持つべきは〜睦月の綴〜
マスター名:四月朔日さくら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/28 22:59



■オープニング本文


 年末に祖母を出迎え、年を越してもうそろそろ半月以上が経過している。
 来風(iz0284)は『王様総選挙』なるものに揺れる神楽の都を微笑ましく見つめながら、さまざまなことを考えていた。

 作家になりたいと言って、志体があると判明してすぐに故郷を出た一昨年の秋。
 それからさまざまなことがあって、今はたくさんの開拓者に助けてもらいつつもそれなりに仕事をこなしている、つもりだ。
(知己というのは大事よね……)
 自分よりも前に家を出た兄も、きっとそういう人達に囲まれているからこそ、今は戻ってこないのだろう。……少なくとも、来風はそう信じている。
 この天儀には様々な人達が住まい、そして助けあいながら暮らしているのだから。
「……そうだ」
 いつも話を聞かせてもらう月末も近い。
 彼女はいそいそと支度をして、ギルドへ向かった。


「友人の話……ねぇ」
 馴染みのギルド職員はふむ、と頷く。
「開拓者という生活では、家族も大切ですけれど、友人も大切だと思うんです」
 近くの他人、というやつだ。
 いや、あるいは故郷の幼なじみの話というのも面白いかもしれない。
「ですから、そういう話を聞けたらいいな、と思いまして」
 その人にとって大切な人。
 そんな大切な仲間との一コマを、聞かせてもらえたら――
 来風は微笑む。
「ふむ。ならまた募集をかけておくか。そろそろあんたの雑記帳も一杯なんだろ?」
 職員のニヤリという笑みに、来風はぱっと顔を輝かせた。
「ありがとうございます!」


■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
宮坂義乃(ib9942
23歳・女・志
零式−黒耀 (ic1206
26歳・女・シ
三郷 幸久(ic1442
21歳・男・弓


■リプレイ本文


 気がつけば、もう正月も終わりである。
 『正月』というのは一月を指す言葉であった――と、来風(iz0284)はかつて図書館の本で読んだことがある。
 だからまだ、一応は『正月』なのだ。
 そんななか、集まってくれたのは八人の開拓者たち。
「へぇ……ギルドの依頼にも本当に色々あるんだなぁ……」
 感心したように呟くのは、まだ開拓者としては新人の三郷 幸久(ic1442)。
「ギルドが斡旋する仕事って言うと、やはり戦闘が多いかと思ってしまうのでしょうけれど……じっくり探すと、案外こんな依頼も多いんですよ。今年は特に、王様総選挙で都が盛り上がっていましたけど、それもギルドが一枚噛んでますしね」
 ギルドや図書館に出入りすることの多い来風はにっこりと笑う。それを聞いて、零式−黒耀(ic1206)の相棒である提灯南瓜のクラインも不敵に笑った。
「そうそう! お話するだけでいい仕事、なんてサイッコーじゃないか! そう思うだろう親友!!」
 その言葉に黒耀もクスリ。
「そうですね。ですがクライン、いつ私とあなたが親友となったのか聞かせていただきますか?」
 ……微妙に眼差しは冷ややかだったが。 
 それにしても、この『来風のお願い』に付き合ってきた人も、何人いることか。
「来風さん、ご無沙汰しています」
 そう言って柔らかく微笑むのは菊池 志郎(ia5584)。言われてみれば彼の顔を見るのは来風にしてみれば久々である。彼の脇で羽妖精の天詩はもふもふと塩昆布を齧りながら、元気よく手をあげた。
「らいちゃん、こんにちは!」
 その食べっぷりが可愛らしくて、思わず他の仲間達も笑顔を浮かべる。
「私ははじめましてですね。巫女の鳳珠(ib3369)と申します。皆さんよろしくお願いしますね」
 そう言って微笑むのは青い髪の巫女。ふわりと微笑むさまはいかにもおとなしそうな印象を受ける。
「こちらは皆さんに。あうといいのですが」
 そう言って差し出したのは、緑茶である。ひとくち飲めば、口の中にどこか甘いような、柔らかい口当たりだ。
「わぁっ、これすごくお餅とあいそう! ありがとっ、鳳珠さん!」
 来風ともすっかり顔なじみなリィムナ・ピサレット(ib5201)が、ぱっと顔をほころばせた。そして、傍らにいる金髪の少女に笑いかける。その少女も嬉しそうに笑いあった。
「あ、リィムナさん、そちらは?」
「あ、来風さんは初めてだよね。あたしの一番の友達なんだ!」
 来風の問いに、リィムナはまた嬉しそうに笑う。
「リンスガルト・ギーベリ(ib5184)じゃ。よろしゅう」
 龍の翼をもったジルベリアの貴族階級出身らしいリンスガルトと、いかにも庶民的なリィムナが友人というのも面白いものだ。これは話もきっと面白かろう。
「私はリンスガルト姉上の人妖でカチューシャと申します。皆様、何卒よしなに……ほらエイル、貴方は男なんだからもっとしゃんとなさいな」
 可愛らしい人妖がジルベリア式の丁寧な挨拶をする。そして、リィムナの人妖に冷ややかな視線を送った。リィムナの人妖エイルアードはこういう場所にあまり慣れていないのか、オドオドしっぱなしである。
「え、ええと、人妖のエイルアードです。よろしくお願いします」
 それを言うだけでもすでに顔を赤らめ、俯きがちだ。しかしそれが母性本能をくすぐるなんていう人もいそうだし、世の中というのはどう転ぶかわからない。
「そういえば、来風殿とはもう三度目になるな」
 そう、わずかに感慨深げに言うのは宮坂 玄人(ib9942)。男名を名乗り、男勝りの口調で喋っているが、女性である。それもあってか、鋭い目つきもこういった場ではわずかに優しく光を宿す。
(にしても、友達……か)
 どこか懐かしそうな瞳をして、彼女は遠くを見やる。傍らのからくり、桜花がそんな主の姿をどこか眩しそうに見つめていた。
(玄人様のご友人……私も興味がありますわ!)
 ……そんなことを思いながら。


 それにしても、友達、というのはどこからどこまでが友達なのだろう。
 礼野 真夢紀(ia1144)は、ふんわりと考える。
「まゆには故郷にも幼馴染がいて、カタケットや大作戦などの時に一緒に行動したりしてますけど……ちょっとずれますけど、都でお世話になってるのは『お姉様たちのお友達』から始まった方たちなんですよね」
 真夢紀には姉が二人いる。身体の弱い長姉と、それを護る次姉。真夢紀本人はその二人の代わりに見聞を広めるという名目も兼ねての開拓者なのである。
 ああ、あの人達ですねと相棒のからくり・しらさぎが美味しそうに安倍川餅をぱくつきながら二人の女性の名前をあげると、真夢紀はこくりと頷いて言葉を続けた。
「やっぱり開拓者になるのって、ある程度年齢が高くないといろいろと難しいところってあるじゃないですか。だから同じ程度の年齢の人って、都に来たばかりの頃にはほとんどいなくって……で、下宿もギルドに近い今のところに移るまでは、その方のご家族が経営していらっしゃるお宿に近いところに住んでいたんですよ」
 来風はなんとなく心当たりがあった。以前連れて行ってもらったあの宿だろう――あの家庭的な暖かさを思い出して、なんとなく気持ちがほっこりとする。
「まゆも料理をするのは好きだから、よく調理系や、復興支援系や、あとはお祭りなんかの依頼に一緒に行ったりしまして……最近ではお姉様達に送る手紙の返事で、『そんなことがあったのですね』って返信が来ることがあるんですよね」
「あちらのあいぼうのカラクリさんも、りょうりじょうず。おめかししていることもおおい」
 真夢紀の言葉にしらさぎも言葉を挟む。
「うん、妙齢の女性ですからねえ……」
 同じようにからくり相棒を持っているとはいえ、しらさぎとは随分違う。それも恐らく思考能力が童女とあまり変わらないままだからだろう。おめかしが好きと言っても、化粧などには縁がないのだ――真夢紀は、口元にきなこをつけっぱなしのしらさぎを手拭いで拭いてやりながら、そんなことをぼんやり考えていた。


「友人というなら……まずはやはり相棒でしょうか」
 鳳珠は店の外に控えている戦馬、務にそっと目をやった。当の務の方はといえば、無心に草をはんでいる。
「依頼などで怪我人や荷物を運ぶとき、とても役に立ってくれます。特に戦馬に進化して空も飛べるようになってからは、地形の制約を受けないので、どういう状況であっても、本当に空から駆けつけることができるなど、いつも助けてもらっています」
 そこで彼女は一口茶を含んで喉を潤してから、にっこりと微笑んだ。
「ですから、私の中で務は相棒というよりも、一緒に治療活動に携わって人々を助けてくれる仲間であり、大切な友人なんです」
 その話を聞いて、幸久がやはり外にいる相棒の駿龍・暁をふと思う。
「そっか……そうだな。俺も、暁に信頼してもらっていい相棒になってくれることを願うばかりだな。鳳珠さんと相棒さんの域に至るには時間かかりそうだけどな」
 けれど、相棒と仲がいいのは誰しも望むこと。
「きっと大丈夫ですよ」
 来風がもふらのかすかを膝に乗せながら微笑んだ。
「っとと、話の腰を折っちまったな。続けてくれ」
 幸久に促されて、鳳珠はまた頷く。
「あと、これは私個人の意見ですけれど。友人というのは役に立ってくれるとかそういうものではなく、ただそこにいてくれて、そして自分がきちんと地に足をつけて歩いているかを見守ってくれる人というのも、相手はどうお考えになっているかはわかりませんが、私は友人と思っています。……そういう意味では、依頼でご一緒できた方々はみな仲間であり友人と言えます……どうでしょうか?」
 最後の言葉は、少し不安そうに来風に。来風はちょっと考えて、
「それも正しいと思います。というか、人の意見で絶対の誤りというのは、そうそうないと思いますし」
 そう言って、頷いた。


「それでは俺が。……俺は小さい頃にシノビの師匠に引き取られたんですが、友人――彼はもともとその里で生まれた子です。里には子どもがあまりいなかったので、俯きがちな俺でも、遊び友達が増えたと嬉しかったようです。何度も根気強く話しかけてくれて、おかげで俺も随分と里に馴染みやすくなれました」
 志郎が楽しそうに口にする、故郷の友人のこと。
「良い友達をもったのだな」
 玄人が言えば、
「ええ、そうなんですよね……いい奴なんです。でも思いつきで行動するので、巻き込まれるとかなり悲惨な目に遭うんです」
 思い出したのか、志郎の口元が綻ぶ。
「いつだったか、山奥にしか生えていない薬草を採りに行くと昼間急に出発して、目的地に着く頃には真っ暗。足を滑らせて二人で谷底に落ちたこともありましたし、師匠の部屋を掃除してる時に何を思ったのか傍で三角跳をはじめて、俺にぶつかって倒れて……師匠の大切にしていた掛け軸を破ってしまい……怒った師匠に縄でぐるぐる巻きにされて川に放り込まれたりもして。どっちも死ぬかと思いました」
 その割には楽しそうで、懐かしそう。思い出ということで、やはり補正がかかっているのだろう。
「そうそう、俺の一張羅をあいつが街に行く時に貸したら、喧嘩をしたらしくて、袖を破いて泥だらけで帰ってきましたね。それを他の子から聞いて、怒って部屋に乗り込んだら、土下座して待っていたものだから逆に笑ってしまって、結局あまり文句は言えませんでしたよ」
 一つ一つ、それらのどれもが珠玉の宝石であるかのように、志郎は目を細める。
「……そんな彼ももうじき、やはり幼馴染の女の子と祝言を挙げるんです。何も考えずに遊んでいた頃からずいぶんと時がたったと感慨深くもありますが……やはり、とても嬉しいものですね」
 大切な友達は、やはりいつまでも大切な友達なのだろう。
 志郎は、笑顔だった。


「玄人さんは、どうなんですか?」
 志郎が逆に問いかける。修羅の娘はうむ、と頷いた。
「そうだな……隠里の規模が小さかったのと、上の兄が大人からも信頼されていたこともあって、当時の俺と同い年くらいの修羅は皆友達って状態だったな」
 彼女はもともと冥越にあった隠里の出身だ。アヤカシに襲われて壊滅してしまったが……悲劇が起きるまではその小さな里で、彼女は仲間に囲まれて幸福に暮らしていたのだろう。
「皆で一緒にかくれんぼや水遊びをしたり、魔の森で探検ごっこをして大人たちから叱られたこともあったな」
 玄人は、そこで言葉を切る。
「しかし……アヤカシの襲撃の時、全員散り散りになって逃げた。だから、今でも無事なのかすらわからない。俺を拾ってくれた師匠は他に気配はなかったと言うが、しかし、下の兄が無事だったんだから……って思いは、ある」
 そう、今も胸のどこかで。
 仲間が無事であることを、祈り続けているのだ。
「玄人様! 望むのならば私も、『ともだち』になりますわ!」
 桜花はそういう。が、玄人はそれにポンと優しく触れ、
「……まずは涙をどうにかしようか」
 と言った。しかしこれは、口下手な彼女なりに頑張った言葉であるのは間違いない。自分のために涙する相棒を、悪くは思えないはずだ。
「いい相棒をもったのですね」
 鳳珠が優しく頷いた。


「改めて、この度はお招きいただきありがとうございます」
 黒耀が礼をすると、クラインも笑う。
「そう、お招きいただきありがとう! あれだろう? ボクと黒耀の素敵麗し友情物語をご所望と! 了解、超感動的に語っちゃうよ〜……ってことで黒耀、無感動な君はそっちで菓子を食ってな!」
 相棒に追いやられる開拓者。しかし無感動、というのはあながち間違いではないのだからしかたがない。
 ――黒耀は顔の見た目こそヒトとほぼ変わりないが、からくりだ。それも、記憶のない。それもあって、無表情、無感動、おまけに真面目で天然ときている。
 クラインが面白おかしく話したがるのも、あるいは無理の無い話なのかもしれない。黒耀は言われるままに餅を食べ、クラインが声高らかに話しだした。
「と、いうわけで始まります、ボクと黒耀の友情物語・出会い編! ボクさぁ、こう見えてすっごい悪戯好きで……え? 見たとおり? ま、それは置いといて、数年前にあるお屋敷でいたずらで落書きやポルターガイストしまくってたら、すごい剣幕で追いかけられて。殺られる! ってなったところを助けてくれたのが黒耀だったのさ。その頃のあいつはその屋敷のからくりだったんだけどさ、種族的に仕方がないとか責任は私が取りますとか……とにかく殺すのは勘弁してくれって庇ってくれたんだ」
 ふむふむ。軽妙な提灯南瓜の話術に、誰もが聞き入っている。
「その時は、あいつからくりなのになんで、って思ったけど……きっと目覚めかけてたから、なんだろうな〜」
 感慨深げに頷くクライン。黒耀には聞かせないように注意を払ってもいる。なかなか気配りのできる相棒だ。
「それからはボクらはずっと一緒で。記憶がなくなった今も共にある……それはあいつがどうなったって、ボクにとっては恩人であり、親友だからさ」
 イタズラ好きで、お茶目な相棒という面の強い提灯南瓜。
 けれど、確かに黒耀との間に、友情は成立しているようだった。


「俺の友人は、里にいる幼馴染かな」
 幸久が語り出す。
「そいつは里長の長子で、まあ跡継ぎだが、ガキの頃は二人して悪戯ばかりして、跡取りだろうがなんだろうが二人で拳骨を食らったよ。障子に穴開けたりするのは序の口で、鍋に蛙の卵を仕込んだりもしたな」
 口調はどこか懐かしそうに。今の幸久自身、その友人の片腕にいつかなるための修行と見聞を兼ねての開拓者生活だからだ。
「まあ、十二を過ぎた頃から周囲には気を使えと言われたが、付き合いはちっとも変わらずでな。それでも奴は里長としての道をしっかり見据えていて、やや閉鎖的な村の性格を時間をかけてでも変えていこうと考えている、いい奴だよ。あいつだって外の世界を見たいだろうに、志体もちの俺のほうがいいだろうって、周囲も説得してくれてな……」
 よほど仲の良い二人なのだろう。そんなことを言って譲り合えるのだから。
「里の期待全部は重いし、それに応えるつもりもないが、せめてあいつの期待くらいは応えるつもりだ。ちょいと無理難題もふっかけられてはいるが、それは俺だけじゃなんともならんし」
 そう言って、苦笑交じりに頭をかく幸久。どんな無理難題なのか、むしろ気になるところだ。
「……待っているのが親兄弟だけなら、出て行くことも考えたかもしれない。いずれ戻る気でいるのは、やっぱりあいつとの約束があるからだよ」
 世界に飛び出して間もない青年は、そう言って笑う。
 後悔はしないようにしたい。自分のためにも、友のためにも。茜色の瞳が、優しく光った。


「それじゃあ、あたしとリンスちゃんについても話そうかな♪」
 リィムナはリンスガルトに抱きつきながら、いかにも楽しそうに話し始めた。
「きれいな金髪に真っ白な肌でお人形みたいでしょ? 姉ちゃんに釣れられてお屋敷に行って初めて会った時、つい思わず抱きついちゃった!」
 元気で奔放なリィムナにとって、リンスガルトは憧れの的だったのだろう。もともとはリィムナの姉がリンスガルトの家でメイドとして働いていたのがきっかけだったようだ。
「どんな娘かと思うたが、いきなり抱きつかれるとは思わなんだな。おまけに全身くすぐりおって」
「あの時は怒ってるみたいだったから、笑わせようと思ったんだよ♪」
 リィムナが弁解をする。それでもされるがままなのは、そんなリィムナを見ているとなんだか自分まで元気になれるから、ということらしい。
「……まあ、ちと悪戯がすぎることもあるが、それもまたリィムナらしくて良い。妾にとってかけがえのない友じゃ」
 お嬢様然としたリンスガルトに取っても、リィムナは憧れの的なのだ。
「年も近いから、すぐ友達になったよね♪ お屋敷の中で障害物競走をして、置物を幾つか粉砕しちゃって、姉ちゃんにたっぷり叱られたりとか!」
「うむ……リィムナの姉がいろいろな形で説教してくれるまで妾は屋敷の暴君であったゆえ、自ら近づこうとするものなどおらんでな。領国統治が一番大変なときで、母上は妾と会う暇すら殆どなく……寂しさでそうなっていたのじゃ」
 リンスガルトは懐かしそうに言う。
「だからこそ今思えば、リィムナに初めて会った時、すでに妾は心奪われておったのじゃ」
 リィムナも嬉しそうに頷く。
「でもある日、村に旅の魔術師さんが来て、あたしに素養があるって言ってね。十日くらいだけど魔術を教えてくれて……そしたら魔法が使えるようになって」
 あたしって天才だからね、とくすぐったそうにいうリィムナ。しかしそれは――
「で、家族の為に開拓者になってお金を稼ごうって決めて。みんなに黙って天儀に来たんだ」
 離別の合図でもあったのだ。
「だから、同時期に開拓者になってたなんて知らなくて、しばらくしてから偶然リンスちゃんに再会した時はびっくりして。……自分で決めたことだから我慢してたけど、ずっと寂しくて、気が付いたら抱きついて泣いてたんだ」
 思いもよらなかったと、その時のことを思い出す二人。
「妾も、リィムナが開拓者になったことを知らなくての。じゃから、天儀の開拓者ギルドで再会した時にひどく驚くとともに嬉しくて堪らなかった……そして、大泣きしておったリィムナを見たら胸がきゅっとなって、気づいたら抱きしめておった。もう二度と離れぬ、と」
 お互い、開拓者になったことを知らずに異国の地、神楽の都で再会する。それは天文学的な確率ではないだろうか。きっとそれも、心からの友だから――そう思うと、なんだか誰もがホロリとする心持ちにさせられた。
「うん、あの時は嬉しかったな……」
 思い出したからだろうか、リィムナの目は潤んでいる。
「その後はリィムナの姉妹も全員天儀に渡ってな、今は神楽の都にある我が屋敷で皆で一緒に暮らしておる。毎日が賑やかで楽しいのじゃ」
 それはたしかに賑やかそうだ。
「このカチューシャも、妾の妹としてリィムナが作ってくれたのじゃ」
 リンスガルトにそう言われ、カチューシャはちょっぴり得意げだ。
「のう、リィムナ。これからもよろしく頼む。友として、そして……」
 最愛の人として。
 少女の唇が、もう一人の少女の唇にふれる。
「うん、あたしも……お、お嫁さんにしてね!」
 顔を赤らめたリィムナ。その横でエイルアードが当人たち以上に顔を赤らめている。カチューシャはやはり頬を染めつつも、エイルアードの目を塞いだ。
 少女同士の、ほんのり過激な友情に、周囲は顔を赤らめ、しかし微笑ましく見つめていたのだった。


「来風さんのお話ももうすぐ一年なんですねえ」
 志郎が感慨深げに言う。
「ええ。……でも、一年で終わってしまうとやはり寂しいかな、なんて思いもします」
 来風も、ちょっと笑った。
「皆さんさえ良ければ、まだまだお話を聞きたいんです。……もちろん、やりたいことはあるんですけど」
 皆は一瞬顔を見合わせる。しかし――
 話者たちは、笑顔を浮かべた。どこか、物楽しそうに。


 ――睦月ニ記ス。
 ――竹馬ノ章。
 ――カケガエナイ友ハ、一生ノ宝物。