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■オープニング本文 ●戦 空気が、ざわめいた。 「‥‥?」 眠い眼をこすっていた神威の少年が、はっとして顔を上げる。 物見櫓から身を乗り出し、遠く連なる山々を凝視するや、多勢の鳥が一斉に飛び上がった。 まずい。危険だ。 そう感じた瞬間、森の切れ目から黒い影が躍り出た。木々を薙ぎ倒し、巨大な狼が地を駆ける。 「敵襲ー――ッ!!」 叫ぶ。 何事かと兵士たちが宿舎から飛び出してくる。 皆、装備を整えている時間など無い。着の身着のままに得物だけを掴み、持ち場へと駆け出す。その中から駆け出した一名、守将らしき女性が寝巻きを肌蹴させたまま、手斧を片手に叫ぶ。 「者共、出あえ! 出あえ!」 叫びながらも、彼女は唇を噛み締めた。 こんな懐にまで入り込まれるとは――砦の周囲には、三つの狼煙台が建っていた。敵の接近を察知すれば直ちに狼煙を上げ、危険になる前に龍で離脱する手筈になっていた。それが全く機能しなかったのだ。全ての狼煙台は奇襲で沈黙させられたに相違ない。 (敵の将は戦慣れしている‥‥後方へ連絡の上で離脱すべきか?) そこまで考えた時点で、彼女はハッとして、後ろを振り向いた。 「しまった‥‥っ!」 焦りの色を顔に浮かべて、屋内へ駆け込む。 走る兵士たちと逆方向へと駆けに駆け、風信機の置かれた部屋へと飛び込む。目の前に広がっていたのは、血の海と破壊された風信機、そして、小さなイタチが二匹。 「おのれ!」 床を蹴る。 迫り来る真空刃をかわし、イタチの頭を手斧で叩き潰す。振り向きざま、時を置かずして手斧を投げた。背を向けて駆け出したイタチの背を手斧が砕いた。 短い悲鳴を上げて、イタチがごろんと転がる。 「‥‥こういうことであったか」 背から手斧を抜く。 同時に、正門より轟音が響き渡った。 あちこちから悲鳴があがる。 吹き飛ばされた正門から雪崩れ込んできたのは、数多の狼。その素早い体躯を活かし、兵士たちの喉元めがけ次々と喰ら付く。 「こ、こいつら!」 物見櫓の少年は、弓を取り出し、狼を射っていた。 しかし多勢に無勢。一匹、二匹を射ることができようと、焼け石に水だ。櫓の梯子を、タッと狼が駆け上がってきた。即射の一撃を放つも、かわされた。梯子を蹴って飛び上がる狼。少年は、飛び降りるようにして後ろ足に飛んだ。 落下の衝撃に、右腕が酷い音を鳴らした。 「う‥‥」 腕を押さえながらふらふらと起き上がる彼の元へ、また別の牙が迫る。 直後、辺りに肉片が飛び散った。 「逃げよ!」 守将だ。斧の一撃が、狼の腹を打っていた。 「しかし‥‥」 「誰かが伝令に走らねばならぬ! 行け!」 追い縋る狼をまた一匹薙ぐ。肉片と傷口から瘴気が吹き出る。少年は、答えるより先に背を向けた。周囲の兵達も、一人、また一人と討たれていく。僅か十数名の砦。元より、守りきれる筈もなかったのだ。 龍舎への通路に陣取り、彼女は向かい来る敵目掛け、ただひたすら斧を振るった。 返り血の如く瘴気を浴び、肌蹴た寝巻きを直す暇も無い。ただただ、一心不乱に眼前の敵を追い払う。 だが―― バリケードを蹴散らす影。巨大だ。身の丈数メートルはあろうかという、巨大な黒狼。 「‥‥貴様が親玉か」 問われて、狼がにやと笑った。 ならば。 大きく振りかぶり、左の手斧を投げつける。斧を追うようにして地を蹴った。残る右手に精霊力を集積する。一撃、渾身の一撃を――刹那、狼が消えた。視界に衝撃。鈍い音、骨を砕かれる音が身体を駆け巡る。 血が華のように開く。 「速い‥‥」 ようやく呟く。彼女の胴は巨大な口にへし折られていた。 ぐったりとして力の抜けていく腕。掌から斧が滑り落ちる中、見上げる空に、駿龍が飛び去っていくのが見えた。 ●弔い合戦 静ヶ原。 周囲を山に囲まれた盆地だ。 山の裾野には森が広がり、盆地の中央は開けた平原になっている。北には隘路があり、南側の山々は丘と言っても差し支えない。走破は容易だ。 その北の隘路を、狼の群れは南下しつつある。 じきに、隘路を抜け、森を抜け、平原に雪崩れ込んで来るだろう。 「こんな時に‥‥もうっ!」 おでこが輝く。 大樹によじ登った緋赤紅は、眼前に広がる静ヶ原一帯をぐるりと見回した。 皆、遭都に迫る弓弦童子を撃退せんと動員されたばかりだ。その中でも損害軽微な北面の増援部隊が一部駆り出され、また、開拓者ギルドに対しても依頼が出された。 曰く、このアヤカシの進軍を撃退して欲しい、と。 「どうしたものかしらね」 するすると木を降りてきて、ぼそりと呟く。 「とにかく、作戦を検討しましょう」 並み居る開拓者らへ眼を向け、地図を取り出した。 今、北面の戦力は三十数名。主力は殆ど開拓者なのだ。彼らの意見を聞かずして戦はできない。 「戦闘の基点は幾つかあるわ」 隘路出口と、山裾の森、平原。 正面戦闘であれば待ち構えていれば良いが、奇襲ともなれば攻撃の機会も重要になる。それに、最終的には、敵の親玉も討ち果たさねばならない。 「‥‥おそらくは、狂牙とかいう奴ね」 「狂牙?」 「辺り一帯を荒らしまわってる上級アヤカシよ‥‥やってくれるわ。ホント」 少年は、砦の最後を嗚咽交じりに語った。 守将以下、討ち死にした者達の仇は討つ。必ずだ。 狼の群れは進む。 小さなイタチが木々の合間を駆け抜けて物見をし、暫し時を置いて狼らが続く。その先頭集団の中ほどを、あの親玉も進んでいた。 その身に、まがまがしい瘴気を纏いて。 |
■参加者一覧 / 柄土 仁一郎(ia0058) / 朝比奈 空(ia0086) / 無月 幻十郎(ia0102) / 風雅 哲心(ia0135) / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 井伊 貴政(ia0213) / 静雪 蒼(ia0219) / 音有・兵真(ia0221) / 守月・柳(ia0223) / 朧楼月 天忌(ia0291) / 高遠・竣嶽(ia0295) / 羅喉丸(ia0347) / 華御院 鬨(ia0351) / 鷲尾天斗(ia0371) / ヘラルディア(ia0397) / 俳沢折々(ia0401) / 葛城 深墨(ia0422) / 桔梗(ia0439) / 玖堂 真影(ia0490) / 佐久間 一(ia0503) / 柄土 神威(ia0633) / 柚乃(ia0638) / 周藤・雫(ia0685) / 鬼島貫徹(ia0694) / 鷹来 雪(ia0736) / 久万 玄斎(ia0759) / 玖堂 柚李葉(ia0859) / 玖堂 羽郁(ia0862) / 酒々井 統真(ia0893) / 焔 龍牙(ia0904) / 鳳・陽媛(ia0920) / 高倉八十八彦(ia0927) / 玉櫛 狭霧(ia0932) / 裏禊 祭祀(ia0963) / 秋霜夜(ia0979) / 斑鳩(ia1002) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 霧崎 灯華(ia1054) / ロウザ(ia1065) / 星乙女 セリア(ia1066) / 悪来 ユガ(ia1076) / 氷(ia1083) / 柏木 万騎(ia1100) / 玲璃(ia1114) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 輝夜(ia1150) / 胡蝶(ia1199) / 大蔵南洋(ia1246) / 鬼灯 仄(ia1257) / のばら(ia1380) / 滝月 玲(ia1409) / 御樹青嵐(ia1669) / 喪越(ia1670) / 皇 りょう(ia1673) / 羅轟(ia1687) / 嵩山 薫(ia1747) / 吉田伊也(ia2045) / 九法 慧介(ia2194) / 不動・梓(ia2367) / ルオウ(ia2445) / 辟田 脩次朗(ia2472) / 水月(ia2566) / 風瀬 都騎(ia3068) / 黎乃壬弥(ia3249) / 骨首 於凶(ia3354) / 慄罹(ia3634) / 飛天狗 五百房(ia3741) / 外業院 ちぬり(ia3906) / 黒鳳(ia4132) / フェルル=グライフ(ia4572) / 上條紫京(ia4990) / 安達 圭介(ia5082) / 平野 譲治(ia5226) / 倉城 紬(ia5229) / 御凪 祥(ia5285) / 珠々(ia5322) / 叢雲・暁(ia5363) / ペケ(ia5365) / 氷那(ia5383) / ガルフ・ガルグウォード(ia5417) / 沢村楓(ia5437) / アーニャ・ベルマン(ia5465) / 鞍馬 雪斗(ia5470) / 鈴木 透子(ia5664) / 千見寺 葎(ia5851) / 景倉 恭冶(ia6030) / アルネイス(ia6104) / からす(ia6525) / 只木 岑(ia6834) / 詐欺マン(ia6851) / 浅井 灰音(ia7439) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 亘 夕凪(ia8154) / 趙 彩虹(ia8292) / 朱麓(ia8390) / 一心(ia8409) / 金指鏡花(ia8735) / 和奏(ia8807) / リエット・ネーヴ(ia8814) / 村雨 紫狼(ia9073) / 霧咲 水奏(ia9145) / 紅咬 幽矢(ia9197) / 郁磨(ia9365) / セシル・ディフィール(ia9368) / 鬼狗火(ia9448) / 劫光(ia9510) / 守紗 刄久郎(ia9521) / コルリス・フェネストラ(ia9657) / リーディア(ia9818) / 尾花 紫乃(ia9951) / ジルベール・ダリエ(ia9952) / シュヴァリエ(ia9958) / 賀 雨鈴(ia9967) / サーシャ(ia9980) / レヴェリー・ルナクロス(ia9985) / ユリア・ソル(ia9996) / ヴァン・ホーテン(ia9999) / フラウ・ノート(ib0009) / アレン・シュタイナー(ib0038) / 龍馬・ロスチャイルド(ib0039) / アーシャ・エルダー(ib0054) / エルディン・バウアー(ib0066) / マテーリャ・オスキュラ(ib0070) / ヨーコ・オールビー(ib0095) / ラシュディア(ib0112) / デニム・ベルマン(ib0113) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / 雪切・透夜(ib0135) / ヘスティア・V・D(ib0161) / 久遠院 雪夜(ib0212) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 御陰 桜(ib0271) / 十野間 月与(ib0343) / ルヴェル・ノール(ib0363) / ニクス・ソル(ib0444) / アッシュ・クライン(ib0456) / キオルティス(ib0457) / マリー・プラウム(ib0476) / 不破 颯(ib0495) / ティエル・ウェンライト(ib0499) / グリムバルド(ib0608) / 華蛇 シャラ(ib0686) / 美郷 祐(ib0707) / 薔薇冠(ib0828) / 音影蜜葉(ib0950) / ルーディ・ガーランド(ib0966) / フィン・ファルスト(ib0979) / ワイズ・ナルター(ib0991) / 琉宇(ib1119) / 无(ib1198) / モハメド・アルハムディ(ib1210) / ミヤト(ib1326) / 五十君 晴臣(ib1730) / 羊飼い(ib1762) / レイス(ib1763) / 将門(ib1770) / ケロリーナ(ib2037) / 朽葉・生(ib2229) / 蓮 神音(ib2662) / レビィ・JS(ib2821) / 華表(ib3045) / マーリカ・メリ(ib3099) / 朱鳳院 龍影(ib3148) / 中窓 利市(ib3166) / 月見里 神楽(ib3178) / 万里子(ib3223) / 煉谷 耀(ib3229) / ライディン・L・C(ib3557) / リリア・ローラント(ib3628) / アルマ・ムリフェイン(ib3629) / 御影 銀藍(ib3683) / レジーナ・シュタイネル(ib3707) / 針野(ib3728) / 葉桜(ib3809) / 宮鷺 カヅキ(ib4230) / 蒼井 御子(ib4444) / レティシア(ib4475) / 長谷部 円秀 (ib4529) / ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918) / 八十島・千景(ib5000) / 龍水仙 凪沙(ib5119) / ベルナデット東條(ib5223) / ソウェル ノイラート(ib5397) / リーブ・ファルスト(ib5441) / ウルシュテッド(ib5445) / 赤い花のダイリン(ib5471) / 光河 神之介(ib5549) / 阿仁 五兵衛(ib5643) / ウルグ・シュバルツ(ib5700) / 匂坂 尚哉(ib5766) / ライ・ネック(ib5781) / 雪刃(ib5814) / レオン=アランカドラス(ib5852) / 丈 平次郎(ib5866) / ヴァレリー・クルーゼ(ib6023) / サイラス・グリフィン(ib6024) / コニー・ブルクミュラー(ib6030) / 山奈 康平(ib6047) / 笹倉 靖(ib6125) / 鬼笑(ib6138) / セフィール・アズブラウ(ib6196) / りこった(ib6212) / 湯田 鎖雷(ib6263) / Chizuru(ib6295) / 天元 征四郎(iz0001) / 穂邑(iz0002) / ゼロ(iz0003) / 十河 吉梨(iz0035) / 新海 明朝(iz0083) / 一抹 風安(iz0090) / 神立 静瑠(iz0091) / 実祝(iz0120) / 武蔵(iz0134) / 雪切・真世(iz0135) / ローズ・ロードロール(iz0144) / コクリ・コクル(iz0150) / 祁瀬川景詮(iz0158) / ハジメ(iz0161) / 木原 高晃(iz0174) / 鰓手 晴人(iz0177) / 深緋(iz0183) / 華 真王(iz0187) / 朽黄(iz0188) |
■リプレイ本文 ●開戦前 「さあ、派手な戦さね!」 びしりとアレン・シュタイナー(ib0038)が指を差す。 周囲を山々に囲まれた静ヶ原には今、アヤカシの群れと開拓者達の闘気が満ちていた。 「正しく雲霞の如く‥‥か。これは骨が折れそうだな‥‥だが仕方ない、全て蹴散らすぞ」 柄土 仁一郎(ia0058)の言葉に隣で頷いたのは、彼の恋人たる巫 神威(ia0633)。 「仁一郎、貴方がいてくれるから私は前を向けるの‥‥だから絶対に勝って、二人で一緒に家に帰りましょうね?」 今を懸命に生きようとする人達の代わりに、アヤカシを打ち砕くと。そう懸命に拳を握る神威に、仁一郎は笑みを浮かべた。 「神威、側を離れるなよ。二人で勝ち残るぞ!」 龍が、羽ばたく。 「弔う‥‥なりか。ん」 静かに平野 譲治(ia5226)は朱花を胸にしまう。代わりに取り出したのは、一つの賽。 占いにと投げたその出目は――六。 「役割は果たす‥‥その為に、此処に来た‥‥」 刀と脇差を引き抜いた天元 征四郎(iz0001)の肩を、ぽんと叩くのはユリア・ヴァル(ia9996)。 「はぁい、お久しぶり。集会場は慣れた?」 「‥‥む」 虚を付かれた様子の征四郎に、ユリアは微笑みを浮かべる。 「肩に力の入りすぎないようにね。大した敵じゃないわ、勝つわよ」 反対側の手には、構えられた槍。 「出来る事で最大限の効果を狙うのデスヨ」 にこりと笑み、ヴァン・ホーテン(ia9999)がトランペットを構える。 「わたくしにも‥‥わたくしの、戦いが」 そう静かに呟き、そっと葉桜(ib3809)はバイオリンに弓を当てた。 「もう、せっかく和議が上手くいったばかりなのに!」 頬を膨らませながらも油断なく、フィン・ファルスト(ib0979)は槍を構える。 「ここまで規模が大きいと、ちょっとした合戦だな」 ルーディ・ガーランド(ib0966)が戦場を見渡し、ヤーンワンドに力を込めた。 「これだけのアヤカシだと、被害も多そうですね。もう、そう言うことは起こさせないために。我々がいるのです」 セフィール・アズブラウ(ib6196)が銃を構え、淡々と、けれど意志を込めて言う。 「思いっきり暴れていいのよね? 撃墜数一位の座、戴くわ!」 木の上から敵の群れを睨み据え、霧崎 灯華(ia1054)は豪快に笑みを浮かべる。 「失われた命も‥‥きっと、一緒に。戦ってる」 桔梗(ia0439)が前を見据え、清杖を握り締める。 「砦の人達の無念、晴らさせて貰うよ!」 フィンの槍の石突がタン、と音を立てて地に突き刺さる。レイス(ib1763)が「この身は至りませんが、それでもこの子だけに戦わせませんよ」と呟き、さっと後ろに控える。 「ったく、二人とも無茶し過ぎんじゃねぇぞ」 リーブ・ファルスト(ib5441)がフィンとレイスの肩を叩き、駿龍のロギへと跨る。 「ヴァレリー、お互いにいい年だ。あまり無茶をするなよ‥‥と言っても無駄か?」 丈 平次郎(ib5866)の言葉に、ヴァレリー・クルーゼ(ib6023)がふんと鼻を鳴らし前に向き直る。 「‥‥とりあえず腰は気遣っておけよ」 ぼそりと言った平次郎の後ろで、「‥‥またぎっくり腰して戦闘中に担ぐ羽目になるのは勘弁だ、ホントに」とサイラス・グリフィン(ib6024)が肩を竦める。 「先の合戦の傷も癒えましたしね。霧咲が弓術、お見せ致しましょう」 霧咲 水奏(ia9145)が挑戦的に笑みを浮かべる。 「いっぴきたりとも、ぬけさせません‥‥狗は狼にかつのですっ」 己の背丈よりも長い槍を軽々と振り、鬼狗火(ia9448)が前を見据える。 「群れたる獣達‥‥弱き者達がこれ以上犠牲になる前に、必ず此処で、私達が食い止めてみせるわ。行くわよ、メサイア!」 愛機のアーマー『メサイア』に呼びかけるレヴェリー・ルナクロス(ia9985)。 「これ以上好きにさせますかっての!」 呪殺符を握り締め、龍水仙 凪沙(ib5119)がキッと前を見据える。 「‥‥いやはや、こいつは凄い。敵も凄いけど、味方も凄いね」 九法 慧介(ia2194)はそんな周りの開拓者達を見回す。刀を握る手に、力が入る。 「熱いのはあんまり柄じゃないけど‥‥うん。燃えてきた」 こくり、と隣にいた不動・梓(ia2367)が頷いて。 「久しぶりの依頼だから、少しばかり不安もあるけれど」 息を吐き、構えと共に体の芯を沈め。 叫ぶ。 「行きます!」 アヤカシ達への攻撃を担当する開拓者達も、戦いの準備を終えていた。 「おいおい‥‥洒落にならんことになってんな」 眉をひそめた景倉 恭冶(ia6030)が、鬼神丸を抜き放つ。 「敵の好きにさせとくわけにゃあいかんし、いっちょ気張るかぁ!」 駆け出す彼の後方で、フラウ・ノート(ib0009)は「こーゆー時だからこそ、敢えて気楽な気持ちを、よね♪」と笑顔で符を掴み直した。 「人々を守るのが聖職者の務め。私の聖なる力をもってアヤカシに引導を渡しましょう」 エルディン・バウアー(ib0066)が、「戦えさえすれば、オニエはそれでよい」と言い放つ鬼笑(ib6138)にも、「こんなにたくさんの開拓者の皆さんとご一緒するのは初めてなのです‥‥っ、皆さんの足を引っ張らないように頑張らなければ!」と拳を握る穂邑(iz0002)にも、笑みを送る。 「‥‥さて、男の後ろついて走るは好みじゃないが‥‥家主殿の背中なら、ま、上等やな」 亘 夕凪(ia8154)の言葉に、ふっと笑みを浮かべるは大蔵南洋(ia1246)。 「また戦‥‥か。獣のアヤカシばかりだし、興味も湧かないんだけど」 葛城 深墨(ia0422)の手の中でショートスピアが閃く。 「奪った命の落とし前くらいはつけて貰おうか」 甲龍の眞白が、低く唸り声を上げた。 「僕達の後ろには護るべき人たちがいます‥‥絶対に退く事のできない戦いですね!」 デニム(ib0113)が騎士の証たる盾を握り。 「ウェンライト家の家名にかけて、この任務果たして見せましょう!」 ティエル・ウェンライト(ib0499)が高らかに騎士の名乗りを上げる。 「仇を取りましょう」 それだけ言って、ワイズ・ナルター(ib0991)は白羽扇を手に取った。 一歩、踏み出す。 そんな中ケロリーナ(ib2037)は‥‥迷子になっていた。 「はわわぁ、おひとがいっぱい‥‥ゼロおじさま〜劫光おじさま〜、どっ、どこ〜」 そんな様子に思わず和む開拓者達。 「‥‥和平の時と言い今回と言い、アヤカシが活発的ですよね〜」 呟いたところを袖を引かれ、郁磨(ia9365)は振り返る。 そこに、四つの手が重ねられた。 「皆様のお役に立てるように‥‥」 華表(ib3045)が目を閉じると、ロウザが口を開いたは同時。 「ろうざ! らごー! いくま! とりい! めーちょ! いっしょ たたかえば」 「負けない!」 共に戦う五人が声を揃える。中心に立ったロウザがにか、と笑った。 「皆に負けないよう、派手に暴れてみようか?」 バンと龍の背を叩き、玉櫛 狭霧(ia0932)は逆の手で刀を引き抜く。 「人が為、四方より集へ静ヶ原、我らが祈ぎを一束にせむ――だ。悪を冠する無頼の徒にして野良犬だが、弱者を食む外道にまで堕ちちゃいねぇ」 斬竜刀が音を立てて引き抜かれる。「犬同士だ、似合いだろ?」と悪来 ユガ(ia1076)は敵を見据え呟く。 その傍らに、拳を握り立つのは外業院 ちぬり(ia3906)。 「アヤカシ共を討つ事、それこそが我が全て――妄執と言わば言え。だがそれだけは曲げられぬ」 獣如きに遅れは取らぬと、口の中で呟く。 「遭都を中心とした戦のすぐ後にも、こうした動き‥‥」 一瞬焦りを顔に宿したけれど、のばら(ia1380)はパン、と自らの顔を叩いて。 「疲れていても‥‥気合いを入れるのです!」 金剛刀をきつく握る。 「偶には北面に恩を売っておくのも悪くないかもしれません」 そう呟きながらも、辟田 脩次朗(ia2472)の思いは己の業の向上に注がれる。 「ろりぃ隊名誉隊長‥‥背丈の事は引っかかるけど、皆纏めて面倒見てやるぜぃ!」 ルオウ(ia2445)が威勢よく吠え、殲刀を思いっきり引き抜いた。 そしてここには、上級アヤカシ狂牙を倒すべく集った者達。 「‥‥知らせてくれてありがとう」 必死に危機を伝えてくれた少年に、そう手を取って告げてから戦場を訪れた柚乃(ia0638)。 「おそらく、かなり高い知能を持っている‥‥気を引き締めていかないと」 これ以上犠牲者を出さない為にもと。 「お‥‥こりゃまた凄ぇ数だな。良い戦いになりそうで、何よりだぜ」 アヤカシの群れに、臆することなくグリムバルド(ib0608)は笑みを浮かべて。 「狼のアヤカシは身内に狼の獣人がいるから、戦いたくないタイプなんだけどね」 けれど敵である以上は倒すだけと、浅井 灰音(ia7439)は銃の引き金に指をかける。 「先に散ってった奴らのためにも、あいつら全部ぶちのめしてやらねーとな」 グリムバルトの手の中で槍が弧を描く。 その隣で気合いを入れるのは、上級アヤカシと対峙するのが初めてというペケ(ia5365)。 「とりあえずは『最低一発を叩き込む』を目標に挑みます。ペケ、頑張りますよ!」 叩きつけた拳の鎧が、ガンと音を立てた。 「力任せの敵とは違う、やってやろうじゃないかっ!」 滝月 玲(ia1409)が目を輝かせ、『天墜』の名を持つ刀を叩く。 その様子に、御樹青嵐(ia1669)が微笑んだ。 「なかなかに大変な状況です。しかし皆さんの力と力を合わせ立ち向かえば、きっと勝てるはずと信じております」 そんな頼もしい仲間が隣にいる。華夜楼の仲間も共にいる。 そんな視線に、沢村楓(ia5437)が頷いた。 「我々は槍――出来うる限り鋭き穂先となろう。後続よろしくお願いする」 後半は、共に狂牙に立ち向かう開拓者達に向けて。 青嵐が、すらりと同名の珠刀を抜く。 「全力を尽くして、この難局立ち向かってまいりましょう」 「守将、きっと美人だったんだろうなぁ。美人だったに違いない‥‥美人の喪失は世界の損失。おバカな犬コロにはキツいお仕置きをしてやろうでないの」 軽い口調だった喪越(ia1670)の顔に、真剣な炎が宿る。 「これ以上‥‥災いに飲まれる訳にはいきません!」 趙 彩虹(ia8292)の手の中で、八尺棍が回り構えを取る。 「本当は弔い合戦となる前に援軍に駆けつけられれば良かったのだが‥‥せめて英霊たちが安らかに眠れるよう、この地に平和を」 皇 りょう(ia1673)がさっと刀を掲げ、叫ぶ。 「我等に武神の加護やあらん!」 今日のみは、静かならざる静ヶ原にて。 戦いの火蓋が切って落とされる! (執筆 : 旅望かなた) ●静かなる戦い 森。 いや、森の始まりと終わりの場所というべきかもしれない。 敵の想定進軍ルートである、隘路が終わり広くなるあたりを見渡すことのできる場所。 「‥‥静かだ」 ぼそりとつぶやいたのは、木立に潜伏する天元 征四郎(iz0001)。 風が、息を潜め渡っている。 身動きすれば枝葉が擦れて音が風に乗ってしまう。 匂いは、齢七十を数えた泰拳士、久万 玄斎(ia0759)が皆に知らせた助言に従い土を被ってごまかした。伊達に歳を食ってない。手柄だ。 ここで、改めて周りを確認する。 隘路の終わりを遠巻きに、仲間が多く潜伏している。 敵は、まだか――。 「お!」 征四郎たち奇襲主力組から離れ、森の内部に潜伏していた偵察隊に緊張が走った。 「いるねぇ。敵本体発見。‥‥狂牙もいるな」 无(ib1198)がにやりと中空を見据える。小鳥の姿で放った人魂の目を通して敵情視察しているのだ。 「距離はありますが、赤い狼煙銃を打ち上げておきます」 「ねえっ、ない? どんな感じかな。あたいに詳しく教えてほしいんだよ」 宮鷺 カヅキ(ib4230)が事前の打ち合わせに従い、狼煙銃を空に放った。赤色はもちろん、「狂牙発見」。そして手帳片手に控える万里子(ib3223)が情報をねだる。先に敵の斥候となるカマイタチの存在を万里子が超感覚で察知し、无の魂喰で潰した後だ。 「今は止まってるが、カマイタチがちょろちょろ出入りしているな。‥‥お、動く。カマイタチが戻らないんでいい加減ばれたか。凄いやる気だぜ」 「わかったよ。すぐ本隊に戻って知らせる」 万里子が早駆で快足を飛ばす。目指すは、奇襲本隊で地図を広げる斑鳩(ia1002)。カヅキの狼煙銃で概ね理解しただろうが、敵の戦意や感付かれたことも知らせたい。 そう、感付かれた。 无の言う通り、倒したカマイタチは彼らの潰した一体ではない。 例えば別の場所。 「桃っ!」 御陰 桜(ib0271)が相棒の忍犬の後ろから手裏剣を投げた。 「‥‥逃がしては僕の役が果たせません」 千見寺 葎(ia5851)も陰から苦無「烏」を投擲。これでようやくカマイタチを倒していた。黒く覆った口元は見えないが、目元には笑み。連れの忍犬を呼んでまた木々へと姿を消した。同行する桜と桃もこれに続く。 そして。 「ここにいましたか〜」 人魂を燕で飛ばし俯瞰的に探っていた羊飼い(ib1762)がのんびり口調でつぶやいていた。 「うおっ!」 羊飼いと同行していた針野(ib3728)が、改めて鏡弦索敵をして驚きの声を上げた。長いレンチボーンの鏡弦射程から、ちょっとの隙でカマイタチに接近されていたのだ。驚異的な速さ。が、これは忍犬の八作がいち早く対応した。 「速いな。ともかく、俺が詳しい状況を知らせてこよう」 煉谷 耀(ib3229)が円月輪でカマイタチに止めを差した後、早駆の用意。同行した仲間の集めた情報を持って斑鳩の元へ急ぐのだった。 「動き出しましたよ〜。凄く速いですから、自分たちも引きましょう〜」 羊飼いの言うように、偵察班はここで総撤収となった。 動き始めた敵は、一丸となって最大戦速で迫っている。 「‥‥数は多いが‥‥何故だろう。人間よりずっと統率が取れてるように見えなくはないな‥‥」 偵察隊の護衛について偵察のカマイタチを潰していた雪斗(ia5470)は、敵本隊をやり過ごしつつ、この迫力ある進軍を見送ってつぶやくのだった。 ●奇襲の時 場所は、奇襲班本営。 「急いで本隊各員に連絡を」 地図を前にした斑鳩が指示を出し、本営詰めの伝達隊ライ・ネック(ib5781)が早速早駆と三角跳で姿を消した。 その、現場。 「隘路にこれだけ近くても、匂いを消しておるのでよかろうさ」 「さぁて、お掃除がんばるどすぅ」 最前線で潜伏する玄斎と仕込箒を弄ぶ華御院 鬨(ia0351)はいつでも来い状態。 そして本隊後衛。 「カマイタチだな」 木の上にいたからす(ia6525)が、戦闘移動でも大回りの先回りをする敵を発見。鍛えに鍛えた猟兵射できっちり狙い撃ち落とす。 「敵の目は断ちたい」 薄い笑みと共に言い残して、森に消えた。 隘路を挟んで逆の場所でも斥候部隊を捕捉していた。 「多く来てますね。‥‥相当速いです」 コルリス・フェネストラ(ia9657)が鏡弦の連発でカマイタチを補足していた。呪弓「流逆」の射程は特筆すべき長さがある。急速接近中でも十分対応できる。 「では、ひとまとめに」 朽葉・生(ib2229)が想定正面に。そして、敵を視認。近い。速いッ! 「後を頼みます」 荒れ狂う吹雪が前面広範囲を白く染めたっ! しかし、敵の衝撃刃はまだ来ている。 「加護結界を掛けましたが、後は引きましょう」 「朧!」 瘴索結界で結構漏れたことを確認した玲璃(ia1114)が声を張る。コルリスは得意の射撃で対応するが、敵は速い。 「では」 アイアンウォールを連発する生。 が、カマイタチはこれを意外と早く片付ける。もっとも、食らう攻撃は減り無事に本隊に合流できたのだが。 一方、敵主力。 カマイタチを左右に展開させたまま、「怪狼」や「剣狼」が隘路を一本の矢のように飛ぶかのごとく急接近していた。 「来てますよ?」 「よしっ!」 樹上からこれを確認したセシル・ディフィール(ia9368)の声。 小隊【卍】の守月・柳(ia0223) は、もう一人の仲間を振り返る。 「そいじゃ、ま、やりますか」 のんびり煙草をふかしつつ、「ここで焦っても仕方ないやね」などと言ってたキオルティス(ib0457)が身を正す。 まずは、三人の弓矢で先制。進軍の停止と撹乱を狙う。 「一気に食い込むぞ」 続いて八尺棍「雷同烈虎」を振るい怪狼どもを蹴散らし前進する音有・兵真(ia0221)。背後は志士の佐久間 一(ia0503)が受け持ち隙はない。 「さあ、楽しい狩りを始めましょう♪」 霧崎 灯華(ia1054)は樹上から飛び降りざまに、世にも恐ろしい呪いの悲鳴「悲恋姫」を放つ。そして血塗れ模様の服に死神の鎌をノーガードで構え笑顔と共に突っ込む様はげに恐ろしや。 凶悪である。 そして、凶悪なのは彼女だけではないっ! 「どうやら絶望が足りない様でおじゃるな」 苦無を投げ手裏剣を打ち、袂をなびかせ戦場を行くのは、「愛と正義と真実の使者」(本人談)、詐欺マン(ia6851)その人。止めの「裏術・鉄血針」で狼の目を狙うあたりがえげつない。 そして、悲痛な叫びも。 「ご主人! マジで投げたのにゃ〜っ!」 こちらは一抹 風安(iz0090)が朋友、猫又のポチ。孤立しそうな佐久間 一に援軍とばかりに投げられたのだ。 「役割は果たす‥‥その為に、此処に来た‥‥」 征四郎もここで参戦。剣を振るっても涼やかな表情に変わりはない。一種独特の迫力がある。 迫力といえば、敵の剣狼も負けてない。 漲る殺気とともに、跳躍して上から踊りかかってくる。牙に体重を乗せているのだッ! 「‥‥空中にあれば避ける事はできない」 これに冷静に対応するのは、サムライの竜哉(ia8037)。斬竜刀で唐竹割りをしていたが、ここは片膝ついて跳ね上げた。どさりと剣狼が落ちるのを確認して、とにかく手数を振るうため走る。 「守月・柳‥推して参る‥っ!」 「気を付けなっ、催眠を使う狐がいるさねっ」 小隊【卍】は木から下りて戦闘していたが、キオルティスが新たな敵に気付いていた。 ●狂牙の遠吠え 支援型の敵が登場したころ、奇襲本隊後衛も活性化していた。 「さあっ、出来る事で最大限の効果を狙うのデスヨ」 ヴァン・ホーテン(ia9999)が吟遊詩人隊を組織し走る。賀 雨鈴(ia9967)も二胡を持って位置につく。遅れてハジメ(iz0161) も。奏でるは、敵の混乱狙いの「怪の遠吠え」。 「祥さん、守りはお任せしますっ」 雨鈴の声を背中で聞くは、御凪 祥(ia5285)。十字槍「人間無骨」をくるりと回して返事とする。血が騒ぐか。 「御凪さん、右から二頭! その後方に一!」 安達 圭介(ia5082)は、祥の広域の目となる覚悟。若干慌てた指示だが、祥の突きから旋回してのぶった斬りを見て落ち着きを取り戻す。 「催眠を仕掛ける狐ですね。‥‥裏から来ますか」 敵を見て圭介がこぼす。敵も巧緻である。 逆に、大外から中心に切り込もうとする敵も。 カマイタチの後続である。 「こちらにはこさせぬぞぇ? そなたらが行くのはあちらじゃて」 「地に這い蹲れ狼共」 薔薇冠(ib0828)が泰弓で強射「朔月」。そしてからすが豪雨の如く矢を降らせている。 が、敵の数もあり好きに動かれている。 「くっ。こうまで乱戦になるとはの」 元気な爺さん、玄斎は最前線で背拳などを駆使していたがカマイタチの乱入には閉口している。 「最後は芳香剤ですっきりどすぅ」 白梅香を放ち奮戦する鬨だが、元々数が違うだけに奇襲効果が薄れたいま、苦戦している。 その時ッ! ――オオォ〜ン! 腹の底に響く遠吠えが戦場に広く渡るのだった。 遠く木々の囲まれ見える黒い巨体。 間違いなく、狂牙だった。 ヤツが、全軍を鼓舞しつつ指示を出したのだッ! 「やはり、指揮伝達手段は鳴き声」 葉桜(ib3809) が「怪の遠吠え」で敵伝達系を阻害しようとする。読みは当たったが、阻害には至らず。敵は完全に冷静さを取り戻し、圧倒的な数的有利を活用し始めた。 「兵真さん、引きましょう」 刀「鬼神丸」を振るう佐久間 一が背中合わせの戦友に声を掛ける。 「あ‥‥」 その兵真、空を見上げて表情を変えた。 狼煙銃の白い閃光が上がっていたのだ。 「これでいいでしょう」 撃ったのは、斑鳩。 奇襲班、総撤退である。 「皆様、引いてください。回復が必要な方にはわたくしが‥‥」 ヘラルディア(ia0397)が偽装撤退を広く知らせる。戦いに夢中になる者がいる中、動きが光った。 目指すは、攻撃組正面――。 彼女の見上げる空に、龍が三騎。 伝令に飛んだ、无と万里子とカヅキだ。 戦いは、これからである。 (執筆 : 瀬川潮) ●鬨の声、天の叫び 森の中を進みゆく開拓者達と緋赤紅及び北面隊の者達。 深い緑色の鳥の人魂を前方に飛ばしているのは劫光(ia9510)だった。 自分達と離れた所にいるアヤカシを人魂を通して確認した。 「いたぞ」 自分が補佐をする朧楼月天忌(ia0291)に報告した。周囲にも開拓者がいる為、一瞬、空気は変わったが、戦いは誰もが覚悟をしている。 「予定位置まで引きつけるぞ」 そう言ってまた進みだした。 泉宮紫乃(ia9951)が人魂で情報を受け、エルディン・バウアー(ib0066)に合図に指示が渡った。それは予定位置までひきつける事に成功した事だ。 笑みを浮かべるエルディンは何よりも優しげだ。 「私の聖なる力をもってアヤカシに引導を渡しましょう」 厳かに詠唱をはじめ、樫の老木を振り上げた。 本来なら天から降りる天啓が逆流し雲を裂き、開拓者達には鬨の声の代わりとした! 誰にでも分かる合図に後方にいる開拓者達は遠距離攻撃を開始した。 先に動いたのは倉城紬(ia5229)。舞うのは神楽舞「心」。 「いっけぇぇ〜〜!!」 紬の舞を受け、アーニャ・ベルマン(ia5465)が元気よく矢を放った。 それに負けずと劣らず、遠距離攻撃者であるりこった(ib6212)や実祝(iz0120)達が攻撃を放つ。 開拓者達が放った雨霰の如く降り注がれる遠距離攻撃は前線にいるアヤカシ達の動きを阻む。 モハメド・アルハムディ(ib1210)が夜の子守唄で眠らせ動きを鈍らせてワイズ・ナルター(ib0991)がファイヤーボールで払いのける。 倒れゆくアヤカシを踏みつけ開拓者に向かうアヤカシはまだ多い。 「アヤカシが‥‥あんなにも‥‥」 レジーナ・シュタイネル(ib3707)が呟くと、見かけた武蔵(iz0134)が「大丈夫だ」と笑いかける。 アーマーや龍に乗った開拓者達が一斉突撃を始め、開拓者達は鼓舞させる為に大きな大きな声を上げ、本策の配置へ走り出した! 時間稼ぎにウルグ・シュバルツ(ib5700)が陽動と攻撃に焙烙玉を投げる為に前に出た。 「帝国騎士は人々の盾、ここをはしません!」 アーマーに騎乗したアーシャ・エルダー(ib0054)が剣を構え、多数の敵と対峙する。デニム(ib0113)が加勢し、紅咬幽矢(ia9197)の遠距離射撃があった。 粗方倒すとデニムは右へと龍を旋回させた。 左右に大きく分かれ、敵を囲い、挟み撃つその陣形はまるで勇壮なる翼と天鵞絨の逢引を奏でるアルーシュ・リトナ(ib0119)は思った。 「今日は派手にいくぜ!」 先陣切って叫んだのは鷲尾天斗(ia0371)。威勢のいい声に続いたのは不破颯(ib0495)だ。颯が六節を使用し、ガトリングボウにて敵に矢の雨を降らしつつも、天斗の周囲に気を使う。 同じ開拓者として、皆が弔いの想いで戦っている。 雪刃(ib5814)が咆哮で引きつけたアヤカシを疾風脚で倒したのは秋霜夜(ia0979)。 「お前ら、こんなつまんねぇケンカに負けるんじゃねぇぞ!」 天忌の激励の言葉に開拓者が叫び声で答えている。 「当ったり前だよ!」 誰より大きな声で返したのは緋赤だ。 「つくってやんよ大道をっ!」 斧を振り回し、アヤカシ達に突っ込むのはヘスティア・ヴォルフ(ib0161)だ。有言実行、彼女はそのまま突き進む。 北面隊と共に雪切透夜(ib0135)が更に押し寄せるアヤカシと切り結ぶ。 大蔵南洋(ia1246)が北面隊の面々に声をかけつつ敵を斬り倒している。 「可愛い子がいいのにな」 敵を倒しつつ、呟くのは亘夕凪(ia8154)。主の背ならば上々と茶化す。ちろりと、主の視線があったが気にしない。 「行こう、姉ちゃん!」 「行くわよ。あたし達は絶対に負けないわ!」 互いに手を握り、対である事を確信し力に変えるのは玖堂羽郁(ia0862)と玖堂真影(ia0490)だ。 真影が呪縛符で足止めしたのは大きな剣狼だ、動きを止めた敵を羽郁が斬り倒した。 左も激闘であるならば右も同じだ。 やる気を出している村雨 紫狼(ia9073)だ。敵を倒してどこに守るべきものがいるか視線で探した。 「何かあればベルナの事は俺が護るよ」 頼もしく言うのは風瀬 都騎(ia3068)だ。義兄妹のベルナデット東條(ib5223)が笑みで頷く。敵の気配に気付くと、二人は剣に炎を纏わせ、アヤカシ達を燃やし尽くした。 「大丈夫。そう言えば大丈夫になりますぇ」 静雪蒼(ia0219)が言えば、ろりぃ隊名誉隊長のルオウ(ia2445)が号令をかけた。 「皆、突撃だ!」 敵めがけてルオウが咆哮を使って敵をひきつける。混乱させる為に更にリエット・ネーヴ(ia8814)が敵の注意を更に引き寄せる。 敵の小隊があると考えたのばら(ia1380)は敵の小隊長探しに選別をかける為、更に注意してみているが、一緒にいるコクリ・コクル(iz0150)の死角より身軽そうなアヤカシが進んでいるのに気付き、両断剣で敵を叩き伏せる。 フラウ・ノート(ib0009)が援護をとファイヤーボールをろりぃ隊と戦う敵にぶつけた。 「やはり、混戦だな」 呟くのは柄土仁一郎(ia0058)だ。 「絶対に勝って、二人で一緒に家に帰りましょうね」 愛しい人の呟きに巫神威(ia0633)が微笑む。 戦う事を至上の愉悦に思い、敵を倒していくのは鬼笑(ib6138)だ。今は一人でもいるに越した事はないのだ。戦う為のやる気を起こさねば戦いに勝てないのだ。 正面から戦っている景倉恭冶(ia6030)は複数の敵と戦っていた。回転切りと払い抜けを駆使して戦っている。 「いっしょ、たたかえば、こわくない!」 ロウザ(ia1065)の声に同じ隊の者達は軽快に敵を倒していく。 「アヤカシが活発ですねぇ」 郁磨(ia9365)と羅轟(ia1687)が敵を倒す。 「鍋蓋手裏剣の出番さね!」 新海明朝(iz0083)が鍋蓋を敵に投げ撃破している。 一方、ゼロ(iz0003)に巻き込まれた神立 静瑠(iz0091)は守るべきものの為、無念を残した者達の為に二人共に敵を倒していく。 少し離れた所に相棒に乗るリーディア(ia9818)は元気そうに敵を倒す夫の姿に微笑む。瘴索結界で茂みの中にアヤカシを見つけた。 空を飛ぶ小鳥がリーディアの傍を通る。 「茂みの中にアヤカシがいます。気をつけて!」 小鳥は旋回し、後方へ。 五十君晴臣(ib1730)が人魂を通して掴んだ情報を叫ぶ。 「よっしゃ、いっちょやったるで!」 晴臣の言葉にヨーコ・オールビー(ib0095)が奏でる重力の爆音。 近くにいた辟田脩次朗(ia2472)が茂みに気付き、刀を切払うとアヤカシの首を刎ねる。 もう一匹のアヤカシが飛び出すと、玉櫛狭霧(ia0932)が倒す。 「いった‥‥」 敵に傷を負わされ尻餅をついたのは深夜真世(iz0135)だ。 はっとする真世の前には敵。 ケロリーナ(ib2037)がブリザーストームで敵を凍らせた。 「後できちんと手当てしますから。今はこれで戦ってください」 上條紫京(ia4990)が治癒符を発動させると、真世は涙目だが確り頷いた。 一息をついたのは悪来ユガ(ia1076) 「弱者を食む外道にまで堕ちちゃいねぇ。行くぞ!」 悪来党の旗を掲げたユガに悪来党の面々が反応する。彼らは進んで先陣が残した敵の掃討を行う。 ユガの背を追い、黒鳳(ia4132)が身軽に走る。 「犬に噛まれて泣くなよユガ」 軽口を叩く黒鳳に骨首於凶(ia3354)がやれやれとした表情を見せた。 マスケットを構えた於凶が引き金を撃つと、命中した狼が跳ねて地に転がった。 「アヤカシったって犬だろ、ネグラで骨でもしゃぶってろってんだ、なぁ?」 華蛇シャラ(ib0686)が囮に前に出た。外業院ちぬり(ia3906)が巻き打ちを放ち、飛天狗五百房(ia3741)がシャラに噛み付こうとする敵を疾風脚で打ち伏した。 「しっかりしろ!」 傷ついた北面隊の志士の一人を庇い剣を振るうは高倉八十八彦(ia0927)。状況に気付いたヘスティア・ヴォルフ(ib0161)とミヤト(ib1326)も守り剣を振るう。 「今、治癒が出来る人が来ますから!」 槍を振るう金指鏡花(ia8735)の言葉に傷ついた志士は頷いた。 「怪我人は!」 ユリア・ヴァル(ia9996)より聞きつけた佐伯柚李葉(ia0859)が駆けつけ、閃癒を発動させる。ユリアは柚李葉の治療を守る為、近くにいた井伊貴政(ia0213)に声をかけ、多数の敵と戦う。 治癒を終えた柚李葉が視線を上げると、元気よく姉と戦う恋人の姿があった。 相棒と共に戦っていた石動神音(ib2662)は前方を見た。敵は更に向かってくる。再び駆け出して爆砕拳を使って的確に敵を倒していく。 「烈火、力を貸して。その翼を、刃に!」 願いを相棒に叫ぶのは周藤雫(ia0685)。快く応じる相棒は翼を刃に変え敵を撃つ。雫と同行しているレオン=アランカドラス(ib5852)は更にファイヤーボールで遠距離攻撃をして直接攻撃者のフォローに回っている。 「大丈夫ですか!今治療します」 鳳陽媛(ia0920)と穂邑(iz0002)が傷ついた仲間に閃癒と神風恩寵をかける。 怪我を治してもらったティエル・ウェンライト(ib0499)はにこっと笑顔で礼を言って再び駆け出した。再びフルスイングを使って敵を思いっきり吹っ飛ばした。 二人の前にも敵が走ってくるがその攻撃は二人には届かず、敵は地に落ちた。 「無理はいけません」 敵を沈めた朝比奈空(ia0086)が二人に言えば、二人は「大丈夫」と笑う。 ラシュディア(ib0112)が早駆を使って討ち漏らした敵がいないが確認している。敵を見つけると近くに同じ行動をしているだろう無月幻十郎(ia0102)に声をかけた。 二人が多数の敵と戦っていると、火が地を走り、敵を燃やす。 「少しでも後ろの負担を減らすぞ!」 火遁を走らせたウルシュテッド(ib5445)が叫ぶと二人は頷いた。 【攻撃】の戦況は悪くはない。だが、やはりアヤカシの取りこぼしや仲間のアヤカシからの指示でも回ったのか迂回するものもいる事を人魂を使って葛城 深墨(ia0422)は状況を把握した。 「頼みます‥‥!」 辛そうな表情をし、深墨は後方に願った。 (執筆 : 鷹羽柊架) ●狂牙1 管狐を傍らに戦況を見据えていた御樹青嵐(ia1669)は、奇襲成功の兆しを受けながら敵の群れを、人魂を使って見詰めていた。 「なかなかに大変な状況‥‥しかし、力を合わせ立ち向かえばきっと――」 呟き、小隊【華夜楼】隊長の黎乃壬弥(ia3249)を振り返る。 「頭を潰せばそれで終わりだ。抜かるなよ」 壁となり立ち塞がる敵の向こうには狂牙がいる。 壬弥は声を上げると、向かうべき道を示した。 「我々は槍――鋭き穂先となろう!」 凜と槍を構え、沢村楓(ia5437)は武器に炎を纏わせ先陣を切る。これに続くのは聴覚を研ぎ澄ました久遠院 雪夜(ib0212)だ。 「その壁を崩せば道が出来る!」 彼女は前を塞ぐ敵に炎を放つと、更なる攻撃を味方に求めた。 それに応えたのは、同じく超越聴覚で聴覚を強化した珠々(ia5322)だ。 彼女は炎によって崩れた壁に忍犬を向かわせると、我が身も滑り込ませた。 そうして討ちこんだ刃が綻びを生む。そこに星乙女 セリア(ia1066)が短く持った薙刀を突き入れる。 「――今!」 これにより壁が崩れる――しかし。 「セリアさん、危ないっ!」 安心したのも束の間、壁を崩された敵が牙を剥いてきた。 だがそれは彼女に触れることなく落ちてゆく。それを成したのは白野威 雪(ia0736)だ。 彼女は仲間の無事を確認すると、ホッと胸を撫で下ろした。 だが僅かな隙が元で壁が再び閉じようとしている。 フェルル=グライフ(ia4572)は、それを見止めるとすぐさま行動に出た。 「信じていますよっ!」 巫女姿で酒々井 統真(ia0893)に向かい叫ぶ。そうして放ったのは咆哮だ。 統真は咆哮に誘われる敵に武器を向けた。 「道を開けさせてもらうぜ」 掲げた刃が、透かさず敵を討つ。 その傍らでは、グリムバルド(ib0608)も迫る敵に刃を振るっていた。 「こりゃまた凄ぇ数だ」 そう口にしながら闘う手を止めない。そんな彼に同調して、木原 高晃(iz0174)も出来る限りの力を振るっていた。 同時刻――青嵐と同じく人魂を使う者があった。 「あのアヤカシか‥‥?」 氷(ia1083)は禍々しい気配を漂わせる狼を捉えると、攻撃の時を待つ仲間を振り返った。 「‥‥この先に、狂牙がいる」 若干眠そうに目を細める彼に、ソウェル ノイラート(ib5397)が銃に弾を装填する。 「なら、私は取り巻きを狙って行くよ」 言葉と共に引いた引き金。それに続き駆け出すと、彼女は再び支援の弾丸を放った。 それを助けにルヴェル・ノール(ib0363)が前に出る。 「これで少しは奴を追えるだろう」 相棒の管狐に護られ、繰り出す攻撃。それは前を塞ぐ敵を払うには十分な力だ。 そんな彼と共に刃を振るうのはニクス(ib0444)だ。 彼は後方に控える巫女や術師の盾となり露を払う。 「怯むな、護りは俺が担当する!」 頼もしく奮われる声に、銃声と爆音が振るわれる。 壁の先が見えてきた――と、そこにアルネイス(ia6104)が術を放つ。 「壁が防御にしか使えないと思ったら大間違いですよ!」 振るった練力。そこから紡ぎ出された白と黒の壁に、狂牙の喉が鳴る。 だが敵が怯んだのは一瞬の事。 召喚されたジライヤが強靭な一撃を見舞おうと動いたが、態勢を戻した狂牙は素早かった。 瞬く間に攻撃を避け、ジライヤに牙を伸ばす――。 「たかだか狼風情に大きな顔をさせるわけにはいかん!」 馬の嘶きと共に駆け込んだ一閃。 それが狂牙の牙を弾くと、鬼島貫徹(ia0694)は狂牙の前に立った。 それを視界に留めた皇 りょう(ia1673)が敵を払って武器を構え直す。 「鬼島殿もやる気満々のようであるな」 そう呟き溢れる敵を物ともせずに闘う。そして俳沢折々(ia0401)も怯まず術を刻んだ。 「狙うは脚――さあ、上級アヤカシの脚をがぶりんちょだ!」 放たれた白銀の狐。九尾を揺らし迫るのは狂牙だ。 貫徹は脇を抜ける白き刃に気付くと、すぐさま手綱を引いて態勢を整えた。 その目に、喰らい付こうとする狐が見える。 だが―― 「‥‥あのもふもふ、やりますね」 柏木 万騎(ia1100)は狂牙を狙う一団から遅れての奇襲を狙っていた。 上空から見えたのは、狂牙の恐るべき駿足だ。 そして彼女と同じく戦場を眺めていた羅喉丸(ia0347)は、迷わず相棒の手綱を引いた。 一気に降下して地に足をつけると、一気に狂牙を目指す。 「全力の一撃を持って勝負」 呟き、前方を塞ぐ敵を薙ぎ払った。 これに加勢するのは喪越(ia1670)だ。 彼は戦場にいたであろう女将を想い、槍を振るう。 「美人の喪失は世界の損失。おバカな犬コロにはキツいお仕置きだ」 そう言って風を放つ。それと同時期に狼の首が躊躇いもなく弾き飛ばされた。 「邪魔するなぁっ!」 瘴気を上げて次々と崩れる敵、それらを見ながら守紗 刄久郎(ia9521)は、苛立った様子で前を見た。 そしてそれらが見える場所でリリア・ローラント(ib3628)は、戦場で出会った少年を想い、杖を握り締める。 「‥‥あのひと、泣いてた」 「行きましょう‥‥」 ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)はそう声を掛けてアーマーの足を動かした。 そこに遠吠えが響く。 これに後方から駆け付けたアルマ・ムリフェイン(ib3629)が目を瞬く。 「‥‥いまのは」 「伏せて!」 一瞬の隙を突いてきた敵に、リリアが叫んだ。 そして同時にリリアとアルマの性質の異なる音と炎が敵を包む。だが、攻撃はこれで終わらなかった。 「うがー! 無茶してっ!」 ライディン・L・C(ib3557)は堪らず叫ぶと、リリア迫る敵へ手裏剣を放った。 それに合わせて御影 銀藍(ib3683)が早駆を使って敵の間合いに入り込む。 「‥‥本当に、無茶をして」 そうして敵を地面に伏すと、彼らは改めて狂牙への道を歩き出した。 ● 放たれた真空の刃を、グライダーを駆って避けた天河 ふしぎ(ia1037)は、焦れたように息を吐いた。 小隊【夢の翼】を率いて狂牙の隙を伺っていたのだが、一向にそうしたものは訪れない。 それどころか、敵の動きは戦いを経る毎に良くなっている。 「奇襲をかけるのにも読めん」 ぼやく朱鳳院 龍影(ib3148)。その声に八十島・千景(ib5000)が頷く。 「雑魚を切り捨てればと、思っていましたが」 狂牙以外の敵は数を確実に減っている。しかし戦況は有利にならない。 「どういうこと」 ふしぎは呟き、別の場所を見た――と、その目が見開かれる。 「あれは、アヤカシが‥‥」 地上で攻撃に徹していた風雅 哲心(ia0135)も、ふしぎと同じ異変に気付いた。 「哲心! よそ見してるんじゃないよ!」 敵の攻撃を見切り、電流を纏う刃を振るう朱麓(ia8390)は、大きな声で叫ぶと敵を討ち落とした。 その声に哲心は敵に気付き、急ぎ刃を振るう――が、それは黒の壁によって遮られる。 「大丈夫でしょうか?」 結界呪符で敵を遮った鈴木 透子(ia5664)が問いかける。 そこにジルベール(ia9952)が加わった。 「敵さんの数、意図的に減ってるで」 新たな矢を番えながら紡がれる声。 そう、先程の遠吠え――狂牙が声を上げて以降、敵の数がグッと減っている。 「何処か狙いがあるんやろうか」 そう呟いた言葉の答えは、赤い花のダイリン(ib5471)が捉えていた。 天駆ける炎龍に乗り、攻撃のタイミングを伺っていた彼は、迎撃に待ち構える仲間の姿を捉えていた。 「自分を護る壁はいらないってか? 余裕だな、オイ」 奥歯を噛み締め呟く。 そうして相棒の背を叩くと、彼は一気に狂牙に向かった。 「援護する」 風を切り降下する龍に、もう1体の龍が重なる。 焔 龍牙(ia0904)は蒼隼の背で自らの太刀を振り上げると、赤い炎を纏った。 「一撃を見舞う!」 地上で迫る開拓者。それらを相手にしていた狂牙の目が上がった。 直後、大地を割るような衝撃が爪より放たれる。それを太刀で受け止めようとしたのだが、失敗した。 体勢を崩した龍牙を視界に、ペケ(ia5365)は初めて挑む上級アヤカシを前に地を蹴った。 早駆で縮める距離。そうして練り上げた気を叩き込む。 だが―― 「――くッ」 素早い動きに腕が裂かれた。 それでも、最低限でも一撃を――そう思い再び地を蹴る。 その支援に柚乃(ia0638)が杖を掲げた。 降り注ぐ暖かな光が、傷を癒してゆく。 そうして再び間合いに入ると、狂牙はしなやかに体を回転させ、自らを害そうとする敵に牙を剥いた。 そこに長谷部 円秀(ib4529)が攻撃を放つ。 視界を掠めた燐光の紅葉に狂牙が地を蹴る。 「逃がしません!」 再び振られた美しい刃。それを追い他の皆も攻撃を見舞う。 だがそれらは鋭い牙に、爪に敵わない。 嵩山 薫(ia1747)は戦況を見直すと、己が拳を握り締めた。 「泰拳士の技を得ていたこと、それが貴方の最大の不運ね」 自らも泰拳士。ならばその長短所は心得ている。彼女はそう呟くと、機を伺った。 そこに風の刃が飛び込んむ。 上空から放たれた攻撃はマリー・プラウム(ib0476)のものだ。 これに狂牙が真空の刃を返す。 彼女はそれを甲龍で受け止めると、いま一度同じ技を振るった。 「アナタを倒して、一時でも平和を――」 「そうです。これ以上‥‥災いに飲まれる訳にはいきません!」 地上で彼女の声を耳にした趙 彩虹(ia8292)はそう口にして、共に闘う浅井 灰音(ia7439)を見た。 「彩! 今こそ私達の連携技を!」 「ん、行くよハイネ!」 互いに頷き、ハイネが迅鷹を放った。 そこに彼女が一閃を敷き、彩虹が大地を踏みしめ渾身の技を振るう。 しかし、それすらも狂牙には届かない。 「くそっ、素早過ぎる‥‥」 幾ら倒そうと迫っても優位にならない。 そのことに光河 神之介(ib5549)が呟く。 そこに狂牙の声が響き渡り、続いて新たな闘いの音が響いてきた。 「この方角は、迎撃班の‥‥」 神之介はそう呟くと、焦る気持ちを抑えて刃を構え直した。 (執筆 : 朝臣 あむ) ●接敵まで 上空から、地上を観察していた只木 岑(ia6834)とガルフ・ガルグウォード(ia5417)。 彼らの眼が、迎撃隊の陣営に向かってくるアヤカシを捉える。 それらは、開拓者の攻撃隊を突破した、或いは迂回してきたものども。数は決して少なくない。怪狼や剣狼の中に、黒い狐のクンネペソシスマリが混じっている。 「カマイタチは少ないようですね。奇襲隊や攻撃隊の方のおかげでしょう」 「敵の位置も把握した。――うっし、報告に行くぞ岑!」 二人は朋友、扶風と淨黒の体の向きを変え、仲間達の元へ急ぐ。 やがて、迎撃隊の前方にアヤカシ達が姿を現す。 土煙あげ近づいてくるアヤカシどもを見て、けれど迎撃隊の面々の顔は、比較的冷静。 彼らは、空を飛ぶ者の報告を受け、迎えうつ体勢を整えていた。故に焦りはない。 アヤカシの数匹が、きゃんっ、驚き声をあげる。 裏禊 祭祀(ia0963)と龍水仙 凪沙(ib5119)は、地縛霊を敵の進行方向に仕掛けていた。その罠が効力を発揮したのだ。 阿仁 五兵衛(ib5643)は罠に嵌った狼へ、銃の照準を合わせた。 「さぁて、狩りの開始、かの‥‥」 セフィール・アズブラウ(ib6196)は引き金に指をかけ、敵に告げる。 「最終ラインです、此処から先はお取引願います」 礼野 真夢紀(ia1144)は息を深く吸い込み、掌を敵の群れへ。 「若輩者ですが、加勢させて頂きます」 そして開拓者らは、一斉に射撃。五兵衛とセフィールの弾丸が、真夢紀の精霊力が、狼の額や胴に刺さる。さらに、 「やはり多いですね。霧咲殿、合わせていきましょう」 「心得ました。――アヤカシよ、矢嵐・弾霰をお見舞い致しまする。霧咲が弓術とくとご覧じろ!」 一心(ia8409)と霧咲 水奏(ia9145)が乱射し、幾本もの矢を戦場に降らせた。 遠距離攻撃が大きく戦果をあげる一方、 「さって、歌の時間だよっ! 演奏、全力で楽しませてもらうよーーー!!!」 蒼井 御子(ib4444)が朗らかに言いつつ、ハープを構えた。霊鎧の歌を紡ぐ。 効果が重複しない位置で、朽黄(iz0188)も同じ歌を歌う。 (い、いま音程外しちゃったかもっ‥‥ど、どうしよっ?) 黄の瞳に涙を溜めつつ、懸命に歌い続けた。 魔術師、陰陽師、巫女も仲間を支援。美郷 祐(ib0707)も仲間に加護を与えた。それぞれの力が仲間を強化していく。 ●激突 支援を受け、前衛を担当する者がアヤカシの前に躍り出る。 黒狐数匹が、ケェーンと鳴く。催眠の力を前衛の者へ浴びせる。 だが、前衛の者達は、自身の力と仲間の支援の力で、抗った。 「ここで防御線を崩す訳にはいかない。あたい達は勝たなきゃいけない‥‥だから、眠りはしないよっ!」 「明王院さんの言う通りだね‥‥熱いのは柄じゃないけど、燃えてきた。技を存分に振わせて貰おうか」 明王院 月与(ib0343)と九法 慧介(ia2194)も眠らない。 月夜は襲ってくる狼どもを凪払う。慧介も狼の隙を見つけ、紅椿で突く。 狼は、同じく前衛の月見里 神楽(ib3178)にもかかってくる。 「狼にはしっぽのふわふわで負けるけど、たれ耳は負けてないのです!」 神楽は黒髪を揺らしつつ背転飛び、狼二匹の体当たりを回避。 動きに翻弄された狼を、 「神楽さん、お見事っ。僕もNINJAの力を出さないとっ!」 叢雲・暁(ia5363)が風魔手裏剣を投げ、負傷させた。 「もってね、メサイア――行くわよ!!」 「こういう時こそアーマーが映えるというもの」 レヴェリー・ルナクロス(ia9985)とサーシャ(ia9980)の、メサイアとミタール・プラーチィも前線を走る。二体はフレイムで狼を殴打し、剣で斬る。 別の狼へ、慄罹(ia3634)は、ダーツを投擲。ダーツには、ヴォトカに浸した布が結ばれている。 「出来る事はやっとかねぇとなっ――鬼狗火、頼むっ!」 「はい! 狼は、いっぴきたりとも、ぬけさせません‥‥狗は狼にかつのですっ!」 鬼狗火(ia9448)は狗型の式を操る。火輪で、狼をヴォトカの沁みた布ごと炎上させた。 離れた位置で。胡蝶(ia1199)の呪縛符が、剣狼の足に絡みついていた。 「ローズ、遠慮なく潰してやりなさい」 「ええ! 作ってくれた機会、無駄にはしませんわ!」 胡蝶に応じるのは、ローズ・ロードロール(iz0144)。巨大な斧を軽やかに動かし、狼を裂く。 小隊「フィブラーリ」も連携しつつ奮戦している。 ヴァレリー・クルーゼ(ib6023)は激戦の中、神経を研ぎ澄まし周囲の状況を捉えていた。 「右だ、来るぞ!」 「分かった。通さなければ、いいんだろ?」 声に、丈 平次郎(ib5866)が反応。かかってくる怪狼をグレートソードで弾き飛ばした。 仲間を傷つけられ憤ったか、怪狼や剣狼の攻撃が小隊へ集まり始める。 「効かないなぁ」 サイラス・グリフィン(ib6024)は剣狼の刃を宝剣でガード。不敵に笑む。 「悪しき者に毒の制裁を! ポイズンアロー!」 「前衛の働きは、きっちりさせてもらうぜ!」 コニー・ブルクミュラー(ib6030)は杖から、矢を射出。狼を毒で蝕む。匂坂 尚哉(ib5766)は新陰流の技で、狼に止めを刺した。 コニーの隣には、中窓 利市(ib3166)。 「皆、良い調子だが無茶はしなさんなよ? 俺の練力じゃ、フォローも限界があるんでね」 軽口を叩きつつも、目は真剣に小隊の皆を見ている。負傷者が出れば、すぐ治療できるように。 後衛の吟遊詩人は音を紡ぎ続ける。レティシア(ib4475)と琉宇(ib1119)も、歌唱と演奏を続けていた。 (歌に出来る事がある限り、歌い手は歌うのみ) (この曲はどうかな?) 拳を握りしめつつ、レティシアは騎士を称える詞を仲間へ。琉宇はバイオリンで重力の爆音を奏で、狼を鈍らせた。 詩人たちは熱演で、仲間を支え続ける。 一方、迎撃隊の最後尾には、救護所が設けられていた。 治癒できる者が待機し、引いてきた怪我人や他隊の負傷者を治療しているのだ。 山奈 康平(ib6047)と笹倉 靖(ib6125)が 「よし、これで完治だ。安心していってこいっ」 「あと少し、気張ってこーぜ!」 風の精霊の力を借り治療を施し、励ます。 吉田伊也(ia2045)も今はここにいた。負傷者に恋慈手を施した後、前線に目をやる。 「踏ん張りどころが多いですね」 口の中で呟いた。 回復した者に、ルーディ・ガーランド(ib0966)が声をかける。 「すまないけど、北西の方に行って貰えるかい。そちらに剣狼が多くいるようだ」 彼は仲間が集めた情報から、戦況を分析し味方に要請する役を、務めている。 「了解よっ、任せて」 「俺も行く。回復して貰った事に感謝だ」 「我も礼を。後でネギ焼きを馳走しよう」 応じたのは、治療を受けていた華 真王(iz0187)と将門(ib1770)、輝夜 (ia1150)。三人は、泰爪や刀を手に、前線へ走る。 ●終盤戦 治療者らの努力により、迎撃隊は脱落者を出すことなく、戦い続ける。 アヤカシの数は、開拓者らの奮戦により、既に半数あまりにまで、減っていた。 狼の一匹が鋭く鳴く。 直後。アヤカシの幾つかが、動きを変えた。前衛の開拓者の間をすり抜け或いは迂回しようとしだしたのだ。後衛を襲う狙いか? レイス(ib1763)は自分の横をすり抜けようとする剣狼の腰に触れ、浸透勁を叩き込む。 同じ敵の脚を、駿龍・ロギに騎乗したリーブ・ファルスト(ib5441)が、狙撃。そして、 「レイス、兄ちゃん、ありがとっ」 フィン・ファルスト(ib0979)が乗る金のランスロットが大剣を振るう。狼の頭を砕いた。 氷那(ia5383)とレビィ・JS(ib2821)は、瞬脚と早駆を駆使。すり抜けようとする狼の前へ移動、動きを阻む。 「‥‥阻止させてもらう」 「氷那さん、手伝うよ!」 氷那は風魔手裏剣で敵を制し、レビィがバルカンソードで狼を両断。 琥龍 蒼羅(ib0214)と 湯田 鎖雷(ib6263)は、駿龍と愛馬の機動力をそれぞれ活かし、迂回を試みていた狼に接近。 「通すわけにはいかん――陽淵っ!」 (めひひひひんは後で労ってやらないと‥‥そのためにも今は敵をっ!) 藍色の駿龍の衝撃波と、鎖雷の鎖分銅。それらは、狼どもの進行を許さない。 開拓者の護りは鉄壁。奇襲を試みたアヤカシ達は全て、後衛に辿りつかず倒れた。 アヤカシの総数も、もはや15匹を切っていた。が、それらの目に恐怖はない。今まで以上に殺意を浮かべている。 黒狐が催眠の声をあげた。標的となったのは和奏(ia8807)。和奏は目を閉じてしまう。 その隣では、アッシュ・クライン(ib0456)が、剣狼四匹の刃に斬られ、流血。 「負けないで。ここにいない者の想いも‥‥きっと、一緒に。戦っているから」 和奏に声をかけたのは、桔梗(ia0439)。駿龍・風音の背に乗る彼は、淡き光で和奏を覚醒させる。 アッシュの背後に、水月(ia2566)と平野 譲治(ia5226)がいた。 水月は目を閉じた。精神集中し、癒しの光を放つ。 譲治は「この戦いはおいら達に吉と、占いに出たなり。だから大丈夫ぜよ!」と自信たっぷり。式で仲間の傷を塞ぐ。 和奏とアッシュは体勢を立て直す。二人は、仲間らに視線で礼をし、 「もう技を温存することもありません。全力を‥‥っ!」 「終わりだ。――漆黒の牙よ、穿ち砕け!」 神速の刃で狐を斬る! オーラを纏わせた大剣で、狼を粉砕する! 攻撃を受けた狼どもは消滅。生き残ったものも怯えた目。 フードを被ったマテーリャ・オスキュラ(ib0070)は、未だ健在な黒狐に、 「僕も皆さんをサポートさせていただきます」 冷気を送り、動きを鈍らせた。 後衛を護衛していた龍馬・ロスチャイルド(ib0039)と不動・梓(ia2367)も、今は前線に加わっていた。 二人は凍える狐の前に立つ。 「行きます!」 「犠牲者の方の為に、集まった皆さんの為に――一匹たりとも逃しません」 梓の薙刀が狐の脚を払い、竜馬は龍の紋章描かれた盾で、狐の頭部を強打。狐は消滅。他のアヤカシも、開拓者らに次々と倒されていき――、 迎撃隊は、接触したアヤカシの群れを壊滅させることに、成功。 この勝利は、空を飛ぶ者、前線や後衛で戦った者、援護や治療をした者、策をたてた者、朋友――皆の努力と連携に寄るもの。 迎撃隊の各所で、勝利を喜ぶ快哉があがった。 (執筆 : えのそら) 狂牙は足を止めた。 他を圧する、圧倒的な気を発したまま戦場で動きを止めたのだ。 まるで、その場所だけが時間が止まったように見える。周囲では部下の狼たちが人間どもといつ果てるともしれない戦いを続けている。 「邪魔するなぁっ!」 守紗 刄久郎(ia9521)が回転切りで部下を吹き飛ばしては、両断剣で首を切り捨てなどしている。 「なにがあっても絶対に撤退しない」 アルネイス(ia6104)がなにやら術の準備をしている。 そんな中、戦場の王は鼻を高々とあげると風の運んでくる血の臭いをかいだ。 しばらく動いていた鼻が動きを止めた。 そして、再び不埒な挑戦者どもを睨みつけると、にやりと笑いでもするかのように、目をぎらつかせながら、その牙をぎらりと見せつけた。 あまたの開拓者たちに傷を負わた牙は、すでに真っ赤になっている。 そして、まだ血が飲み足りぬと言いたげなようすで舌なめずりをしたかと思うと、それは突然、駆けだした。 すでに戦いの流れが自分の手から離れつつあることを察したのかもしれない。 彼の軍団の多くは、開拓者たちの手により瓦解しているようである。が、同時に戦況を好転させる最後の機会であろうことをアヤカシは察した。 もし狂牙が人間であったのならば、狂王はどのような言葉をつぶやき、あるいは叫んだであろうか。 だが、この狼どもの王に言葉はない。 いや人間の言う意味での言葉がないだけであり、そのしなやかな肉体の動き、獰猛なまでの肉体の動きこそがそれにとっての言葉であり、その殺戮こそが血で書かれた詩であったのかもしれない。 だからこそ狂牙は駆った。 そして、狩った。 走りながら邪魔な敵をつぎつぎと屠っていく。 「あれだけケガを負っていて、まだ動くのかよ」 誰が叫んだ。 すでに狂牙もまた開拓者と同様、いやそれ以上にケガを負っている。だが、そのようなことなど意にも介さぬように狂牙は、なおも戦いがつづく乱戦の中を走り回る。 手をもぎとり、首をくらいつき、あるいは、その胴に爪をたて、あたりに鮮血の雨を降らしたかと思うと、漆黒の風のように、その場を離れている。 まさに狂った嵐の襲来であった。 その猛威の前に人はただ目を見張るより他にはない。ここにまたひとり、嵐のまっただかに放り込まれてしまった不幸な者がいる。 「これが‥‥上級アヤカシ‥‥」 ペケ(ia5365)は言葉を呑んだ。 真の恐ろしい敵というモノを知りたくて、この戦いに加わった身だ。それとまっ正面から出会ってしまう可能性はもちろんわかっていたつもりだ。だが、それが現実になったとき、つもりは、つもりでしかない甘ったれた考えであったことがわかった。 「真の恐怖」は想像していたものとはまるで違っていた。 体が固まることはおろか、手がふるえたり、足ががくつくことさえない。体は動く‥‥はずだ。頭もまわっている‥‥はずだ。だが、この違和感はなんなのだ。何が起こっているのか、目の前の光景が、自分に飛びかかってくる狂牙の動きが夢の中の出来事のように感じられる。まるで現実感がないのだ。 大きく開いた口は真っ赤だ。 まるで一枚の絵を眺めているような感じで、頭がまっしろになって、ただ呆然と立ちつくしかないのか。 それが本能の告げる、恐怖であったのだろうか。 真の恐怖の前には、人間のささやか力など無意味なのかもしれない。 「だが――」叫ぶ声がした。 人間には、開拓者には意志がある。力がある。能力がある。そして、その困難すらも乗り越えてみせる可能性だってある。 「何をやっている!」 鋭い叱責とととも矢が頬をかすめ、狂牙の目に突き刺さる。 「矢!?」 頬に血が流れ、我に返った。目に矢を受けながら、なおも突撃してくる狂牙の顔面に向かって拳をたたき込みながら背後に飛ぶ。もちろん腰に力の入っていない浅い一撃だが牽制にはなった。 「手前ぇと俺、どっちの牙が鋭いか勝負だ。すべてを穿つ天狼の牙、その身に刻め!」 疾風が吹いたかと思うと、ペケの眼前に風雅 哲心(ia0135)があらわれ、秋水を脚にたたき込んでいた。ルヴェル・ノール(ib0363)のアクセラレーターで加速をつけ、乱戦のまっただ中を抜け、ここまで駆けてきたのだ。 狂牙の隻眼をつぶした俳沢折々(ia0401)が再度、矢で威嚇する。 いつのまにかペケの眼前には人の壁ができ、反対にアヤカシの周囲には人の檻ができていた。 あたりを囲んだ人間どもに向かってアヤカシはうなり声をあげる。だが、残った片目はまだまだ鋭く、狡猾なまなざしであたりを見回していた。 「頭を潰せばそれで終わりだ。一気に行くぞ」 黎乃壬弥(ia3249)という開拓者が攻撃を開始すると、それを期に、狂牙は猛攻にさらされた。 狂牙はじっと耐える。 ただ耐え、時を待った。 どれほどの攻撃を耐えたのだろうか。 鈴木 透子(ia5664)が何か得体のしれないものを呼び出そうとしている。その時、ついにその機会をついに見つけた。 地上には逃げ出す隙はもはやない。 だが――狂牙が突撃してきた。 木原 高晃(iz0174)が攻撃に備え、身構える。 体に力が入った。 だが、それが狂牙の狙いだった。 飛びかかってきたと思えたその行動は、木原の身長すら超えた跳躍であった。ちょうど手薄になっていた木原の背後まで跳んだかと思うと、狂牙は乱戦の中に消えていった。 「やられた!」 「追いましょう!」 「逃げ際を心得ていやがる‥‥」 「行けるか?」 氷(ia1083)が人魂を放ち、その行方を追う。 羅喉丸(ia0347)が甲龍にまたがり空へ舞い上がった。狂牙の力の及ばぬ場所には、まだ開拓者たちの姿がある。 ● どれくらい走ったろうか。 普段であったのならば、彼にとっては一駆けすらしたとは考えぬ距離であったろう。だが、いまは普段ではない。いつしか力がなくなったようにアヤカシの歩みをゆっくりとしたものとなっていた。 だいぶ弱っているようだ。 突然、鼻が動いた。 狂牙は視線をあげた。 もし王が人間であったのならば、はたしてどのような表情をしたろうか。 「遅かったな、狂牙。待っていたぞ」 そこには霊騎にまたがった開拓者がいたのだ。 名前を鬼島貫徹(ia0694)という。 彼の作戦は、こうであった。 (智慧の働く敵であれば、不利な位置での戦は極力回避すると推測。強引に平野を突破する可能性を鑑み、盆地中央で待機) そして、その読みは、みごとに当たった。 狂牙がもし人間であったのならば、あるいはショックで戦意を失ったかもしれない。だが、狂牙は狼である。そして、なによりもアヤカシである。人間が絶望する局面であってもなお戦いを欲する。なぜならば、それこそがそれの生への本能であったからである。 手負いであるから用心しながら鬼島は間合いをとる。狂牙もそれにならう。じりじりとしたフェイントの掛け合いとなり、時間がすぎていく。 そして、もはや時間は開拓者の味方であった。 「いた!」 グライダーを操る朱鳳院 龍影(ib3148)と駿龍の疾風に乗った八十島・千景(ib5000)のどちらが先に発見したかはわからない。あるいは、本当に同時だったのかもしれない。いや、そのようなことはこのさいどうでもいい。 夢の翼チームは乱戦で見失っていた目標を発見したのだ。 新大陸を見つけた開拓者のようなまなざしで、天河 ふしぎ(ia1037)は仲間に向かって命じた。 「行くよ、千景、龍影‥‥人々の笑顔と平和の為にも、奴を討つ!」 天空に旗がはためいた。 そして手に手にかがやく刃を持つと上空から地上へ向かって急降下。 鬼島との戦いにばかり注意のいっていた狂牙の背中に致命的な一撃‥‥いや三撃となった。強烈な攻撃が加えられ、狂牙は、そのままあらぬ方に転がって行ってしまう。 「やったか‥‥」 いや、それでもなおアヤカシは立ち上がろうとする。 その足はよろめきながらも、なお自分の足で立ち上がとろうとする。まるで座して死ぬことを拒むように狂牙は立ち上がろうとする。 片目は矢で射貫かれ、残った隻眼もまた、すでに弱々しく開いているのみである。だが、血に飢えたまなざしは、傾いた太陽を背に何かが動いてくるのを狂牙は認めた。 ゆっくりと近づいてくる。 ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)の操縦するアーマーであった。 「行けロギ!」 アーマーの姿が太陽が重なった。 もはやアヤカシには抵抗する力が残っていなかった。死がアーマーの手という形となって近づいてくる。そして、狂牙の首を両手でつかみ――握りつぶした。 風が吹き、ロギの手からさらさらと塵が散っていった。 もはや狂牙の姿はこの世にはなかった。 この地の主たらんとしたアヤカシは、風とともに永遠にこの地から消えた。あとには、風の音と静寂、そして狂牙の名前だけが残った。 (執筆 : まれのぞみ) ●慎始敬終 血の臭いが戦場には漂っていた。ピリピリとした殺気が立ち上り、四方八方から肌を射す。 アヤカシ共が残した置き土産か、味方が放つ収まらぬ怒りか。 「おい、もうアヤカシは居ないか?」 「‥‥分かりません、姿は見えないですが」 「まだ油断できない‥‥か」 鬼灯 仄(ia1257)は殲刀「朱天」を肩に担ぎ、あたりを見渡した。いくつ切り捨てたか分からないが、周囲に敵は居なくなっている。 目を細めて遠くを睨むが、アヤカシらしき姿は認められない。 華表(ib3045)も険しい顔で仄に答えて、油断なく周囲を警戒する。 先人たちは「勝って兜の緒を締めよ」と言う言葉を残している。アヤカシの残党が、不意打ちしてくるかもしれない。 後衛を守る為に巨体を盾にしていたChizuru(ib6295)の甲龍が、不意に舞上がった。 「亀姫、どうしました?」 自分の役目は終えたと、龍心に確信したのだろう。驚くChizuruの上空を旋回し、何度も、何度も空高く歓喜の声を響かせる。 「終わったの‥‥?」 空で鳴く龍を見上げて、ワイズ・ナルター(ib0991)は呟く。自分達は勝利したのだと悟るのに、しばしの時間を要した。 悟ると同時に力が抜け、糸が切れた操り人形のように大地に座り込む。胸に秘めた熱い思いだけが、限界を超えた心身をつき動かしていた。 多数の者が大地に立つことを放棄していく。泉宮 紫乃(ia9951)も 、ゆっくりと座り込んだ。安堵の長い溜息がこぼれ落ちる。 「怪我は無いですか?」 「‥‥えっ?」 「無いようですね、良かった」 後ろから突然かけられた声に振り返ると、嬉しそうな笑顔とぶつかる。薬草や包帯を手に、応急手当に奔走する辟田 脩次朗(ia2472)が笑いかけていた。 紫乃の無事を確かめると、脩次朗は座り込む次の人物に同じ質問をぶつけて行く。 「‥‥役目は終わっていませんでしたね」 紫乃は目を閉じて息を吐く。負傷者はたくさん居るが、回復の手はまだまだ足りない。 ぐっと大地を踏み締め立ち上った、自分の力を必要としている人の所へと走るために。 回復が施されるにつれて、元気な者たちは増えて行く。自然と集まり、祝賀一色に染まり始めた。 「くー、勝利の酒はうまいぜ!」 「お茶も、なかなか良いですよ」 朧楼月 天忌(ia0291)は、祝杯の酒を手にしていた。喧嘩の勝利を祝い、一気にあおる。 のんびりと裏禊 祭祀(ia0963)も祝いの桜茶を堪能中。 「つまみがあれば、最高なんだが」 「おつまみ‥‥私もお腹が減りました。美味しい物をたくさん食べさせて欲しいです」 えらくごついアーマーから出てきたアーシャ・エルダー(ib0054)は、天忌のつまみの台詞に空腹を告げるおなかを押さえる。三つ編みが悲しそうに、垂れ下がっていた。 「毎度おなじみ、焼ネギー、焼きネギー! 焼きネギはいかがですか?」 「お姉さん、食べ物頂戴!」 「はい、まいどー!味噌味、しょうゆ味、どれでもいいよ!」 三人の前を、場違いな屋台が通り過ぎた。アーシャは目を輝かせ、輝夜(ia1150)が開く焼きネギ屋に勢いよく飛び込む。 「‥‥ネギだけか?」 「大丈夫よぅ、ご飯も炊いてあるわぁ」 興味にひかれて覗いた天忌は、ぼそりと尋ねた。ネギを焼きながら額に汗する輝夜の隣で、おっとりと深緋(iz0183)が笑う。 「待ってくれー、味噌味、おかわり頼む!」 どんぶりを手に、鰓手 晴人(iz0177)が土煙を上げながら走ってきた。焼きネギ屋の先客らしい。 「あらあらぁ、いい食べっぷりねぇ♪」 「ネギ一本、おまけだよ!」 どんぶりのご飯を山盛りにしながら、深緋はご機嫌だ。輝夜が手際よく、焼きネギと味噌を乗っけて完成。 「腹が減っては、戦はできぬ!」 晴人は一言だけ告げるとお箸を手に、ほかほかの焼きネギ丼にかぶりつく。 「やれやれ、騒がしい事ですね」 くすくすと笑い、祭祀は桜茶をゆっくりと傾けた。 戦場に立ったのは、開拓者だけでは無い。開拓者と一緒に、命懸けで戦った相棒達も数多くいる。 「お疲れ様でした‥‥烈火も、よく頑張りましたね」 周藤・雫(ia0685)は迅鷹を撫でながら、優しくねぎらった。相棒は頭を擦り寄せ、信頼で応える。雫はくすぐったそうに目を細めた。 言葉など必要なかった、心が通い合っているのだから。 戦場からやや下がった所に、光河 神之介(ib5549)の姿はあった。 「どうだ、もふ助。合戦の空気はわかったか‥‥?」 「わかったもふ!」 神之介は座り込み、大きな目で見つめるもふらさまと視線を合わせる。 「‥‥でも神之介、何か怖いもふ‥‥」 「そうか」 それ以上は告げず、わしゃわしゃと頭を掻き混ぜた。相棒の不安を追い払ってやるように。 戦場を離れた湯田 鎖雷(ib6263)は、まだ冷たい小川で霊騎と少し早い水浴びをする。 事前に泥を塗りたくっておいた愛馬は、目立たぬ事に成功していた。すべてが片付いた今、早く落としてやりたい。 「よしよし、いい子だ」 ワラで一生懸命、身体をこすってやる。 「‥‥俺の髪をもてあそばないでくれ!」 暇な相棒は退屈しのぎに、鎖雷の髪を次々くわえて引っ張る。数本引っこ抜かれた所で、ついに叫びがこだました。 ●春和景明 編成をなして龍達が飛行していく。神威の少年に導かれ、向かう先は砦。龍に乗る少年の表情は、うかがい知れなかった。 一行は龍から降りたつ。無言で砦の中を進む少年は、物見櫓の下で矢を拾った。 木々が転がり、壊れたままの正門。大量の深紅を吸って、変色した地面。 すべてが、あの日のまま。 否。折れた右腕は、回復し自由に動く。確実に時間は過ぎていた。 失われた命は蘇らない。一つ、二つ、少年の頬からしずくが滴り落ちる。 リリア・ローラント(ib3628)は、思わず少年を抱き締めた。 護りたかったもの。護れなかったもの。‥‥自分一人だけ、残ってしまったこと。 少年のすべてを、力いっぱい抱きしめた。 「ここにゃ、勇猛果敢な女の将軍が居たっていうじゃねぇか」 喪越(ia1670)は空を仰いだ。きっと守将は美人だったに違いない。その美人を見逃すとは、喪越、一生の不覚。 「‥‥墓穴でも掘るかね」 手で頭をかき上げながら、低く漏らす。 「最期まで勇敢に戦った者達への、せめてもの敬意だ」 皇 りょう(ia1673)は、喪越に応えた。折れた刀を手に持ち、眺める。 今となっては、持ち主は分からない。それでも御霊と一緒に墓に入れてやりたかった。 「手伝おう。彼、彼女らが居なければ、犠牲者はかなりの数になっていただろう」 中窓 利市(ib3166)も頷いた。半壊状態の建物を見やり、静ヶ原の合戦を思い起こす。 少年が来なければ、どれほどの犠牲が生まれていただろう。 「ありがとな、どうか安らかに」 利市は目を閉じて、礼と祈りの言葉を続ける。きっと天に届くと信じて。 「‥‥命を賭して守ろうとした者達の想い、確かに受け取った」 ウルグ・シュバルツ(ib5700)は、心に砦の様子を焼きつける。己の命をかけた者たちに、最大限の敬意を示して。 これからも、想いを受け継いでいく為に。そして将来へ、引き継いでいくために。 静寂の中、少年が墓に最後の一握りを加える。ぱらぱらと、乾いた土が落ちて行った。 「まあ、ささやかながら弔い酒さね」 墓の前に陣取ったアレン・シュタイナー(ib0038)は、手にしたヴォトカをかける。土を盛り上げただけの墓、あっと言う間に酒はしみ込んでいった。 満足そうに見おさめ、アレンは退く。酒の匂いが漂う中、阿仁 五兵衛(ib5643)は手斧を少年に手渡した。 「ほれ、ヌシが供えてやるんじゃ」 守将の一対の手斧だった。一つは既に墓の中に埋まっている。 残りの一つを受け取った少年は、促されるまま墓の前に挿す。それが墓標だった。 石や木を置くより、ずっと相応しいように思えた。 「よぉ頑張って知らせてくれたな。皆もきっと、あの世で褒めてくれてるわ」 視線を伏せながらジルベール(ia9952)は、少年の肩に手を置く。少年は涙をこらえながら、大きく頷いた。 ジルベールは、もう片方の手で花を見せる。砦近くに咲いていた彼岸桜を手折り、持ってきたのだ。 花も少年の手で、手斧の脇に供えられた。 少年を筆頭に皆は整列する。守紗 刄久郎(ia9521)の号令のもと、一様に目を閉じ黙とう。長い、長い、祈りが捧げられた。 ずっと居所の悪かった刄久郎の腹の虫も、ようやくおさまった気がする。自己満足かもしれないが。 「こんなのは無意味かもしれないけれど‥‥どうか、安らかに」 葛城 深墨(ia0422)は目を開けると、今度は静ヶ原に向いて黙とうを捧げる。 奪った命の落とし前は、アヤカシ達につけて貰ってきた。祈りは、自分にできる最後の仕事だ。 「神音には、祈りを捧げることしか出来ないけど‥‥」 少年の分まで、石動 神音(ib2662)は泣いた。泣きながら、墓の中の人々が安らかに眠れる事を願う。 これ以上アヤカシに人の命は奪わせない、そう心に誓った。 神音と反対に、ガルフ・ガルグウォード(ia5417)は笑顔を捧げる。泣きはしない。 天に帰った人達が空でも悲しまず、安心して眠れるように。その家族が悲しみに押しつぶされないように。ガルフは笑う。 アルーシュ・リトナ(ib0119)とレティシア(ib4475)は頷き合うと、朗々と歌い始めた。感謝と安らぎの願いが込められた鎮魂歌が、波紋のように広がりゆく。 二人の心の旋律を聞いたのだろか、風が吹き彼岸桜の花をいくつかさらう。花びらは天に向かって舞い上がった。 戦場に散った者、祈りを捧げる者、故郷で待つ者。すべての者たちの、心の平安を願って。 (執筆 : 青空 希実) |