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■オープニング本文 ● 今日も今日とて神楽の都。 るんたったと軽い足取りで歩いているのは来風(iz0284)の相棒でもふらのかすか。 「おそとはきもちいいもふ〜」 もふらにしてはアウトドア派、といえるかもしれないかすか。 というか、来風が開拓者の割に書物を漁るのが好きなインドア派、というだけの気がしなくはないけれど。 今日はそんな来風に頼まれて、買い出しのお手伝いだ。 「おやかすかちゃん。きょうも来風ちゃん、忙しいのかい?」 市場に行けば、見慣れた顔の惣菜屋のおじさん。 「もふ。らいか、今日はめずらしいしりょうが手にはいったっていうから、ごはんのしたくができないんだもふ」 かすかは託された走り書きを惣菜屋のおじさんに渡す。 「ふむふむ……来風ちゃんも忙しそうだねえ。開拓者で、同時に書き物をしてるなんてねえ」 もちろん他にそういう人物がいないわけではない。が、来風の場合ちょっと運が良かった。 先日ためしに書いた絵物語がたまたま子どもに受けたため、版元がつくかもしれない――というところまでやってきたのだ。 来風は、もともと草双紙の作家を目指していた身。 これは願ってもない好機であった。 そんなわけで、来風はいまちょっとだけ忙しいのである。締め切りも間近というのが拍車をかけているらしい。 「かすかね、らいかががんばってるすがた、だいすきもふ」 絆で結ばれた相棒は、そんな本人が聞いたら嬉しい事を言ってくれる。 「そうだなあ。俺も来風ちゃんのお話、きらいじゃないしな」 そう言いながら惣菜屋はてきぱきときんぴらごぼうや鯖の味噌煮を包んでくれた。おまけに、小芋の煮っころがしも入れてくれた。 「じゃあ、来風ちゃんに頑張れって言っておくれよ」 「わかったもふ!」 かすかは、嬉しそうにしっぽを振った。 ● 「らいかー、かえったもふ」 かすかが帰ると、来風が笑って待っていた。作業はちょうどひと段落ついたらしい。 「おかえり、かすか」 そして首から下げていた、買い物用のかばんを一式来風に渡す。 「きょうもおいしそうもふよー?」 「そうね、さっさと食べちゃおうか」 そう言いながら来風は食品を机に並べ――そしてふと思った。 「ねえ、かすか」 「なにもふ?」 かすかはきょとんとした顔で見ている。 「かすか、お小遣いってもらったら、どう使う?」 「おこづかい、もふ?」 かすかは少し悩んだ。お手伝いのお駄賃でお団子をたべるくらいはしたことあるが、きちんとお小遣いとしてお金をもらったことはなかったような気がする。 「さっきちょっと思いついたの。相棒がお小遣いを持ったら、どんな行動をするかなあって」 なるほど、はじめてのおかいものというのは子供向けの題材にはぴったりかもしれない。 「んー、んー……かすかは、よくわかんないもふ」 実際に渡されないと、わからないだろう。たしかに。少女は小さく唸ると、ぴんと思いつく。 「じゃあ、こうしましょうか。依頼で、相棒にそれぞれ五百文渡した時にどう動くか……ほかの相棒さんの意見も聞いてみたいし」 「もふ? おでかけできるもふ?」 かすかは目を輝かせる。 「うん、締め切りももう明後日だし……それ以降なら余裕もあるかなって」 来風も、なんだか楽しそうに頷いた。 |
■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
露草(ia1350)
17歳・女・陰
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
宮鷺 カヅキ(ib4230)
21歳・女・シ
黒曜 焔(ib9754)
30歳・男・武
ジョハル(ib9784)
25歳・男・砂
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)
48歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ● 「というわけで、皆さんに五百文ずつ配ります。有意義に使ってくださいね」 来風(iz0284)の呼びかけに集まった相棒たちは、そう言われて元気良く応える。 「それじゃ、いってきますもふ!」 来風の相棒、かすかが手を大きく振ると、他の相棒たちも出発した。 ● そんな相棒の主たちの控室では、誰もがどこかそわそわしていた。 「でもね、ほんとはほんとはすごく心配なんです! そりゃ上級になって頭も良くなったし仕事もできるようになったけど! それでも素直すぎてもし誘拐されてしまったらなんて思うとおおお!」 露草(ia1350)のそれは、心配し過ぎのような気もしなくはないが。出発したのは、上級人妖のそとおりひめである。 「ま、大切な相棒を信じなくっちゃね」 闘鬼犬の桃を相棒に持つ御陰 桜(ib0271)は、くすりと笑う。 「あれ、そういえば一人足りないような……」 人妖・白菊の主、宮鷺 カヅキ(ib4230)がポツリと問えば、 「ああ、あの人なら相棒の様子を見に追いかけて行きましたよ」 もふらのおまんじゅうを相棒に持つ黒曜 焔(ib9754)が優しく微笑む。 「無事に帰って、来るといいが」 ジョハル(ib9784)も、ポツリとつぶやいた。 ● 「買い物って、ジョハルと一緒だと園芸品ばっかりだから、今日は服やアクセサリーを好きなだけ見よっと!」 ジョハルの相棒・人妖のテラキルはそう言いながらあちこちの店を見て回る。 呉服屋では見事な刺繍や染め物の着物をため息を漏らしつつじっと眺めている。 (お金もないから見てるだけ、だけどね) でも見ていると欲しくなるのも人情。 (いや、まだまだ我慢っ) 少年の姿をした人妖は、そう首を横に振る。 次に覗いた靴屋では、女性物の靴を眺めてうっとり。 「俺は履けないけど、綺麗だよなぁ……もはや芸術品だよな、これ。こういうの見ると、女の子はいいなーって思っちゃうなー」 確かに、女性のほうが着飾ることを普通にしているのだから、そんなものなのかもしれない。続いて入ったジルベリアの小物を多く取り扱う雑貨店でも、テラキルの目にとまるのはかわいいもの、小さいもの。 (こういう細かいものって見てるだけでも楽しいよな、宝探ししてるみたいで) 手持ちの金でいい商品を買うというのはたしかに宝探しに通じるものはあるかもしれない。目にとまるのは耳飾り、素材や細工でついつい目移りしてしまう。試しに自分の耳に当ててみたりして、それも楽しい。 と、 「あら?」 先ほど別れたはずの依頼仲間の一人――カヅキの人妖・白菊とばったり遭遇した。 「好きなモノを買ってきて欲しいって言われたけど、急に言われても思いつかなくって」 白菊は苦笑しながら周囲を見渡す。 最初は大通りの小間物屋さんも見てたんだけど、なんだか気になって……ということらしい。 一人で出歩くのも久々なので、うんと動きたいということのようだ。 「なにか買いたいものでもあるの?」 テラキルが問うと、白菊は考える。 「んー……。あ、そういえばカヅキちゃんにお祝いをわたしてなかったから、それを買いたいなって」 「お祝い?」 「うん、今カヅキちゃん、すごい幸せなんだよ!」 白菊もまるでおのれの事のようにふんぞり返る。 「幸せ……か」 テラキルはそっとつぶやくと、ちょっと休憩とばかりに店を一旦後にした。残された白菊は不思議そうに首を傾げつつも、カヅキへの贈り物ですぐに頭はいっぱいになる。 ふと見上げると、そこにあったのは白い花が繊細にあしらわれた人間用の腕飾り。柔らかい薄紫がかった色味が綺麗な一品だ。 (あの大きさなら、彼女は腕飾りに使えるし、会ったしなら首飾りになりそう!) しかし、よく値段を見ると、――渡された金額よりちょっぴり高い。 「ダメ、百文足りないわね……どうしよう」 眉毛を八の字にして、唸る白菊であった。 ● いっぽうこちらは食料品店の多い通り。葛切 カズラ(ia0725)の相棒で天妖の初雪は、あちこちを見て回っていた。はじめこそ、 (お小遣いがもらえて買い食いできるのがお仕事なんて、なにそれ新しいトラップ!?) なんて考えていたが、事情を知るとなんとも納得がいく。 「……でも五百文もあれば万商店でチョコレートを買っってもお釣りは十分来るんだけど、ここはもう少し細かいもので攻めて行きたい気もするし……まずはお店巡りだねっ!」 カズラと店巡りを掏るときのことを思い出しながら、初雪は店を見て回る。 安いお店というのは必ずどこかに存在する。その安さの理由はいろいろあるのだろうけど、彼女がおねだりすればもしかしたらいくらか安く手に入れることもできるかもしれない。 (カズラだってよくやってるし、他の子にもできたんだ! 僕にだってできるはず!) そんな店を見つけるところからが、まずきょうの使命だった。 「うわぁ……これだけあれば、ケーキもチョコレートもクッキーも買えちゃうなの!」 そう顔を赤く染めているのは露草の相棒衣通姫。 『おかしや、きらきらしたの』という、どうにも漠然とした希望しかなかったものの、さすがに大量の菓子を見れば思いはそちらにまっしぐら。 ケーキもチョコも、飴玉やクッキーも大好き。 運がいいことに、衣通姫が入った店はケーキ以外は駄菓子のたぐいということで二束三文で買えてしまう。そう、ここは質よりも量の駄菓子店! 当然お金があれば何をする? 決まっている、あこがれの大人買いだ。……もっとも、大人買いをする人ほど子どもなのかもしれないけれど。 「きらきらしたの……きらきらしたのはどこにあるかな……?」 衣通姫は、さっそく次にほしい物を探すため、移動を始めた。 その両手に、たくさんのお菓子を抱えたまま。 一方もふらはと言うと―― 「かすかちゃん、かすかちゃんはなにを買うもふ?」 食いしん坊なおまんじゅう、この食料品店街に入ってから既によだれがこぼれまくり。首から下げた可愛らしいがま口財布を時々手でポンポンと触りながら、すっかりご満悦といった表情だ。 「かすかはねー、らいかになにかかってあげるもふ!」 かすかの方は、ある程度使い道を決めてあるらしい。 「おまんじゅうちゃんはなにかきめてるもふ?」 「もふはね〜、おいしいものをた〜くさん買うもふ!」 嬉しそうなその声に、思わずかすかもつられて笑顔。 ――けれど。 「えっと、これとこれとこれとこれと……これをくださいもふ!」 おまんじゅうは、現実を知らなかった。お菓子屋さんでそう言って自信満々に差し出した五百文、しかしそれでは全く足りなかったのである。 「えっ、五百文じゃこれだけしか買えないもふ……? 相棒はいつもあれもそれも買ってくれるもふよ? そんなのおかしいもふ〜」 けれど、おまんじゅうだって馬鹿なわけではない。 いつも少食だからとおまんじゅうに食べ物を譲ってくれていた相棒。もちろん実際に少食なのは確かだけれど―― おまんじゅうは、手の中の五百文をじっと見つめた。 「もふ……!? もふ、もしかして今まで相棒に無理させてたもふ……?」 さっきまで垂れ流していたよだれも引っ込めて、今度は目尻にほんのり涙。ややあって、おまんじゅうは歩き出した。 (五百文の使い道、決めたもふ) 「かすかちゃん、かすかちゃん!」 おまんじゅうは見知ったもふらの名前を叫ぶ。 「どうしたもふ?」 ちょうどかすかは来風と二人で食べるお茶菓子を買っていた真っ最中。おまんじゅうは、かすかを見つけると、至極真面目な顔で尋ねた。 「この近くで、安くて美味しいお惣菜のお店、知ってるもふ?」 ● 闘鬼犬の桃は真面目で努力家なしばわんこ(桜談)である。 なので、今回もまじめに五百文の使い道を考えてみた。 ついでに言うと、闘鬼犬という相棒進化をしたから話せるようになったものの、桃自身は一般の人の前では話すことはまずない。 (それにしてもお遣い以外でお金を持つのは初めてなのですが、なにに使ったら良いのでしょうか……とりあえず、桜様と訪れたことのある店を覗いてみることにしましょう) ――しかし。 (鍛冶場や修練場というのは、普段から結構お金がかかっていたのですね) 訪れてみたものの、全く費用が足りずにとぼとぼとまた通りを歩く。普段桜がどれだけ自身や桃たち相棒に気を配っているか、改めてわかった気がする。 万商店も覗いてみたものの、これといって欲しいものは思い浮かばなかった。 (――それにしても、考えてみると私はかなり恵まれているのでしょうね。命をかけても護りたいと思える主がいて、その為に成すべき修行に励むことが出来、そして栄養面も考えて食事を作ってくださる方もいるから飢えることもない……幸せものです、私は) そして、財布に入ったままの五百文をどうしようか再び考える。 (使い道が特にないなら……) 桃はゆっくりとした足取りで、以前訪れたことのある神社へと向かうのだった。 ● さて、ここまで全く話題に登っていない相棒がいる。 鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)の羽妖精、ビリティスだ。 「小遣いもらって自由に使っていいなんて最高の依頼だな! でも何に使うかね……」 はじめはそんなことを考えていたが、フッとひらめいた。 「待てよ、ただ使わねぇで金を増やせば欲しいものがいっぱい買えるよな……よしそれだ! めっちゃ増やすぜー!」 そう言ってさっそく飛んで行く。それをテラドゥカスは物陰から見ている、のだが、まったくもって隠れるのに適していないその体格である。しかしビリティスも気づいてないからどっこいどっこいだ。 (……ふむ、何やら……とりあえず用意はしておくか) 財布から五百文を用意して、いそいそと買い物に出かけるテラドゥカスであった。 ――というわけでビリティスがたどり着いたそこは、興奮と熱気が渦巻いていた。あちらこちらから聞こえる丁半はったの威勢のよい掛け声。 賭場である。 店の主にも許可をもらい(面白いやつだと思われたようだ)、さっそく参戦――こっそり幸運の光粉を使いながら。 こうすれば自分のはったほうに当たりが出やすいはずだ。そう思いながら。 結果としては悪い発想ではなかった。が、ビリティスは一つ大切なことを忘れていた。 それはスキルを使っていれば当然のように発生する、練力の枯渇である。 ここ一番の大勝負、随分増えた金額をまるっと賭けたにもかかわらずその勝負に負け、そこから後はあれよあれよの都落ち。 最終的にビリティスは持ち金どころか身ぐるみ全部引剥がされ、仕方なく近くに落ちていた納豆用の藁苞に身を包み、とぼとぼとギルドへと戻っていくのだった。 ● 「ただいまー!」 時間は頃よく日も茜色。 相棒たちは目を輝かせながら、あるいは遠い目をしながら、それぞれの主のもとへと戻っていく。 「では、買ったものなどをもし良かったらおしえてもらえますか?」 来風がそう尋ねると、嬉しそうにビー玉を取り出したのは衣通姫。 「これなの! これをもっときらきらしたのにさせるやり方、おしえてもらったなの!」 一部で「クラック」と呼ばれている手法のことだ。駄菓子屋の次に行った雑貨屋で、教えてもらったのだという。 「あのお店ね、もっとたくさん指輪や首飾りも売ってたなの! 露草、今度一緒に行こうなの♪」 そう言われて嬉しくないわけがなく、露草は優しく衣通姫の頭をなでてやった。 「はーい! 俺さ、ジョハルとお揃いの耳飾り買ってきたんだ!」 今度はテラキルである。 (ジョハルは最近体の調子の良くない日が増えてきてる……自分でも『あまり長くない』なんて言ってた。いなくなっちゃうのは、寂しいな) 大切な名前を――『永遠』という名前をくれた大切なジョハル。テラキルにとってのジョハルは『永遠の相棒』なのだ。 「何があっても、離れ離れになっても、俺とジョハルの絆は永遠だって言う印なんだからな、これ!」 そう言うと、ジョハルに手ずから耳飾りをつけるテラキルなのであった。 「カヅキ! これ、カヅキにって!」 白菊はそう言って何かをカヅキに渡す。首を傾げながらカヅキが封を開けると、そこには先ほど雑貨店で見た腕飾りが入っていた。 「えっ、いいの……?」 「うん! これならカヅキには腕飾りにピッタリだし、あたしなら首飾りになるもん。お祝い、してなかったから」 カヅキには大切な人がいる。そして、白菊にとってもきっと、大切な人となるであろう。 そんな大切なお祝いをしなかったら、バチが当たるというものだ。 値段は予算を超えていたので、甘上手を使ってまけてもらったのはここだけの話。 「ありがとう、白菊!」 そう言ってくれるカヅキの笑顔が嬉しくて。白菊も、にっこり笑った。 「これはね〜、カズラと一緒に食べようと思ってさ!」 そう言って初雪が示したのは箸巻きや回転焼き、小腹の空いたときに食べるのにピッタリの軽食類だ。 「ふふ、よく見つけたわねぇ」 「カズラのやり方を真似ただけ! 伊達に長いことカズラを見てないからね……うん!」 質のあまり良くない商品を売っている店に限って、「おねだり」が効果的だったりする。これはカズラから学んだことだ。 「野菜ばっかだけど、おいしい〜!」 口の中をふくらませながら、初雪は満足そうに頷いた。 「桜様、今日は貴重な経験をしてきました」 桃はペコリと桜に一礼。 「楽しかった?」 「はい、ありがとうございます」 桜の言葉にも丁寧に。賽銭箱に入れた五百文のことは口にしない。言えば、きっと願いもかなわないような気がするから。 (桜様の力と成れるよう努力致しますので、どうか見ていて下さい) そんなお願いをしたのである。 「お金はあたしが用意したわけじゃないけど……」 桜はどこか不思議そうな顔。しかし、清々しい桃の顔つきは、悪い気はしない。 「いいえ、町を巡っていて、そう思ったのです」 「ふぅん、そっか。楽しんだなら、良かったわね♪」 見えない絆は大切なモノだとしみじみ思う瞬間だった。 「相棒! おみやげもふ!」 いつも食い意地の張ったおまんじゅうが、いつもよりも少ししおらしく、その包みを焔に渡す。 「えっ、おまんじゅうちゃん……開けていいかい?」 そして中に入っているのは――魚料理などが詰まった、小さなお弁当。 「……えっ……」 とっさのことに、焔は言葉が出ない。 「おまんじゅうちゃんが……自由にできるお金を……私のために……?!」 「もふ! 食べて欲しいもふ!」 おまんじゅうがつぶらな瞳で見つめる中、焔は一口魚を口に運ぶ。 それは、ほんの少ししょっぱい味がした。 「おいしいもふ? おいしいもふ?」 「……っ、美味しいよ、どれも私の好物ばかりだね……ありがとう、おまんじゅうちゃん……」 きっと焔の顔はくしゃくしゃだろう。でも何よりも、こうやって自分のことを思ってくれるおまんじゅうの行動が嬉しくて、焔は弁当をかきこむ。 「きみも食べるかい?」 「……! ふたりでたべるほうが、おいしいもふね!」 大切なことを学んだ、おまんじゅう。 ひとつは、お金の大切さ。 そして、他人が喜ぶことは、自分も嬉しくなるということ。 一緒にご飯を食べるその味はきっと、何物にも代えがたい思い出になるだろう。 ● と、ここでようやく帰ってきたのがビリティス。 「おお、帰ったか。聡明なるお前のことだ、さぞや有意義に使ったのだろう?」 藁苞を巻いたその姿にそう聞くのだからちょっぴり意地が悪い。 「それがさぁ……その、博打ですっちまってよ」 予想通りの返答に、テラドゥカスは小さくため息。 「アレは胴元が一番儲かるようにできておる。素人が手を出すものではない」 そう言って言い聞かせる。しかし、 「お、おう。次こそは大儲けするぜ――ってぇ!?」 そういった瞬間、ビリティスはパシーンと尻を叩かれた。反省の態度があまり見られないということで、その気合入れ。……もちろん手のひらで叩くわけではない。大きすぎるので指で弾く程度だ。 「反省したか?」 「わかった、もうしねーからー!」 と、テラドゥカスは指を休め、大福を手渡した。袋にゆるい犬の絵が記されている。 「最近話題の晦堂の塩大福だ。同じ五百文ならこちらの方がいいであろう?」 テラドゥカスのいきなはからいに、涙や鼻水を垂らして思わず抱きつくビリティス。 「わー、ありがとう!」 納豆のネバネバがついたままの状態で。 「……もっとも、食べるのは風呂と着替えの後だがな」 どこか困ったように言うテラドゥカスに、思わず誰もが笑顔になった。 ● ――相棒に五百文を渡してわかったこと。 来風はかすかのおみやげである新しい墨を試しながら、サラサラと文章を紡いでいく。 相棒に五百文を渡してわかったこと。 相棒と開拓者の心の絆の強さ。 ゆっくりと、着実に成長していく相棒たち。 そして、 大切な存在を大切な存在として認識することの、大切さ――。 |