【天龍】鳳華の戦い
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/07 23:52



■オープニング本文

 天儀本島、武天国――。
 武天のおよそ中心近くにその場所はあった。武天の新興勢力である武力一族、龍安家が治める土地、その土地を鳳華と言った。
 この土地もまた、アヤカシの脅威に晒されており、サムライの氏族である龍安家が東の大樹海から出没するアヤカシ勢と日常的に交戦状態にあった。今、ここ鳳華においても、開拓者たちの物語が始まろうとしていた‥‥。

 鳳華首都、天承――。
 ゴオオオオオオオオオ‥‥と発着場に巨大な飛空船が舞い降りてくる。大型飛空船は天儀本島の主要都市を繋ぐ定期便であり、大都市には二、三日に一度は通じている。無論天儀の空を飛ぶのは王国の船ばかりではなく、一般の商船も存在するが。
 開拓者達の一団が多くの人々とともに船のタラップから下りてくる。
「ここが鳳華か‥‥」
 今、あなた達は鳳華に到着した。
 見渡せば、港は雑踏と喧騒に包まれている。雑多な人々が行き交い、活況を呈している。
 天承の中心に向かって進めば、立派な巨大な城がそびえ立っているのが見える。
 城下町を行き交う人々の中にも同業者がいるらしい。開拓者らしき者たちとしばしばすれ違う。
「何か、物々しい雰囲気だな」
 一見平和に見える城下町に、武装した兵士が町のいたるところで見られる。
 ふと路地に目を向ければ、暗がりからこちらの様子を伺っている男達と目があった。流れ者達だろうと推測がつく。
 そのままメインストリートを進む。表通りは明るく賑わっていて、市や店が軒を連ねる。
 そうしてあなた達は、天承の中央にある城を訪ねる。そこに、あなた達を神楽から呼んだ依頼主、龍安家頭首の若きサムライ龍安弘秀がいた。

「――まあ楽にしてくれ」
 弘秀は言って、にかっと笑った。弘秀は急逝した二代目を継承して頭首の座に就いた。豪胆な性格で家臣たちから恐れられている。尤も家人としては鬼嫁に手綱を握られているとか‥‥。
 室内にはもう一人、年の頃二十代のサムライがいた。どこか冷たい印象を与える青年。名を大宗院九門と言い、龍安家の筆頭家老であった。弘秀の幼馴染でもある。
 続いて口を開いたのは大宗院であった。
「ここ鳳華は武天の中でもアヤカシとの激戦区でな。お前達を呼んだのは他でも無い、最近領内で動きが活発になってきたアヤカシを退治してもらいたい。緑茂の里における神楽の開拓者達の戦いぶり、ここ鳳華にも聞こえている。我々はこれまでにも神楽の開拓者の力を借りてきた。そして、開拓者の中でも我が家に尽くしてくれた者には、望むなら我が家の家臣として取り立ててきたくらいでな」
 大宗院はあなた達に告げると、龍安家は目下のところ開拓者からも家臣を募っていることを告げる。開拓者は基本的に神楽の都に住んでいるのだが、有事の際に兵隊を任せたり出来る者を常に集めているという。
「まあ、こいつの言う仕官の話は心に留め置いてくれ。今回は、東の大樹海から出現して近隣をアヤカシの兵隊で制圧しているアヤカシ首領、“岳天斉”討伐を頼みたい」
 弘秀はそう言うと、一転真面目な顔で開拓者たちにアヤカシの情報を伝える。

 東の大樹海――。
 鳳華の東方を覆う大樹海である。魔の森で、大アヤカシの存在は未確認だが、鳳華を襲うアヤカシ勢力の大半はここから生まれ出ていた。
 岳天斉は最近になって鳳華東方の村や町をしばしば襲撃して被害を拡大していた。黒い鎧を身にまとった巨漢の人型アヤカシである。残酷な性格で、すでに討伐隊の第一陣は壊滅的な打撃を受けた。十名の討伐隊は龍安家のサムライたちや開拓者傭兵であったが、岳天斉とアヤカシ兵の前に半数近くが食い殺された。残りの半数は岳天斉が自身の恐怖を鳳華に広めるため、逃がしたという。
「さて‥‥そろそろ次なる狩りの時間だ。行くぞ。この鳳華に岳天斉ありと、終わりなき恐怖を与えてやろう」
 そして岳天斉は立ち上がると、魔の森から動き出した。
 討伐に向かったあなた達のもとへ、岳天斉とアヤカシの兵士が村を襲っているという報告が入ってきたのは、それから間もなくのことであった。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
朔夜(ia0256
10歳・女・巫
アルカ・セイル(ia0903
18歳・女・サ
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
神無月 渚(ia3020
16歳・女・サ
月(ia4887
15歳・女・砲
各務原 義視(ia4917
19歳・男・陰
海神・閃(ia5305
16歳・男・志
神鷹 弦一郎(ia5349
24歳・男・弓


■リプレイ本文

 村は予想通りパニックに陥っていた。アヤカシ兵士が村人達を捕まえては放り投げ、戯れに民に狼藉を働いていた。
 それを後方で眺めやる巨漢のアヤカシ戦士あり。黒い鎧に身を包んだ人型アヤカシ、岳天斉であった。
「行くぞ!」
 開拓者達は突進すると、格闘戦技に長けたサムライや泰拳士が民との間に割って入る。
 アルカ・セイル(ia0903)は禁じ手の拳でアヤカシ兵士を吹き飛ばすと、民を後ろに押しやった。
「龍安家の依頼を受けてきたもんだ。早く逃げろ」
「あ、ありがとうございます!」
 民は転がるように逃げ出した。
「あの黒い鎧をまとった巨漢戦士‥‥あ奴が岳天斉です」
 龍安家のサムライは、刀でアヤカシボスを指し示した。
「あいつが‥‥よし、岳天斉を止める連中は付いて来い! 村人が逃げる時間を稼ぐ」
 アルカの言葉に頷く。朔夜(ia0256)、焔龍牙(ia0904)、神無月渚(ia3020)、滋藤御門(ia0167)。
「アヤカシなんかより人を斬りたいなあ‥‥はあ‥‥」
 ため息を漏らす渚。この少女、実は元辻斬りだ。
 五人の開拓者達は岳天斉に向かって動き出す。
 それと平行して、神鷹弦一郎(ia5349)と各務原義視(ia4917)、龍安家のサムライ3人と傭兵6人全員でアヤカシ兵士の抑えに回る。
「アヤカシ兵士たちはあちこちに分散しているぞ、厄介な状況だが、民を後方へ送りながら奴らを潰していくしかない」
 義視の言葉に弦一郎は頷いた。
「まずは目の前の敵か‥‥好き勝手はさせん‥‥」
 龍安のサムライは厳しい顔つきだ。
「では参るとしましょうか。何とかこ奴らを倒して、岳天斉の首を上げねば‥‥お屋形様のもとへは戻れませぬ!」
「合力し合えば必ず天は答えてくれる」
 義視はすっと手を差し出し、式の召喚体勢に入りつつ前進する。

 残る鈴梅雛(ia0116)と月(ia4887)、海神・閃(ia5305)に龍安家のサムライ2人は、ひとまず民の避難誘導に当たる。前衛の仲間達がアヤカシとの戦闘に入るのと入れ違いに、送り出されてくる民の護衛に当たる。
「お助けを!」
 転がるようにやってくる村人。
「大丈夫です。怪我はありませんか」
 雛は民の様子を見やりながら気遣う。
「あっしはどこも‥‥」
 そう言っていた男の体は、ざっくりと切れていた。手に付いた大量の血を見て仰天する。
「う、うわ! こんなに血が出てる!」
「落ち着いて下さい。雛が直します」
 神風恩寵で男の怪我を回復する。爽やかな風に包まれて男は落ち着きを取り戻す。
「こ、これは‥‥神官様の術‥‥」
「雛は巫女ですから」
 ――ガアアアアアア!
 はっと雛が顔を上げると、海神がアヤカシ兵士と戦っていた。
「慌てず着いて来て下さい! アヤカシは僕達が近寄らせませんから!」
 海神は民を庇って、刀を持ち上げる。これが初依頼の海神。怖いけど自信を持って言わないと‥‥そうでないとみんなを不安にさせるだけだから。分不相応な事は言いたくはないけど、虚勢が必要な時もある。今がそのときだ。
「志士、海神・閃! いざ参ります!!」
 アヤカシ兵士は素早く切りつけてくる。ガキイン! と海神は何とか受け流しで跳ね返した。続く一撃も何とか跳ね返す。
「さ、早くあなたは後ろへ! 逃げて下さい!」
 民を何とか逃がす海神。
 そこへ龍安家のサムライが支援する。
「海神殿、助太刀いたす」
「あ、ありがとうございます! さすがに手強いですね‥‥こんなアヤカシが何十体もいるなんて」
「来ますぞ!」
 アヤカシ兵士が疾風のような一撃を繰り出してくる。海神は直撃を受けて斬られた。
「く‥‥まだまだ! 民の痛みはこんなものじゃない!」
 海神は反撃の一撃を叩き込んだ。ザシュ! とアヤカシ兵士の肉体が切り裂かれる。
「ぬうううああ!」
 サムライが踏み込んで上段から切りつけると、ズバアアアアア! とアヤカシが切り裂かれる。
「ボクも、きっといつかみんなのように‥‥」
 海神は無我夢中で刀を叩き込んだ。ドズバアアア! とアヤカシの腕が吹き飛んだ。
「や、やった‥‥!」
 恐れをなして、アヤカシは逃走する。
 月もまたアヤカシ兵士と相対しつつ民を逃がす。
「ふむ‥‥多いな‥‥」
 逃げてやってくる民を後ろに送り出して、アヤカシとの間に割って入る。
「大丈夫か? ほら、掴まれ」
 地面に這いつくばっている老人を引っ張り上げると、近くの村人を呼ぶ。
「おい! 誰かこの爺さんを助けてやれ! 急げ!」
「は、はい、では僕が!」
 村の青年が駆け寄ってきて、老人を抱き起こす。
「さ、平八爺さん、僕の背中に捕まって」
「わ、わしはもう駄目じゃ‥‥」
「何を言ってる。しっかりしろ。老体に鞭打っても立ち上がるんだ」
 月は老人を片手で持ち上げると、青年の背中に乗せる。
「後を頼むぞ」
 そこへアヤカシが一体やってくる。
 グルルルルル‥‥。と飢えた瞳を向けて近付いてくる。
「キミたちの相手は私だ。それとも何か? 私と戦うのが怖いか?」
 月は敢然と言い放って立ち塞がる。
 ‥‥グガアアアアアア!
 あやかし兵士は突進してくる。
「ぬ、速いな――!」
 月はアヤカシの攻撃を跳ね返すと、反撃の一撃を叩き込む。ドスッとアヤカシの肉体に刀身がめり込む。
 ガアアアア! 返す一手でアヤカシの攻撃がヒットする。ザン! と月の体が切り裂かれる。
 つつ‥‥と、血が流れ落ちるも、月は顔色一つ変えずにアヤカシを睨みつける。
「来い」
 グガアアアア! 襲い来るアヤカシ兵士と打ち合う月。十合に及ぶ斬り合いの末に、互角の戦いで距離を保つ。
「ふう‥‥」
 呼吸を整える月、恐れる風も無くアヤカシを見据える。と、前方からアヤカシの咆哮が轟いてきて、月の相手はそちらへ向かって走り出した。
 それからも逃げ延びてくる民を護衛しながら、彼らは後方に村人達を送り出していく。

「――出でよ眼突鴉!」
 義視は式を召喚してアヤカシに連打する。ドガガ! と眼突鴉がアヤカシ兵士の目に食らいついて頭部を貫通する。
 倒れ伏したアヤカシ兵は瞬く間に瘴気と化して消滅する。
「そちらへ2体! 逃がすな!」
 義視は傭兵たちに指示を出して突破を図るアヤカシの足を止める。
 後方から戦場を見渡し、味方の戦力の配分を考えながら指示を出していく。
 弦一郎も後衛にあって、即射で次々とアヤカシ射抜いていく。矢が唸りを上げてアヤカシを貫通する。
 グガアアアア‥‥! 苦しげにのた打ち回るアヤカシにサムライが止めを差していく。
「こちらには十体か‥‥岳天斉は残りを自身のもとへ呼び寄せたようだな。ここは早く雑魚を倒して、岳天斉のもとへ行かないと」
 義視は前方で始まろうとしている岳天斉と仲間達の様子を遠目に見ていた。
「岳天斉とやらか‥‥単騎で俺たちに向かってくる酔狂な奴ではないか」
 弦一郎は、弓を放ちながら、義視の傍らに立って戦場を見渡す。
「人並みの知能を持った奴らというのは厄介でな。必ずしもこちらの思い通りに動くとは限らん。とにかく、一刻も早くこちらを片付けないといかんな」
「ああ‥‥だが最初に岳天斉を狙った分、こちらは薄くなった。民への被害は抑えられたのは幸いか‥‥」
 言って弦一郎は弓を放つ。連弾がアヤカシを貫通する。

 朔夜、アルカ、龍牙、渚、御門らは、岳天斉と向き合っていたが、その間にはアヤカシ兵士が立ち塞がっていた。
「‥‥ふふ、龍安の者どもか。無駄なあがきよ。鳳華の暗雲を晴らすことは出来ぬ。噂では緑茂の大殿様に挑んだようだが、結果がどうあれ、この世界を覆う我らの軍勢は強大で貴様らの抵抗など全くの無意味よな」
 朔夜は表情を変えることなく前に踏み出す。
「岳天斉、貴様はここで倒される。朔夜は決して諦めない」
「何だ、貴様らは? 龍安の者では無いのか」
「名乗ってやる義理も無いが。朔夜たちは神楽の開拓者だ」
「ほう、そうであったか。くく‥‥面白い。大殿様に挑んだと言うその力、見せてもらおうか」
「ぬけぬけと言ってくれるねえ。てめえの鉄皮面がぐだぐだに変わるところが楽しみだぜ。はっ! 禁じてなんで悠長なことは言ってられねえなあ」
 アルカは飛手を取り付けながら真紅の瞳で岳天斉を見据える。
「岳天斉! お前の考えていることは全てお見通しだ!」
 龍牙は心眼を使いながら、周辺を探っていた。
「これで全てか、そう簡単にやれると思うな! この俺! 『焔龍』が相手だ、覚悟を決めろ!」
 龍牙は抜刀し、岳天斉を睨みつける。
「へぇ‥‥面白いねぇ‥‥でも綺麗じゃないね。減点だ」
 渚は薄く笑みを浮かべて、ゆらり、とグレートソードを構える。
「この鳳華でもアヤカシの攻撃が激しいのですね‥‥僕の力の及ぶ限り、岳天斉、あなたの横暴を見過ごすことは出来ません。ここで倒れて頂きます」
 御門は符を構えて柳眉を寄せる。
 岳天斉は巨漢の人型アヤカシで、外見は精悍な顔つきの男だ。口もとからは牙が覗いているが。
「ふふふ‥‥来い、神楽の開拓者。大言壮語がどの程度通じるか、俺様が戦いを教えてやろう」
「言ってくれるねえ。後で泣きを見んなよ。命乞いは通じねえからな」
 アルカが言って、仲間達に合図を送る。
「行くぞ!」
「掛かれ! 皆殺しだ!」
 岳天斉の号令でアヤカシ兵士たちも武器を構えて突撃してくる。
 また岳天斉本人も踏み出して来る。

 アルカはアヤカシ兵士に飛び掛った。
 蝶のように舞い上がると、回し蹴りを叩き込む。
 ドゴオオオオオオ! とアヤカシが一撃で吹き飛んだ。
「てめえらぶちまかしてやらあ!」
 アヤカシの反撃を回避して、拳を叩き込む。
 再び衝撃が爆発して、アヤカシは後方に吹き飛ばされた。
「食らえ! 焔龍の一撃を!」
 龍牙はぶうん! と刀を一閃する。ドズバアアアアア! とアヤカシ兵士の肉体が鎧ごと砕け散る。
 裂ぱくの気合いとともに刀を繰り出せば、アヤカシ兵士の肉体を刀身が貫通し、龍牙はそのまま刃を跳ね上げた。凄絶な肉を切り裂く音がして、アヤカシは上体を真っ二つに切り裂かれた。鮮血が舞い上がったのも束の間、アヤカシは黒い塊となって崩れ落ち、瘴気となって霧散した。
 渚は血しぶきが舞う戦場で高ぶった声を上げていた。
「あはっ。いいよいいよぉ! もっともっと私に感じさせてよぉ!?」
「イタイ‥‥イタイよぉ!! あははははっ!!!」
 渚は血や悲鳴に反応する異常性癖者。切り裂かれたアヤカシの悲鳴が心地よい。
 刀を振るうたびに興奮して頬が上気している。尤も返り血で分からなくなっているが。自分も切られていることに気付かないくらい。
「ふはははは! この程度で、俺様が倒される道理はないわ!」
 岳天斉は部下と交戦している隙を突いて、アルカに襲い掛かってきた。
「てめえ! 悪いが今回は加減無しでねぇ!」
 疾風脚で迎撃するアルカ、岳天斉の攻撃とカウンターで拳を打ち込む。ドスッ! とアルカの拳がめり込んだが、岳天斉の突きを食らって激痛が走る。
「これでも‥‥これ以上は付き合ってられねぇ!」
 牙狼拳を叩き込む。ドゴオオオ! と岳天斉の顔面が吹き飛んだが、このアヤカシボスは踏みとどまると、アルカをぶん殴った。
 ドッゴオオオオオオ! と吹き飛ぶアルカ。
「野郎‥‥舐めんなよ」
「アルちゃん。大丈夫か。朔夜が直してやるからな」
 朔夜の神風恩寵が心地良くアルカを包み込み、生命を回復させる。
「はっはっはっ! 者ども掛かれ!」
 そうする間にもアヤカシ兵士が殺到してくる。
「次はどいつだ!」
 岳天斉は渚に向かって走る。
「死ね! 開拓者!」
 だが渚は恍惚とした笑みを浮かべて、うっとりしていた。すでに興奮の真っ只中だ。
「塵に還してやる‥‥精々躍れよぉ?」
 渚は岳天斉にゆらりと向き直ると、大剣を構える。
 岳天斉の高速の一撃が容赦なく渚に直撃を食らわせる。ズドオオオオオオ! と渚は吹き飛ばされた。
「か‥‥は‥‥」
 喀血する渚。口もとを拭ってゆっくりと立ち上がる。
「ふふ‥‥痛い、痛いの、トンで逝け」
「ふはは、死ぬがいい」
 岳天斉は刀を構えると、さらに攻撃を加えるが――。
「ぬっ!?」
 岳天斉の周りに式がまとわりつき、動きを束縛する。
 御門の呪縛符。
「あなたの好き勝手にはさせないと言ったはずです」
「何を、この程度の式で俺様が止められると思うか! 死ぬがいいわ」
 岳天斉は渚に突進する――。
「速いね――!」
 渚は相手の攻撃に合わせるのが精一杯。
 が、次の瞬間――側面から切りかかった龍牙の刀が岳天斉の一撃を弾き飛ばす。
「大丈夫か渚さん」
「ああ‥‥悪いね。どうも気分があさっての方に飛んでしまってさあ」
 岳天斉はやや驚いたように龍牙を見やると、部下を呼び寄せる。
「(好き勝手にさせるな! 動きを封じておけ! 止めは俺が差す!)」
 アヤカシの言葉で怒鳴りつける岳天斉。
 そこへ義視と弦一郎、傭兵たちに龍安のサムライ達が駆けつける。
「岳天斉は‥‥」
 義視は渚に襲い掛かる巨漢のアヤカシに当たりをつける。
「あいつか‥‥これで数の上ではこちらが有利だ」
 弦一郎は矢を放って岳天斉に狙いをつける。
「雑魚は片付いたようだね。岳天斉! てめえの最後が見えてきたな!」
 アルカはアヤカシ兵をなぎ倒しながら、岳天斉にたんかを切った。
「ふふ、そうはいかん」
 岳天斉は残りのアヤカシ兵を開拓者たちに叩きつけると、早々に後退する。常套手段だ。
「逃がすかよ! 『焔龍』の一撃を食らって消えな! ――炎魂縛武!」
 龍牙は炎魂縛武を打ち込む。
 御門が呪縛符で動きを束縛するも、岳天斉は龍牙の一撃を受け止める。
「ぬうああ!」
 龍牙を刀で吹き飛ばした岳天斉。
 義視が眼突鴉を連打、弦一郎が練力を振り絞って矢を叩きつける。
「この野郎!」
 アルカの飛び蹴りを受け止め、岳天斉は足を掴んで投げ飛ばす。
 また渚の一撃もかわされ、岳天斉は結局逃走する。
 その後開拓者達はアヤカシ兵を全滅させ、首都の天承に事後報告に訪れるのだった。

 ‥‥天承の城で、開拓者達は龍安弘秀と向き合っていた。
「ご苦労だったな。しぶとい相手であったろう岳天斉は」
 弘秀は岳天斉が逃げたと聞いても驚きはしなかった。鳳華は実質、東の大樹海のアヤカシと戦争状態だという。
 話が一段落したところで‥‥弘秀は仕官の話を切り出す。
「えと、少し、考えされて頂いても、良いでしょうか?」
 雛は保留。
「仕官の由は身に余る儀にて、ひとまず御遠慮をば。相応しい実力とまず見極め認めて頂いた上で御所望とあらば‥‥」
 御門も保留した。
 そして、龍牙と義視は仕官の話を受けることにする。
「そうか、受けてくれるか。ではお前達二人は正式に我が家臣団に名を置く。機会があればいつでも登城せよ。今後の働きに期待するぞ」
 弘秀はそう言うと、豪快に笑声を発するのだった。
 海神は、心ひそかに二人を羨望の眼差しで見つめていた。いつか自分も彼らのように強くなれるだろうか‥‥と。