猪王が出た!
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/03 19:07



■オープニング本文

 野趣祭――武天の都、此隅で開かれている秋の収穫祭である。九月十五日から十一月十五日にまで開かれるこの祭りは、此隅の祭りの中でも最大級で、秋に肥えた野生肉が多く扱われる市が立ち並び、猪、鹿、野鳥類など様々な肉の料理が振る舞われる。広場で行われていて屋台も多い。肉を扱う屋台のせいで期間中、此隅には暴力的に美味しそうな匂いが漂い続けるという。
 そんな野趣祭では、獲物の品評会が開かれている。これは武天の王族、大道寺光元が毎年開いているもので、光元のお触れが全国に出され、国中の狩人たちが山野で腕を競う。
 だが、そんな祭にて事件が起こった――。

 狩人の若者は、それを目撃した。
 瘴気と装甲をまとったとてつもなく巨大な赤褐色の猪だ。若者は武天に伝わる話を聞いたことがあった。山に住まう猪の上級アヤカシの話を。そのアヤカシの名を「猪王」と言った。
 猪王は巨大な顎で、捕えた狩人をばりばりと引き裂いて食らった。絶叫がこだまする。
「し、猪王だ……」
 若者は茂みからその姿を目撃し、食い殺されて行く仲間たちを見送るしかできなかった。
(そこにいるのは分かっているぞ)
「え?」
 若者は、頭の中に響き渡った邪悪な声に身動きできなかった。
 ゆっくりと、猪王が、自分が隠れている茂みの方を向いた。邪悪な赤い眼孔が光っている。
 猪王の体にまとわりつく瘴気が、渦を巻く。
(くくくくく……脆弱な人間よ……お前はどの道助からん。生きて、山から出ることが出来ると思うな……くくくく)
「う、わあ……わああああああああ!」
 若者は恐怖に弾かれて無我夢中で走りだした。
 瞬間――。
 ずん! と、何かが若者を貫いた。
「あ……あ……」
 若者は牙で持ち上げられた。若者を持ち上げたのは、大人の何倍もある大きな獣アヤカシ、猪王の眷族、中級アヤカシの「牙猪」だった。牙猪は、笑うような邪悪な咆哮を上げると、若者を引き裂いた。

 ――村では、帰ってこない狩人たちのことを心配して開拓者が呼ばれたところだった。
「何かあったに違いないんですよ。最近近くで牙猪や化け猪が出たって話も聞くし。もしかしたら……そいつに襲われたのかも知れません」
「牙猪が出たってことは……あの上級アヤカシが人里を襲い始めたってこともあり得ますよ」
「猪王、か……」
 村長の言葉に、村の年長者が頷いた。
「絶対そうですよ。あの怪物が人里を攻撃する前に、何とかしてもらわないと」
 村長は吐息して、開拓者たちに頭を下げた。
「みなさん、よろしくお願いしますぞ。もし猪王と出くわしたら、里には近づけないで下さい。猪王は残虐な上級アヤカシ。こんな村など、襲われたらひとたまりもありません」
 そうして、開拓者達は山へ向かって出立するのだった。開拓者たちは遭難した者たちを助けるつもりではいたが、狩人たちが全員、猪王達の餌食となったことをまだ知らなかった。


■参加者一覧
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫


■リプレイ本文

 出立する前の開拓者達を、村人たちは不安そうに見送る。
「しかし……いくら開拓者に若い連中がいるからって、あんたらみたいな子供にこの依頼が務まるのかね?」
 村人たちは、リィムナ・ピサレット(ib5201)とファムニス・ピサレット(ib5896)を見やり、不安そうだった。この二人はまだ10歳そこそこなのだからそれも無理はない。志体が発現したからと言って、本当にこんな子供に任せて大丈夫なのかと……声が上がる。村人たちは合戦での開拓者たちの活躍などを見ていないのだから、これは無理からぬことだったかもしれない。
「大丈夫! あたしたちに任せてよ! みんな心配し過ぎだよ! これでもあたしはギルド屈指の魔術師なんだよ!」
 リィムナは無い胸を張った。リィムナはまだおねしょをしているお子様だが、それは本当だった。精神的な未熟さを補って余りある大魔術師である。
「お……お姉さん……みんなの視線が苦しいよ……」
「何言ってんのファムニス! みんなの不安を拭い去ってこその開拓者! 上級アヤカシ猪王……撃退するんだよ!」
「お……お姉さん……ファムニス怖いよ……」
 と、その時である。一人の少年が進み出てきた。
「よお、お前ら、本物なんだろ?」
「何よあんた」
「これ――」
 少年は、木の首飾りを差し出した。
「俺の父ちゃんも狩人として山に入って行ったんだ。これは父ちゃんがくれたお守り。父ちゃんも持ってる」
 少年は、ファムニスの手に、お守りを握らせた。
「頼むよ。お前ら。父ちゃんを助けてくれよ。俺には何も出来ないけど……お前ら、アヤカシをやっつけて来たんだろ? 頼むよ」
「あの……お名前は……?」
「俺はリュウ。狩人の血を引く子供だ」
 ファムニスは、手の中のお守りに視線を落とす。
「リュウさん……ファムニス……き……きっとお父さんを探してきますね……だから……」
「俺、信じて待ってるからな」
 リュウは、ファムニスの手を握りしめた。
「それでは行きましょうかファムニス様、リィムナ様」
 熟練の弓使い、コルリス・フェネストラ(ia9657)が言った。
「みな様。私達も最善を尽くしますので、待っていて下さい。確かに、私たちは四人しかいませんが」
 二メートルを超す長身のサムライの女、メグレズ・ファウンテン(ia9696)が言うと、村人達はお辞儀した。
「よろしくお願いしますぞ」
「では、行って参ります」
 開拓者たちは出発した。

 山に入った開拓者たちは、作戦を練った。
「まずは猪王達を探し、村から私達へ攻撃の方向を向けさせてから、ですね」
 コルリスは言った。
「リィムナさんが言われていました――鏡弦で敵位置を把握しながらの索敵。敵がいたら月涙で別方向への突撃を誘いリィムナさんでの魔法攻撃等を実施。そして、敵がこちらに突進して来たら――まずは猪王の突進は他の場所へ誘導。そして牙猪・化け猪は攻撃を受け止めたり躱したりしつつ攻撃して数を減らし、猪王にも攻撃を撃ち込んで倒すまたは撤退させる。この流れに私も賛成致します。私は、索敵と猪王達の誘導を引き受けますのでお願い致します」
「コルリスよろしくね!」
「私もできるだけ引きつけて食い止めます」
 メグレズが言った。
「リィムナさんが言われていた作戦で行きましょう。私はみなさんの前衛兼壁役となり、突進回避に間に合わない場合食い止める役になりましょう。コルリスさんの月涙で猪王達の攻撃の向きが変わるのに合わせ、私の方でも咆哮で猪王や牙猪、化け猪達を引きつけてみます」
「メグレズさん……凄い体ですね……」
 ファムニスは、カフィーヤの奥から、全身鎧に包まれたメグレズの恵まれた体格を見て、鎧に触った。
 龍騎士の兜の奥で、メグレズはにこやかに笑った。
「あの少年の父親、見つかると良いですね」
「そ……そうですね……」
 ファムニスは、木のお守りを握りしめた。
「上級アヤカシだね……倒せるかな。ううん、村の人達の為にもやるっきゃないね!」
 リィムナは溌剌と言って、スノウ・ハットのつばを持ち上げた。顔には、陰陽覆「呪」を装備している。全体にびっしりと怪しげな呪紋が描かれた、顔の前に垂らして身に着ける不気味な雰囲気の古びた布である。
「猪王がいるのは確実として行動した方がよさそうだね! コルリス、鏡弦をお願いね! メグレズも壁をお願い! 散らばらずに敵を警戒しつつ、隠密性を保ち探索していこう」
「じ、上級アヤカシ……怖い……です……でもっ。村の人達の為、負けられませんっ」
 ファムニスは、リュウからもらった木のお守りを見つめた。
「猪王は……必ずいるはずです……みなさん連携して……行きましょうね」
 言いつつ、ファムニスは姉のセイントローブを握っていた。
「探索中はみなさんとはぐれない様にして……常時警戒です……ファムニスは目立たない様行動します……敵に先に発見され奇襲されると大変ですから……」
「では、捜索と、アヤカシがいた場合の対処を進めて行きましょう」
 コルリスが言うと、メグレズが体をを起こした。
「私が先頭に立ちましょう」

 コルリスは鏡弦で探査していく。
「……まだ反応はありませんね」
「コルリスさん、こっちを」
 メグレズは、前方を槍で差した。
 木々が破壊されている。地面には獣の足跡が付いている。
「まだ新しいですね……アヤカシかどうかはともかく、気を付けて行きましょう」
 それから、コルリスはメグレズの後ろで進みながら鏡弦での探査を続けて行く。
 と――。
「これは……来ましたね。アヤカシ十体近く。右斜めにいます」
 さらにコルリスは鏡弦を連続使用。アヤカシ達の動きを把握する。
「さらに右側にヒットですね。十体近く。では、村とは逆方向へ回り込みましょう」
 コルリスは鏡弦で仲間達が迎撃しやすい場所を探しながら前進する。
「あれが猪王でしょうか」
 コルリスは、瘴気と装甲をまとった巨大な猪のアヤカシを発見した。
「本当にいたようですね。では、始めます」

 コルリスは立ち上がると、月涙での一撃を放った。
 木々をすり抜け、矢が猪王に撃ち込まれる。
(何奴!?)
 猪王は咆哮すると、部下の猪アヤカシを反転させた。
「よーし行くよ! メテオストライク!」
「お姉さん……ファムニスが援護するの……」
 ファムニスは神楽舞「心」を舞い続け、リィムナの知覚を途切れなく上げておく。巫女の舞いがリィムナの力を上昇させる。
 リィムナは腕を持ち上げると、火炎を召喚する。雪のような白燐に包まれる。
「これでも受けてみなさい!」
 リィムナは腕を振り下ろした。
 ごう! と火炎弾が炸裂し、アヤカシを焼き払った。
 化け猪たちは怒りの咆哮を上げて突撃体制を取った。
「アークブラスト!」
 続いて、雷撃の閃光が奔る。化け猪は撃ち抜かれて悲鳴を上げて瘴気に還元した。
(人間だ! 開拓者か!? 全員殺せ!)
 猪王が咆哮すると、牙猪たちが前進してくる。
「ここまで! 行かせないよ!」
 リィムナは続いて牙猪の脚にアークブラストを撃ち込み破壊し動きを止めに掛かる。
 メグレズは前に出ると、突進してくる牙猪らを咆哮で方向転換させ、ベイル「翼竜鱗」の障壁と不動を駆使して食い止める。
「瘴気に還れアヤカシども!」
 メグレズは神槍「グングニル」を剛腕で振るい、二匹の化け猪を葬り去った。さらに突撃を受け止め、グングニルで化け猪を撃破していく。
 ――オオオオオオオオ!
 牙猪の一撃を受け止めつつ、鬼切で反撃する。グングニルが牙猪の眉間に撃ち込まれると、巨大な猪のアヤカシは絶命して瘴気に還って消失する。
「むう――!」
 メグレズはダッシュすると、距離がある位置にいる牙猪に鬼切を込めた神槍「グングニル」を投擲した。槍が貫通して、牙猪は消滅する。メグレズの体から余剰の練力が放出される。メグレズはアヤカシの攻撃を受け止めながら、前進し、グングニルを拾った。
「ぬうん――!」
 また槍を振るい、アヤカシを仕留めて行く。
 ファムニスはリィムナの側にいて、神楽舞「心」を舞っていた。穏やかな、緩やかな舞いがリィムナの知覚力を常に高める。
「ファムニス! ありがとう!」
「お姉さん……頑張って……」
 リィムナが魔術を振るうのに、ファムニスは舞い続ける。
「メグレズは壁だね!」
 言いつつ、リィムナは牙猪にアークブラストで止めを差していく。
 ――ガオオオオオオオ!
 化け猪が突進してくる。
「お姉さん……!」
「アイアンウォール!」
 リィムナはアイアンウォールでアヤカシの突進を止めた。
「翔!」
 コルリスの月涙+響鳴弓の合成技がアヤカシを射抜く。コルリスは一発放っては別の場所へ駆け、突進を避けながら別の場所から、
「翔!」
 を再度放ち、猪王達の突進を作戦通り村とは逆方向の方角へ分散、誘導しつつ一体ずつ確実に撃破していく。
(人間ども……このわしを狩りに来たか……? 愚かな……わしは王! 猪の王よ! 今までわしを狩りに兵が送られたが、全て食いつくしてやったわ!)
 猪王はメグレズに突撃した。
「来い!」
 メグレズはどっしりとグングニルを構え、ベイル「翼竜鱗」の障壁展開と不動で防御を固めた。
 激突――!
 グングニルは猪王を捕えたが、メグレズは吹き飛ばされた。
(馬鹿め!)
 猪王はメグレズを踏みつけた。
(小娘が! 次は貴様等の番だ!)
「ふん、あんたなんかよりうちの姉さんの方が余程怖いよっ!」
 リィムナは言い放つと、駆け出した。
「ファムニス! こっち!」
「お姉さん……待って……!」
 二人の姉妹は移動する。
「翔!」
 コルリスの一撃が猪王の足を貫通する。
(ぐお!)
 猪王はたまらず後退した。
「ファムニス! 行くよ!」
 リィムナは猪王の一本の足を重点的にアークブラスト連射で狙い潰す。
 ファムニスが神楽舞「心」でサポートする。
 凄まじい雷撃が猪王の右足を射抜いた。
(ぐああああああ!)
 猪王の右足が焼け焦げ、肉が崩れた。
(おのれ!)
 猪王は後退すると、かっと口を開いた。瘴気のブレスで牽制して、後退する。
(人間ども……! 今日の痛みは高くつくぞ! くははは……覚えておけ!)
 猪王は反転すると、木々をなぎ倒して戦線から離脱した。
「メ、メグレズさん……!」
 ファムニスは駆け寄ると、神風恩寵を掛けた。
「ありがとうございます」
 メグレズは立ち上がった。
「どうにか撃退できたようですね」
 コルリスも合流する。
「ですが、さすがは上級アヤカシ、と言ったところでしょうか。まだ余力があったようです」
「姉さん……怖かったよぅ……」
 ファムニスは戦闘が終わると、リィムナに抱きついた。
「仕方ない子ね! ファムニスは怖がりなんだから!」
「だ、だって……」

 それから、開拓者達は狩人の捜索を行った。
「ひ、ひどい……」
 ファムニスは惨状を見て、それを見つけた。
「これ……」
 それは、木彫りのお守りだった。リュウ少年がくれたものと同じだった。
 ファムニスはそれを回収して、そっと抱きしめた。

 村に帰還した開拓者たちは、猪王の発見報告と、狩人たちのことを話した。村人達は悲しみに声を詰まらせた。
「リュウさん……これ……」
 ファムニスは、遺品のお守りを差し出した。
「父ちゃん……」
 リュウは、泣きだしてしまった。
「御免なさいリュウさん……ファムニス……何も出来なくて……」
 リュウは、ファムニスの手の遺品を握りしめて泣き崩れた。
 コルリスは、「ちょっとよろしいでしょうか」と村長に進言する。
「里長に報告し、猪王の攻撃を止めることが出来るように、突進妨害用の罠作りを進めておくべきかと存じます。今日は退いたとはいえ、いつまた襲ってくるとも限りませんし」
 コルリスの言葉に、村長は悲痛な面持ちで頷いた。
「そうですな……あの恐ろしい怪物が、また狩りを開始しましたか……また、犠牲が……」
 村長は、吐息するのみだった。
 かくして猪王と一戦交えた開拓者達は、村への攻撃を阻止することには成功した。次があるなら、もっと兵が必要だと思う。開拓者達は、それぞれの胸に思いを仕舞い込んで神楽の都への帰路に付いた。