|
■オープニング本文 ここは森の中にある怪しい外国風の屋敷。 屋敷の扉には三つの影が見える。 「HEYワッタルー、遊びにきたZE☆」 ビットが外国風の開き戸を横に引こうとする。 「アレ?あかねーZO☆」 「もう、何やってるのよ。それ開き戸だから横に開くわけないじゃない」 ビットの後からキョウコが覗き込む。 「ハラヘッター!」 ビットとキョウコの後ではハラヘッタがもしゃもしゃとおやつらしきものを食べている。 ワタルは二階の窓から外の様子を眺めながら、胃の痛みに悩まされていた。 本来なら痛みを感じないのだが、精神的苦痛がこの体にまで影響をあたえているのだ。 (「あいつら、なんでここが分かったんだ‥‥」) 階下では屋敷の扉をドンドンと叩くビット。 「オイ!ダチが遊びに来たんだZE☆いれろYO☆」 扉に叩きつけるビットの手からは、べちゃべちゃと腐乱した肉片が飛び散る。 「もう、その、なりふりかまわず行動するの、やめてよねー。ボクまで汚れるでしょ。ほら、飛んだー」 薄汚れたキョウコの頭蓋骨に肉片が付着する。 「ハ、ハ、ハ‥‥ハラヘッター!」 ハラヘッタがビットの頭にかじりつく。 「オワッ!腐ってるけど大事な頭なんだZE☆やめろYO☆」 「きゃー、もう、どんどん汚れちゃうー!」 「ハラヘッター!」 「うっせいYO☆このオカマ!」 「キー!頭の骨は女の子なんだからボクも女の子だよ!」 「ハラヘッター!」 「何言ってんだYO☆骨盤は男だって聞いたZE☆」 「だ、誰よ、ボクの秘密、教えたの!」 「ハラヘッター!」 屋敷の前が混沌と化したため、ワタルの胃痛は極限にまで高まった。 「ガハッ!」 美男の顔が極限にまで高まった痛みに耐え切れずにゆがみ、ワタルは喀血した。 だが倒れることなく、屍人、狂骨、食屍鬼に取り憑いた友人達を招き入れるため、階下へと降りる吸血鬼であった。 四体はテーブルを囲んで座っている。 「で、私の屋敷に何の用ですか」 ワタルは不機嫌そうにティーカップの血を飲んでいる。 彼らは元々吸血鬼の一種、取憑鬼(とりつき)だ。 人であろうが動物であろうがアヤカシであろうが取り憑き、その精(瘴気)を奪い、また他の存在からも精(瘴気)を吸い取るのだ。 ワタルは人に取り憑き、血を吸い取る吸血鬼となったのだが、ビット、キョウコ、ハラヘッタは何を思ったのか、屍人、狂骨、食屍鬼に取り憑いたのである。 「YO☆俺達の今の体、死人だろ?」 「だからー、ちょっと面白いこと、考え付いたんだけどー」 「ハラ、モグモグ、ヘッタ」 ビット、キョウコ、ハラヘッタ(途中で捕まえたらしい鹿の肉を食べているが)は、ずいと乗り出してくる。 (「私達も元々不死の存在の一種ですが」) 心の中でツッコミを入れつつ、これは嫌なノリだ、とワタルは直感した。 「以前みたいに、『ジルベリアだかの伝承、試してみよう』はもう嫌ですよ!」 ワタルは以前『吸血鬼は日光に当たると灰になる』という伝承を試してみようと、この三体に磔にされたことがあった。 あいにくその日から三日ほど曇天で、その間飲まず食わずで大変な思いをしたものだ。 三体はそんな不安げなワタルの顔を覗き込むと、それぞれ言葉をつむぎだす。 「四人NO☆」 「死人のー」 「ニニ、ニ、ニンジャ!」 「‥‥で?」 ワタルの額を出ないはずの汗が伝う。 『俺達、死忍者ー!』 三体は青、白、黒の忍者装束を取り出して、そう叫んだ。 「この森の中に、突如出現した謎の外国風の屋敷を調べてほしいとのことです」 開拓者ギルドの受付嬢は新しく張り出された依頼書の説明を行う。 「なお近辺ではアヤカシらしきものも見かけられているそうです。皆さん、十分注意してください」 謎の屋敷の調査依頼が張り出されていた。 |
■参加者一覧
葛葉・アキラ(ia0255)
18歳・女・陰
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
西中島 導仁(ia9595)
25歳・男・サ
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
エシェ・レン・ジェネス(ib0056)
12歳・女・魔
セナ(ib0101)
17歳・女・吟
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔 |
■リプレイ本文 『突如森の中に現われた謎の洋館! 洋館の謎に挑む八人の勇者達!』 「出だしからなんなんだ、頭痛くなってきたぞ」 受付嬢から渡された調査報告用の紙面に書かれていた妙なあおり文句に、思わず雲母(ia6295)が愚痴る。 「私はこうゆうノリ、好きですよ」 面白そうなおもちゃを見つけた子供のような表情を浮かべるエシェ・レン・ジェネス(ib0056)、実際まだ子供のようではあるが。 「ところで、この屋敷が建っている場所に以前は何があったか、調査済みでしょうか」 紙面を渡した受付嬢ではなく、開拓者ギルドの職員を捕まえて、エグム・マキナ(ia9693)が詳しい情報を得る。 職員から渡された資料によれば、屋敷が建っていると思われる場所には木々が生い茂っていたようである。 中には六〜七十年の大木もあったとのことである。 セナ(ib0101)も開拓者ギルドに謎の屋敷の報告をした村の位置や、屋敷周辺のアヤカシの目撃情報を聞いてきた。 「被害はまだないとのことですが、周辺で屍人、狂骨、食屍鬼らしき姿を見たとか、屋敷に人影の目撃情報がありますわ」 開拓者ギルドでの情報集めはこの辺りで切り上げ、開拓者達は報告のあった村へと進むのであった! 葛葉・アキラ(ia0255)は近隣の村で聞き込みをしてきた。 「おっちゃん、おおきに」 アキラが森に入る猟師から集めてきた情報は以下のようなものであった。 ・屋敷が現われたのは七日前。その前日は普通に樹木の生えた場所であった。 ・五日ほど前から、歩き回る腐乱した死体、骸骨、怪物じみた人影が周辺で見かけられるようになった。 ・いつの間に草木の枯れた道が屋敷まで続いている。以前は獣道くらいしかなかった。 ・今のところ人に被害は出ていないが、森から動物達が姿を消している。 ・青、白、黒、赤の覆面と装束の四人の人物が見かけられる。 「これは実際に調べてみたほうがいいですね」 おっとり口調でつぶやくように言葉をつむぐ水津(ia2177)。 「ああ、そうだな。『建物の調査』が今回の依頼だ、簡単なものだ」 西中島 導仁(ia9595)は早速調査を開始しようとした。 「いや、ちょっと待ってくれ。この『死体、骸骨、怪物じみた人影』が、ギルドが推測した『屍人、狂骨、食屍鬼らしき姿』というのは分かる。だが『青、白、黒、赤の覆面と装束の四人の人物』とはなんだ?」 オラース・カノーヴァ(ib0141)がアキラの集めてきた情報の怪しいところを指摘する。 「なんや、昨日子供達が洋館を見に行ったらしいんやけど、屋敷の前で見得をきっとったらしいんや」 「子供達が近づいているのか、なら早急に調査するべきだな。それにしても見得きりか、浪漫だな〜」 早く調査に行こうと急かす導仁、『見得』に浪漫があるようだ。 天気はあいにくの曇り空だ。 森には人がすれ違えるだけの幅の草木の枯れた道が出来ていた。その道を目印に開拓者達が進んでいくと、木々の隙間から天儀のものとはまた趣の違う建物が見えてきた。 「これが洋風ってヤツなんや。しかも突然現れたなんてワクワクするワ〜」 アキラは白い壁の建物を見て、心を躍らせる。 「私が瘴気を調べます。少し待っててください」 水津が『瘴索結界』を発動する。 「‥‥え?え?!えー!!」 水津の感覚には、木々に隠れて全体の見えない洋館全てから瘴気を感じ取れた。ただ、その瘴気は薄く、下級アヤカシよりも下に感じる。 それ以外にも洋館の中から四つの強い瘴気を感じっていた。 「洋館全てから瘴気を感じます。そして中には四つの強い瘴気があります。気をつけてください」 「‥‥全く、難儀な依頼だなぁ」 水津の情報を聞き、雲母は煙管を付加しながら洋館を眺める。 「お庭を見せていただこうと思いましたが、ないんですね」 洋館の立っている周りを見回してみたエシェ。 遠めに見たところ、洋館と森とを分断する境目がない。下栄えの草は建物の壁の寸前にまで生え、枝を伸ばした木々は壁のところですっぱりと切り取られているようだ。 「綺麗な庭、想像してたんですけどね」 道の端の枯れていない木々にダーツで印をつけていたセナも同じ意見だったようだ。 「とにかく皆さん、注意して調べましょう。私は、中にいるおそらく主と思われる方にお会いしてきます」 「俺も行こう。正直、館の主人がどんなヤツか興味あるしな」 エグムとオラースが洋館の扉へと向かった。 残りは洋館を正面から右回りにアキラ、水津、雲母が回り、左回りに導仁、エシェ、セナが回ることにした。 雲母がアキラ、水津を護るように先頭に立って、森を踏むわけていく。 アキラは洋館の様子を見ながら、その内部的な構造を調べる。正面から見えた窓の数は一階には扉の左右にそれぞれ二つづつ計四つ、二階には扉の上に小さめの二つの窓があり計六つあった。単純に想像すれば、扉の向こうは吹き抜けのホール、そして正面側には四つないし八つの部屋があるのだろう。 水津は、辺りに怪しい物がないかとキョロキョロしている。逆に言うと、洋館以外の怪しいものがない。曇り空とはいえ明るいほうだ。だが鳥の鳴き声一つ、動物の物音一つ聞こえてこない。自分達がたてる音だけだ。 導仁は、先に行くエシェとセナについていくような感じだが、誰よりも洋館に近づき、壁の材質など調べる。漆喰のようだが、ほんのり温かみを感じる気がするのは、瘴気があると言われたからだろうか。年月もよく分からない。風雨にさらされた水垢の後があるわけではないが、ざらざらとした感触は年月がたっているように感じる。 エシェは裏庭がないかと、屋敷の裏側へと進む。その目には探究というより探検の光が灯っている。 セナはそのエシェの後を注意深くついていく。森の様子や、洋館の窓の位置などを手帳に書き込んでいく。魔法の痕跡でもないかと洋館を見回すが、そういったものはなかった。 結局二組は、何故か裏口のない洋館の裏手で合流することとなる。 『な、なんだ、お前ら!』 そのとき聞こえてきたのは、エグムとオラースの声であった。 六人は正面へと走り出した。 エグムが竜の形をしたノッカーを叩く。 「どなたかおりませんか」 「いやまあ、アヤカシがいるってのは分かってるんだけどね」 二人がノッカーを鳴らして待てど、住人(?)が出てくる様子はない。 「居留守を決め込む気か」 首をひねるオラース。 そのとき扉の向こうからどかどかと足音が聞こえてきた。 バンと開け放たれる扉。 開く扉にぶつからないよう下がるエグムとオラース。 そこには青、白、黒、赤の忍者装束の四人が立っていた。 『な、なんだ、お前ら!』 そのカラフルで奇妙な姿にエグムとオラースはハモってツッコんだ。 何故か微動だにしない忍者装束の四人。 いや一人、赤だけはそわそわしている。 (お、おい、いつまでこうしているんです?) 小声でささやく。 それに対して白が答える。 (彼らがちゃんと揃うまでよ!) 妙な展開に、呆気に取られるエグムとオラース。 「エグム!オラース!どうし‥‥た?!」 六人が裏手から駆け寄り、正面の状況を確認すると目を丸くする。 開拓者達が全員集まったと分かると四人は動き出した。 青い装束は、両手の人差し指を前方に突き出しポーズを決める。 「実は溺死体だYO☆ブルーゾンビ☆」 白い装束が科(しな)を作ってポーズ。 「男か女か、ほんとはどっちのホワイトスケルトンよ!」 黒い装束が正面で、顎のように上下から両手をあわせる。 「ハラヘッター!ブブ、ブ、ブラックグール!」 (えっと、ほんとにやるの‥‥?) おろおろと赤い装束が翼を広げるかのように両手を広げる。 「か、渇く血潮の、れ、レッドヴァンパイア!」 『俺達、死忍者ー!』 世界が世界なら、背後で色に合わせた爆煙が起こってもおかしくはない。 「人の言葉をちゃんとしゃべってもらわないとなぁ」 落しかけた煙管を掴み、雲母が言う。 「ちゃんと人の言葉でしたよ?」 水津が答える。 「あっはっは、昔の生徒たちを思い出しますね」 エグムがその一言で済ませる。 「いやいやいやいや、ちょっとまて。お宅ら、アヤカシだろ?なんでしゃべってるんだ?」 先ほどの見得きりに頭を痛めながらオラースがツッコむ。 オラースのツッコミを聞いた導仁が我に返る。 「待てぃ!死した者を無理に現世に留める者達よ、それが死者の尊厳を貶めていることを知れ。更に死者を使い人を襲う者ども、人それを『魍魎』と言う!」 導仁も負けじと右手を前に出し見得を切る。 「なにぃ、貴様、何者だYO☆」 青い装束が導仁の見得に答える。 「貴様らに名乗る名前は無い!!」 ‥‥。 「そこは名乗りましょうよ」 水津が導仁にツッコむ。 「とにかく!この屋敷の主は誰だ」 『死忍者ー!』とのやり取りに脱力感を感じながらも、オラースは事の次第を明らかにしようとした。 「あ、私ですが」 赤い装束が覆面を取り払う。 中からは顔色が悪く、やつれているが、かなりの美形の青年の顔が現われた。 「開拓者のオラースだ。お宅の屋敷について質問がある。 いつどうやって建てられた?突如現れたって証言がある。 どうしてこの場所なんだ? 近隣でアヤカシの目撃情報がある。お宅となにか関係があるんじゃねェか?」 オラースは頭痛を抑える為、矢継ぎ早に屋敷の主である青年(?)に質問する。 「うう、がはっ!」 青年は腹部を抑えたかと思うと、突然血を吐いた。 「た、立ち話もなんですから、中へおあがりになってください」 青年は口元の血をぬぐい、開拓者達を招きいれようとしている。 『死忍者ー!』の三人も、仕方ないなと洋館の中へと戻っていく。 開拓者達は迷った。 この先はいわゆるアヤカシの中なのだ。 エグムがずいっと一歩踏み出す。 「『毒を食らわば皿まで』ですよ」 仕方ないと皆ついていくことにした。 開拓者達は館の一室に通される。 場所は入り口脇の応接室、つまりは一階である。 青い覆面から出てきたのは腐乱した顔。 「YO☆ビットだYO☆」 白い覆面から出てきたのは頭蓋骨。 「ボクはキョウコだよ、ヨロシクね!」 黒い覆面から出てきたのは怪物じみた顔。 「ナ、ナマエハ、ハラヘッタ!」 そして美形の青年。 「私はワタルといいます」 『死忍者ー!』の面々が挨拶をする異様な光景だ。 「まず、ご質問のアヤカシの目撃情報ですが、ご覧のとおり、彼らのことでしょう」 どこか調子が悪いのか、腹部を押さえながら答えるワタル。 三人は恥ずかしそうに頭をかく。 「場所は特に関係ありません。程よく村から離れた森の中ですからね。そしていつ建てられたか。建てたのではありません、飛んできたのです、この『モンスターハウス』、つまり『お化け屋敷』がです」 ワタルは顔をしかめながら屋敷の壁を叩く。 ワタル達の友好的な態度にエグムが提案をする。 「危険なアヤカシの討伐が仕事ですが、その気がないのなら対象とはなりません。むしろ個人的には友人になりたい程ですよ。あなた達はとても興味深い」 それに対してワタルはきっぱりと断る。 「無理ですよ。私達は元々知性を持つアヤカシ『取憑鬼』、今は知識欲が空腹感を上回っているから、貴方たちと敵対しないだけです」 「YO☆俺はお前達が起す『音楽』ってヤツに興味あるZE☆」 どこかの『音楽』なのか、ビットがテンポ良く指を突きつける。 「ボクは『女の子らしさ』『男の子らしさ』って仕草かな」 キョウコは人差し指を顎に当てて上目遣い、といっても骸骨では表情も何もあったものではないが。 「ハ、ハラヘッタハ、ア、アジ!色々ナモノニ、色々ナアジがアル!」 ハラヘッタも空腹感だけではないようだ。 「私は『優美』というもの。とは言うものの、コイツ等がさせてくれませんが‥‥」 ワタルはあらぬ方向を向いて、ふうとため息をつく。 「何故そこまで教えてくれるのですか?何か感じるものがあるのではないですか」 エグムは、なおも食いついてみせる。 ワタルは無表情で言い放つ。 「言葉巧みに騙して人を食らう。それって『優美』ですか?」 ワタルの話は終わった。 開拓者達は洋館を出る。 日も傾いたのだろう。曇り空はだいぶ黒くなっていた。 眠っていた洋館が起き出し、開拓者達の目の前でその姿を変えていった。 館から竜の頭と手足、尻尾、そして羽が生える。 洋館はその羽を羽ばたかせると、ゆっくりと浮かび上がり、高く空へと舞い上がる。 そしてそれは雲の中へと消えていった。 洋館の建っていた跡は、砂地のような更地になっていた。 草木も土も全てが枯れていたのであった。 魔の森になることはないが、数年は何も育たないであろう事が見て取れる。 気がかりは、あの洋館のアヤカシである。 あの『お化け屋敷』は、また天儀のどこかに舞い降りるだろう。 そしてまた今度のような騒ぎを起すのだ。 『またどこかで会おう『死忍者ー!』!』 受付嬢が付け加えた報告書の最後の一文を読んだオラース。 「消せ!」 |