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■オープニング本文 「鬼じゃっ! 鬼アヤカシが裏の里山に奥に居座っとるで!」 「なんじゃとぅっ!」 町から外れた山奥の村に緊張が走る。ちょうど稲刈りもはぜ掛けも終り「やれやれ、これでひと安心」とのんびりしていたところで、正に寝耳に水だった。 「待て待て。この土地にアヤカシが現れるなんぞ何年ぶりだ? 何かの見間違いじゃねぇのか?」 「そうじゃ。そもそも里山のどこで見たいうんじゃ?」 村長の家で早速会合を開き意見を交わす中で、そんな声が出た。 「頭に角があったんじゃ。見間違えるわけねぇだろ?」 発見者三人は山に入った時の様子を必死に伝える。頭の両上に手をやり、角があることを強調しているが‥‥。 「鹿の獣人でも角はあるが?」 「修羅(しゅら)っていう、鬼みたいな外見の一族がいるっちゅうのも聞いたことがある」 「そんなものとアヤカシを見間違えるはずがなかろうっ! ありゃあ、生きモンじゃねぇ。熊なんざのケモノでも生きてる目つきをしてるが、あの目は‥‥あの形相は、生きてるモンの様子じゃねぇ。バケモノじゃっ。あんな恐ろしいモン見間違えるはずはねぇ。俺は、アヤカシなんてのは初めて見るが、すぐに分かる。そう、水と間違えて酒を口に入れたような、そんくらいの分かりやすさじゃっ!」 村人から突っ込まれた男は、一気にまくしたてるとガタガタと震え始めた。目も、うつろだ。 この様子を見て、村人たちのからからかいの色も消えた。 基本的にアヤカシと他の生き物との違いはこのくらい一目瞭然であるといえるだろう。「怪奇現象があればまずアヤカシを疑え」というのが一般常識である。 余談であるが、修羅も獣人(神威人)も、外見はそれぞれ鬼に近かったりケモノの特徴を残していたりするが、天儀に多く住む通常の人と同じく知的で社会的生活をし、基本的に他人を思い遣る気持ちがある。瘴気から発生し生物を殺し喰らうことを何よりの喜びとするアヤカシとは根本的に違うのだ。 「では改めて聞くが、里山のどこら辺りで見た?」 「里山の奥の砦です」 「何と!」 村長が大きな声を出したのは、その砦を「徴兵があった時のための演習」と称して村人が作ったものだったから。そして、取り壊しの声があったのにも関わらず、ずうっと放置していたから。後悔してももう遅い。 「あそこに居座られると、退治に骨が折れるんじゃねぇか?」 「ばか。俺たち一般人がアヤカシに敵うわけがない。熊なんかのケモノも恐ろしいが、アヤカシはそんなもんと比べもんにゃならんほど恐ろしい」 通常、ケモノは一般人でも猟をしたり立ち向かったりもするが、アヤカシとなると話は別だ。それより何より、里山にアヤカシが出るということは、食料となる小形動物も荒らされていることとなる。もちろん、それが尽きれば里まで下りて人を襲い始めるに違いない。 「まあそれでも、戦いなれている者が徒党を組めば弱っちいの一匹とかなら戦えんでもないらしいが‥‥」 言った男は、ちらっと目撃した三人を見る。 「数は、十匹より少ないくらい。しかも、一匹だけ妙にでかくてがっちり鎧で武装した鬼がおった」 こうなるともう、圧倒的な身体能力などの才能をもって生まれた「志体持ち」に頼るしかない。 「こりゃ、開拓者に頼むしかないな‥‥」 そういった「志体持ち」の多くは「開拓者」となって活躍している。 さあ、開拓者の出番である。 こうして開拓者ギルドに、斜面の上に作った簡易砦に居座った鎧鬼と小鬼の集団を退治する依頼が寄せられることになった。まだ村への侵攻はないものの、今後のためにも一体も逃がすことなく討伐することが望まれている。 なお、「できることなら完全討伐」という要望があること、活躍の場も限られることから、朋友の同行は許可されていない。余談であるが、航空戦力は拠点攻略などに非常に有効である半面、遮蔽物のない空を動くため視認されやすい、一般住民の生活を脅かすなど欠点もある。龍など運用できる依頼が区別され制限されている理由の一つである。 執筆担当:瀬川潮 |
■参加者一覧
鳳・月夜(ia0919)
16歳・女・志
秋姫 神楽(ia0940)
15歳・女・泰
剣持華山(ia2254)
18歳・男・陰
リリウム=バーンハイト(ia9981)
16歳・女・魔
穂群(ib6844)
14歳・女・砲
魚座(ib7012)
22歳・男・魔
朽酒 鋏美(ib7861)
22歳・女・志
古雅 京(ib7888)
16歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ● 「確かに、砦だわね〜」 秋姫 神楽(ia0940)が、草の生えた斜面の遥か上にある建造物を見上げつぶやいていた。 依頼に参加した開拓者8人は、斜面の下の森林地帯に到着し、すでに潜んでいる。 と、ここで神楽はガシッと数人に掴まれ森に引っ込んだ。 「何よ。別に頭使うのは苦手だからただ突貫してただ破壊するだけとか思ってたわけじゃ‥‥」 「険なる形には、若し敵先ずこれに居れば、引きてこれを去りて従うこと勿かれ。高陵は向かうことなか‥‥」 「何よ、ソレ」 不満げに振り返る神楽に古雅 京(ib7888)が滔々と語るのだが、どうやら長すぎのようで右の耳から入って左の耳から抜けている感じだ。 「神楽さんは華やかな分、きっと目立ちますよ」 色っぽく分かりやすく言うのは、長い金髪の魚座(ib7012)だ。 「それを言うならあんたも随分派手な‥‥」 神楽の言葉は途中で途切れる。魚座が微笑して手にした草を差し出したのだ。 「使いますか?」 何と、魚座はその辺の草を自家製の接着剤で自分の衣服につけているではないか。 つまり、神楽も草をつけて目立たなくしてみては、ということらしい。 「よしとくわ」 「ともかく、鬼の姿がたまに見えますから、用心してください。‥‥それにしても、鬼が砦を占拠するなんて」 顔をしかめた神楽に今度はリリウム=バーンハイト(ia9981)が声を掛けた。口調は温厚だが主張はハッキリしている。 「ええ。随分いるわ‥‥厄介ね。でも頑張らないと」 絶えず砦を観察している鳳・月夜(ia0919)に言われ、リリウムは改めて頷く。 「ええ。私達がやらなきゃ‥‥ですよね」 運よく、まだ敵に接近を知られていない。 「今まで修行を兼ねて独りで戦ってきたが、こうして布陣を組んで戦に赴くのは氏族を発ってから初めてだ。上手く行くといいが」 うむ、と隣に来た剣持華山(ia2254)も気を引き締める。 「ともかく、平穏な時間くらいは取り戻したてあげたいわね」 紅い上着がキレイな朽酒 鋏美(ib7861)は距離を置きつつも同意する。続けた「これでも平和論者なものだから」と言う言葉には、「え?」という視線が集まったが。マキリとシークレットナイフの二刀流でぎらりと不気味に刃を輝かせているのだからまあ、疑問の視線も集まろう。 「それより、これ」 ここで、魚座が手前の斜面を指差す。 「草をむしった時にも気付いたけれど、投石はここまで来るし結構大きいし、何か石以外の大きなものも滑り落ちてる跡があるよ」 「‥‥なかなか最初からスマートにはいかないものね」 初陣の穂群(ib6844)も、「この上まだ何かあるの?」といった感じだ。 ともかく、接近開始である。 ● 「よし、いいよ」 魚座がストーンウォールを構築し、後続を呼ぶ。ごつん、と今現れた壁に石がぶつかる音がしている。敵の発見が遅れたため一枚目は無難に構築できたが、これで敵も感付いた。 「もう少しで霊魂砲の射程だが、あれをやられると当たらんな」 見上げた華山がぼそっとつぶやく。 敵のアヤカシは、砦の丸太の城壁の上から姿を現すとぽいっと大きな石を投じてさっと身を隠している。 「もう二枚はいけるけど‥‥」 「じゃ、私は右の大回りもらったわ」 魚座がさらに手前に壁を構築しながら言う。このままちょっとずつ前進はできるが、練力消費は馬鹿にならない。それを分かって、神楽が右を先に取る。ストーンウォールも左に展開した。左に主力が潜むと思われるという算段も働いている。 「じゃあ、左で引きつけましょう。援護はします」 「先に後衛の仕掛けは必要でしょう。誰か‥‥」 リリウムが左に位置を寄せ、京が援護の打ち手を捜し視線を巡らせる。 「鎧鬼に食らわしたかったが‥‥」 華山が即、動いた。 壁から出ると詠唱一発、指先に挟んだ陰陽符から霊魂型の式を召還しド派手に放つ。 ――ガスッ! 命中は城壁だったが、この初弾に敵は怯んだ。 「行こう‥‥」 左翼、月夜が出た。鋏美も止まっている華山を追い抜き続くッ! 当然、敵の投石はこちらに集中する。 「思いのほか傾斜は急ですね‥‥大丈夫でしょうか」 リリウムも左翼で上る。 「受けないほうがいい、かわそう」 月夜が左へと斜行しつつ上を目指す。今いた場所にごろんと、大岩が落ちていく。 「敵は全体的に左に動いたようですね」 元の場所では、京が冷静に戦況を見ていた。 「よし。じゃあ右から一気に行くわよ」 かわしつつ大回りする左翼に集中する攻撃をあざ笑うかのように、神楽が元気に直線一気。もちろん京も援護に続く。 「魚座さん、この隙に前に出て最後の壁をできるだけ近くに」 穂群が振り向き叫ぶ。 「任せてよ」 魚座も、穂群と一緒に直線で一気に距離を詰めた。 敵の投石については、足元に注意しつつ避ける者、意地で耐えつつとにかく進むものと分かれた。被害もあったが、これが敵の動きを乱すことにもなった。 「よし!」 神楽が外壁下に取り付いた時、あるいは勝敗は決したのかもしれない。 時に、魚座が近距離に最後のストーンウォールを構築し、砲術士・穂群の魔槍砲「連昴」が手数も豊かに火を噴き始めていた。大回りしていた左翼組も、再び分散した敵の投石に進行角度を修正し迫りつつある。 「援護します‥‥! 白き旋光の矢‥‥ここに集いて一条の閃となれ‥‥!」 リリウムのホーリーアローも来ている。魚座も、ホーリーアローに切り替えた。さらに華山の霊魂砲が外壁を派手に揺らす。 怒涛の寄せだがこの時、まさかあのような展開になろうと誰も気付く者はいなかった‥‥。 ● 結構きつい傾斜の戦場に、現物そのままな大きな石と知覚攻撃や砲撃が飛び交う。 「やれやれ、敵はやはり門に俺たちを近付けまいとするな‥‥ん?」 「神楽さん‥‥まさか」 門に近い最前線のストーンウォールに華山がひとまず非難したとき、リリウムが様子を変えて立ち上がっていた。 その、視線の先。 「こうしてこうして‥‥、えいっ!」 何と、神楽が持参した陰殻西瓜に斧を突き立て荒縄でぐるぐる巻きにして簡易の重りを作ると、ぽいっと塀の向こうに投げ上げたのだ。 「どうした?」 「とにかく狙われないよう、援護を」 聞く華山に手短に応えるリリウム。 そして二人の援護を受け、神楽は荒縄を波打たせ塀を構築する丸太の先端に巻きつけた。そのままぐいと引っ張ると、そのまま身軽に壁越えを敢行したッ! 「無茶やるなぁ」 華山が呆れる。隣のリリウムは、神楽が登りきったところで姿をさらした敵を狙う。攻撃を喰らった敵は落ちたようで、神楽は感謝のウインクしてから姿を消した。 「大丈夫か?」 この様子に、小さな羽虫の人魂を出した華山。神楽を追わせて内部の様子を探る。 「神楽、大きいのが傍にいる‥‥」 同時に、壁面に取り付いた月夜が心眼で内部を探った手応えを叫ぶ。そして呼子笛を吹いたのは自分に攻撃を集めるため。上から首を出した敵がいれば長めの降魔刀でばっさりやるつもりだったが、これは薮蛇。範囲外から投石を受ける結果となった。 「これはまずい」 つぶやいたのは、人魂で様子を見ていた華山。 月夜に攻撃が集中したのは良かったが、着地した神楽の背後にひときわ図体のでかい鬼が迫っていたのだ。 鎧鬼である。 薙刀を横にぶん回しているぞッ! 「危ないっ」 もちろん、華山の声は届かない。 「くっ!」 もろに喰らって吹っ飛ぶ神楽。鎧鬼のほうは、落下で割れた陰殻西瓜をぐしゃり、と踏んでさらに突撃を試みようとしている。 だが、神楽の瞳にはしてやったりの光が宿っている。 「拳で戦ってこその泰拳士。力ではサムライに適わないし、器用さでは弓術士に劣るけど‥‥」 そして、敵に背を向ける。 「この身軽さが、私達の武器!」 何と、吹っ飛ばされた先は門の前。そして今、閂を外して身をかわすっ! ドカッ、と開く門。 「隙間を狙って閂を外す手間が省けましたね」 門の近くには、開門を狙っていた京がつけていた。刀「血雨」を手繰る手が早いのは、すれ違いに斬るファクタ・カトラスの極意。見事、敵親玉に一番刀を付ける。 「ちょっと、親玉は外? ‥‥ま、いいわ。さぁ、修羅と鬼、はたしてどちらが強いのかしら?」 鋏美はこの時、すでに外壁を乗り越え内部に突入していた。背が高いとこういう時に便利である。すぐさまマキリとシークレットナイフを大きく構え、「斬りかかって来い」とばかりに敵へと走る。迷いのない行動は吉と出て、いずれにおいても敵の先を取った。巻き打ちである。 「本当は大鋏で決めたかったんだけどね」 腰を落とし、右に薙ぐ。そして次の敵求め、左に! 「そう‥‥。まずはきちんと雑魚を」 内部にいるのは背の低い小鬼のアヤカシである。寄って来た月夜が同じく二刀構えた一方、精霊剣「七支刀」に瑠璃色の精霊力を込め止めを差す。小鬼は形を崩し、瘴気が霧散する。 「きみ、やるわね?」 「志士、鳳・月夜。よろしく‥‥」 「私は朽酒。平和論者よ」 改めて挨拶しあってから、暴れ始める。 これで内部は抑えたと言っていい状態となった。 ● 一方、敵親玉。 「グオゥッ!」 門の前で薙刀をぶん回し、開拓者の包囲攻撃に対応している。 「大丈夫ですか?」 外側の京はガード越しに強烈な一撃を喰らって吹っ飛んでいたが運がいい。赤い瞳が苦痛にゆがむが、華山がすぐさま治癒符で援護する。 「派手に行きます‥‥」 リリウムが風を巻き込みクリスタルロッドをかざす。その先で風は渦巻き、真空の刃となって鎧鬼に襲い掛かった。 「タイミングが悪かったけど」 運悪く魔槍砲が弾切れした穂群だったが、弾幕重視の装備は伊達ではない。予備に備えていた短筒を構えると、乾いた音を響かせた。 「後衛を前衛の位置にさせるわけには‥‥」 引き気味だった魚座もサンダーで攻撃するが、ここではっとした。 (最初に見た何かが滑り落ちた跡。まさか‥‥) 何かに、気付いた。 それはともかく、鎧鬼。背後の気配に気付いたようで、背を向けた。 「無理無茶無謀は覚悟の上! 不可能は可能にする為にあるのよ!」 神楽が痛みを堪え迫っている。てゆうか、ナゼに背後からなのに大声を上げるかっ! 「ガッ!」 「甘い!」 運がいいッ! 間合いの長い薙刀を持つ鎧鬼に先手を取られたが、これは門扉に当たる。返す反対の一撃は身を沈めてかわし 「流派・天儀不敗に敗北の二文字は無ーいっ!」 行った。回避何それの二段撃・牙狼拳! 隙だらけのどてっぱらに霊拳「月吼」の拳がめり込む。 が、鎧鬼、崩れない。必殺を期した一撃の後で神楽は退避なんか考えてないぞ。 「ハハハハハハ!」 「間に合った!」 ここで、銃声が響く。 鎧鬼の背後から、気が高ぶったか笑い声を上げる京がカザーク・カービンをぶっ放し、横からはクイックリロードの間に合った穂群が再び魔槍砲「連昴」で決めていた。 「グ‥‥」 鎧鬼、ここで沈み瘴気に返った。 と、この瞬間。 戦場は速い展開でがらりと様相を変えるのだったッ! ● 当時、砦の内部では月夜と鋏美が小鬼を相手に暴れ回っていた。 「‥‥逃さない」 「どう? 『わたし、きれい?』」 月夜の振るう刃に纏った炎魂縛武の炎がうなりを上げ、鋏美は敵を倒した後の剣の動きを収束させるようにくるっと回ってすたっと立ちポーズを決めたり。 しかし、いくら実力差があろうと2対8での全滅は時間がかかるもの。 いや、実力差があるがゆえに、親玉の鎧鬼が倒された衝撃は大きかった様子だ。 「キィキィ‥‥」 なんと、残りの小鬼が砦の外壁を乗り越え外へ逃げたのであるッ! 小さいだけに、何と言う軽い身のこなしか。 「く‥‥。だから小鬼を先に全滅させたかったのに‥‥」 流れを悔やむ月夜だが、こればかりは仕方がない。 「外はっ?」 鋏美の、願うような声が響く。 そして、外。 とん、ととん、と小鬼数人が着地した。 敵の最前線と最後衛が、あっという間に入れ替わった瞬間である。 しかし。 「やはり‥‥」 リリウムがこの事態を読んでいたっ! 「増援を呼ばれるのだけは防止を‥‥」 攻撃はない。 それを仲間に伝える。 「草ぞりを使うとおもいますっ」 魚座の声も早いッ! 実際、小鬼たちは手にした盾を地に置くとその上に座るのだった。 「連昴の装弾数があれば」 穂群が魔槍砲を構えて放つ。盾を外した敵に一撃必殺。弾数の勝利だ。 「降りられた?」 サンダーで攻撃した魚座は、威力不足。皆に声を掛けた分の遅れも響いた。一気に下まで突破される。 「霊魂砲は当たったが‥‥」 「サンダー、届いて」 逃げる小鬼に、華山の霊魂砲とリリウムのサンダーが集中し、何とか下る途中で仕留めた。 「くそ、速いですね」 冷静さを取り戻した京が滑り降りて追ったが、速度の出る草ぞりと化した盾に乗る小鬼とは距離は詰まるどころか開く一方だった。 結局、一匹に逃げられたことになる。 ● 「敵の死体はおろか、装備品も残らないんですね‥‥」 戦い終わり、再び砦に戻った京が地面を足でざりざりとこすりながらつぶやいた。敵を倒した場所であるが、アヤカシは瘴気に戻り何も残っていない。 「隠れた敵はなし‥‥。ええ、これが、アヤカシ‥‥」 心眼で残存アヤカシを探っていた月夜が皆に伝えてから、京に頷いた。アヤカシの装備も基本的に、瘴気となって消えてしまい本当に後には何も残らないのだ。ある種の空しさはあるが、自らの防具などについた傷は消えない。迷惑な話である。 「設備としても、特に異常はない」 砦の調査をしていた華山も戻ってきて報告した。 若干、空気が重いのは全滅させるつもりで一体を逃したから。 「あの逃げた鬼が、後日増援をしたがえて村を襲わなければいいのですが‥‥」 リリウムが心配そうに言う。もちろん、これだけ戦力差を見せ付けたのだ。戻ってくるとは考えにくい。懸念であればいい、と思う。 「みんなよくやったよー」 両手を広げて一際明るく振舞うのは、魚座。重くなった空気、付きまとう不安の中で、皆の心をほっとさせる。 とにかく、村に帰って報告である。 ぞろぞろと砦を後にする開拓者。最後は華山である。ふう、と一息つき、身なりを整えて涼やかに帰ろうとしたが、壊れた門扉のところで立ち止まった。 「砦が欲しければ自分たちで造れ」 斜陽を背後に振り向き、もう姿のないアヤカシにそれだけ言い捨てる。 ぎい、と壊れた門扉の片方を閉め、仲間を追うのだった。 ●おまけ 後日。 神楽の都の開拓者ギルド。 リリウムが丹念に依頼書を見ている。 ほっ、と息をついたのはあの村から「また小鬼が来たので退治して」という依頼がないから。 「あ」 ここで両手で抱えていた本から片手を離し、口元に持って行く。 「砦‥‥。壊すよう言えばよかった」 まあ、門扉が壊れているし機能はがた落ちしているか、と思い直しもするのであった。 |