【天龍】鳳華の戦い3
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/16 23:27



■オープニング本文

 天儀本島、武天国――。
 武天のおよそ中心近くにその場所はあった。武天の新興勢力である武力一族、龍安家が治める土地、その土地を鳳華と言った。
 この土地もまた、アヤカシの脅威に晒されており、サムライの氏族である龍安家が東の大樹海から出没するアヤカシ勢と日常的に交戦状態にあった。今、ここ鳳華においても、開拓者たちの物語が始まろうとしていた‥‥。

 鳳華首都、天承――。
 ゴオオオオオオオオオ‥‥と発着場に巨大な飛空船が舞い降りてくる。大型飛空船は天儀本島の主要都市を繋ぐ定期便であり、大都市には二、三日に一度は通じている。
 多くの人々が船のタラップから下りてくる。依頼を受けてやって来た開拓者達は飛空船の旅路を終えて、鳳華の土を踏む。
「ここが鳳華か‥‥」
 見渡せば、港は雑踏と喧騒に包まれている。雑多な人々が行き交い、活況を呈している。
 天承の中心に向かって進めば、立派な巨大な城がそびえ立っているのが見える。
 城下町を行き交う人々の中にも同業者がいるらしい。開拓者らしき者たちとしばしばすれ違う。
 一見平和に見える城下町に、武装した兵士が町のいたるところで見られる。どこか物々しい雰囲気だ。ここ鳳華はアヤカシとの激戦区で、龍安家はそれなりに大きな武力を持っていた。反面治安は良いとは言えず、慢性的にアヤカシの攻撃に晒されてもいた。
 開拓者達は龍安家から依頼を受けて鳳華を訪れたのであった。依頼内容はアヤカシ退治ということだ‥‥。
 そのままメインストリートを進むと、表通りは明るく賑わっていて、市や店が軒を連ねる。
 そうしてあなた達は、天承の中央にある城を訪ねる。そこに、あなた達を神楽から呼んだ依頼主、龍安家頭首の若きサムライ龍安弘秀がいた。

「――良く来てくれたな。まあ楽にしてくれ」
 弘秀は言って、にかっと笑った。開拓者達が通されたのは城内の一室で、客人を迎えるために置かれた簡易の来賓室であった。ぜんまい時計が所狭しと並んでおり、棚や壁に数々の時計が設置されていた。時計のぜんまいを巻く係りによって城内の時間は管理されていた。
 侍従が室内に入ってくると、お茶を用意して開拓者達の前に置いて、ぺこりと頭を下げて部屋を出て行く。
 何ゆえこれだけの時計が並んでいるかは謎だが――室内にはもう一人、年の頃二十代のサムライがいた。どこか冷たい印象を与える青年。名を大宗院九門と言い、龍安家の筆頭家老であった。弘秀の幼馴染でもある。その大宗院は開拓者たちを鋭い視線で見据えると、口を開いた。
「よく来てくれた。ここ鳳華は武天の中でもアヤカシとの激戦区でな。お前達を呼んだのは他でも無い、最近領内で動きが活発になってきたアヤカシ退治を頼みたい。緑茂の里における神楽の開拓者達の戦いぶりは、我々も聞いている。大アヤカシを倒したそうだな‥‥」
 大宗院は思案顔で開拓者達を見つめる。内心は驚いていたのだ。
「我々はこれまでにも神楽の開拓者の力を借りてきた。そして、開拓者の中でも我が家に尽くしてくれた者には、望むなら我が家の家臣として取り立ててきたくらいでな」
 大宗院は開拓者達に告げると、龍安家は目下のところ開拓者からも家臣を募っていることを告げる。開拓者は基本的に神楽の都に住んでいるのだが、有事の際に兵隊を任せたり出来る者を常に集めているという。
「まあ、こいつの言う仕官の話は心に留め置いてくれ」
 弘秀はそう言って、持っていた時計を棚に戻した。
「今回頼みたいのは、鳳華南部の村を壊滅させたアヤカシ首領、“加具羅”の討伐だ」
 弘秀はそう言うと、一転真面目な顔で開拓者たちにアヤカシの情報を伝える。

 鳳華南部、件の農村――。
 アヤカシ加具羅は交戦的な性格であった。炎に包まれた巨人の姿をしており、最前線に立って部下のアヤカシたちを鼓舞していた。
「人間どもよ、絶望に嘆くがいい。お前達の苦悩や怒り、悲しみが我々の糧となる。鳳華を覆う暗雲は晴れぬわ。お前達に民を救うことは出来ぬ。せいぜいあがくが良い」
 加具羅の挑戦的な言葉に高ぶる気持ちを抑える龍安家の戦士たち。
「ぬう‥‥何とかアヤカシのもとから民を救出しなければ‥‥」
 状況は膠着していた。村人が人質にされ、加具羅は龍安兵に降伏を呼びかけていた。龍安兵が人質の解放を呼びかけると、加具羅は見せしめに民の首を切り飛ばした。
 このいかんともし難い状況の中、神楽から呼ばれた開拓者たちが駆けつける。かくしてアヤカシ首領、加具羅との戦いが始まったのである。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
鳴海 風斎(ia1166
24歳・男・サ
千王寺 焔(ia1839
17歳・男・志
辟田 脩次朗(ia2472
15歳・男・志
朧月夜(ia5094
18歳・女・サ
魁(ia6129
20歳・男・弓
柊 かなた(ia7338
22歳・男・弓


■リプレイ本文

 開拓者達が到着したが、龍安家の兵士たちの表情は重い。人質を目の前で殺され、かつ救う手立てが無い。
 村から一旦距離を保ち、開拓者達と兵士たちは体勢を立て直す。
「アヤカシは人質の命を消耗する事に躊躇がありません。人質はこちらに怒りや悲しみ、焦りを与える為の材料でしかないのです」
 辟田脩次朗(ia2472)の言葉は、兵士たちに重くのしかかったが、恐らくそれは正鵠を射たものであったろう。緑茂の戦いで大アヤカシと戦った開拓者達は、アヤカシとは恐怖や怒りと言った負の力で強化されることを知る。
 一刻の猶予もならないことは明々白々であった。加具羅は時間が経てば人質を亡き者にしていくであろう。
 人質の側にはアヤカシ兵士が10体近くいて、いつでも人質を攻撃出来る状態にあった。加具羅も今はそこにいて、龍安兵の出方を伺っているのか、時折人外の言葉で怒鳴る声が響いてくる。
 村の周辺には残りのアヤカシ兵士が一応の警戒に当たっていて、歩き回っていた。
「人質の近くにいるアヤカシさえ引き離すことが出来れば‥‥ひいなたちの勝機はそこにあると思います」
 小さな開拓者の少女鈴梅雛(ia0116)は、龍安兵からの話を聞いて、仲間達の顔を見渡す。
「敵を人質から引き離して、包囲殲滅する‥‥難題だけどやるしかないわねえ」
 葛切カズラ(ia0725)の言葉に一同思案顔で頷く。
 開拓者たちはこのいかんともし難い状況の打開に、村を包囲して、奇襲攻撃を仕掛けると言う策を取る。
「奇襲攻撃‥‥村を包囲した上でのことでござるか」
 龍安兵たちがはっとしたように顔を上げる。
「悪く無い策だろう」
 龍安家家臣の焔龍牙(ia0904)は、言って兵士たちに指示を出す。
「龍安兵サムライの半数は魁(ia6129)さんと柊かなた(ia7338)さんとともに行動し、弓による遠距離攻撃でアヤカシ戦士と加具羅の注意を引き付けてくれ。攻撃対象は魁さんと柊さんに従うこと」
「はっ‥‥承知いたしました」
「射撃が終了次第、得物を持ち替えて対アヤカシに参加してくれ。残り半数は森に向けて、人質の退路を確保してくれ、人質が狙われると厄介だからな」
 龍牙はサムライ達を見やり、思案顔で説明する。
「シノビは先に早駆で人質前にいき、水遁などでボスアヤカシを翻弄してくれ。陰陽師と巫女は、それぞれに分かれて各部隊を支援してくれ。無理はするな」
「そは申されましても、民のために命を張るは我らが務めにございます。万が一倒れた時は‥‥お屋形様によろしくお伝え下さい。我らも決死の覚悟で臨みます」
「生きろ。弘秀様もそう望んでいるだろう」
 龍牙は力強く兵士たちに言って聞かせる。
「そう悲観したものでも無いぞ。雑魚どもを引き付けるのは任せてもらおう。雑魚を足止めするのはそう難しいことではないと思うが‥‥」
 柳生右京(ia0970)は言った。この男の実力は確かに龍安兵の及ぶところではないのも事実である。
「雑魚の引き付けは僕と柳生君に任せてもらいましょうか。龍安のみなさんは焔君の指示通りに動いて頂ければと思いますね」
 言って刀の柄を握り締める鳴海風斎(ia1166)。全然見知らぬ人でもアヤカシに殺されるのを目の当たりにすると腹が立つ。種族としての仲間意識からか、それとも自身の無力さを痛感するからか。奪われまいと咆哮するほど自身を危地へ追い込む。だが、それも良いと思った。
「包囲作戦を仕掛けるのなら、まずは見つかることなく所定の位置につくことだ。くれぐれも慎重にな」
 千王寺焔(ia1839)が言うと、脩次朗も頷く。
「龍安兵の方々は人質周辺のアヤカシへの陽動と退路の確保の徹底。我々開拓者は陽動に合わせて村に突入、人質に被害が出ないことを祈りましょう。加具羅がこちらの策を看破していればそれまでですが‥‥」
「なぁ焔。俺たちには俺たちの帰りを待つ大切な人がいる。2人揃って笑ってただいまと言えるように頑張ろう」
 朧月夜(ia5094)はそう言って、千王寺の肩を叩いた。
「ああ。珠光には心配を掛けるがな‥‥」
 千王寺は言って、遠くを見つめる。吐息すると、目の前の戦いに集中する。
「人質がいる以上気楽にとはとてもいえねえけど、肩に力が入りすぎてもあれだしな。落ち着いて行こうぜ」
 魁は言って、びいんと弓の弦を引いた。この男、この戦いが初陣だったが、大した落ち着き様である。
 ――人質の命が優先か。正直そんなことはどうだって良い。確かに人質の救出が依頼の成功条件ならば人命は最優先される。でも今回の依頼内容は「加具羅の討伐」だ。人質に関しては何も言われていない。そう。私にとっては報酬さえ貰えればそれで良いのだ‥‥。
 柊は胸の内で呟いたが、表には出さなかった。相談で人命優先と決まったのだからそれに従うつもりであった。
 合図の鏑矢を手に、村の方角を真紅の瞳で見つめる。
 開拓者と龍安兵は、どこから攻撃を仕掛けるか、綿密な打ち合わせを行うと、村を包囲する位置に付いていく。
 
 ‥‥アヤカシ首領、炎に包まれた巨人戦士加具羅は、村人を見つめながら鎮座していた。苛烈な炎を宿した瞳が民を見据える。
「‥‥人間どもの焦りが手に取るように伝わってくるわ。奴らの苦痛が、苦しみが、我らの糧となる。いずれ民は皆殺しに‥‥龍安の者どもの苦しみが、この鳳華を多い尽くす時も、そう遠いことではない」
 加具羅は全くの余裕であった。自身が負けるはずは無い、この状況で龍安家の兵士たちが突撃してくるはずは無いと、高を括っていたのであった。

 草むらから、柊は顔を出した。サムライ達と魁に合図を送ると、射撃体勢に入る。
 サムライは、懐の懐中時計を取り出して柊に頷いてみせる。
「時間でございます」
「では‥‥作戦開始と参りましょう」
 柊は鏑矢を天に向かって放った。
 空気を震わせる矢の一撃が、村の沈黙を破った。

 ‥‥オオオオオオオオオ‥‥オオオオオオオオオオオオ!
 と鳴海と柳生の咆哮が村の大気を震動させる。ことごとく直撃を受けたアヤカシたちが怒りの声を上げて鳴海と柳生の方へ向かって動き出す。
「ぬう‥‥! 何だと‥‥! これほどの威力の雄叫びを‥‥! 馬鹿な‥‥!」
 何と加具羅ですら突き動かしたのは、柳生の超威力の咆哮だ。
 アヤカシ全軍が柳生と鳴海の方へ向かって移動を開始する。
 柊と魁、サムライたちは予想外のアヤカシ全軍の動きに、その場から身を乗り出して村の中へ突入する。
「まさか‥‥全軍一斉に動き出すとは‥‥! 行きましょう!」
 柊はサムライと魁とともに前進し、アヤカシへの攻撃を開始する。

 早駆で潜行していたシノビは、恐怖で身動きできない民人たちを叱咤する。加具羅を牽制するはずが、咆哮で加具羅まで引き寄せてしまった。予定とは違う加具羅の動きは幸いだが、開拓者達の意表を突く。
「おい! 逃げるぞ! アヤカシは開拓者達が引き寄せている! 全員立ち上がれ! 森に向かって走るんだ! 急げ!」
 民の間にざわめきが走る。
「何と‥‥助けが来たぞ!」
「急げ! 逃げるぞ!」
「走れ! 森へ逃げ込め!」
 村人達は立ち上がると、我先にと森に向かって走り出した。

「ここまでの威力があるとは‥‥仲間ながら感心するな」
 千王寺は突撃してくる加具羅に向かって相対する。
「やるな柳生か鳴海か、加具羅までも突き動かすとは、加具羅が大したことが無かったのか、仲間が凄いのか‥‥」
「行くぞ朧月夜! 一瞬隙を作ってくれ! 紅蓮紅葉を叩き込む!」
「任せておけ。加具羅に一泡吹かせてやろう」
 千王寺と朧月夜はひときわ大きな巨人戦士に立ち向かっていく。
「加具羅よ。今回はおまえが俺の槍の錆となるがいい!」
 朧月夜は槍を上段に構えると、ぶうんと一振りして加具羅に突き入れた。
「小賢しいわ!」
 加具羅は刀で跳ね返すと、拳を朧月夜に叩き込んで来た。
 ズウン! と凄まじい怪力に受け止めた朧月夜の足が地面に沈み込む。
「さすがに化け物じみた力だな」
 千王寺の二刀が空を駆け抜ける。紅蓮紅葉、武器が赤い燐光をまとい、紅葉のような燐光が舞い散る。
「民の痛みを受けよ、加具羅」
 ドゴオオオオオ! ドゴオオオオオ! と紅蓮紅葉の衝撃が加具羅を襲う。
「ぬう‥‥! 人間ごときが! 緑茂の炎羅を倒したのは偶然では無いというのか!」
 加具羅は豪腕を振るって大刀を叩きつける。今度は凄まじい衝撃が来て、千王寺は吹き飛ばされた。
「焔さん、大丈夫ですか」
 雛は転がる千王寺に駆け寄る。
「ああ、やっぱりとんでもない怪物だ。ここまでの一撃を食らうとは‥‥」
 切り裂かれた千王寺の胸から血が流れ落ちている。
「まだやれるが。深手の時はよろしく頼む」
「はい。ひいなも精一杯頑張ります」
「行くぞ!」
 千王寺は加具羅に向かって突進していく。

「――さあこっちだ! 逃げ遅れた者はいないか!」
 森への退路を確保したサムライ達は民を保護する。
「急げ! 全員森へ! 森へ駆け込め!」
 民は次々と森へ逃げ込んでいく。

「‥‥意外なまでの効果だが、民を確保できたのは幸いか‥‥」
 龍牙は鳴海と柳生の方へ向かっていくアヤカシ戦士を追いかける。
「行くぞ! アヤカシども! どこを見ている、俺が相手をするぞ」
 龍牙はアヤカシの背後から切り掛かった。ドズバアアアアアアア! とアヤカシの胴体が吹き飛んだ。続く一撃で、アヤカシ戦士の肉体が真っ二つに切り裂かれる。崩れ落ちたアヤカシ戦士は見る間に黒い塊となって瘴気に還元する。
 長大な残馬刀の一撃を振るうは柳生。黄金の瞳が冷徹、無慈悲な光を帯びる。柳生の豪腕に操られた残馬刀の恐るべき一撃の前に、アヤカシ戦士は次々と消滅していく。荒れ狂う暴風のようにアヤカシ戦士に殺到し、一撃のもとに粉砕していく柳生。突撃してくるアヤカシ戦士を次々と撃滅していく。
 鳴海は太刀を大地に叩きつける。大地を切り裂く衝撃波、地断撃。凄絶な一撃が大地を切り裂き、アヤカシを切り裂き吹き飛ばした。迫り来るアヤカシの群れに、回避行動を取り反撃していく。
 ――ギュウウウン! と迫るアヤカシ戦士の刃を見極めて回避する。反撃の一撃はアヤカシの頭部を打ち砕いた。
「殺、す‥‥殺、す‥‥」
 よろめくアヤカシ戦士は憎悪の瞳で鳴海を睨みつける。
「眠れ、永久に」
 鳴海はアヤカシの胴をなぎ払った。ザン! と吹き飛んだアヤカシの肉体、倒れ伏して瘴気となって霧散する。成敗! でスキル回復。
 脩次朗は炎魂縛武から篭手払、巌流でアヤカシ戦士を叩き斬る。撃ち漏らしたアヤカシを確実に仕留めていく。
 カズラは陰陽師たちと協力して支援攻撃。尤もカズラの一撃は支援攻撃の域を抜きん出ていて、アヤカシ戦士には一撃必殺の破壊力である。
「王道展開なだけに気を抜けないのよね!  急ぎて律令の如く成し、万物尽くを斬り刻め! 打て、砕け、狩猟の王が魔弾の如く、霊魂砲発射」
 霊魂砲――霊魂型の式が弾丸のように飛んで行き、アヤカシ戦士の肉体を貫通する。――ズキュウウウウウン! ズキュウウウウウン! と霊魂砲がアヤカシ戦士を打ち砕いていく。

 ――合流を果たした龍安兵とともに、アヤカシ戦士を撃破していく開拓者達。
「‥‥どうやら、民は無事に確保できたようですね。作戦が無事に運んで何よりですが」
 アヤカシに矢を放ちながら、柊は戦場を見渡す。ズキュウウウウウウン! と放たれた矢がアヤカシ戦士を打ち抜いていく。
「すげえなあ‥‥まあ熟練者にはかなわねえが、露払いくらいはやってやるぜ」
 魁も矢を放ちながら、武者震いを起こしていた。初めての戦場の空気が感情を激しく揺さぶる。

 ――ドゴオオオオオオ! と千王寺と朧月夜が吹き飛ばされた。雛が回復に駆け寄る。
「‥‥拙い‥‥何と言うことだ‥‥! こうもしてやられるとは‥‥甘く見すぎたか‥‥!」
 加具羅は千王寺と朧月夜を見下ろし、一歩後退する。
「雑魚かと思ったが、そこそこ出来そうだな。それでこそ依頼を請けた甲斐があるという物だ」
「――?」
 加具羅が振り向いた先に、残馬刀を担いだ柳生がいた。金色の瞳で加具羅を見据える。
「そう簡単にやれると思うな! この俺!『焔龍』が相手だ、覚悟を決めろ!」
 龍牙が刀を一閃し、真紅の瞳でひたと加具羅を睨みつける。
 加具羅は逃走を図るが、背後から千王寺と朧月夜が斬撃を叩きつける。
「ぬう‥‥!」
 大刀を振りかざす加具羅にカズラが隷役を使用し斬撃符を、右膝、左膝、首に3連打で叩き込んだ。鏃に変化した凄まじい破壊力のカマイタチが加具羅を切り裂いた。この巨人アヤカシの肉体が吹き飛ぶ――。
「これでも喰らえ! 『焔龍の牙』の一撃を!」
 炎魂縛武を加具羅の足に打ち込む龍牙。ドゴオオオオ! と金棒のような足に強烈な一撃が打ち込まれる。
「ぬうああ!」
 殺到してくる開拓者達をなぎ払う加具羅。
「この一刀にて塵に還るがいい」
 柳生は残馬刀で加具羅の足を打ち砕いた。金属的な破砕音が鳴り響いて、加具羅の足が吹き飛んだ。
「何!」
「さすがに頭なだけあって強いな。だが、いつまで耐えられるかな?」
 朧月夜は槍を突き入れる。
 片足で応戦する加具羅だが、遂にはバランスを崩して巨体が倒れる。
「く、はは‥‥殺せ、殺すがいい! 我が肉体滅びようと、瘴気は消えぬ。我々は不滅だ――!」
 その頭部を柳生が打ち砕いた。
 加具羅の肉体はゆっくりと崩れ落ちていき、瘴気に還元した。
「くっ、俺たちがもっと早く来ていれば」
 千王寺は最初に犠牲となった民を思い、加具羅が消えた跡に目を落とした。
 その後、雛は亡くなった民の墓に手を合わせると、立ち上がる。

 ‥‥戦闘終結後、開拓者達は首都の天承に立ち寄る。
 この依頼で、何人かが龍安家からの仕官の話を受け入れる。雛に柳生、脩次朗、朧月夜、魁、柊だ。
「受けてくれるか。では、今後の働きに期待するぞ」
 龍安弘秀は言って、新たに家臣となった開拓者達を見つめる。
 雛は弘秀にぺこりと頭を下げる。
「‥‥ここなら退屈は無さそうだ。よろしく頼む」
 柳生の金色の瞳がきらりと輝いた。
 脩次朗は依頼の結果次第では浪人となる覚悟でもあったのだが、無事に龍安家の家臣となる。
 朧月夜は是非にと頼まれこともあり仕官を受けることを決める。
 魁は実際初陣の開拓者であったが、龍安家は熟練者だけを家臣として抱えているわけでもないのだ。
 柊は条件を出した。ちゃんとした――少なくとも今のボロ屋よりましな――住まいが貰えるのなら喜んで受けると言った。「私の為ではなく弟の為にです」と。
 弘秀は、それならば家臣用の住まいを用意すると言った。龍安家が家賃の半分を出して貸し出している住まいである。長屋から一戸建てまであるので好きな場所を選んで欲しいと。
 柊は武天の特産でもある猪肉の燻製の固まりを土産に、その知らせを持って弟のもとへ帰ることになる。