞ」
 小隊クラスを預かるサムライたちは互いに頷く。
「とんだ暴れん坊が集まったもんだ‥‥ったく」
 陰陽師の周太郎(ia2935)は、言って中央隊に位置していた。同じ中央隊の幻斗(ia3320)や各務原義視(ia4917)とともに、敵陣の方角を見やる。
「皆様方御武運、お祈り致します‥‥無傷で帰れないと思いますので、気休め程度のお祈りです」
 幻斗は仲間にも兵士たちにも、そう言って生真面目に互いの無事を祈った。
 各務原は人魂で雀を生み出すと、空に解き放った。雀の目と耳が同期すると、遠方にいるアヤカシの姿をはっきりと捕える。
 アヤカシの咆哮が雀を通して生々しく飛び込んでくる。敵陣を確認したところで、術の効果時間が来て雀は消失した。
 それから各務原は龍安軍の陰陽師を呼び寄せる。
「そろそろいいでしょう。地縛霊を仕掛けて下さい。まずは巨人の勢いを罠で止めます」
「承知しました」
 家臣でもある各務原は陰陽師たちに指示を出しながら、迎撃ポイントに地縛霊を仕掛けていく。それから兵士や仲間を呼ぶ。
「周太郎さん、幻斗、雛、みんなも、聞いて欲しい。地縛霊発動後に、火輪の一斉射撃『火煌の計』を行います。同時に鶴翼の陣へ移行します。巨人たちをこちらの陣の奥深くに誘い込み、局地的に三方向から攻撃します。敵に突破されるのを防ぐため、鶴翼の付け根の部分は厚めにしましょう。陰陽師隊は両辺の付け根寄りに七名ずつ。最奥の付け根に六名と私が当たりましょう。サムライ衆は咆哮で敵の統制を乱し前衛五人一組で一人が咆哮、残り四人が迎撃と言った形で各個撃破を狙っていきましょう。後衛の陰陽師隊は火力を集中させ敵を確実に仕留めていくことです。敵将がもし出現したら、集中砲火を」
 各務原の策をみな熱心に聞いた。
「龍安家家臣、弓術師の魁(ia6129)だ。宜しく頼む。まったく‥‥きりが無いな。アヤカシどもは」
「まったくだな」
「おや、総大将の黒田か。若いのによくやってるな」
「龍安の民を守ること。それが俺の為すべきことだからな」
「へえ、俺には真似できんな。開拓者はがんじがらめの宮仕えと言うわけでもないのでな」
「それでも来てくれたことには感謝する」
「黒田様」
 赤毛の青年が龍から降りて進み出てきた。サムライの観月静馬(ia9754)である。
「開拓者か」
「敵の様子を見てきましたよ。何だか雰囲気はシノビに似ていますね。術士系と言う話でしたが」
「なるほど、シノビか‥‥」
「俺、この戦が初陣なんです。皆と一緒に足を引っ張らないように頑張ります」
「初陣か‥‥厳しい戦いになる。無理はするなよ」
 冗談を好む静馬が、さすがに今は緊迫した空気に包まれて顔が引き締まっていた。この初陣で静馬は何を見るのだろうか。
「志士のルエラと申します。よろしくお願いします」
 異国人の志士ルエラ・ファールバルト(ia9645)は、仲間や兵士たちに挨拶して回っていた。
「中央隊が鶴翼の陣で巨人を足止め、敵右翼を突破して包囲、巨人を撃破するまで左翼隊を持ち堪えるのが私たちの役目となりますね」
「全体の流れは掴めましたか」
 龍牙の問いにルエラは思案顔で頷く。
「各自がそれぞれの持ち場で最善を尽くせば、勝てると信じます」
「何とか右翼を突破してくれれば‥‥と思うのですが、戦と言うのは相手がいますからね。全てがこちらの思い通りに進むとも限りません」
「同感ですね。ともあれ、負けるわけにはいきません。アヤカシ相手に退く戦は無いですからね」
「それはそうです‥‥と、始まりましたか」
 龍牙とルエラは顔を上げた。戦闘開始を告げる戦笛が高らかに鳴る。アヤカシが動き始めたのだ。

 龍安軍はアヤカシの陣形に対してそれぞれ兵を振り分け、迎撃に出た。

 ――対左翼。
「アヤカシを包囲するぞ! 完全でなくも構わない、半円ぐらいで展開してくれ。サムライは盾を装備し、前線で突破されない様にすること。状況によっては「咆哮」で揺さぶる! 弓術士と巫女はサポート 志士と泰拳士はサムライの間から攻撃しろ!」
 龍牙は前線で刀を振るって采配を振るいながら前進していく。
 ルエラも一隊の中にあって、薙刀を構えながら踏み出していく。
 ‥‥オオオオオオオオオ‥‥オオオオオオオオ! アヤカシ兵士たちの邪悪な咆哮が大気を震撼させる。敵も容易に接近してこない。
「サムライ衆! 咆哮を解き放て!」
 龍牙がさっと刀を振り下ろすと、サムライたちが「咆哮」を解き放った。大地を鳴動させるサムライたちの咆哮が、アヤカシの声をかき消した。咆哮の威力に誘引されるように、アヤカシ兵士たちの隊列が乱れる。アヤカシ達からも怒りの声が上がり、怒涛のように走り出した。
「迎撃用意!」
 サムライたちが盾を構え、その間に泰拳士と志士が武器を構えた。
 オオオオオオオオ! 突進してくるアヤカシ兵士たちが――。
 激突した。
 ルエラは気合一閃、薙刀を振るってアヤカシに切りつけた。アヤカシ兵士はルエラの一撃を受け止めると、反撃の一撃を撃ち込んでくる。ルエラは薙刀の柄でアヤカシの斧を跳ね返した。
「強い‥‥! これだけのアヤカシが‥‥!」
 ルエラは敵のパワーとスピードに新ためて驚く。
「これで並みの敵兵なのですか‥‥」
 ルエラは周囲に目をやると、兵士たちはそこかしこで激突して、戦況は混沌とし始めている。
 龍牙は右に左に敵兵を切り倒し、最前線で威を振るった。
「そこを退いてもらおうか!」
 敵兵が前衛と後衛に分かれて、射撃を開始すると、龍牙は再び咆哮の合図を送った。旗が振られ、サムライたちは咆哮を解き放って、敵陣を乱す。
 そこへ飛天が刀を撃ち込んできた。龍牙は間一髪飛天の一撃を受け止めたが、凄まじい一撃で大地に足が沈んだ。
「お前は‥‥」
「我は飛天。アヤカシの将。人間よ、お前を大将格と見た」
「アヤカシの将か!」
 龍牙は飛天の一撃を押し返すと、このアヤカシの将と激戦に入る。

 ――対右翼。
「無理に頭を狙わないでいい。絶え間なく射掛けて敵に重圧を与える」
 魁は弓術士たちに合図を送ると、間断ない射撃が始まる。
 軽装のアヤカシたちは、散開しながら突撃してくると、弓矢の一斉攻撃を受けながらも、様々な妖怪じみた式を召喚して攻撃を開始する。式が龍安軍の全面を貫通する。
「アヤカシの術士か‥‥!」
 アヤカシ術士は素早い動きで散らばると、あちこちから式を撃ち込んで来る。
「サムライ衆! 咆哮を解き放て!」
 魁は合図を送ると、サムライたちは前に出て咆哮を解き放った。
「術士と言うことなら、元々、集団戦が得意ではないと見やす。撹乱させていだてきやす」
 鬨は最前列に立つと、愛用の脇差を抜いて、味方とともに突入した。
 静馬も必死に遅れまいと走った。静馬は無我夢中でときの声を上げて、アヤカシに向かって突入する。
「弓隊も前に出る! 突入を支援するぞ!」
 魁は弓術士たちを率いて前進する。
 龍安軍は散開する敵軍に切り込んでいく。
 アヤカシ術士たちは意外に高い身体能力で格闘戦も繰り広げる。
「行くぞおおおおお!」
 静馬はアヤカシに切り掛かった。――キイイイイイン! と刀はアヤカシの腕で受け止められた。
「にっ――生身で!?」
 アヤカシはにいっと笑うと、式を静馬に叩き込んだ。肉体を切り裂かれて、激痛が静馬を襲う。
「おおおおおお!」
 静馬は裂ぱくの気合とともに刀を振り下ろした。
 ザックウ! とアヤカシの肉体に刀身がめり込んで、その肉を貫通した。
「ガアアアアアア!」
 アヤカシは怒りの咆哮を上げると、憎悪の眼差しで静馬を睨みつけ、拳を突き出して霊魂のような弾丸を飛ばした。
「かはっ‥‥!」
 弾丸が貫通して、静馬は血を吐いた。ひいやりとした感覚が静馬の体を包み込む。一瞬静馬は恐怖に駆られた。目の前のアヤカシが、とても巨大に見えた。
「まだまだ!」
 静馬は突進して、刀ごとアヤカシにぶち当たった。刀身がアヤカシを貫通する。激痛にアヤカシの悲鳴が静馬の鼓膜を震わせた。
「でやああああ!」
 そのまま静馬は万力を込めて刀を持ち上げた。ズバアアアアアア! と、アヤカシの上体が切り裂かれる。アヤカシは深手を負って後退する。
「や、やった‥‥」
 静馬は束の間戦場で茫然と立ち尽くした。
「静馬さん、いったん下がった方がよろしい。ひどい傷どす」
「鬨さん‥‥すいません」
 鬨は静馬を見送ると、着物姿の女性のアヤカシが猛威を振るっているのを確認する。
「あはははは! 死ね死ね死ね死ねえ!」
 而璽の手刀から放たれる閃光がサムライを切り裂き、血飛沫が舞う。
 鬨は而璽に接近すると、神速の一撃で脇差を叩き込んだ。
「あんさんが、この部隊の隊長はんどすなぁ。何とも強そうに見えまへんどすわぁ」
「貴様‥‥この而璽に傷を‥‥許さん!」
 而璽は思わぬ大打撃に怒り心頭する。
「死ね!」
 而璽の手からほとばしる閃光が鬨を貫通する――が、鬨はかすかに傷ついた程度。
「いきますえ‥‥!」
 鬨は踏みこみ、スキル全開の一撃を撃ち込んだ。而璽は回避したが、逃げ切れずに凄絶に切り裂かれる。
「人間ごときが!」
 而璽は立て続けに式を撃ち込んだが、鬨は肉薄して舞うようなステップで、而璽の腕を斬り飛ばした。
「おおおおおお‥‥! わ、わしの腕を!」
 而璽は悲鳴を上げて逃げ出した。

 ――対中央隊。
 突撃してきた太破たち巨人は、地縛霊を突き破って驀進してくる。
 だが各務原は冷静であった。巨人のスピードが落ちたところへ、陰陽師の火輪一斉攻撃「火煌の計」を叩き込む。
 周太郎も加わって火輪を撃つ。
「ナウマク・サンマンダ・ボダナン・アギャノウェイ・ソワカ!」
 各務原がまた扇子を一振りすれば、それを確認した伝令兵が旗を振る。合図のラッパと太鼓が鳴り、龍安軍は鶴翼の陣へ変形していく。アヤカシを挟み込むように龍安軍の中央が後退し、両翼が伸びていく。
 再び合図の扇子を振ると、サムライたちが咆哮を解き放ち、巨人たちの戦列が乱れる。
 龍安兵たちは隊伍を組んで巨人を迎撃する。
「攻撃に自信無いんで、サッサと沈黙して塵になって下さい!」
 幻斗は言いつつ、巨人の足を切り裂いた。一撃で巨人の足が飛ぶ。崩れ落ちる巨人に、幻斗は腕を斬り飛ばして体に乗り上げると、分厚い胸板に刀を突き立てた。
 巨人の腕が飛んでくるが、幻斗は構わずに切り飛ばした。両腕を失った巨人の頭を見下ろすと、幻斗はアヤカシの憎しみの眼差しを受け止め、刀を振り下ろした。巨人の首が飛び、肉体が崩れ落ちて瘴気に還元する。
「退屈はしないで済むな、こりゃ」
 陰陽師でありながら、前に出る周太郎は、刀を構えて隙を突いて巨人に飛びかかる。
「オン・マリシエイ・ソワカ!」
 斬撃符を放てば、巨人の肉体が切り裂かれる。
「援護を頼むぜ!」
 泰拳士に支援を頼み、周太郎は巨人の肉体を駆け上がり、頭に掴みかかって斬撃符を撃ち込んだ。
「ナウマク・サンマンダ・ボダナン・エンマヤ・ソワカ!」
 周太郎は謎の呪文を唱えながら式を召喚する。
「カラッポの頭がガラ空きだッ!」
 掴みかかる巨人の腕を回避して、相手の肉体に掌底や拳骨を叩き付けて、手を密着させた状態での霊魂砲が貫通する。
「オン・スンバ・ニスンバ・ウンバサラ・ウンハッタ! 粉微塵と消えろ‥‥」
 巨人は霊魂砲の貫通を受けて倒れ伏す。泰拳士と協力しながら周太郎も刀を叩き込んだ。
「ひいなたちも、進みます。先に進む人が安心できる様に、皆で支えましょう」
 巨人との戦いに龍安軍も無傷では済まない。雛たち巫女の懸命な回復作業が続く。
 雛は閃癒を使って兵士たちを回復させる。
「すぐに、回復します」
 ひときわ大きな咆哮が上がったのはそんな時。巨人のボスアヤカシ太破が突進してきたのだ。
「龍安軍! まとめて食ってやる!」
 太破の猛進に、各務原は集中攻撃の合図を出す。
 龍安兵が群がって、太破の足を叩き始める。太破は身をかがめて、拳を振り回した。木っ端のように飛ぶ龍安兵。
 雛が後方で支える。閃癒を使って兵士たちを回復させる。
 そこで敵右翼を突破した味方の左翼が突撃してくる。鬨、魁、静馬たちがいた。
「味方が来ました!」
「一気に巨人を叩きます。総攻撃」
 各務原が指示を飛ばし、雛は太破に撃ち掛かって行く幻斗に神楽舞を掛けた。
「後ちょっとです。頑張って下さい」
「行ってきます!」
 幻斗は太破に挑み、味方とともに太破を撃退する。
 この巨人のボスは最後まで抵抗をやめずに、暴れ回る。龍安軍は増援を得て巨人を討ち取って行く。孤立した太破は、怨嗟の咆哮を上げてわめいた。
「食ってやる! お前たちみんな食ってやる!」
 そして幻斗は太破の首を切り落とした。
 各務原は魁から、アヤカシ右翼が撤退したことを聞く。
 その後龍安軍は中央の巨人を撃退し、左翼の飛天軍を押し返す。
 飛天は龍牙との戦いもそこそこに後退していて、自軍の不利を悟ると早々に撤退していった。