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■オープニング本文 ● うららかな春の日である。 「おひるねびより、もふ〜」 そんなことを言いながら、来風(iz0284)の相棒、もふらのかすかはほんのりとあくびをする。 最近、かすかの家――というか来風の家――に、よく来風の兄・風牙(iz0319)が訪れるようになった。 来風も風牙も、楽しそうにご飯を食べて、そしてよくしゃべっている。 (ご主人様はさいきんたのしそうでよかったもふ) (かすかも、うれしいもふ) ぼんやりそんなことを思いながら、うとうとと眠りにつく。 ● ――ところで。 美味しいご飯を来風たちと同じように食べ、そしてお昼寝が日課のかすかなのだが――最近、とくにコロコロしてきたような気がする。 本人は当然、それを認めるつもりなんかないけれど。 しかし、以前は装備出来た武具がちょっとどころでなくきついなど、たしかに太っているようで。 横でそんなかすかを見つめていた来風は、ちょっと苦笑して、それから思う。 (もふらの痩身術とか、そういうのも依頼になるのかしら……?) かくして、もふらの痩身大作戦が始まることとなったのである。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
黒曜 焔(ib9754)
30歳・男・武
宮坂義乃(ib9942)
23歳・女・志
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)
48歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ● 「装備が以前よりきつい、か……それは結構重症だな」 今回来風(iz0284)が持ち込んだ話を聞いた時、水鏡 絵梨乃(ia0191)はそう思わず口に出した。 (とはいえスパルタ過ぎても逃げ出してしまう可能性があるからな……) ふむ。結構悩ましい問題である。 今回はそんな来風の相棒・もふらのかすかが太ってしまったと聞いてやってきた開拓者仲間である。これも持つべきは友達――といえるのかもしれない。 「みんな、ありがとうございますっ。わたしもかすかがこんなに丸くなっていると思わなくて……」 そう言って来風は何度も頭を下げる。まるい、と言われたかすかの方は少しほっぺたをふくらませているが、それがなおのこと丸く見せているということに気づいていない。 「でも痩身ね〜。身体全体的にやりつつ、部分的に増量するのならよくやるけど」 そう言って色っぽく微笑む葛切 カズラ(ia0725)、豊満な胸ときゅっとくびれた腰を強調させるようにしてスラリと立っている。その相棒たる上級人妖の初雪は初雪で、 「わかったよ! 横に増えただけのもふらを全身でっかい大もふらさまにするんだね!」 と、これまたちょっと斜めを行く発想。 「そうじゃなくて。まあ、簡単な助言は私がやるとして、それ以外の分野はハッちゃんに任せたわ」 ……不安がよぎる。 「でも春に痩身ってことは、冬の防寒用に蓄えた脂肪を消費するってことだよね!」 その論理は若干あっているようで若干外れている気がするが、又鬼犬のハスキー君をつれた叢雲・暁(ia5363)はウンウンと頷いた。 「まあ、幸福な事自体は良いことじゃろうがのう」 そうつぶやくのは竜哉(ia8037)相棒たる天妖の鶴祇。相棒という『開拓者を支え助ける共同体』の中にある仲間が困っているということで、助けに来てくれたのだ。 「……じゃがまあ、それが何時どうなるかは誰にもわからぬ。幸せに己が浸かるだけよりも、幸せを維持するためにできることをする、誰かとその幸せをわかちあうことも大事なことじゃと思うのじゃ……」 まさしく持ってその通り。 兄を朱春の大学へと向かわせた来風だが、決して辛くないわけがなく。ただ、兄の言い分を大事に思えば、開拓者としてだけの道よりも、将来を見据えて手に職をつけるのもよしと思ったからに他ならない。来風もこっくり頷いて、かすかに言う。 「ねえかすか、装備が付けられないと、困るのはかすかだけじゃないの。かすかのことを頼りにしてくれる、開拓者を助けと思っている、そんな人達を不安にさせちゃうのよ? だから、今回は痩せることをきちんと考えましょう、ね?」 「……らいか……」 かすかは涙を浮かべ、そして頷いた。 「わかったもふ! かすか、がんばるもふ!」 そんな一方で。 「もふらさまはむちむちのほうがかぁいい、気もするけど……こころをおにに、なんだよっ」 そう言いつつ傍らのすごいもふら・もふもふに目をやるエルレーン(ib7455)。 「っ、なにかいったもふか?」 「んー、ううん」 笑顔でもふもふを見やるエルレーン。しかしもふもふはしょっちゅうエルレーンからいろいろといじられている(具体的な内容はあえて秘す)ゆえに、そんなエルレーンが今回どういう行動をするか、心配で仕方がない。 またやはりもふらの主である黒曜 焔(ib9754)は、ほろほろと目元に手ぬぐいを当ててしょげかえっている。 「実は……うちのおまんじゅうちゃんも……以前依頼などでこしらえた衣類が……ぱっつんぱっつんになってしまってね……」 見れば真っ白で小柄なもふらがふくよかな笑顔を浮かべている。 「かすかちゃんおひさしぶりもふ、今日は一緒に遊べるもふね〜」 当のおまんじゅうはといえば、まったく緊迫感のかけらもない様子。自分が肥えてしまったという実感も薄いのであろう。それはかすかも若干似たようなものであるのだが。 「おまんじゅうちゃんもいるもふね〜、いっしょにがんばろうもふ〜」 ……とはいえかすかはのんびりとおまんじゅうにも痩身をすすめている。おまんじゅうはきっと今日これからやることが『痩身』とは思ってないわけで、それを考えると随分と酷な話のような気もしなくはないが。 「痩身、ダイエット、……つまり鍛錬ということだな?」 更に別の一角では趣味が読書と鍛錬という羽妖精、十束――妙に楽しそうな表情をしてブツブツと呟いている――を連れた宮坂 玄人(ib9942)が、やや疲れたようにため息をつく。 (最近依頼に連れて行ってなかったとはいえ、妙に食いつきがいいと思ったら……) どうやら十束は自分の都合のいいように、依頼の内容を解釈してしまっているらしい。見た目はジルベリアの貴族然とした美青年だが、こう見えて戦闘狂。鍛錬のできる良い機会と認識しているらしかった。まあ、たしかにそういう側面もあるだろうが…… 「……無茶はするなよ、させるなよ。それだけは約束しろ」 玄人が言い聞かせるようにしてその肩に触れた。 そして―― 「もふらって別に武具を身につける必要なくね?」 大前提をはなからひっくり返す一言を飛ばしたのは、鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)の羽妖精、ビリティス――通称ビリィ。 「いや、戦闘には確かに出る機会は少なかろうが、物資輸送などの兵站に携わることはあろうて。そんな時に身体が重くては支障が出るのであろうよ」 テラドゥカスの冷静な一言に、ビリィも納得した様子。 「あ、そうだよねー。もふらって物資運搬とかよくやってるの見かけたことある。ん、そういうことなら任せときな!」 いっぽうのテラドゥカスは身体からして何分いろいろな意味で目立ってしまう。彼は見物と洒落込むことに決めたのだった。 ――さあ、どうなってしまうのだろうか。 そしてどうなるのだろうか、と言わないほうがなんとなくこの後の悲喜こもごもを想像させるにふさわしいのだろうと思う。 ● そんなわけでまず始まったのは相談である。もちろんこの場に肝心要のかすかはいない。聞かれて困るということでもないが、やはり精神的に良い気持ちはしないだろう。 まず明るい声でかすかに声をかけたのは、ビリィだった。 「ビリィズ○ートキャンプにようこそ!」 ……一応きわどい言葉だったので、音声が一部かすれているが――気にしてはいけない。まあ、そう声をかけたビリィである。 「……って言いてぇとこだが、要は食っちゃ寝ばかりだから肉がついちまうんだ。身体を動かす習慣をつけりゃいい」 ふむ、納得の行く意見である。 「それには俺も同意だな」 そう言って手のステッキをポンポンと弾ませる十束。 「そう、例えば……武器を振り回す的な運動を――」 「十束、他人の相棒もいることも忘れるな」 とはいえ玄人がしっかり突っ込んでくれたので、事故の危険性という意味では格段に下がるということになったが。 「それなら運動を一定量したら大好物を食べさせるというのはどうだろう」 焔はそう言ってみる。馬の前にニンジン作戦というやつだ。他にも睡眠学習作戦などを提案していたが、それはあまりにも気長すぎるということで却下された。 「ああ、それならハスキー君から逃げ延びるだけの簡単な作業でもいいんじゃないかな? どこぞの猫又も減量させなきゃいけないからね! 逃げ延びられなかったら、玩具にされるだけだから!」 そう言ってハスキー君の頭をワシワシ撫でる暁。しかし、 「え〜、運動とかめんどくさいもふー」 話を聞いていたおまんじゅうは、うんざりした声を上げる。 「そんなことより、もふのもふもふの毛皮をもふもふしてほしいもふ! 櫛でといてくれてもいいもふよ?」 すっかり食っちゃ寝生活の染み付いたおまんじゅう。しかし家計を少しでも楽にしたい焔としては、食費というのはかなり切実な問題である。そしてそれでもそんなおまんじゅうを可愛いと思ってしまう焔は、やっぱり相棒に甘いといえるのだろう。 「おみやげもさっき相棒と買ってきたのに取り上げるとかひどいもふー!」 どうやらこのもふら、今日の依頼を完全に勘違いしていたらしい。花見に行くものと勝手に思い込んでいたようだ。そしてそんなもふらを横目で見て、ジュルリと生唾を飲み込むもふもふ。 「うーん……もふらさまはぷらいどが高いから、競争心をうまくつかえばいいんじゃないかなぁ?」 エルレーンは焔の提案に自分の提案を重ねる。つまり、おやつを我慢できれば褒めちぎり、運動を頑張った子には褒めちぎり……そうやってもふらの自尊心に訴えかけるという作戦なのだ。 ……まあ、四六時中一緒にいるもふもふには、そういった作戦が通用しない可能性のほうが高いのだが。 「そうじゃのう……確かにそういう手もあるじゃろて。それと、難しいことをするわけでなく、我らのような朋友だけでも出来そうな仕事、そんなものを請け負うようにするのはどうじゃろか。幸せというのを『誰もが』感じられるように動けば――それは幸せになるものが更に増える、良いことじゃろ」 幸せのおすそ分け。 それは誰もが嬉しい事に違いなくて。 それに、相棒だけでそういう自立心を得ることができれば、将来的にもきっとなにかの役に立つ。 「そういえばそこの羽妖精も言ってたブートなキャンプもありなんだろうけど、ああいうのを毎日やるっていうのは流石に無理っぽいよね……、なら、動かずを得ない状況をつくればいいんだよ!」 初雪はエッヘン、と胸を反らす。 「どういうこと?」 来風が尋ねると、初雪はビシィッと指を突きつけた。 「すなわち! もふらの目の前で! おやつを強奪し! ぎりぎり追いつけそうな距離と速度を保ちつつ逃げる!」 これを毎回やれば必然的に運動量が強化されるはずだと初雪は自信満々に説明するが、ふっと冷静になったのだろうか、一言ポツリ。 「でもアレ? これって僕もよくやられることじゃなかったっけ……? まあいいや、そんな手もあるかなーって!」 「ああ、それに近いことなら、僕も考えていなくはなかったよ」 絵梨乃が笑った。 「もっとも、こちらはうちの花月から逃げまわってもらうことになるんだけどね。花月には手加減込みと言っても襲うように説明しておくし。ま、言ってみれば一対一の鬼ごっこみたいなものだな」 花月というのは絵梨乃の相棒である輝鷹である。 「もちろん、それだけじゃ意味が無いだろうから、逃げざるを得ない条件を出してみるんだ。で、逃げ切れることができればそれこそ量は控えめでも美味しい料理を用意する、とか言ってみたり。食べることとか好きそうだし、そのほうがやる気出るんじゃないかな」 「ああ、それならハスキー君もお手伝いできそうだねっ」 絵梨乃の言葉に、暁もうんうんと頷く。 ふむふむ。 「本人にやる気を出させて、なおかつ運動をしなくてはならない状況づくり……ですか」 来風は鷹揚に頷く。 「皆さんの意見を適度に取り入れて、そしてやってみましょうか。もちろん、同じように痩せたい相棒さんもご一緒に」 そう言うと、来風は笑った。 「とはいえ、今日はとりあえず相談だけにしておきますか。食事を減らすことはもちろんしますけれど、折角皆さん集まってますしね」 ということで、ダイエットは明日から――。 あれ、それでいいのかしら? ● 翌日。 朝起きたかすかは、鶴祇に声をかけられた。 「のう、かすか。近所の子どもが困ってないか、見回りに行かぬか?」 来風たちの住んでいるのは、開拓者が比較的多い地域。とはいえ、近所には所帯を持った開拓者の家の子どもや、そんな開拓者を相手に生活用品などを商う家もあるわけで、まあそれなりに子どももいる。 エルレーンもこっそり近づいてきて、笑顔で言った。 「うんうんっ。もふらさまがみまわりとかすれば、こどもたちもおおよろこびだよっ」 その時にはついでにもふもふも連れて行ってねと付け加えて。 「もふ! かすか、がんばるもふ!」 かすかはすっかりのせられた感じで、大きく頷いた。大きめの頭がこくりっとふられるのはまるで張り子人形のようで、かわいらしい。 「ああ、あとな。後で、絵梨乃殿の花月が遊びたいと言うておったよ」 その言葉に目を輝かせるかすか。 「わーい! かすか、みんなとあそぶの、だいすきもふー」 その言葉におまんじゅうも近づいてきて、一緒に遊ぶものと考えている。 「それなら相棒に美味しいものを作らせるもふよ。かすかちゃん、何か食べたいものはないもふか?」 「んー……」 かすかは少し考え込んでいたが、すぐにぱっと顔をあげた。 「道明寺もふ。桜の季節に食べる道明寺は格別もふ!」 「それなら、おいしい店が確か――いや、折角なら手作りのほうがいいか」 かすかの言葉に、十束とビリィが頷き合う。甘さ控えめ、糖分控えめにするなら、やはり手作りのほうが加減しやすい。 ちなみにビリィは『もふらに出来そうな身体を動かす仕事を与えてやる』というのを提案していたが、これも鶴祇の発想と似たり寄ったりだったということでとりあえずは話を聞く立場に回っていたのである。しかし、ここでぴんとひらめいた。 「近所の子どもって言うのもありだけど、さ! せっかくなら以前依頼で会ったことのある人達のところで遊ぶほうがいいんじゃないか?」 そして、かつて来風の兄の件でも世話になったトシ刀自と子どもたちの元へ行こう、と提案したのである。かすかはそれを聞いて大喜び。来風に用意してもらった道明寺を括りつけてもらいながら、 「トシおばーちゃん、かすかのこと可愛いっていってくれてたもふよ」 すっかり上機嫌でそちらへと向かう相棒ご一行。一足先にビリィが挨拶に行き、かすかの事情を説明すると、 「ふふ、それは面白いねえ」 乗り気になってくれた。 ……ちなみに心配症な主たちが覗いているのは、知ってか知らずか、という感じである。 ● ――で。 「せっかくなら鬼ごっこをしようじゃないか。で、もふらの皆は逃げてくれるとありがたいのだが」 目的地についてから鶴祇が言い、もふらたちの頭に十束と初雪が紙ふうせんを括りつける。そして花月とハスキー君が追いかける鬼役、更に人妖や羽妖精たちは持ってきた道明寺を絶妙な位置で持って逃げまわる。 「わー、折角のおやつがどこかいっちゃうもふー」 「もふたちでおいかけるもふー」 「わんわんッ」 前をゆく十束やビリィ、追いかけるもふらたち、さらに追いかける花月とハスキー君。 見ているだけで和む光景だが、おやつを奪われたもふらとしては切実である。 やがて半刻ほどが過ぎ、相棒たちはそこで追いかけっこをやめた。 「なかなかやりおるのう」 鶴祇が楽しそうに頷く。制限時間は一時間、それは絵梨乃の意見だった。あまり長すぎてもバテてしまうし、短すぎては効果が無い。それに、遊びという名目ならばやはりこのくらいで切り上げるのが適当なのだ。 「さ、このくらいで食べようか」 「やっとおやつもふー」 「わーいもふー」 もふらたちはおやつに大はしゃぎ。子どもたちも集まってきて、一緒に楽しくお茶の時間を過ごすことになった。 「このちっとばかりうるさいのが暫く続くことになるが、よろしいか?」 鶴祇が問うと、トシ刀自は楽しそうに頷く。 「子どもたちは遊ぶのが大好きで、もふらさまが大好きだからね。こうやって様子を見に来てくれるだけでも、随分救いになっていると思うよ」 風牙(iz0319)――来風の兄――は、今所在を朱春に移している。しかし、こうやってちょくちょく遊びに来てくれるのなら――子どもも、老女も嬉しいのだ。 「それに、風牙にはもっと広い世界を知ってほしいと思うんだよ。あの腕前を道楽程度に燻らせておくのは、もったいないからね」 ――もっとも、武器をもたせたらうるさい十束だけは、このくらいでは生ぬるいと感じているようだったが。 ● それから一週間たって、また皆が集まった(といってもこっそりやりとりなどはしたりしていたのだが)。 かすかたちは毎日のように警備の名目でトシ刀自たちの元へ遊びに行っては、鬼ごっこをするという日課に慣れてきたようだ。こっそりついていっていたはずのテラドゥカスに至っては、もはや堂々とついてきた上に子どもたちの相撲相手なども引き受けるなど、なかなかに良い兄貴分的なこともしてくれている。 子どもたちの方も納得がいったのだろう、かすかやおまんじゅうの鬼ごっこにも自発的に参加して、場を盛り上げてくれている。鬼ごっこの方はといえばかすかたちの勝率がだいたい三割程度。これは絵梨乃の計算も考えての数字なので、だいたい理想的なものだ。 「悔しさをバネにするほうが、頑張れるだろうし」 そして毎日の食事も栄養価は高いが糖分や穀類などの脂肪のもとを減らした健康食。きちんと細かいところまで考えこまれている。 「子どもたちも随分喜んでるよ」 トシ刀自も嬉しそうに笑う。なるほど、子どもたちも以前より活発そうに見えるのは、やはり定期的に相棒たちが遊びに来てくれるという環境の影響もあるだろう。 「からだうごかすのもたのしいもふね!」 その後のご褒美ももちろん嬉しいが、そういう喜びを覚えたというのが何よりも今回の収穫である。 それを脇で聞いていたエルレーンがフフン、と鼻を鳴らす。 「ふだんからのじこかんりが重要なんだよねっ」 エルレーンはどちらかと言うと細身の体質。腰もほっそりとしている――が。 「だからえるれんは胸もつるぺたまな板なんだもふ〜! 成長期、どこにいったのかもふ?」 そんなことをもふもふが言うものだから――あ、お仕置きされた。 「でもどうして我輩も巻き添えだったもふ?」 「だって、もふもふも最近食べ過ぎだからっ」 ああ、それなら仕方ないね。 周りでそんな空気が流れる。 もう一体のもふらことおまんじゅうは、実は運動を結構サボっていたりして。そのくせ、 「くたびれたもふー……運動するとお腹すくもふね。相棒、今夜はいーっぱい食べるもふよ!」 これが毎日のように繰り返される日々。ああ、焔の財布はすでに素寒貧だ。涙目になる焔だが、それでもかすかの努力は眼を見張るものがあったようで。 「かすかちゃんは、この間よりも少し小さくなった気がするね……? 綺麗になった証拠というやつかな」 通常の三割増しいけぼでの言葉に、乙女心をくすぐられるかすか。 この調子ならうまくいきそうだ。 ● 結果。 かすかは以前使っていた装備を着用できるまで、とはいかないものの、随分スッキリした印象になった。他の相棒たちも、それをきっかけにして痩せることができている……かも知れない。 そうやって動きまわることで子どもたちとの友情を芽生えさせたり、地域の安全にも一役買えるのだから、なかなかに良い傾向である。 どちらにしろ、この相棒痩身術は小さな社会で話題になるであろう。きっと。 ああ、それと。 「お前の戦闘狂は太る云々よりも深刻な気がするぞ、俺は」 十束に向かって深いため息をつく、そんな玄人の姿もあったのだった。 そして―― 「ああ、来風ちゃん」 ある日、トシ刀自は来風に声をかける。 「風牙に……あんたの兄さんにも、ありがとうって言っておくれ。きっと、朱春でも心配してるだろうからね」 来風は手紙を託されて、にっこりと頷いた。 この場所にはかすかもいる。来風もいる。他の開拓者たちも心配してくれている。 それはきっと――幸せのわかちあい。 |