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■オープニング本文 「おらおら、餅があるんだろ。出せや!」 とある村、十人ほどの柄の悪い男達が槍や刀などの武器を持って現われた。 盗賊達である。 「この盗賊共!村から出て行け!」 村の猟師や若い者が弓や鍬等を持って立ちはだかる。 「くくく、こうゆうものもあるんだけどなぁ」 盗賊の一人が合図をすると、縄で縛られた、村の若い娘が連れてこられた。 いわゆる人質だ。 盗賊の仲間が怯える娘に刀をつきつける。 「うっ、卑怯な」 村人達は弓や鍬を盗賊たちの前に投げ出す。 「卑怯で結構。そうそう、お前らは素直が一番だ」 村長がおずおずと盗賊たちの前に進み出る。 「村で用意できるものは用意する。だからその娘を放してはくれんか」 下卑た笑いを浮かべた巨漢が答える。 「へっへっへ、まぁだダメだぁ。あいつらをおびき‥‥」 「おいっ!」 先ほど合図をした盗賊が、巨漢の言葉をさえぎる。 巨漢はびくりとして、言葉を飲み込む。 この男が頭領格なのか、巨漢はすごすごと引き下がる。 「とにかく、お前らにはまだまだ俺らの役に立ってもらうんだ。言うこと聞かせるためにも放せねぇなぁ、くくく」 含み笑いをする頭領格に、新たな盗賊が近づき耳打ちをする。 「くくく、予想通りだ。さて、こいつらは二つの家に閉じ込めておけぇ。見張りはちゃんと付けろよぉ」 頭領格は村長に言い放つ。 「お前さん、村長なんだろぉ。食い物や酒、お前さんの家を借りるぜぇ、くくくくく」 村から抜け出した少年がいた。 「村が、村が盗賊達に襲われてるんだ!助けて!」 少年は知らない。 彼が抜け出す姿を盗賊達に見られていたことを。 「くくく、もうすぐだ」 「へっへっへ、ようやくあいつらに俺達の恨みを晴らせるなぁ」 「そうだ、さっきはまずかったぞ。俺達が『開拓者』を待っているなんて、まだ知られちゃなんねぇんだ」 村長宅で会話する盗賊達の前には、弓矢等も含まれる武器が揃えられていた。 |
■参加者一覧
恵皇(ia0150)
25歳・男・泰
まひる(ia0282)
24歳・女・泰
深凪 悠里(ia5376)
19歳・男・シ
藍 舞(ia6207)
13歳・女・吟
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
鷹碕 渉(ia9100)
14歳・男・サ
西中島 導仁(ia9595)
25歳・男・サ |
■リプレイ本文 盗賊退治の依頼を受けた開拓者達は、村の傍の林に身を隠した。 斥候に行った藍 舞(ia6207)の調べで、盗賊達が抜け目無く見張りを立てていたからだ。 「見張りか」 舞の調べに恵皇(ia0150)は何か違和感を感じた。 普段の荒くれものならやっているであろう酒盛りの騒ぎに乗じて村へと入りこもうと思っていた。 だがその騒ぎが聞こえてこないのだ。 舞の調べにも、盗賊達が浮かれ立った様子はなかったようだ。 「ふん、気にしすぎだろう。ただ、人質を取るとはいただけないなぁ。悪党なりにも美学と言う物を教えてやりたい所だ」 盗賊達の様子を気にする恵皇に、見張りを狙い撃ちする場所を探していた雲母(ia6295)が口を挟む。 しかし舞は、倫理的には悪くても、戦術的に盗賊がよく思いついたものだ、と思っていた。 「‥‥何の思惑があるか知らんが無辜の民を巻き込むとはな」 静かに鷹碕 渉(ia9100)が怒りを口にする。 その言葉に開拓者達は皆一様に頷くのであった。 見張り達が死角に入った瞬間、夜陰に乗じて濃紺の布で頭髪を覆った深凪 悠里(ia5376)が走る。 灯りのもれている家へと近づく。 なるべく音を立てないように、屋根へと飛び上がる。 するりと屋根の梁へと入り込む。 思った通りだ。 家の中では柄の悪い、どう見ても村人には見えない連中が、囲炉裏を囲み、酒や餅、村の蓄えであろう漬物の野菜などを食していた。 数は十三、外の見張りと合わせれば十六となる。 頭領格と思われる者の傍には、縄で縛られた人質と思われる娘がいた。 ただ、どうにも符に落ちない。 実際このような盗賊達の仕事がうまく行った後で酒も入った場合は、不謹慎だが成功を祝って騒いだりするものではなかろうか。 だが彼らはそれなりに語らいをするが、さらに獲物を狙うように緊張感が漂っていた。 事実、彼らの手元には刀や短めの粗末な槍、どこから調達したのか小さめの弓等が手の届く範囲に置かれていた。 悠里は一筋縄ではいかないと気を引き締め、今までよりさらに慎重に人質であろう娘の上までそろりそろりと梁を伝っていった。 忍び込む前の悠里の先導によって、恵皇と瀧鷲 漸(ia8176)は村長宅であろう家の見張りの近くで息を潜めていた。 漸は普段の依頼とは違った雰囲気に、警戒心を強める。 幸い罠の類は無く、ここまでは何事も無く歩み寄れた。 さらに後方には雲母が控えているはずだ。 村の影に瞳を凝らせば、小さな人影が見張りに見つからぬよう手を振ったのが見えた。 舞の先導で、渉、まひる(ia0282)、西中島 導仁(ia9595)達も配置に付いたようだ。 恵皇は後方の雲母に合図を送った。 雲母は少し面白くなさそうに村の様子を眺めていた。 だが気を緩めることなく、灯りのもれる家を警戒している。 ふと、見張りに程近い藪の中から誰かが手を振ったようだ。 手の弓に矢を番え引き絞る。 この場所なら、見張りからは林の影で見えないはず。 鷹のごとく鋭い目で見張りに狙いをつける。 「まずは一人だな、さようなら」 特に何の感情も無く、雲母は矢を放った。 ヒュッ。 短い風切り音がすると、見張りの胸に矢が突き刺さる。 見張りは突如胸から生えた異物の衝撃に何か言葉を発しようとした。 だが恵皇が即座に近づき、その口を塞ぎ、見張りの息の根を止める。 恵皇は周囲の様子を確かめると、漸を呼び寄せた。 舞は家の影から見張りの正面に回り込む。 突如現われた舞に見張りが言葉を口にしようとするが、その間も与えず舞は全身に巡らせた気を操り見張りの顎を遠慮なしに殴りあげる。 まるで一瞬の閃光である。 「おっと」 渉が飛んできた見張りの体を支える。 二人は気絶した見張りを縛り上げると、見張りをしていた家の戸を静かに開く。 中には十人ほどの村人がいるようだ。 一瞬ざわめくが、渉が静かにするようにしぐさを見せる。 「俺達は開拓者だ。まだ仕事が残っている、すまないが静かにしていてくれ」 渉は村人に小さく声をかけると、縛り上げた見張りを中に放り込む。 「‥‥舞殿、あれはちょっとやりすぎだな」 渉は見張りを縛り上げたとき、見張りの顎を調べてみた。 見張りの顎は見事に割れていたのだった。 「うん、志体持ちかと思って遠慮しなかったからね」 舞もやりすぎたと思ったらしい。 だがここからが大仕事だ。 舞は灯りのもれる家の裏口へと静かに回っていった。 導仁は見張りの死角へ回ろうとした。 「あ」 だが枯れ草を踏みつけ、がさごそと音を立ててしまう。 見張りが音に気づき導仁の方を向いた隙に、その背後に回っていたまひるが、見張りの頭を蹴りつける。 「まひる殿、上手くいったな」 気絶した見張りを縛り上げているまひるに、導仁が近づいてくる。 「まあ、導仁が見張りの気を引いてくれたってことにしておこう」 まひるは導仁の耳は赤く染まっていたのを見抜いていた。 見張っていた家の戸を開けると、まひる達はまだ知らないが、舞達のところと同じくやはり村人が十人ほど押し込まれていた。 「私達はこの村の少年から依頼を受けた者よ。もう少しだから待っててね」 小声で言いながら縛り上げた見張りを家の中へ放り込むと、一人の女性がまひるに訊ねてきた。 「あ、あの、子供は無事ですか」 どうやら少年の母親のようだ。 「大丈夫、ギルドで保護してもらっているわ」 その言葉にいくらか安堵した母親の顔を見て、出発前少年に菓子を買ってあげたことを思い出したまひるであった。 戸が勢いよく開かれると、外の闇の中からハルバードの穂先が突き込まれた。 戸の前あたりを陣取って酒を飲んでいた不運な盗賊の頭に突き刺さる。 「くくく、来たようだな」 驚きもしない頭領格が言葉を出す前から、盗賊達は手元の武器を手に取る。 同時に梁で息を潜めていた悠里が、人質の前に降り立つ。 「な、なにぃ?てめぇ、どこから出やがった!」 人質を引き寄せようとした頭領格だが、さすがにいきなり降って湧いた悠里には驚いたようだ。 人質の娘を背にし盾となる悠里は、水の流れを操る術で盗賊を惑わす。 盗賊達の周りには、いくつもの水柱が立ち昇るのであった。 ハルバードを突き入れた漸は、次の盗賊をなぎ払う。 だが勢い余って壁板にまで斧刃をめり込ませてしまっている。 続いて飛び込んだ恵皇の体からは湯気が立ち上っている。 全身に巡る気が盗賊の武器を弾き、恵皇の力を高めている。 叩き込んだ拳が盗賊を吹き飛ばす。 まひるは相手の虚を突き、体勢を崩させる。 渉の振り下ろした刀は、バリバリと床板を砕く衝撃波を放ち、盗賊を吹き飛ばしていく。 導仁は両手にそれぞれ刀を持ち、受け、そして切りつけていく。 盗賊達も黙っていない。 手に持った刀や槍で牽制しつつ、矢を放つ。 裏口から飛び込んだ舞は、悠里と同じく水の流れを操り幻惑しつつ、自分の周りに木の葉の舞う幻影を映し出し、再び全身の気を操り一瞬の一撃を繰り出す。 「はあ、はあ、藍流速攻術『赤みがかった黄色』」 盗賊を殴り倒した舞は、誰に言うとも無く技の名を呟いた。 あっという間に盗賊の半数以上が倒れ伏している。 囲炉裏の灯りも水柱によって消えかかっている。 「く、このままやられてたまるか」 頭領格が開かれた裏口から逃げ出そうとする。 「あ、待て!」 漸がハルバードを立てて構え、振り下ろそうとする。 だがここは屋内、人の身長の倍ほどもあろうかというハルバードは振り下ろすどころか、動く前から屋根の梁に引っかかったような状態だ。 ハルバードの柄の中らあたりを持って突いたり振り回すことは出来るが、さすがに屋根をも突き抜けそうなものを振り下ろすには何も障害の無いところでないと、いかに膂力があろうと無理である。 梁に引っかかったハルバードを振り下ろそうと躍起になる漸を尻目に頭領格は外へと逃げ出す。 「くくく、ここで終わるかよ」 だが逃げ出した頭領格を待っていたのは、ランスを構えた女だった。 「私も交ぜろぉ!」 弓をランスに持ち替えた雲母は、頭領格に向かって突進した。 ドンッ。 弓術師氏族の出である雲母は、近接武器を専門的に扱う鍛錬はしていないが、構えたランスでどうにか頭領格を貫き、家の壁に突き立てる。 雲母は壁からランスを引き抜き、頭領格を振り払うと、家の中の乱戦へと飛び込んでいった。 消えかかった囲炉裏の火に浮かび上がる、戦いの終わった様はまさに地獄絵図のようであった。 むせ返る血の匂い、命ある者のうめき、事切れた者の骸。 壁板には斧刃が叩き割った跡、ランスが貫いた跡。 床は血が流れ、餅や漬物、酒が散らばり、水浸しの上、打ち砕かれている箇所もある。 屋根の梁には刃を食い込ませたハルバードがぶら下がっている。 戦いを見ていた人質の娘もすっかりおびえてきっていた。 開拓者の中に治療の術を持つ者がいなかったため、皆一様に包帯や布を巻きつけて止血している。 盗賊達も息の有る者には治療を施し、事切れた者はむしろに包んでいく。 「まっとうに生きていればこうはならなかったろうに。廻り合わせというのは奇妙なものだな」 むしろに包まれた遺体に、一つ一つ丹念に手を合わせていく漸。 生き残った盗賊達は、全員縛り上げられ、一箇所にまとめられる。 今度は盗賊達が閉じ込められる番だ。 後で開拓者ギルドから報告を受けた役人が引き取りに来るだろう。 「諦めきれなければもっと鍛錬を積んで何度でも挑戦しなさい?もちろんもっと人に迷惑をかけないやり方でね」 村の片付けも一通り終わると、舞は生き残った盗賊達に言葉をかけた。 「‥‥けっ、やっぱりあんたらは、普通のヤツとはちげぇんだな」 「天地が引っくり返ったって、俺達はあんたらのような力は持てねぇんだよ」 最後に返ってきた盗賊達の言葉には、開拓者に対する羨望と憎悪が入り混じっていた。 |