大地の精霊と不厳王と、人と
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/08 19:29



■オープニング本文

 武天国、かつて龍安家が治めていた土地、鳳華……。

 今、龍安弘秀は、天承において鳳華のケモノの主である白狐と向き合っていた。白狐は全身白毛の四尾の巨大な狐であり、精霊術を用いる。人間より遥かに長く生きていると言われ、鳳華の白仙山で守り神として現地の民から敬愛されていた。
「それで、話を聞こうか」
 そう言う弘秀の傍らには、サムライの橘鉄州斎(iz0008)がいた。アヤカシ、精霊、もののけ七変化となれば、この男の出番である。
「白狐か、珍しいねえ」
 橘が醤油と砂糖で味付けした油揚げを差し出すと、白狐は気をよくして「これは大好物」と、お揚げさんを平らげた。橘がそうしながら、白毛を撫でていると、白狐はやがて本題に入った。
「天承には秘密があると言われていてな。ここは龍脈の中心なのだ。地下に大地の精霊が眠っている……と言われている」
「そんな話は俺も聞いたことが無いぞ」
 弘秀は問い返した。
「聞くところによると、遥か昔、龍脈が安定していた頃、『彼女』は安息の眠りに付いていて、地上には『浄化の砂塵』と呼ばれる砂の障壁が瘴気を阻んでいたと言う。それが途絶えたのはいつからかは知らんが、わしが生まれた頃には、そんな話は伝説になっていた」
「白狐よ、もっと具体的な話を期待していたんだがね」
 弘秀が言うと、白狐は、またお揚げさんを食べて、言った。
「だが、探す価値はあるだろう。自分たちの足元に彼女が眠っているとしたら……無論、精霊が簡単に手を貸してくれるとは思えんが」
 その時だった。空中に不厳王(iz0156)の幻影が出現して、ざらついた吐息を漏らした。
「人間ども……大地の精霊の力を借りる気か。目障りな狐め」
「お前が出て来ると言うことは、大地の精霊は実在するんだな」
 橘が言うと、不厳王は笑った。
「無論だ。奴の眠りを妨害し、龍脈の流れを乱したのはわしなのだからな。奴に安眠などさせてやるものか」
「何だと……?」
「人間ども、そして狐、貴様等の思い通りにはさせぬ。今更、浄化の砂など復活させられてたまるか。無事に精霊の元へ辿りつけると思うなよ」
 不厳王の幻影は消えていく。
「待て不厳王!」
 大アヤカシの幻影は、ざらついた吐息を残して消えた。
「…………」
 さて、どうするか。どうやら不厳王は先回りをするつもりのようだ。
 と、そこへ側近の西祥院静奈がやってきた。
「お屋形様」
 静奈は、場の空気を察して、足を止めた。
「何か、ありましたか? 白狐様から有益な話は聞けましたか?」
「何かあったのか」
 弘秀が問うと、静奈は頷いた。
「天承郊外の砦跡が崩れ落ち、大穴が開きました。どうやら、かなり奥まで広がっているようです」
「おい」
 弘秀は立ち上がった。だが静奈は言った。
「なぜかは分かりませんが、不死軍が集まって来ています。今、郊外で睨み合いが始まっています」
「弘秀」
 橘は頷いた。
「よし、敵軍は静奈、お前に任せる。俺は地下へ下りる――」

 アヤカシ軍――。
 美貌の上級アヤカシ真沙羅姫は、上空から灰となって舞い降りて来ると、実体化して龍安軍を見た。
「大地の精霊か……不可解な。だが、敵には違いない」
 真沙羅姫は、不厳王の言葉を思い出していた。
 ――奴を怒らせるな、ただ人間たちを行かせるな、何としても止めろ、と。
 真沙羅姫は、幽霊アヤカシを率いて空から大穴への侵入を試みる。
 そして、不死軍の戦士たちはゆっくりと前進を開始する。

 開拓者ギルドにて――。
 ギルド受付係の森村佳織(iz0287)は、鳳華の状況を風信機で確認すると、開拓者達を手配していた。
「大地の精霊がピンチらしいです」
 佳織は説明した。
「不厳王に対抗できる……かも知れない力が何かあるそうです。これはもう、行ってみるしかありませんよね。精霊さんを守って、協調体制を築いて下さい。精霊は人間の理では動きませんから、言葉は通じても、うまくやる必要があると思います。……もちろん、本当に精霊に出会うために、彼女? を探さないといけませんが」
 鳳華、天承郊外で、古の精霊を巡る戦いと冒険が始まる。


■参加者一覧
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
鶯実(ia6377
17歳・男・シ
和奏(ia8807
17歳・男・志
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
成田 光紀(ib1846
19歳・男・陰
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫


■リプレイ本文

「弘秀様、また、今度は大事になってきましたね」
 コルリス・フェネストラ(ia9657)は言って、敵を見る望遠鏡を下ろした。
「まあな。龍脈とはな……」
 弘秀はうなった。
「御大、知っているか、五行国で起こった事件を」
「うん?」
 成田 光紀(ib1846)は、五月に五行で起こった騒動に付いて語った。
「噂には聞いたが……地下を走る龍脈に流れる精霊の力、瘴気の関係か……」
 弘秀がうなると、成田は思案顔で煙管を吹かした。
「想像の域を出ないのだが……生成姫が残した言葉が気に掛かる。いや、これまで大アヤカシが残してきた言葉がな」
「滅び、ですね」
 コルリスの言葉に、弘秀は笑った。
「世界が滅びるのだと言うが、お前たちは順当に大アヤカシを倒しているではないか。何を思い煩う」
「それこそが……もしや、アヤカシの言う滅びにつながっているのだとしたら……」
「考え過ぎだろう。アヤカシを倒し、世界を取り戻す。魔の森を焼き払い、大地を清浄化する。それこそ、人の悲願」
「俺たちは見てきたのだ……大アヤカシが滅びゆく姿をな。少なからず。人の理を越えた神とも言うべき姿ですら、俺たちは葬り去って来た」
「ふむ」
 弘秀にとって、成田やコルリスの懸念は、理屈としては理解できる。
「だが仮にこの世界を作った神か森羅の理があったとして、それを知っても、恐らく答えは見つかるまい」
「というと?」
「今まさに世界が滅びに向かっているとして、人が森羅万象を動かせるほどの力を持っているなら、大アヤカシが『滅び』などと言うだろうか?」
「だが、大アヤカシは何かを知っているのだろう。このままでは確実に人も世界も滅ぶと。それが数年後なのか数百年先なのかは知らない。数年先なら俺たちはお終いだがな……」
 成田は刺激的な議論を楽しむように言った。弘秀は返す。
「人は神にはなれないからな。自分たちの取るべき選択肢は理や真実には無い。もし事実本当に滅びの未来しか残されていないなら、無駄なことだろう。だが滅びを回避する道があるなら、それは世界の力を結集してでも立ち向かうべき我々の道だろう。アヤカシとの共存は不可能だ。だが真理は導いてはくれない」
「だがそれでも、求めずにはおれない開拓稼業だ。もし滅びるしかないとしても」
「悲しい性ですね」
 コルリスは笑った。
 刺激的な議論はそこまでだった。今は鳳華を守る術に思案を巡らせる。

 コルリスは山紫を駆って飛び立った。アヤカシ達も一部が飛び立ってくる。
「迎撃開始! 四指戦術!」
 コルリスは号令を下した。龍騎兵隊が四騎一組みの戦闘隊形をとる。
「いきますよ! ここから先は……通しません!」
 弓の弦を弾く。鏡弦。感知できたのは八騎。
「集中攻撃! 撃て! ――翔!」
 百発を越える矢が一斉に放たれる。
 死骸龍に乗ったアヤカシ歩兵は撃墜されて瘴気に還っていく。
 続いて、コルリスらは大穴周辺のアヤカシに爆撃を加えた。焙烙玉による攻撃だ。
「放てー!」
 龍安軍龍騎兵が絨毯爆撃。アヤカシ重歩兵は吹き飛んだ。

「龍脈の中心とはな……興味のそそられる話である。調査もしてやりたいが、こう騒がしくては叶うまい。地下に行くのは透子君にでも任せて、連中の相手でもしてやろうかね」
 成田は兵とともに前線に出た。
「氷龍召喚!」
 符を解き放つと、白い龍が出現し、氷の息を吐いた。アヤカシ達は凍てつくブレスに悲鳴を上げた。
 コルリスらの絨毯爆撃が派手にアヤカシ外周を吹き飛ばしていく。
「ちょっとやり過ぎではないかね」
 成田は上空を見やり、白い球体を召喚すると、それをアヤカシ指揮官に食らいつかせた。魂喰。
「撃て!」
 アヤカシ指揮官に無数の矢が突き刺さる。しかし、指揮官アヤカシは突進して来た。
「しぶとい。猛烈射撃!」
 成田は再度友軍の攻撃に合わせて、魂喰を連射した。
 突進してくるアヤカシ指揮官は走りながらぼろぼろになって瘴気に還った。
 成田はそれから後も、しばらく前線に残り、アヤカシ兵を蹴散らすと、大穴周辺を確保して軍中央まで後退した。
「これで地下の連中も心おきなく……ん?」
 ぶわっ、と、何かが地面から舞い上がって、大穴へ加速していく。
「ゴースト! 幽霊集団か!」
 幽霊たちは高速飛行で大穴へ吸い込まれるように消えた。
「まあ仕方ないか……後は託したぞ。透子君」
「はい」
 鈴木 透子(ia5664)は頷いた。
 そうして、コルリスが狼煙銃を撃ち上げたところで、鈴木、ルオウ(ia2445)、鶯実(ia6377)、和奏(ia8807)、不破 颯(ib0495)、ファムニス・ピサレット(ib5896)らは、突入部隊とともに地下へと降りていく。
「ようし、シノビ、吟遊詩人のみな、各部隊、連絡を頼むぞ」
 成田は守りを固める。シノビが散っていく。
 手持ちの戦力を正面に集めると、サムライ中心の小隊で盾を構えて壁を築いた。
 また陰陽師と魔術師が防壁を築いていき、さらに分厚い防御陣を築く。
「お見事です……」
 コルリスは上空から整然と並ぶ陣を見ていた。
 アヤカシ軍は一時後退すると、態勢を立て直すべく距離を保った。
「結構、このまま時間を稼がせてもらおう」
 成田は望遠鏡を下ろして煙管を吹かした。上空のコルリスに手を振る。コルリスもそれに応えた。

「でやあ!」
 ルオウは、地下の大空洞にて、松明片手に刀を振るっていた。出現するのは幽霊アヤカシ。
「次から次へとうじ虫が! 邪魔すんな!」
 赤毛の少年は激昂して咆哮で引き付け幽霊を切り捨てた。不厳王(iz0156)の嫌がらせには怒りが込み上げて来る。
「人間を弄び、人界に手下を潜り込ませているかと思えば、精霊まで殺す気か! あの骸骨やりたい放題やりやがって!」
「ルオウさん!」
 鈴木が火炎獣で幽霊を焼き払った。危ない、側面を突かれるところだった。
「大丈夫ですかルオウさん」
「鈴木、あちーよ。もちっと手加減してくれよなー」
 ルオウは周囲を見渡す。
「それにしても……ここが龍脈の中心とは……」
「ん? 中心てのは、鳳華か、この辺一帯の中心、て意味じゃねえか?」
「そうですね……でも、鳳華も大きいですからね」
「おい見ろよ」
 ルオウは警戒しながら、鈴木を連れて前進した。
 何かが光っている。これは……。
「宝珠……か?」
 むき出しの宝珠のように見える。小さく黄金色に光っている。
「やれやれ〜……敵さんも簡単には通してくれんね」
 鶯実は言って、歩いてきた。ルオウと鈴木の側へやって来ると、地面に松明を向けた。
「宝珠? ここ遺跡だったんか?」
「何か不思議な場所だよな。天承城の真下にこんな大空洞が広がっているなんて」
「いや、まあ、遺跡と言うより、廃墟か……ただ、人がいたとは思えんね」
 鶯実は、ぼろぼろになった壁の跡を見やる。もはや原形を留めていない。常時超越聴覚で音を拾っている。
「こっちには敵はいないみたいですね」
 和奏が心眼で探って、やってきた。抜刀している。すでに幽霊を何体も切り捨てた。……精霊を見ることが出来たら良いんですけどね。和奏の好奇心は胸の内でざわめいていた。
「精霊さん美人だったらいいのにねぇ」
 和奏の後から現れた不破は精霊が「彼女」であるらしいことを聞いて、わくわくしていた。その後から、またファムニスが姿を見せる。全員合流した。
「精霊様を騒がせて、怒らせてしまわないか、心配です」
「どーなのかねぇ。何か、その辺は嫌な予感がするけどね……少なくとも、人間に好意を持つ理由が無いしねえ。不厳王に叩き起こされてどれくらい経っているのか知らないけど、寝てないところへ俺たち行くわけだし。不機嫌じゃないかなあ」
 不破は気にする風も無く言ったが、ファムニスの不安が増大する。
「ですよね。何か、ファムニスもそんな気がしてたんですよ。大丈夫ですかね……」
「待った」
 鶯実が手を上げて言った。
「何か聞こえるぞ。足音だ……和奏君」
「やってます」
 和奏は心眼を使っていた。
 ファムニスは念のため自分に精霊壁を掛けておく。
 この状況で、真沙羅姫が来ないと思う者は一人もいなかった。
「どっちだ……」
「心眼に反応しません……効いていませんかね。真沙羅姫ですか……?」
 長い沈黙が流れる。
 ルオウは咆哮を何度も使っていた。
 開拓者達は前進した。
 と、前から幽霊の集団が壁をすり抜けて姿を見せる。
「来ますか……」
 和奏は加速してアヤカシを切り捨てた。
 鶯実と不破も分かれて手裏剣と矢を叩き込んだ。
 鈴木は背後の道を結界呪符で塞いでおく。
 その時だった。
 開拓者達の頭上を灰が舞って行き、みなの前方十メートルほどのところへ降りた。灰は人型を形成し、真沙羅姫になった。
「ここから先は通さん。これでも食らえ」
 真沙羅姫は腕を伸ばした。が――。
「……瘴気が足りん……っ ならば……」
 今度は、真沙羅姫は呪文を唱えた。しかし何も起こらない――。
「術が……使えん……っ おのれ……!」
「頂きます」
 和奏が加速した。刀ごと体当たりした。しかし、真沙羅姫は無数の刃に変身して和奏を切り裂いた。
 真沙羅姫はそのまま逃走した。
「大丈夫ですか和奏さん」
「あいたた……やってくれますね……」
 ファムニスが回復する。

 開拓者達は前進した。やがて――。
 ぼろぼろの建物が点在している場所に出る。そこには黄金の砂丘があった。
「凄いな……」
 鶯実は素直に感嘆の息を漏らした。
 全員踏み込む前に砂を触った。砂は光っていた。
 さて……どうするか。考えていると、砂がさらさらと盛り上がって、その中から、黄金色のワンピースを身に付けたすらりとした娘が姿を見せた。見た目は人間だが、そうでない証拠は、彼女は金色に光っていた。
 ファムニスは仲間に頷き、準備通り進み出ると、舞いを始めた。
「優しきかな優しきかな、嬉しきかな嬉しきかな、愛しきかな愛しきかな、穏やかなる方……何卒、このわたくしファムニスの舞いをお納め下さい……」
 ファムニスは心を込めて歌い、舞った。
「誰なの?」
 精霊は言った。
「はじめましてだな、俺はルオウってんだ」
「俺は鶯実。俺たちは開拓者って言って、君の味方だ」
「…………」
 和奏は一歩引いて精霊を見ていた。内心はともかく、驚異の瞬間に満足していた。
「初めまして、この地の方々から貴方を探せと頼まれて来た使いの一人で、不破颯と申します。お騒がせして申し訳ありません」
「鈴木透子と言います。人間なので昔のことは覚えていません。あなたのお名前を教えて頂けませんか?」
 精霊は、無機的な口調で言った。
「亜紫亜(あしあ)と言います」
「亜紫亜ってのか。えっとな、俺たちはアヤカシと戦ってる。そのアヤカシがあんたを狙ってるみたいだ」
「亜紫亜さん、遥か昔は眠っておられたそうで。しかもなんか凄い砂の壁があったとか。何故お目覚めになられたんで? というか昔は何で寝てたんで?」
 大地の精霊「亜紫亜」は、数秒の沈黙ののちに口を開いた。
「眠りを妨げられたのです。眠ることさえできればいいのに……」
「そこなんです」
 鈴木が言った。
「龍脈を乱してあなたの眠りを妨げているのは、不厳王というアヤカシなんです。今、あたしたちは、不厳王と戦っている最中なのですが、とても困っています。敵は強大です」
 続いて不破が言った。
「龍脈が乱れてるのって関係ありますよね? 我々としてはこの地の龍脈の安定とアヤカシの殲滅を行おうと奮闘中。もし力貸してもらえるならありがたいなとは思ってるんですよ〜」
「あんたがどうしたいかにもよるんだけどさ、アヤカシはあんたを敵だと思ってるみたいだし、あんたもアヤカシが迷惑なんじゃねーの? だったら協力できんじゃねーかと思うんだ。少なくともさ、俺らはあんたを敵だと思ってないし危害を、加えたりする意思もない」
 開拓者達の言葉を聞いても、亜紫亜はどこか遠くを見ていた。
「私は眠りたい。ただそれだけ。眠ることが出来ればそれでいいの。龍脈の流れを元に戻してくれたら、私は眠れる……」
「ふ、む……」
 鶯実は思案顔で亜紫亜を見やる。
「頭が痛い……ひどい雑音がする」
 亜紫亜は表情を変えずに言うと、砂の中へ戻っていく。
「待って下さい!」
 鈴木が呼びとめた。
「龍脈とは何なのですか? どこと繋がっているのですか?」
「…………」
 亜紫亜は少し首を傾げた。
「私が眠る場所のことを言っているの? それなら、この大地と繋がっているわ」
「アヤカシ達は何故、龍脈を乱そうとするのですか?」
 鈴木の問いに、亜紫亜は淡々と答える。
「かつて、多くのアヤカシがここへ来て、私は彼らを滅ぼしました……」
「では最後に! 何故、殆どの精霊は眠られているのですか?」
「それがあるべき姿なの……私はただそこに眠っていて、存在している……お願い……眠らせて……」
 そうして、亜紫亜は砂の中へ消えて行った。彼女が再び姿を見せることは無かった。

 地上――。
 数日後、アヤカシ軍を撃退してから、開拓者達は天承に帰還した。みな困惑を隠せない。
「結局、どうすりゃいいんだ?」
「眠らせてくれとしか言わなかったな……」
「ですが、それこそ、不厳王が恐れていることでしょう? 彼女を眠らせる方法を探さなくてはいけませんねえ」
「でも、どうしたらいいんでしょう?」
 開拓者達が話し合っていると、龍安弘秀が、西祥院静奈と橘鉄州斎(iz0008)と芦屋馨(iz0207)と、白狐を伴ってやってきた。
「弘秀様、ただ今戻りました」
「おう。お疲れさん」
 開拓者達は経緯を話す。
「そうなのか。精霊と会うことはできたが、浄化の障壁の謎は解けなかったか……」
「まあ、友好関係を築くことは、出来たんじゃないかと思いますけど……」
「むむう……」
 その時だった。一人の人物が、来訪して来た。
 泰国から来たと言う風水師、王良という男だった。無精ひげを生やした長身の中年で、大きな荷物を抱えている。
「懐かしいね。鳳華。二十年ぶりくらいか」
 王良は、約二十年前に、天承城の設計に関わった風水師である。当時、風水師としての立場から、龍安家にアドバイザーとして雇われていたと言う。
「老中の真禅様から連絡を受けて、飛んで来てね。大地の精霊がいるって? 本当に会ったのかい」
 お互いに自己紹介を済ませると、開拓者たちは王良に事の次第を話した。
「打つ手は、無いことは無い。餅は餅屋に聞けって言うだろ? 龍脈の謎を見つけるのは君たちの仕事だろうが……」
 そう言って、王良は大きな風水の羅針盤を取りだした。
「龍脈の流れを探すなら、俺の出番だよ」
「分かるんですか? 龍脈の乱れが?」
「龍脈には大きな中継地点がある。まずはそこを当たってみるのが良いだろう。……地図を持ってきてくれ。早速探してみようじゃないか」
 開拓者達は、不思議な羅針盤を操作する王良を見つめていた。
 精霊は実在した。鳳華の龍脈伝説は本当だった。そして今、天承城の秘密が明らかになる。