【龍王】龍安家の鋼
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 12人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/06/14 21:08



■オープニング本文

 武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。

●東部〜魔の森、東の大樹海〜緩衝地帯を越えて
 大アヤカシ不厳王(iz0156)は、魔の森を活性化させると、緩衝地帯を越えて森を拡大させていく。
「人間など滅びゆく種族に過ぎん。ふふ……もはや……手遅れよ。滅亡へ向かって進む人間どもが、何を今更抵抗するか。滑稽極まりない……」
 不厳王は、瘴気の渦の中にいて、続々とアヤカシを排出し続けていた。それらは死人の軍団である。
 魔の森から続々と溢れだす死人アヤカシは、緩衝地帯を越えて鳳華の東部に展開していく。怪骨、屍人の大軍が続々と溢れだす。また、幽霊兵士の大軍が森から前進する。がしゃ髑髏に巨人兵、死骸の肉塊らが咆哮を上げれば、大気がびりびりと振動する。さらに、上級兵士である死人戦士、死人龍騎兵らが前進する。そして、指揮官クラスの中級アヤカシも多数、異形の死人の幹部たちが、鳳華の東部に襲い掛かっていく。その先頭に立つのは、上級アヤカシ禍津夜那須羅王である。
 里の人々は、その光景にパニックに陥った。
「ま……魔の森が前進して来るぞ……!」
「な、何だあれは……! 森が! 森が飲み込んでやってくる!」
 東部の里長たちは、誰もが二十年前の出来事を思い出していた。当時ここにいなかった者たちがほとんどだが。鳳華の東方に発生していた魔の森が急速に拡大を見せた。アヤカシたちとの戦いの始まりだった。
 里長たちは民を率いて後退する。この魔の森の勢いは近年にない例外である。東の里は、魔の森に沈んでいく……。

●北部〜魔の森〜その近郊
 空賊の飛空戦艦が着陸する。魔の森近郊に築かれた野営地には、不厳王の崇拝者である賊たちが集結していた。後方ではアヤカシは簡素な砦を築き、賊たちは野営地を拡張して町を建造しつつあった。
 その頭目は、天山寺仁海という男だった。かつて武天で反乱を起こし、巨勢王(iz0088)に恨みを抱く男である。
「くくく……龍安弘秀……今頃滅亡への始まりに震えているだろう。不厳王様の逆鱗に触れたことを後悔するがいい。そして、鳳華は俺たちが頂く……!」
 天山寺は、部下達――不厳王の崇拝者を集めて咆哮した。
「ここに俺たちの天下を築く! 国家――厳存秘教国をな!」
「おおおー!」
 最悪の無法者たちの咆哮が響く――。

●南部〜反乱軍〜鳳華に蔓延する不穏の影
 南部に、里長たちが集まっていた。緒戦を五分に戦った里長達は高揚していた。やがて、室内に一人の男が入って来る。精悍な風貌の、がっしりした体格の、年のころまだ若い二十代の男であった。男の名を、龍安春信と言った。家長の龍安弘秀の弟である。
「みなの衆、よく集まってくれた。知っての通り我々は決起した。このままでは鳳華は滅びる。兄上に任せていては、アヤカシの攻撃からこの地を守ることはできない。誰かが、兄上を引きずり下ろすべきだ」
「然り!」
「いかにも!」
 里長たちは頷いた。近年の鳳華の戦闘で、多くの犠牲を見て来た一部の里長たちの間には、家長の弘秀に対して不穏の念が鬱積していた。ここにいる者たちは、みな、このまま弘秀に任せていては、鳳華は滅びる、そう考えていた。
「我々は、すでに首都の中枢からも賛同者を得ている。今こそ、信念ある者たちが集い、鳳華を変える時だ。兄上は我々を恐れているだろう。今でこそ我々の力は小さいかも知れない。だが、少なくない兵士達が我々に味方した。それもまた事実だ。信念ある者たちが立ち上がれば、必ず風向きは変えられる。鳳華の民もまた、真にアヤカシからこの地を守ることが出来るのは、誰か、兄上ではないと知るはずだ。我々は信念を抱いて立ち上がったのだ。迷うことは無い――」
「おお――!」
 里長たちは春信を主に、弘秀に対して反旗を翻す。彼らの結束は今のところ堅いものだった。

●西〜鳳華中央〜首都周辺〜龍安家の中枢
 天承の城で、龍安弘秀始め、首脳たちが集まっていた。東の大樹海からの不厳王の攻勢、北部の天山寺とアヤカシ、南部の春信らの決起。どれも危機的な問題だった。
 弘秀のもとには、筆頭家老の西祥院静奈始め、サムライ総大将の山内剛、次席家老の栗原直光、他、家老達――水城明日香、坂本智紀、天本重弘、シノビの頭領赤霧、相談役の芦屋馨(iz0207)らが集まっていた。
「東部の状況ですが、現在最優先は、里の民を無傷で後退させること、それから、禍津夜那須羅王率いるアヤカシ軍の進軍速度を遅らせることです。前進する魔の森は緩衝地帯を越えたところです。ですが、その速さは一日に数百メートルから約一キロの速さです。どこまで広がるのか想像もつきません」
「北部の状況ですが、何処からか無法者たちが集結しています。天山寺は『厳存秘教国』の成立を宣言し、アヤカシと結託して勢力基盤を整えつつあります。もとは空賊とは言え、その戦力はアヤカシを背後に置き、堅いものです」
「南部の状況ですが、残念ですが、反乱軍の首魁である春信様のもとへ赴いた使者は春信様の心を動かすことは出来ませんでした。予想はされましたが、反乱軍に打撃を与えるには及ばず、彼らは抗戦の構えを崩しません。武装化を着実に進め、傭兵を雇い入れています」
 部下達の報告に、弘秀は思案顔で指示を出していく。
「東部の状況だが、引き続き民への支援体制を。部隊を展開しアヤカシの攻撃に備えよ。万が一不厳王が出てくることあらば、総力を上げてこれを討つ」
「了解しました」
「北部には引き続き兵を送り、天山寺一党を監視する。賊どもに紛れて間者を送れ。また基本的には鎮圧部隊を派遣し、早期の解決を目指すこと」
「かしこまりました」
「南部の春信のもとには、引き続き使者を送れ。また間者も増やして送り込むこと。ただこちらも鎮圧が最優先だ。戦が長引けば不厳王との戦いに支障をきたす」
「はいお屋形様」
 弘秀は、部下達を見渡した。
「不厳王に鳳華は渡さん。天山寺と春信を鎮圧し、魔の森の突進に備える。みな、心して迎撃に備えてくれ。以上だ」
 弘秀が頷くと、部下達は「失礼します」と退室する。
 と、そこへ御側衆の家臣が入ってくる。
「お屋形様。大道寺光元親王殿下がお見えになっておいでですが」
「殿下が? お通ししてくれ」
 弘秀は立ち上がった。
 武天の王族、大道寺光元が入って来る。
「龍安弘秀、くたびれた顔をしているな。大丈夫か」
「殿下、恐れ入ります」
「はっはっは、冗談だ。そんなことより、私の支援は機能しているのか。不厳王やアヤカシに征服されるようでは、龍安家の名折れだぞ。頼むぞ弘秀。この地の民を守るのはお前しかおらんのだからな」
「承知しております」
「だが、不厳王の件は大事だな。王家としても無視は出来ん。私に出来ることあらば言ってくれ。最大限の支援を行う」
「ありがとうございます。どうぞ、お掛けなって下さい」
 それから弘秀と大道寺は、喫緊の課題に付いて話し合うのだった。


■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
罔象(ib5429
15歳・女・砲
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎
ユーディット(ib5742
18歳・女・騎
ライ・ネック(ib5781
27歳・女・シ
ピスケ(ib6123
19歳・女・砲
サラファ・トゥール(ib6650
17歳・女・ジ
嶽御前(ib7951
16歳・女・巫
中書令(ib9408
20歳・男・吟


■リプレイ本文

 歌舞伎役者の華御院 鬨(ia0351)は、今回は修行は休みとして女装していなかったが、外見は女性にしか見えない美貌であった。
 華御院は、東部や北部から避難して来た人々のもとを訪れていた。
 子供たちのもとを訪れると、言葉を交わした。鳳華で華御院鬨の名を知らない子供はいない。華御院は子供たちの英雄であった。
 子供達は集まってくると、華御院を激励する。
「お兄ちゃん、またアヤカシと戦いに行くんだよね? 頑張ってね!」
 子供達は、華御院が笑顔を浮かべながら「必ずみんなの家を取りかえして来るからね」と言うだけで励まされたようだった。
「華御院さん、僕達信じてます。どんなにアヤカシが攻めて来たって、華御院さんやお屋形様が、いつかきっと不厳王を倒してくれるって」
「だって、これまでにもずっと、華御院さんや多くの人たちが鳳華を守ってくれたんですから……」
「また来るよ。私も頑張って来るからね――」
 華御院は東部へ向かう。

 首都の天承城で、龍安弘秀はコルリス・フェネストラ(ia9657)からの献策を受けていた。
「春信と天山寺を互いに、攻撃させたと思わせる?」
「はい。天山寺一味、春信軍兵士達の特徴を示す服装と似たものを調達し、北部の味方部隊の一部を春信軍に、南部の味方部隊の一部を天山寺一味に偽装し、各敵を攻撃し、お互い相手に攻撃されたと思わせ、天山寺と春信の対立構図を作り、両者が迂闊に動けない状況を作る事を提案いたします」
「心理作戦か。相変わらず恐ろしいことを考える女子だなお前は」
 そこで、アナス・ディアズイ(ib5668)が口を開いた。
「お話を伺う限り、うまく立ち回る必要はありますが、工作がはまれば春信様達も一時停戦に応じる姿勢を見せるかもしれません。私たちの策がばれた場合、春信様の心象は悪くなるでしょうが」
「春信の心象が悪くなっても構わんがね」
 弘秀は言って肩をすくめるとコルリスの計略に許可を出した。
 アナスは報告書を差し出した。
「ところで、別件ですが、仮に東部方面の住民全てが避難する最悪の状況を想定し、現状で全員を西部や中央で受け入れ可能か試算してみました」
「どうであった」
「受け入れるだけなら恐らく可能ですが。土地が足りないでしょう。物資は幸い弘秀様は王家の方からも支援を受けておられるようですので」
「……難題だな」
 続いて、ライ・ネック(ib5781)が言った。
「ところで弘秀様、コルリスさんの工作案で、厳存秘教国と春信軍が対立した場合、西部が互いの戦場になる可能性も考えられるので、念の為西部にも警戒網を増やすべきではないでしょうか」
「その可能性はありそうか?」
「備えはしておくべきではないでしょうか。私たちの方から間者を送り込んでいますが、先日も内通者が逮捕されたばかりですし」
「ではその件は任せる。南北の境界の監視体制も強化するか」
 それからサラファ・トゥール(ib6650)が口を開いた。
「コルリスさんの計略につきまして、各軍に偽装に必要な服装の用意が可能でしょうか」
「そうだな。服を調達するだけならすぐに済む。それなりに似ていれば大丈夫だろう」
「では私は、北部方面の工作や諜報、北部の味方部隊の一部を春信軍に偽装し、天山寺達と戦う作業を手伝う事にしますね」
 言って、サラファはまた報告書を差し出した。
「東部における現在の最前線と、首都との間に可能な範囲で多くの防御施設と防衛網を一般兵士を動員して構築し、互いに相互支援できる体制を整え東部の攻勢を遅延させ、その間に首都防衛も進めようかと考えています」
「それはいずれ必要か。魔の森がどこまで広がって来るのか想像もつかん」
 弘秀はサラファの報告書に目を通す。
 それからアナスは駿龍のプロテスを駆り南部へ向かう。コルリスは偽装に必要なものの調達に回り、工作を行う仲間達に渡し東部へ向かった。

 宿奈 芳純(ia9695)は、傭兵たちの編成を見せてもらうと、思案顔でそれらを見ていた。短期契約であり、戦闘の都度に契約が行われている。継続して契約を交わす傭兵も多く、鳳華には傭兵たちが運営している町もあるくらいである。
「弘秀様、職種を問わない志体持ちの傭兵を雇用していくべきかと存じます。鳳華に傭兵は欠かせぬ存在。天儀出身者以外では駄目なのですか?」
「そういうわけではないのだが」
「志体持ちは開拓者が全てではありませんし、アヤカシと戦うのは志体持ちの大きな仕事でもあります。有為の人材が集まってくるかも知れません」
「余り多くの待機兵力も置けないが、その件は手配して見るか――」

「お久しぶりです馨さん!」
 フィン・ファルスト(ib0979)は天承城で芦屋馨と会った。
「お久しぶりですねフィンさん。お元気そうでなによりです。お仕事ですか?」
「ええ。色々慣れないんですけど……」
 フィンは書類を持って龍安弘秀のもとを訪れた。
「こんにちは! えーとですね、あたしなりにみなさんの意見を聞いてみたんですけど」
 言ってフィンは報告書を差し出す。
「宝珠砲なんですけど、十分な訓練が行えるように砲兵士官の方達から意見をまとめてみました。砲撃手の訓練は十分にお願いしたいです」
「砲兵はまだ育成が必要だからな」
「それから――こっちですね」
 フィンはもう一冊の報告書を差し出す。
「東部と北部の状況を南部兵士の噂話って形で南部に流してみたんですけど」
「手応えはあったか?」
「内偵を進めると、反乱軍の兵士達の間に少なからず動揺が広がってるみたいです――」

 罔象(ib5429)は弘秀のもとを訪れると報告書を差し出す。
「北部に関してですが、志体持ちでない味方兵士達を動員し、後方に防御施設を建築し長期戦に備えてはいかがでしょうか」
「長期戦にはしたくは無いが……そうも言ってられんかね」
「天山寺は意外に頑健な相手のようですから。防備を固めておくべきではないでしょうか」
「中々厳しいところではあるが。余力のある範囲で進めるかね」
「よろしくお願いします――」

「内憂外患ですね――」
 ユーディット(ib5742)は弘秀を前に吐息した。
「彼等の主張は春信殿の器量が弘秀殿よりも優れているということです。彼を担ぐ里長たちはともかく、一般将兵はそれを信じているのでしょう。不厳王との戦いを考えれば反乱軍とはいえ出来るだけ戦力を温存したい。そこで、春信殿の求心力を削ぎ、反乱軍の空中分解を計りたいところですね」
 ユーディットは報告書を差し出すと肩をすくめた。
「一般将兵たちには、心理作戦は有効なようですね」
 ユーディットが行ったのは、具体的には南部の諜報員の他に煽動を目的とした人員の送り込みである。緒戦の反乱軍の敗戦を、実際は大した損害は出ていないが反乱軍が撃退されたのは事実であると吹聴。「数で劣る正規軍に勝てないような春信殿が何を以って弘秀殿に優るというのか、またそんな彼の指揮ではたしてアヤカシに勝てるのだろうか?」というものである。
「恐らく春信殿は攻勢に出てくると思います――上記の噂が広がれば出ざるを得ないでしょうし――。それを我が方は堅守。撃退してさらに噂を流せば、民の支持、兵の士気を削げると考えます」
「お前たちが考えるのを見ていると恐ろしく思えてくる」
 弘秀は報告書に目を通しながらうなるように吐息した。

 砲術士のピスケ(ib6123)は、一礼すると、弘秀がいる部屋に入った。
「弘秀様、開拓者のピスケと申します。よろしくお願いいたします」
「よろしくな」
 それからピスケは報告書を差し出した。
「前回より行われました、練力回復アイテムの支給ですが、今後も各戦場で万遍なく行き渡らせる事ができるようお願いしたく思います」
 ピスケは、アイテムの支給状況について家臣たちと意見を交わし、報告書をまとめていた。
「そうだな……」
 弘秀は目を通しつつ、肩をすくめた。
「引き続きだが、順調に進んでいるようだな。このまま回復アイテムの支給は続けていくとするかね」
「よろしくお願いします」

 嶽御前(ib7951)は一礼して弘秀の執務室に入った。
「失礼します」
「よお嶽御前、先回もご苦労さん」
「いえ」
 それから嶽御前は報告書を差し出した。
「まだ長い目で見る必要がありますが、仮に首都まで侵攻された場合、それからでは手遅れになります。いまからでも、首都の防衛機能を強化しておくべきかと存じます」
 弘秀はその素案が書かれた報告書に目を通していく。
「天承は強大な城砦都市でもあるが、不厳王がここまで攻めてきたら持ち堪えられるかどうかは分からん」
「確かに厳しい選択ですが――」

 中書令(ib9408)は、家臣らとの会合の後に報告書を持って弘秀のもとを訪れた。
「中書令。前回は危ないところ御苦労さんだったな」
 中書令が差し出した報告書には、現在までに東部と北部から避難してきた住民達の数や各方面の被害状況等が全て記されていた。
「恐らく避難されてきた方々は日々の生活や仕事道具などを運ぶ余裕はなかったと思われます。各避難民がどのような職についていたか伺った上で生活用具や仕事道具の貸し出しを行い、避難先でも働く事ができるよう善処をお願いします。また、受け入れ先も負担を強いられている状態ですので、避難民を受け入れた里では税の引き下げを行う等の優遇措置がとれるよう、ご配慮願います」
「一つ一つ片付けて行くしかないな……」
 弘秀は、言って報告書に目を通した。
「税の引き下げはすぐにでも可能だが、雇用の確保には時間が掛かりそうだな」
「私もチームを組んで作業を進めますので」
「宜しく頼む――」

 華御院とコルリス、宿奈にフィン、嶽御前らは戦場に立った。
「ではしっかりと迎撃と行きましょうか」
 華御院は壱華に搭乗すると、加速していく。
「各隊、よろしくお願いします」
 コルリスは山紫の鞍上で言って、飛び立った。
 宿奈は越影を下がらせると、陰陽隊を率いて前線に出る。
「支援の結界呪符を構築していきましょう」
 フィンはバックスに声を掛けて龍安兵に預けておく。
「ちょっと待っててね。後で飛ぶから」
 それから、愛機のランスロット――ランに搭乗すると立ち上がる。
「よっしゃ、いっくぞー!」
「早速ですがアヤカシが来ますね。数十体」
 嶽御前は、瘴策結界「念」にアヤカシを捕えていた。龍の暮に搭乗すると舞い上がった。
 飛空戦艦と宝珠砲が砲撃を開始する――。
「壱華――!」
 華御院は、突進して中級アヤカシの首を飛ばした。
 龍安軍は一般兵が築いた塹壕を背後に置き、川と斜面を利用し衡軛陣――凹の形をとり川を渡る敵を迎撃する。
 コルリスは四騎一組の四指戦法を指揮しつつ、飛行する敵を順次撃破し制空権を確保していく。
 しかし地上のアヤカシは圧倒的。
 宿奈たちはサムライ隊の援護に結界呪符「白」を築き、戦線を支援する。
 フィンが搭乗するランが突進する。ガードを使って盾防御しつつ攻撃。敵が前方に集まったら味方を巻き込まないよう半月薙ぎでアヤカシを一掃する。そうする間に中級アヤカシを捜索してもらう。
 嶽御前は戦場を見渡し、強大な中級アヤカシ死人上級戦士を見つけ、味方に報告する。
 フィンはバックスに乗り換えると、
「指揮官の首、獲ってきますっ。少しの間ここをお願いします!」
 と突進した。
「行くよバックス!」
 フィンは加速すると、オウガバトル+聖堂騎士剣で中級アヤカシを寸断した。
 コルリスは中級アヤカシに狙いを定め、矢を連射する。
「山紫、霊鎧です!」
 死骸龍を射抜いた。
 嶽御前は暮を駆り、仲間たちを回復し、支援に当たりつつ、戦場を見ていた。
「みなさん、持ち堪えて下さいね」
 ――と、地上で合図の爆発があり、禍津夜那須羅王の接近が告げられると、開拓者たちは集結した。
「回復を」
 宿奈らは支給された練力回復アイテムで回復し、狼煙銃でも合図を送る。
「嶽御前さん……こっちは大丈夫です。行って下さい」
 地上に降りて味方を回復していた嶽御前も狼煙銃で合図を送る。
「行ってきます。そろそろ後退の準備を」
「宿奈さん、行きましょう」
「無理はしないで下さい。命の危険を感じたらすぐに後退を」
 越影を駆り仲間達と共に禍津夜那須羅王へ向かう。
 宿奈は結界呪符「白」で陰陽師隊を守る壁を作る。
「錆壊符――!」
「貪れ、黄泉より這い出る者――」
 禍津夜那須羅王は長刀を地面に突き刺し、衝撃波で結界呪符を叩き潰す。
「お久しぶりです。本日は男らしく勝負させていただきます」
 華御院は突進すると禍津夜那須羅王と打ち合う。一撃二撃と弾いて華御院は吹き飛ばされた。
「翔!」
 コルリスは月涙+鳴響弓の合成技を連射する。
 フィンは突進した。禍津夜那須羅王は受け止め、フィンを弾き飛ばした。
 直厳に衝撃波が来て、開拓者も兵士達も吹っ飛ばされた。
「相変わらずの怪物ぶりですが……」
 嶽御前は、味方の怪我を回復しつつ、後方を見やる。
 味方の撤退準備は整っている。
「逃げるがいい人間ども。最後には、我々の世界が全てを飲み込む」
 禍津夜那須羅王は、後退する龍安軍に追撃を送り込むと、自身は構築された塹壕を破壊していく。
 塹壕を踏み潰し、禍津夜那須羅王は刀を地面に突き立てた。
 緑色の光に包まれる禍津夜那須羅王。光は大きくなっていき、陽炎となって、怨念の姿となってゆらゆらと立ち昇った――。

 北部戦場――。
 龍安軍は、龍騎兵が二人一組でペアを組み、片方が咆哮で敵をひきつけ、もう片方がひきつけられた敵を横撃、真上からの攻撃などで仕留める「繰引」戦術で迎撃していた。
 罔象は瓢に搭乗し、味方サムライ部隊に咆哮で敵を集めるようお願いすると、程よく集まったところで、
「少し私から離れて下さい」
 と警告後、魔砲「スパークボム」で賊やアヤカシをまとめて始末する。
「撃て!」
 味方飛空戦艦が砲撃を開始する。
 ピスケは、駿龍の潔を駆り、仲間や味方各隊長の指示に従いつつ行動していた。初めての依頼でもあり、緊張で手が震えた。
「潔! 駿龍の翼!」
 敵の攻撃をかわしつつ、
「アターカ!」
 騎射+ピアシングブリッドの合成射撃技で賊を撃ち落とす。ピアシングブリッドの銃撃が賊とアヤカシを薙ぎ払う。
 ファストリロードで再装填し、敵飛空戦艦に、潔に高速飛行や駿龍の翼を命じ、敵飛行戦艦の攻撃をかわしつつ「アターカ!」で船の重要箇所を砲撃して回る。機動力を生かして、敵戦艦の周りを旋回する。
 罔象は、制空権を確保しつつあるところで、練力回復アイテムで練力を補充し、ファストリロードで再装填後、
「瓢! 駿龍の翼!」
 敵飛空戦艦の攻撃をかわしながら、主要機関部に向け騎射+魔砲「スパークボム」の合成技で砲撃する。
「アターカ!」
 ピスケと罔象は敵戦艦に砲撃を行う。
 ファストリロードで再装填しては「アターカ!」で敵を順次倒す流れを繰り返す。
 友軍と連携して制空権を確保した龍安軍は敵戦艦に集中攻撃を浴びせ、撃退させる。
 サラファは偽装工作に予め受領した道具を配り、味方の春信軍偽装を手伝うと、先に北部の町に流浪のジプシーを装い潜入していた。
 極辛純米酒や葡萄酒を振る舞い、踊りやヴィヌ・イシュタルで賊達を懐柔する。
「ねえ、ここは流浪人たちの天国みたいだけど、どれくらいの見張りや防衛部隊がいるのかしら」
 サラファは賊たちからアヤカシや賊達の動きを聞き出すと、北部の町を歩いて回り、収集した情報を整理分析して、防衛網の薄い箇所を割り出した後、ナハトミラージュで姿を消し、密かに味方部隊へ戻り詳細を報告する。
「おつかれさん。大丈夫か」
「はい。偽装工作は大丈夫ですか」
「うむ」
 それから後偽装部隊はサラファの案内で密かに町近くへ接近し、攻撃を開始。
「我々は天山寺一味を討伐する」
 と触れ回り、春信軍の天山寺達への宣戦布告と襲撃を偽装しておく。
 サラファ自身はナハトミラージュで姿を消し、松明で街の各所に放火し混乱させ、襲撃を支援し混乱に乗じ脱出する。

 南部戦場――。
 ライは天山寺一味が着ている様な黒を基調とする戦闘服を用意し、偽装工作について説明する。
「また考えたものだな……」
 サムライ大将の言葉を受けて、ライは反乱軍のもとへ潜入する。小袖、市女笠、外套で隠し、残夢の忍装束を裏返し作業着姿となり、里の一般住民に装備を工夫して変装し、反乱軍勢力下にある各里を回り、各集落での住民達や兵士達から情報を収集。反乱軍の物資輸送路や襲撃に向いた道程を味方に報告する。
「やはり南からですね……」
 アナスは偽装部隊を率いて出発。みな黒の戦闘服っぽい服を着こんで、天山寺一味に変装する。
 偽装部隊を率いて待ち受けると、やがて現れた春信軍輸送隊に接近。襲撃をかける。
「敵襲だ!」
 アナスらは、敵兵士達は順次手加減などで倒し人的被害は少なくしつつ、物資は根こそぎ奪っていく。
「天山寺様の言った通りだ。首都は防備が固いがこっちはがら空きで奪い放題だ」
 と、捕えた春信軍兵士達に聞こえる様話し、天山寺一味が春信軍を攻撃したと思わせ解き放った。
 ライは混乱に乗じて港へ向かい、港の作業員を襲い荒縄で拘束する。港から離れた場所に運び衣服や装備を奪い、作業員に扮し港に潜伏する。
 超越聴覚で警備が緩くなる時間帯や資金、物資のある倉庫を探りだし、秘術影舞で姿を消し、忍眼で保管場所の仕掛けを見破り、鍵開け道具と忍眼を併用し施錠を解除。中に入り火遁やヴォトカで軍事物資を焼き払っていく。金は順次運び出しては川に捨て、全て強奪したと偽装工作。その後も可能な限り港を破壊していく。
 それから拘束した作業員に顔を隠して、「春信に伝えておけ、天山寺様の伝言だとな」言って、ライは作業員を解放して、また偽の犯行声明を港の壁等に記し、犯行が厳存秘教国によるものと思わせる様工作してから逃走する。
 ユーディットは前回の陣地をさらに強化して防備を固めていた。反乱軍の攻撃を、陣地に籠って投石器、弓矢をメインとした堅守で迎撃する。
「……では、出ます。狙うのは、敵の主軍です」
 ユーディットは自身もアーマーを駆り出撃する。
 アーマーの稼働時間は長くは無い。最初の一撃を与えて離脱する。
 それから、駿龍に乗り、オーラを纏って戦いつつ前線で指揮を執る。
「敵は殺さないようにお願いします。捕えた敵は治療してやって下さい……」
 中書令は引き続き使者として春信軍に赴くと、春信との交渉を申し入れた。中書令は春信らに、
「当主の座をお望みであるならば、それに伴う義務も背負う覚悟が必要です。アヤカシを最優先で倒すと仰っていますが、春信様達は東部、北部のアヤカシの侵攻を黙認されています。貴方がたは、この惨状をお知りになられてもなお人々を脅かすアヤカシでなく弘秀様を倒す事を優先されますか? 手ぬるいと仰るならばアヤカシ退治や避難民の受け入れに、貴方がたの優秀なお力添えを頂けませんか?」
「だからこそだ。今ならまだ間に合う。弘秀では鳳華は救えんのだ。これまでの弘秀の敗戦を見てきたろう。里の犠牲を無視して、アヤカシとの戦いを進めてきた弘秀の統治には、限界があるのだ」
 交渉は決裂。予測の範囲であったが。
 それから中書令は反乱軍兵士達や会える範囲の晴信軍勢力下の里長や里の人々にも、今の北部と東部の被害状況や避難民数を記した紙を見せ、下級兵士達や里長、里の人々に揺さぶりをかけておく。
 最後に……ライはまた港の復旧作業に従事する作業員に変装し、超越聴覚などで出入りする業者たちの声などを拾い上げ、資金の流れを探っておく。
「またひどくやられましたね。また武天国内と、理穴、朱藩各国の裏ルートから資金を調達しておきますか」
「春信は……いつまで持つかねえ」
「これは博打ですからね。春信が勝てる見込みは薄いのは分かっています」
「不厳王が動き出したのが予想外だったな――」