【VD】女子会?〜綴外伝
マスター名:四月朔日さくら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/02/13 22:35



■オープニング本文


 ふんわりと漂う甘い香り。
 街はいつもよりもどこか浮かれ調子。

 バレンタイン。

 いつ頃からか好きな相手にチョコレートを贈る日と、そう位置づけられた日。
 老いも若きも男も女も、甘い香りに胸高鳴らせるのだ。


「恋バナ、って好きな人多いわよねえ」
 そんなことを笑いながら言うのはギルドの女性職員。来風(iz0284)は苦笑する。
「いつの時代でも、やっぱり変わらないものがあるからじゃないかと思いますよ?」
「そうねえ。……ところで、物は相談なんだけれど」
 職員はズイッと来風の耳に口を寄せる。
「実はね、おいしいチョコレートのお店を見つけたのよ。でもどうしても独り者には敷居が高く感じてしまうでしょ? で、そこには喫茶室も完備されてるの。……言いたいこと、わかるかしら?」
 来風はちょっと首を傾げる。
「そうですね……そういうところでお茶をしたら、楽しいでしょうね」
 いわゆる女子会というやつだろう。
「あなたがいつもやってるお話を聞くの、そういうところでやったら面白そうよね」
「ですねぇ……でも、相棒は難しいかしら」
「まあね。でも、内緒話ならそういうのも向いているんじゃない?」
「そうかもしれませんね」
 くすくす。二人は笑った。
「それじゃあ、そういうお話も聞いてみましょうか。番外的な感じになりそうですけど」
 ……依頼書がさっくり作成されたのは、言うまでもない。


■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
葛 香里(ic1461
18歳・女・武
ノエミ・フィオレラ(ic1463
14歳・女・騎


■リプレイ本文

 女子というのはえてして甘いものが大好きである。
 それは口にふくむものかもしれないし、あるいはとろけるような恋の話かもしれない。

 そんなわけで、本日集まった開拓者たちも女性ばかり。
 皆、何かしらの「甘いもの」が好きな面々だった。


 そこは都でも最近話題の菓子店。
 ジルベリア風のものを主に取り扱っているが、中には天儀風の味付けをしたジルベリア菓子なんて言うものもある。例えば最中の中身が餡の代わりにチョコレートだったり、抹茶風味のケーキだったり。
 少しお洒落な雰囲気の、高級菓子店。一人では敷居が高いが、皆で入れば怖くない。
 とりわけこの二月は、世の女性たちは愛情を込めた贈り物としてチョコレートを用意する時期だ。
 最近はさらに友チョコなんて言葉があったりして、女子同士でチョコレートを交換することも増えている。
 結果、店はチョコレートを買い求める女性たちで溢れているのだった。

「喫茶室を予約していて正解でしたね」
 来風(iz0284)が思わず苦笑するのも無理はない。
 何しろ人気店。寒い時期ともなれば、喫茶室もたちまち満員になってしまい、外には行列ができているくらいなのだ。
「しらさぎ、開拓者ではないですけど……覚醒からくりの開拓者もいるし、参加しても大丈夫ですよね?」
 席に付いている礼野 真夢紀(ia1144)の脇には、相棒の上級からくりであるしらさぎが、無邪気に微笑んでいる。
「ええ。相棒不可というのではなく、むしろ相棒さんたちの恋話とかもあると楽しいだろうなと思っていたんですよ」
 それでも女性の参加者ばかりなのは、やはり敬遠した男性が多かったということもあるのだろう。男性は案外照れ屋だ。
「でも、わたしも恋はあまり経験ないんですよね。どちらかと言えば、物語の主人公に憧れるような、そんな感じで」
 来風は自分のことをそう言うと、くすっと笑顔を浮かべる。
 と、そこで湯気を立てる甘い香りのホットショコラがやってきた。一緒にやってきた皿の上にあるのはフォンダンショコラ、そっと切ってみれば中からはこちらもとろりとチョコレート。脇には生クリームが添えられている。
「美味しいです……甘くて……ほっぺた落ちそうですっ!」
 そう口を動かし続けるのはファムニス・ピサレット(ib5896)。苗字に聞き覚えがあると思った来風が尋ねると、
「いつも双子の姉がお世話になっています!」
 言いながら、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「そういえば、今回は恋話ってことですけど……」
 来風が言えば、
「はい! 私は恋してます」
 ファムニスはその言葉を口にすると、きゃっと手を頬に当てた。
「どんな方なんです?」
 いかにもジルベリアの貴族然とした少女――ノエミ・フィオレラ(ic1463)が尋ねる。チョコレート菓子に舌鼓を打ちながら。
「……それにしてもどちらも美味しくて、つい食べ過ぎてしまいそう……」
 胸の中で思った言葉は、表にだだ漏れだ。何しろしっかりおかわりを要求している。
「女性が多いとなんとやらといいますし、皆さんの話を聞いてみたいのです」
「……ああ、それは私もです」
 控えめそうな女性が、そっと同意した。彼女は名前を葛 香里(ic1461)という。尼寺育ちのおっとりとした、しかしれっきとした武僧である。
「改めましてはじめまして。このような依頼は初めてでして……よろしいのですか? お話だけで報酬のみならず、このようなお菓子まで……尼寺にいた頃にはこのような舶来物は目にすることすらありませんでしたから、本当に有り難いお仕事です」
 わずかに青い瞳を細める。来風は、照れくさそうに応えた。
「わたしは将来物書きとして名を残したいと思っているんです。その時のための取材ということも兼ねているから、むしろおもてなしして当然なんですよ。皆さんの話が、後々の肥やしになると思っていますから」
 真夢紀以外の三人は来風と初対面であるため、ふむふむと頷く。
「それなら安心しました……それにしても、ほっとしょこらというのは、ふうわりと甘い良い香りですね……」
 香里はそっとカップを口に運ぶ。そして一口飲んで、目を瞬かせた。
「舌が蕩けるような濃厚な甘さと、口に残る甘い香り……初めての味です」
 開拓者になって間もない香里には、色んな意味で驚きの連続な毎日。だからだろう、ひどく嬉しそうだ。
「こちらのちょこれーとも、本当に舌の上で溶けてしまうのですね……美味しいです。贅沢な逸品を、ごちそうさまです」
 確かに清貧を快しとする環境で育った彼女には、贅沢に見えるかもしれない。けれど、そこは年頃の女性。甘いものやお洒落なもの、可愛いものに目移りしないわけがない。
「マユキ、これおいしいね」
「本当。色んなお菓子を食べてきたけれど、ここはかなり上の品ね。流行っているのもわかる気がする」
 真夢紀もしらさぎと一緒にこくこくと頷く。
「……さて。では改めて、はじめましょうか」
 来風は苦笑しながら、言葉を紡いだ。


 口を開いたのは、ファムニスだった。
「さっき、私は恋してるって言いましたけど……その人は凛々しくて強くて、この世の誰もあの人をとどめておくことなんてできないんじゃないかって思うくらいに、行動力と生命力に溢れてて、しかも優しくて、……それに……」
 ファムニスはそこで言葉を切る。妙に顔が火照っているのは、何かを思い出しているのだろう。何を思い出しているのか、聞くほうが野暮というものだ。
「とにかく、大好きなんです。デートの時はいつもリードをしてくれて……私の素敵な王子様です」
 王子様。
 憧れの存在についつけがちな呼び名だ。
 けれど、少女の心にはその王子様は現実としてある。
 幸せそうなファムニスを、ノエミがちょいとつついた。
「それで、それで?」
 年齢も近い少女の恋話ともなれば、つい聞きたくなってしまうのが世の常。尼寺育ちの香里はむしろ純粋培養なために、そんな少女たちの言葉で既に頬が赤い。
「初めて会った時に、体に電撃が走ったようになって……この人は、自分にないものを全部持っているって思いました。だからたちまち惹きつけられて、虜になってしまいました」
 少女の語る恋物語は情熱的だ。聞いている年長者のほうが、赤面してしまう程に。
「一番上の姉さんには、あの変態には近寄るなって、そう言われましたけれど、私の想いは抑えることができませんでした。だから恋人になれた時、すごく、すごく嬉しかったです……」
 変態、という単語に一瞬驚いたものの、それでも想いを貫き通すファムニスの気持ちは本物なのだろう。少し羨ましい気分になった。――次の言葉を聞くまでは。
「私だけの恋人になってくれたらもっといいんですけれど、あの人は、恋心をたくさん持っている人だから……」
 一瞬、場が凍りつく。
 それって二股とかそれ以上ってことなのかしらと、年長者である来風は思ってしまうし、香里は
(そんなお人もいるのですね……)
 と、世間の広さを改めて知ったように呆然とする。
「そういう人でもいいんですか?」
 来風は恐る恐る尋ねると、
「あの人、誰に対しても本気なんですよね。そんなところも含めて、大好きなんです♪」
 そう言って笑うファムニスは、本当に幸せそうだった。


「まゆは実体験としての恋の話は無縁ですね」
 真夢紀はそう言って一息つく。ファムニスとは年齢も近いはずだが、その生活はかなり違うらしい。
「お姉様とちぃ姉様には婚約者がいて、どちらも仲が良いのですけど……」
「マユキのおねえさんたちとショウライのだんなさんたち、なかよし。しらさぎもすき」
 からくりのしらさぎも楽しそうだが、真夢紀はうーんと考える。
「しらさぎの言う『すき』は、恋愛じゃなくて家族愛ですけれどね。他の相棒もまだ幼いし……」
「でもクロハヤテ、リンレイのことだいすきだよ?」
 しらさぎが言う。鈴麗というのは、真夢紀の相棒である龍の名前だ。それについて、真夢紀が苦笑しながら言葉を添える。
「ああ、黒疾風っていうのは故郷の幼馴染の開拓者の龍の名前なんです。どうも鈴麗に気があるようなんですけれどね……鈴麗自身にはそういう気がないのか、贈り物をあげても今一つよくわかっていないみたいで、黒疾風はよくしょげてます」
 相棒の恋愛。それは存外聞けるようで聞けないものだ。しかも、人間との意思疎通が難しいであろう龍の恋である。
 これこそ、来風が求めていたもののひとつだった。
「いつだったか、その幼馴染が参加した依頼で、森の主の狼が結婚したみたいだから祝いに来てくれっていう依頼があって……そこで森の主に黒疾風が慰められていたみたいとか、言ってましたっけ」
「ところで真夢紀さんは幼馴染さんと……とかはないのかしら?」
 そんなことを尋ねるノエミ。真夢紀はくすっと笑った。
「そこまで考えられるほど、まだ大人じゃないですし」
 ファムニスとは好対照だ。しかし、確かにまだ年若い彼女にとって、考えることは沢山あるのだろう。
「……そういえば、来風さんはまゆのカタケットでのじゃんるって知ってましたっけ? 架空の開拓者の衆道はあくまでも幻想だから、楽しんで書けるし読めるんです。だからまゆは、架空開拓者っていうじゃんるで活動しているんです。……それに、現実にいる開拓者の妄想は、ねぇ……それでしらさぎが色々と犠牲になっていますし……」
 年齢制限のある作家さんたちは確かにみな絵が綺麗なんですが、とため息をつく真夢紀。なんとなく察しがついたのだろう、来風も苦笑を浮かべざるを得ない。
 当のしらさぎはといえば、きょとんとした顔で、
「……ぎせー?」
 と不思議そうに首を傾げるのみ。真夢紀はしらさぎの口元を拭いてやりながら、
「知らなくていいこともあるの」
 そんなことを伝えていた。


「……そういえば、私はジェレゾの女学院に通っていたのですが」
 真夢紀の言葉を引き継ぐようにして、ノエミが話しはじめる。
「ある時、アヤカシの起こした事件に巻き込まれて、開拓者の皆さんに助けていただいたんです。皆さん美形ぞろいで、しかもお強くて……気づけば見惚れてしまいまして」
「ああ……」
 ノエミの言うことは一理ある。開拓者は何故かわからないけど美形揃い、それを肴にしている人もいるくらいで――
「ですからそれからは、開拓者の皆さんに関する書物などを集めて、ひたすら読んでおりました」
 おお、来風との共通項のある少女だ――誰もが一瞬そう思った。彼女が次の言葉を口にするまでは。
「家の伝手で、先ほど真夢紀さんもおっしゃっていた『カタケット』なる場所で売られていた絵巻を沢山入手したのです」
 ……ああ、それはあかんフラグや。
 しかしノエミはうっとりとした表情を浮かべている。そしてガサガサと鞄から何やら取り出した。それらは例えば、香里のようなうぶな者には刺激の強すぎるであろう、そんな絵巻が殆ど。
「皆さん……こんなふうに愛したり、愛されたり……と、特に小さな男の子開拓者さんの本が最高です!」
 同い年くらいの男の子と!
 年上のお兄様やおじ様と!
 またうっとりとした声で、ノエミは呟く。
「ああ……素晴らしいです」
 開拓者になりたての者にありがちな、陥りやすい罠の一つだろう。現実はこんなに美しいものばかりではない。
「私も運よく志体持ちと判明したので、お父様を説得し、晴れて開拓者になれました。これで……これで開拓者の皆さんの、あんな姿やこんな姿を、直に見ることができるんです!」
 その言葉は、喜びに溢れていた。しかし、その催事によく顔を出している真夢紀は、口に出す。
「の、ノエミさん……そこにある絵巻のほとんどは、創作ですよ? 実在する開拓者さんを描いたものもありますが、あくまでもファンの妄想の産物ですからね?」
 一瞬の沈黙。
 しかし、ノエミはめげなかった。
「……ふふっ、それしきで私は諦めません!」
 顔はわずかに引きつってはいるが、笑顔だ。
「絶対、そういう関係の方々はいるはず! 必ず見つけてみせます!」
 確かに、そういった嗜好のある開拓者は皆無ではない――が。それを目標にすると大参事が待ち受けていそうで、怖い。
「私の開拓者人生は、これから始まるんですから!」
 力強いノエミの一言に、苦笑を浮かべるしかなかった。


「ふう……驚きました。色んな方がいるんですね」
 香里が、ひとつ息をつく。
「皆さん、愛の形というか……そう言うものはまちまちですからね」
 来風も少し、苦笑い。
「ええと……私のお話は、恋のお話と言いましょうか、ご相談に近いのですが」
 香里はほんのりと頬を赤らめる。
「実は、都に出て程無い頃から、お声をかけて下さる方がいらっしゃいまして……。何度かお誘いを頂いて、お出かけやお話をして……決して嫌い、というわけではないのです。心安い方で、一人で都に出てきてから、寂しく思うこともありませんし」
 男性には基本的に免疫の薄いであろう香里がそう言うのだから、かなり信頼における人物なのだろう。
「その方とはどうやって知り合ったんですか?」
 曲がりなりにも恋人もちのファムニスが、興味津々に問いかける。
「彼とは、近い時期に都に来たのが縁で知り合った気安い友達……なのですが、おかしいですね、そんなことを時々ふと自分に確認する自分が恥ずかしくて……ほんの時々、なのですが。お気遣いは本当に嬉しいですし、感謝以外にもお返しをしたいとは思うのですが……」
 香里はため息をつく。
「来風様や、皆様は、異性の方とお出かけされた時にこんなことを考えたりされますか? 自分がおかしくないかと思ってしまうんです……ごく最近のことですのに……」
 その問いかけに、しかし乙女たちは首を横に振る。
「それが、きっと好きってことなんだと思いますよ?」
 来風が言えば、ファムニスも
「恋わずらいの一種、ですよね、それ」
「……恋、わずらい……」
 香里は目を瞬かせる。とくん、と胸がなる。
「そうですわね。折角ですし、その殿方のお話をもっと聞きたいですわ」
 ノエミも興味津々。真夢紀もそれを微笑ましく見つめている。
「え、ええっ……それは、その、」
 香里の頬が朱に染まる。その頬の赤さが紛れもなく恋の証だろうに、自覚が薄いらしい。
「あの、このお話は内緒にしてくださいませね?」
 慌ててそんな言葉も付け加える。乙女たちは顔を見合わせ、そしてこくりと頷いた。


「それにしても、面白い経験でした」
 それぞれが土産用にと買ったチョコレートの紙袋を手に持って、笑う。
「女同士だからこそですよね。男子禁制」
 真夢紀も頷く。
「かの方にも土産が出来ましたし」
 香里は頬を赤らめながら。
「頑張って下さいね」
 ファムニスが励ましの言葉を与えれば、香里もおずおずと頷いた。
 そんなやりとりを、来風は微笑ましく見ていた。


 ――恋心ノ章。
 ――人ノ想ヒハ、様々ナリ。