【天龍】鳳華の戦16
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/26 20:07



■オープニング本文

 ――鳳華東方、魔の森、東の大樹海。
 西方の人界から、魔の森へ、一つ目のカラスアヤカシ――名を闇帝羅と言った――が飛んでいた。
 広大な森は遥か東方に広がっている。とてつもなく巨大な森が地平を埋め尽くしている。闇帝羅は森に吸い込まれるように帰還する。
 地面に舞い降りた闇帝羅は、むくむくと大きくなっていくと、人間の大人くらいの背丈になって、人型に変身した。体には法服をまとっていて、顔だけが一つ目カラスのままであった。金色の一つ目が不気味に光っている。
 ざわざわと、闇帝羅の周りを取り囲む影がある。少なくともそれらは人ではない。
「諸兄、理穴国にて炎羅が倒されたのは記憶に新しいことだ」
 闇帝羅は影に向かって呼び掛ける。
「この鳳華にも新たな風が吹きつつある。私の知る限りでは、すでに幾人かの将が討たれておる。それも、この数カ月の間に」
 ――龍安軍か! こざかしい奴らよ! 影の一人が叫んだ。
「つい最近の出来事ではあるが、厳原高原にて紫雲妃が討たれた。知っていよう、炎羅を倒した開拓者の手によって」
 ――カカカ! 紫雲妃が死んだか! 開拓者も力をつけたものよ! 影の一人が哄笑を上げる。
「紫雲妃が死んだところで、我々の布陣は小揺るぎもしません。紫雲妃など、烈風兵団の石火将の一人に過ぎませぬからな」
 ――全く、人間に倒されるなど、烈風兵団の名が泣くわ! 影の一人が揶揄すると、ざわめきが起こって「貴様我が軍を愚弄するか!」と怒号と罵声が飛び交った。
 闇帝羅は影たちを収めるように手を差し出すと、喧騒が静まっていく。
「そは申せど、将の一人が討たれたとあっては、我々も安穏とはしておれませぬ。我々の手落ちと追及されかねません。すぐにでも、増援を送り込む必要があるでしょう」
 ――大いに賛成だ! 龍安家に休む間を与えることなく攻撃を!
「では、引き続き増援の指揮をわたくしが取ると言うことで異存はありませんかな」
 闇帝羅が言うと、影たちから一同に「おお!」と歓声と咆哮が樹海に響き渡った。

 首都の天承で、頭首の龍安弘秀は最前線からの報告を受けていた。
「ふむ‥‥ここ最近のアヤカシの動き、またしても活発になってきているようだな」
 弘秀は言って、文に目を落としていた。
 その傍らには筆頭家老の大宗院九門がいた。弘秀の幼馴染でもある人物だ。
「散発的な攻撃は各地で起こっております。そちらは家臣団や傭兵たちで押さえています。目下大きな戦は東方で起こっておりますが‥‥」
「ああ、東の魔の森が騒がしい。厳原高原、夕凪高地、公山楼、それから東の城塞『成望』か。これが、何かの予兆か‥‥単なる偶発的なアヤカシの活動期なのか」
「いずれにしましても、最前線の兵たちには厳しい季節です。兵糧は十分にありますが‥‥戦続きでは兵士たちも消耗するばかり。年を最前線で越した者も多い。兵たちにも休息が必要ですな」
「かつて、この地を治めた先祖は壮絶な戦いを繰り広げたと言うが‥‥」
 弘秀はそう言って、大宗院に最前線の兵士たちの里帰りを許可する。志体持ちの兵士たちと言えども、永遠に戦い続けることなど出来ないのだ。

 ‥‥そんな中、前線の一つを異変が襲った。
 逃げてくる兵士たちの口から発せられた言葉に、ここを預かるサムライは驚愕する。
「アヤカシ兵100以上だと!」
「はっ! 東の防御陣はすでに陥落しました! アヤカシはとんでもない数です! 我々だけでは到底守り切れません!」
 ここの守りは龍安兵約50人であった。突然のアヤカシの前進に龍安軍は後退を余儀なくされる。
 雪花乃原まで後退したところで、友軍のサムライ大将、若月の助けを請う。
「若月様! 魔の森から出でる敵軍、数百! 突進してきます!」
「落ち着け。ここは抜かせん。そのために俺がいる」
 若月はにんまりと笑うと、慌てるサムライを落ち着かせる。
 斥候のシノビを放って、敵の総数がおよそ300余りであることを確認する。

 ――アヤカシ軍陣中。
 三体のアヤカシ首領は、それぞれに名を棒烈、樹任、雹武次と言った。
「ふん、闇帝羅様も酔狂な‥‥他に使える軍は幾らでもあろうに」
 棒烈は忌々しげに言って吐き捨てる。その体はクモとサソリが合体したようで、上に人の上半身が乗っていた。
「闇帝羅様と言えども全ての兵を使えるというわけではないのだ。他人の縄張りを侵犯するわけにもいくまい」
 樹任は真面目な口調で淡々と答える。樹任は鬼で、鎧兜に身を包んでいた。
「身内で揉めている場合ではありませんよ。龍安軍と、とりわけ開拓者の実力は油断ならない」
 雹武次は一人、氷のような眼差しで龍安軍の方を見やる。この雹武次だけが人型の剣士であった。
 そうしてアヤカシ軍は三体のアヤカシの指揮のもと戦闘隊形を取り始めた。

 若月は、シノビの偵察からアヤカシ軍の陣容が統制のとれたものであることを確認する。それからその装備にも着目した。
「こいつは‥‥間違いなく人並の知性を持っていやがるな。前衛クラスに騎兵、弓兵、恐らく術士に加えて巨人か‥‥。さて、兵数では負けないが‥‥いずれにしても、これ以上は連中を通すわけにはいかない」
 若月の瞳が鋭利な刃のように閃いた。雪花乃原は平原だ。総力戦となれば補填の利くアヤカシが有利である。若月は幾つかの選択肢から策を練ることにする。
 雪花乃原の戦いが幕を開ける――。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
喜屋武(ia2651
21歳・男・サ
各務原 義視(ia4917
19歳・男・陰
雲母(ia6295
20歳・女・陰
濃愛(ia8505
24歳・男・シ


■リプレイ本文

 アヤカシ軍陣中――。
 棒烈は右翼にあって、巨大なハサミのついた両手をがちがちと鳴らした。棒烈は残酷な笑みを浮かべると、配下のアヤカシ達に号令を下す。
『グハハハ‥‥! 龍安軍など我が軍の前には吹けば飛ぶような存在よ! 紫雲妃が撃破されたところで何を恐れるか! 雹武次と樹任の仕事を減らしてやろう! 全軍突撃!』
 オオオオオオオオオオ――! 右翼のアヤカシ軍は突進する。

 龍安軍左翼――。
「敵アヤカシ軍、右翼、突進してきます!」
 サムライは望遠鏡でアヤカシ達の動きを見ながら切迫した声を出した。その突進におよそ戦術めいたものはなく、でたらめな勢いで突撃してくる。
「一体何を考えているのだ奴らは‥‥」
「ならば後の先を取るまでのこと。敵が突出したら挟撃するため、我が隊は右側へ進撃する」
 龍安家家臣の各務原義視(ia4917)はそう言うと、刀を抜いて兵たちに指示を出した。
 龍安軍の左翼は、左右に分かれて棒烈を引きずりこむ作戦を立てていた。
「敵将の間に乱れがあることは確実ですね。幻惑されることのなきように。つけ入る隙は十分にあると、中央と右翼の味方にお伝え下さい」
 朝比奈空(ia0086)そう言って仲間たちへの言葉を託すと、陣の後方に控える。巫女である空は回復に回るつもりでいた。
 ‥‥さーて、頑張って女の子たちにアピールしておかないと、と龍安家家臣の井伊貴政(ia0213)は、兵たちを率いて最前線に立つ。動機は不純だがやる時はやる男だ。それだけの技量を持ったサムライでもある。
「突進してくる敵を引き付け、こちらに引きずり込みますよ〜。皆さんよろしくお願いしますよ〜」
「はっ!」
 貴政を取り巻く女性サムライたちは刀を抜いた。女性サムライを選んで指揮下に置いた貴政であったが、これまでの戦で彼女たちの信頼を勝ち得ていた。
「我ら龍安のサムライ、貴政殿の命に従いますれば!」
「皆さんの命、僕が預かります、では、行きますか」
 貴政たちは女性陣を率いて迎撃に向かう。
 左翼隊のもう一方に立つ柳生右京(ia0970)は、動揺する兵たちを落ち着かせる。
「噂によれば敵将の一角は単細胞な奴らしい。見ろ、およそ統制されていない軍勢など、何を恐れることがあろうか」
「柳生殿!」
「まずは小型の敵兵を確実に足止めし、巨人を各個に撃破する。敵将に当たるのは機会を見てとなろうが‥‥敵も動き出した以上、後には引けん。行くぞ。奴らを止める。各務原たちと連携して敵軍を引きずりこむのだ」
 シノビの濃愛(ia8505)は敵情を改めて確認して戻ってきた。
「敵軍、巨大なサソリと人間の合体したような巨大なアヤカシを先頭に突進してきます」
「サソリ人間?」
「はい。ひときわ目を引く異形のアヤカシです。恐らく敵軍の大将ではないでしょうか」
「ふむ‥‥断じるには早計に過ぎると言うものだが、その可能性は捨てきれないか」
 右京は思案顔で顎をつまんだ。
「各務原たちにもサソリ人間の情報を流してくれ。先陣切って突入してくるなら好都合だ。私が一当てしてみようか‥‥」
「拙者は味方に情報を伝えてきます」
「頼む」

 再びアヤカシ軍陣中――。
「棒烈の奴め‥‥先走りおって。まあ良いわ。ならば我々もひと思いに龍安軍に総攻撃をかけるか。奴一人に戦功を立てさせることもない」
 左翼の樹任は思案の末に軍勢をまとめると、前進を開始する。

 龍安軍右翼――。
 龍で偵察を終えて戻ってきた焔龍牙(ia0904)は、アヤカシ軍の動きをおおよそつかんで来る。
「どうだった」
 滝月玲(ia1409)は友でもある龍牙に問うた。二人とも龍安家家臣であり、右翼の指揮を任されていた。
「アヤカシ軍の両翼が突進してくる。敵の中央本隊はやや後ろから前進してくるな! こちらの両翼を突破してから包囲してくるつもりかもしれないな」
「そうはいかないけどね」
 滝月は槍を突き立てると、最前に立って兵士たちを鼓舞する。
「みな終わりなき戦続きで疲れていることと思う。だけど、今さら泣き言を言ってもアヤカシたちが待ってくれるわけでもなし。厳しいことを言うようだけど、ここで俺たちが倒れたら、民は蹂躙され、後に待っているのは悲しい運命だ。苦しみと怨嗟の念がアヤカシを強化し、この地はますますアヤカシにのみ込まれていくだろう。それを止めるには、ここで奴らを止めるしかない――龍鬼組として、みな故郷のために戦ってほしい」
 滝月の言葉に、兵士たちは厳しい顔つきで、身を震わせた。
 それから龍牙が具体的な作戦を出した。
「俺達は敵左翼を叩く。各人得意とする攻撃手段で攻撃、重点目標は巨人アヤカシだ! 巨人を最初に叩いておかないと苦しくなるからな! 最初は俺と玲で攻撃するから援護を頼む。残りのアヤカシは臨機応変に攻撃してくれ。あとは、敵将だが撃破できれば良いが、最低でも撤退に持ち込む。あと単独行動はするな! 二人以上で行動すること! いいか! みな生きて帰るぞ!」
 おおーっ! と兵士たちから歓声が上がる。
「では、迎撃に向かうぞ! 全軍戦闘隊形を取りつつ前進!」

 アヤカシ軍中央――。
 雹武次は何の連絡もなく前進を開始した樹任と棒烈に苦々しげな表情であった。
「樹任も棒烈も辛抱が足りませんね‥‥。およそ功を焦って突進したのでしょうが。龍安軍の陣を簡単に崩せることもないでしょうに‥‥。ともあれ、先端が開かれた以上仕方ありませんね。私も動くしかないでしょう」
 雹武次はそう言うと、全軍に整然と前進するように号令を出す。

 龍安軍中央本隊――。
「真っ向勝負か。アヤカシと消耗戦なんてやってられないのでなんとか作戦を決めて早々に撃退したいところだな」
 龍安家家臣の巨漢サムライ喜屋武(ia2651)は、敵軍が前進してくるとの知らせを受けて、中央本隊も前進するべきだと若月に言った。
「敵右翼の突進を撃破後に、こちらは敵中央を挟撃する。それまでの間、俺たちは敵本隊の攻撃をなるだけ持ち堪えなければ」
「サムライ六十人に、志士、泰拳士、巫女、陰陽師それぞれ六人ずつ。弓術師二十人か。戦力的には申し分ないな」
「私達巫女は無理に前に出ず、後方にてお味方が戦線を維持できる様、そして突破されないよう怪我をされたお味方の回復や、戦局に応じて神楽舞でお味方を支援することに専念しようと思います」
 こちらも家臣の巫女玲璃(ia1114)が言って、巫女たちの動きについて伝える。
「支援をよろしく頼む。尤も激戦になった場合は臨機応変に動いてくれ。最前線で回復が間に合わないこともあるかも知れんのでな」
「分かりました」
 玲璃はたおやかにお辞儀すると、若月の言葉を巫女たちに伝えに行く。
 煙管を吹かしながら、家臣の弓術士、雲母(ia6295)は望遠鏡を借りて戦場を見渡していた。
「何とも‥‥大層な軍団だねえ。これだけの数が集まると壮観って気もするけどねえ‥‥」
 両翼から前進してくるアヤカシの大軍は見る者を威圧する。雲母は至って平静であったが、毎回のことながら兵士たちの間には緊迫した空気が張り詰めている。
 いよいよ戦闘開始となって、実際勝利の天秤がどちらに傾くか、こればかりは戦ってみないことには分からない。
 ここを抜かれれば後ろは人里なだけに、龍安軍には後が無いとも言える。
「私の覇道の歩みはだれにも止められん‥‥さて、片づけるとするか」
 今回雲母は弓術士二十人全てを率いて戦う。弓術士たちはみな傭兵だが、と言って戦意が低いわけでもない。傭兵たちも自身の体と武器でここでの戦を頼りに生活している者が多い。龍安家とは持ちつ持たれつの関係でもあった。
「では御大将。攻撃の号令を下してくれ。私も何かと兵士たちに指示する以上、真面目にやらせてもらうがね」
 雲母は煙管を吹かして、若月に号令を促した。開拓者だからと言って遠慮するつもりはなかった。
「‥‥では、我々も前進を開始するとするか。敵中央、本隊を止める!」
 若月は抜刀して腕を突き出した。
 喜屋武と玲璃、雲母たちは、歓声を上げる兵士たち冷静に見つめ、アヤカシの方へ眼を向けるのだった。

 ――龍安軍左翼。両軍激突する。
「ガアアアアアア!」
『放て!』
 弓兵アヤカシから強烈な矢の攻撃が飛んでくる。
 ドカカカカカ! と龍安兵は矢を受けながら突進した。
 さらに側面からアヤカシ騎兵が回り込んで突撃してくる。
 正面からは重量感のあるアヤカシ兵士が突進、アヤカシの巨人も鉄球を振り回して猛進してくる。
「サムライ衆! 咆哮で敵の陣を乱せ!」
 各務原はサムライの咆哮での揺さぶりを掛ける。
「おお!」
 サムライたちは咆哮を解き放つと、アヤカシの隊形が乱れ、あちらこちらに暴走する。
「各自ともに各個撃破に専念して敵兵を討ち取れ!」
 各務原はさっと刀を振ると、ラッパを持った兵士が何度か合図の音色を吹き鳴らし、軍旗をもった兵士が大きく合図の旗を振る。
 兵士たちは合図を確認して、左右二つの集団に分かれつつ、アヤカシ軍を引きずりこんでいく。
 貴政は最前にあって、兵を率いてアヤカシ兵士と切り結ぶ。
「突撃! 味方の道を切り開きます!」
 貴政と女サムライたちはアヤカシ兵士に突進、貴政は先陣切って敵兵を薙ぎ払って行く。
 前進する貴政たちは右に分かれ、全体の動きに合わせて敵を引き付ける。
 と、貴政の前にローブを着た杖持ちのアヤカシ術士が姿を見せる。
「何ですかこいつは?」
「貴政様! 気をつけて下さい! アヤカシの術士です! 陰陽師のようにアヤカシを召喚してきますよ!」
「そうなんですか」
 貴政は警戒して距離を取ったが、アヤカシ戦士が討ち掛かっていく隙を突いて、術士のアヤカシは杖を一振りすると、まるで斬撃符のようにカマイタチを召喚して貴政に叩きつけた。
「――!?」
 切られた貴政はアヤカシ兵士の首をはね飛ばすと、今の変則技を見た。
「アヤカシを召喚した‥‥やるな」
 貴政は大地を蹴って突進すると、アヤカシ術士に切り掛かった。
 ――キイイイイン! と貴政の剛剣を杖で受け止める術士。
 だが、貴政はそのまま力で押してアヤカシ術士の杖ごと胴体を切り裂いた。続く一刀で突きを入れ、刀が貫通する。アヤカシ術士は崩れ落ちて瘴気となった。
 ――ザン! と、貴政の背中で灼熱のような痛みが爆発した。アヤカシ兵のクリティカルヒットとも言うべき一撃が貴政を切った。
 貴政は立ち上がってアヤカシ兵士を叩き伏せたが、出血でよろめいて崩れた。
「貴政殿!」
「まさか不覚を取るなんて‥‥」
 貴政は兵士たちに朝比奈のもとへ運ばれた。
「まさかあなたがやられるなんて、大丈夫ですか」
 空は傷に手を当てると、風の精霊を呼ぶ。巫女の治癒術、神風恩寵。
 さわやかな風が貴政を包み込み、怪我を回復させた。

 濃愛は乱戦の中、巨人に討ち掛かっていた。スキルフルで太刀を振るって巨人の周りを飛び交いながら一撃をヒットさせていく。
 巨人は飛び回る濃愛を捕まえ切れずに、遮二無二槍を振るった。
「さすがに‥‥しぶといですね」
 濃愛は言いつつ太刀を撃ち込んでいく。
 
 右京は巨人を一体撃破し、乱戦の中、左集団に分かれて棒烈と相対する。
「噂通りだな、単細胞。しかし、腕の方は悪くない。手合わせ願おうか」
「何だあ貴様は!」
 強大なサソリ人間の棒烈は、鋏と猛毒の尻尾で右京を威嚇する。
「開拓者、貴様を瘴気に還す者だ」
「開拓者! 噂の! 面白い! 俺様が見せしめに血祭りにしてくれる!」
 棒烈は上体を持ち上げて躍りかかるように右京に襲い掛かってきた。
 ハサミで牽制してうなりを上げて尻尾が振り下ろされる。
 右京は斬馬刀で棒烈の稲妻のような一撃を跳ね返した。
「――っ!」
 右京のスキル全開の一撃が棒烈の片腕を切り飛ばした。
「何だと‥‥俺の腕を!」
 怒り狂った棒烈は猛然と突進してきたが、もう一撃、右京はスキル全開で万力の一撃を叩き込んだ。棒烈の足が凄絶に切り裂かれて崩れ落ちるアヤカシの将。罵声を上げて右京を睨みつける棒烈の胴体を、右京は一刀両断した。断末魔の叫びを残して棒烈は瘴気に還った。
「中々愉しめる‥‥が、奴に比べるとまだ足りないな」
 棒烈を失ったアヤカシ兵士たちは、戦意を喪失して壊走する。

 ――龍安軍右翼。
 敵陣を貫く龍牙は巨人と相対する。飛んでくる鉄球をかわしつつ懐に飛び込み、炎魂縛武で足元を狙う。
 刀が巨人の足を凄絶に切り裂き、巨人は一撃で崩れ落ちた。
「巨人とは言え、倒してしまえばどこにでも攻撃できる」
「今だ! 掛かれ!」
 サムライたちは巨人に群がって滅多切りにした。巨人はなすすべなく消滅する。
「よし! もう一体を倒すぞ!」
 そこへ矢が飛んできた。龍牙は刀を振り上げて矢を弾き飛ばした。
「全く、今回の混戦は油断ならないな」
「龍牙殿、アヤカシも騎兵に術士、弓兵と、敵も陣容を揃えておりますので」
「ああ。大勢に変化はないか」
「今のところ、敵勢を押さえこんでおりますが」
 そこで合図のラッパが鳴り、軍旗が振られた。
 滝月はアヤカシ兵士を切り倒すと、側面から突進してくるアヤカシ騎兵に目を向ける。
「来たか。雲母さんの準備は出来ているのかな」
 確認すると、雲母は陣の後方に来ていると言う。滝月は雲母を呼んで騎兵に対する。
「私の出番か滝月、いつでも貴様の要望に応えてやるぞ」
 煙管を吹かしながら、相変わらず雲母は仲間にもふてぶてしい態度を見せる。
「お願いしますよ」
「任されよう」
 再度合図のラッパと軍旗で、サムライたちが盾を持ってアヤカシ騎兵と激突する。
 陰陽師たちの大龍符がアヤカシを混乱させ、雲母は兵たちに命じる。
「お客には丁重なお迎えを、構え‥‥放て!」
 即射で四十発の矢がアヤカシに叩きつけられる。
「楽しそうな合戦だなぁ、ちゃんと楽しめよ?」
 雲母は戦場を見渡しながら煙管を吹かして指揮を取る。
 そこへ、伝令のシノビから、右翼のアヤカシ軍が壊走していくとの知らせが入る。
「そうか、こちらも、敵将を討つことが出来れば良いのだが」
 滝月は最後まで戦場を探したが、樹任は意外にも前には出てこなかったので討つ機会はなかった。

 龍安軍中央――。
「そうか。右翼がやったか」
 若月は破顔大笑。
「では、右翼と連携して一気に敵の本隊を討つ」
「それがよろしいでしょうね。機会を逃せば、またいずれこの敵兵が人里を襲うこともあるでしょう」
 喜屋武の提案に駆けつけた玲璃も賛同する。中央は激戦で、アヤカシの大軍を何とか足止めしていた。喜屋武も傷つき、玲璃も練力を使い果たしていた。
「よし、では予定通り総攻撃を掛ける」
 それでも龍安軍は右翼が敵陣を撃破し、中央の敵本隊へ切り込んだ。
 敵将の雹武次は冷静であった。開拓者と見えることはなかったが、棒烈が討たれたことを確認すると、兵を引き上げて行ったのである。