|
■オープニング本文 ここは山間の村。採鉱を行っており、砂鉄が多く取れた。 村にはたたら場もあり、玉鋼を精製する。 玉鋼の精製には多くの木炭を必要とする。このため近隣の伐採のためにも山の斜面を縫うように続く道は荷車がすれ違えるほど広く整備されていた。 村には連日、木材や鋼等を積んだ荷車が、もふらさまに引かれて行きかう。 そんなある日のこと。 「た、大変だ!お社が壊されてる!そんでもって、鎧が無くなってるぞ!」 村には、村の鋼を使った武者鎧と刀の一式が領主から贈られており、村の社に収められていた。 社の戸は外に転がっており、中に収められていたはずの武者鎧と刀が消えていた。 悪いことは重なるものか、壊された社の前で呆然とする村人に新たな凶報が伝えられる。 「今朝帰った善兵衛さんとキチスケさんが怪我して戻ってきたぞ!」 前日品定めに来て、今朝方鋼を荷車に積んで帰っていったはずの商人の善兵衛が、大怪我をした使用人のキチスケを連れて、材木を運ぶ荷車で村に戻ってきたのだ。 「ヤスさん、大変なことになったよ」 善兵衛は村長のヤスキチに帰り道のことを語る。 善兵衛が言うには、村からの帰り道で刀を持った鎧武者が道を塞ぐように立っていたのだという。 鎧武者は一刀の下もふらさまを切り伏せると、逃げ出したキチスケに向かって切りつけた。 善兵衛達は偶然にも直前ですれ違った木材を運ぶ荷車に乗り込み、どうにか鎧武者から逃げてきたのだ。 その荷車の御者も鎧武者の瘴気を受けたのか、おかしな声が聞こえると言って、村につく頃には真っ青な顔をして倒れこんでしまった。 「今朝はすぐ帰ろうと思っていたから、あたしゃ社が壊されたことは知らなかったけどさ、あの鎧はこの村の武者鎧だよ」 善兵衛は何度もこの村の武者鎧を見ていた。それもそのはず、領主に村の鋼を献上し、村に武者鎧を納めたのは善兵衛であったからだ。 「キチスケも大変な目にあっちまったな」 背中を切りつけられたキチスケも、手当ては済ませてあるが床に伏せったままで、このままでは危うい。 「ぜ、善兵衛さん、ど、どうしたらええんじゃろうか。領主様から承った武者鎧を無くしちまうし、どうすりゃええんじゃ」 「とりあえず落ち着きなよ。あたしもこのままじゃ商売上がったりだ、だからギルドに依頼するつもりだよ。山の道を知っているもんがいたら、案内を頼むよ」 後日、善兵衛とヤスキチがギルドを訪れる。 時間はかかったが、どうにか山の道を抜けてギルドまでやってきたのだ。 善兵衛達の話を聞いた受付は、いくつかの資料の中から、あるアヤカシの資料を抜き出した。 「おそらくそれは『亡霊武者』でしょう」 鎧兜のみが宙に浮き、襲ってくるというアヤカシだ。呪いの言葉を吐きつけてくるともいわれている。 恐る恐るヤスキチが願いでる。 「あ、あの、鎧や刀は出来る限り傷つけないでもらえるじゃろうか?」 村では身に着ける者はいないだろうが、領主から承った大事な武者鎧だ。村長としては鎧や刀も大事だろう。 「あと、あたしんとこのキチスケも助けてくれないかい」 善兵衛もキチスケの容態が心配のようだ。 こうして亡霊武者退治がギルドに張り出された。 |
■参加者一覧
月城 紗夜(ia0740)
18歳・女・陰
九重 除夜(ia0756)
21歳・女・サ
氷(ia1083)
29歳・男・陰
天目 飛鳥(ia1211)
24歳・男・サ
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
小鳥遊 郭之丞(ia5560)
20歳・女・志
難波江 紅葉(ia6029)
22歳・女・巫
バロン(ia6062)
45歳・男・弓 |
■リプレイ本文 亡霊武者退治に八人の開拓者が集まった。 「鎧の、材質、家紋や施されたまじない。聞いてみたい、わね。瘴気がアヤカシとなるのに、何か、キッカケ、ある、かしら?興味、ある、わ 」 月城 紗夜(ia0740)は、陰陽師としてアヤカシの生まれた原因が知りたいようだ。 「鎧を壊さずに滅ぼすか。難しいが、出来ぬことではないか」 狐の面をつけ、赤い鎧を身にまとう九重 除夜(ia0756)は、つけた面の為かくぐもった声からは男女の判別がつかない。 「ん〜、鎧の事は詳しくないけど、アヤカシが取り付きたくなるくらい魅力的な鎧だったのかねぇ」 氷(ia1083)は、ふぁっと欠伸をしつつ呟く。 「領主より賜った鎧に取り付くとは、許しがたいアヤカシだな」 天目 飛鳥(ia1211)は、志士としての思いを抱いていた。 「刀と鎧にはなるべく傷をつけずに、か。大切なものだから分かるが中々難しそうだ」 紬 柳斎(ia1231)は、当然起こりうる戦いの結果を言葉にする。 「神の御遣いたるもふらさままで斬り捨てたとの事、断じて許すわけにはいかぬ!」 小鳥遊 郭之丞(ia5560)は、斬り捨てられたもふらさまの事が気になるようだ。 「怪我人がいるなら私の出番さね」 難波江 紅葉(ia6029)は、村に残されている怪我人を気遣う。 「ふむ、亡霊武者の鎧、如何様なものかのう」 バロン(ia6062)は、鎧に興味があるようだ。 「へぇ、山の道を通りますと、やはり一日ほど遅くなります。馬でもなければ表の道より遅くなってしまいます」 山の道が使えないか訊ねる開拓者にヤスキチが答える。 「馬も何とか通れるけど、ありゃ無理じゃないかい。ヤスさんに案内してもらったけど、あたしにはもう無理だねぇ」 慣れない山道で足腰をガクガクさせた善兵衛が口をはさむ。 「まあ、もふらさまは切られちまったんだから仕方ないけどさ、荷車はあたしが後で持ち帰らせるから、そのままにしておいていいよ。それじゃキチスケの事、頼んだよ」 「では開拓者様、よろしくお願いします」 ヤスキチと善兵衛は出立する開拓者達に深々と頭を下げるであった。 木漏れ日の射す山肌を削りだした道の脇に荷を積んだ荷車があり、その傍らに武者鎧が立っていた。 中身は無いが全身から立ち上る瘴気が鎧兜を宙へと浮かす、亡霊武者である。 まず除夜と柳斎が、ずいと前に出る。 「亡霊か、何処を迷ったかは知らぬが。汝の居場所はここではない」 二人は刀を手に、亡霊武者へと駆け出してゆく。 その後を紅葉と郭之丞、紗夜、飛鳥が追う。 除夜と柳斎の二人が切りかかる。二人の刀を鎧で受け止める亡霊武者。だが二人にとってはそれが狙いだ。刃が鎧に当たる寸前、二人は手の平で刀の平地を押し付け全身に力を込めると、削りだした山肌へと亡霊武者を押し付ける。 「悪いけど相手にしてる暇はないんだ。さっさと通らせてもらうよ」 二人が力尽くでこじ開けた道を紅葉と郭之丞、紗夜、そして飛鳥が駆け抜ける。 飛鳥は亡霊武者が村へと向かわないよう刀を構え道をふさぐ体勢を取り、紗夜に声をかける。 「月城、治療はあの二人に任せ、此方に力を貸して欲しい!」 その言葉に紗夜の足が止まる。 そこへ。 『ヴォォ‥‥』 かろうじてそう表現できた声が紗夜の耳に聞こえてくる。まるで深い闇の底から聞こえてくるような声である。 「紅葉殿は先に行け!」 そう紅葉に声をかけると、紗夜のところへ戻る郭之丞。 「じゃキチスケさんのこと、頼んだよーっと、あれ?ヤスキチさんだったっけ?ま、いいか」 駆けていく紅葉の背中に声援を送った氷は符を取り出し式を呼び出すと、亡霊武者に纏わりつかせる。 バロンも矢をつがえて隙を伺う。 「もう、いきなり、呼び止め、ないで、よ」 ふらつく紗夜は郭之丞に抱えられながらも、しっかりと己の足で立つ。このとき郭之丞も怪しげな声を耳にしてしまうが、そこは気合で幻聴を振り払う。 「理に 反するものに 死黒蝶、存在、奪う、蝶、よ」 紗夜は小さな無数の黒蝶の式を呼び出し亡霊武者を幻惑させると、踵を返し紅葉の後を追った。 「よし、私達は先に行く、後を頼んだぞ!」 再び駆け出した紗夜を見届けると、郭之丞もその後を追う。 三人の遠ざかる足音を耳にしながらバロンはつがえた矢を引き絞る。 「さあ、ここからが本番じゃよ」 バロンの放った矢は不自然な軌道を描きながら亡霊武者の肩の隙間を撃ちぬく。 「作った職人には悪いが、その程度の鎧、わしから見れば隙間だらけよ!」 亡霊武者は山肌に押し付けてくる二人のサムライの胴をなぎ払って自由になる。 「どれ、亡霊の腕前を見させてもらおうではないか」 柳斎は再び刀を構え体勢を整える。 (「鎧は出来る限り傷つけたくないな」) 飛鳥も背後から一歩踏み込むと、鎧の無い所へと斬撃を叩き込むのであった。 先を行く紅葉に追いつく紗夜と郭之丞。 紅葉は幾分速度を落して二人を待っていたようである。 「おや、怪我してるじゃないか」 「いや、たいしたことは無い、かすり傷だ。それより先を急ごう」 二人の怪我を気にする紅葉ではあるが、たいした怪我ではないと先を急ぐ郭之丞であった。 亡霊武者は、ほとんど攻撃を無防備に受け、または籠手等で受け流すと力任せに刀を振るう。 その一撃を柳斎が受け止めると、虎の姿をした式が亡霊武者を迎え撃つ。 「来夜流『光陰』、終が崩し、『流星』!」 除夜が大きく踏み込み渾身の突きを放つと、バロンの矢が亡霊武者の兜を掠めるように飛来する。 「隙が出来たぞ!首を刎ね飛ばしてやれい!」 亡霊武者の頭がのけぞった隙を飛鳥は見逃さなかった。己の刀に精霊の力を宿らせると、亡霊武者の首のある場所を振りぬく。 切り裂く音も感触もなかった。だが兜だけがぽーんと飛んでいった。 「うわっとっと」 兜が危うく地面に落ちるところを氷が受け止める。 同時に亡霊武者は力なく崩れ、瘴気の無い鎧へと戻ったのだった。 「ヤスキチ殿に頼まれた者だ。怪我人はどこであろうか」 村にたどり着いた郭之丞が声を上げる。 「おお、来てくれただか!こっちだ、早く!」 三人に気づいた村人が大きめの一軒家へと案内する。 商売に来た者が泊まっていく家屋であろう。 中に通されると二人の男が布団に寝かされている。 一人は幾分生気のない顔をしているが大きな怪我は見当たらない。 「こちらの方は?」 「へい、木材運びのゴサクです。たいした怪我はしてないんですが、真っ青な顔して倒れちまいまして、どうにか起き上がれるようになってきたところです」 もう一人は背中を怪我しているのか、血のにじんだ布を体に巻き、うつ伏せで寝ていた。 「キチスケはそっちかい?しっかりするさね」 紅葉と紗夜はキチスケの治療を始める。 包帯や薬草を取り出し、紅葉の補助を勤める紗夜。 「そいつは、私にくれないかい?」 紗夜が取り出したヴォトカを指差し所望する紅葉。 「なぜ?」 「なぜって、それはさ、呑むものだからさね」 紅葉はぺろりと舌なめずり。 「うん。これでもう大丈夫さね。傷は残るかもしれないけどねぇ」 キチスケの治療も終わった頃、武者鎧を抱えた五人が村へとたどり着いた。 「スケキチさんは無事だったかい?」 呼び間違いどころか、名前すら間違う氷。 「スケキチではなくキチスケ殿だ。大丈夫、いま治療を終えたところだ」 氷の間違いを正す郭之丞。 精霊の力もあり、キチスケは一命を取り留めた。もう半日も遅れていたら間に合わなかっただろう。 「間に合ってよかったのう。鎧のほうは無傷とはいかんかったから、繕える所は繕っておいた」 武者鎧を取り出すバロン。 亡霊武者が倒されたことが伝わると、村人達がかわるがわる開拓者に礼を言いにくる。 寝込んでいた材木運びのゴサクにもそのことを伝えられると、徐々に顔色に赤みが差すのであった。 「もう二度と、アヤカシに捕り付かれてはならぬな」 武者鎧を社へと奉納しなおす除夜。 おかしなまじないでもあるのかと奉納の様子を観にいく紗夜だが、鎧や刀、社には特におかしなところはなかったようだ。 「キチスケもよくなって鎧も大きい損傷もなし。とりあえず一件落着ってとこかねぇ。これからが少し大変だろうけどがんばるさね」 治療で余ったヴォトカをちびちびと呑む紅葉であった。 |