【天龍】鳳華の戦い4
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/23 13:31



■オープニング本文

 天儀本島、武天国。龍安家の治める土地、鳳華――。
 首都の天承にて‥‥発着場に巨大な飛空船が舞い降りてくる。大型飛空船は天儀本島の主要都市を繋ぐ定期便であり、大都市には二、三日に一度は通じている。
 多くの人々が船のタラップから下りてくる。依頼を受けてやって来た開拓者達は飛空船の旅路を終えて、鳳華の土を踏む。
 一見平和に見える城下町に、武装した兵士が町のいたるところで見られる。どこか物々しい雰囲気だ。ここ鳳華はアヤカシとの激戦区で、龍安家はそれなりに大きな武力を持っていた。反面治安は良いとは言えず、慢性的にアヤカシの攻撃に晒されてもいた。
 開拓者達は龍安家から依頼を受けて鳳華を訪れたのであった。依頼内容はアヤカシ退治ということだ‥‥。
 開拓者達は、天承の中央にある城を訪ねる。そこに、開拓者達を神楽から呼んだ依頼主、龍安家頭首の若きサムライ龍安弘秀がいた。

「――良く来てくれたな。まあ楽にしてくれ」
 弘秀は言って笑った。開拓者達が通されたのは城内の一室である。調和の取れた書斎と言った趣で、豪快な筆致で「風林火山」と書かれた掛け軸が掛かっていた。茶器が棚に並んでいて、器を手に取っているのは室内にいるもう一人のサムライ、老齢の武将であった。老将の名を栗原玄海と言って、龍安家の重鎮で気骨ある武人であった。
 最初に、玄海が開拓者たちを思案顔で見やると、口を開いた。
「よくぞ参られた。ここ鳳華がアヤカシとの激戦区であるのは知っておるかな。実際その通りでな、東の大樹海のアヤカシと、わしらは慢性的な戦闘状態にある。おぬしらを呼んだのは、我が家だけでは手が足りないからじゃ。最近領内ではまたもアヤカシの攻撃が始まっての。緑茂の里における開拓者達の戦いぶり、実に驚きじゃ。大アヤカシを倒したそうな‥‥」
 玄海は茶器を置いて、開拓者達に向き直る。
「我々はこれまでにも神楽の開拓者の力を借りてきた。そして、開拓者の中でも我が家に尽くしてくれた者には、望むなら我が家の家臣として取り立ててきたくらいでのう」
 玄海は開拓者達に告げると、龍安家は目下のところ開拓者からも家臣を募っていることを告げる。開拓者は基本的に神楽の都に住んでいるのだが、有事の際に兵隊を任せたり出来る者を常に集めているという。
「まあ、玄海の言う仕官の話は心に留め置いてくれ」
 弘秀は言ってから、本題を切り出す。
「今回頼みたいのは、先だって撃ち漏らしたアヤカシ首領、岳天斉が東部の砦に再度攻撃を仕掛けてきた件だ」
 弘秀はそう言うと、依頼の詳細について語り始めた。

 鳳華東部、岳天斉との戦闘地域――。
 慢性的なアヤカシとの戦闘が続く鳳華では、都市クラスになると武装していることが普通である。戦闘地域には言うに及ばず、兵士や傭兵たちが砦に詰めている。ここもそんな一つであった。
「岳天斉が‥‥ここは何としても死守する」
 砦に入った開拓者達は、櫓に昇ると、龍安家のサムライから望遠鏡を渡された。
「あそこだ」
 サムライが指差した先、かがり火が焚かれている。アヤカシ兵士たちが陣を築いて、時折矢を射掛けてくる。
 飛んで来た火矢は砦の中や壁に突き刺さって、くすぶりを上げていた。
「あれは‥‥破城槌か」
 開拓者達の目に、アヤカシの陣にある攻城兵器が目に映る。
「原始的な兵器だが、本当にあれで攻撃するつもりか?」
「よく見てみろ」
 サムライから促され、もう一度観察する。
「――?」
 よく見ると、破城槌に見えるものの先端は、巨大な狼の顔をしており、火を吹いて生きていた。
「破城槌の姿を模したアヤカシだ。あれで一撃のもとに砦を粉砕するつもりだろう。噂には聞いたことがある」
「打って出るのか?」
 開拓者が問うと、サムライは唸った。
「正直守りきれるかどうかは分からん」

 ‥‥アヤカシの陣中にて。
 岳天斉は配下のアヤカシ兵士たちを叱咤していた。
「(時は満ちた! 攻撃開始だ! 砦を叩き潰せ! 恐怖と絶望を!)」
 アヤカシ兵士たちは歓喜の雄叫びを上げると、砦に向かって動き出した。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
当摩 彰人(ia0214
19歳・男・サ
儀助(ia0334
20歳・男・志
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
百舌鳥(ia0429
26歳・男・サ
香坂 御影(ia0737
20歳・男・サ
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
白蛇(ia5337
12歳・女・シ


■リプレイ本文

 砦の中は慌しくなっていた。
「丸太を全部引っ張り出せ!」
 開拓者たちの提案で、砦に備え付けられている丸太をアヤカシ勢にぶつけるという策が取られた。
 次々と運び出されていく丸太。
 アヤカシの雄叫びが響いてくる。敵は走り始めていた。
 望遠鏡でアヤカシの様子を探っていた龍安家のサムライは、龍安家家臣のシノビ、白蛇(ia5337)にそれを渡した。
「魔の森拡大を防ぐ為にも‥‥この砦を墜とさせる訳には行かないよ‥‥」
「はい」
「兵士と傭兵には混成の壱班と弐班を編成してもらうよ‥‥」
「承知いたしました。お任せくだされ。必ずや勝利して、岳天斉を討ち果たしましょうぞ」
 小さな巫女、鈴梅雛(ia0116)は丸太の準備をえいえいと進めながら、吐息する。
「あんなアヤカシ、初めて見ました」
「巫女さん大丈夫か、力仕事は任せてもらっていいぞ」
 龍安家のサムライが雛を気遣う。雛はくるりとした瞳でサムライを見上げる。
「雛も出来るだけのことを‥‥早くしないと敵が来てしまいますから」
 サムライは笑みを浮かべると仲間達とともに丸太を持ち上げる。
「どんなに苦しくたって背中を守ってくれてるのは心強いもんさ」
 輝かしい笑顔を振りまいているのは当摩彰人(ia0214)であった。
「顔馴染も居るし、新しい出会いもあった、これで何とか出来なきゃそりゃあ、嘘ってもんだ、そうだろ?」
「まあ油断は禁物だが‥‥」
 龍安家の兵士は唸るように言った。
「しかし破城槌とはまた面白いものを引っ張り出してくるじゃないか」
 儀助(ia0334)が言う。
「あんなものが徘徊しているとは‥‥攻城兵器とはねえ」
「龍安家のお抱え芸人として、本当は芸をしに来るんがええんどすが」
 首を傾げて華御院鬨(ia0351)が言う。先だって龍安家のお抱え芸人となった鬨である。
「まあいつか舞台があるとええどすなあ」
 鬨は言いながら丸太の運搬作業を進めていく。
「しっかしまたどえらいモンをだしてきやがったもんだ。仕事とは言え家臣なんだし、ちったぁ命賭けてみるとするかねぇい」
 龍安家家臣の百舌鳥(ia0429)は丸太を運び出しながら破城槌のアヤカシの方を見やる。
 龍安家に仕官‥‥ダメだな、仕える相手は決めている、と胸の内で呟くのは香坂御影(ia0737)。
「さて、僕の力でどこまで止められるものか分からないけど、岳天斉を討ち取りたいところだ」
 口に出しては胸のうちとは違っていた。
「今回は玲と一緒か! 心強いな! 前回は岳天斉を取り逃がしたからな! 今回こそは! 玲! よろしく頼むな」
 焔龍牙(ia0904)の言葉に滝月玲(ia1409)はにかっと笑って答える。
「任せておきな、と大層なことをいうつもりは無いが。龍牙さんには何かと因縁がありそうだな」
「あのアヤカシには前回逃げられている! 今回で決着をつけてやるさ!」
「気持ちは分かるつもりです」
 玲は言って戦場を見やる。数多の命が奪われた炎羅との戦いを無意味と言った岳天斉に怒り心頭していた。怒りを抑えながら、今は丸太の準備をしていく。
「破城槌のアヤカシなどというものは初めて見るが、アヤカシも多様化しておるようじゃの」
 輝夜(ia1150)は言って、敵勢の方に視線を向ける。
 そうして、丸太を運び出した開拓者や龍安兵は、アヤカシに向かってそれを解き放つ。果たして結果はいかに――。
「攻撃を開始するぞ!」
 龍安兵は丸太を次々と蹴り飛ばして落としていく。
「よし! 丸太を追うようにして全員突撃だ! アヤカシ戦士の陣形が崩れたところを、あの破城槌を叩き潰すぞ! 突撃! 白蛇様、参りましょう」
「アヤカシの陣形が崩れたら、両側から敵を攻撃するよ‥‥」
「はい――壱班、弐班、アヤカシが左右に分かれたところを攻撃します」
 二班に分かれた龍安兵は武器を構えると突進していく。
「んじゃ、俺たちも行くとするかね。みんな、俺も何か不安だけど、一つ頑張ってみるかね」
 百舌鳥の言葉に頷く仲間達。
 開拓者たちも突撃を開始する。

 ――アヤカシサイドでは、岳天斉が転がり落ちてくる丸太を見やり、兵士たちに怒鳴りつけていた。
「(押し返せ!)」
 アヤカシ兵士たちは咆哮すると、落ちてくる丸太を正面から受け止めるべく、立ちはだかる。

「‥‥アヤカシどもはよけぬようじゃぞ」
 輝夜の言うように、アヤカシ兵士たちは丸太を正面から受け止めると、持ち上げて投げ飛ばしてしまった。
 岳天斉の雄叫びが轟くと、破城槌アヤカシは突撃を開始して、アヤカシ兵士たちは開拓者たちに殺到してくる。
 彰人らサムライ達は咆哮を連発すれば、アヤカシ兵士たちは向きを変えて引き寄せられるように突撃してくる。
 破城槌アヤカシも突進してくる。
 岳天斉は背後で苛立たしげに地団太を踏んでいた。
「おのれ‥‥! サムライの術か!」
 すると、自らも戦場に足を踏み入れてくる。

「慌てずに‥‥予定通りアヤカシ戦士から撃破していくよ‥‥」
 白蛇は龍安兵に指示を出す。破城槌のアヤカシは若干遅れていた。
「承知しました。よし行くぞ!」
 龍安兵の壱班と弐班はアヤカシ兵士に向かっていく。

 鬨は風のように大地を駆け、アヤカシ兵士に向かっていく。
「うちの舞をご覧になりやさい」
 フェイントで切り掛かれば、アヤカシ兵士の鎧ごと刀身が貫通して肉が砕ける。
 怒り狂って絶叫するアヤカシ兵士の反撃を横踏で回避すると、鬨は舞うように刃を一閃した。
 雷光一閃、流し切り。アヤカシ兵士の首が吹き飛ぶ。
 百舌鳥も切り込む。最初の一撃でアヤカシ兵士の胴体が深々と切り裂かれる。反撃の一刀を回避すると、またしても重量級の一撃を打ち込んだ。
 アヤカシ兵士の絶叫が轟く。百舌鳥の青い瞳が氷のような冷たさを帯びると、踏み込んで刀を叩き込んだ。刀身がアヤカシ兵士を凄絶に切り裂き、敵は倒れる。
 アヤカシ兵士は憎しみの眼差しで百舌鳥を見つめていた。百舌鳥は容赦なくアヤカシの頭部に刀を振り下ろした。
「鬨、そっちは任せた」
 御影の言葉に、近くにいた鬨は頷く。
「任されやす」
「敵の総数は‥‥20近くか」
 御影は踏み出すと、裂ぱくの気合いとともに薙刀を振るう。薙刀の刃が易々とアヤカシ兵士の鎧を貫通する。敵の反撃は間合いを図りながら回避し、再び薙刀を打ち込んだ。ズン! と刃がアヤカシの肉体を貫く。そのまま「えい」っとばかりにアヤカシを投げ飛ばした。アヤカシ兵士はよろめきながら立ち上がると、雄叫びを上げて突撃してくる。再度気合いを込めて、薙刀を振り下ろした御影。刃はアヤカシの頭部を打ち砕いた。
「お前らの相手をしている暇はない! とっとと瘴気に戻りやがれ!」
 龍牙は言い放った直後にスキル炎魂縛武でアヤカシ兵士の肉体を切り裂いた。炎に包まれた刀身がズバアアアアアア! とアヤカシの肉体を打ち砕く。アヤカシ兵士は悲鳴を残して消失する。
「やる気満々だねえ。俺たちもしっかり答えないとな」
 玲はアヤカシ兵士を返す刃で粉砕する。瘴気となって霧散するアヤカシを見届け、破城槌アヤカシに目を向ける。
 例の破城槌アヤカシも、間近に迫っていた。開拓者たちはこれの撃破に向かう。
 御影は、前方に目をやる。岳天斉は、彰人が一人で食い止めていた。

「さてさて、このおっさんと雑兵共を何処まで食い止められるか、やってみなけりゃ分からないさ!」
 持ち前の明るさで笑顔を浮かべ、彰人は一人、後方から出てきた岳天斉に立ち向かう。仲間達が破城槌を撃破するまで。
「援護には行かせねえよ!」
 彰人は岳天斉と向き合う。その人型アヤカシは、黒い鎧に身を包んだ偉丈夫である。
「たった一人で俺様を止められると思うのか」
「やってみなけりゃ分からないだろ」と言ってみた。
 岳天斉は冷たく牙を剥くと、刀を抜いた。
 直後、大気が弾けた。岳天斉が加速したのだ。
「――!?」
 彰人は直撃を食らって吹き飛ばされた。
「無謀が過ぎたな小僧」
「まだまだ! 痛くない!」
 彰人は立ち上がると、岳天斉に討ちかかっていく。
 岳天斉は小馬鹿にしたように彰人の攻撃を跳ね返していく。
「馬鹿め!」
 岳天斉は鋭い突きを見舞う。ズン! と彰人の腹部に深々と刃が突き刺さる。見る間に血が溢れてきて、彰人は膝をついた。
「――神風恩寵!」
 直後、雛の精霊術が彰人を包み込む。風の精霊の癒しの力が彰人の傷を回復させる。
「大丈夫ですか、彰人のお兄ちゃん」
「雛! 助かったよ‥‥」
 彰人は立ち上がると、再び岳天斉の前に立ち塞がる。
「まだ、ここから先は通さないぜ!」
「大丈夫か彰人。ここからは僕も助勢する」
 そこへ御影が合流し、岳天斉と向き合う。

 ――破城槌の撃破に向かった開拓者たちは。
 儀助は炎魂縛武で破城槌の足に切り付ける。破城槌の外骨格ににょきにょき生えている足は意外に頑丈で、儀助の一撃に耐える。
 百舌鳥も側面から足を狙っていく。がしがしと足に攻撃を加えるが、何と破城槌アヤカシの肉体は意外に固い。
 龍牙は破城槌の周囲を回り、攻撃を叩き込んでいく。外骨格に刀を打ち込み、隙を伺う。
「汝の相手をしている暇は無いのでな、一気に行かせて貰う」
 輝夜は咆哮で破城槌の向きを変えさせようとする。長槍を振るって槌の本体に攻撃を加える。
 刹那――びゅん! と破城槌の槌の部分が旋回して輝夜を打ちのめした。ガキイイイイン! と輝夜は受け止める。10メートルもの槌の体当たりは中々に威力十分だが、輝夜の防備は鉄壁。
「やっ!」と両断剣を繰り出す輝夜。ザクッと破城槌の顔である狼頭が切り裂かれる。
 破城槌アヤカシは咆哮して、火を吹いた。
 と、白蛇が水遁の術で火炎攻撃を相殺しに掛かる。
 輝夜を包み込む火炎は威力が減衰して、負傷は無かった。
「いくら動き回ろうと槌は振り子だ、骨組みに惑わされず腕を断つぞ」
 玲は刀を鎖分銅に持替えると、破城槌の上部に絡ませる。
「よし‥‥!」
 玲は飛び上がると、再び刀に持替え、絡まった鎖にぶら下がり、槌を持っているアヤカシの手を狙い攻撃を行う。
 しかしこれが意外に固い。破城槌を持つ手は頑丈で、簡単に砕けるものではなかった。
「しぶといな‥‥」
 鎖にぶら下がりながら、腕に切りつける。
 それかれ儀助と百舌鳥は破城槌の足に向かって攻撃を繰り返し、輝夜と龍牙はアヤカシの槌本体を攻撃する。
 玲はよじ登って腕を打ち続けた。
 やがて、頑丈で巨大な破城槌の肉体にほころびが生じ始め、アヤカシのそこかしこから血が流れ出してぼろぼろになっていく。
 そうして、最後には集中攻撃を受けた破城槌のアヤカシは、遂に崩れ落ちて黒い塊となり、瘴気に還元した。
「意外に手こずった、彰人と御影らに負担が掛かっておろう」
 輝夜の言葉に一同岳天斉の方へ走る。

 ――ドゴオオオオ! ドゴオオオ! と彰人と御影は吹き飛ばされた。
 仁王立ちの岳天斉は、余裕の笑みで二人を見下ろす。
「さて‥‥お遊びはこれくらいにして、さっさとお前達を片付けねば‥‥ぬっ!?」
 岳天斉の表情が変わった。開拓者たちが次々と岳天斉の目の前にやってくる。
「破城槌は‥‥倒れたか‥‥!」
 うめくような声を上げる岳天斉。
「そんな所で高みの見物とは余裕だな! この前の借りは返させてもらうぞ!」
 龍牙は言って、剣気を岳天斉に叩き付けた。
 岳天斉はじりじりと開拓者たちと距離を保つ。
「恐怖? 絶望? どうせすぐに逃げ出すアヤカシ風情がよく言うわ」
「動くなッッッ!!!!!」
 輝夜と百舌鳥、御影らが咆哮を叩きつける。
「ぬう‥‥! 何!?」
 岳天斉の足が止まる。効いたのは輝夜の咆哮。引き寄せられる岳天斉。
「馬鹿な! この俺様の足を止めるなど‥‥あり得ん!」
「黙れ! 戦いに散った者達を無意味呼ばわりしたお前を絶対に許さないっ」
 玲は沸騰する怒りを解き放って、刀を持ち上げた。
 岳天斉を取り囲む開拓者たちは集中攻撃を浴びせかける。
 彰人が両断剣を繰り出せば岳天斉は受け止めたが、すぐに別方向から儀助が炎魂縛武を叩き込む。ザクッと切り裂かれる岳天斉の肉体。
「まあどこまでやれるか‥‥」
 百舌鳥は刀と木刀の二連撃を叩き込む。ドゴオオオ! ドゴオオオ! と連撃が岳天斉の肉体にめり込む。
「おのれ‥‥こんな雑魚どもに!」
 岳天斉は取り囲まれて集中攻撃を受ける。
「地奔!」
 御影は薙刀を逆袈裟に振り上げ、岳天斉を切り裂く。ズバッと岳天斉の鎧が吹き飛んで血飛沫が舞い上がった。
「これでも喰らえ! 『焔龍の牙』の一撃を!」
 龍牙の炎魂縛武。ザシュウウ! と刀身が岳天斉を切り裂いた。
「どうやら墓場が見えてきたようじゃの岳天斉――」
 輝夜は両断剣を打ち込む。ズドオオオオ! ズドオオオオ! と槍が岳天斉の肉体を貫通した。
「はあああああああ! 食らえ炎魂縛武!」
 玲の一撃が岳天斉を切り裂く。
「ち、畜生! 雑魚相手に俺が‥‥!」
 岳天斉は刀を振るう。苦し紛れの攻撃でも確かに強い。一対一なら圧倒的なパワーで開拓者を打ちのめすだろう。
 百舌鳥と儀助が吹き飛ばされるが、開拓者たちの攻撃は続く。
 囲まれてはさすがのアヤカシリーダーが立て続けに打ちのめされる。
 百舌鳥、儀助、彰人、輝夜、御影、龍牙、玲たち――力を付けたつわもの達が岳天斉に確実に打撃を与えていく。
 咆哮の呪縛から解放されて逃走を図るが、再び開拓者たちは咆哮で岳天斉を足止めし、遂にこのアヤカシリーダーに止めを差す。
 全身をずたぼろにされ、貫かれた岳天斉は、最後に不敵な笑みを浮かべ、「我々は不滅だ」と呪詛の言葉を残して崩れ落ちたのである。
 こうして、岳天斉は討伐され、アヤカシ勢は撃破されたのであった。

 ‥‥鳳華首都の天承。
 城を訪れた開拓者たちは、龍安家に岳天斉撃破の知らせを持っていく。龍安弘秀は驚いた様子で開拓者たちを出迎えた。
「そうか、あの岳天斉を倒したか‥‥これで民の脅威が消え去るわけでは無いが」
「本当に鳳華はよぉ、アヤカシが攻めてきはるなぁ。何か呪いの類でもかかってるんやないどすか」
 鬨は疑問に思った感想を云う。
「確かに‥‥この地は呪われている‥‥というつもりは無いがなあ。東の魔の森が無ければな」
 弘秀は言って白い歯を見せた。
 岳天斉撃破の功績を持ち帰った玲は、仕官の話しを受けることにする。無功で仕官する気は無かった。
「己を磨くいい機会かも知れないな、よろしく頼む」
 それから、白蛇は城内で龍安家のシノビの頭領赤霧を訪ねる。
「赤霧、最近‥‥炎羅軍残党も出始めてる様子‥‥姦計に長ける狐妖姫とか‥‥実は生きてる噂がありそうだし‥‥何かアヤカシに兆候はないかな‥‥」
 赤霧は思案顔で白蛇を見やった。
「狐妖姫が? そいつも物騒な噂だな。尤も、物騒な噂ならこの時世こと欠かないが。またぞろアヤカシが動き出しているという話しは、噂程度にはあるがなあ‥‥」
 白蛇は、その後赤霧からアヤカシに関する各地の情報を聞く。