【龍王】雷鳴3
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/13 22:03



■オープニング本文

 何処かの魔の森の奥地で‥‥。
 大アヤカシ不厳王(iz0156)は瘴気の渦の中におり、着実に力を蓄えていた。何となれば、開拓者ギルドが必ずしも彼の部下達の動きを全て封じているわけではないからだ。世界は広大。そして不厳王の配下のアヤカシの活動は人の目を欺き、巧妙であった。
 と、瘴気を割って、影が近づいて来る。影に光が当たると、その姿が見てとれる。身長は二メートル近く、軽鎧の黒装束に長い黒髪、肌は血の気の無い白、瞳は金、美しいとも言える眉目秀麗な若者の姿をしている。姿は人間だが、薄く青白い陽炎のような瘴気をまとっており、凍りつくような印象を与える。腰には長刀を差していた。
「不厳王様――」
 そのアヤカシの声に、不厳王は反応した。
「禍津夜那須羅王か‥‥どうした、問題でも?」
「いえ、あなた様を煩わせるほどの問題ではありませんが、この一年の最前線の崩壊は事実です。人間もまた力を付けております」
「崩壊? 何を案ずるか。この一年で我が力、確実に増しておる。些少の抵抗は止むを得まい」
「少し、前線のテコ入れを図るべきではないでしょうか」
 アヤカシ――禍津夜那須羅王の言葉に、不厳王が初めて目を開けた。
「打って出るつもりか那須羅王」
「はい」
「ふむ‥‥」
 不厳王は唸った。骨の指で髑髏の顎を摘む。
「他の者たちは黙っていまい」
「そうでしょうね。ですが、私たちにはそれぞれやり方があります」
「分かった」
 不厳王は手を上げると、部下の上級アヤカシを見返した。
「お前の好きにするがいい。仔細は任せる」
「ありがとうございます」
 禍津夜那須羅王は深々とお辞儀すると、不厳王の前を辞した――。

 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華の首都、天承の城で――。
 風信機の前で、二人の女性兵士が待機していた。ここには突発的に非常事態を知らせる情報が飛び込んで来る。最も重要なものは魔の森からのアヤカシの攻撃だ。だが、鳳華が戦闘地域だからと言ってももちろんそれ以外の情報も入って来るし、そうした情報の方が実際は数は多い。何か問題が発生しても、大半の問題は家老達に伝えられて処理されて行く。
「南雲様のことは残念だったわ。でもさすが西祥院様ね。開拓者たちも。どうにか琴南王を倒したそうだし」
「ふーん‥‥でも北と南の魔の森は相変わらず活動的でしょう? 油断はできないわ」
「そうね‥‥」
 そこで、風信機の宝珠が光ったので、女性兵士はそれに手を当てて応答する。
「はい、天承城です」
「北深の里長早瀬だ。村がアヤカシの攻撃を受け壊滅した。お屋形様に伝えてくれ。敵は上級アヤカシだと」
 里長の声は緊迫していた。女性兵士は一瞬声が出なかった。
「上級アヤカシって‥‥本当ですか?」
「名前は『まがつやなすらおう』と言うようだ」
「分かりました。詳しくお話しして頂けますか――」

 龍安家の筆頭家老である西祥院静奈は溜まった文に目を通していた。先日の激戦から帰還して、また政務に戻っていた。
「静奈様――明日香が来ました」
 静奈の助手を務める上級アシスタントの由紀が顔を出したので、静奈は顔を上げた。
「通して頂戴」
「はい」
 由紀と入れ違いに、家老の水城明日香が入って来た。明日香は入って来るなり言った。
「静奈、北深の里が上級アヤカシに攻撃されたわ。村が一つ壊滅した」
 静奈は数瞬考えて、吐息した。
「上級アヤカシの攻撃を直接に受けるのは、龍安家の歴史が始まって以来ね。驚きはしないけど」
 静奈は立ち上がると、明日香を伴って家長の龍安弘秀のもとを訪れた。
 弘秀は次席家老の栗原直光と、他家老衆たちと会合の途中だった。
 静奈と明日香はしばらく会合が終わるのを待った。家老達は弘秀に報告を済ませると、立ち上がった。
「それでは失礼します」
 家老達は一礼して出て行く。
 栗原は静奈の姿を見て室内に残った。
「お屋形様――」
 西祥院が声を掛けると、弘秀は頷いて厳しい顔を見せた。
「待たせたか。どうした静奈、明日香。いや聞くまでもないか。また攻撃か」
「北深の里が上級アヤカシの攻撃を受けました」
「本当なのか?」
 弘秀の問いに、明日香は頷いた。
「人型の上級アヤカシです。確認されたところによると、名前は禍津夜那須羅王。表立って活動したのはかなり昔の上級アヤカシです。死人アヤカシであることは分かっています。直系の上位アヤカシは大アヤカシ不厳王ではないかと思われています。その点は未確認ですが」
「なるほど‥‥例の不厳王の配下か」
 弘秀は「それで」と促す。
「この那須羅王は一般的な上級アヤカシの例に漏れず、北深の里へ直接攻撃を掛けてきました。村が一つ壊滅しました。恐らく生存者は無しです」
 その言葉に続いて、栗原が口を開いた。
「これまでの動きはこれの前触れだったのでしょう。お屋形様、不厳王は大アヤカシです。早々に鳳華に攻め込もうとしているとは思いませんが、警戒が必要でしょう。不厳王の動員兵力は絶大です」
「この那須羅王は恐らく単独の動きよ」
 明日香は栗原に言った。
「そう言い切れるのか。アヤカシの攻撃に理由を探していても仕方が無いんだろう」
「不厳王は動かないわ。あの大アヤカシが那須羅王に関わっているとしても、自分で攻撃するはずが無いわ」
「どうして」
「自分で攻撃するつもりなら、今年初めの攻撃の際に鳳華は既に魔の森に飲み込まれてるからよ」
 明日香の言葉に、栗原は肩をすくめる。
 そこで、上級アドバイザーの芦屋馨(iz0207)がやって来る。
「弘秀殿、上級アヤカシですか」
「村が一つ壊滅しました。容赦ない攻撃ですよ」
「そうですか‥‥」
 芦屋を横目に、静奈が口を開いた。
「お屋形様、北深の民には早急に避難してもらわねば。それとは別に突破されれば鳳華の中央に侵入を許します。禍津夜那須羅王が上級アヤカシとは言え、里は死守しませんと」
「厳しい戦いになるぞ」
「開拓者を呼びましょう。彼らは上級アヤカシとの交戦経験も豊富です。それから、何とか出来るだけのサムライ大将を前線に立てましょう。兵士達の士気を支える者が必要になって来るでしょう」
「分かった。だが軍事顧問たちの意見も聞いた方がいいだろう。明日香、みな集まってるな」
「はい」
「では行こうか」
 弘秀が立ち上がると、静奈と明日香、芦屋に栗原も彼に続いた。

 ‥‥北深の里北部、破壊された村の跡。
 禍津夜那須羅王は、ゆらゆらと揺らめく瘴気をなびかせて、長刀を地面に突き立て里の中枢を見つめていた。
「ひとまずここで始めたことは終わらせよう。どのような形になるにせよ。全てはより大きな力を得るために我々は存在するのだから‥‥」
 那須羅王は金色の瞳に里を映し、攻撃の態勢を整えていくのだった。


■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
雲母(ia6295
20歳・女・陰
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
セシリア=L=モルゲン(ib5665
24歳・女・ジ


■リプレイ本文

 軍議が始まると、井伊 貴政(ia0213)はいつものように飄々とした口調で言った。
「龍安家臣として前回に引き続きお力になれればと思いますねえ。それに、上級アヤカシとやり合える機会なんてそうないし」
 にやりと笑みを浮かべる貴政。
「そして、今回も開拓者であろうと龍安家の方であろうと、女の子は守ってみせます」
 真顔で貴政が言うと、上級サムライ大将の沙織は吹き出していた。貴政は肩をすくめる。
「‥‥しつこいですか、そうですか」
「あら、そんなことないわよ。やっぱり諦めちゃ駄目よね」
「月、開拓者をからかうんじゃない。戦闘中だぞ」
「すみません高村様」
「全く‥‥」
 貴政は手を上げて言葉を繋いだ。
「本題に入りましょう。二手に分かれ、北、西砦を利用しつつアヤカシを削っていく算段みたいなので、僕は北砦でアヤカシを迎え撃ちましょう。打って出るか篭城するかはその場の状況次第かと思いますが、とりあえず死骸傀儡や巨人を優先的に殲滅するのが良いような気はしますねぇ」
 そこでコルリス・フェネストラ(ia9657)が手を上げた。
「あくまで一案ですが、味方兵は巌海砦、鈴ヶ岡砦等里周囲を守る砦に籠り、相互支援など討って出る事は極力避け、防御力を生かし、まず死骸傀儡、次に死人武将、巨人の順で撃破し敵戦力削減に努めることを提案します。戦いの中、どこに那須羅王が出ても即座にその場所で防戦し、残りも各砦で防戦に努め敵戦力削減を続行し、退却に持ち込む、という作戦案を提示致します」
「どう思う月」
「そうですね‥‥さて」
 沙織はその場に視線を泳がせた。
「上級アヤカシどすか‥‥。まずは、相手の力量を確認することが大切どす‥‥」
 と真面目な感想を云ったのは華御院 鬨(ia0351)。歌舞伎役者の鬨は女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回はクール系の女重戦士を演じている。
「何とも言えんところどすが‥‥二手に分かれて砦を防衛して、那須羅王が出てきたら、周りの状況に応じ、できる限りの開拓者で食い止める様にする――言うんがいいと思いますどす‥‥いずれにしても、うちはどちらかの砦に滞在するつもりどすが‥‥」
「可能なら一隊を率いて戦い、常に先陣を切って味方を鼓舞したいところですねえ。何より、此処を抜かれると即後方への脅威となりますので、いつも以上の危機感を持って臨みませんと」
 貴政はそう言うと、その場を見渡した。
「上級アヤカシのご登場ですね! 如何なる相手でも、討伐するまで!」
 焔 龍牙(ia0904)は口を開くと、腕組みした。
「俺はアヤカシ軍の殲滅と那須羅王の撃退を目標とすべきと考えます。どんな形になってもですね」
「相変わらず戦争ばかりしているなぁ、ここは」
 覇王こと雲母(ia6295)は煙管を吹かして成り行きを見守っていた。
「ンフフ。楽しい時間になりそうかしらネェ。ンフ。私は西砦での防衛に回るわネェ」
 セシリア=L=モルゲン(ib5665)は言うと、「ンフ」と甘い声で鼻を鳴らした。
「さてどうしたものか知らねえ」
 月はそう言うと、居並ぶ諸将を見渡した。
「作戦はコルリス殿が言われるもので良いのではないでしょうか。アヤカシは攻撃に出てきます。へたに分散して各個撃破されては元も子もありません」
「だが、そこはやはり敵はアヤカシだ。砦は補助的なものとして考えるべきではないか? 志体持ちの兵士がこれだけ揃っているのだ。野戦でアヤカシを撃破するべきではないか」
「どう思われますか高村様――」
「これと決め打ちしていくのは危険だろう。兵力配置は最初は砦に。そのままで撃退出来れば良し。こちらの戦力が有効に生かせないなら打って出る。それで良いかコルリス」
「はい」
 コルリスは頷き、お辞儀した。
「では後は部隊の配置だが‥‥」
 兵力は巨人と死骸傀儡がいる北部を厚めに配置する。
 話が終わると、コルリスは諸将に挨拶して回る。
「今回は敵が挑発しても乗ることなく、各砦から出ず迎撃をお願いします」
 それからコルリスはシノビを捕まえると、伝言を託した。
「各隊周辺の砦で複数色の旗を使い、各隊の戦況が互いにわかる様ご協力をお願いします。各櫓では黒、黄、赤、青の四色の旗の用意を。各色の意味は、黒が戦況報告求む、黄が交戦中、赤が苦戦中、青が敵撃破です。各隊大将の指示に従い各隊間の情報伝達をお願いします。那須羅王が出てきたら太鼓で合図をお願い致します」
「承知しました」
 シノビ達は散って行く。
「那須羅王が出現したら、開拓者を中心に時間稼ぎをしつつ、他のアヤカシの減少を以って撤退させる方向で良いのかなぁと思ってます。まぁ殲滅するに越したことはないですが、多大な損害を被って倒したとしても、これが最後のアヤカシではないでしょうから、その辺の判断は難しいところですね‥‥別に怖気づいてる訳じゃないデスヨ?」
 貴政は高村と月と話していた。
「那須羅王が現れなければ、現状の早期決着を目指して戦い、他で援護が必要になった際に対応できるよう準備しましょう」
「そうね。禍津夜那須羅王か‥‥どんな奴なのかしらね」
「沙織さん、気を付けて下さいね」
「あなたも」
「上級アヤカシの戦闘能力はこれまでの中級アヤカシとは桁外れだろう。対しては里を上げての討伐隊が組まれるほどだからな」
「幸運を祈ってます。龍安家のためにも」
「行きましょう――」

 厳海砦に入った焔は、望遠鏡でアヤカシの動きを観察していた。
「上級アヤカシまで動きだしたか、この動き、どの様に思われますか?」
 傍らに立つ月は、望遠鏡を下ろした。
「家老で軍事顧問の水城明日香に聞いたところだと、禍津夜那須羅王は不厳王の直属だそうよ。鳳華を攻撃するためだけに表舞台に現れたとは考えにくいと、彼女は言ってる」
「そうですか‥‥」
 雲母は煙管を吹かしつつ、階下のサムライ大将のもとへ降りて行った。
「よお」
「開拓者か‥‥いよいよだな」
「ここは定石通りに籠城して迎撃だ。死骸傀儡に関しては私から進んで撃滅しに行く。私に指揮権は無いので、死骸傀儡以下の雑魚を相手にしてくれ」
「おい何言ってるんだ。開拓者にはサムライ大将と同等の指揮権があるんだぜ」
「あ、そうなのか? それなら適当に援護の指示も出すわ。死骸傀儡に対しては一気に片づける。とにかくあのでかぶつは止めんとな。――それから禍津夜那須羅王だが、足止めとある程度の傷さえ負わせれば十分。それ以上は無駄な消費と割り切っておくべきだろう。深追いもなしだ。西部に現れた場合でも、北部が落ち着くまで、最低死骸傀儡を倒すまでは援護に向かわないぞ。前線が持ちこたえられるようならば移動をして側面から那須羅王を攻撃できれば僥倖だ。とにかく防衛しきることが最重要と考える。必要のない前進は極力少なくしておきたい」
「禍津夜那須羅王は‥‥何とも言えんな。確かに深追いは禁物だが」
「ああ」

 鈴ヶ岡砦では、コルリスと鬨、セシリアらが高村とともに迎撃の準備を進めている。
「あれが死骸傀儡か‥‥」
 高村は険しい顔で三十メートルを越える巨大な肉塊のアヤカシを望遠鏡で捉える。死骸傀儡はあちこちに付いた顔からおぞましい叫び声を上げていた。
「ンフ、やっぱり楽しくなって来たわねェン。あの叫び声を聞いていたらぞくぞくして来ちゃうわよォ」
 ぴし! ぴし! と鞭で床を叩く。
 やがて――。
「来るぞ! よーし総員迎撃開始! ありったけの矢を奴らに叩き込め!」
 高村の号令が下り、戦闘が始まった。

「――撃て!」
 貴政は、砦の上階から号令を下し、オーガスレイヤーを振り下ろした。
「――よし全員攻撃開始!」
 焔も自身の弓を構えつつ号令を下す。
「おい貴様ら、アヤカシどもを生かして帰すなよ」
 煙管を吹かしつつ、レンチボーンを構える。
 アヤカシ軍は巨人と死骸傀儡を全面に押し出して前進して来ると、その横から死人戦士がばらばらと現れて砦に向かって矢を撃ち込んで来る。
 巨大な死骸傀儡がずるずると前進して来る。
「雑魚を頼むぞ――」
 雲母は矢をつがえると、月涙を発動する。精神力を傾注し、無我の境地、一種のトランス状態に至って矢を放つ。「月涙」によって放たれた矢は、薄緑色の気を纏って飛び、標的に命中する以外のあらゆる干渉を無視し、貫通する。志体持ちであるからこそ為し得る技だ。
「くたばれでかぶつ――」
 雲母は月涙を放った。矢は薄緑色に包まれて死骸傀儡を撃ち貫く。吸い込まれた矢は爆発的な威力で貫通し、三十メートルはあろうかと言う死骸傀儡の肉塊を吹き飛ばし、その肉体を半壊させた。悲鳴を上げる死骸傀儡に、雲母はもう一撃、月涙を叩き込む。
「こいつで‥‥終わりだ‥‥っ」
 二発目の月涙――死骸傀儡は粉々に吹っ飛ぶと、絶叫を残して黒い塊に崩れ落ちて行き、瘴気に還元した。
 だがもう一体の死骸傀儡が砦にへばり付いて這い上がって来る。そして巨人の拳が砦に叩きつけられると、砦は揺れた。階下では、門を突き破ろうと死人戦士たちが群がっている。
「こっちだ! 急げ!」
 焔は城内へ入り込んで来る死骸傀儡の肉塊を太刀で叩き斬った。
「焔さん!」
「井伊さん! 死骸傀儡が入り込んで来る!」
「そうはさせないですよ。みなさん、ここで死骸傀儡を食い止めますよ」
 貴政と焔は兵士たちとともに死骸傀儡に切り掛かって行く。
「さすがにしぶといじゃないか」
 雲母は煙管をくわえたまま、矢を放った。
 死骸傀儡は咆哮して砦を食い破ろうとする。
「まずは火力を削るのみ!」
 焔は炎魂縛武でその肉塊を吹き飛ばしていく。
 貴政は両断剣を撃ち込んだ。
「行くぞ!」
 焔は炎魂縛武と白梅香の連続攻撃で切り札「焔龍 炎縛白梅!」を叩き込む。
 凄絶な一撃が死骸傀儡を貫通、破壊する。
「雲母さん――」
 貴政はちらりと後ろを見やり、雲母は頷き矢を放った。貴政は加速すると、死骸傀儡に刀身を突き入れた。開拓者たちの攻撃が死骸傀儡を吹き飛ばした。やがて、死骸傀儡は崩れ落ちて行き瘴気に還元した。
 そうする間に龍安軍は巨人を撃ち倒していき、死人戦士の攻勢を跳ね返していく――。

 鈴ヶ岡砦では死骸傀儡を撃破した後で、龍安軍は巨人の攻撃を粉砕しつつあった。
「‥‥巨人に狙いを! いきますよ!」
 コルリスは鏡弦で探査してから、弓術士たちに号令を下す。見やれば、北の方で青い旗が振られている。
「砕!」
 六節+響鳴弓の合成技で巨人に矢を叩き込む。
「撃て!」
 咆哮する巨人に矢が次々と貫通して、撃ち倒していく。ばたばたと倒れて行く巨人。崩れ落ちて瘴気に還元していく。
 死人戦士の一隊が壁をよじ登って来るのを、鬨は斬竜刀で切り飛ばした。
「そうはいかんどす‥‥」
「ンフ、まだまだお仕置きが必要ねェン! ンフフ‥‥ッ!! 悪いコにはおしおきが必要よォ! ンフフ!」
 セシリアは蛇神を叩き込み、また瘴気回収で回復していく。
「ンフフフ‥‥人魂ちゃん、行きなさい」
 龍安軍が優勢に戦闘を進めていく中、セシリアは手の平から羽虫を飛ばした。視覚と聴覚が羽虫とリンクする。
「あれは‥‥何かしら?」
 セシリアは、アヤカシ軍の後方から歩いて来る長身の若者の姿を確認する。長い黒髪に金色の瞳、血の気の無い肌、黒装束に緑光の瘴気をまとっている。
「アヤカシね‥‥あれが禍津夜那須羅王?」
 セシリアは高村に駆け寄る。
「高村君、あっちを見て。多分那須羅王よ」
「何?」
 高村は望遠鏡を取り上げると、その姿を確認した。
「分かった――コルリス! 鬨! みんな聞いてくれ!」
 高村は部下達に指示を飛ばす。
「那須羅王が後方から来る! 攻撃に警戒しろ! 奴の出方は分からない! それから北の砦に援軍を要請しろ!」
 それからアヤカシ軍がまた攻勢に転じて来る。
 龍安軍は上階から矢で反撃する。
 コルリスと鬨は前線に戻り、禍津夜那須羅王の出現に備える。

「禍津夜那須羅王が出たとか――」
 貴政と雲母、焔たちが鈴ヶ岡砦に到達した時、残るアヤカシ軍もまたこちらへ移動しつつあった。禍津夜那須羅王は、残存兵力を率いて前進してきていた。
 砦の上階から戦場を見渡す開拓者たち。と、アヤカシ軍の戦列を割って緑光の瘴気をまとった人型アヤカシが飛び出してきた。
 瘴気をまとった禍津夜那須羅王は、撃ち込まれる矢を弾き飛ばして砦の壁を駆け上がり、内部に侵入してきた。
 那須羅王と相対する開拓者たち。
「大将はんが戦場に出てくるなんてどない心変わりどすか‥‥」
 鬨は刀を構えつつ、間合いを詰める。
「それは違う。言うなれば、お前たちが私を引きずり出したのだ。あちこちで邪魔をしてきた」
「あんさんは不厳王の部下どすな‥‥あの大アヤカシの差し金?」
「それも違う。不厳王様が兵力を動員すれば、鳳華はたちまちのうちに陥落するだろう。だが、知っての通り、お前たちが大アヤカシと呼ぶあの方が、簡単に魔の森から出ることは無い。お前たちの相手は、私がする」
 そう言うと、那須羅王は腰の長刀を抜き放って構えた。
「ま、流石にあっさりと倒れないだろうしなぁ‥‥様子見ってところだろうよ」
 雲母は煙管を懐にしまい込むと、矢を構える。
「‥‥今日はお帰り願いましょうか」
 貴政と鬨、焔は剣に刀を構えると、那須羅王に撃ち掛かった。
 雲母にコルリス、セシリアは矢と蛇神を叩き込む。
 那須羅王はしなやかな動きで開拓者たちの攻撃を回避と受けで捌いていく。
 まず三分間にわたって開拓者たちは全力で那須羅王と打ち合う。那須羅王は全ての攻撃を回避し、受け止めた。だが、セシリアの蛇神は必中であり那須羅王を傷つけた。
「さすがは上級アヤカシ‥‥どすな」
「ウフフフ‥‥! 中々やるわねェン」
「セシリアさんも‥‥興奮してきましたどすな」
「ンフ、そりゃあそうよねェン。やっぱり上級アヤカシは叩きがいがあるじゃないのよォ」
「戦いはこれからどす‥‥!」
 開拓者たちは再度反撃を開始する。人間の限界を越えていくのが志体持ちだ。
 開拓者たちの凄絶な攻撃が叩きつけられる。幾度かの打撃が禍津夜那須羅王を捉えるが、ほとんど捌かれた。
 一進一退、だが、周囲のアヤカシ達は撃破されていた。
「ここまでか‥‥では、これは挨拶代わりだ!」
 那須羅王は口許に笑みを浮かべると、裂帛の気合とともに長刀を連続して一閃した。
「ぬっ‥‥!」
 開拓者たちは寸でのところで飛びのいた。衝撃波が彼らをかすめて、背後の天守閣を切り裂いた。天守が崩れ落ちる。
「何だと‥‥!」
 開拓者たちは視線を那須羅王に戻した。
 禍津夜那須羅王は、バックステップで後退して、砦から飛び降りていく。
 やがてアヤカシ軍は後退していく。
「やれやれ‥‥」
 雲母はそれを見送って煙管を吹かしていた。
「那須羅王どすか‥‥」
 鬨は、消えゆくアヤカシ軍を見つめ、上級アヤカシの言葉を脳裏に反芻していた。