遭都の闇はどこまでも
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/07 18:55



■オープニング本文

 遭都――。
「芦屋様、お湯の支度が出来ました」
 侍女が伝えに来ると、芦屋馨(iz0207)は「ありがとう」と言って、筆を置いた。遭都も冷え込んできた。芦屋は立ち上がると、浴室へ向かった。
 湯加減を確かめると、芦屋は衣服を脱ぎ始めた。上の衣を脱いで、下着も外すと、白く瑞々しいしなやかな肢体が湯煙の中に浮かび上がる。芦屋はゆっくり、足から湯船に入っていった。全身湯船につかると、生き返ったような心地になる。芦屋は吐息して、子供のころに教わった歌を口ずさんだ。
 とその時である。がらりと浴室の扉が開いて、男が入って来た。
「よお馨」
 その偉丈夫は正装していたが、どこか野性的な風貌で無精ひげを生やしていた。
 芦屋はその声に聞き覚えがあった。
「兄上、何のご用ですか」
 芦屋の声にうろたえた様子は無かった。
 男の名を芦屋実近と言って、こちらも藤原家の側用人だった。馨とは仕えている人物が違う。
 実近はにっと笑って、近づいてきた。
「それ以上近づいたら、黄泉で撃ち抜きますよ」
「まあそうかりかりするな。ちょっと重大なことを伝えに来てやったんだぜ」
「ではそこから話して下さい」
「お前を狙っている男がいる」
「男とは?」
「そいつはちょっとお前は知らない方がいい」
「意味が分かりませんが」
「厄介な相手だな。相手は貴族だ」
「誰ですか」
 芦屋の声は氷のようだった。
「うーん……まあ、とりあえず、護衛の開拓者を呼んでおいたから、知りたきゃ連中に聞いてみな」
「…………」
 芦屋は、じっと、人を食ったような兄の表情を見つめていた。
「じゃあな。気を付けろよ。少し大人しくしてろ。あんまり心配かけんな」
「兄上」
「何だ」
「今度入ってきたら迷わず撃ちますからね――」

 ところ変わって――。
「――沙羅、お前の力は良く分かった。確かに、浅葉の小僧は鬼の襲撃を受けた。アヤカシを操るという力、本物のようだな」
 中級貴族の男――九鬼宗光は、言って女を見返した。
 女――沙羅は口許を緩めた。
「わたくしの力、お分かり頂けましたか?」
「では一つ、俺の望みを聞いてもらおうか」
 宗光が言うのに、沙羅は笑みをたたえたまま男の器に酒を注いだ。宗光は酒を飲み干し、言った。
「芦屋馨が欲しい」
「まあ。そんなこと簡単じゃありませんの? あなた様のお力を以ってすれば」
「あの女は藤原の子飼いだ。金と権力が通じる相手ではない。だからお前を頼ったのだ。妖術師」
「蛇の道は蛇ですわね」
 沙羅はくつくつと笑った。
「では……力でものにするしかありませんわね。多少強引な手を使っても?」
「構わん。俺の前にあの女を連れて来い。楽しみにしているぞ妖術師……芦屋を俺の意のままに出来たら、褒美をつかわそう」
「ええ……」
 沙羅は、顔を伏せて、嘲るように笑っていた。


■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
ウィンストン・エリニー(ib0024
45歳・男・騎
将門(ib1770
25歳・男・サ
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔


■リプレイ本文

「それにしても見る目はあるのだろうが、私の女で馨ちゃんに目をつけるとはいい度胸をしているな」
 と、まずみんなの前で堂々と勝手な感想を言ったのは華御院 鬨(ia0351)。
「華御院様、今回はすみません」
 芦屋は笑みを浮かべて軽くお辞儀した。華御院の仕事は良く知っていたから信頼は置いていた。
「馨ちゃんと俺の仲じゃないか。水臭いこと言うなよ」
「すみません」
「俺はサムライのルオウ(ia2445)! よろしくなー。最近はここ物騒だなあ……鬼が出たり。護衛がんばるぜぃ!」
「ルオウ様もお久しぶりですね。よろしくお願いします」
「よろしくなっ!」
「今回は兄の勝手な依頼で、申し訳ありません。兄も何を考えているのか……ルオウ様は何か御存じですか?」
「馨、九鬼宗光って知ってるか?」
「それなりの家柄の貴族ですね。宮中でも顔を合わせたことがあります」
「今回馨を狙っているのが、その九鬼だって話だ」
「そうなんですか?」
「九鬼の奴、馨に歪んだ感情を抱いているんだってよ!」
 ルオウは憤慨していた。
「しかも、沙羅っていう妖術師だか何だか、アヤカシ使いの手を借りて、馨を襲わせようって腹なんだ」
「なるほど……良く分かりました」
「芦屋様、今回は大変なことになり、心配しております。こうして駆けつけた次第です」
 コルリス・フェネストラ(ia9657)が言うと、芦屋は「ありがとうございます」と答えた。
「すみませんコルリス様」
「馨女史も苦労が絶えないであるな」
 ウィンストン・エリニー(ib0024)が言うと、芦屋はお辞儀した。
「エリニー様にもご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません」
「オレたちは仕事であるから、正直馨女史の負担が心配であるな」
「九鬼宗光の依頼で沙羅とかいう女がアヤカシを使い馨殿を襲撃する、か。……実近殿の諜報力は大したものだ」
 将門(ib1770)は言って思案顔。
「まあ、とりあえずは馨殿の安全の確保だが、今回防げても根を断たなければ繰り返しになる虞がある。九鬼には退場して貰いたいが……さて」
「将門様、兄はシノビ衆を手元に置いておりますから、九鬼だけを監視していたわけではないでしょうが……他に九鬼を監視する理由があったのでしょう」
「それは、沙羅の件では」
「そうですね……沙羅ですか」
 芦屋は思案顔でいた。
「思い当たる節があるのですか?」
「ええ……偶然でしょうか。鳳華で反乱を鎮圧した際に、沙羅と言う女と関わったことがあります」
 すると、鳳珠(ib3369)が口を開いた。
「偶然ではないかもしれませんね。芦屋様に関わることになったのは」
「沙羅は瘴策結界に反応が無く、アヤカシでは無かった、と報告を受けているのですが」
「それは、考え直した方がいいかも知れませんね」
「馨さんも大変ですね……友人である以上はその危険を捨て置けません。機会があれば……九鬼にはこのことも後悔させてあげたいですね」
 言ったのは長谷部 円秀 (ib4529)。
「長谷部様、御心配をおかけし真に申し訳ありません」
「御自分が悪いなどとお考えにならないで下さいね。必ずお守りしますから」
「九鬼が私を狙ってくるなんて……想像もしませんでしたが……」
「馨さんは、迂闊に刺激しないことですよ。この手合いは、馨さんだけで解決できるとは思えません」
「それは……」
「それにしても、なんで攫う方向に行くんだろうね……」
 呆れ顔で言ったのはリィムナ・ピサレット(ib5201)。
「馨さんも変なのに目を付けられたね。ヘンタイ貴族さん、女の子を何だとおもってるんだろーね」
「九鬼の悪い噂は聞いたことがありませんでしたが……このような暴挙に出る男とは知りませんでした」
「馨さんも良く知らないのに、相手は執念深い奴なのかなあ……うう……考えただけで寒気がする〜!」
「すみませんねリィムさん」
「そんなに謝ることないよ馨さん! 後でぎったぎたのぼっこぼこに……出来るかなあ」
 それから開拓者達は林原も交えて作戦を練った。
「鈴香ちゃん、久しぶりだね。で、君たちは心眼とか使えるのかな。可能なら、アヤカシの位置確認をお願いしたいのだが。お礼に食事をご馳走するから」
 華御院はしゃあしゃあと依頼のついでにナンパもしておく。
「華御院……お前は心強いが、そのナンパ師の変装は何とかならないのか? 落ち付かん……いや私はともかく部下達が……」
 林原は頭痛を押さえながら答えた。林原の部下達はみな若い娘たちで華御院のイケメンぶりに落ち着かない様子であった。
「心眼『集』はもちろん使える。この任務なら活性化させておかんといかんな」
「よろしくお願いするよ。後で食事に行こうね」
「はい!」
 部下の一人が言うと、林原は睨みつけた。
「んじゃあ俺は、ま、直衛については女性陣にお任せして、来た敵を対処するぜ。馨については、よろしく頼むぜ! こっちは適当に引いた位置を保って、馨から目を離さない様にしておくけど。感知術を使える鬨や鳳珠は指示してくれたらすぐに動くからよろしくな!」
 ルオウが言うと、華御院と鳳珠は頷いた。
「んじゃまよろしくルオウ」
「ルオウさん、よろしくお願いしますね」
「アヤカシの類は私の方でも鏡弦で感知できるものは順次射抜きます。人の場合は位置をご指示頂ければ、射程内であれば射抜いて敵達が本来やろうとすることを邪魔し続け、護衛や撃退を支援します」
 コルリスは言ってから、補足した。
「今回襲来する敵に関しては、壁や罠などが通用しないことも考えられます。私の鏡弦は射程距離が百二十メートルですので、華御院様や鳳珠様、志士の皆様には、適時お知らせて頂ければ、月涙で撃ち抜いて行きますので」
「コルリスちゃんお任せ」
「承知いたしました」
「各自、敵戦力は不明であるから、練力の消耗には注意するであるな。人目に付かず大軍を送り込んで来るのは不可能かと思われるが、囲まれぬよう、防御の有利を生かして各個撃破に務めるべきであろうな」
 エリニーは思案顔で言って、顎をつまんだ。
「芦屋邸内につき、馨女史の安全確保する為に、有事には関係者全員で統一認識した場所へ隠れるがよかろうな。鈴香ら側近志士一同については、休憩を挟みつつ時間、方向による対応人員の巡回の交代を要望するところであるな」
「了解したエリニー殿。お任せいただこう」
「そうだな……ま、大の男が四六時中着いているのも気詰まりだろうから、俺は外縁部で外の異常がないか監視するとしよう」
 将門は言って、肩をすくめた。
「襲撃時は馨殿の側へ移動して、防戦に務めさせていただく」
「私の瘴索結界『念』はアヤカシを感知可能ですが、地中までは探索できませんので、他にも探索手段のある方々と共同で探索にあたります」
 鳳珠は言って、華御院や志士らとの連携を確認しておく。
「地中から来る者は間違いなくアヤカシですから、その際にはすぐさま後退し、芦屋様の周囲を固める必要があるかと存じます」
「では……取り敢えず鳴子と鈴で音の仕掛けをしておきましょうか」
 長谷部が言った。
「いつ来るかは分かりませんから気づくための作為をね。シノビが来た場合、掛からないでしょうが、振動で音は鳴るでしょうし。後は屋敷の構造を覚えてどこから来るか当たりをつけておくことが必要でしょうか」
「そうですね……では手配いたしましょうか……」
 林原は頷いた。
「じゃあ、あたしも馨さんの直衛だね! スキルもちょっと活性化して来たし、万が一に備えてね。それから、志士の人達含め、単独行動は控えて欲しいかな。一人でいて敵に襲われシノビとかに入れ替わられて侵入されるのは怖いからね。馨さんには屋根裏部屋に隠れてもらおうとか……考えて来たんだよ!」
 リィムナが言った。
「鍵付きの頑丈な櫃を用意して屋根裏部屋に。底に石を敷き重くして、布団を敷いて体を傷めない様にして、空気穴を開ける。有事には芦屋さんにそこに隠れてもらい、施錠してあたしがマジックロックを掛けるよ。これなら、まず馨さんを奪うのは不可能。鍵はダミー鍵束数十本と共に林原さんとあたしが所持でね。必要になった時に開けて退避をしてもらうよ。侵入者用に、屋根裏部屋内外には鳴子を幾重にも張り巡らせておくよ」
「了解しました……リィムナさんの提案に従いましょう」
 芦屋は言った。
「鈴香、櫃を用意して下さい」
「はい」
「みなさん、よろしくお願いします」
 芦屋は深くお辞儀した。

 夜――。
 華御院は邸の周囲を見て回っていた。心眼「集」で確認しつつ、警戒に当たる。
「沙羅の件……どう見る?」
 やってきた将門が華御院に問うた。
「貴公、鳳華にはよく行っていたそうだが」
「そうだねえ。沙羅か。将門も確か一度か二度はあの時いたはずだけど?」
「ああ……こうなると、あの女はアヤカシと考えた方が良いだろうな。偶然にしては出来過ぎだ」
「ふむ……」
 エリニーがやって来た。
「異常は無しであろうか?」
「ああ。今のところは」
「……実近の伝えたところによれば、敵は隠密が多数であるとのこと。確か、影に擬態するアヤカシなどもこれまでいたであろうしな。修羅との接触の折であったか……」
「そうだな。それに、実際にシノビが来る可能性もある」
「うむ……」

 長谷部は月を見上げていた。後退で休憩を取りつつ、茶を飲んでいた。
「…………」
 張り巡らせた鳴子はぴくりともしない。
 と、そこへ芦屋たちがやって来た。
「長谷部殿――」
「ああ、馨さん。大丈夫ですよ。貴女には指一本触れさせませんからね」
「九鬼がどんな手を使ってくるのか……不安ではありますね」
 芦屋は浴衣を着ていた。
「これからお風呂ですか?」
「そうだよ!」
 リィムナがぴょこっと顔を出した。
「やあリィムナ君。護衛をしっかり頼むよ」
「任せといて! 行こ! 馨さん!」
 リィムナと芦屋は歩いて行った。その後に林原とルオウが続く。
「俺は外を守ってるぜ」
「よろしく」
 長谷部は四人を見送った。

 リィムナは芦屋と一緒にお風呂に入っていた。
「こんな時じゃ無ければ楽しいんだけどねえ……」
 リィムナは芦屋の背中を流しつつ警護する。
「わぁ綺麗な肌ですね♪」
 羽扇を頭の上に括り付け所持し、魔法を使える様にしておく。
「それじゃあ、リィムナさんの体を洗って差し上げましょうか」
 芦屋は言って振り返ると、石鹸でリィムナの体を洗ってあげた。
 それから二人で湯に浸かっていた。

 ――鳴子が鳴ったのはそんな時だった。
 長谷部は静かに湯飲みを置いた。
 外が騒がしくなってくる。
 コルリスと鳳珠が走って来た。
「芦屋様は?」
「今しがた、お風呂に向かわれましたが」
「鏡弦に反応が。アヤカシが来ます」
「では――」
「瘴策結界にも反応があります。数は十八」
「十八ですか」
 将門たちが戻って来る。
「芦屋殿は」
「今――」
 と、芦屋がリィムナらと一緒に戻って来た。
「来ましたか?」
「馨さん、上に上がって下さい」
 長谷部は立ち上がった。
「幽霊みたいな獣が来るぞ。壁を通り抜けそうだったので集中して潰しておいたが」
「こちらで迎撃します。鳳珠様、志士のみな様、敵との距離を探知願います」
 芦屋に上に上がってもらい、リィムナ、コルリスと鳳珠、林原が後に続いた。すぐ下にはルオウと将門、華御院が付いた。
 ――グオオオオオオ! 土中から影が起き上がり、人狼の姿を取り始める。
「おう――!」
 エリニーは突進すると、影人狼を真っ二つに切り裂いた。続く一撃でもう一体も叩き潰す。
「十一時方向、アヤカシとの距離、二十メートルです」
 鳳珠が言うと、コルリスは「翔!」と月涙+響鳴弓の合成射撃技を放つ。
 大音響が夜の芦屋邸になり響く。
「影から芦屋様を遠ざけて下さい。急いで!」
 コルリスは松明の配置を変え、影と芦屋が交わらないようにする。
「馨さん、櫃に入って。マジックロックで蓋をするから」
「分かりました」
 芦屋が櫃に入ると、リィムナはマジックロックを掛けた。
「行きますよ!」
 長谷部は崩震脚を打ち込んだ。衝撃が大地を奔る。地中に潜むアヤカシ達の悲鳴が上がる。
 影がむくむくと湧き起こり、瘴気に還っていく。
 壁を通り抜けてきた霊体狼は、エリニーを盾に、将門、華御院、ルオウ達が撃破していく。
「林原様、ここでシノビがいたら、どのような攻撃が来るでしょうか?」
 鳳珠が問うと、林原は頷いた。
「警戒すべきは影舞と夜だろう。どこまで高位のシノビを放ったのか分からんが」
「ああー!?」
 リィムナが声を上げた。
 いつの間にか、敵のシノビが櫃に取りついている。
「くそ!? 守りが堅い!」
 シノビは狼狽の声を上げた。
 リィムナはアークブラストでシノビの手足を撃ち抜いた――かに見えた。
 だが、シノビの姿は消えていた。
「アヤカシの反応、全て消えました」
 コルリスが、鏡弦で探査する。
「敵はいなくなったみたいだ」
 華御院たち志士は心眼「集」で邸内の安全を確認していた。

 ……事後。
 将門は、実近のもとを訪ね、彼の主である藤原一門の貴族と面会した。
 そこで将門は言った。
「アヤカシを多数操る沙羅が人間というのは無理がありましょう。中級以上のアヤカシである可能性が高いと思われます。御身も気をつけられた方が宜しいでしょう」
「ふむ……九鬼がアヤカシと手を結ぶとは……真なのか実近」
「は……その件は確かなようであります」
「ふーむ」
 貴族は眉をひそめた。実近が全てを話していないと感じたのだろう。
「まあ良い。この件は、委細任せるぞ。九鬼の件は、始末をつけておけ」
「は……」
 将門は改めて実近を見やる。
「それで実近殿?」
「大丈夫です。あの方が任せると言われた以上、九鬼の件はお任せ致します。多少痛めつけても構いませんよ」
 実近はにこにこして言った。

 九鬼邸――。
 開拓者達は夜襲を掛け、九鬼を縛り上げた。
「な、何だお前たちは!」
「藤原公の許可は頂いている。芦屋馨殿の件、知らぬとは言わせんぞ」
「ふ、藤原の……!?」
「残念ながら、馨ちゃんは私の女だ」
 華御院は刀を突きつけた。
「俺は何も知らん!」
「おい! お前ただで済むと思ってんのか!? 馨がどんな怖い目にあったと思ってんだ!」
 ルオウは九鬼のみぞおちに一撃叩き込んだ。
「おい、気を失うのは早いぞ」
 将門は九鬼の顔を持ち上げた。
「後悔して頂きますよ」
 長谷部は九鬼の腕を掴むと、ぎりぎりと力を込めた。
 九鬼の悲鳴が響いたが、助けに現れる者はいなかった。

 ――華御院は、林原と茶店で団子を食べていた。
「お前たち、九鬼に何をしたんだ?」
 林原の問いに、華御院は涼しい顔だった。
「何って別に……まあ、ちょっとね」
「九鬼の奴、芦屋様に謝罪に来たが、色を失っていたぞ」
「へえ? 謝りに来たんだ」
「よほど恐ろしい目にでも会わせたのか?」
「嫌だなあ鈴香ちゃん、俺たちが悪党みたいじゃないか」
 華御院の横顔を、林原は呆れたように見つめ返すしかなかった。