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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ● 「……もふ」 来風(iz0284)は大きなあくびをした。 眠っていたらしい。目をこしこしとこすってみると、世界はまだぼんやりと薄暗い。 (あー……でもまだ眠いもふね……) そこまで考えて、ふと気づいた。 「……もふ?」 来風、上から下までしっかりと身体を見る。 ……うん、もふらだった。 紛れもなくもふらだった。 戦いが終わり、すべての開拓者は相棒と融合した――それから約一年。 むろん開拓者だけではない。大人も子どもも男も女も、世界の人類は消滅し、相棒と融合した。 ぶっちゃけ、天儀全体が相棒パラダイス。 これを喜ぶものもいたが悲しむものもいた。 だがまあ、気づけばその生活に順応しているのは、世の常というものである。 あるいはこれが、天儀の正しき姿だったのかも知れない。――いずれ、この世界にヒトと言う存在があったこと、それすらも忘れられていくのだろう。 しかし、戦いが終われば開拓者をやめるものもいる。 来風もそんな一人で、今は作家として身を立てていた。 もふら文学の第一人者として、それなりの有名人だ。 ● それにしても、皆はどうしているのだろう―― 来風はそんなことを思いながら、もふ毛を繕い始めたのだった。 (次の作品に使えるかも知れないもふね) そんなことを思いながら。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
黒曜 焔(ib9754)
30歳・男・武
ジョハル(ib9784)
25歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ――さあさ、今宵限りの夢の浮橋。 こちらで見るのは、人という存在が消滅した、もしもの世界。 如何なることになりましょうや。 四者四様、とくとご覧あれ。 ● (……はじめは驚いたものだが、慣れれば便利なものだな。この、龍の身体というものは) 羅喉丸(ia0347)はそう思い、そっと目を伏せる。 いまの彼は頑強な鱗に覆われた大きな龍の姿――彼の相棒・皇龍の頑鉄と融合しているのだ。 元々体格に恵まれた羅喉丸ではあったが、かつてよりも更に大柄となり、それを思うとわずかに苦笑してしまう。 頑鉄自身が『精霊力と錬力による加護を受け、鋼龍の耐久力と持久力が更に向上している』という存在の皇龍であったはずだが、修行やその他により更に頑強な存在となった羅喉丸。 これは龍となったばかりでかつてヒトであった時に習得していたスキルを使えないかどうかと試していた頃に、精霊力と錬力をあわせて使う技を試したりしたことによって、元来のものにくわえて更に精霊力と錬力が活性化したため――なのかも知れない。 これもひとえに、『ヒトと相棒が融合する』という事態が発生したためである。はじめこそ誰もが混乱に陥ったが、今となってはそれもごく当たり前、という形になっている。しかし、ヒトの大きさと形をしたものは今やおらず――例外はからくりくらいなものだ――世界のありようが変わったとは言え、ヒトだったものたちは昔とそう変わらぬ生活をしている。 それが、ごく当然であると言うかのように。 今日はよく晴れ、良い風も吹いている。 「特に予定もないからな、風の吹くまま、気の向くまま――といくか」 羅喉丸は大きな身体を震わせた。 彼は、平和になった今も、以前と変わらず冒険を続けている。むしろ、空を自在に飛べることになったことで活動範囲が広がり、以前よりも冒険の頻度は確実に上がっている。 身体が大きいとは言えその辺りは便利なもので、龍となったものたちが商いを行っていたり宿を経営していたりすれば当然ながらその店の間口などは広くなる。龍になったからと言って不便をするわけではなかった。むろん、はじめこそ食事に困ったこともあったが、ヒトのたくましさというか、龍になったもの同士で新しく町を興しているものもいるらしい。そういう所に行けば、それなりの食事を取ることは十分可能だった。 それに、姿形が変わろうとも、その魂の有り様を変えることはなかなか出来ない。羅喉丸もご多分に漏れずそういう口で、世界を自分の足――いや、翼か――で巡り、ヒトが相棒になった以外にもどんな変化があったのか、それを見て回ると同時に、人助けをしながら旅を続けているわけだ。 二三度翼を羽ばたかせれば、身体が悠々と浮き上がる。そのまま風に乗り、身体の負担を極力減らしながら旅をする。 「世界を巡るというのは楽しいものだな……明日はまた、今日と違う世界が広がっているのだろうから」 そう目を細めると、羅喉丸は平和を取り戻した世界を見下ろす。 「龍の身になろうと、我が身に宿りし武がいささかも変わらぬことを教えてやろう」 彼は開拓者であり、同時に旅人だ。 今日もどこかで、羅喉丸は空を舞っている――。 ● 御陰 桜(ib0271)は、羽妖精の咲希と融合していた。元々緑だった咲希の前髪が一房、元のままの桜色に変わっており、見た目は異なっているものの桜は相変わらず桜である。 (そう言えば、さすがの桃もあのときは信じられなかったみたいねぇ……) 桃は彼女の相棒の一人で、闘鬼犬だ。進化して人語を話すことの出来るようになった非常に努力家の相棒だが、むろんこんな事態が発生するとは夢にも思わなかったらしい。 ――その日、桜は咲希とともに出かけ、そして羽妖精の姿になって戻ってきた。いつも通りにただいま〜と声をかけると、桜が少し不思議そうに首をかしげつつ出迎えてくれたのだ。 「御帰りなさいませ。……おや、桜様もご一緒では?」 そう尋ねてきた桃に、桜はにっこりと笑って、 「あたしが桜なんだけど? いやぁ、ヒトと相棒が融合シてるって話は聞いてたけど、まさかこのたいみんぐ、だとはねぇ?」 「ああ、そう言えばそんな話がギルドでも話題になっておりましたね。しかし、咲希様がからかっている……というわけではないのですね?」 念のために確認をする桃。真面目な子はこういうときも慎重派だ。 「違うわよぉ……うーん……あっ」 そういうと、桜は桃のふさふさ毛の生えたおなかをもふもふもふ。されるがままなとろけ気味な桃。そしてはっと気づく。 「こ、この的確に私のツボを突いてくるようなもふり技は……っ! 間違いなく、桜様の……!!」 「わかってくれたようね♪」 妙に楽しげな桜の言葉に、桃もこくこくと頷くのであった。 ちなみに桜も開拓者業は相変わらず続けている。体格こそ小さくなったものの、ヒトの姿に近い羽妖精である、元々持っていた桜の愛刀・魔刀「E・桜ver.」を大太刀のように振り回せば敵を蹴散らすのも造作のないこと。 むろん、そのときの相棒は相も変わらず桃である。桃の背に乗るようにして移動をすることも多いことから、『わんこらいだぁ』なんて呼ばれようもされるようになっていた。元々かわいがっていた相棒とこうやって時間を過ごすことになるとは、桜自身も思ってもいなかったことだ。 「馬とはまた違った感じで、こういうのも楽しいわねぇ♪」 桜もまんざらではないように、その姿を楽しんでいる。 「ならば、騎乗状態での連携を考えてみるのも、良いかもしれませんね」 桃は良い子だ。いつも桜のことを考えて、さまざまな提案をしてくれる。 「そうねぇ、今度の訓練ででもヤってみる?」 「はい」 そしてまた、主従関係はこの程度では崩れないという姿を見せてくれている。 おかげさまで、前と同様――いや、前よりもまして頼りになる桃。 (これからも一緒にいられるとイイな♪) そう、胸の中で思いながら、桜は今日もまた桃と話し合う。 「今日も一緒に頑張りましょ♪」 「はい、桜様。頑張りましょう」 そういう桃の眼差しは、ひどく柔らかかった。 ● 人妖のテラキルと共になったジョハル(ib9784)は、広い世界を見つめていた。 ヒトであったころは両目の機能をさまざまな事故などで失っており、テラキルとともになって再び日の光を拝むことが出来るようになったのだ。 以前は自由のきかなかった身体も、空を舞うことの出来る人妖のものとなれば軽く宙返りさえ容易に出来てしまう。 (テラキルの身体は軽いなあ……空を飛べるというのも、いいね) そう思えば、テラキルの明るい声が脳内に響く。 ――ふふ、そうでしょ? さぁジョハル、広い世界に飛び出そうぜ! 立ち止まってるだけなんて、もったいないよ! 融合することになって、時おりやりづらいと思うのはこれだ。 己の思考に混じって、テラキルの声がする。それは融合の効果であり、ある意味では弊害とも言えた。けれど、ジョハル自身はそんな声がしても苦笑を浮かべてしまうばかり。 「わかったわかった。お前の行きたいところにつきあうよ」 するとテラキルは思わぬことを言いだした。 ――じゃあ、ジョハルの故郷に行こうよ! 「えっ!?」 思わず目を丸くしてしまう。元々彼は、故郷では既にないものとされている身。 「テラキルも知ってるだろ、僕は帰っちゃいけないんだよ……っ」 と、そこまで思うと、テラキルが笑っているような気がした。そしてふと己の身を思い出す。 「……手、ああそうか……今、見た目はテラキルなんだね」 ――そうそう♪ テラキルは楽しそうに相づちをいれる。今まで気にならなかったわけではない。しかし、自身の立場故に考えることをやめていた、懐かしき故郷―― 「どうやら人はいなくなったみたいだし、俺を知っているヒトはもういないのか……」 目をつむると思い起こされる、海辺の小さな町。 忘れていたのではない、考えないようにしていただけ。 ジョハルの大好きだった故郷。 そこには幼なじみがいた。海まで共に競争し、笑い会えるような。 そして恋人もそこにいた。砂漠で、朝まで語り合ってもまだ話したりないと思えるような。 今、幸せに暮らしているのも、あの日々があったからに他ならない。 思い立ったが吉日、彼は故郷へと動き出していた。 そして数日後。帰ってきた故郷はやはりあの日のままで。 目にするものが少しずつ違うとは言え、懐かしく思う。 「ああ、本当に懐かしい。久しぶりだな……テラキル、聞いてる?」 反応の薄い相棒に声をかけると、意外な答えが返ってきた。 ――聞いてない! 踊ろう! 歌おう! もちろん、ジョハルも一緒にね! 天真爛漫を絵に描いたような性格のテラキルは、そのまま見慣れた広場で身体を動かし出した。肉体の主導権はどちらにもあるようで、時折こうやって気まぐれにテラキルが動き出す。 けれど、それは嫌なことではなかった。好き勝手に踊る姿を見て、道行く人たちが足を止める。その視線が、ざわめきが増えるごとに、更に動きは加速していく。 まるで、見られることを楽しんでいるかのように。 (……ふふ、テラキルは生を楽しむのが上手だな) ――ジョハル、何か考えた? テラキルの声に、「いいや」とジョハルはしらばっくれた。 自宅はかつてのままだった。 もっとも、大切に育てていた庭の薬草は伸び放題の荒れ放題になっていたけれど。 (……誰も住んでいないのかな?) そう思って扉を開けたら、そこにいたのは提灯南瓜。一瞬言葉を失い、 「し、失礼しましたっ」 それだけ言って立ち去るのがやっとだった。全力疾走でいくらか離れてから、ジョハルは思わず吹き出す。 「あはは、カボチャのすみかになってたね」 ――びっくりしたよ! もう、ジョハルも急いで逃げちゃうしさっ。 テラキルも、しかし笑い含みの声で。 二人でひとしきり笑って、時間が過ぎていく。 彼方に沈む夕日を見ながら、ジョハルは語りかける。 「ねえ、テラキル」 ――何、ジョハル? テラキルの声はいつも通りで。 「どうか、こうやって旅を続けて欲しい。俺がいなくなっても、その名前の通り――『永遠』に」 ――馬鹿だな。 ジョハルの願いに、テラキルは苦笑を浮かべる。 ――今ジョハルは僕なんだぜ? ジョハルとどこまでも一緒だよ。 テラキルは当たり前だ、とばかりにそう言って。 ジョハルはもう一度、かけがえのない相棒をえたことを嬉しく思うのだった。 ● すごいもふらになったおまんじゅうと融合――そして何故か分離しているのは黒曜 焔(ib9754)、元は獣人であった。 今は真っ黒い小柄なもふらとなり、もっふもふのしっぽを丁寧に梳いて暮らしている。 そして、彼は来風(iz0284)と、今も懇意にしてくれているのだった。 来風もまたもふらになった一人。そんなわけで、それなりに仲が良い。 「黒曜さん、お招きありがともふー」 「来風ちゃん、久しぶりもふねー」 焔とおまんじゅうの関係は面白いと言うこともあり、来風は取材の対象として時折だが二体と会って話を聞く機会を設けている。それでも色々と話すのは少しばかり久しぶりかも知れない。焔はおまんじゅうとともに、もっふもっふと訪れてくれた来風を出迎えた。 「この前出た新刊、とても良かったもふよ」 もふのもふがこうもふもふでもふもふと。 もふらというのは実は必要な言葉の少ない種族なのかも知れない。そんな中で、来風がもふらの視点で描くもふら文学は、もふらとなったヒトビトの間でおもしろおかしく読まれているらしい。人間という存在だった頃の視点、もふらという存在になってからの視点、どちらからも読み進めることの出来る来風の文章は、読みやすくしかも元々がもふらだったもふらたち(ややこしいが)にも快く受け入れられている。これは文学界の大革命、といえるものなのかも知れなかった。 まあそんな話はともかく、焔は相変わらずおまんじゅうと一緒に行動している。 「相棒がもふの後輩になったもふから、もふは先輩としてもふらとしてのいきかたをびしばし教育しているんだもふ」 そんなことを言って胸をふんぞり返らせるおまんじゅう。すごいもふらになったぶん、相棒なんぞに負けないもふよ! という瞳の輝きがどこか見受けられる。 「おまんじゅうちゃんもおひさしぶりもふね〜」 来風もすっかりもふら生活に順応しているわけで、いつの間にやら語尾に「もふ」がついているが、もうそんなのは当たり前になっている、という感じだ。 「それにしても、まさかもふらさまを愛でていたら、私自身もがもふらさまになってしまう……なんてねぇ……」 焔は遠い目をしてしまう。 「相棒はあいかわらず食が細いもふよ。そんなんだから身体がちっちゃいんだもふ」 おまんじゅうはそんなことを指摘するが、実はおまんじゅうと焔のいまの体格にほとんど差はない。おまんじゅう、ただの食いしん坊である。しかし焔はくすくすと――いやもふもふと笑った。 「いや……おまんじゅうちゃんの食いっぷりはまねがしたいもふ……。私はもふらの身体になっても、大食いにはならなかったもふねぇ」 粗茶ですもふが、と淹れてくれた茶を飲みつつ、三体はもっふりと時間を過ごす。 「ほんとうは羽妖精にでもなれていたら、おまんじゅうちゃんの背中でもふもふと昼寝なども出来ただろうになあもふー」 胸の中にあるそんな残念な思いを口にしつつ、来風が土産に持ってきていたまんじゅうを文字通りむさぼり食らうおまんじゅうを見てくすくすと笑う来風と焔の二体。 「もふ? 笑っていないで、もふがたべかたの見本をみせてやるからとくとみておくもふよ!」 そう言いながら、そのたくましい食べっぷりを見たからこそ思わず笑みがこぼれているなんて気づかずに、おまんじゅうは息つく間もなく食べふける。一方の焔はおひつを持ってきて、おにぎりをぎゅっぎゅっと握ろうとするものの―― 「……この通り、握り飯ですら満足に握れないので、からくりさんをお迎えすることも最近は考えているもふよ」 焔はそう言って苦笑するばかり。 そう、こういう家が急増した結果、からくりの求人が非常に増えている現状である。からくりは相棒としても存在しているが、開拓者として志体の発現した例も最近は見られる。そしてそのいずれも、今回の「ヒトが相棒と融合しちゃったよ事件(仮)」には影響が見られないことがこれまでに判明している。おかげさまで、からくりの需要は軒並み上がる一方だ。 「そういえば、ジルベリア系のきれいな容姿をしたもふたちに優しいお姉さん方からくりがいたもふ」 足もすらりとして綺麗だったなぁ、とそんなことを思い出して焔は目尻を下げる。 「まだひとりみのようだったもふけど、うちに来てもらえないもふかねぇ」 ……誰のことを言っているかはわからないが、そんなきれいなからくりは既に就職先やら何やらを決めているのではないかと思われる。 「それにしても相棒はおにぎり握るのが下手もふねー、仕方ないからもふが代わりに食べてやるもふ。相棒と融合したから、もふの栄養は相棒の栄養でもあるもふ」 そう言ってべっちゃりしたにぎり飯をもぐもぐするおまんじゅう。 そんな論理が存在するかはともかく、その食べっぷりは何とも勇ましい。何も考えていないだけかというと、そういうわけでもないらしい辺り、もふらという存在の奥深さがうかがえてくる。 「そういえば」 おまんじゅうは思い出したように言う。 「もふは普段、相棒の心の中でおひるねしてるもふよ。相棒といっしょなのはとっても気持ちがいいんだもふ」 そして、来風に尋ねた。 「かすかちゃんも、来風ちゃんといっしょもふ?」 言われて思う。来風の大切な相棒――かすかと融合して、今、胸の中には確かにかすかの暖かい息づかいがあるような、そんな気がする。 「そうもふね。もふも、かすかといっしょで、しあわせもふ」 そう笑う来風の笑顔は、優しくそして暖かだった。 ● さあさ、如何にございましたでしょう。 これなるは、もしもの世界の物語。 ヒトにより、思うところは違うでしょう。 されど幸せな未来をつかめると、そう信じておられる御仁の夢のあとさきにございます。 今宵はこれまでにいたしましょう。 幸せなユメをとぎらせるのは、私どもの役目ではありません故に。 |