【龍王】古の万覇軍
マスター名：安原太一
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| ■オープニング本文 天儀本島武天国、龍安家が治める土地、鳳華――。 首都の天承城にて――。 龍安家の上級アドバイザーを務める芦屋馨（iz0207）は、ここ最近の鳳華の出来事を確認していた。馨自身、藤原家の補佐官であり、また朝廷に仕える高級官僚でもあり、その都合でここ最近鳳華に来ていていなかったのだ。 文に目を通していく馨。禍津夜那須羅王と言う名前が連呼されている。 「禍津夜那須羅王ですか……大アヤカシ不厳王（iz0156）の腹心と言いますが……」 そこへ、これまた上級アドバイザーの役職についている朝廷貴族の長篠安盛が姿を見せる。 「芦屋、何をしている」 「これは長篠様。いえ、少し、鳳華を離れていましたから。戦の状況などを確認していた次第です」 「ふん。藤原がここへお前を寄こしたのは、私の邪魔をさせるためだろう。そんなに熱心に龍安家に尽くす義理がどこにある。我々はお互いに朝廷の人間だぞ」 「そんなくだらないことを言われるために私の機嫌を伺いにいらしたのですか」 「馬鹿め。お前は何も分かっていない。もうすぐ禍津夜那須羅王の攻撃が始まろうとしているのにな」 「何ですって？」 「北部の魔の森に動きがある。強力な瘴気が滞留しているのだ。禍津夜那須羅王が動き出した兆候だ」 「弘秀殿はそのことをご存じなのでしょうね」 「とうに教えてやったよ。この家の連中は、戦には確かに強い。精強な兵も揃えている。だが、情報収集能力は低い。話にならん」 長篠の痛烈な台詞を聞き流して、馨は立ち上がった。 「あなたと言う人は……」 馨は急ぎ足で家長の龍安弘秀のもとを訪れる。 ――弘秀は、筆頭家老の西祥院静奈と、次席家老の栗原直光と、家老の水城明日香、長山平五郎らとともにいた。 「失礼します」 馨が室内に入って行くと、一同頷き、話を再開する。 「北部の里に急ぎ兵を派遣し、敵軍の動向に備えねばならん」 弘秀の言葉に、明日香と平五郎が応じる。 「すでに戦術龍騎兵部隊を二つ、それから第一軍団と第十三軍団に出撃を命じました」 「具体的には、赤龍騎兵大隊と黒龍騎兵大隊を中核とする航空戦力と、サムライ二百名以上と傭兵からなる地上部隊およそ三百名、二個連隊を投入します」 続いて、栗原が口を開いた。 「魔の森に滞留する強力な瘴気の影響か、続々と異形の死人戦士が森から進軍を開始しています。どうやら、長篠様が言われていた通り、禍津夜那須羅王は『万覇軍』を揃えて攻勢に転じるようです」 「万覇軍か……」 弘秀はその響きに禍々しいものを感じる。 静奈は頷き、補足した。 「もちろん私たちが万覇軍の攻撃を受けるのは初めてですが、過去、不厳王が使役したとされる万覇軍は圧倒的な戦闘力で里を飲み込んで言った……そうですが。記録に残っているだけに過ぎませんし、どこまで記録が信用に値するかも分かりませんが。万覇軍は要するに死人の兵種であり、ひとつの集団ですが、高い統率力を持つと言う以上に死人戦士より優れているわけではないでしょう。古き遺物です。恐れるには足りません」 「そうであることを祈ろう。禍津夜那須羅王で手いっぱいなところへ、これ以上伝説の怪物を相手にしていたら兵士達の身が持たんぞ」 と、馨が口を開いた。 「弘秀様、古の万覇軍は特に好戦的な集団でした。お味方には、くれぐれも手綱を緩めることのなきようにお伝えすべきです」 「そうですな……これから年の瀬を迎えようと言うのに、禍津夜那須羅王もご苦労なことですな。古の集団を用いてくるとは――」 北部の魔の森との境界で――。 禍津夜那須羅王は、空中に漂う瘴気の感触を確かめながら、口許を緩めた。 「ふむ、万覇軍が活動するにはこれくらいの瘴気が必要であったな。よくよく、ここまで森が育ったかいがあったと言うものだが……それにしても懐かしい。昔を思い出すわ。私が最前線で戦場に立っていたあの頃をな」 それから禍津夜那須羅王は、手元にある文を開いた。そこには、龍安家の陣容が全て記載されていた。禍津夜那須羅王は「なるほど……」と文を仕舞いこむ。 そうして、この上級アヤカシは、その凶暴な死人兵士の集団に、手近な里から攻撃を掛けるように命令を下すのだった。 |
■参加者一覧
井伊 貴政（ia0213）22歳・男・サ 
葛切 カズラ（ia0725）26歳・女・陰 
焔 龍牙（ia0904）25歳・男・サ 
滝月 玲（ia1409）19歳・男・シ 
コルリス・フェネストラ（ia9657）19歳・女・弓 
オラース・カノーヴァ（ib0141）29歳・男・魔 
ニクス・ソル（ib0444）21歳・男・騎 
長谷部 円秀 （ib4529）24歳・男・泰 |
| ■リプレイ本文 諸将たちと軍議に顔を並べる開拓者たちの姿があった――。 「古の記録にも登場するというアヤカシ兵士が相手だと聞いたのでね。そんなのとやり合ってみたいじゃないですか〜。あ。勿論、芦屋さんともお会いしたかったですしねぇ（ニコ）」 井伊 貴政（ia0213）は言って、顔を緩めた。天承城で、芦屋馨（iz0207）と対面することが出来た。もちろん武人として強敵と戦うのは血が騒ぐ。 「今迄の連中がただの雑兵で今回の奴等が正規軍なのか。それともそれなりに虎の子を出してきたのか。どちらにせよ見極めないとね」 葛切 カズラ（ia0725）の言葉に、諸将たちは頷く。確かに、それは大いに気がかりであった。 「次から次へと色々なアヤカシが出てくるな！ 出てきた杭は打つしかない！ どの様な部隊が出てこようとも、撃退するのみ！」 焔 龍牙（ia0904）の口調が熱を帯びる。果たして万覇軍の実力は……。 「古の軍団か、厄介がってても何も変わる訳じゃない刃を交えてみれば直ぐにわかるさ」 滝月 玲（ia1409）は言って、大将たちに確認する。 「空戦でだが、編成は以前用いた四指戦法を採用しましょう。一班四人とし二人一組で上下に配置、上下どれかの味方が敵に機織り戦法の攻撃をしかけても味方が上下の動きでそれを阻止し互いに援護しあう。草案として、空中戦は被られると不利なので高空からファーストアタックし、消耗した班は後方へ回し、打ち漏らしたり消耗した敵を確実に落として貰ってはどうでしょうか。――制空権はとっても維持できなければ意味がない」 「そうですな。味方も無限の回復力があるわけではありませんからな。空を取って、今回は陸戦を優位に進めなくては。それが龍騎兵の役割となりましょう」 「そうだな……ま、俺は魔術師だし、純粋な意味での戦闘に集中しよう」 オラース・カノーヴァ（ib0141）はそう言うと、パイプを吹かした。 「ニクス（ib0444）という。よろしく頼む」 二クスは言って、笑みを浮かべる。 「こちらに来るのは初めてだが……『古の万覇軍』とはまた大層な名前だな。どれほどのものか拝見しよう」 「この状況は今まで倒せなかった私の責任……この責務は果たさなければ。この拳打を届かせて見せましょう」 長谷部 円秀 （ib4529）は言って、吐息する。 「万覇軍の強さがいかほどかは、分かりませんが指揮官が核である事に変わりはないでしょう。その為には一時的にでも乱戦で指揮系統を乱して不意打ちができればやり易いですね。戦闘は陣内戦闘主体で。相手を引き込むまでは相手がこちらの攻撃にどのような対応を見せるか、どのように統率されているか、命令からの反応速度、精度といった諸々を観察して、戦闘に備えましょう」 それから、コルリス・フェネストラ（ia9657）が諸将に提案する。 「これはあくまで一案ですが」 と前置きし作戦案を提示するが判断は任せるコルリス。 「まずは中央部を重点的に勾配を利用した数重の塹壕網を構築します。可能なら東部、西部にも塹壕網を構築。掘伐した土で各塹壕前後に土塁を構築します。塹壕網を通り各方面の戦闘に味方が分進合撃できる塹壕防御で迎撃を提案します」 コルリスは続ける。 「次に、戦闘では砲術士、弓術師を集中運用いたします。空では四指戦法で連携して敵を撃破。強い敵は龍騎兵は敵を低空に誘い込み、対空射撃と連動して陸空連携で順次倒し、空の敵を迅速に制圧し制空権確保します。陸上ではその間、塹壕網を利用し射撃と機動力を生かし各方面突破を防ぎます」 そして――とコルリスは言った。 「制空権確保後に、ある程度塹壕が突破されるのを想定し、第一線の塹壕の守りが難しくなったら味方は後方の塹壕へ退避します。敵を放棄した塹壕へ誘い込んだところで、後方の塹壕から支援射撃と連携して反撃し敵を掃討します。塹壕を奪還戦する流れを繰り返し防戦を行います」 最後に――とコルリスは締めくくった。 「頃合を見て開拓者達は禍津夜那須羅王のもとへ密かに接近。これを包囲し集中攻撃し撃破します」 コルリスは語り終えて、一息ついた。 「私からの提案は以上となりますが、いかがでしょうか」 「塹壕戦ですか……そこまで本格的な運用は考えていませんでしたね」 総大将の天本が口を開いた。 「いいでしょう。塹壕線を敷いての防戦を基本方針としましょう。我々龍安家はまず負けない戦をすることが戦略ですからね。みな、我が軍は今回コルリスの案を採用します。いいですね」 「ははっ」 すると、コルリスは言った。 「天本様、では私は提案者として全体の調整に回ろうかと思いますが、よろしいでしょうか」 「分かりました。報告を適時お願いします」 「ありがとうございます」 それからコルリスは、前線の各大将へはシノビを通じ、櫓等で六色の旗を使い互いに情報伝達する様依頼し連携支援を要請する。 各色の意味は、黒が戦況求む。黄が交戦中。赤が苦戦。茶が援軍求む。緑が援軍送る、であった。 そして龍安軍は出撃する。まずは陸上から塹壕を掘り進めて行くことになる――。 実際に塹壕を掘るのは大変な作業であるが、志体持ちの兵士達は凄まじい早さで壕を掘って行く。塹壕線を敷くのは作戦の要でもあり、コルリスは工兵経験がある大将のアドバイスを受けながら、全体の指揮を取った。 「さてと……手早く済ませてしまいましょか。古の軍勢が来る前にねですね〜」 貴政は言いつつ、シャベルでざくざくと土を掘り起こしていく。さすがに並み外れた体力、貴政の筋骨たくましい肉体が躍動する。 「ちょっと〜あなた相変わらずいい体してるわね〜」 作業に当たっていたカズラは手を止めると、貴政の筋肉に触った。貴政の筋肉は均整がとれていてもりもりだ。 「まあ鍛えてますからね〜」 「凄い力こぶよねえ〜、着やせするタイプね」 「しかし……万覇軍と言うのは、どれ程のものなのかな？ ただの死人戦士とは違うのだろうか」 焔が壕を掘りながら言うと、滝月も勢い作業しながら答えた。 「そうだなあ……古の軍隊で強かったそうだけど、昔はまだアヤカシがここまで勢力を拡大してない頃だし。何とも言えないな」 「どっちにしたって、禍津夜那須羅王がらみってことは、あの不厳王（iz0156）が背後にいるんだろがな……！」 オラースはシャベルを地面に突き刺すと、パイプを吹かした。 「肉体労働は専門外だが、一般人よりは俺でも役に立つからなあ……何とも」 オラースは吐息して、空を見上げた。 「まあ、俺は禍津夜那須羅王とやり合うのは初めてだし、こんな馬鹿でかい戦は合戦しか知らないが、やばい相手だってのは瞭然だよなあ」 二クスは言って、凄い早さで土を掘り返していく。 「さて……と、ちょっと見回って来るかな」 二クスはその場から離れると、守備の強いところ、弱いところを確認する。塹壕にも必ず弱いところ、強いところがある。二クスは、弱いところで自軍の人間が通らないような場所に、もしもの時を懸念して鳴呼の罠をしかけておく。 「よお、コルリス。首尾はどうだ」 「二クスさん――この調子で行けば、万覇軍と交戦する前に塹壕線はほとんど完成するでしょう」 「完璧ではないのか」 「そうですね。実際突貫工事ですからね」 「分かった、ま、そっちも頑張ってくれよ」 「宜しくお願いします」 長谷部もまた、塹壕掘りを進めていた。急いで仕上げに掛かる。 「長谷部さん――」 「コルリス君、何か――」 「ここは後百メートルほど掘り進んだら、西へ向かって下さい。作業が遅れているようですので」 「スケジュールは予定通りとはいかないからね。後百メートルか。少し足りないんじゃないかな」 「ここは人を少し残して、主力は西へ向けようと思います」 「そうか。了解したよ。この壕で、敵さんが止まってくれればいいけどね」 「そう願います」 「じゃ、西へ向かうよ」 「お願いします――」 そして、塹壕線の構築を終えた龍安軍は迎撃態勢に入った。やがて、空と地平に黒い影が浮かび上がると、咆哮を上げて前進して来る。 それぞれの持ち場で、開拓者たちは龍に乗り出撃する。長谷部は一人、中央の陣に残った。 「それじゃ行きましょうか〜」 「よし、行くぜシックルザール！」 貴政と二クスは中央戦線で飛びつと、先陣切って友軍に合図を送る。龍安軍は四騎一組みの戦術を取る。 カズラと焔も西部戦線から飛び立つ。 「行くわよ、前衛のみんなよろしく〜」 「行くぞ！ 古の軍団だろうと切って捨てる！」 そしてまた、滝月とオラースも東部戦線から飛び立った。 「宜しくお願いしますオラースさん！」 「ああ、さて……どんなものかな万覇軍」 龍安軍の四騎一組みの戦闘隊形に対して、万覇軍龍騎兵は加速して来る。――と、万覇軍は空中で滞空すると、弓での攻撃に切り替えて来る。 「敵は滞空して遠距離攻撃に出ました！」 兵士が言うが、コルリスも望遠鏡でその様子を確認していた。 「咆哮で引き付けて下さい」 「了解しました！ 各隊へ咆哮の使用を伝達！」 「……中々やりますね〜ですが、これならどうでしょうか」 貴政始め、サムライ達が咆哮をぶつける。 万覇軍は一部が怒りの声を上げて前進して来る。だがそれでも、ほとんどは咆哮に抵抗する。影響を受けたのは貴政始め、一部の咆哮だけだった。 「やりますね、これは、こちらから仕掛けないと」 コルリスは、地上に目を向ける。万覇軍は塹壕線の前で停止すると、炸裂矢を龍安軍の陣に撃ちこんで来る。 「地上にも咆哮をお願いします。手強いですねこれは」 貴政たちは加速すると、敵陣に切り込んでいく。 二クスも加速する。 万覇軍ボスの咆哮が響き渡ると、その龍騎部隊は整然と戦闘隊形を取り、抜刀した。 「二クスさん、気を付けて行きましょう」 「それが良さそうだな」 激突する龍安軍と万覇軍。一撃、二撃と撃ち合い、貴政と二クスは万覇軍龍騎兵を切り捨てた。味方は各個撃破に出るが、万覇軍は包囲を逃れるように上下に移動する。 「逃げる気……？ それならこれで！」 カズラは斬撃符を叩き込んだ。アレが鏃状に変形して突撃、万覇軍兵を撃ち貫く。 「確かに手ごわいな！ ボスを倒した方がよさそうか！ ――カズラさんあそこ！ 俺は側面から行きます！」 「了解。行くわよ！ 火炎獣！」 アレが火炎放射。炎が空中を焼き払う。 万覇軍ボスは強弓を引き絞ると、カズラに叩き込んだ。 「おっと危ないわね〜」 カズラは素早くかわした。 「お前の相手はこっちだ！」 焔が加速すると、ボスに切り掛かった。一撃、二撃と打ち合い、焔はボスの腕を切り飛ばす。離脱して旋回すると、焔はすれ違いざまにボスの首を狙った。 ――と、そこへ別の龍騎兵が突進して来て焔は態勢を崩された。 ボスは後退しつつ、守りを固める。 滝月も、咆哮で引き付け、万覇軍龍騎兵とのドッグファイトに移行している。 「こいつら、手堅いな。ただの雑魚とは違う。ボスを中心に良くまとまっている」 万覇軍兵を切り捨て、滝月は焦りを覚える。 コルリスも同じ思いであった。制空権を先に押さえ、陸戦で防戦を展開するはずが、地上では塹壕線に対して万覇軍は突撃を掛けずに遠距離からの炸裂矢の攻撃を徹底する。咆哮も余り効果が無い。 「これは難しいな……とは言え、アヤカシどもに魔術の心得はあるまい」 オラースは言って、敵陣のど真ん中でトルネード・キリクを起こす。真空の竜巻が万覇軍兵を薙ぎ払う。 「魔術でこじ開けてやるさ。ただ、龍安軍には相性の悪い相手かもな」 オラースは護衛を伴って、前進すると、アークブラストにブリザーストームを叩き込んだ。 ボスは咆哮を上げると、オラースに万覇軍兵が前進して来る。 「そうは行くか！」 滝月はボスに突進した。激突！ 滝月はボスの首を切り飛ばした。万覇軍ボスは、それでも腹に付いた口から咆哮を上げると、堅い指揮を取り続けた。 空は膠着状態に陥る。二クスは、塹壕線の一部が禍津夜那須羅王の衝撃波で破壊されているのを確認すると、仲間たちに連絡する。それを受けたコルリスは地上への支援に回るようお願いする。 「くそ……地上には禍津夜那須羅王かよ」 開拓者たちは降下していく。 長谷部は、陣内で指揮を取り、前進してこない万覇軍にこちらからも矢を叩き込み、咆哮をしばしば浴びせていた。だが戦線は膠着。 凄まじい勢いで撃ち込まれる瘴気の炸裂矢は、龍安軍の陣中で爆発し、兵士達の士気を怯えさせた。 「こんなもの、威力は大したことない。怯むな！ 撃ち返して下さい！ 上空を制圧出来れば味方が来ます！」 長谷部が友軍を叱咤激励していた。 そこへ開拓者たちが舞い降りて来る。 「長谷部さん！」 「焔君、空は押さえましたか」 「いや、万覇軍は手強いです！ 空は膠着です」 「こっちもですよ……万覇軍は徹頭徹尾、こっちの防御陣には踏み込んできません」 時折聞こえて来るボスの咆哮が大気をびりびりと震わせる。 「こっちに禍津夜那須羅王が向かってるぜ」 オラースは、衝撃波で龍安陣を切り裂く禍津夜那須羅王を望遠鏡で確認すると、パイプを吹かした。 と、禍津夜那須羅王が咆哮すると、その背後から万覇軍兵が突撃してくる。 「でも、これじゃ敵の攻撃も限定的よね。塹壕線を敷いたことでこっちの目的である敵の進軍は止められたみたいじゃない」 カズラが言うと、長谷部は吐息した。 「確かにそうですが……睨み合いが続けばこっちに不利ですからね。相手はただでさえ無限の回復力がありますからね」 ――と、陣が切り裂かれ、爆煙とともに禍津夜那須羅王が姿を見せた。 万覇軍が陣内になだれ込んで来ると、龍安兵も迎撃する。 「開拓者どもか。少なくとも塹壕線を敷いたのは正解だったな。うまく膠着状態を作りだしたな。だが、このまま冬に入れば長くは持つまい」 「その前にお前を倒してやるさ」 滝月が言って踏み出すと、開拓者たちは禍津夜那須羅王に打ち掛かった。 貴政は吹き飛ばされ、二クスも弾き飛ばされた。 長谷部は白梅香を使った拳撃で奇襲を仕掛ける。滝月と焔との同時攻撃。禍津夜那須羅王の一撃を八極天陣で避けて拳打を返すと、白梅香を叩き込む。 揺らいだ禍津夜那須羅王へ焔が魔槍砲「瞬輝」＋スキル「ヒートバレット」で槍撃と同時に砲撃による攻撃を撃ち込む。 「焔龍、炎砲槍弾！」 滝月は瞬脚で飛び込み勢いそのままに遠心力も載せ、破軍を五回重ね掛けした渾身の火斬車（自称）で目を攻撃する。 禍津夜那須羅王はそれらを耐え抜くと、またしても三人を吹き飛ばした。 だがそこへカズラとオラースが蛇神とアークブラストを叩き込めば、禍津夜那須羅王は身にまとう瘴気を盾に防御した。 「ふむ……ここまでか。うまくやったようだが開拓者ども、次は無いだろう」 禍津夜那須羅王は最後に衝撃波を叩き込むと、万覇軍とともに後退したのだった。 ――辛勝であった。 |
