【龍王】太紅封原の戦2
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 難しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/11 19:03



■オープニング本文

 天儀本島理穴国、首都の奏生にて。
 儀弐王(iz0032)は、家臣たちとの会合が終わって、執務室で報告書に目を落としていた。
「陛下――」
 そこへ顔を出したのは、儀弐王の秘書を務める男性。
「何か」
「藤原家側用人の芦屋馨(iz0207)様がお見えです」
「藤原の‥‥?」
 儀弐王は意外に思ったが、文を置くと頷いた。
「お通しして下さい」
「はい――」
 秘書と入れ違いに、芦屋が入って来る。
「陛下、お時間を割いて頂きありがとうございます」
「ようこそ。藤原殿の使者とは意外な客人ですね」
 言って、儀弐王は芦屋に席を勧める。
「それで、藤原殿の使者が、私に何のご用でしょうか」
「二年前を覚えておいででしょうか。緑茂の戦いを」
「もちろん」
「実は、大アヤカシ炎羅について、お話があります――」

 魔の森の奥地で‥‥。
 大アヤカシ不厳王(iz0156)はまどろんでいた。
「不厳王様――」
 影が歩み寄り、不厳王に声をかける。不厳王は瘴気を吐きだし、僅かに体を動かした。
「我々の力、確実に増しております。世に広がる暗雲は、ますます巨大に‥‥」
「力を――」
 不厳王が言うと、影は手を差し出し、緑色に光る力の素を主に預けた。
「行け――」
「ははっ」
 影が後退すると、不厳王は再びまどろみに入った。

 ‥‥ところは全く変わって、武天国は龍安家が治める土地、鳳華――。
 首都の天承城にて、家長の龍安弘秀は、龍安家が抱える刀工集団の長、天谷誠二郎を城に招いていた。天谷は五十九歳。刀工たちの長老的存在で、龍安家の武将達からも敬意を払われる存在であり、弘秀もその腕に惚れ込んで側に置いていた。刀匠の中でも名匠と謳われる存在である。
 弘秀は、新たに献上された一振りの刀を抜いて、その仕上がりを確認する。
「相も変わらず見事だな‥‥そなたが作り出す刀剣の世界の前には、我々も無力だな」
「恐れ入ります」
「太紅封原の戦のことは聞き及んでいるか」
 弘秀は、現在鳳華で進行中の戦の話題を振った。
「もちろんにございます」
「長期戦でな。里の本丸にて態勢を立て直し、かれこれ二週間以上になる。だが禍津夜那須羅王の軍勢はじわじわと里を侵食しつつある。こちらも攻め手を欠いていてな。言ってみれば、心をやすりで削り取られるような心境でな」
「それはあなた様にとってはそうでしょうが、前線で命を掛けて戦う兵士達は、みな民を思い、あなた様に忠誠を誓っておられます。我が軍の士気は高い。大氏正が作り上げた龍安家の礎が、今の鳳華を守っているのです。あなた様はお一人ではありません」
「そなたが言うと、真に身に染みる思いだな」
 弘秀は言って笑った。
「恐れ入ります。私はただの平民にて、軍事の専門家ではありませんので」
「うむ」
 弘秀は頷き、刀が放つ輝きにしばし見入っていた。
 ――そこへ、筆頭家老の西祥院静奈がやってくる。
「お屋形様――。これは天谷殿、お久しゅうございます」
 静奈がお辞儀すると、天谷は深々と頭を下げた。
「いかがした」
「はい。太紅封原に動きがございます」
「遂に動いたか」
「家老達が集まっています」
「分かった。天谷、また話を聞かせてくれ。いつでも登城せよ」
「恐れ入ります」
 天谷はそう言うと、退室した。

 弘秀と静奈は、別室に移動して、家老達が集まる部屋へと移った。
「禍津夜那須羅王が動いたそうだな」
 弘秀が問うと、軍事顧問の山内剛は口を開いた。
「はい。禍津夜那須羅王は全軍の三分の二に当たる死骸龍騎兵を上空に展開し、空から里を制圧する動きを見せています。陸上からは里の中枢を目指して、部隊を集結させている模様です。恐らくこれが、里での最後の戦いになるでしょう」
「我々はどう受ける」
 その問いには、家老の水城明日香が答える。
「アヤカシの空軍に対しては、第四、第七、第十二、第十七、四つの戦術龍騎兵部隊を投入します。陸上のアヤカシに対しては、第五軍団と第十三軍団が対処します。陸上部隊はすでに現地入りしており、総大将の坂本様の指揮下にあります。龍騎兵に関しては間もなく出立の準備が整います」
「最後の戦いになると言ったな。負ける可能性もあるのだな」
 弘秀が言うと、一同沈黙したが、静奈が口を開いた。
「禍津夜那須羅王は上級アヤカシです。負の力を集めるために積極的に攻勢に転じて来るでしょう。それこそがかの者の力の源になるのですから。今回、禍津夜那須羅王は大きな力を手に入れるつもりなのかも知れませんが、上級アヤカシは決して勝てない相手ではありません」
「だが兵士たちにあの化け物に束になって掛かれとは言えん」
「開拓者たちがいます。彼らの力を借りましょう。禍津夜那須羅王と渡り合えるのは、彼らしかいません。これまでの例から見ても」
「奇跡を期待するなら――」
 山内が一同を見渡す。
「仮に開拓者たちが禍津夜那須羅王を最悪でも後退させてくれれば、アヤカシ軍は撤退するに違いない。奴らの蜂のような階級社会は集結すれば脅威だが、首領を討ち取ればその戦線も一撃で崩壊する」
「禍津夜那須羅王をどうにかして引きずり出すことが叶えば、その機会もあるかもしれませんね」
 明日香が言うと、弘秀は吐息した。
「ここで戦術について語っても禍津夜那須羅王が倒せるわけじゃない。後は戦場の坂本らに託すしかない。俺も腹をくくろう」
 弘秀はそう言うと立ち上がった。
「ではよろしく頼む。戦況は報告してくれ――」
 そうして、太紅封原で二度目の戦いが始まる。


■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
将門(ib1770
25歳・男・サ
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
セシリア=L=モルゲン(ib5665
24歳・女・ジ


■リプレイ本文

●軍議
「これで終わりどすか。アヤカシとの戦闘がこれで終わりっていうならええんどすがなぁ」
 と哀愁深く感想を云う華御院 鬨(ia0351)。歌舞伎役者でもある鬨は、女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回は京美人の女装をしていた。
 焔 龍牙(ia0904)は拳を打ち合わせ、陣中に響き渡る声を出す。
「何としても禍津夜那須羅王に一太刀浴びせて見せる!」
 焔龍の気迫に、サムライ大将たちはやや驚いた様子。
「禍津夜那須羅王か。まったくとんでもない化け物だな、だけど龍安に集いし正の力もばかにしたもんじゃないと思うぜ」
 そう言って、サムライ達を見やる滝月 玲(ia1409)。
「戦術の不利を個人の武で覆す、か。武人としては目指すべき境地だな。まあ、それだけに生かしておけば、その災厄は計り難い。今回で討ち取るぞ」
 言ったのは将門(ib1770)。
「混戦に持ち込み禍津夜那須羅王が前線に出てくるのを待ち、開拓者の総力を結集して討ち取る。まあ、言うは易し、ですが、奴を討ち漏らせば上級アヤカシの性質上、より強大な力を得て再来するでしょう。それは避けたい。万が一、最初から禍津夜那須羅王が前線に出張っている場合は陸戦部隊の精鋭を以って王付近の敵を抑えて頂きたい。その隙に開拓者が特攻をかけ、首を落とします」
「うむ」
 総大将の坂本は、将門の言葉に頷き、思案顔で卓上の地図に目を落とす。
「ここが正念場ですか‥‥この剣届かせて勝たせてもらいますよ。どんな手であってもね禍津夜那須羅王を全力で斬りましょう。ただで済むとも思いませんが‥‥無事で返しません、絶対に」
 長谷部 円秀(ib4529)は言って、あの恐るべき上級アヤカシの顔を思い浮かべる。
「ンフフ。無闇矢鱈に攻めてもだめよネェ。少しだけ策を練ろうかしらん。‥‥頼りすぎてもだめよォ」
 セシリア=L=モルゲン(ib5665)は、それから仲間たちに禍津夜那須羅王の情報を聞いておく。どういった技を使うのかなど。
 それからコルリス・フェネストラ(ia9657)が口を開いた。
「これはあくまで一案ですが――」
 と前置きし作戦案を坂本達重鎮に奏上する。
「聞こう」
「はい――。まず今回は、禍津夜那須羅王討伐まで陸空共に防戦。開戦後、私は駿龍を駆り空戦支援をいたしますが。禍津夜那須羅王の注意を引き付ける囮役となり、残りの開拓者は陸で戦闘します。続いて、陸戦隊の開拓者は戦況に応じ混戦を避け後退。この時、敵は死骸巨人等の強いアヤカシを追撃に回すでしょうから、空陸部隊の連携で防戦。具体的には、陸上の弓術師、砲術士等の射程範囲へ味方龍騎兵が空の強敵を誘導し、地上部隊からの対空射撃で挟撃。地上の強敵は陸戦隊が食い止める間に味方龍騎兵が空から強襲します。最後に、禍津夜那須羅王が来たら焙烙玉を周囲の敵に投げ爆発音で開拓者達に合図を送り、私も迅速に殺到し集中攻撃いたします。かのアヤカシを退治後は掃討戦に移ります」
 コルリスはそこまで言ってお辞儀した。
「ふむ‥‥どうだみな」
 坂本が見渡すと、サムライ大将たちは口を開いた。
「戦術としては悪くないでしょう。開拓者を軸に禍津夜那須羅王に攻勢をかけるのは賛成です。我々も力を入れた方がいいでしょうな」
「下級アヤカシの足止めは何とかなるでしょう」
「あの上級アヤカシはたった一人で恐らく一軍に匹敵します。開拓者を中心に奴を包囲下に引きずり出す、実際迎え撃つにはそれしかないでしょうが、うまくいくか‥‥」
「航空戦力も多いですからな。簡単に敵を縦深陣に引きずり込むと言うわけにも」
「これまでの例から見ても、あの攻撃力を存分に振るわれては厄介だ。同時進行で下級アヤカシを消耗させておき、禍津夜那須羅王を孤立に追い込むしかないだろう」
 坂本は言った。
「ではコルリスの案をもとに、禍津夜那須羅王を引きずり出す、と言う作戦で行こう。各部隊、連携して下級アヤカシの殲滅に務めよ」
「作戦案を許可頂きありがとうございます」
 コルリスは言って、手を上げた。
「方々、伝令役の龍騎兵や地上兵に複数色の旗を持たせ、各隊の戦況が互いにわかる様ご協力願います。連絡役には黒、黄、赤、青、緑の5色の旗の用意を。各色の意味は黒が戦況報告求む。黄が交戦中。赤が苦戦中。青が敵撃破。緑が増援送る、です。各隊大将のご判断と指示で各隊間の情報伝達をお願いします」
「承知した」
 と、戦場の方角からアヤカシの咆哮が響いて来る。伝令兵が駆けこんで来る。
「申し上げます! アヤカシ軍、全軍を以って攻勢に転じてきます!」
「禍津夜那須羅王は見えるか」
「いえ、そのような報告は入っておりません!」
「分かった‥‥では行くか。全軍迎撃態勢を取れ。出陣だ――」
 戦闘の幕が上がる。

●戦闘開始
 鬨は加速すると、アヤカシの戦列に突撃する。――激突!
 あまりスキルを使わずに余力を残す様に、通常攻撃で回避しながら戦闘をする。禍津夜那須羅王を引きずり出さなくてはならない。ここで消耗するわけにはいかない。だがアヤカシは多勢、歴戦の鬨と言えども手加減できる戦闘でもない。舞うようにレイラを振るい、アヤカシを切り刻んでいく。
「こないな攻撃では、痛くもかゆくもありまへんどす」
 と存在をアピールする。目立てばいいので、演技で全力でなく、見た目だけ大げさに戦闘をする。
 殺到して来るアヤカシ兵士を反転してレイラで吹き飛ばした。凄絶な衝撃に砕け散るアヤカシ兵士。
「まだまだどすえ、禍津夜那須羅王はん」
 焔は、戦術は一撃離脱を基本とし太刀「阿修羅」でスキル、ファクタ・カトラスを適度に発動させつつ攻撃する。
「行くぞアヤカシども! 焔龍の名に掛けて貴様等を切る!」
 するすると滑るような一撃を繰り出す。ファクタ・カトラス。砂迅騎の高速の一撃が
アヤカシ兵士を薙ぎ払う。
「玲! そっちへ行ったぞ!」
「任せとけ龍牙さん!」
 滝月と焔は幼馴染で阿吽の呼吸で攻撃が出来る。
 滝月は迫りくるアヤカシ兵士を裂帛の気合とともに叩き伏せた。
 巨大な影が前進して来る。
「巨人が来るぞ!」
「俺が先頭に立つ! 龍安兵遅れを取るなよ! ここはあんたらの本丸だろう! 行こう!」
 滝月は兵士達を叱咤激励すると駆け出した。
「玲!」
「龍牙さん援護頼む!」
「ああ。良し行くぞみんな!」
 巨人に向かっていく滝月ら。
 十メートルの巨人の拳が振り下ろされるのを、滝月は受け止めた。そのまま太刀を翻し、巨人の腕を切り落とした。
「行け! 足を狙え!」
「おお!」
 巨人の足を粉砕して、崩れ落ちたところを叩き潰した。
「禍津夜那須羅王は出ずか‥‥さて、どんなものかな」
 将門は前進すると、接近して来るアヤカシ兵士を一刀のもとに切り捨てた。
「よしみんな! 禍津夜那須羅王を仰天させてやろう! 何度もやられてたまるか!」
 将門は気合とともに刀身を一閃し、アヤカシ兵士を真っ二つにすると、さらに踏み込み、上段からの一撃でアヤカシの頭部を爆砕する。
「何度でも跳ね返してやるさ‥‥禍津夜那須羅王、好き勝手にはさせん」
 長谷部は小部隊を数個指揮すると、一撃離脱を波状で繰り返し、相手の攻撃をいなし、友軍の攻撃で敵を漸減させ敵の行動の統制を乱れさせる策に出る。
「行きますよ! あそこの延び切ったアヤカシの戦列に突撃します! あのアヤカシ集団を殲滅しますよ!」
「了解した!」
 龍安兵士達は、長谷部の指示のもとアヤカシの戦列に突進した。勢いに乗り、伸び切ったアヤカシ集団の戦列を側面から破壊する。
 アヤカシの先端を挫いた長谷部らは、後退するアヤカシに追撃を掛けず、戦列を整え次の攻撃に備える。
 セシリアは、戦闘開始から後方で待機して、超越聴覚を使用。戦闘している場所ではなく、周辺の物音に警戒して一時的な退却時に奇襲を受け無いように注意。
「ンフフ‥‥いよいよ始まりねェ」
 セシリアは望遠鏡を片手に、戦況を確認する。両軍一進一退の攻防が続いている。黒、黄、赤、青、緑の旗があちこちで振られている。
「ンフ‥‥禍津夜那須羅王はどう動くつもりかしらねェ」
 本陣に目を向ければ、次々と伝令が飛び込んでいく。
「ンフフ‥‥今日の戦いは、待っているあの子にも聞かせてあげたいわねェ」
 セシリアは、子供の顔を思い浮かべた。それからセシリアは、空のコルリスに目を向けた。

 コルリスは駿龍の応鳳を駆り、鏡弦で他の敵の位置を把握しつつ空戦部隊の四指戦法や空陸連携等を指揮。
「――二時の方角からアヤカシ集団! 第四部隊迎撃して下さい! 四騎一組みでアヤカシ龍騎兵に当たって下さい!」
「了解しました! 行くぞ!」
 それから、コルリスは地上に目を落とすと、開拓者たちに合図を送る。
 開拓者たちは後退して行くと、龍安軍も同時に後退して行く。
 アヤカシ達は勢い前進していく。
「今です――!」
 コルリスは号令を下すと、龍安の龍騎兵部隊は降下して地上部隊と連携して矢を浴びせかける。
 アヤカシ軍の足が再び止まる。

「撃て――!」
 地上から、砲術士や弓術士が一斉に攻撃を開始する。
 他の兵士たちも矢を叩き込む。
 アヤカシたちは苦悶の声を上げて消失して行く。

 ――と、その時だ。
 地上で緑色の閃光が爆発した。龍安軍の戦列を切り裂く瘴気の波動。
 そして、ひときわ邪悪な咆哮が大気を震わせる。
 コルリスは目を向けた。
「あれは‥‥」
 禍々しい巨大な二足歩行の竜に乗った禍津夜那須羅王が前進して来る。
「出ましたね――」
 コルリスは焙烙玉を投げつけた。その爆発が禍津夜那須羅王の出現を知らせる合図である。

「コルリス・フェネストラか‥‥」
 禍津夜那須羅王は空を見上げる。
「相変わらず切れる開拓者だな。やってくれる――」
 それから禍津夜那須羅王は咆哮すると、全軍に再度総攻撃の合図を出す。腕を持ち上げ、瘴気弾を投げつける。
「行くぞ開拓者ども――」
 禍津夜那須羅王は竜を駆り、加速した――。

「禍津夜那須羅王が来るぞ――!」
「引き付けろ! 開拓者を中心に迎撃!」
「アヤカシ軍突進してきます!」
「全軍総力戦用意!」

 そして、開拓者たちはそれぞれ龍などに乗り、禍津夜那須羅王に一気に接近する。
「那須羅王はん、どんどん強ようなっている様どすが、そろそろお腹いっぱいやろう。ええかげん、ごちそうさまして、お帰りやさい」
 と挑発気味に挨拶する鬨。龍から降りると、相棒には体を叩いて後退させる。
「やっと辿り着いたな那須羅王!」
 焔は真紅の瞳で敵を見据える。
「よお化け物、また会ったな」
 滝月が言うと、将門は不敵な笑みを浮かべる。
「俺の記憶に残るか」
「貴方の腕で私の剣が受けられますか? 腕に自身があるのなら避けるなどせずに受けきってもらいたいものです」
 長谷部も挑発気味に言葉をぶつける。
「ンフフ‥‥あなたが禍津夜那須羅王? 色っぽいわねェん」
 セシリアは言って、鞭を弄んだ。
 更に上空にはコルリスが待機し、回りを龍安軍の精鋭が取り巻く。
 禍津夜那須羅王は長刀を片手に、悠然と竜から降り立つ。金色の瞳で、周囲を見渡す。
 これだけの戦力を相手に一人で戦うと言うのか‥‥。龍安の兵士達は確かに威圧されていた。
「開拓者ども、か」
 禍津夜那須羅王は、言って長刀を一閃した。
「武には武で応えよう、などと洒落たことを言うつもりはない。我々は生存を脅かす敵同士だ。殺し合うしかないのだからな」
「生存、どすか」
 鬨は那須羅王を見据える。
「あんさんはただの瘴気の塊ですやろ」
「‥‥‥‥」
 禍津夜那須羅王は長刀を構える。
「撃て――!」
「砕!」
 コルリスらが、一斉に矢を叩き込む。何十発もの矢が禍津夜那須羅王を貫通する。
 鬨は加速する。紅焔桜で強化した後に白梅香で攻撃する。舞う様に囮気味に攻撃して、味方の攻撃が有効的に効く様にサポートをして、ちょっと余力を残しておく。
 焔はファクタ・カトラスで仕掛ける。一撃離脱、変幻自在に移動して攻撃する。攻撃目標は手足。
「煌け! 我が魔神! 瞬輝!」
 魔槍砲を叩き込めば、爆炎が禍津夜那須羅王を後退させた。
 滝月も、これが一撃でどうにかなる相手だとは考えていない。仲間と同じ部位を攻撃し徐々にでも傷を深くすることを狙う。
 泰練気法・壱で覚醒し、瓏羽をブラインドに利用して特攻、破軍を一気に四回分重ね掛けした渾身の天呼鳳凰拳を那須羅王の目に向かって放つ
「命を込めた炎帝が拳、貴様の悪しき瞳食らってやるっ!」
 ――キイイイイイイン! と、拳は命中したが、那須羅王は瞬きもせずに目で滝月の拳を受け止めた。
 将門も突進。初撃は仲間の動きと合わせて足を狙って気力を振り絞っての柳生無明剣。足を絶ち、討ち逃しの芽を潰す。が、刀身は堅い那須羅王の肉体に弾かれた。
「これでも!」
 さらに気力を振り絞った柳生無明剣の二連撃。これは刀身が貫通する。
 長谷部は後も先もなくただ一刀、不退転の決意を持って一太刀に掛ける。紅焔桜+破軍×8+秋水。受けさせず、防御も貫いて、全力の剣を打ち込む。
「(この一撃で決める‥‥これが‥‥全身全霊!)」
 刀身は禍津夜那須羅王を貫く。
「ンフ‥‥よけ切れるかしらねェん」
 セシリアは散打から、蛇神を叩き込む。
 禍津夜那須羅王は全ての攻撃を受け切って、反撃に出る。長刀を一閃すると、全周に衝撃波を叩き込んだ。開拓者たちは切り裂かれて吹き飛ばされた。さらに加速した那須羅王は長谷部と滝月を剣撃で吹き飛ばした。
 攻防戦は続く。それから10ターンを越えて、禍津夜那須羅王はなお健在であった。肉体は一部損傷していたが、その力は強大であった。凄まじい剣術で開拓者たちの前に立ち塞がる。
 開拓者たちは傷つき、負傷しており、気力で持ち堪えていた。それでも、彼らは退くことは無かった。まだ肉体は動く。
 一方龍安兵は大ダメージを受けて戦闘不能になっていた。
「大した奴だよお前は‥‥ここにいるのはギルド屈指の連中、それから龍安の精鋭。たった一人でここまで」
 将門はよろりと立ち上がり、那須羅王に切り掛かった。
 同時に、焔が残していた練力で一撃を放つ。
「これで、最後だ!」
 魔槍砲「瞬輝」+スキル「ヒートバレット」で槍撃と同時に砲撃による攻撃。
 切り札「焔龍、炎砲槍弾!」
「ぬっ――!」
 禍津夜那須羅王は手をかざしたが、そこへ魔槍砲の一撃が撃ち込まれる。那須羅王の腕が吹き飛び破壊された。
 更に鬨が「詰めが甘いどす」と背後から白梅香を叩き込む。
「ちい‥‥!」
 禍津夜那須羅王は長刀の連撃で三人を吹き飛ばすと、上空から舞い降りて来た死骸龍に捕まり戦場から離脱する。
 やがてアヤカシ達は敗北を悟り壊走して行く。アヤカシの軍は太紅封原から逃げ出していく。
 戦場に青色の旗が振られ、龍安軍は勝ち鬨を上げたのだった。