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■オープニング本文 ヤスケとユジロウ、二人の行商人が足早に雪の積もった平原の中の街道を歩く。 「いや〜、真っ白に積もったね」 ヤスケの後を歩くユジロウが、見事に真っ白となった平原を眺める。 二人は新年に向けての用意などを終えた帰り道だ。 先人達が雪を踏みつけた轍や足跡が目印だ。 「道を外すと厄介だ、さっさと帰ろう」 ヤスケは後を振り返りもせず、足元を見て進む。 厳しい寒さはまだまだこれからだ。 今はとにかく早く村に帰りつき、仕入れた酒で熱いところをきゅっと一杯やりたいところだ。 「ん?なんだこりゃ?」 先達が歩いた道を、十字に横切るように筋が雪の上に残されている。 幅はせいぜい拳一つ分ほどで、左右にうねるような感じの跡だ。 ヤスケは横切る筋の持ち主は誰なのかと左右を眺めるが、どこまでも白い雪原が続いているだけだ。 「おい、ユジロウ、これ、なんだか分かるか?」 ヤスケは後のユジロウに声をかけながら振り返る。 だがそこにはユジロウの姿はなかった。 「ユジロウ?」 確かにちょっと調子に乗りやすいヤツだ、道からひょいっと外れて身を隠しているのだろう、何すぐに出てくるさ。 ヤスケはそう自分に言い聞かせ、ユジロウの姿を探す。 「おいユジロウ!早く出て来い!」 雪原にヤスケの怒鳴り声が響く。 ユジロウの姿は見つからない。 嫌な予感にヤスケの顔は白くなっていく。 ふと気づくと、来た方の道の上を赤い二つの光がまるで地面をすべるようにするするとヤスケに近づいてくる。 その赤い二つの光の持ち主がヤスケの首に巻きつこうと飛び掛った瞬間、ヤスケはそれが白い大蛇だと分かった。 「最近、この街道では行方知れずになった者が増えているのです」 開拓者ギルドの受付嬢は、平原を通る街道の図を見せながら開拓者達に向かってそう切り出した。 「分かっているだけで四人の者が行方知れずになっています」 受付嬢が次に取り出した名簿の中にはヤスケとユジロウの名がある。 「皆さんには、この街道での神隠しの原因とその排除をお願いします」 |
■参加者一覧
那木 照日(ia0623)
16歳・男・サ
鬼灯 仄(ia1257)
35歳・男・サ
銀丞(ia4168)
23歳・女・サ
苗代 沙耶(ia5382)
15歳・女・巫
景倉 恭冶(ia6030)
20歳・男・サ
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250)
25歳・男・志
キァンシ・フォン(ia9060)
26歳・女・泰 |
■リプレイ本文 「少し寒いな。ま、故郷の寒さにくらべればましだが」 白く雪の積もった平原を前にして、局所だけを隠したような、肌を多く露出させた格好の瀧鷲 漸(ia8176)。一応風除けの外套を着ているが、見ている者の方が寒くなる。 「俺は基礎体温が高いぞ。この程度の寒さはへっちゃらだ!」 何かとテンションの高い天ヶ瀬 焔騎(ia8250)だが、実はロングコートにブーツと一番防寒装備が充実している。 「そ、そんな温かそうな格好で言われても‥‥」 びくびくしながら那木 照日(ia0623)は開拓者ギルドから貸し出してもらった襟巻や手袋に包まっている。 「風邪でもひいていらっしゃるのでは?」 青白い顔で目の下に隈を作る病弱そうな苗代 沙耶(ia5382)は襟巻や手袋のほかに、上着にと外套も貸し出してもらった。 さらに完全な私服姿で開拓者ギルドに現われたキァンシ・フォン(ia9060)には、外套等の防寒具の貸し出しと共に「次からは、せめてこういったものを着てください」と受付嬢からの一言も付け加えられていた。 「ふきっさらしで真っ白なんて、見ているだけで寒くなってくるねぇ」 鬼灯 仄(ia1257)は持ってきた古酒をちびちびとやりながら平原の様子を眺めている。 「まったく、もう少し真面目にやったらどうだ」 酒をやっている様子を漸に窘められるが、仄は平然と酒の入った猪口を差し出す。 「まあまあ、いざって時に寒くて身体が動かないってんじゃ締まらない話だろ。漸もどうだい?」 その格好は平原と同じく見ているだけでも寒くなるとは、決して言葉にはしない仄であった。 「神隠しだぁ?んな事あるわけが‥‥、アヤカシか山賊か、それとも遭難か?いや、遭難はねぇか」 景倉 恭冶(ia6030)は寒々とした平原を見ながら呟く。 一応遭難に備えて気付けのヴォトカを持ってきたが、白い平原の様子は見通しがいい。これが夜に吹雪となればさすがに方向を見失うだろうが、昼間では道を見失うことはそうそうなかろう。 「目撃情報や痕跡が見つからないため盗賊ではなく、アヤカシ、ケモノの仕業ではないでしょうか?」 恭冶の呟きに、フォンが答える。 フォンはぶるぶると寒さに震えながら、借りた外套を体に巻きつけている。やはりもう一枚何か羽織ってくればよかったかなぁ、と心の中で反省。 「熊に食われたか、アヤカシにでも襲われたか、雪女に誑かされたか。ま、とりあえず探してみるとしますかね」 仄が行動を起す。 それとなくやり取りを聞いていた沙耶。 「新年を共に過ごす人たちが、待っていたでしょうに」 行方知れずの人やその家族の事を思うと気分は重くなっていった。 何かあってもすぐに対応できるように、照日や恭冶、漸は松明に火をつけ持ち歩く。 他の者達も雪原に何か痕跡が残っていないかと、きらきらと光を照り返す雪の上を探索する。 雪原の雪を踏みしめられた道を進むと、沙耶が奇妙な跡を見つける。 道を十字に横切るようにつく、雪のくぼみだ。幅は拳大、左右にうねるような跡だ。 「あら、これはなんでしょう?」 沙耶が雪のくぼみを調べようと手を伸ばす。 その前方、白い雪原の中に二つの赤い光がともる。 白い指先が真白の雪に触れようとした瞬間、ようやく沙耶は近づく赤い光に気がついた。 「おっと」 「きゃ!」 飛び掛る赤い光より一瞬早く仄が沙耶の身を引く。 おかげで首を狙った一撃は、尾が沙耶の頬を軽く打つ程度で終わったが。 「おわっと、沙耶嬢ちゃん!どっかやられたか?!」 仄にかばわれた沙耶は鼻血を流していた。 「いえ、いつものことです。大丈夫ですから」 沙耶は冷静に鼻血をふき取る。どうも平時から鼻血を出しているらしい。 その間に赤い光を持つものは、再び雪の平原の中へと溶け込む。 「今のは白蛇、でしょうか?」 フォンの目には白い蛇のように見えた。 焔騎は気配を探ったが、相手が雪の上をするすると離れていくのを感じ取った。 だが気配が完全に消えたわけでは無い。距離を取り待ち構えている雰囲気を感じ取る。 「まだいるぞ。こっちのことを伺っているようだ」 鼻血を拭き終えた沙耶は疑問を感じた。 「この寒い最中、蛇が動けるものですか?」 「一瞬のことではっきりとはしなかったが、瘴気が出ていたからな。あれはアヤカシだ!」 漸はそう断言すると松明を雪原の傍らにつきたて槍を構える。 「さぁどこからでもかかってこい。早急に退治してやるさ」 照日や恭冶も松明をつきたて、各々の武器を構える。 そして焔騎は左腕を捲り上げると、持っていた短刀で切りつける。 小さな切り傷とはいえ血が滴り、白い雪に赤い斑点を刻んでいく。 「さて、血の臭いでどこまで勘付いて来るかな」 焔騎は傷ついた腕に包帯を巻こうとすると、みるみるうちに傷口がふさがっていく。 「戦う前に傷を作らないでくださいね」 沙耶が精霊の力を借りて、焔騎の傷を癒していくのだ。 「お、動いたぞ」 焔騎に代わって気配を探っていた仄がアヤカシの動きを察知する。その動き方は動物やケモノではなく、こちらを狙っているものである。 仄の左手には小さな袋が握られていた。 仄は気配に合わせて正面に立つ。 じりじりとした時間が過ぎていく。 やがて痺れを切らしたのだろう、アヤカシがするりといった感じで素早く近づく。 「そこだ!」 アヤカシと交差した瞬間、仄は手にした袋を相手にぶつける。袋が裂け、中の赤い染料がアヤカシもろとも周囲に降りかかる。 ようやくアヤカシの姿があらわになる。 白い雪原を背景に現われたそれは、人の背丈ほどの長さの白い蛇、アヤカシの白大蛇であった。 「くっ、なんか目がおかしい‥‥」 白大蛇に染料をかけた仄であったが、その寸前に赤い眼を見た。その眼に覗き込まれてから、どうにも視界がはっきりしない。 輪郭がはっきりしないだけで人の区別はつくから、まだましだろう。仄は目をこすりながらも刀を構える。 沙耶の舞が仲間に力を分け与える。 照日は両手に持つ刀を交差させ、白大蛇の牙を受け流す。 仄の刀が赤い燐光を放つと、燃える紅葉となって舞い散る。視界ははっきりしないが、灼熱の刃となった刀がどうにか白大蛇の額を裂く。 「これ以上、キサマの好きにはさせんッ!!」 炎の精霊を纏わせた刀で焔騎は街道から出ている尾へ切りつける。さすがに足場は悪く、上手く力を乗せることは出来なかったが。 「そんな体じゃいい的だ。渾身の一撃を味わうがいいさ」 赤い染料に染まった白大蛇へ漸が力と気合を込めた槍の一撃を放つ。 「はあっ!」 泰に伝わる練気法により体を赤く染めたフォンが、気合と共に回し蹴りを放つ。 よろめく白大蛇に照日が刀の連続攻撃を繰り出す。 「肆連撃、爻」 だが同時に白大蛇は照日の目を覗き込む。 急にぼやけた視界に照日の攻撃はかするのみに終わる。 白大蛇は体についた染料を落すためか雪原に逃げ込もうと踵を返すのだが。 「ああ、やってくれや!」 恭冶の腕を掴む漸と焔騎は、勢いよく恭冶を白大蛇へと放り出す。 女性に対し耐性のない恭冶は漸につかまれた側の半身が強張っていたようだが、両手の刀に体重と勢いを乗せた空中からの一撃で白大蛇の首を跳ね飛ばした。 「ん、もう大丈夫です」 照日と仄の視界は、少し経つと元に戻った。 皆、白大蛇の牙や締め付け等を受けたが、大きな傷は沙耶が精霊や薬で治していった。 さすがに寒さや雪に足を取られて、上手く動けなかったようだ。 フォンはぶるぶると震える体に再び外套を巻きつけて寒さをしのいでいる。 「蛇の塩焼きもうまいものだがな。アヤカシは絶対にいやだな。あとで普通の蛇を食べるとしよう」 なにやら女性らしくないことを平然と言ってのける漸だが、この白大蛇は蛇に取り付いたものではないようで、その身は瘴気へと霧散している。 「いまんとこ、他の気配は感じないな」 周囲を警戒していた焔騎も緊張を解く。 「ところで、どこかに温泉とかないかな?」 帰りに寄っていけるところは無いかと聞いて回る焔騎であった。 「やっぱり見つからねえな」 ようやく元に戻った視力で仄は行方知れずの者達の痕跡を探したが、雪に埋もれているのか見つからなかった。 (「神隠しにあった奴らは死んじまったのかなぁ?やるせねぇな」) 恭冶は白い雪原を眺めつつ物思いに耽る。 「本当、白いな。白すぎて、他の色がなさ過ぎて寒気がするやね。まるで何者も寄せつけねぇみてぇな、な」 小さく呟くと、白い平原に背を向けた。 白大蛇が退治されてから、この街道で神隠しが起きたと言う話は聞かれなくなった。 |