シナリオ形態： イベント 相棒 難易度： 普通 参加人数： 10人 サポート： 0人 リプレイ完成日時： 2014/02/13 22:46

■オープニング本文 　天儀本島武天国、龍安家が治める土地、鳳華――。 　再建が始まった。国軍は王都へ帰還し、代わりに民が戻って来た。清浄な大地に還ったこの土地で、人々は再びかつての暮らしを取り戻そうと動き始めた。龍安の兵たちもそれぞれの故郷へ帰っていく。 　龍安弘秀は、かつての筆頭家老だった西祥院静奈の訪問を受けていた。王都からやってきた静奈は、以前の武士装束の代わりに着物に袖を通し、多くの侍女を従えていた。さながら王族である。 「一体何事だ？」 「もう私のことはお忘れになりましたか？」 　弘秀の言葉に、静奈は微笑んだ。 「民が戻ってきましたね。天泉河の美しい流れも、白仙山の木々も、天春日高原の草原も、そして、閉ざされていた東の地も、全てが戻ってきましたね」 「これからが大変だ。また、ここを一から立て直さねば」 「…………」 　静奈は、それから言った。 「実は、嫁ぐことになりました」 「ほう？　誰が？」 「私ですよ！」 「それはめでたいな。相手は？」 「大道寺光元親王殿下です」 「嘘！？」 「父上のとりなしで」 「食えない人だな。しかしあの殿下も良く受けたな」 　そこへ、龍安春香が姿を見せる。 「何か、面白いことになっているようね」 「奥方様」 　静奈がお辞儀すると、春香は笑った。 「そんな改まらなくても。内親王殿下とお呼びしなくちゃいけないのねえ」 「とんでもございません」 　清久郎丸と菊音が歓声を上げる。 「凄いな静奈！　王家の仲間入りするんだ！」 「羨ましい〜」 「ありがとうございます」 「はっはっは……」 　弘秀は和やかに目を細めた。心なしかしわが増えたように見える。 「――橘鉄州斎（iz0008）、お前をサムライ大将に任命する」 　弘秀が銀髪の偉丈夫に言った。任命された方は恭しくお辞儀した。 「これより、お屋形様に忠義を尽くし、鳳華の発展と繁栄に尽力いたします」 「うむ」 「それはそうと、これから論功行賞はどうされるおつもりですか？」 　橘が問うと、弘秀は頷いた。 「功績のあった者には、階級を問わず言葉を掛けたいと思う。例えば開拓者であろうと、すでに我が家の家臣となって来た者も数多くいる。先の不厳王の一戦だけではない。今までの功績に、出来得る限り報いたいと思う」 「そうですな……」 「ところで橘」 「はい」 「お前、芦屋殿をどう思っているのだ」 「何ですかいきなり」 「主となったからには、無視も出来まいてな」 「私には娘がいるんですよ」 「懐いているそうじゃないか」 「どこから聞いたんですか？」 「知らんのか。鳳華で起こっていることは全部俺の耳に入っておるのだ」 「お人の悪い……」 　芦屋馨（iz0207）は、天承城の庭で、橘の娘、あかりと言葉を交わしていた。 「やっと終わったねえ……長かった。これから、お父さんここで働くんだって。でっかいお家も貰えるんだって！」 「橘さんがサムライ大将になるとは意外でしたが……」 「大出世じゃん！　厳楼斎おじさんも喜ぶよ！」 「あかりさんも、頓着ないお父さんとの二人暮らしから解放されますね」 「うーん……でも、堅苦しいのも嫌だけどね。ちょっと緊張するかなあ……まだ鳳華には馴染んでないしね」 「友達沢山作って、しっかり勉強しないといけませんね」 「嫌だなあ。そんなお母さんみたいなこと言わないでよ」 「すみません」 　芦屋は言って、あかりの頭を優しく撫でた。 「春姫様ー！」 　七郎太は、主の姫を呼んだ。春は、「なんじゃ」と振り返り、作業の手を止めた。 「春様！　お屋形様がお呼びなの忘れましたか！？　天承で会う約束でしょう！」 「おお。すっかり忘れておったわい。はっはっは」 　春は里の復興に、自ら出向き、民とともに土木作業に従事していた。 　七郎太は冷や汗を流して、春姫に呼び掛ける。 「為すべきことをなさって下さい！　これから、里長になられるのですから！」 「全くうるさい奴じゃ。それにしても家老になったら名を改めんとな。いつまでも七郎太では恰好がつかんわい」 「行きましょう殿下――！」 　白仙山――。 　ケモノの主である白狐は、大地の精霊の亜紫亜とともに鳳華を見渡していた。 「意外な結末じゃったか亜紫亜？」 「何がです？」 「まあ……そなたに聞いても詮無きことか」 「私は……この地で生きていく。見届けます。そして歩んでいきます。それが、大地の精霊としての私の役目」 「好きにせい。わしは山へ帰る」 「また会いましょう白狐様」 「わしは、扉を閉ざしたことなど一度も無い」 　かくして、鳳華の復興が始まる。その道は遥か半ば。困難を極めるだろう。だが、人々は、決意を胸に抱いて、この地へ帰って来るのだった。 　戦いは終わり、ここから、未来が始まるのだ。 　開拓者ギルド――。 　森村佳織（iz0287）は、不厳王との戦いの報告を分析する日々を送っていた。 「はい？」 　佳織は顔を上げた。 「あ、依頼ですか？　気になる依頼がありましたか？　どうぞどうぞ、おかけになって下さい！」 　余禄。今日もギルドは通常営業だ。

■参加者一覧 / 鈴梅雛（ia0116） / 玲璃（ia1114） / コルリス・フェネストラ（ia9657） / 不破　颯（ib0495） / 長谷部　円秀　（ib4529） / リンスガルト・ギーベリ（ib5184） / リィムナ・ピサレット（ib5201） / ファムニス・ピサレット（ib5896） / 雁久良 霧依（ib9706） / 鏖殺大公テラドゥカス（ic1476）

■リプレイ本文 　鈴梅雛（ia0116）は、かつての天承城を訪れた。天承は瓦礫と化しているが、人々の喧騒に包まれていた。出店が立ち並び、城下町全体が復旧の工事に湧き立っていた。ここへ来て、栗原玄海や緋村天正の墓のことを聞いてみようと思った。 　雛は茶店の露店を訪ねた。 「こんにち――は！？」 　雛は突き飛ばされた。 「んだとこの野郎！　もういっぺん言ってみろ！」 「おう何度でも言ってやらあ！　その団子は俺が先に頼んだんだよ！　てめえにやる義理はねえ！」 「何い！？　それが同じ釜の飯を食った同胞への言葉か！　てめえには愛想が尽きた！　もう二度とお前とは口を利かねえ！」 「上等だ！　こちとら御免だぜ！」 「ふん！」 　二人の男達は、雛を突き飛ばしたことに気付かず、行ってしまった。 「仕方ないわねえ……。喧嘩ばかりしてるんだから……おや？　お嬢ちゃん大丈夫かい？」 　中から出てきた店主の女性が、雛に手を差し出した。 「すみません」 「怪我ないかい？」 「大丈夫です。みんな元気は有り余ってるんですね」 「やだよお。毎日あの始末さ……全くねえ」 「中、空いてますか？」 「千客万来だよ小さなお客さん」 　雛は店内に入った。中は混み合っていた。雛は団子とお茶を食べながら一息ついた。 「さて……」 　雛は席から降りると、聞き込みに向かった。 「あの」 　雛は二人の男達に話しかけた。 「栗原玄海様や緋村天正様など、ご存知ですか？」 「お二人とも亡くなった方たちだな。どうしたんだちびさん」 「墓参りをしたいと思いまして」 「そりゃあ……ちと分からんな」 　すると、雛の背後から声がした。 「墓参りがしたいのか」 　男達が声の主を見て立ち上がる。雛は振り返った。龍安のシノビの頭領、赤霧であった。 「赤霧様」 「やはり雛だったか」 　赤霧は笑みを浮かべた。 「先の戦いではお疲れさんだったな。墓前に戦勝報告か」 「はい。せめてそれくらいはと……」 「そうか……案内しようか。俺でよければ」 「あ、はい。お願いします」 　それから雛は、赤霧と滑空艇で栗原の里へ飛んだ。 　里で雛は、「栗原の家」を訪ねた。 　次席家老だった玄海の息子、栗原直光が民とともに家を建て直していた。 「おや、鈴梅！」 　直光は屋根から飛び降りてきた。 「赤霧も一緒か。どうした？」 　事情を説明すると、直光は雛を連れて玄海の墓前へ案内してくれた。寂しい墓標が立っていた。雛は手を合わせた。 「栗原様。どうか龍安の、鳳華の未来を、見守って下さい。ひいなたちが、大アヤカシを倒しました。ありがとう、栗原様。ひいながあるのは栗原様のお陰です」 「父も喜んでいるだろうな……」 「お元気で。ひいなは行きます。栗原様は、ひいなの中で生き続けます」 「ああ」 　直光は手を差し出した。雛は笑顔で握手を交わした。 　それから雛は、緋村が暮らしていた里へ飛んだ。一軒の家だった。中から子供と女性が出てきた。 「待ちなさい！　……？　赤霧様？」 　女性は赤霧を見て立ち止った。事情を説明する。 「そうですか……緋村と戦って下さった方……」 　緋村の妻は、雛を家の中へ通してくれた。雛は位牌の前で手を合わせた。 「緋村様、どうか、安らかに眠って下さい。鳳華は安泰です」 「ありがとう……」 　奥方はそっと涙を拭いた。 「緋村様は勇敢な方でした。ひいなも沢山の勇気をもらいました」 　雛は改めて位牌に目をやる。 　そこで、緋村の小さな忘れ形見が雛に花の咲いた小枝を差し出した。梅の花だった。 「やる」 「……ありがとう」 　雛は、梅の花言葉を思い出し、花をそっと胸に抱いた。 　玲璃（ia1114）は再びやって来た。龍安弘秀とおよそ一年半ぶりに会う。 「懐かしいな玲璃。よく来てくれた」 「お屋形様には、大勝利の祝辞を述べさせて頂きます」 「何、俺はおまけみたいなもんよ。戦ったのは兵士と開拓者たちだからな」 「……ご謙遜を」 「はっはっは」 　弘秀は笑って、吐息した。 「疲れたよ」 　確かに疲れたように見える。玲璃が見ぬ間に、弘秀は五年は老けたように見える。 「疲れましたか」 　玲璃が微笑む。 「お前たちの戦いはこれからであったな。今度は、理穴方面に打って出ると聞いた」 「ええ」 「俺たちは不厳王を倒したが余力はない。ひとまず、鳳華の復興が先決だ」 「それにつきまして、此度はお許しを得たき儀がございます」 「何か？」 「住民達の生活基盤復旧に必要な事項を把握する為の現地調査と、住民達への医療活動をお許し頂きたく」 「うむ。宜しく頼む。しっかりとやってくれ」 「ありがとうございます」 　ところで、と玲璃は続けた。 「例の龍脈ですが……防衛の意味も兼ね、龍脈に通じる各大穴の上に神社仏閣を建立しては如何でしょうか？　その、大地の精霊なる亜紫亜や白狐様の意志を尊重すべきかとは存じますが」 「確かに龍脈はアヤカシに利用されては厄介だ。放置はできんか？　神社仏閣で隠しておくのは良いかも知れん。魔除けにはなるかな。考えてみよう」 「もう一つ」 「うむ」 「鳳華の住民達の避難場所だった地域の人々にも感謝状や費用を送るべきと存じます」 「避難先は巨勢王陛下の直轄地だ。陛下にお借りした分を返済することになるが……今は余裕がないな。逆にまだ援助して頂いているくらいだからな。復興の道が為ってから、と言うことになるな」 「承知いたしました」 　玲璃は吐息した。鳳華は今、巨勢王や大道寺光元親王、老中の西祥院真禅らから多額の援助を受けていた。分厚い証文の束。ただ、返済期限が五百年後などに設定されていた。 「……陛下や皆様のご慈悲ですね」 「言ってくれるなそれを」 「失礼しました」 　玲璃は頭痛を押さえて出発した。飛空船で鳳華各地を巡回する。 「今何が不足していますか？」 　玲璃が民人たちに問う。 「まず家がないと……」 「早く仕事が欲しい……」 「学校に行きたい……」 「子供たちの養育費が足りなくて……」 「医者もいないし薬だって不足してるよ」 　衣食は十分に揃っているようだった。玲璃は各地を回りながら、人々の声を手帳に書き記していく。その傍ら、持参した生薬を使用して薬を処方した。 　玲璃の飛空船の周りには人だかりが出来ていた。風邪を引いた人たちには滋養と熱さましの薬を。足腰が痛い老人には痛み止めの薬を。疲労して体調を崩した人々には強壮の薬を。そして、玲璃は診察も行って、適時回復薬を処方した。玲璃は自分が万能ではないことを知っているが、知識を総動員して事に当たった。少々の体調不良ならしっかり食べて暖かくして寝るのが治療と言う世界だ。 「今日は薬を飲んでゆっくり休んで下さい」 　玲璃はそう言って、大勢の患者を送り出した。そして天承に帰還すると、各地でまとめた陳情をまとめて報告しておくのだった。 　コルリス・フェネストラ（ia9657）は天承城に入った。サムライ大将の橘鉄州斎（iz0008）が出迎えた。橘はお辞儀した。 「お待ちしておりましたコルリス様。みな集まっております」 「はい」 　コルリスは軽く頷き、橘の案内で後について歩き出した。そうして、コルリスは広間に通された。龍安弘秀と、居並ぶ諸将が顔を揃えている。弘秀が頷き、諸将は頭を下げた。コルリスは諸将の左最前列に腰を下ろした。弘秀が口を開いた。 「新しい筆頭家老を紹介しよう。みなも知っての通り、コルリスに静奈の後を務めてもらうことになった。宜しく頼む」 　主だった家臣がコルリスに祝辞を述べる。 「おめでとうございますコルリス様。次席家老を務める栗原直光です」 「家老衆の天本重弘です」 「同じく家老衆の坂本智紀と申します」 「家老衆。水城明日香です。宜しくお願い致します」 「シノビの赤霧だ」　 　コルリスの向かい、諸将の右最前列に存在感のある巨漢の老将がいた。 「サムライ総大将。山内剛だ。宜しくな」 「コルリス――」 　弘秀は頷いた。コルリスは弘秀にお辞儀してから、一同の方を向いた。 「ご紹介に預かりましたコルリス・フェネストラです。これより、誠心誠意職務に励ませて頂きます。みな様、どうぞよろしくお願い致します」 「おお――！」 　諸将は平伏した。 　それからコルリスは仲間たちが動くのに支障が出ないよう、各地へ連絡を飛ばしておいた。開拓者達の受け入れ態勢を整えておく。 　コルリスは改めて弘秀のもとを訪れた。西祥院静奈がいた。 「静奈様」 「コルリスさんおめでとう。私からも祝辞を述べさせてもらうわ」 　コルリスは静奈と握手を交わした。 「弘秀様、これからどうなさるおつもりですか？」 「今は、現場百回だ。俺も現地へ飛んで、実物を見てから方針を決める。家老衆以下、城の家臣団にも人海戦術で行けと伝えてある。お前にも、現場を見て、そして城で報告を見て判断して欲しい」 「承知いたしました」 「コルリス、頑張ってね」 　静奈が言うと、コルリスは笑って頷いた。現地へ飛ぶ。 「みなさんお元気ですか。お困りのことはありませんか」 　民に声を掛ける。 「家が出来るまでは、仮設の平屋でみんなで寝泊まりですからねえ。早く家が欲しいです」 　コルリスは自らの正体を明かすことないが、現地の家臣たちには切り込んだ。 「筆頭家老のコルリスです。責任者はいますか」 「これは……お待ち下さい！」 　兵士は飛んで行って、責任者を呼んできた。まだ若い里長が出てきた。 「コルリス様。里長の伊野大地です」 「復興計画自体は進んでいるようですが、厳しい状況です。この危機を乗り切るには、皆の力が必要です」 「はい」 「厳しい要求をすることもあるでしょうが、みなさんの力を貸して下さい」 「承知致しました」 　大地は平伏した。コルリスはそれから幾つかの里を回って天承へ帰還する。集まった家老衆たちと会合を開く。 「みなさんから教わることも多いでしょうが、宜しくお願いします」 「はっ……」 「鳳華の人々の生活環境の復旧や人を集める方策等、具体的なスケジュール組成、物の仕入れ、役目割り振り等、必要な事項を協力し合いたいと思います。みなさんの意見をお聞かせ下さい――」 　それから会合に会合を重ね、夜、コルリスは城の自室で資料をまとめていた。 「ふう……」 　コルリスは机に沈んでそのまま眠ってしまった。数時間後そこへ現れた龍安春香。コルリスに毛布を掛けておく。 　目覚めたコルリスは風呂に入ってから着衣を整え、運ばれてきた朝食を済ませると弘秀のもとへ赴いた。 「おはようございますお屋形様」 「おはよう」 　弘秀は家族たちと朝食の途中だった。コルリスは意を決して言った。 「弘秀様、お願いしたき儀がございます」 「何だ？」 「開拓者の使命を終えた後、鳳華に帰化したく思います」 「それは……また思い切ったな。よく考えたのか？」 「ええ」 　コルリスは微笑んだ。弘秀は頷いた。 「分かった。お前の家も用意して待ってる。存分にやってくるが良い。そして、帰ってこい」 「ありがとうございます」 　コルリスはお辞儀した。それからコルリスは、弘秀に刀「泉水」を、橘に霊剣「迦具土」を、芦屋に霊符「文殊」を、静奈に守刀「連理」を贈ったのだった。 　不破　颯（ib0495）は、瑠璃に乗って各地を回っていた。天泉河のほとりに降り立ち、その大河を眺めた。 「こんな美しい河川があったとはねえ……」 　魔の森に覆われていた時には想像もしなかった。近隣の人々が洗濯に来ている。不破は歩いて行った。 「こんにちは〜」 　人々は龍を見て少し驚いた様子だった。 「お侍さんですか？」 「いえいえ、開拓者ですよ〜」 「開拓者さんですか！　不厳王を倒して下さった……」 「みなさん無事に帰ってこれて何よりですよ〜」 　それから不破は鳳華の中央に広がる草原地帯に飛んだ。須賀尾ヶ原、天春日高原だ。ここにも大勢の民が引っ越して、家を建てようとしていた。不破は開拓者であることを名乗り、住人と作業に当たった。そうして夜、ささやかな夕食を共にした。 「ここは昔どんなところだったんですか〜？」 「昔はねえ……アヤカシの攻撃がひどくて、兵隊さん達が常に東の最前線に常駐していましたよ」 「東一帯は魔の森に覆われていて、東の大樹海なんて呼ばれていましたからね」 「そうなんですか〜」 「アヤカシとの戦いがずっと続いていました……でも、やっと終わったんですねえ。もう嬉しくて……涙が出ます」 　老人はそっと目を拭った。 「平和になったのも開拓者さんのおかげです。さあさ、飲んで下さいよ」 「どうも〜」 　不破はそれから、白仙山に飛んだ。ここは鳳華の最高峰。ケモノの主がおり、民から恐れられている場所だった。村民が帰って来ていた。 「亜紫亜さんと会えると良いんだけどね〜」 　村人たちから亜紫亜の情報を聞いた不破は、山に登った。亜紫亜はしばしば里へ降りて来ることもあると言うが、普段は山の奥で自然と暮らしていると言う。不破は、村人から聞いた場所へ。鳳華を一番よく見渡せる高台へ出た。 「…………」 　不破は独白した。 「ざっと色々見て来たよ。いやぁ良い所だねぇ。……正直、ちゃんと約束通り眠らせてあげられなかったのは心残りだ。だがらその分は、この地や君の危機に最優先で駆けつけることで返そう。必ず助ける。……本当は色々聞きたいこともあったが、まあいいさ。護大も空も龍脈も、俺の専門じゃないからなぁ。ま、きっとなんとかするから見守っててくれ」 　ヘラリと笑った。 「不破さん」 「――？」 　不破は振り返った。亜紫亜が立っていた。 「やあ」 「お久しぶりです」 　亜紫亜は胸を押さえながら、微笑んで不破の横に立った。 「ありがとう不破さん。来てくれて嬉しいです。小さな亜紫亜にも感じられます。風が震えています。これから大きな戦いが始まるのですね。不破さんも行くのでしょう？」 「ああ」 「私にはもう祈ることしかできません。大きな亜紫亜が知っていたことも、私には分かりませんから。不破さんの、人々の勝利を祈っていますね」 「ありがとう亜紫亜さん。よおし……行くかあ〜」 　不破と亜紫亜は、風を感じながら、鳳華を見渡すのだった。 「不厳王は滅びたが。我等人間の戦いは終わらぬ。むしろこれからが大変じゃな」 　リンスガルト・ギーベリ（ib5184）は商用小型船ドラコニアから降り立った。 「不厳王……手強かったわねぇ。でも、まだ終わりじゃないのよね。この鳳華を人々が豊かに暮らせる土地に復興させていかないと。私もお手伝いするわ♪」 　後に続くのは雁久良 霧依（ib9706）と鏖殺大公テラドゥカス（ic1476）。 「わしは鳳華と特に関わりがあったわけではないのだがな」 　テラドゥカスが言うと、羽妖精のビリティスが飛び跳ねた。 「いいじゃねえかよ、名前売るチャンスだぜ？　きっちり働いて、鳳華のお偉いさんに顔覚えてもらえりゃ後で役に立つかも知れねえしよ」 「ふむ、悪くないか」 　三人は天承に入った。天承城でコルリスと会う。三人はコルリスの執務室へ入った。 「コルリス。どうじゃ、筆頭家老の席は」 　リンスガルトが言うと、コルリスは笑った。 「我々は妾のドラコニアに人足や必要物資、当座の食糧を積み農村を周り、田畑を整備し、村々を復興させる役目の一端を担うつもりじゃ」 「鳳華の復興計画を見せてくれる？」 　雁久良が言うと、コルリスは記録を取りだしてきた。 「宜しくお願いします。今上がって来ている報告の一部です」 「ふむ」 　リンスガルトは記録を書き写していく。そしてコルリスに礼を言って、船員を確保して天承を出発する。 「ファム、あんたも頑張ったよ♪　誇りに思っていいよ」 「勝てたんだね……私も少しは役に立てたのかな……」 　リィムナ・ピサレット（ib5201）とファムニス・ピサレット（ib5896）の姉妹は、相棒の龍で白仙山へ飛んだ。白狐へ会いに行く。村人から白狐が暮らしている森のこと聞き、二人は山へ登った。防寒具でフル装備。 　白狐は小川のほとりで眠っていた。リィムナとファムニスは、「しーっ！」と人差し指を口に当てて、そろそろと近づいて行った。 「よし！　いくよファムニス！」 「はい！」 「白狐さ〜ん！」 　二人は元気よく白毛へダイブ。 「やっほー！　白狐さん！　約束通り来たよ！　もふもふさせて欲しいな♪」 「あの……私も、もふもふしていいですか？」 　白狐は顔を起こして、二人を見やる。 「そろそろ来るころだと思っておったわい」 「ぎゅっ……んん〜♪　やっぱりふさふさ気持ちいい〜♪」 「とってもふさふさして、気持ちいいです……」 　二人はもふもふで御満悦。 「大した子供たちじゃ。本当にあの不厳王を倒してしまうとは」 「ん〜、白狐さんのおかげだよ〜！」 「ありがとうございました白狐さん！」 　そこへ、亜紫亜が姿を見せた。 「あら。お客様ですか？」 「亜紫亜さんだー！」 　リィムナとファムニスは駆けだすと、亜紫亜に抱きついた。 「ん……とっても柔らかいです……」 「お二人とも、よく頑張りましたね」 「鳳華を助けてくれた亜紫亜さんに感謝だよ！」 「私などただ在るだけでしたが……」 「ん〜♪」 　リィムナとファムニスは亜紫亜の良い香りに眠りこけてしまいそうだった。 「は……っ！　もう行かなきゃ！　じゃ……白狐さん、亜紫亜さん、またね！　色々、本当にありがとう！」 「ありがとうございました。お二人とも、お元気で！」 「ばいばーい！」 「おう、リィムナ、来たか！」 　リンスガルトは、鍬を振るう手を止めた。 「やっほー！　リンスちゃん！」 「こんにちは……」 　リィムナとファムニスも合流する。 「さーて、きりきり田畑を耕してくれい！」 　リンスガルトは二人に鍬を放った。 　雁久良は民と一緒に、畑を耕していく。 「良い土じゃない。この目で見るまでは瘴気を心配していたけれど、浄化の砂塵は魔の森を完全に駆逐したようね♪」 　雁久良は土を手にとって、笑顔を浮かべた。 「春に収穫できるように、豆とかごぼうとか植えたらどうかしら？　菜種を蒔くにはちょっと遅すぎるかしらね……」 「そうですねえ……豆の種は沢山ありますから」 「うん♪　ここなら、良い作物が出来そうよ。鳳華は気候にも恵まれてるし、豊作が期待できそうね♪」 　雁久良は村人たちと畑のことに関して話し合っていた。農家で生まれ育った雁久良にとって、農民たちとの触れ合いは故郷を思い出させる。雁久良は土を掘り起こし、畝を作りながら、村人たちと無邪気に談笑していた。 　リンスガルトは、畑の作業をいったん中断すると、井戸掘りに向かっていた。 「任せておれ。枯れた井戸も、妾が復活させてやろうぞ」 　リンスガルトは枯れ井戸の底へ降りていく。 「あーらリンスちゃん♪　頑張ってー」 　雁久良もやってきて、井戸の底のリンスガルトに呼び掛けた。 「行くぞ！」 　怒濤の勢いで井戸底を掘り始めるリンスガルト。ざくざくと掘り返して行く。 「ぬおおおおおお……！　しゃあ！」 　ズドオオオオオン！　と、スコップが突き抜けた。 「行ったか！？」 　次の瞬間、ブワアアアアア！　と水が噴き出してきた。リンスガルトは水に押し上げられた。 「ふおおおおおおお！　ふぉふぉふぉふぉ！　見よ！　水の復活じゃ！」 　リンスガルトは噴水のように飛び出す水から飛び降りた。びしょ濡れになってしまったが、彼女は笑っていた。 「やったー！」 　民が歓声を上げる。 「む……やるな、あの小娘」 　テラドゥカスは、遠目に、吹き出す水を見やり、巨体を起こした。からくりのテラドゥカスに疲労の文字はない。きらーん、と、悪魔的な赤い瞳が光る。 「ふ……見よ村人たちよ！　この鏖殺大公の力を！　おおおおおおおお……！」 　テラドゥカスは、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ！　と、凄まじい勢いで畑を耕し始めた。 「うわあああああ……！」 　村人たちが吹っ飛ぶ。 「はははは！　行っけえー！　あたしも手伝うからよ！」 　ビリティスはテラドゥカスの頭に乗った。 「行け、ブーストだぜ！」 「ぬおおおおおおおお……！」 　猛然と加速するテラドゥカス。あっという間に畑一面を耕す。 「ぬおああああ！　……ん？」 　テラドゥカスは頭上のビリティスをつまんだ。 「おい、手伝っておらぬではないか」 　ビリティスは腕組みしてふんぞり返った。 「おーいリンス！　雁久良！　イカす相棒だろ！　こうすると動きが良くなるんだ、斜め４５度・改！」 　ビリティスは手を離れて後方に回ると、テラドゥカスの後頭部にチョップ！ 「それはやめろといつも言っておるだろうが！」 「ぎゃははは！」 　雁久良とリンスガルトは呆れたようにその様子を見ていた。 「全く……大人しく頭に乗っておれ」 　テラドゥカスはビリティスを捕まえると、頭に乗せた。 「さて……村の衆！　次の畑はどこだ！　このわしがいる限り、猛烈な勢いで仕事は進むと言うものだ！　任せておけい！」 「ではテラドゥカスさん、こちらへお願いします」 「うむ。殊勝な心がけだ」 　テラドゥカスは悠然と歩きだした。 　それから、夕刻まで作業を続けた開拓者達。 「さーてみんな。そろそろ夕飯の支度をしましょうよ♪」 　雁久良は、持ってきた食材を運び出した。 「あらあ、何を作るんですか？」 　女性達が集まってくる。 「私の郷里名物の極太葱が沢山の葱雑炊と根深汁よ♪　みんなで作りましょう♪」 「わあ！　ネギが沢山！」 「ど、どれ、妾も手伝ってやろうかのう……」 「あはは♪　リンスちゃん家事は苦手でしょう？　無理しなくて良いのよん」 「ま、まあのう。妾は食べる方が得意でな」 「まあたそんなこと言って、ちょっとはあたしのために練習したら？」 　リィムナがいたずらっぽく言うと、リンスガルトは真っ赤になって狼狽した。 「お、お主に言われたくないわい！　リィムナ、そなたこそ、家事の修業をしたらどうじゃ？」 　雁久良は微笑みを浮かべて二人を見ていた。 「まーた二人とも可愛いんだから♪　まあじっとしてなさい。お姉さんがおいしいもの作ってあげるわん。今日のご褒美にね。テラドゥカスも呼んで来てあげて。彼、ひたすら耕作マシーンと化してるみたいだし」 「おーいテラドゥカス！」 　リンスガルトが走っていった。テラドゥカスは、凄まじい面積を一人で耕していた。 「おいおいテラドゥカス。どこまでやる気じゃ。飯じゃぞ」 「おう！　飯か！　ふっふっふ……見よ！　わしの成果を！」 「分かったから早く来るのじゃ」 「今日の夕食はなんだ？」 「霧依の郷土料理じゃ。奥方達も一緒に、盛大な炊き出しじゃ」 「ふむ……平和とは良いものだ。平和であればこそ、国は栄え、民は豊かになる。戦であれば、民にとって良いことなど一つも無い。民無くして国はない」 「どうしたのじゃテラドゥカス？　働き過ぎてねじが緩んできたか？」 「これも我が野望の一歩と思えばこそ。わしは民の安寧を願っておるのだ」 「何を言ってるのじゃ汝は。腹がすき過ぎではないのか」 「まあ良い。今はこのささやかな平和を祝おう」 　そして、盛大な炊き出しが振る舞われた。雁久良はみなに郷土料理を振る舞った。 「さあさ♪　みんなたんと召し上がれ♪」 　かぽーん……。それから数日後。リィムナとファムニスは芦屋馨（iz0207）と橘あかりとお風呂に入っていた。黄色い声が浴場に響き渡る。リィムナとファムニスとあかりは竹の水鉄砲で打ち合った。芦屋は笑顔でお湯につかっていた。 「前は芦屋さん狙われた状況だったから、ゆっくり入れなかったよね♪」 　リィムナは湯船に飛びこんだ。 「芦屋さんはこれからどうするの？」 「何かね、弘秀様が、芦屋さんとお父さんをくっ付けようとしてるみたいなの」 　あかりの言葉に、リィムナは「えー！」と声を上げた。 「そうなんだー！」 「違いますよ。あかりさん」 「否定するところが怪しー。やっぱり……結婚？」 　リィムナは「ふふっ」と笑った。 「あたしはもっと強くなって、大アヤカシを皆やっつけるんだ♪　猪王もこのまま大人しくしてるとは思えないしね！　頑張るぞー！」 「ぷ……くくく……くすくす……」 　ファムニスは笑みをこぼしていた。 「どうしたんですかファムニスさん？」 　芦屋が問うと、 「い、いえ！　何でもありません！　ええ！　ありませんとも！」 　ファムニスは口許を緩めて、湯船から上がった。 「芦屋さん……あかりさん……どうぞ……！　背中流して差し上げます！」 「それじゃあ」 　芦屋は湯船から上がった。 「やだよう！　撃てー！　ファイヤー！」 　あかりは笑って水鉄砲を撃った。 　それから何だかんだで、みんなで体を洗う。 「私も姉さんに負けない様に強くなりますよっ」 　ファムニスは決意を新たにする。 「随分と賑やかになっているようですね」 「あら？」 「こんばんは」 　入って来たのはコルリスに雛、リンスガルトに雁久良だった。 「リィムナ、抜け駆けは許さんぞ」 「ちょ！　違うって！　何でみんな！？」 「男湯の方には玲璃さんとテラドゥカス、不破さんが来られましたよ」 「みんな寂しがり屋なんだから〜」 　リィムナの笑顔が、弾けた。 　おしまい。