【天龍】鳳華の戦15・華
マスター名：安原太一
|
|
| ■オープニング本文 武天国、龍安家の治める土地、鳳華、東の城塞「成望」にて――。 龍安家の武将にして頭首弘秀の妹、直代神樹は、崩れ落ちた城壁の修復作業を見やりながら、改めて先のアヤカシ首領格「朱神」のけた外れのパワーを思い出していた。朱神はたったの一撃で石造りの城壁を打ち砕いてしまった。 「さすがに、とんでもない怪物ですな。鳳華に名を残したアヤカシだけのことはあります」 神樹の後ろから歩いてやってきたのは、成望の執政を務める武官、緋村天正であった。 「ですが‥‥皆よく耐えてくれましたね。あの大軍と、朱神を退けることが出来たのは、ひとえに皆が力が合わせたからです。あの朱神に手傷を負わせることが出来たのは、僥倖でした」 「しかし‥‥朱神のことです。すぐにでも手勢を引き連れて反撃してくるのでは」 緋村の言葉に神樹は何か言いかけて、視線をついと動かした。そこに斥候に放っていたシノビがいた。 「アヤカシの動きはありましたか」 「神樹様、緋村様、アヤカシ勢に動きがあります。急ぎ戻りましてございます」 シノビの言葉に、神樹と緋村は指揮官のサムライたちを集める。 ‥‥魔の森から再び動き出した朱神――10メートルはある赤い巨体、装甲をまとった猪の姿をした――は、配下の人型アヤカシ璃鉄、典九、青燕を率いて、成望の東の丘に陣を敷いた。その数１５０余。グロテスクな外見の人型アヤカシ重歩兵、鬼アヤカシ、獣アヤカシの混成軍だ。 「ふっふっふ‥‥全軍進軍の準備に掛かれ。先の戦で穴を開けた東の門にはわしが直接に当たる。璃鉄は主力の獣たち100とともに、わしと東の門へ。典九は鬼アヤカシ２５余を率いて南の城壁に向かえ。青燕はアヤカシ重歩兵２５余を率いて西の門の攻略を。三方向から城塞を攻撃する」 「朱神様――兵力がいささか少ないように思われます。大軍を投入し、一気に城塞を攻略するべきでは」 「璃鉄よ、お前は何も分かっておらんな。まあ兵力に関しては、魔の森に増援を頼んでおいた。案ずるな。何れにしても、龍安の者どもの先手を打つのが肝要だ」 そこで、斥候に出ていた人面鳥が空から戻ってくる。人面鳥はガアガアと鳴いて、龍安軍が動き出したことを知らせる。 龍安軍は、城塞を出ると、東の朱神軍との間に陣を敷いた。 「敵の増援も気がかりですが。私たちはここで朱神を食い止めましょう」 神樹は手に持った十字槍を振りかざすと、兵たちに呼び掛けた。「おーっ！」と兵士たちから歓声が上がる。神樹は冬の空に晴れやかな笑みを浮かべると、空気を吸い込んでもう一度声を上げた。 「たとえ敵の軍勢は無限でも、朱神を倒し、意気を挫くことは出来ます。この地をアヤカシに明け渡すわけにはいきません。私たちは退くわけにはいかないのです」 するとまたしても兵たちから歓声が沸き起こる。神樹は満足そうに部隊長たちに兵を預けると、本陣に入った。 卓上には成望周辺の地図が置かれていた。家臣たちが改めて朱神軍の動きについて知らせる。 「敵は三つの集団に分かれて移動を開始しました。正面に朱神率いる獣アヤカシ勢100余。恐らく敵の主力でしょう。南から鬼アヤカシ２５余。こちらは攻城櫓を備えております‥‥どこかから進入するつもりでしょうか。北からは重装備のアヤカシ歩兵２５余が長駆迂回して回り込んできます。背後を突くつもりでしょうか‥‥」 「敵の増援はどうなっていますか」 「は‥‥朱神軍とともに出現した黒い鬼の集団50余は、北の森に展開して、攻撃態勢を取っています」 「黒い鬼ですか‥‥」 神樹は不安を払しょくするように首を振ると、黒い鬼に当たる緋村の無事を祈る。 「朱神を止めるだけでも相当に難事です。私たちは目の前の朱神を止めることに全力を尽くしましょう」 「はっ」 そして龍安軍の主力150は、東から前進してくるアヤカシ軍に対して迎撃に出る。 |
■参加者一覧
鈴梅雛（ia0116）12歳・女・巫 
井伊 貴政（ia0213）22歳・男・サ 
焔 龍牙（ia0904）25歳・男・サ 
柳生 右京（ia0970）25歳・男・サ 
王禄丸（ia1236）34歳・男・シ 
喜屋武（ia2651）21歳・男・サ 
各務原 義視（ia4917）19歳・男・陰 
菊池 志郎（ia5584）23歳・男・シ 
柊 かなた（ia7338）22歳・男・弓 
濃愛（ia8505）24歳・男・シ |
| ■リプレイ本文 城塞の中の龍安軍は打って出て、次々と接近してくるアヤカシとの戦闘に突入していく。 「今度は、前回のようには絶対させません」 龍安家家臣の巫女、鈴梅雛（ia0116）は言って出撃していく味方の後方にあった。 「それじゃあ神樹様、行ってきます」 先日家臣となったばかりの井伊貴政（ia0213）は総大将の直代神樹にお辞儀した。 「貴政、兄様も‥‥いえ、弘秀様もあなたの働きに期待しているでしょう。あなたの武運を祈ります」 貴政はにこりと笑みを浮かべると、戦場に駆けていった。 東の城門から次々と龍安兵が打って出る。 「もう一度あの朱神と戦えるとは‥‥これほどの喜びはない‥‥」 龍安家家臣の柳生右京（ia0970）の心は、いつにも増して戦の高揚感を求めていた。 「東の各部隊、配置に付け。朱神を止める」 同じく龍安家家臣の各務原義視（ia4917）は、刀をさっと前方にかざすと、朱神の軍勢を見据える。 獣アヤカシの大軍は、先頭にひときわ巨大な朱神がいた。 「龍安軍‥‥二度にわたって俺様の攻撃を止められると思うな」 朱神は天に向かって咆哮すると、獣アヤカシ軍からおぞましい叫び声が上がる。 「来るぞ‥‥全部隊迎撃用意！」 各務原は号令を下し、龍安軍は突進してくるでえあろう獣アヤカシに備える。 『全軍突撃！ 我に続け！』 朱神は先頭に立って走り出すと、その巨体が信じ難いスピードに乗って加速する。部下の獣たちも雄たけびを上げて走り出す。アヤカシの突進は、龍安軍の兵士たちを一瞬畏怖させるが――。 兵士たちも束の間の恐怖を振り払い、抜刀した。 「奴らを一匹たりとも通すわけにはいかん。アヤカシどもを生かして帰すな！」 「おおーっ！」 龍安軍も走り出した。 雄たけびとともに突撃する龍安兵。 右京も、貴政も、その最前にあった。各務原と雛は後方部隊に合って、巫女や陰陽師たちとともにいた。 両軍は押し寄せる波のように城塞東の平原で激突する。 獣たちの咆哮と、龍安兵の鬨の声がぶつかり合い、戦場の空気を震撼させた。 ――激突。 右京は最初の一撃で狼を一刀両断した。貴政も飛びかかってきた狼を寸断する。龍安兵は戦線各所で獣たちと激突し、戦場は瞬く間に混戦と化していく。 アヤカシと龍安兵は大地を駆け抜け、空を切り裂く刃と牙が激突し、激しくぶつかった。 右京は戦場の高揚感の中で朱神を求めて彷徨った。そして、目的の姿を発見する。 ひときわ巨大な装甲に身を包んだ紅い猪が、牙で龍安兵を吹き飛ばしていた。 「奴が‥‥」 「弓隊！ あの赤い猪を撃て！」 各務原は弓術士に合図を送ると、弓兵は朱神を即射で矢を叩き込んだ。次々と矢が突き刺さるが、朱神はものともせずに矢を振り払った。 「右京さん‥‥！ あいつをここで止められるでしょうか」 すでに鎧が血で染まっていた貴政が、右京のもとへ駆けつけてくる。 「やってみる価値はあるだろう。少なくとも私には‥‥」 雛は閃癒を使いながら、味方の損耗を回復する。 「閃癒は覚えたばかりで、まだこつがつかめていないんです」 それでも、後退してくる味方を一気に回復させる。 「雛殿！ すまんがこいつを見てやってくれ！」 兵士が味方を抱えて駆けこんで来る。兵士は重傷だった。 「はい、こちらへ」 雛は精いっぱいの声を出して、味方の巫女を呼ぶと、重傷者に神風恩寵を連続して掛けた。 「お‥‥俺は‥‥」 「大丈夫ですか」 「そうか‥‥朱神にやられたんだ。何で生きてるんだ？」 回復した兵士は意識も朦朧としていたが、何とか立ち上がる。 「雛」 そこへ各務原がやってくる。 「各務原さん」 「朱神と戦う仲間たちが大変なことになっている。巫女を率いて急いでもらえまいか」 「朱神が‥‥はい、分かりました」 が、そこへ獅子を率いた璃鉄が姿を見せる。 「ふふふ‥‥朱神様の邪魔となるのは最善の兵よりも、後方の巫女や陰陽師どもよ。俺様が貴様らを皆殺しにすれば勝利は決まったようなもの」 「貴様は――」 「俺様は璃鉄、鋼練将が一人」 「璃鉄！ 今度は逃がさんぞ！」 周囲の陰陽師たちも符を取り出して構えを取った。 「陰陽師など‥‥盾がいなければ雑魚も同然よ」 「それはどうでしょうかね」 「何？」 振り返ったところに、兵を率いた貴政がいた。 「右京さんは朱神へ向かいましたが、抜けていくお前を見逃さなかったようですね」 「‥‥‥‥」 璃鉄は間合いを図ると、「行け！」と獅子を貴政たちにぶつけた。 「各務原さん！ 援護を頼みます！ 雛さん！ 護衛と一緒に朱神のところへ向かって下さい！ 璃鉄は僕たちが止めます！」 「はい」 雛は走り出した。 「璃鉄――お前は僕たちが止める」 貴政と各務原は璃鉄を挟み撃ちにした。 「俺を倒せるとでも？」 「やってみないと分からないでしょう」 貴政は突進した。各務原は「急々如律令！」と火輪を連打した。 ガキイイイイン！ と貴政の刀と璃鉄の刀が火花を散らす。 「ちいい！」 斬撃を食らってよろめく璃鉄。接近する貴政を拳で吹き飛ばした。 ――ザン！ と、各務原の火輪が璃鉄の腕を切り飛ばした。 「何！？」 「今だ！」 「おおおおおお！」 貴政は万力を込めて両断剣を叩き込んだ。ドゴオオオオオ！ と刀が貫通する。 「ぐ‥‥お‥‥！」 璃鉄は喀血すると、混戦の中へ逃走した。 西門の守りに就いた焔龍牙（ia0904）と王禄丸（ia1236）は、青燕の重歩兵部隊と激突する。 「各人無理はするなよ！ 各個撃破で敵兵を討ち取れ！」 龍牙は前進してくるアヤカシ重歩兵にを見据えながら、部隊の指揮を執る。 「青燕は俺たちが倒す！ みなは手を出すな！ 怪我ではすまないかも知れない！」 「お気をつけて龍牙様、王禄丸殿」 「この異形の軍勢、実に私好みだが。悲しきかな、相容れんとは」 王禄丸は言って、大斧をずしっと構えた。 「ふふふ‥‥龍安軍よ！ 降伏するなら今のうちだぞ！ 逃げるなら見逃してやろう！」 先頭に立った青燕は、大槍を地面に突き立て、威嚇の咆哮を上げた。アヤカシ兵士たちから上がる邪悪な声。 「何が降伏だ‥‥！」 「舐めおって！ 刀の錆にしてくれる！」 いきり立つ兵を収める龍牙。 「落ち着け！ 奴は‥‥俺と王禄丸さんでやる！」 「どうした！ 怖気づいたか！ 龍安兵よ！ 守っているだけでは永遠に勝てんぞ」 哄笑を放つ青燕。 「龍牙様‥‥！ 言わせておけばあのアヤカシ！」 「サムライ衆咆哮の用意だ。敵の戦列が崩れたところを一気に突く」 「はっ！」 サムライたちは咆哮の態勢に入る。‥‥三、二、一‥‥！ 解き放たれる咆哮。オオオオオオオオオオオオ――！ と十名以上のサムライ達が大地を揺るがす咆哮を上げた。 「ぬっ！」 青燕が崩れるアヤカシ兵の戦列に顔を歪める。 「サムライの雄たけびか‥‥おのれ！」 それから青燕は天に向かって咆哮すると、兵士たちに突撃の号令を下す。重歩兵が乱れつつも西門に向かって前進してくる。 「行くぞ！ 突撃！」 龍牙は先頭に立って走り出した。 王禄丸も龍安兵士たちも一斉に突進する。 両軍ともに小規模ながら波となって激突した。 ドズバアアアア！ と龍牙と王禄丸は、アヤカシの重装甲を貫いた。 「いくら重装甲と言えども隙がある！」 龍牙は鎧の隙間を狙って刀を突き刺す、アヤカシの反撃は回避して、相手を蹴るようにして舞い上がると、青燕に突進する。 王禄丸も斧の一撃でアヤカシの頭部を撃砕すると、青燕に目がけて飛ぶ。 「龍安軍に勝ち目などないのだ！」 青燕は大槍を無双の扱いで振り回すと、龍牙に叩きつけた。 うなりを上げる大槍を、龍牙は間一髪かわすと、懐に飛び込む。 「『焔龍』の炎力をみくびるな！」 炎魂縛武を叩きつければ、刀身が青燕を貫いた。 「ちい！」 青燕は素早く槍を引き寄せると、龍牙に突き入れた。ドゴオオオオオ！ と龍牙も正面から一撃を受けた。 そこへ王禄丸が白梅香を叩き込んだ。瘴気を浄化する精霊力の一撃が青燕を捕える。 「ぐおおおおおお！」 痛撃を受けた青燕は、己の肉体が霞のように消失するのを確認して、王禄丸を睨みつける。 「浄化の力！」 「そういうことだ」 「おのれ‥‥小賢しい奴がいる」 「お前を逃がしはしない」 龍牙と王禄丸に挟み込まれた青燕は、距離を保ちつつ後退する。 「俺様とて魔の森の将‥‥せめて貴様らの首の一つでも道連れに‥‥！」 青燕は大槍を王禄丸に投げつけると、腰から雷をまとった魔剣を抜いた。 「俺様の雷剣で切れぬものはない！ 死ねえええええええ！」 青燕の鬼気迫る形相と、稲妻をまとった雷剣の光に、龍牙は一瞬圧された。 無論それも束の間のことである。 「『焔龍』は‥‥引かんぞ！ 青燕！」 龍牙は炎魂縛武を解き放つと、突進した。ドゴオオオオオ！ と両者ともに一撃を受ける。 王禄丸は大槍を投げ捨てると、白梅香で打ち掛かった。ズバアアアアアア！ と切り裂かれる青燕。浄化の力で青燕の体から瘴気が消失する。 「ふざけるな！ この‥‥！」 「お前の首‥‥貰って行くぞ。全力で行く‥‥！」 王禄丸はもう一発白梅香を叩き込んだ。 「そう何度も！」 だがそれは陽動であった。 逆方向から龍牙が炎魂縛武を叩き込んだ。紅蓮一閃。ザシュッ！ と青燕の首が飛ぶ。 王禄丸の一撃を受け止めていた青燕の体は、がくりと崩れ落ちると、やがて黒い塊となって瘴気に還元した。 「残るはアヤカシ重歩兵――とにかくこいつらを片づけないと」 龍牙はアヤカシ兵士たちを見やり、突進する。 「攻撃開始――」 柊かなた（ia7338）は城から持ち出した投石機で、敵の攻城櫓を狙って投石攻撃を開始する。 「射撃用意――てえ！」 かなたたち弓術士は、攻城櫓を運ぶアヤカシ兵士を狙って狙撃を開始する。 「今回敵の攻城兵器がアヤカシでなかったのは幸いでした。自力で移動できない通常の攻城兵器であれば、城にたどり着く為の足がなければ何の意味も成さないでしょう」 「サムライ衆、迎撃に備えよ」 龍安家家臣の喜屋武（ia2651）は槍を構えて、鬼アヤカシが乗った攻城櫓が破壊されていく様子を見つめた。 「攻撃部隊、前進」 喜屋武はそう言いながら、菊池志郎（ia5584）の遊撃隊に指示を出す。 「兵たちは菊池さんとも協力するようにお願いします。典九の足を止めるには、菊池さんの力が必要です」 喜屋武は兵たちに説明すると、菊池は龍安兵にお辞儀する。 「お願いしますみなさん。何とかして典九の足を止めましょう」 「こちらこそお願いする」 アヤカシ軍の攻城櫓が勢いを失っていく。攻城櫓を取り巻く鬼アヤカシは、わめきながら地面に落ちていく。 投石攻撃が命中して、攻城櫓を撃ち抜いていく。 「ちい！ 人間の真似ごとでは所詮この程度か！」 典九は攻城櫓の下で苛立たしげに地団太を踏んだ。いっそ攻城櫓のアヤカシを連れてくるべきだったと後悔する。 弓術士たちの矢が、櫓を運ぶ鬼を撃ち抜いていく。 「龍安軍‥‥来るか‥‥！」 典九の目に、前進してくる喜屋武たちの姿が入り込んで来る。 『仕方ない！ 櫓を捨てろ！ 地面に降りて迎撃！』 鬼たちは倒れていく攻城櫓から飛び降りると、喜屋武の部隊を迎撃に回る。 整然と前進してくる喜屋武が率いるサムライたちに、鬼の群が襲いかかっていく。 「咆哮を解き放て！」 喜屋武の号令で、咆哮が解き放たれると、鬼の戦列が乱れる。 『小賢しいわ！ 一気に突き破れ！』 典九は咆哮すると、鬼の軍勢を喜屋武に叩きつける。 「防御陣を敷いて敵の前進を止める。敵を引き付けてここで止めて見せますよ」 喜屋武は冷静に兵たちに指示を出していく。 前方で起こった騒ぎを見つめながら、典九は後方で観戦していたが――。 迂回して接近してくる菊池らの集団に目を向け、ぎらりと目を剥く。 「お前が典九ですか」 「‥‥‥‥」 典九は菊池の言葉には答えず、無言で刀を抜いた。 「菊池殿――」 「俺が正面から当たります」 「では我々は奴を包囲するように動きます」 菊池は踏み出すと、典九に水遁を叩き込んだ。 揺れる典九に菊池は火遁を放った。ゴオオオオオオオ！ と炎が典九を包み込んだ。典九は手をかざして炎に耐える。 菊池は突進した。――キイイイイイン！ と薙刀が典九の刀と激突する。 典九は菊池の攻撃を凌ぎながら、周囲に目を走らせていた。龍安兵が退路を断つのを確認して、典九は菊池を吹き飛ばした。 「龍安軍よ、俺様を止めることなど出来んぞ」 「菊池殿を援護しろ！」 龍安兵は一斉に打ち掛かった。連打を食らって典九は体を丸めるようにして攻撃に耐えた。 典九は突進して囲みを破ると、そのまま戦場を脱して逃げる。 朱神との激戦は熾烈を極めた。 右京、貴政、雛、各務原始め、援軍に駆けつけた龍牙と王禄丸がいて、龍安兵も少なからず朱神を取り囲んでいた。無数の切り傷を受けていたが、朱神は小揺るぎもせずに、仁王のように立ちはだかった。一方、龍安軍や開拓者たちは傷つき、体力を消耗していた。 「龍安軍よ‥‥力をつけたようだが、人の限界などこれまでよ。俺様を止めることなど出来はせん」 「アヤカシの軍勢は無限かもしれません、でも、人間は成長するんです」 雛は貴政の後ろに隠れながら、こわごわと朱神に対抗した。 朱神は足を踏み出して、巨体を揺らす。 「ならば俺様を止めてみろ。我が軍は無限‥‥人に勝ち目などないと知れ」 コオオオオオオオオオ‥‥と朱神は息を吐き出すと、かっと召喚アヤカシの息吹を叩きつけた。 なぎ倒される龍安兵。 「おのれ朱神‥‥」 「怯むな！ 的は大きいぞ！ ありったけの力を込めて奴を撃て！」 龍牙は渾身の力で切り掛かった。右京が、王禄丸が、貴政が、龍安兵たちが朱神の巨体に群がって全力で打ち掛かる。各務原や陰陽師たちは最後の式を飛ばした。 朱神の巨体を打つ幾多の攻撃。それでも、朱神は倒れない。朱神は旋回して群がる人々を弾き飛ばすと、突如として向きを変えると去って行った。 後には、アヤカシが残ったが、龍安軍はそれらを何とか城塞前で撃退する。 ‥‥戦闘終結後。右京は神樹へ問う。 「過去にも朱神は現れたと聞くが‥‥その話はかなり古い話なのか？ 文献などがあるなら目を通したいのだが」 「朱神が現れたのはかなり昔のことです。首都の天承に文献が残っているかも知れません」 「そうか‥‥」 右京はそれを聞いて天承に向かう。 龍安家の城に登城した右京は、書庫で文献を目にした。 文献には無数の砦を破壊して人里に猛威を振るった朱神の記録が残っていた。 朱神が破剛兵団の獣獅将と名乗っていることが記されている。 柊は依頼が終わって、いつものように天承の市場に向かっていた。弟のために甘い物を買って帰ろうと思っていた。 と、目に留まったのは菓子屋に並んでいる羊羹。「これ下さい」と、柊は包まれた羊羹を土産に、家路に着くのだった。 |
