【負炎】魔の森の拡大
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/03 20:27



■オープニング本文

 ざわり‥‥と、山から吹き降ろした風が、森の木々を揺らしている。それは木々を抜ける間に強烈な突風となり、里へと降りてきていた。
「今日も風が強いなぁ」
「いつもの事さ。さっさと帰ろう」
 山間の道。両側を崖に囲まれた細い道は、世が世なら天然の要塞と観光名所になるような場所だった。
 だが、今はよその土地に見聞を広めにいけるのは、ごく限られた者達。なぜなら、その崖の上に広がる森には、闇が潜んでいるから。
 その闇に急かされるように、家路につく人々。だがその直後だった。
 きしゃ、きしゃああ‥‥。
 森の中から抜け出るように、獣の声が響いてくる。闇に光るいくつもの目。どさりと崩れ落ちる人の音。そんな、悲しみの連鎖に繋がる光景が、里のあちこちで響いている。
『大殿、さまの、ために‥‥』
 生き残った人々は、そんな声を聞いたとか何とか。

●理穴首都、奏生
 奏生のはずれ、小高い山の上に築かれた砦からも見える負の森はゆっくりとその姿を拡大していた。
 報せによれば、緑茂の里から見下ろす森は全てを飲み込むかのような姿となっているらしい。

「ケモノやアヤカシの討伐が多い‥‥。これは、緑茂の里の戦力だけでは追いつかないでしょう」
 儀弐王は里の被害状況を幾ばくかの愚痴と共に述べられた報告書を細い指で折り曲げる。二十代半ばの年齢以上に落ち着いた雰囲気を持つ、彼女の眉が僅かに動いた。
「神楽のギルドに連絡をしてください。ここのところのアヤカシ達の動き、小競り合いで終わるとは思えません。‥‥負の森の広がりを見れば、最悪の事柄である可能性は否定できないでしょう」
「ははっ。神楽及び各里に伝令をおくります。‥‥どうか、ご無事で」
 と、出立の準備を進める儀弐王のもとへ、新たな部下の男がやってくる。
「陛下――またしても別の敵襲が‥‥」
 男は儀弐王の戦装束を見て、足を止める。
「おお、玉体をお運びなさいますか」
「ええ。これ以上座して状況を見ているわけには参りませんから」
「そうですか‥‥いや、里の一角で、またしても魔の森が増殖を始めました。敵の攻撃が始まっております」
「持ち堪えてください。神楽の開拓者達にも伝令を飛ばしました。援軍が来るまでは」
「は‥‥実はその件で、雷牙という名のサムライが陛下の麾下に馳せ参じたいとやってまりました。この雷牙、50人近い開拓者傭兵を引き連れておりまして。苦戦を強いられている里の防備に力を貸すと申しております。ただ法外な報酬を要求しておりましてな‥‥一応陛下のお耳に入れておくべきかと」
「傭兵ですか?」
 儀弐王は雷牙が要求している報酬を聞いて、しなやかな指先で顎をつまむ。過日のことだ、理穴国において魔の森討伐戦にやって来た際も、雷牙が法外な報酬を要求していったという経緯を儀弐王は記憶していた。
「雷牙とやらに伝えなさい。敵将を倒せば褒美は思いのままに与えましょうと」
「よろしいのですか? あのような得体の知れぬ輩を用いるのは今ひとつ気が乗りませんな」
「アヤカシとの戦争に勝てるなら、雷牙とやらの野心を満足させてやるくらいささやかな代償ですよ。協力してくれるというのです、無碍に扱うことも無いでしょう」
 儀弐王は落ち着いた表情だった。部下は不満そうだったが、王の決断には逆らえない。
「は‥‥では、私は部隊をつれ、雷牙のもとへ向かいます。敵の増援に対処します」
「頼みましたよ」
 儀弐王は部下を見送り、自身も敵の迎撃に向かう。

 緑茂の里、郊外――。
「掛かれえ! 奴らを生かして返すな!」
 雷牙は傭兵たちを怒鳴りつけると、自身も抜刀して突撃する。背後には避難を続ける民がいる。
「儀弐王は敵将の首に応じて褒美は思いのままと言った! お前ら、機会を掴めよ! 儀弐王に恩を売る好機だ! 理穴はこれから戦いに突入する! この戦で名を売って、俺たちの名を天儀に轟かせてやろう!」
 儀弐王配下の弓術師たちは猛然と突進していく傭兵たちを見やりながら、援護射撃を開始する。
 現在この戦場は避難の途上にある民を支援しつつ、アヤカシの群れとの激戦の只中にあった。魔の森の拡大によって、逃げ遅れた民を一人でも逃がすことが最優先課題であった。
 雷牙は奏生の弓術師と共同でアヤカシの討伐を進めていたが、蒙斎(もうさい)という名の人型アヤカシが、手勢のアヤカシ兵を引き連れて反撃を開始する。
「ふっふっふ‥‥人間どもめ‥‥崩壊の途上にある天儀を守ることなど‥‥これまでに成功したことが一度としてあろうか? この国は滅びる。人々の絶望を、恐怖を、大殿様は待ちわびておる。奴らを滅ぼし、大殿様の生贄とするのだ」
 蒙斎は咆哮すると、醜悪でグロテスクな人型のアヤカシ兵士たちが歓喜の雄叫びを上げ、武器を振り回して襲い掛かってくる。
 逃げまどう人々をなぎ倒し、アヤカシの群れが突き進んでくる。
「何だあの怪物は、新手か‥‥! 迎撃するぞ! 戦闘隊形を整えろ! サムライ、志士、泰拳士は前に、巫女と陰陽師は後方に下がれ!」
 かくしてアヤカシの群れは傭兵たちと激突する。
「少しは出来るようだな。だがまだ戦は始まったばかり。これで終わると思うなよ‥‥」
 アヤカシボスの蒙斎はそう言って、後方でアヤカシたちの指揮を取りながら、不敵な笑みを浮かべるのだった。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
百舌鳥(ia0429
26歳・男・サ
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
月城 紗夜(ia0740
18歳・女・陰
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
翔(ia3095
17歳・男・泰
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
紫雲雅人(ia5150
32歳・男・シ


■リプレイ本文

「急げ! 急ぐのじゃ! 何としても逃げ遅れた民を救わねばならん!」
 輝夜(ia1150)は仲間達を振り返りながら、鞍上から叫ぶ。
 開拓者たちは馬を調達して、現地に急行していた。
「雷牙‥‥何とか持ち堪えておれよ。わしらが着くまでな」
 輝夜は祈った。あの男と矛を並べて戦うのは久方ぶりのことだが、儀弐王に報酬を吹っかけるとは相変わらずな性格だ。
「雷牙のおっちゃん頑張ってるなー、待ってろよお、俺たちもすぐに駆けつけるからなあ‥‥はあ!」
 ルオウ(ia2445)は馬に鞭を入れる。
「何とか‥‥間に合ってくれると良いのですが‥‥アヤカシの兵隊が出てきましたか。噂に聞く大アヤカシの力で敵の力が増しているのでしょうか?」
 翔(ia3095)の疑問に横に並んでいた赤マント(ia3521)が叫んで返す。
「どうやら大アヤカシというのは、いわゆる負の力を貯えることの出来る存在らしいね! その大アヤカシが行動を開始したというのは、里のアヤカシたちが力を増していても不思議は無いよ!」
「ふーむ、何かと興味深い事実が明らかになっているものですね」
 情報屋を営む紫雲雅人(ia5150)は明らかになってきた敵の情報に関心を寄せていた。大アヤカシとの接触はその文化圏の危機を意味するという。
「しかし、各国の協調体制は鈍いようですねえ‥‥無辜の民が次々と襲われているというのに‥‥」
 アヤカシの犠牲となって散っていく民を守るのは、何も開拓者だけが頑張れば良いというわけでも無い。雅人は一刻も早い各国の協調が行われることを祈った。どうやら大アヤカシの攻勢の前に、すでに里の戦力には限界があるようだ。
「俺たちに出来ることは限られているからなあ‥‥目の前の民を救うには全力を尽くすが、何せ敵は大軍だ」
 百舌鳥(ia0429)は真面目な顔で呟く。里を襲った敵の戦力も徐々に明らかになってきており、開拓者たちにも情報は流れてきていた。
「今回ばかりは敵さんもいつもと勝手が違うわね。大アヤカシの炎羅ってのは好戦的な性格らしいしけど‥‥ただ人を食らうのとは違う。炎羅は負の力を集めて魔の森を拡大し、人界に滅亡をもたらす‥‥あたし達に何が出来るかしら」
 霧崎灯華(ia1054)の問いは、陰陽師らしく大アヤカシの行動に興味が向けられていた。全ての陰陽師にとってアヤカシというのは少なからず関心ごとの対象でもあろう。
「忘れないでください、我々も見方を変えてしまえば‥‥アヤカシと変わらないかもしれないということを」
 不意に青嵐(ia0508)が天儀人形を片手で操りながら腹話術で声を出した。確かにそうかも知れない。人だって自然や獣を駆逐して生活圏を広げてきた。
「とにかく‥‥っ! ひいなは村人さんたちが心配です‥‥みんな無事だといいですけど‥‥」
 12歳の巫女鈴梅雛(ia0116)は言って小さく祈る。開拓者には若く若年の者も多い。年少の彼らでも民のために命を張る。綺麗事ではすまない話ではあるが、紛れもなくアヤカシは確実に人類の生存を脅かす存在でもあった。各々事情はあれど開拓者が戦場に身を投じるのは時代が求めているからとも言える。
「みなさん、あれ、村人ですか」
 月城紗夜(ia0740)は前方を指差す。その先に、民の姿がある。開拓者達は馬を止めると、飛び降りて民に駆け寄る。
「みなさん、大丈夫、ですか。私たち、里の警備に、当たっている、開拓者、です。逃げて、来たのですか」
 紗夜は民の一団に問いかけると、泥まみれの民は崩れ落ちた。
「開拓者の皆さんでしたか‥‥」
「大丈夫、ですか」
「ああ‥‥生きた心地がしません。村は全滅です‥‥アヤカシの群れに飲み込まれて」
 そこで輝夜が周囲を見渡す。
「誰か責任者はおらんのか」
「村長でしたら‥‥どこかにいるはずです」
 開拓者達は手分けして逃げてきた民をまとめると、村長に乗ってきた馬を預ける。
「馬を‥‥」
「そうじゃ、手近にある荷車でも良い、馬を使えば避難も迅速に進もう。後で引き取りに行くが、汝らに馬十頭提供する」
 輝夜の説明に村長は礼を述べる。
「ありがとうございます。せっかくの申し出、ではこの馬はみなが逃げるのに使わせてもらいます」
「うむ。気をつけてな」
 そうして、そこから開拓者達は自らの足で戦場まで駆けた。

 ‥‥魔の森に踏み込んだ雷牙たち約50人の傭兵たちと十人の弓術師たちは、まだ逃げ遅れて脱出を図る民の盾となって踏みとどまっていた。
 そこへ到着する開拓者達。すぐさま状況を確認して、武器を手に戦場に踏み込む。
「雷牙、久し振りじゃの。朱藩の森で会って以来か。またしても救援に来たぞ」
 輝夜が声をかけると、雷牙は驚いた様子で開拓者達を見やる。
「お前らは‥‥あの時の」
 雷牙は雛と灯華、輝夜とルオウの姿を確認して、頷いた。
「そうか‥‥開拓者達は今理穴国に出ずっぱりだと聞いた」
「よう雷牙のおっちゃん、久し振りだな〜! 頑張ってるって聞いてよお、助けに来てやったぜ!」
 ルオウはにかっと白い歯を見せる。
「久し振りね雷牙、助けに来てあげたわよ」
「ひいなも応援に来ました!」
 灯華と雛の言葉に、雷牙はかすかに笑みをこぼした。
「まあ戦場で懐かしい面子に会うのは正直嬉しいねえ。まあ話しは後だ。あの化け物どもを倒してからだな」
 輝夜が作戦を説明する間に、他の開拓者達は傭兵たちと合流して戦闘を開始する。
「僕は赤マント! 勝手だけど手伝わせてもらうよ!」
 赤マントは早速アヤカシ兵士に突進していく。戦闘を続ける志士の相手に打ちかかっていく。
 赤マントの目にも止まらぬ拳がアヤカシ兵士の鎧にめり込んだ。ドゴオオオ! と、アヤカシ兵士が吹っ飛ぶ。
「やるな、貴公」
「まあまあかな。でもまだまだだね」
 漆黒の肉体を持つ異形の相のアヤカシは、瞳に殺気をみなぎらせて、ガオオオオ! と叫びながら反撃してくる。
 百舌鳥は逃げる民に迫ろうとするアヤカシ兵士に立ち向かっていく。
「よお、お前の相手はこっちだぜ」
 アヤカシ兵士は割り込んできた百舌鳥に牙を剥く。
「ウウウウウ‥‥ガアアアア!」
 切りかかってくるアヤカシの攻撃を受けとめる百舌鳥。万力を込めて跳ね返すと、刀を一閃する。ザクッとアヤカシの鎧が切り裂かれて、どさっと地面に落ちる。アヤカシは激痛にわめきながら反撃してくる。
 青嵐は符を構えると、民に襲い掛かるアヤカシに斬撃符を放つ。
「風姫、六十尺にわたり」
 カマイタチの式がアヤカシに向かって飛んで行き、その腕を吹っ飛ばした。
 アヤカシ兵士はもんどりうって倒れると、腕を押さえて絶叫する。
「あ、ありがとうございます‥‥!」
 民はばたばたと駆け出すと、青嵐の後ろに下がって逃げていく。
「陰陽師、月城、紗夜、です」
 紗夜には気になることがあった。儀弐王から言われた、雷牙たちの目的、敵将を討てば褒美は思いのままということ‥‥。
「民を切り捨て、蒙斎を取るか‥‥その、逆、か」
 紗夜は銀色の瞳で雷牙を見つめる。
「命、率いる、命、背負うと同じ‥‥迷い、みせてはならない、同時に、無為に、命、散らしてもならない」
 雷牙は豪胆な男ではあるが冷酷な人物では無い。ぼりぼりと頭を掻くと、苦虫を噛み潰したような表情で口を開く。
「民を救うのは報酬のうちだぜ。志体持ちの俺たちにとってもアヤカシは敵。民を見殺しにして儀弐王の信頼を得ることが出来るとも思えんしなあ。確かに俺たちは戦争屋。まあ大儀を掲げるつもりも無いがね。だが俺たちの相手はアヤカシと言う点で共通だろう?」
「そう、ですか」
 紗夜は小さく頷くと、改めて雷牙に提案を行う。
「前線を、突破したアヤカシ兵は、優先的に集中攻撃、避難民の方へ、敵を近付けないよう。弓術士は、半数に分かれ、遊撃班に回ること。傭兵、各クラス、2名ずつを護衛班に。後は、撲滅班の、援護に。巫女は、2名護衛班につき、3名撲滅班に」
「十名を護衛に回して残りでアヤカシどもを倒すのか」
 それから輝夜が追加する。
「泰拳士などで身軽にしている者を除いて、傭兵の前衛系クラスには全員副装に弓を持たせる。アヤカシが森に下がった場合は深追いせずに弓で攻撃するのじゃ。また、各班のサムライは最低1名がガードを装備し、咆哮を使用してアヤカシ兵士を引きつける役を担う」
 それから輝夜は巫女の運用について提案する。
「護衛班に配置した瘴索結界持ちの2人の巫女は、瘴索結界を用いて敵の不意打ち等を警戒し、それで得た情報を元に、汝が隊列などの指揮を取ってもらうというのはどうじゃ。我らを支援する残りの巫女は回復に専念する」
 雷牙は二人の提案を確認して、班分けについては了解する。
「戦闘を行いながらお前達の提案を実行することになるが、まあ任せてもらおう。俺たちも伊達に傭兵稼業で戦場を往来しているわけじゃない。‥‥で、あの蒙斎とか言う奴にはお前達が向かうのか」
「そうじゃな‥‥汝らにアヤカシを任せて大丈夫そうなら、ある程度の目算が立ったところであ奴を捕らえきれるかやってみようと思う」
「そうか‥‥では、素早く行動に掛かるとしよう。敵は待ってはくれんからな」

 傭兵たちと開拓者達は戦闘隊形を立て直すと、改めてアヤカシ兵士の集団に攻勢を仕掛ける。
「こっちだ! 急げ!」
 護衛班に回った傭兵たちは、脱出してくる民の手を取ると、彼らを引っ張り出して救出する。
 傭兵たちと開拓者達は協力してアヤカシ兵士を撃破していく。
 前衛に立つ百舌鳥や輝夜、ルオウ、翔、赤マントたちは激烈な格闘戦の末にアヤカシ兵士を粉砕する。だがこのアヤカシ兵士は小鬼などとは比較にならない強さで、開拓者達も多少なりとダメージを受ける。後方支援の巫女たちは開拓者のダメージを回復させ、戦線を支える。
 そうして、アヤカシ兵士を15匹ほど倒したところで、開拓者達は後方に控える蒙斎に目をやる。
「こんなところか? 残りは傭兵たちに任せて大丈夫そうだな」
 百舌鳥は刀に付いた血糊を払うと、戦場を見渡す。傭兵たちもアヤカシを撃破しており、敵の数は減少している。逃げてくる民はもういない。全員無事に脱出したようである。
 そこで、観戦していた巨漢の蒙斎が前に踏み出てくると、牙を剥いて森全体に響き渡るような咆哮を上げる。びりびりと蒙斎の雄叫びが大気を震わせ、傭兵や開拓者達の肌がざわりと鳥肌が立つ。
「これは‥‥凄まじい気迫ですね」
 紫雲は腕をさすりながら、背筋を走る戦慄に身構える。
「小賢しい人間ども! お遊びはここまでだ! 大殿様は――炎羅様は動かれた! いよいよ以って里の崩壊は間近に迫っておる! 貴様らの絶望と苦悩が、我らを強化し、貴様らの滅亡に近付くのだ!」
 ズン、ズン! と、踏み出してくる蒙斎。大刀を抜くと、残酷な牙を剥き出して前進してくる。
「出てくるというなら結構じゃ。ここであ奴を倒し、少しでも戦を有利にしておきたいところじゃ」
 輝夜が先頭に立って、蒙斎の迎撃に立ちはだかる。対する蒙斎はただ一人で、開拓者達に向かってくる。
「何だ! たかだか十人程度で俺様が止められると思うのか!」
 開拓者達は蒙斎を取り囲むように展開する。
「思いっきり、全力で行って下さい」
「蒙斎‥‥噂に違わぬ勇猛ぶりですが‥‥負けませんよ」
 雛と紫雲は神楽舞・攻の準備を整える。傭兵巫女たちも神楽舞・攻の準備をする。
「行くぞ」
 輝夜が周囲に目配せする――そして開拓者達は一斉に攻撃を仕掛けた。巫女たちが神楽舞を舞う。
 同時に蒙斎も大地を蹴った。凄まじい速さで加速する蒙斎。
「ぬううあああああああ!」
 蒙斎の大刀が輝夜を捕らえる。ドゴオオオオ! と激突する輝夜と蒙斎に大気が震動する。
「にっ!?」
 蒙斎は驚愕する。自身の大刀が小さな輝夜によって受け止められている。桁外れの蒙斎のパワーを押し返す輝夜。
 その間隙を縫って、紗夜が符を連発し、呪縛符と毒蟲で蒙斎の動きを束縛する。
「この風は威を封じる」
 青嵐は斬撃符を連発して蒙斎の武器破壊を試みるが、武器は頑丈にも青嵐の術に耐えた。
「あんたの出番は早々に退場よ。残念だけど消えてもらうわ!」
 灯華は雷閃を召喚して雷を連発する。
「ぐううおおおおお‥‥!」
 雷を食らってうめく蒙斎。
「行っくぜいアヤカシ首領! 俺が冥府に送ってやるぜい!」
 ルオウは隼人で加速すると、両断剣を打ち込む。ズドン! と蒙斎の肉体が陥没してルオウの一撃が深々と命中する。
 百舌鳥は蒙斎の背後に回りこむと、強力と気力を回して一撃を見舞う。ズン! と刀が蒙斎を打ち据える。
「はあああああ‥‥!」
 泰練気胞壱を発動し、空気撃を叩き込む翔。赤く染まった翔の拳が蒙斎にめり込む。
「これが僕の最大の速さだ‥‥!」
 赤マントは泰練気胞壱を発動させ、牙狼拳で襲い掛かる。神速の一撃が蒙斎を急襲。さすがの蒙斎ですら回避行動が間に合わない。
 ドゴオオオオオオ! と赤マントの牙狼拳二連撃が蒙斎に直撃する。
「おおのれええええ!」
 蒙斎は体勢を立て直そうとするが、毒蟲を食らっていて動きが鈍い。
「毒蟲、効いています。一斉攻撃の、絶好機です」
 紗夜の言葉を受けて、開拓者達は猛攻を加える。
 輝夜、ルオウ、百舌鳥、翔、赤マントらがスキルフルで威力最大の攻撃を叩き込めば、青嵐、紗夜、灯華らが斬撃符に雷閃を連発する。
 だが蒙斎は立ち向かってくる。
「これしきの痛みで! むずがゆいわあ!」
 蒙斎の連発を食らった百舌鳥は吹き飛んだ。骨が砕けて血を吐いた。凄絶な一撃だ。
 その後開拓者達は練力を使い果たす猛攻を浴びせかけ、だが蒙斎の凄まじい反撃を受ける。このアヤカシ、大した不死身っぷりである。開拓者達の脳裏に強力な上級アヤカシ修骸骨の情報がよぎる。上には上がいるものだが‥‥。
 だが傷ついた蒙斎は咆哮すると、アヤカシ兵士が全滅する前に呼び寄せ、開拓者達に叩きつける。そして自身は逃走を図る。
 青嵐はそうはさせじとアヤカシ兵士たちに火炎獣を叩きつける。炎に包まれた式が召喚され、火炎放射を吹き付ける。
「この炎は、護を封じる」
 まとめて一掃される手負いのアヤカシ兵士たち。
「ぐはははは! さらばだ人間ども!」
 だがその僅かな隙に蒙斎は風のように逃げ切ったのである。
 残っていたアヤカシ兵士たちもさすがに後退する。一目散に逃げ出した。

 ‥‥かくしてアヤカシ勢は壊滅した。村人たちを無事に救出して、戦場に束の間の安堵感が広がる。
「ご苦労であった。傭兵も、開拓者達もよく戦ってくれた。儀弐王陛下に代わって礼を言う」
 弓術師たちはそう言って労を労った。
「敵将を逃がしたのは残念だが、まあここからが勝負だな。戦はこれからだ」
 雷牙はそう言って、豪快な笑声を上げた。それにつられて笑みをこぼす開拓者達もいる。
 蒙斎の撃退、民の救出には成功、だが確かに、戦いは始まったばかりである。