暑い夏にはキンキンの
マスター名:四月朔日さくら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/07/14 20:10



■オープニング本文


「暑いですねぇ……」
 疲弊した声で唸ったのは、来風(iz0284)。
 夏なのだから暑くなるのは当たり前なのだが、やっぱりそう簡単に我慢ができるものではない。
 それはもふらとて同じこと。
「あついもふー」
 横では相棒のもふら・かすかがへたり込んでいる。

 先日の締め切りも無事乗り越え、来風はとうとう本を一冊上梓することになった。
 とはいえまだまだ裕福とはかけ離れた生活、長屋で一人と一匹ぐらし。
「……たまには冷たいものでも食べに行こうか?」
 原稿料がちょっぴり入ったので、そのくらいの贅沢はできる。かすかもそれを聞いて耳をぴくりと動かし、早速いそいそと出かける準備を始めた。
 もふらとはいえ女の子(?)、身だしなみはきっちりとなのである。


 さて。
 街全体がうだるような暑さの神楽の都。
 そんな中で、妙な催しが開催されることになっていた。
 暑気払いのかき氷大食い大会――である。
 主催しているのは、最近人気の茶店『晦堂』をはじめとした甘味処数店からなる実行委員会。
 これでウケれば、夏の客も見込めるということだから、甘味処としても手を抜きたくないところらしい。
 もちろん開拓者ギルドにもその広告はバッチリだ。
「へえ……面白いねえ」
 来風が言うと、かすかは目を輝かせていた。
「もふ! かすか、これにでたいもふ!」
 ……確かに、参加者にもふらは不可とは書いていない。
 もふらのあの毛皮はやはり熱いのだろう、来風以上にバテているのは明白なかすか。
「それなら、参加してみようか?」
 参加手続きはギルドで代行しているらしい。早速来風は受付に向かうのであった――。


■参加者一覧
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
黒曜 焔(ib9754
30歳・男・武
ウルイバッツァ(ic0233
25歳・男・騎
シマエサ(ic1616
11歳・女・シ


■リプレイ本文


 暑い季節。
 いや、『熱い』季節、と言ってもいいかもしれない。
 とにかく暑いのだ。街を歩いているだけでも、ブワッと汗が噴き出してくる。
「スメヤッツァの装甲の上で、目玉焼きを焼けそうな暑さだねぇ……」
 ため息を付いているのはジルベリア出身のウルイバッツァ(ic0233)。スメヤッツァとは彼女の相棒たるアーマー「人狼」改のことだが、その上で目玉焼きを焼けるとなるとやはりかなりの暑さである。ウルイバッツァ自身はアーマーの中にいれば練換空調のおかげで快適なのは快適なのだが、練力がそんなに保つわけもなく……手っ取り早く涼しくなる手段を探していた。
 しかしてそんな中で行われることと相成った『かき氷大食い大会』。
 ――その主催に名を連ねる店の名前を見て、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)は嬉しそうに薄く微笑む。
「このような催しまで主催するとは……晦堂、すっかり大人気なのじゃな♪」
 『晦堂』というのは、本当につい先日まで存続の危機にあった甘味処である。それがリンスガルトを始めとする開拓者たちの手によって閉店はまぬがれ、今ではむしろ以前以上の盛況ぶり。
「よし、妾も出場するぞ。カチュ、応援頼むのじゃ」
 リンスガルトが相棒の人妖・カチューシャにそう言って笑ってみせれば、彼女を姉と慕うカチューシャは
「お姉ちゃまー、がんばってくださいー!」
 そんな無邪気な応援を掛けるのであった。

(甘いかき氷をお腹いっぱい食べられるなんて、夢の様な依頼ですにゃ!)
 そう嬉しそうにニコニコしているのは白い肌に漆黒の髪もかわいらしい猫の神威人、シマエサ(ic1616)。食べ過ぎると頭がキンキンするとかそういうことは全く関係がないらしい。傍らにいる甲龍・アヴェロワーニュ(通称アヴェロ)と顔を見合わせて、こっくりと頷く。アヴェロは見た目そのままに物静かではあるが、シマエサのことを思ってくれている。この暑さでへばりながらも、彼女が今『ご主人様』を見つけ、幸せな心持ちであることもわかっている。
 だから、こんなのんきな依頼もたまにはいいだろう。シマエサ自身もそう思ったのだろう、
「私が出場しますにゃ! アヴェロは応援……というか、そばに居てくださいにゃ♪」
 ゴツゴツした甲龍が会場に入れば、きっと子ども達のいい遊具になるだろう。気性の穏やかなアヴェロならではだった。

 ――一方。
 この大会、出場条件は特にない――つまり開拓者の相棒の参加もまったく問題ないわけで。
 実際、来風(iz0284)も自身ではなくもふらのかすかがそわそわして大会の始まりを待っている。
 と、そこにやってきたのは見覚えのある真っ白いもふら――黒曜 焔(ib9754)の相棒・おまんじゅうだ。
「もふ……あついもふね……こんなときこそつめたいものをい〜っぱいたべられるなんて、おさいふにもやさしいし、もふもでるもふよ! かすかちゃんもつめたいのたべにきたもふ?」
「もふ!」
 もふらは正直いって夏場は見ているだけでも暑苦しい存在だが、もふら自身もやはりもふもふのもふ毛があついらしい。しかし毛刈りをしてしぼんでしまうのはそれはそれで嫌だというのは心情的にわからなくない。もふらは人並みに賢いので、そういう発想ができるのだろう。
「このままではおまんじゅうちゃんも蒸しまんじゅうになってしまいそうだったからね……」
 主である焔はその脇で小さくため息。焔は焔でふさふさした毛並みのしっぽを持つ猫族なわけで、彼にしたってあつくないわけがないのだが。
「こんにちは、暑いですよねぇ」
 来風が焔に挨拶をすれば、
「暑いですね。特にしっぽは熱を含みやすくて」
 焔の声はいつもの様に三割増しのイケボ(女性に対してのみ)だけれど、暑さがやはりどこかからにじみ出ている。毛並みの長い神威人共通の悩みなのだろう、来風も鷹揚に頷いた。髪などの毛の色が濃ければなおのこと。
「こんな涼をとれる大会は、私も出たかったのだけれど……どう見てもおまんじゅうちゃんのほうが暑そうなので、ね」
「同じくです」
 来風も苦笑を浮かべた。
「もふは宇治金時にするもふ! もふのだ〜い好きなあんこがいっぱいもふ!」
 おまんじゅうがそう言えば、
「かすかはいちごもふ。あまくておいしいから、だいすきもふ」
 かすかもそう言ってもっふっふ、と楽しそう。
「がんばってたくさんたべるもふ!」
「もふ!」
 もふらたちはすっかりその気まんまん。
 そんな相棒を見て、来風もほほえましい気分になるのだった。

 そして相棒が参加しようとしているのはこちらにも。
「食通の妾が、しっかりと味を吟味してやろうぞ」
 そんな大胆不遜な態度をとるのは蓮 神音(ib2662)の仙猫、くれおぱとら。とは言ってもこれ、結局は食い意地が張っているというだけなわけで。
「冷たいものをたくさん食べたらお腹壊しそうだし、やめといたほうがいいと思うんだけど……どうなっても知らないよ!」
 神音はそう忠告するが、くれおぱとらはどこ吹く風。
「ふっふっふ、女王たるこの妾にかかれば、かき氷の大食いなど容易いこと。神音よ、主たる妾が勝利の栄光を手にするさまを、しかと目に焼き付けるが良いぞ!」
 そんな強気なことを言ってふんっとふんぞり返る。それを横で眺めていたのは以前依頼でも一緒になったことのある忍犬使い――桃色の髪も美しいシノビの御陰 桜(ib0271)。こちらは桜本人が出場する予定である。
「最近は熱いし、涼をとるにはもってこいよね♪ とはいえ、わんこたちにはしろっぷは甘すぎるし、何より涼みたいからあたしが参加なんだけど♪」
 桜はにっこり笑って相棒たちの頭を撫でる。闘鬼犬の桃は引き締まった表情で、(桜様、頑張って下さい)とばかりにひとつ吠え、まだ幼い忍犬の雪夜はかわいらしい鳴き声で応援する。そんなさまがまた愛おしくて、桜はもう一度犬達の頭を優しくなでた。
「じゃあ、応援しててね♪」

 さあ――大食い大会の始まりだ。


 会場は、街の中心部から少し離れたところにある広場だった。ご丁寧に日差しよけの天幕も張られている。出場者だけでなく観客にも涼をとってもらうため、そして主催店舗たちの茶処としての知名度を上げるため、さまざまな工夫がなされている。観客には冷やした茶が一杯振る舞われ、休憩しながらこの催しを見物できるようもになっていた。
 大食い大会に参加するのはさすがに胆力のある開拓者やその相棒ばかり。一部でそれなりに名のしれた開拓者も混じっているため、話題性という意味でもバッチリだ。
 ひと通り名前の紹介を済ませ、早速用意された席に着席する――あ、もふらや仙猫は人と同じように座るという訳にはいかないが。
 用意されたどんぶりはきれいなガラス製で、見ているだけでも涼しげ。そこに山と盛られたかき氷――氷いちご、あるいは宇治金時。観客たちもそれを見て、おおっとどよめく。
「さて、今回は誰がかき氷大食い王の栄誉を得ることができるのでしょうか!」
 晦堂で茶坊主として働いている丸坊主の青年が、そんな文句を言葉にすれば、見物人もヤンヤヤンヤの掛け声をかける。
「姉ちゃん頑張れやー!」
「もふらさまー、がんばって〜」
 応援する対象は様々だが、結局のところ娯楽を求める神楽の都の民にとって格好のネタとなるのが開拓者――といえなくはない。今回も参加者は開拓者や相棒ばかりなのだから、否定はできないはずだ。集まった開拓者もうら若き女性が多いとなれば、しぜん応援の言葉も飛んでくる。
 司会進行を務める茶坊主の角三が、ここで改めて今回の規則を簡単に説明する。
「挑戦者に食べてもらうのは、皆さんもご覧になっているこのガラスのどんぶりに入ったかき氷です。味はあらかじめ挑戦者に伺いまして、氷いちごと宇治金時のいずれかを食べてもらいます。制限時間は三十分。開拓者の相棒さんも参加しておりますが、相棒だからという意味合いでの制限などはとくに設けておりません」
 人だから、相棒だからというのはあまりない。結局のところそれぞれが一長一短の性質を持っているため、制限を設ける必然性が薄かったのである。
「かき氷は冷たいものですから、途中であたたかいものが欲しくなるかもしれません。そのために、こちらであたたかいお茶を準備して待機しております。希望者はどんどん手をあげてください」
 冷たいものを一度にたくさん食べると頭が痛くなる。その対策として、温かいお茶もあるというわけだ。まさかこんな余興のような大会で医者の世話になってしまうようなことになるのも拙い話だし、そのあたりはきちんと考えられている。
「では、皆さん。匙を持って――あ、相棒の方は無理に匙を持たなくてもいいですけど」
 いよいよ、始まる。

「それでは、開始です!」

 角三の大きな声と同時に、誰かが持ち込んだ銅鑼がじゃんとなった。
 冷たくて熱い戦いの、始まりだ。


 かき氷はあらかじめの指定制だが、ここであらためて確認しておくと。
 氷いちごを選んだのは、桜、シマエサ、そしてもふらのかすか。
 宇治金時を選んだのは、仙猫のくれおぱとら、リンスガルト、もふらのおまんじゅう、そしてウルイバッツァ――ということになっている。
 選んだ理由は人それぞれ。味だったり、腹もちだったり、そんなかんじだ。
「勝利を狙わせてもらうよ、大人げなく!」
 そう宣言したのはウルイバッツァ。彼は大会が始まる前にあらかじめ口の中を冷水で冷やし、冷たさに慣れるようにという努力までしている。逆にリンスガルトは面々の中に食い意地の張ったもふらがいることを考え、勝敗よりも楽しんで食べることを優先している。
(いくら健啖に自信があるとはいえ、もふらには勝てると思えぬしのう)
 美しく楽しくあることを第一にと考えるリンスガルト。冷たいものの食べ過ぎで腹痛はもってのほかだが、他にも頭痛を起こして顔をしかめるのもあまり他人には見せたくない。万が一のときはきちんと宣言して一時退席も考えていた。
「とりあえず一口……んっ」
 口の中に入った宇治金時は餡が適度に甘く、それでいてお茶のどこかほろ苦くもある味わいとが絶妙に絡み合ってなんとも言えない美味となっている。かき氷なんてどこの店も変わらぬと思うなかれ、今回のかき氷のシロップはいずれも最近人気の甘味処数店がこの日のために用意したとっておき。
 いちごの方を食べている桜も、口の中でほろほろと溶けていくかき氷のベタ付きすぎない甘さが心地よく、
「つめたくて美味し♪」
 とほっぺたに手を当てている。優勝にはもともとそれほど興味がなかったが、予想以上に口の中に吸い込まれていく。
(そういえば頭がキーンってなるのは頭の血管が冷えて縮こまっちゃうかららしくて、だから上顎にくっつけないようにして食べるとあんまり痛くならないって、そんな話を聞いたことがあるけれど、ホントかしら?)
 桜はわずかに首を傾げる。実際にそれを試すように食べてみたいものの、なかなか思うようにはいかない。
(ま、美味しく食べられるのが一番よね♪)
 そう思いながら、また一口、氷を含んだ。

 一方
「くれおぱとら、がんばれー」
 そんな応援をしているのは神音。その声を聞けば、くれおぱとらとしてもふんっといい気分になる。がっつくような真似はせず、一口ずつ自分のペースで……と食べているわけだが、
「決してキーンとなるのが怖いからではないぞ?」
 そんなことをうそぶいてはいるものの、まあ、わざわざ言うということは……というわけでもある。
「それにしてもなかなかよい茶葉に小豆を使っておるの。妾の舌にかなうとは、なかなかやりおるわ」
 そうくれおぱとらがつぶやけば、嬉しそうに店主が頷く。思わずがっつきたくなる――無論そんなはしたない真似はしないのだけれど――そんな味わいのかき氷、食べられることそれ自体が嬉しい話だった。
 ちなみに猫舌なので、あらかじめお茶を冷ましている真っ最中なのはまあ仕方がない。
 もふらは――というと。
 もふもふもふもふ。
 もふもふもふもふ。
 ……二匹仲良くモグモグ、いやもふもふとと食べていた。
「すずしくておいしくていくらでもはいっちゃうもふね〜」
 おまんじゅうがそう言えば、かすかも楽しそうに頷く。
「おまんじゅうちゃん、応援しているよ……!」
 いつもよりもへたった感じの耳と尻尾だが、それでもおまんじゅうを思う気持ちは人一倍。かき氷の方から流れてくる冷たい空気に一瞬目を細めつつも、応援を欠かさない焔であった。
 そして、そんな焔の気持ちを汲んだのだろう。おまんじゅうはシャリシャリとかき氷を平らげていく。
 冷たくなれば己のもふ毛で温まり、あんこを食べればある程度冷たさも解消される。作戦としては素晴らしいといえた。
 おまんじゅうと同様にあんこで冷たい氷を少しでも回避しようとしているのはウルイバッツァ。初めは量を食べるより口の中を冷たさに慣らすことを優先している。自分のペースを維持しつつ、しっかり食べるのが大事だ。
「おまんじゅうちゃんすごいもふ〜、かすかも食べるもふ……ちべたいもふ〜」
 舌をシロップで赤く染めながら、かすかも必死に食べている。そこまでする必要はないのだが、折角冷たいものをただで食べられるとなれば、急いでかき込みたくなるのも道理というもので。お茶を飲んで一息つきつつ、それでも食べるのをやめようとしないあたりはくさってももふらということだろう。
 一方同じく氷いちごを選んだシマエサといえば――
(サラサラして食べやすそうだから選んだけど、その分頭がキーンとなりやすいですにゃぁ!)
 とは思いつつも、おいしいものを食べて顔をしかめるなんて言うのは食に対する冒涜だと思っているから慌ててお茶を飲み、痛みを消そうとする。
(……ふ、ふう。大丈夫にゃ)
 ひたすら食べてはお茶で痛みを和らげるという、速度重視の戦法を選んだシマエサ。しかしこれには多くの課題があり、その中の最たるものは――
 きゅるるるる。
 冷たいものを食べ過ぎたせいで、お腹が急激に冷え、結果として腹痛を起こしてしまったのである。
(ま、まだいけますにゃ……!)
 お腹に力を入れつつも最終的には気力を消費するという荒業まで使うことになるとは、まだ気づいていなかった――。

「それにしてもこの茶は美味いのう。さすが晦堂の番茶、素晴らしい風味」
 リンスガルトは随所に店の宣伝を挟むのを忘れない。食べる量自体は少ないが、これも彼女の作戦の一つだ。
 先日の宣伝があったとはいえ、まだまだ晦堂をはじめとする茶処の幾つかは知名度が高いとはいえない。その打開策としてのかき氷大会であるからして、店の名前を端々で出せば宣伝効果も抜群――というわけなのだ。
 と、リンスガルトはすっと立ち上がった。
 無理をして食べ続ける必要はない。腹痛をもよおしたり頭痛がひどくなった時などは、その旨をこっそりと告げて退場すると決めていた。
(余ったぶんはカチュにあげればよいしの♪)
 大切な妹分のために残したと思えば、参加したのも悪いことではない。
 そのことを主催側に伝えると、主催側も笑顔で頷いてくれた。

(それにしても何やら体が冷えるのう。先ほど茶も飲んだのじゃが)
 くれおぱとらはそう思いながら、かき氷をまだまだ口に入れる。――しかし、限界が近いのはもうだいぶ目に見えていた。
(勝負の行方とやらはわからぬが、妾が負けるなどありえんしな。――って、神音?!)
 くれおぱとらが慌てるのも無理は無い。応援席にいた神音がすっと近づき、くれおぱとらをひょいと抱き上げたのだ。
「神音、妾を厠へ連れて行くのじゃ……っ」
 その神音の瞳が冷ややかであったことは、ここで付け加えておく。

 そんな中、自分の配分をきちんと把握しながらかき氷を食べる桜は程よく平らげていた。
 現時点で、普通の人なら二杯が精一杯と言われていたかき氷だが、開拓者たち全員はその倍近くをすでに腹の中に収めている。ひえた体を温める対策として、連れてきたワンコたちをもふもふともふる。
「そうだ、ひざ掛けの代わりに雪夜を膝に乗っけたりするのはダメかしら?」
 流し目に加えて夜春を使い、色好い返事をもらって早速雪夜を膝の上にのせる。(食べたいなぁ)という物欲しげな眼差しを桜に向けるけれど、甘いシロップのかかったかき氷は犬の健康にはよくないだろう。
「雪夜と桃には、後で氷だけのをもらってあげるから、今は我慢シてね♪」
 優しくなでてやると、雪夜もワンっと素直に鳴くのだった。

 そうこうしているうちに、あっという間に制限時間がやってくる。
 慎重に平らげられた皿の数を数えるのは、今回の実行委員達。ひぃふぅみぃよ……
 やがて、結果は大々的に発表された。

 犬を使って温まったりと何かと発想が奇抜だった桜。
 自信家であり、そしてそれを貫き通したくれおぱとら。
 そして、大食漢の代名詞とも言える、もふらのおまんじゅう――
 この三人(?)が、同じだけのかき氷を平らげていたことにより、優勝となったのである。


「おめでとう!」
 周囲の祝福の言葉に、照れるのは優勝者達。自分たちは大したことはやっておらず、あくまで自分の出来る限りを発揮しただけだ。
「みそキャンもお祝いに来てやったのじゃ♪」
 リンスがルトがまるごとわんこを改造したゆるキャラ『みそキャン』になって再度登場する。
「晦堂や協賛店の菓子はどれも一級品じゃ。美味しく食べてくれると嬉しいのう」
 リンスガルトがそう宣伝すれば、周りも興味をもったのだろう、あとで行ってみたいという声がチラホラと。
「らいか、かすかもいってみたいもふね」
「そうね……今度、余裕のあるときに行きましょうか」
 かすかに言われ、来風も興味津々といった様子。
 結果的にこの大会、大成功であったのだろう。


 夏はまだまだこれから。
 皆も、かき氷を食べて、気分を涼しくするのはどうだろうか――。