【初夢】学園都市の日常
マスター名:四月朔日さくら
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/08 20:30



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 ぱちん、と目が覚める。
「おきなさい、おきなさい! もう遅刻しちゃうわよ!」
 母親のように聞こえる女の声が自分を急き立てるようにして聞こえてくる。
 ……遅刻?
 なにに遅刻するのかと一瞬言おうとして――口がスラスラと答える。
「わかってる、起きるよー!」
 もぞもぞと寝床から起きだして、くるりと周囲を見回す。
 見覚えのない部屋、だと思う。
 綺麗に整えられたそこは、妙に居心地の悪いような、だけれどよく見知っているような、奇妙な感じを与えさせられた。
 顔を洗い、呼ばれるままに朝食を摂りに向かうと、ホカホカと湯気のたつ目玉焼きに焼いた麺麭(ぱん)、そして良い香りがする紅茶。
 イングリッシュブレックファースト、という単語が脳裏をよぎる。
 ……知らないはずなのに、何故か懐かしい。
 椅子に座ってもくもくと食べていると、母親らしき人物が笑った。
「全く、いつも遅刻寸前まで寝ているんだから。って、きょうも遅刻しちゃうわよ、早く行きなさい」
 部屋に戻ると、目に入ったのは制服。と言っても軍隊などで使うものとは全く違う。
 ジルベリア風、という表現が一番しっくり来るだろうか。
 でもそれだけでは表現できない何かがあって、それなのに何故かためらいなくそれに袖を通す。
「わわ、遅刻遅刻ー!」
 そしてありきたりな声を出して。
「いってきまーす!」
 家を出発する。
 向かう先はわかっている。学校だ。
 ――え?
 ――学校?

 そしてその学校にたどり着く。
 小学校から大学までのエスカレーター制の学園。
 いわゆるマンモス校だ。
 知らないのにそんな知識は自然と頭に流れ込んでくる。
 さあ、いったい今日はなにをしよう?


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
白漣(ia8295
18歳・男・巫
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
ローゼリア(ib5674
15歳・女・砲
黒曜 焔(ib9754
30歳・男・武
加賀 硯(ic0205
29歳・女・陰


■リプレイ本文


 朝。チャイムの音が学園都市に響き渡る。
 その中を、天河 ふしぎ(ia1037)は駆け足で校門に向かっていた。
(やばいなあ……昨夜ゲームを中断したままで、ほうってきちゃった……でも最新作だし……)
 そう思っていたら、思い切り夜更かしして遅刻寸前、というわけだ。巷で流行りのTVゲーム『アヤカシクエスト惨』に、彼もどっぷりハマっているのである。
「遅刻しませんように……!」
 食パンをくわえているが、どう考えても食べ盛りの少年には少ない。早弁決定かもしれないなぁ、そんなことを考える。
 と、後輩の女子二人――杉野 九寿重(ib3226)とローゼリア(ib5674)の二人が、そのさまをあっけにとられてみていた。さいわい曲がり角でぶつかるなんてベタなことはなかったけれど、ふしぎはこれでも学園内では有名人。女子と見まごう端正な容姿ながら、グライダー部の部長をつとめているというギャップもその一因だ。
「今の、天河先輩ですわね? グライダー部の」
 ローゼリアが走っていく少年を見て、呟く。
「そうみたいですね……あ、そういえば今日って」
 九寿重がはっと思い出したかのようにつぶやくと、親友の少女は頷いた。
「……たぶん、なんのかんので立木先輩が対応すると思いますの。それよりも、今日はお弁当、どこで食べましょうか?」
 女の子にとってお弁当は大事な時間。「九寿重のお弁当、また分けてくださいね?」
「ふふ、こういうのは分けあうからこそ楽しいですしね」
 少女二人はそっと手を繋いで笑いあった。

 ――さて、こちらは校門前。
「ったく、なんで風紀委員なんだろうな、俺……」
 平穏無事な日常の中、「風紀」と書かれた腕章をつけてブツブツ呟いているのは高等部二年の立木・竜哉(ia8037)。もっぱら昼行灯ではあるものの、言われればちゃんとそれをこなす、案外しっかりした風紀委員である。
 合気道をやっているせいか体格もよく、普段は色々思い違いをされてしまうが、実際には彼もごく普通の一生徒。
「遅刻チェックとか……かったるいけど、やりますかね」
 一つあくびをしてから、授業開始の予鈴を聞く。まだ、取り締まるほどの時間ではないので、生徒たちもゆっくり歩いている感じだ。
 と、そんな中で走りこんでくる人影。――ふしぎだ。
「遅刻するー!」
 そんなことを言いながら突撃してくる。とりあえず遅刻はしないが、あの走り方は危険極まりない。人にぶつかれば、転んでしまうだろう。
「ストップストップ。天河先輩、そんなに急がなくても大丈夫ですから。むしろ走るほうが危ないですから」
 竜哉はふしぎをとりあえず押しとどめると、そう言って軽く諭す。学年はふしぎのほうが上だけれど、体格差では圧倒的に竜哉が有利なのだ。
「でも、遅刻すると部活動にも響くんだよっ。授業前にいじりたい部分もあるんだよっ」
「先輩、グライダーは逃げませんから」
 やや興奮気味のふしぎに、竜哉はそう言ってなだめる。せっかく登校時間には間に合っても校内にいるのに遅刻というのはよろしくない。風紀委員としてもそれは微妙だ。
「とりあえず、校則は守ってください」
 言いつつあくびを噛み殺す竜哉。……あれ微妙に威厳があるようであまりなかった……?
「うーん……わかったよ。先生に遅刻マーク付けられるよりはマシか」
 しょんぼりとした子犬のように、ふしぎはため息をつきながら頷くのだった。

 ――購買の朝は早い。というか、ある意味不夜城。
 なぜならば、そこを根城としている『ヌシ』――からす(ia6525)がいるからだ。大学部に所属している一方で購買の店長を兼任しており、しかもリベラルな学園の風潮もあってか購買は敷地面積がホームセンターと見まごうほどの広さである。学園長の許可もきちんとおりている由緒正しい購買部だ。……実際のところは都市運営の重要ポストにある親からからすに委任されている状態なのだけれど、もはや彼女のいない購買部など想像ができない。
 そんなからすは今日も今日とてシフトの確認をし、そして講義を受けに出かける。
 学園は――いや、購買は彼女の家だ。見た目こそ幼いものの、並大抵の生徒たちよりも学園に精通していることは十分に自覚していた。
 生徒たちのニーズにすべて応える購買を。それが彼女の目指す、購買の姿だった。
 ――と、そう満足そうに頷いていたところに、
「からす店長! おはようございます!」
 そんな明るい声が背後から響く。振り返ってみれば見慣れた顔に、からすは笑った。
「……ああ、いらっしゃい」
 高等部三年に所属する、調理部部長の白漣(ia8295)だ。調理部という部活動の性質上、活動日には必ず朝一番に彼が訪れる。
「今日はパウンドケーキを作る予定なので、材料を頂きたいんです。あと、今日のおすすめパン」
 家事一般なんでもござれの白漣、彼もまた時折女子に間違えられそうになるが、れっきとした男子生徒だ。細身の体格が、いっそう中性的に見せている。
「ケーキの材料ならあちらだな。まあ何がどこにあるかくらいはきちんと覚えている。あと、今日のおすすめは焼きそばパンだが……」
 焼きそばパンは購買の目玉商品の一つ。たいてい昼休み開始五分もすれば売り切れてしまう、人気商品だ。
「ま、どうしても食べたいのならおやつ時以降だね。新商品のチラシもあるけれど……」
「あ、気になってたんです! いただきますね」
 白漣は笑顔でそれを受け取る。材料もひと通り購入して、気が付けばもう授業まで間がなかった。
「今日もありがとう、店長」
 少年はそう笑うと、教室へと駆け出した。


 朝礼もつつがなく終わり、やがて授業のために教師たちが職員室を出る。
 歴史教師の加賀 硯(ic0205)は、おっとりしたお嬢さん風の雰囲気を纏いながら、ゆったりと授業担当の教室に入る。怒るときはピシっと怒るが、なにぶんおっとりとした雰囲気のために生徒たちからも苗字ではなく名前で呼ばれる程度に好かれていた。
「では今日は、平安時代の文化について……」
 そんな事柄などを、雑学も交えて丁寧に解説する。好ましく思える一因であった。
 今授業を受けているのは高等部一年生のあるクラス。基本的に文系優等生の九寿重も、そして隠れ努力家のローゼリアも、硯の授業はわかりやすく面白く……つまり好きであった。
 歴史の授業なんて堅苦しい、眠い、そんな生徒が多い中で、硯の授業は人気だったのである。

 一方で、別の教室では。
「さて、今日のテキストはもふランドで購入した『もふらさまふるもっふ絵本』です」
 にこにこ笑いながら人気キャラクター『もふらさま』がいっぱいに書かれた絵本を取り出すのは、国語教師の黒曜 焔(ib9754)である。黙っていれば十分にイケメン教師なのだが、休暇のたびにもふランドに行っては散財するという、日常が残念な青年だった。なんでも普段は缶詰ひとつで生活しているのだとか。
「……そんな訳で、先生は飢えています……」
 早弁は匂いでわかるからね? そんな話をすればクラスがどっと笑いに包まれる。と、
「……ん、教科書の影で何をやっているんだい?」
 一人の男子生徒が絵本と一緒にコミックをチラチラ読んでいた。当然没収するものの、何故か視線は漫画に登場する美脚女性キャラに釘付けである。
「おおっと。とにかく音読の後、もふらさまのかわいいところを挙げてもらうから、考えておくように。他の人とのネタかぶりは認めないからね」
 ……先生今さりげなくネタって言ったな……
 クラスの誰もがそう胸の奥で思う。……いや、何人か例外がいた。
 一人はグライダーのデザインや設計に没頭しているふしぎだ。授業自体はそれなりにまじめに受けているけれど、影で出場の決まっている『鳥人間コンクール』のためのアイデアを練っている。
 同じクラスの白漣も、夕飯の献立を考えては時々ノートに書き付けていた。
 ちなみにそれでも焔は教師としてはしっかりしたもので、小テストの結果を参考に回答させていた。何人目かで白漣とふしぎも当てられたが、何とか答えることができた。……ネタは若干かぶっていたけど。


 昼休みの購買は、さながら修羅の世界。
 とはいえ、きちんと弁当持参のものも少なくなくて。
「……静かで落ち着くよなあ、屋上って」
 竜哉がそう呟きながら、自作弁当を口にする。購買はあれだけの広さがあるというのにもう人で溢れかえっていることだろう。
「ま、俺は関係ない……か」
 購買のある方へと目をやりながら、竜哉は苦笑していた。

 さてこちらは高等部一年の教室の一つ。
「今日はお姉さまはお忙しいらしいけれど、大丈夫かしら。……あ、これ、おいしそうですのね」
 ローゼリアが目ざとく見つけたのは九寿重の弁当箱にあったハンバーグ。
「鮪ハンバーグのトマトソース添えですよ。ローゼが魚系好きなのは、承知してますから」
 無二の親友は、にっこりと微笑む。
「もう、付き合いだして二年近くになりますからね。このくらい当然です」
 付き合いといっても色っぽい話ではない。中学3年のときにクラスメイトになって依頼の親友関係なのだ。まだ幼さの残る少女ふたりは見つめ合ってクスクスと笑う。
「九寿重がちょっぴり羨ましいですわ。なんだか九寿重には、いつも世話になっている気がしますの」
「そんな事無いですよ、ローゼ。私だって、苦手分野に関しては随分と世話になっていますし」
 そういう関係だからこそ、仲がいいのだろう。
「今日は部活は?」
「あ、普通にありますね」
「じゃあ、また帰りにいつものところで待っていますの」
 女の子ふたりのちょっぴり華やいだ会話。まだ恋とかそういうのは早いのかもしれないけれど、だからこそ今の関係は一番心地よいのかもしれない。

 職員室では焔が、さんまの蒲焼缶詰を一人寂しそうに口にしていた。
「あら、黒曜先生は少食なんですね?」
 そこへ近づいてきたのは硯だ。実家が和風喫茶の彼女、手にしていたお弁当もシンプルながらとても美味しそうだ。
 ふわりと香る、優しい匂いに、ちょっぴりお腹がぐうとなる。
「もふランド貯金のためですよ。あそこはやっぱりいいところでして」
 口をくいっと優雅に拭うと、当社比三割増のイケボイスで話し始めた。独身の硯をデートに誘おうというのだろうか。
「あそこはランチも美味しいんです、特に魚のコース」
 独身男性でかわいいキャラクター好きということもあって、焔は女生徒にも結構好かれている。けれど硯は苦笑する程度だ。
「あいにく、休日は家の手伝いもしてますから……そう簡単には行かないですね」
「……そうですか」
 手元にある情報誌を眺めて、残念そうにする焔。もしかしたらカップルでの入園だと何か特典があったのかもしれない……それはしかし、硯のあずかり知らぬことである。それよりも、と硯は微笑んだ。
「それだけでは少食といってもさすがに物足りないかと……少しおかずを分けましょうか?」
「えっ」
 焔はむしろこちらの方に驚いたらしい。硯は頷いて、ほうれん草のソテーと芋の煮っころがしを弁当箱の蓋にのせ、そっと渡した。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
 ……でもどちらも、恋とは無縁の気がしてならないのはなぜだろう。ただ、きっと気にしてはいけない気もした。

 調理室ではふわりと漂う――これはパウンドケーキ。白漣の自信作だ。
「バターにはちみつ、バナナも入れて混ぜて……」
 そして焼くときには思い切り、愛情を込めて。『美味しくなあれ』、とそっと囁く。
 時々こうやっては、ふしぎへの差し入れにするのだ。オーブンレンジの前で茶目っ気たっぷりに祈る。
(天河さん、美味しいって言ってくれるといいなぁ)

 そのふしぎは、予想通り早弁をして購買に行ったものの、見事に惨敗。からすがそれを見てくすりと笑う。
「とりあえずグライダーの新素材も入っている。そちらを見たらいい」
 ――気晴らしになるだろうしな。
 各部活向けコーナーに置かれていた新しいグライダーの皮膜を手に取ると、たちまちふしぎも食事そっちのけで考え始める。
(これは使えそうだな……とりあえず試作して見る価値はありそう)


 放課後にもなれば部活動や委員会で学園中が色めき立つ。
 硯は家業の手伝いもあるためそれらの監督などは免除されていて、穏やかな微笑みを浮かべながら帰宅していく。
 たまにはうちの店にも遊びにいらっしゃいな、なんて言葉を振りまきながら。
 その視線の先に、ちらりと大きな道場が見えた。
 剣道や合気道などの武道系部活はそこで練習をするのだ。九寿重はそこで素振りを繰り返していたし、竜哉も呼吸を整えたり、型を確認したりしている。
(でもなんだか、今日に限って焦りみたいなものがあるなぁ)
 いつもの毎日のはずなのに、なんとなく違和感を感じる。強くなりたいと、身体が訴えている。
(……日常なんて、気になるはずもないのに……)
 ――一方の九寿重はいわゆる期待のホープ。実家が道場という環境もあるだろう。剣道を始めたばかりの同級生たちに羨望の眼差しを受けている。
(将来は……そう、剣士になりたいですね)
 ぼんやりした夢。今日は帰りにローゼリアとそんな話でもしようか。いつも無邪気にじゃれついてくる親友との帰り道を想像しながら、九寿重はまた竹刀を振り下ろした。

 一方、こちらはグライダー部(部員に女性が多い気がするのはきっと気のせい)の練習場。高校生ながらに鳥人間コンクール参加権を獲得できるのは、学園がこういった部活を惜しみなく支援しているからで。
 部長のふしぎとしては、当然ながらテンションも上がるというものだ。先ほどからすから譲り受けた皮膜も試してみたいし、気分は上々……なのだが。
 腹が減っては戦はできぬ。
 空腹でいれば、気分も落ち込んでしまう。
 ――そこへ、
「天河さん」
 やってきたのは白漣。
「あ、どうしたの、白漣?」
 ふしぎは問いかけるが、彼から漂ってくる匂いに気づかないはずもなく、自然と笑顔になっている。
「これ、バナナのパウンドケーキを今日は作ったので、少し休憩しませんか?」
 紅茶の入った水筒も持ってきている。
「わ、ありがとう。ちょうど腹ペコだったんだよ」
 そう言ってぎゅっと親愛のハグ。後方で部員たちが何やら騒いでいるが、とりあえず気にしない。というか、気にしたら負け。
「せっかくだから皆も食べようよー」
 そう言うと、グライダー部の面々もきゃあっと寄ってくる。甘い物は別腹なのだ。
「……でも、こういう日常っていいですね」
  白蓮は微笑む。ふしぎも頷いた。
「うん、こういう日常って……大切だね」

 まるで何かを感じているかのように。
 これが幻のような、そんな気がしているかのように。
 少年たちは笑う。
 ――この何気ない日常こそが、宝なのだと言わんばかりに。