待ち構えるもの
マスター名:八倍蔵
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/04 18:32



■オープニング本文

 数日前に降った雪は、すっかり解け、路面は乾いていた。
 その街道に三つの人影が見える。
 一組の家族だ。
「ここんところ毎日餅だったからな、うちに帰ったら母ちゃんに旨いもんでも作ってもらおう」
「そうだね、父ちゃん!」
 五郎は町で小さな細工物をしている職人だ。
 妻の千代の実家のある隣町へ、妻と息子の千太郎を連れて正月の挨拶に行っていた帰りだ。
 妻の父母は五郎にはいろいろと手厳しいが、七つになった可愛い孫の顔を見れば、その険しい顔も崩れる。
 二日ほど世話になって、さて帰ろうかと思ったところへ先日の雪である。
 もう数泊して、今日帰ってきたところだ。
 風は少々冷たいが、天気もよく、暖かい。
「じゃあ、少し買い物してから帰ろうね」
 千代がにっこりと微笑む。
 このまま家に帰ったところで、米と漬物、餅くらいしかない。
 変わったものが食べたいなら魚くらい買って帰ったほうがいいだろう。
 もうすぐ町につくころである。
 林脇の道を歩いていると前方の路面に白いものが見える。
「父ちゃん!まだ雪が残ってるよ!」
 白い路面にめがけて千太郎が駆け出す。
 五郎はふと思った。
 あそこは日向なのに、何故雪が残っているのだろう。
 先ほどすれ違う者がいたのに、雪が綺麗に残っているものだろうか。
 雪を踏みつけようと、ぴょんと跳ねる千太郎を追う五郎の目に飛び込んだものは、林から千太郎に襲い掛かる白い糸のようなものだ。
「千太郎!」
 千代が叫んで千太郎の腕を掴み糸からかばおうとする。
 五郎の目の前で、千代と千太郎が糸に絡まれていく。
 二人に絡みつく糸を振り払う五郎であるが、その五郎の前に子供くらいの大きさの巨大な蜘蛛が三匹現われる。
「く、くそ!千太郎!千代!今助けを呼んでくるからな!」
 五郎は糸が絡みつく上着とわらじを脱ぎ捨てると、町へと街道を駆け出した。

 裸足の男が開拓者ギルドに駆け込んできた。
「た、助けてくれ!妻と子供が蜘蛛に!」


■参加者一覧
月夜魅(ia0030
20歳・女・陰
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
風鬼(ia5399
23歳・女・シ
ロックオン・スナイパー(ia5405
27歳・男・弓
柳ヶ瀬 雅(ia9470
19歳・女・巫


■リプレイ本文

「とにかく出発しましょう。委細は走りながらでも」
 風鬼(ia5399)、ペケ(ia5365)のシノビを先頭に、七人の開拓者達が街道を駆けていく。
 事件の場所は街から五、六分の街道沿いということだ。急げばまだ間に合うだろう。
「まったく、あの子、どこ行っちゃったわけ?!」
 そんな中、鴇ノ宮 風葉(ia0799)が不満げな声を上げる。
 集まった開拓者の一人が知り合いであったのだが、道に迷ったのか途中で姿が見えなくなってしまったのだ。
「いっつもふわふわしてるんだから、もう!」
 風葉は頬を膨らますが、いない者をこれ以上責めても仕方ない。
 時間は迫っているのだ。
 柳ヶ瀬 雅(ia9470)は、開拓者を懸命に追いかける五郎を気遣う。
 さすがに全力で往復している五郎には、その疲れがありありと見えている。
 だが家族のためにも脚を止めるわけには行かない。
 しかし雅は箸より重いものを持ったことが無いような華奢な体、とても五郎を背負えるような力はない。
「すみません、わたくしが五郎さんを背負っていければよかったのですが」
 今の雅に出来ることといったら五郎の手を引いてやるくらいだ。
「そ、そんなことより、つ、妻と、子を!」
 息を切らしながらも五郎は家族の救出を願う。
「大丈夫です。必ず助けてみせますわ」
 五郎の手を強く握る雅であった。

「見えました!」
 前方を走るペケが林の脇にある、白く染まった異様な路面を見つける。
 白い路面の上には人の倍ほどの白い糸の塊があった。
 その糸の塊は、さらに林の中から伸びた糸により、じわじわと林の中へと引き込まれているようだ。
「ち、千代!千太郎!」
 白い糸の塊に向かって五郎が叫ぶ。
「大丈夫だ、俺達が必ず助けてやる。あんたは下がっていてくれ」
 今にも糸の塊に向かって飛び出して行きそうな五郎を取り押さえる九竜・鋼介(ia2192)。
 その間にも風鬼は気の流れを脚に集中させ、凄まじい脚力で糸の塊へと駆け寄る。
 そして風鬼の周りに炎が現われ、塊を林の中へと引きずり込もうとする糸を焼き切っていく。
 糸の塊と化け蜘蛛をつなぐ糸を炎で焼ききった風鬼は、後から来たペケと二人で糸の塊を化け蜘蛛達の巣から運び出す。
 粘り気のある巣に多少足が取られるが、そこは開拓者の膂力で引きちぎっていく。
 糸の塊を運び出す二人を追って、林の中から三匹の化け蜘蛛達が現われた。
「うっわ、気持ち悪いなぁ。依頼じゃなかったら、絶対に関わり合いたくないところね」
 林の中から出てきた巨大な蜘蛛についての感想を述べる風葉であった。

 糸の塊を巣の外へと運び出すペケと風鬼に襲い掛かる化け蜘蛛達の前に、二人に追いついた九法 慧介(ia2194)が割り込む。
 襲いかかる化け蜘蛛の爪を、無表情の慧介は鎧で受け止めつつ、刀で振り払う。
 爪を受け払われた化け蜘蛛の体へ、慧介の所へ駆け寄った鋼介の長巻が閃光のごとき速さで貫く。
 慧介が次の化け蜘蛛へと駆け寄ると、残った一匹が牙をキチキチと鳴らす。
 合図を鳴らすその化け蜘蛛は、鋼介の力を込めた長巻によって地に伏せる。
 だが嫌な予感がした慧介が、足元の化け蜘蛛を切り伏せながら気配を探る。
 感じ取れただけでも五つか六つの気配が林の奥からぞろぞろ近づいてくる。
「さらに六匹‥‥、いや七匹だ、来るぞ!」
 ギリギリまで粘って、近づく気配の数を慧介が伝えた瞬間、慧介の背後から一筋の矢が林の中へと突き刺さるように飛んでいった。
「ま、ここは俺様、ガンナーの腕の見せ所だな」
 ロックオン・スナイパー(ia5405)が鷹のごとく鋭い目で、林の中にいた化け蜘蛛を機械式弓で撃ち抜き、その手ごたえを感じていた。
 そしてペケと風鬼の手によって、糸の塊の中から千代と千太郎が助け出されていた。
「緊縛された人妻、あると思います!」
 その息も絶え絶えな状態で助け出された千代を眺めつつ、林の中から近づく化け蜘蛛達を狙い撃ちしていく妙なテンションのロックオン。
 だがさすがに機械式弓の装弾の手間がかかり、また林の木々の陰等で、ロックオンは林の奥から近づいてくる全ての化け蜘蛛を撃ち抜くことは出来なかった。
 林の中から地面や樹上に、矢の突き立った化け蜘蛛やまだ怪我の無い化け蜘蛛達が姿を現すと、鋼介と慧介、さらにはロックオンにまで化け蜘蛛達の糸が放たれる。
「うわっ、俺まで緊縛ですかー?!」
 鋼介や慧介、ロックオン達に巻きつく化け蜘蛛の糸。
 巻きつかれている糸を伝って化け蜘蛛達は近づき、脚の爪を突き立てたり、牙で噛み付いてくる。
 幸いこの化け蜘蛛達は毒を持っていなかったようだ。
 だが鋼介達に巻きつくその糸は、突然湧いた炎によって焼き切られていく。
 風葉の精霊の炎だ。
 再び自由になった鋼介や慧介はしがみつく化け蜘蛛を振り払い、切りつけていく。
 ロックオンは再び距離を取り、矢の突き立っていない化け蜘蛛を優先的に、その頭部を打ち抜いていく。
「アタシがただの巫女じゃないってことを、瘴気の体に刻み込んであげよーじゃないっ!」
 風葉はさらに清浄な炎を生み出し、慧介達の足元の化け蜘蛛の巣を一気に焼く。
 白い化け蜘蛛の巣が焼き払われ、巣で覆われていた白い路面は土の路面へと戻っていく。
 化け蜘蛛の巣の上に立っていた鋼介と慧介もその炎に少し焼かれたが、足元のべたつきは無くなったのだ。
 千代と千太郎を助け出したペケと風鬼は、ペケは刀を、風鬼はバトルアックスを構えて、近づく化け蜘蛛達を迎え撃つ体勢を取る。
 五郎達にまで近づいてくる化け蜘蛛は、その前に立つ雅の精霊の力によって脚を捻じ曲げられていく。
 ロックオンの矢、風葉の炎、雅の精霊の力によって動きの鈍ってきた化け蜘蛛達は、鋼介の長巻、慧介とペケの刀、風鬼のバトルアックスによって切り裂かれていった。

 化け蜘蛛が倒されると、その吐き出した糸はどうなるのかと、風鬼は観察していた。
 林の中から湧き出た全ての化け蜘蛛が倒され、その体が瘴気へと霧散していく。それと同時に、化け蜘蛛の体内で作られ外へと吐き出された糸もやはりアヤカシの体の一部ということで、糸も瘴気へと戻り霧散していった。

 助け出された千代と千太郎は、風葉と雅の精霊の風によって癒されていく。
 また多くの化け蜘蛛を相手にしていた鋼介と慧介も、精霊の風によっていくつか傷が治っていく。
 糸の塊の中は多少の隙間があったとはいえ、かなり息苦しかったようだ。
 千代と千太郎の助け出された直後は、息苦しさにより意識が朦朧としていた。
「大丈夫です。二人ともちゃんと息はあります」
 ともすれば取り乱しそうになる五郎を落ち着かせる雅。
 千代と千太郎も精霊の風で癒されると、徐々に目の焦点が合ってくる。
「あ、あなた‥‥」
「んあ、と、父ちゃん‥‥」
「千代!千太郎!」
 意識もはっきりし、五郎の姿を確認した千代と千太郎は、体を起すと家族と抱き合い、助かったことを喜んだ。
「はぁ、もう。報酬とは別に、夕飯くらい用意しなさいよ?」
 風葉の我儘が喜ぶ五郎達に容赦なく突き刺さる。
「最近の蜘蛛は街道に出るのか、食糧難とか言うんじゃないよな?」
 戦いの時の無表情とは違い、とぼけた雰囲気を背負った慧介。
「食糧難か。なるほど、奴らの意図(糸)が見えた、蜘蛛だけに。なんてな」
 慧介の言葉に、真面目な顔でふむと頷きながら駄洒落を口にする鋼介。

 一瞬固まる空気。

 晴れている日向にいるのに、日の光も届かなくなったように感じる。
「だ、誰が上手いことを言えと言ったっー?!」
 パシン!
 風葉の扇子が鋼介の顔を叩いたのであった。