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■オープニング本文 ● 「きれいだなー」 来風(iz0284)とかすかはいつもの様に一緒に歩いている。 今日は大きな用事もなく、来風もかすかものんびりしたものだ。 梅雨の直前、空は綺麗に晴れている。 そういえばこの時期、増えるのが―― 「あ、あっちにもいるねえ、綺麗」 そう、花嫁御寮。 6月に嫁入りすると幸せになれる――そんなことがまことしやかに伝えられている。 とは言え来風は結婚なんぞまだまだ先の話と考えているのだが―― 「かすかもあんなかっこうしてみたいもふ」 そう言って、キラキラした瞳で花嫁御寮を見つめるもふら一体。 「かすか、花嫁さんになりたいの?」 来風が問えば、かすかは力強く頷いて。 「そうか……でも恋人とかいないでしょ?」 「もふ?」 かすか、どうやら結婚という世間の仕組みについてわかっていない。 「ああ、でもたしかに花嫁姿は憧れよね」 かすかがうっとりする気持ちもわからなくはない。来風とて、幼いころは憧れたものだ。 (でも、もふらの花嫁衣装か……) 確かに自分よりも相棒のほうが先に恋人を見つけそうで、少しフクザツな気分の来風。それをかすかはきょとんと見上げていたが、そんなかすかの姿にふと来風は何かを思った。 (朋友のとびっきりの花嫁衣装、って見てみたいかも) 思いつけば行動は早い来風、さっそく開拓者ギルドへと足を運ぶのだった。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
露草(ia1350)
17歳・女・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
宮坂義乃(ib9942)
23歳・女・志 |
■リプレイ本文 ● 相棒だってきれいな服を着たいし、開拓者は相棒にきれいな服を着せてやりたい。 これって結構真理だと思う。 ――などと来風(iz0284)は帳面に書きつけながら、集まった開拓者を見やる。見知った顔がチラホラあって、それだけでなんとなく気持ちがワクワクしてきた。 勿論わくわくそわそわしているのは来風に限ったことではない。 依頼に参加している開拓者も、今日の主役たる相棒たちも、皆どこか浮き足立っている。無論例外がないわけではないが――全体的な雰囲気は、やっぱりフワフワといかにも楽しそう。 とはいえ、開拓者の中には数多くの相棒を連れている人も少なくない。今日連れている相棒が、いつも依頼で会うかといったらそんなこともなくて。 「今日は迅鷹なんですね?」 来風が声をかけたのは、エルディン・バウアー(ib0066)。ケルブという上級迅鷹なのだという。来風は初めてお目にかかるかもしれない。 「ケルブは女の子なのですが、たまに私の夢の中に少女の姿で出てくるのです。一生懸命、私の手助けをしてくれていましてね。その時の姿がいつも似たような白い服でしたから、今日はドレスアップしてあげようと思いまして」 そう言って微笑む姿は、いかにも神父らしい慈愛の眼差し。 その一方、いつもと変わらぬ体の人もいるわけで――それが『わんこますたぁ』こと御陰 桜(ib0271)。 彼女は今日も、大切な相棒の闘鬼犬・桃を連れ立っている。珍しいといえば、今日は傍らにジルベリア風の女中、すなわちメイドの装いをしたからくりの少女が立っていることか。 「カワイイコがカワイイ格好していると、見ている方も幸せな気持ちになるわよねぇ♪」 そう言いながら、来風にからくりのプラムを紹介する。 「ウェディングドレスって、憧れちゃいますぅ!」 そんなことを言うプラムはいかにも女の子らしい雰囲気。桃はオシャレにあまり興味ないのだろうか、不思議そうな顔で主や周囲のフワフワした空気を感じ取っているらしい。 「こんにちは、先日はお兄さんにお世話になりました」 泰大学にいる兄も、時折開拓者であることから大学とギルドの仲立ちをすることがあるらしいのだが、どうやら彼――雪切・透夜(ib0135)もそんな参加者のひとりだったらしい。 「いい機会だから、ヴァイスにドレスアップしてもらおうと思いまして」 上級からくりのヴァイスはというと、普段は騎士然としているしっかりした性格なのだが、あえて言うと斜に構えつつも主人を慕う――わかり易い言葉で言えば『ツンデレ』というやつだ。 今も、ヴァイスは複雑そうな表情を浮かべたままだ。とは言えヴァイスも女性、美しい服装に憧れていないわけではない。言葉を発していないのは、その服装の数や種類の多さに驚いているからである。 「本当に龍や人妖のものもあるんだな。見事なものだ、これほど取り揃えてあるとは……。眺めるだけでも違うのだな」 そう思わず口からこぼれた言葉に、今回服装を用意した洋品店の主は顔を綻ばせる。元々相棒用のおしゃれ着などを扱う店なのだが、今回は花嫁衣装をということで、腕によりをかけて準備したらしい。 「皆さんに相応しい衣装を用意させてもらいましたからね! こちらも腕がなりますわ!」 「え、もしかしてアリスに見合うドレスもあるんですか〜……?」 思わず声を上げるのはサーシャ(ia9980)。なかなか面白い企画だと思って参加した彼女、ジルベリア人にしても随分と身長の高い女性であるが、彼女の相棒であるアリス――正式名称アリストクラートは更に大きい。というのも、アリストクラートはアーマー「人狼」改であるためだ。乗り手が大きければ、当然そのアーマーも大きくなるわけで、結果としてアリストクラートはアーマーとしても大きい方であった。 店主は、 「種類が多いってわけじゃないですがそれなりには。それに、ボリューム、つまりふわっとした雰囲気とかをかさ増ししたい人のために、チュールレースやオーガンジー、シフォンなんてものもそのままの形でたくさん用意してきましたからね、その場でちょちょいと手直しすることも出来ますよ」 チュールレース、オーガンジー、シフォン……異国の服飾に詳しくない来風が尋ねると、店主はニコニコしながら説明してくれる。触り心地やそのふんわり感は、確かにドレスならではのものだった。色柄や意匠も、随分とたくさん用意してある。 「きれいもふ〜」 来風の相棒であるもふらのかすかがきゃっと嬉しそうに声を上げる。確かに綺麗な布の数々、少女の夢を叶えるのにぴったりなドレスも山のよう。 さあ、ドレスアップの時間だ。 ● 「ふふ、いつきちゃんをキレイに着飾らせないと♪」 化粧道具一式持ち込んでやる気満々なのは、普段は物静かなおとなしい女性として周囲に認識されている露草(ia1350)。 実は彼女、驚くほどの少女趣味で、使用する式も少女の姿をしていたり、うさぎのぬいぐるみを模していたりと言う、典型的可愛い物好き。彼女が上級人妖の衣通姫を連れ立ってこの場所にきたからには、目を輝かせないわけがないわけだ。 そんな目の肥えた彼女が嬉しそうに手にしたのは、アル=カマル風のドレス。 「いつきちゃんは銀髪がきれいだから、鮮やかな色合いにしたほうが似合うかもですねー♪ 普段着ませんから、いっそ紫色系とかどうでしょう?」 店主に相談すれば、ゴソゴソと取り出される人妖サイズのアル=カマル風衣装。絹で作られたそれは、細かい刺繍も丁寧に施されている。しかも何種類もあって、思わず目移りしてしまう。 「人妖や羽妖精のお客さんは普段から結構いらっしゃいますからね、この大きさならそれなりの揃えはあるんです」 満足そうに笑う店主。 まるで重さなどないような柔らかなシフォン素材のヴェールなども数多く、衣通姫も一緒になって楽しそうに 「これも着てみたいなー」 などと提案している。そうして二人で選んだドレスに、髪型もいろいろ遊んでみたり、そこに髪飾りとしてビーズをあしらったかんざしの類をつけてみたり、二人してすっかり大喜びだ。 そうやって綺麗に飾り付けられた衣通姫。 紫にたっぷりの蝶の刺繍が施されたエキゾチックな花嫁衣装を身に纏い、髪の毛もすっかり整えられて、歩けば足環がしゃらりと鳴る。普段と趣の異なる姿に露草もすっかりメロメロである。 「終わったら、また甘いものでも食べに行きましょう」 「はーい♪ 楽しみー♪」 そんな二人の会話も楽しく聞こえた。 「いやー、刃那が依頼を見つけてからソワソワしだしたンでな、なんかいつもと違う格好を見るのも面白そうなんで参加させてもらったさね」 そう言いつつ衣装を見ているのは北條 黯羽(ia0072)。相棒の刃那も衣通姫と同じく上級人妖だ。普段は淑女然とした刃那であるが、今回はやはり胸ときめかせているらしい。 (花嫁衣装はやはり女子の夢じゃからのう……良き機会をもらえたこと、感謝せねばな) 普段は天儀風の装いで通している刃那であるが、折角の機会ということもあって、 「最初はジルベリア風で、お色直しにアル=カマル風にすると良さげさね。どうだい?」 という黯羽の言葉も耳に入っているのかいないのか、うっとりときらびやかな衣装を眺めている。 「っと、ジルベリア風とアル=カマル風か……どちらも確かにあまり普段は着ることのない服装ゆえ、妾も興味はあるの」 着こなせるかという楽しみ半分と同時に不安も半分。 黯羽も己の美的感覚の類を鑑みるに、自分が選んでやると露出が高くなりがちになるだろう。しかし、そのことに気づいた瞬間にため息でも出せば、それは刃那の冷たい視線の的になることうけあいなのだけれど。 「と、今回の主役はあくまで刃那だからなァ。綺麗な姿、楽しみにして待ってるぜ」 黯羽はひらひらと手を振って笑う。刃那はといえば、あれこれと考えに考えた挙句、花嫁衣装の基本形ともいうべき純白のドレスを手にとり、さっと更衣室に向かった。やがて出てきた姿は―― 「おお、よく似あってるじゃねぇか!」 「ふふ、感謝するぞ」 黯羽の声ににそんな言葉で返した刃那。白いふんわりとしたドレスは、パニエと呼ばれるアンダースカートを身につけているため一層フワフワと綺麗に膨らんでいる。また、そのドレスの胸元や裾には銀糸で美しい薔薇の花が刺繍されており、これもまた普段の雰囲気とはかなり異なって見えた。 頭にはシフォンのヴェール。丈の長いヴェールは引きずるようになっているが、それもまた愛らしい。 「店主にも、このような服を着る機会をくれたこと、感謝せねばな」 刃那がそう礼をすれば、店主もよく似合っていますよと、笑顔で頷いた。 「それにしても、ホントに色んなことを考えるよなー」 そう言って笑うのは、輝鷹のヴァイス・シュベールトを連れたルオウ(ia2445)である。 「本当は別のやつを連れてこようと思ったけど、この歳で着るつもりはないって断られちまってなー。ヴァイスなら、以前に雛祭りの衣装も着たことあるからさ」 なるほど。しかしヴァイスのために選んだのは、アル=カマル風のタキシード。もともと武人の如き無骨な性格で、やや照れ屋なところのあるヴァイス、着せてもらったのはよいが、 「かっこいいじゃん! よく似合ってる」 と軽くルオウがからかってみるものだからつついてみたり。とはいえもちろんじゃれあう程度だが。 「いやほんとだって、鏡見てみろよ」 ルオウはヴァイスを鏡の前にやって、男ぶりの上がった姿に嬉しそうに微笑む。 「折角だし、他の衣装も試してみるか?」 そんなことを言ってみれば、ヴァイスもまんざらでもない様子。言葉は交わせなくても、長い付き合いというだけ会って感情はしっかりと伝わる。 ――と、 「おや、そちらは輝鷹のようですね」 話しかけてきたのはエルディンだ。同種の上級迅鷹――ただしこちらは女の子だが――のケルブとともに服を選んでいる真っ最中だった。エルディンは夢の話をざっと説明すると、 「へぇ〜、面白そうだな」 ルオウも頷く。折角だから見物と洒落込むらしい。 まずケルブのためにとエルディンが見繕ったのは、真っ赤なカラードレスだ。 「赤は情熱の色ですからね」 エルディンは楽しそうだ。後頭部や背中、胸部を中心に装飾を施し、飛ぶのに邪魔にならないようにと心がけてある。ワインレッドの艶のあるシルクサテンに赤と金のスパンコールを散りばめられてあり、さらにその上にひらひらとしたレースで飾り付けがされている。 「少々派手ではありますが、真っ白のケルブにはちょうどいいでしょう。セクシーですよ」 そう微笑む神父様、いかにも嬉しそう。そんなケルブも嬉しそうで、エルディンの頭を軽く突く。 「いててて……、喜んでいるのか怒っているのか、さっぱりわかりませんよ」 そんなことを言いながら、エルディンは苦笑する。嫌がっているわけではなさそうなので、そのまま今度はお色直しとばかりに、あっという間に着替えさせる。 「あと、こんな色はどうでしょう、清浄さを示す、青ですけど」 シルクシフォンのやわらかな淡い青の生地、そして背中に青いバラが飾られている。ケルブのお似あわせるように、背中から青と桃色のふさが伸びていて、一見すると尾に青いメッシュが入っているようだ。首には青いリボンを巻き、リボンの縁取りはふさと色を合わせた桃色。いかにも若い女の子が好みそうな色合い、そして意匠である。 「おお、これはよく似合いますね。清らかさが教会のイメージにピッタリです。私が説教を行う日には、これを着ていてほしいものです」 そんなことを笑顔で言うエルディンだったが、ケルブだって女の子。神父様が喜んでくれるのは嬉しいけれども説教はつまらないと言いたげに、エルディンの頭を軽くついばむ。 「だから痛いですってば。……言葉を話せると、本当はいいのですけれど」 エルディンが苦笑しながらそういえば、ケルブもおとなしくついばむのをやめて頭を擦り寄せる。まるで、愛おしい相手にするように。 「おお、神父さんとこの迅鷹もいろいろ器用だなー」 ルオウが感心するように言えば、エルディンもケルブも満足げだ。 「ええ。このドレスを、きっと気にいってくれているのだと思います。……折角ならこの絵姿を残して広告代わりにしていただきたいくらいですね」 ケルブの可愛らしい晴れ姿は、人々の目に触れてもらいたいから。ルオウはそれならとポンと手をうった。 「お、それ面白そう。うちのヴァイスは見ての通りタキシードなんだけどさ、それなら広告用の絵姿は一緒になってもらったほうが画面映えするかもしれないし。いや、そのまま飛ばせたり、肩に乗せて歩いたりするのも、印象に残るって意味ではいいかもしれないなー」 なるほどと頷いたエルディン、ルオウも楽しそうだ。 この二羽が並んで飛ぶ姿は、きっと仲の良いつがいのようにみえるのだろう。もちろん、実態は全く違うのだけれども。 「天儀風ももちろんカワイイけど、今回はこっちのアル=カマル風にしようかしら♪ お雛様もヤったしね♪」 桜はそう言いながら、桃のための衣装を見繕っていく。お任せしますとばかりにワンと一声鳴いた桃の一方、プラムはジルベリア風の婚礼衣装を確認していた。 「プラムちゃん、熱心ねぇ」 「はいー、お裁縫の心得はありますから、縫製の様子も気になっちゃってぇ」 様々な種類のドレスを触って、目で確かめて、じっくり吟味。 「はわぁ、どれも素敵で迷っちゃいますねぇ……これはこういう風に縫っているのが面白いですしぃ……あ」 どうやらお眼鏡に叶うものを発見したようだ。桜が確認してみれば、胸元に大きなリボンのついた、フリルたっぷりのドレス。 「このドレス、フリルとリボンの使い方が素敵ですぅ♪ プラム、これにしますぅ♪」 さっそく試着室に向かいながら嬉しそうにはしゃいだ声でいう姿は、まさに結婚を夢見る乙女。 一方の桃はといえば、桜によってアル=カマル風踊り子装束を元にしたドレスを丁寧に着せつけてもらう。やがてドレスを着たプラムが顔を出すと、予想通りよく似合っていた。 「やっぱり二人ともカワイイわねぇ♪」 相棒の晴れ姿にそう桜が頭を撫でれば、少し照れくさそうに桃が鳴き、プラムは相変わらず嬉しそうにお辞儀。他の参加者もカワイイなあと桜が眺めていると、そんな主の気持ちを察したのかプラムがそばで、 「いつかお嬢様がお嫁に行く時には、プラムが心をこめてお仕立ていたしますぅ♪ そのときは楽しみにしていてくださいねぇ♪」 なんて微笑む。とは言え相手らしい相手のいない桜は、苦笑を浮かべるしかないのだった。 そんなやりとりを横目で見つつ、 「輝々、アンタはどんな服を着たい?」 そう、ややぶっきらぼうな声で尋ねるのは宮坂 玄人(ib9942)。口調などのせいで男性に間違えられがちだがれっきとした年頃の女性である。 そして彼女が声をかけたのは、上級人妖の輝々。こちらも少年っぽい外見ではあるが、中身はれっきとした女の子。玄人にそう尋ねられれ、コクリとつばを飲み込んだ。 「え……こ、こんなにあるの……?!」 主の性格や自分の見た目が気になって、なかなかお目にかかることのない愛らしくもきらびやかな服装の数々に、輝々は早速興味津々である。 「そうだな……輝々はふだん着物だから、たまには違うものを着てみるのはどうだ?」 玄人とて女性、輝々の気持ちがわからないわけがない。しかも今回は滅多に見ない服装がてんこ盛りとなれば、着せてみたくなるのも当然、というものだ。アル=カマルやジルベリアの、白を基調とした衣装が次から次へと候補に上がっていく。 「玄姉ちゃん、これがいい! あ、これとかこれもいいなあ……!」 目を輝かせている姿は実に楽しそう。その中から結局選んだのは、ジルベリア風のメイド服とアル=カマル風の民族衣装。 しかし何故メイド服なのか。輝々に尋ねてみると、 「最強の防具だって、誰かが言ってたよ?」 きょとんとした顔でそんな答えが返ってくる。玄人はこめかみをわずかに押さえながら、 「……輝々、出所不明の噂を真に受けないでくれ」 思わず声を漏らした。 まあまずは着てみないと始まらない。輝々がはじめに身につけたのはメイド服。服自体には問題なく、一般的な形のはずなのだが…… (割烹着に見えるのは、俺の視力が悪いせいだな、うん) そんなことを胸の内で思って己を納得させる玄人。そんなこととも知らずに輝々は、 「玄姉ちゃん、似合うかなぁ?」 そんな風に不安そうに聞いてくる。これにどう答えたらいいやら悩むところだったが、玄人はなんとか 「……ああ、とってもな」 と呟き返すにとどめておいた。一方アル=カマル風装束というのは露出度の高さも相まってか随分と新鮮に見える。 「万商店の防具には、こういうのがあまり少ないからな。それにしてもよく似合っているな」 輝々の小麦色の肌がよく映えている。アル=カマル人の肌色に近い影響もあるだろう。 「でもどっちもかわいいねー!」 そう言って輝々は笑った。普段着飾ることの少ない相棒が、こんな笑顔を見せるのはやはり服の魔力だろうか。 「……そうか、そうだな。戦闘用と普段着用、別にあってもいいのかもな」 「えっ」 思わぬ玄人の言葉に、感無量といった感じで満面の笑みを浮かべる輝々であった。 「にしても、連れてきて頂くのは素直に嬉しいのだが、我には不相応ではないか……?」 透夜の相棒・からくりのヴァイスが試着してからそんなことを問う。彼女が纏うのはジルベリア風の赤いカラードレスだ。右側頭部にも同色の大きなリボンもつけており、色白のヴァイスにはその華やかさが対照的でよく似合っている。透夜は微笑んだ。 「そんなことは思わないけどね。一緒に楽しんでもらいたいし」 「……であるか。ではその手のスケッチブックは何だ?」 さすが相棒、透夜の性格や趣味から目を離さない。しかし透夜は笑顔を崩さず、 「ああ、もちろん描き写すんだよ。こういう機会はまずないし、衣装もしっかり似合って可愛いし。自然と描きたくなるのさ」 主の性格を知っているヴァイスとしてはため息を付いた。 「……っ、言ってろっ」 ● 「それにしても華やかだな、皆相棒を大事に思っているようで何よりだ」 ヴァイスは周囲を見回して頷く。透夜は手を動かしながら 「まあ付き合い方は千差万別ではあるけれどね。でも大切でなければ連れてこないだろ?」 なんて言うものだから、ヴァイスはポツリと照れくさそうに言った。 「なら……我は感謝せねばならぬな」 しかしその声は透夜に聞こえず彼は首を傾げるばかり。 「……っ、二度も言わぬ。知らぬわ、たわけ!」 思い切って告げた胸の内だが、ヴァイスはすぐにそっぽを向いたのだった。 アリストクラートも、ジルベリアの女性服型を着せてもらっていた。改造してある外装が映えるよう、プリンセスラインのフリルたっぷりドレスをつけてみれば、まるでフリルとオーガンジーの重装甲といった体である。色は純白。ごくシンプルな意匠だが、逆によく似合っていた。 「こういうのもあるなんて感激ですね〜」 サーシャも、ひどく嬉しそう。 「でも種類豊富だとやはり嬉しいですね」 露草が微笑む。 「今回のドレスも普段着ないぶん、細かいところが勉強になりますし……何より色鮮やか」 露草、きっと帰宅後に似たような服を自作するに違いない。 ちなみに来風の相棒かすかはやはり純白のドレス姿であった。 「今回の試着会は楽しかったです、本当にありがとう」 来風と洋品店の主は改めて頭を下げた。開拓者も礼を言う。 今回の一件で、きっと相棒の華やかな衣装も開拓者の中で密かな話題になるに違いない――皆がそう思いながら。 |