もふらさま！運んで！
マスター名：八倍蔵
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| ■オープニング本文 「起きてくれー！」 「いやもふ」 草原を通る、街への道の真ん中で大きな荷を積んだ荷車が止まっている。その傍らにはゴロゴロと寝転ぶ二頭のもふらさまと、悲痛の叫びを上げる幼い面影を残す十五、六の少年。 少年の名前は理央（りお）、ある石彫り師に師事している。 このたび師匠の石彫り師に大きな仕事が入ったのだが、仕事の依頼をした商人の希望に沿う石がなかなか見つからなかった。 すでに最初の期限は過ぎているが、良い石が見つからないことは商人に了解してもらっている。 だが、ようやく良い石を見つけ、街の仕事場へ運んでいる最中でのことだ。荷車を引いていた二頭のもふらさまがいきなりゴロゴロと寝転んでしまったのだ。 良い石が見つかるまでは仕方が無いとしても、これ以上遅れては、さすがに依頼主に待ってもらえないかもしれない。 風は冷たく、空は今にも雪が降りそうなほど、どんよりと曇っている。 寝転ぶもふらさまを何とか動かそうと理央は押してみたり引いてみたりが、もふらさまは動いてくれない。 いきなり病気にでもなったのかと思ったが、あまりそうゆう話も聞いたことが無い。 具合でも悪くなったのかと荷車の引綱を外すと‥‥。 「もふー！」 もふらさま達は飛び起きて草原へ飛び出していった。 咄嗟にもふらさまに残った首紐を掴んだ理央ではあったが、力の差は歴然。 「うわああ！」 枯れ草の多い草原を引きずり回される理央。悪いことに紐が腕に絡まってしまって外れない。 さらに空からちらちらと白いものが降ってくる。 雪だ。 「ゆきもっふゆきもっふー！」 雪に興奮したのか、さらに飛び跳ねる速度を上げるもふらさま達。 「た、助けてー！！」 理央は助けを求める叫びを上げた。 朝から曇っていた空から、白い雪が舞い降り始めた。 足早に歩くあなたは、道の真ん中に止まっている荷車を見つけた。 引くものも御者もいない。 こんな所に荷車を置いておかれても往来の邪魔だと持ち主を探すあなたの耳に、助けを求める声が聞こえた。 |
■参加者一覧
天津疾也（ia0019）20歳・男・志 
紗耶香・ソーヴィニオン（ia0454）18歳・女・泰 
雲母坂 芽依華（ia0879）19歳・女・志 
剣桜花（ia1851）18歳・女・泰 
ペケ（ia5365）18歳・女・シ 
鞍馬 雪斗（ia5470）21歳・男・巫 
綾羽（ia6653）24歳・女・巫 
一心（ia8409）20歳・男・弓 |
| ■リプレイ本文 「ふー、いやあ、ぎょうさん売れたわ。流石に年の暮れにもなるといろいろ物入りやからこっちもうはうはやで。くく、この銭の音がたまらんわ」 商品を売り切った天津疾也（ia0019）の荷は軽く、懐はずっしりと重い。 実際には仕入れやら何やら差し引けば、とんとんといったところだが、懐の重みで瞳が銭の形にきらめく。 「ん、なんや？」 うはうはの疾也の目の前に石を積んだ荷車が止まっていた。 魚がかかった瞬間の竿の振動。まだ、あの感触を手が覚えている。 一心（ia8409）はある依頼で釣りに目覚めたようで、今日も近くの川へと釣りに行った帰りだ。感触が残る両手を見つつ、魚篭の重さに心浮かれていた。 （「今度は竿から作ってみますか」） 今後の細工物に思いを馳せていると、引き手も御者もいない荷車が止まっていることに気付いた。 「なんだ、こんな所に荷台を置きっぱなしにして」 助けを求める声が響いた 「ん？なにやら大変な事になっているようですね」 星を読む場所を探して、雪斗（ia5470）は帰り道に平原の街道を歩いていた。 「景色としては良いけど、これでは星も読めないな」 あいにく今日は朝から曇り空だが、この辺りの平原は街からも近くて不都合はなさそうだ。街の明かりが気になるが、ここからもう少し離れたところに向かえば、いい場所も見つかるだろう。 ただ、今は共に歩く人物が気になるといえば気になる。 連れの一人である、雪斗の知人である綾羽（ia6653）は外套を羽織りまともな格好であるが、何故かもう一人の連れである剣桜花（ia1851）はボンテージ姿で鞭を持っている。彼女達もまた依頼の帰りだという。 確かに雪斗はあの姿をどこかで見かけたと思ったが、それよりもこの寒空の下桜花は寒くないのだろうかと不思議に思った。 そう思った矢先、その寒空から白い雪が舞い降りてきた。 そして悲鳴が聞こえてきたのである。 雪斗達が悲鳴が聞こえる方向へ駆け寄ると、数人の人だかりが出来ていた。 「おおーい、あんた、どないしたんやー！」 その中の一人である疾也が声を張り上げていた。 疾也が声をかける方向を見れば、飛び跳ねる二頭のもふらさまと引きずられる少年の姿が見えた。 「あら？あれはもふら様。一体何事でしょうか」 飛び跳ねるもふらさまの様子をいとおしげに眺める綾羽。 「た、助けて！ひ、紐が絡まって、外れない！」 疾也の問いかけに、少年は必死の形相で答える。 「笛を吹いて、もふらさまの気を引きます」 横笛を構えた一心、そしてそれに答える雪斗。 「分かりました、後は自分が！」 雪斗は穂先の片側に小さな鎌の付いた槍を構える。 ピーヒョローヒョロロー。 一心の笛の音が響くと、雪を追いかけていたもふらさまは何事かと足を止め、辺りをキョロキョロと見回す。 その雪斗の槍がその隙を突き、もふらさまと少年を繋ぐ紐を断ち切る。 ようやくもふらさまの暴走から解放された少年は転がるようにして荷車まで駆けてくる。 「あ、ありがとう、ございます、助かりました」 荒い息を整えながら少年は、一心と雪斗に助けてくれた礼を言う。 「それでどういう状況なのか、話してくれるかい？」 雪斗の問いかけに事情を語り始める少年、理央であった。 「面倒くさいですねぇ。ま、仕方が無いですか」 一通り事情を聞いた桜花は少し投げやりのようだ。 もふらさま達は再び雪を追い掛け回していた。 「ほんまにもふらはんは可愛おすなぁ」 「あぁぁもふら様があんなに元気にもふもふと。か、可愛いです〜」 その様子を雲母坂 芽依華（ia0879）は綾羽と一緒になって眺めている。 「ようし、それなら、もふ龍ちゃん！ 出番よ！」 紗耶香・ソーヴィニオン（ia0454）はもふ龍という名前のもふらさまを連れていた。 「それでなにするもふ？」 もふ龍は子供ほどの大きさの、薄い金色の毛並みのもふらさまだ。 「この荷車を運ぶのよ！」「‥‥え？」 紗耶香の言葉に目を丸くするもふ龍。 荷車の引き枠の位置は、どう見てももふ龍の頭より上である。 「む、無理もふ！あっち見るもふ！もふ龍より大きいもふ！」 雪を追いかけているもふらさまは、人の背丈ほどある大きなもふらさまである。 紗耶香はひとしきり頭をひねると、もふ龍に新たな指示を与える。 「もふ龍ちゃん、あの子達の話を聞いてきてくれない。なんで荷物運びが嫌なのか、てね」 「分かったもふ」 もふ龍はトテトテと二頭のもふらさまに近づいていく。 二頭のもふらさまは近づいてくるもふ龍に気づき、もふらさま同士話し始める。 やがてもふ龍も一緒になって雪を追いかけ始める。 「こらー、もふ龍ちゃん！戻ってきなさーい！お魚、あげないわよー！」 遊び始めたもふ龍に、紗耶香はこみ上げてきた怒りを最後の言葉に込めて言い放つ。 魚が大好きなもふ龍はあわてて紗耶香の下に戻ってくる。 「わー、ご、ごめんなさいもふ！もふ壱さんはお腹が空いたんだもふ。もふ弐さんはつまんないから遊びたいんだもふ」 どっちがもふ壱でもふ弐なのか分からない、二頭の白い毛並みのもふらさま達だが、そうゆうことらしい。 「そやったら、うちがいくつかおまんま持ってきておりますえ。よかったらどうぞ」 芽依華が背負った荷物からいろいろと食糧を取り出す。 「わーい、ごはんもふー」 そして駆け寄ってくるもふらさまは一頭だけではない、二頭ともだ。 もふ壱も、もふ弐も、特に好き嫌いはないようで、芽依華の取り出す食糧は肉でも野菜でも片端からもふらさまの口の中に消えていく。もふ龍もちゃっかり頂いているようだ。 芽依華の食糧をすっかり食べつくした、もふ龍を含めた三頭のもふらさまは、次に一心へとじーっと視線を向ける。 「な、なんですか」 一心も負けじと視線を返すが、三頭からの圧力には抗いきれなかった。 ついに根負けした一心は魚篭の中から釣ったばかりの魚を取り出す。 「この魚食べますか？」 「いただきもふ」 一心の釣果は全部もふらさまの腹の中に納まってしまった。 「あ、いや、その、本当にすみません」 「あたしのもふ龍もその、一緒に頂いちゃって、ご、ごめんなさい！」 呆けた一心の姿に、理央と紗耶香が申し訳なさそうに謝るのだった。 もふらさま達の食事の様子を、心あらずといった感じで眺めていた綾羽だが、そうも言ってられない。 「さあ、もふら様、お仕事を続けましょう。理央さんが困っていますわ」 綾羽が二頭のもふらさまにやんわりと説く。 「いやもふ！もっと遊ぶもふ！」 駄々をこねるもふらさま達。もふ龍も一緒になって駄々をこねてる。 ごろごろと駄々をこねる三頭のもふらさまに腰砕けになりそうな芽依華だが、ぐっとこらえる。 「ちゃんと決まった仕事せえへんかったら、おまんま食い上げになってまうんやさかい、それこそ遊んでなんておられへんのどすえ」 街まで仕事をすれば、また美味しい物が食べられると芽依華は説く。 「そやそや、街に行けばおもろいもんもたくさんあるんや。ここは一つ我慢して、さっさと嫌なこと終わらせちまおうな」 疾也も口八丁手八丁ともふらさまを説得する。 隣街へのお使いの途中のペケ（ia5365）は街道になにやら人だかりがあるのを見つけた。 なんだろうと横目で覗き込むと、足元をおろそかにし、積もり始めた雪の塊を踏みつける。 「あら？」 ドシン。 雪に足を滑らせ、尻餅をつくペケ。 「いたたた、ペケ、滑っちゃいました」 もふらさまを説得していた疾也だったが、その決定的瞬間は見逃さなかったようだ。 「いたたた、それでどうしたんですか？」 ペケは痛むお尻をさすりながら、理央達から事情を聞かせてもらう。 「それだったら、運びながらでも出来る尻取りなんてどうです？」 「お尻取り？」 いつの間にか三頭一まとめのもふらさま達は同時に首をかしげる。 「ちっ違うです！尻取りは私のお尻とは関係が‥‥」 じっとペケのお尻を見つめるもふらさま達が、どのように理解したかと気づいたペケは両手を振って否定しながらじりじりと後に下がる。 その瞬間いつものごとくというべきか、ペケの褌がはらりと解ける。 「きゃー！」 悲鳴を上げ、裾を押さえて座り込むペケ。 いい笑顔でぐっと親指を突き出す疾也と三頭のもふらさま。 わたわたと慌ててペケを隠そうとする雪斗。 顔を真っ赤にして視線をそらす一心と理央。まあ、この二人に関しては最初から桜花の格好をまともに見れていなかったのだが。 紗耶香はもふ龍の頭を小突き、芽依華と綾羽は急いでペケの着付けを手伝う。 そして桜花は。 「悪い子にはお仕置きをしなければいけませんね」 もふらさま達と疾也の背後に立ち、にこやかに微笑みながら鞭をぴしりと鳴らす。 ぎぎぎとぎこちなく振り返るもふらさま達と疾也。 もふらさま達と疾也に、ビシィッと桜花の鞭が叩き込まれる。 「いでぇ！俺は関係あらへんって！」 疾也を盾にするもふらさま達。 「僕達、もふもふしてるから余り痛くないけどもふ‥‥」 「あのおねーさん、凄く怖いもふ！」 もふ龍は紗耶香の後にさっさと避難する。 「痛くないんやったら俺を盾にすんなやー！ぎゃあ！」 鞭の一撃を顔に受け、痛さの余りゴロゴロと転がりうめく疾也。 「遠慮しなくて良いんですよ〜、気が済むまで叩いてあげますから。気が済んだらきりきり働きましょうね？」 にこりと微笑む桜花の顔が余計に怖かった。 「もふら様は可愛いですね。いえいえ、けっして鞭の的に最適だなんて思っていませんよ？わたくしがもふもふすることを拒否してはなりませんよ？」 顔を赤らめたペケはこれ以上ドジを踏まないようお使いを済ませるため、早々に隣街へと立ち去った。 紗耶香もこれ以上関わりたくないであろう、「がんばったもふ龍にご褒美ね」ともふ龍と共に、先に街へと帰る。 残る者達は理央に付き合った。 疾也は痛むミミズ腫れをさすりながら。 一心は軽くなった魚篭を抱えながら。 芽依華は食糧のなくなった荷物を背負いながら。 綾羽は可愛いもふらさまがビクビクしながら荷を引く姿を見ながら。 雪斗は恐ろしげな女王様のご様子を見ながら。 もふらさまは従順に荷車を引く。 荷車の上からピシピシと鞭を振るう桜花は、古代王国の無慈悲な女王と言ったところか。 うっすらと雪化粧をした平原の中を荷車は行く。 鞭の音に興奮したのか、さらに打ち下ろす速度を上げる桜花さま。 「た、助けてもふー！」 もふらさまは助けを求める叫びを上げた。 |
