【迎春】『もふら神社』?
マスター名:四月朔日さくら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/24 20:58



■オープニング本文


 そりゃあ、神楽の都の正月って言ったら随分な賑わいってもんだ。
 特に今年は各国の王様が揃い踏みとか何とか言うじゃないか。
 それに合わせて王様の人気投票みたいなものもやるっていう話だし、そりゃあ賑わいも一際さね。
 街ゆけばいろんな人がいてさぁ。
 見てるだけでも楽しいさね。華やかってぇもんだね。
      ――神楽の都在住の老人談


 そんな神楽の都の一角で。
「む〜〜〜」
 かわら版を読みながら、うなり声をあげるもふらが一体。そして豪快にかわら版をばりっと破いた。
「もふたちは精霊もふ! もっと崇め奉られてもいいはずもふ! だけど気がついたら……今年は王様の話で都は一色もひゅ」
 あ、噛んだ。
「つ、つまり! もふたちの出番がちーっともないもふ!」
 このもふら、よく見ればすごいもふらであるようだ。よくわからないけれど、ドヤ顔が当社比三倍である。と、もっふっふ、と笑い始めた。
「……そうだ、いいことを思いついたもふ」
 流石すごいもふら、もふらには思いつかないことを思い付いたのだろうか。


「もふら神社?」
 開拓者ギルドにそんな文字を見つけたのは、ギルド職員の一人だった。
「祭神はもふらさま。もふらさまを崇め奉るための神社……なんじゃこりゃ?」
 ああ、とそんな声を上げた同僚に、職員の一人が応じる。
「先日もふらさまがいらっしゃいましてね。自分たちが神社を始めることにしたから、手伝いの巫女さんや参拝客を集めて欲しいらしいですよ。まあ、もふらさまのお遊びのひとつみたいなものじゃないですかね?」
「ふむ……ところでこれ、依頼なのか?」
「ええ、もふらさまが依頼人です」
「報酬はどうするんだ。野良もふらさまはたいてい文無しだろう」
「それは、集客状況で、とのことですよ。まあ、お賽銭やらから寸志、というカタチじゃないですかね」
 もふらさまはこの天儀の精霊。ないがしろにすべき存在ではない――とはいえ、こんな依頼。
「人……来るんかねぇ?」
 年配のギルド職員は、ひとつため息を付いた。


■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
皇 那由多(ia9742
23歳・男・陰
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
ワイズ・ナルター(ib0991
30歳・女・魔
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
ローゼリア(ib5674
15歳・女・砲
エルレーン(ib7455
18歳・女・志


■リプレイ本文


 もふらさまだってめでたい年の始を祝いたい。
 ……たぶん、最初はそのくらいのかる〜い気持ちから始まったことだとは思うのだ。うん、たぶん。
 けれど気づけば開拓者や、都の人々を巻き込んで……あれ、どうしてこうなった?

 ……とりあえず、この奇妙な『もふら神社』。
 その顛末をご覧いただこう。


 神社の場所は、都の中でも長屋が並ぶ地域、その中の空き地であった。
 小さな掘っ立て小屋がどうやら『本殿』らしい。
 その前にはやはり小さな賽銭箱。
 鳥居のたぐいはないけれど、阿吽の狛犬のごとくもふらが二匹、じっと立っている。……あ、吽形のもふらがあくびした。
 そして――社の前にいる、でっぷりとしたすごいもふら。
 開拓者たちが集まると、そのすごいもふらはもっふっふ、と笑った。
「ようこそ『もふら神社』もふ〜。もふはここの祭神であるすごいもふらもふ。みんな、もふを崇め奉るもふ〜」
 すごいもふらさま――面倒くさいので「すごもふ様」と略すことにする――は、集まった面々の顔を見て実に嬉しそう。
「で? 何をどうして人を集めるもふ?」
 すごもふ様は開拓者たちを試すようにして顔を眺める。
「もふ〜! もふ龍神主やってみたいもふ〜☆ そしてご主人様は巫女さんをやるもふよ♪」
 そう嬉しそうに宣言するのは、同じくすごいもふらのもふ龍――紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)の相棒。紗耶香は紗耶香で、
(もふらさまもいろいろとやりたがるわね〜)
 と内心思いつつも、わかりましたよとにっこり笑顔。やる気になって楽しそうにしているもふ龍を邪魔するのもかわいそうだと思う彼女は、やはりもふらが好きなのだ。以心伝心、二人の間の心のつながりは完璧といえる。
 ……その一方で。
「もふもふ、なんか神社だってえ……神様にでも、なってみる?」
 エルレーン(ib7455)がそう、脇にいる相棒のすごいもふらのもふもふに尋ねれば、
「も……ふ?」
 と驚き混じりの返事。しかし、まんざらでもなさそうなのは顔を見ていればどことなくわかる。
 もともとはエルレーンが巫女装束に憧れを抱いていたらしいのがきっかけで入ったこの依頼。しかし依頼主がもふらさまとなれば、もふもふだってかっこいい部分を見せることができるかもしれない。
 ……普段のもふもふは、はっきり言って、エルレーンにいいように扱われているおもちゃのような存在である。
 だからこそ、こういう状況に慣れていない。そして胸を高鳴らせていても、多少はやむを得ないのだ。
「あら、そちらももふらさまと巫女さんなの? 今回はよろしくね、もふ龍ちゃんともども」
 紗耶香がにっこりと微笑む。エルレーンもにっこりと笑い返した。
 ……もふもふはその様子をじいっと見ていた。いや、なんとなく。

(もふらさま達によるもふらさまのお社だなんて……! いっそ住み込みで働きたいくらいですっ!)
 そんなことを胸に秘めているのはおとなしそうな見た目の少女、柚乃(ia0638)。だがその実、紗耶香に負けず劣らずのもふらさま大好きっ子だ。
 今は色々と精進中だが、もともとは巫女だったという柚乃。今回は初心に帰る意味でも巫女さんとしてお手伝いをしたいということで参加した次第だ。ただし連れてきた相棒はもふらではない。まだやんちゃ盛りの忍犬、白房である。
 白房にとってはこれもしつけの一貫――なのであろう。
 そしてそんな白房ときょうだいの子犬・雪夜を引き取って育てている御陰 桜(ib0271)もまた、又鬼犬の桃を連れての巫女さん参加と相成った。
(巫女さんってことはつまり、三食もふらつきのばいと、ってコトね♪ ヤるヤる〜♪)
 桜はノリは軽いが、しめるときはきちんとしめるところのある、信用に足る女性だ。そうでなければ、これだけ相棒になつかれるわけもない。
 その一方、白房と雪夜はお互いの匂いをくんくんとかぎあっていた。やはりきょうだいだけあって、何処か物懐かしさが感じられるのだろう。
 ――そして、かつて同じようにきょうだい犬を引き取っていたケロリーナ(ib2037)も、この場に参加していた。あいにくまだ相棒としてギルドに登録していないため、今回の連れはからくりのコレットであったけれど。
「ふぁ〜、もふらさま神社始めたのですね!」
 まだ幼さの残る翠の双眸は、きらきらと輝いている。
「けろりーなも、巫女さんとしてがんばるですの〜♪」
 その声は明るく、そして楽しそうだ。コレットは、それをそっとほほえみながら見つめ、そして頷いて宣言する。
「お嬢様は私が護るのだ! 騎士としての役目、果たさせてもらう!」
 とは言えコレットも女性――厳密な性別はからくりにはあまり関係ないのかもしれないけれど――となれば、巫女になるのはある種自然な流れ。
「コレットちゃん、一緒にがんばるですの♪」
 ケロリーナの嬉しそうな声に、コレットもこっくり頷いた。
 そしてもう一人――ワイズ・ナルター(ib0991)は、真摯な瞳ですごもふ様を見つめる。ナルターはもふら様の神々しさを巫女として崇め、そして自分も含めた良縁の祈願をしたいと考えていた。『自分も含めて』というのが、どうにも切なく感じられる話であるが。相棒である甲龍のプファイルには、警備を頼むつもりだ。
「プファイル、神社でトラブルがあったら対処してね」
 ナルターは優しくプファイルの鱗をなでてやる。

 ――というわけで、巫女さんの準備は万端。
 神主も、もふ龍という最適な人材(人ではないけれど)に任せることができる。
「もふたちの神社はこれくらいしかないもふ。だから、お守りとかも手作りになるもふね」
 なるほど、神社であればそういったものを配るのはよく見られる光景だ。幸い巫女装束の方はどこからか準備されていたのを着ることになり、そちらの経費はかからない。
 ただどちらにしろ、準備にもう一日くらいは必要だ。
 臨時巫女たちは頷き合って、準備にとりかかることにした。


 すごいもふらであるもふ龍が神主をするというのなら、それらしい装束が必要であろうと考えていた紗耶香。採寸をして器用に衣装を作ってやる。
「お守りはやっぱりもふらさまの毛を使うといいと思うの」
 お守りについての提案も、他のみなとそう変わりないものであったから、準備は滞り無く進んでいく。
「巫女装束を着ると、なんとなく気が引き締まるわね♪」
 桜はそのメリハリある身体を巫女装束に包む。天儀服にあまり慣れていないジルベリア出身のナルターらに着付けを指導したり、ケロリーナらと一緒に野良もふらさまたちのやや煤けた毛並みを綺麗に洗い、櫛を通したり。野良もふらたちも、たちまちのうちにピカピカだ。そこで抜けた毛などは、お守りに使えばいいというケロリーナの意見も、モノをムダにしないということもあってたちまち採用された。
「おみくじは柚乃が用意しますね」
 神社といえばお守りと同じくらい、おみくじも大事。特に初詣ともなれば、一年の計を知りたい人たちがおみくじをこぞって引いていくのだから、必要不可欠とも言える。
 柚乃の提案したおみくじは若干時間は掛かりそうだが……うまくいけば人気がでるかもしれない。
「あと、絵馬も!」
 紗耶香も、もふ龍の準備と一緒ににっこり笑う。
 お守りはもふらの刺繍がしてある守り袋にもふらの毛を入れたもの。
 絵馬は、もふらの絵が愛嬌たっぷりに描かれたものを用意する。
 これらはやはりもふら好きの巫女たちが考えて作ったもの、という感じで、小さなこだわりがたっぷり込められていた。

 ところで巫女装束といえば、やはり色々憧れを抱く人は少なくない。前述のとおり、エルレーンもご多分に漏れずその一人で、がんばって着つけた浄衣と赤い袴姿を嬉しそうに何度も姿見にうつしては、
「うふふ……私きれい? 私かぁいい?」
 と相棒のもふもふに聞くが――もふもふはナルターの姿を見てもふぅっと思わず声を上げている始末。
「もふうううう、『せくしーだいなまいつ』もふぅ! 我輩をつれてってほしいもふぅ」
 すっかり鼻の下を伸ばしたような声。それもそのはず、ナルターは着つけた巫女装束の雰囲気が、同じものを着ているはずのエルレーンのそれとかなり違うのだ。
 もふら神社に用意してあったのは、浄衣と袴、そして千早という、ごく一般的な巫女装束一式。そしてそれを着る、メリハリのある体型のナルターと、良くも悪くも細身なエルレーン。となれば、同じ服を着ても、その艶やかさは正直いってかなり違う。
「……胸元だけが何故か窮屈ですわね〜」
 ポツリと呟くナルター。もふもふも同調するように、ここぞとばかりに喋る。
「えるれんなんて胸ぺたんこだし、ぎゅうされてもあばらが当たって痛いもふ〜」
 次の瞬間、神社の準備用にと用意した長屋の一室に、悲鳴が響き渡った。
 しかしそんなナルターは事情をよく飲み込めていないらしく、微笑みながらエルレーンにも良かったら着てみてくださいと、千早をすすめてみる。その場に用意されていた普通の千早は程よく胸元を隠してくれて、ある意味ありがたい……が、決して胸が大きくなったわけではないので、エルレーンとしては気分が複雑だった。
「柚乃は袴を用意してきましたから」
 見れば柚乃のつけている巫女装束の袴の色は、まるで髪の色と合わせて誂えたかのような蒼い色。髪はといえば、脇にひと房垂らし、残りを後ろで綺麗に束ねている。実はこの髪の結い方というのも神社の巫女は細かいしきたりがあったりするもので、それを心得ているもふらさまがいたのだろうか、短髪のエルレーンのためにかもじをわざわざ用意してくれていたりもした。
「そういえば白いのをばさばさーってするんだよね?」
 エルレーンが首を傾げると、柚乃が解説をする。
「ああ、それは大幣と呼ばれるものですね。神主さんが用いることが多いですよ」
「だからもふ龍ちゃんでもちゃんと持てるように細工が必要なのよね」
 紗耶香がもふ龍の前足……いや、手というべきなのだろうか……に合う大きさの大幣を作り、試しに持ってもらっている。もふ龍の身につけている衣装は急ごしらえではあるがそれなりにしゃんとした青い神主装束で、なかなか様になっている。
「そういえば神社ですから、甘酒を出すとよいでしょうかね〜?」
 紗耶香がふっと思い立つ。
 神社の初詣といえば、参拝客に振る舞われるお神酒、あるいは甘酒などのいわゆる神饌の類。
「そういうのなら、あたしは甘酒を配る担当になろうかシら♪ 仕入れはそれなりにアテがあるから♪」
 と桜がにっこり。もちろんそれは大賛成で決定となった。
 ……もっとも、桜の『仕入れ』のアテというのは、酒屋さんに夜春を絡めつつの「オネガイ」しての値切り交渉込みなわけだが、それはあえて口にすることでもないだろう。
「お土産にお饅頭……もふら饅頭とかでいいでしょうね〜」
 紗耶香の言う『もふら饅頭』とは、もふらを模した柄をつけた蒸し饅頭。色も味もとりどりで、きっと人気がでるだろう。
「それからそれから、近所の人に声をかけて、縁日をしたりしても楽しいと思うですの〜♪」
 ケロリーナの意見ももっとも。客引きもしないと、そもそも人が集まる保証がないのだから。
「それから……」
 ケロリーナは、もうひとつ、とっておきの案を出してみた。
 
 随分と本番のための準備もできてきた。
 後は、当日になるのを待つだけ――


 翌日。
「……もふら神社? なんだか、可愛い神社ですねぇ」
 道を通りかかった皇 那由多(ia9742)は、首をかすかに傾げて、そして賑やかな様子に惹かれて会場らしき空き地に入ってみる。考えてみればのんびりしていて初詣もまだだったので、好都合とも言えた。
 と、境内で困った様子の少女が一人。
(出掛けてみたは良いものの……こういう催しにはまだ馴染めないですわね)
 ジルベリア出身の少女、ローゼリア(ib5674)である。普段なら脇にいるはずの上級からくりの桔梗とも気づけばはぐれてしまい、なんだかいっそう不安な心持ちになるのである。
 今回は友人に以前連れられて遊びに行った神社詣でがふと懐かしく感ぜられ、思い出に浸るべくふらりと入ってみたはいいものの、
(これは少々失敗したかもしれないですの……)
 そんなことを考えている矢先、那由多に声をかけられた。
「どうされましたか? 迷子にでもなられたのですか?」
 その言葉にカッと頬を赤くするローゼリア。
「迷子じゃありませんわよ!」
 那由多もさすがにまずいと思ったのだろう、
「こ、これは失礼を……」
 と返せばローゼリアがポツリと言う。
「……が、」
「え?」
「神社でのしきたりなどがわからなくて、困っていたのですわ……」
 なるほど、そういう開拓者は実際のところ少なくない。神社という場所自体は天儀では当たり前の場所ではあるが、他の儀においては存在しないのだから細かい作法などを熟知できなくともやむをえないのだ。
「そういうことなら……僕が案内しましょうか? ほら、旅は道連れ♪ これもきっともふらさまのご縁です」
 那由多はポンと手を打って自分の提案を言う。ローゼリアはしばらく黙っていたが、
「……じゃあ、お言葉に甘えまして、ですの。私はローゼリアですの。よしなに」
「僕は皇 那由多。ローゼリアさん、よろしく」
「こちらこそ、スメラギ」
 二人の開拓者は、頷きあった。

「それにしても……来る場所によって、ずいぶんと趣が異なりますのね」
 もふら神社のこじんまりとした、それでいてそこそこに賑やかな縁日の様子に、ローゼリアはきょろきょろと見回して感心するように声を上げる。
「こういう神社の作法は、天儀で暮らすなら覚えておいて損はないですよ。鳥居のくぐり方ひとつからして、きちんと決まっているんです」
 とはいえ、急ごしらえの神社には残念ながら鳥居はない。狛犬の代わりの狛もふらや、そのそばでしっかり狛犬の真似事をしている忍犬などはいたけれど。
「確かに作法って言うといろいろ格式張っていて……ちょっと面倒ですけどね」
 那由多はそうローゼリアに言って、クスッと笑う。
 そして本殿の前で、賽銭を入れ、二礼二拍一礼。
(……今年も弟が元気で恙なく過ごせますように)
 那由多は手を合わせ、そう祈る。一方のローゼリアは、何を祈ったことやら、笑顔を浮かべるばかりでその心のうちは読めない。
 参拝を済ませてから周囲を見れば、もふらさまに触れば開運という眉唾ものの噂をすごもふ様が流したらしく、様々なもふらさまたちをもふもふとしていく参拝客も多く見られた。そして、
「あ、おみくじもあるんですね」
 那由多が見つけたそれは柚乃が準備していたおみくじである。
 おみくじと言っても、まず希望者をタロットで占い、その結果をその場でふさわしい色の料紙に文章で認めるという形。紋切り型のおみくじと異なることから、予想以上の人気を博していた。
「ちょっと変わったやり方ですけど、面白いですね。なるほど、これなら人気も出てしかるべきという感じです」
 楽しそうに眺めていれば、桜が
「あらおにーさんタチ、甘酒はいかが♪」
 と配っている。あいにく酒は苦手だが、甘酒なら問題のない那由多はそちらをいただく。
「ちなみに例の総選挙、えんとり〜シてるから、応援ヨロシクね♪」
 と、桜は己の宣伝も忘れない。
「そういえばどんど焼きもすんだ頃ですし、焼き餅などもあると嬉しいなあ……あちらでは天儀酒も配っているみたいですけれど、どうも酒は苦手で……ローゼリアさんはイケる口ですか?」
「スメラギ、子ども扱いしないでくださいまし!……お酒は問題ありませんわよ」
 子供扱いされたかと思ったローゼリアはわずかに怒ったが、すぐに升に入った酒を手に取る。実は彼女、いわゆるウワバミなのだ。
 饅頭もあったが、近所の長屋衆が出した出見世にちゃんと餅もあった。こちらは猫舌で、餅を食べ慣れていないローゼリアは随分と悪戦苦闘しつつも平らげる。
「お守りは買ったんですか?」
 そう微笑みかける那由多の手元には、可愛らしい守り袋がふたつ。一つは自分の分、そしてもうひとつは
「弟のぶんなんです」
 とにっこり。照れ屋で正面切って受け取ってくれないのでと言う姿は、どことなく悪戯っぽい。ローゼリアも、自分と友人のためにひとつずつ購入する。厳密には、お守りは神様の分体であるから「買う」ではなく「いただく」が正しいのであるが。
 那由多もお神酒を頂いて、こちらは相棒の駿龍である乙女に少し舐めさせ、そして残りを身体にかけてやる。
「お前にも神様のご加護があるようにね……いつもありがとう」
 笑顔で乙女を撫でながら、後で空の散歩に行くのも悪くないなと考える那由多だった。
「今日は本当にありがとうございますの。改めまして、ローゼリア・ヴァイスと申しますわ。どうぞよしなに」
 ローゼリアはにっこりと笑ってまた会いましょうね、と言った。
 今日の素敵な一日は、きっと彼女は忘れないだろう。


 その後も人は途切れることがなかった。
 祭神、と自称して憚らない「すごもふ様」は独自の雰囲気を漂わせて皆に大人気であるし、すごいもふらのもふ龍扮する神主がまた愛らしくしかももふららしくないくらいに賢くて真面目さんとなれば、噂を聞いてもふ龍目当てに来る野次馬も出るほど。むにゃむにゃと祝詞らしきものを唱え、大幣をふるえば、きゃあっともふら好きから黄色い声。
 また、作業をしている巫女さんたちもそれぞれクセはあるが美人揃い。まあ、開拓者にはもともと器量よしが多いというのもあるが。
 そうなれば、いくらにわか作りのもふら神社とて、話題にならぬはずがないのだ。
 巫女役の桜も、作業の合間を縫ってお参りをする。
(今年も元気で楽しく過ごせますように♪)
 同様に、わんこたちも。
(もっと桜様の力になれますように)とは、桃の祈り。
 そして幼い雪夜は
(たのしいこといっぱいあるといいな〜)
 と、無邪気なお願い。
 一方のエルレーンは絵馬を奉納しようとしている。そこに書かれているのは、
『格好良くて強くて優しい、無職じゃない素敵な恋人ができますように☆』
 それを脇で見ていたもふもふ、ちょっぴり呆れ顔。
「……えるれんは胸だけじゃなく、のーみそもぺったんこなのかもふ?」
 ……当然その後、もふもふの悲鳴がこだました。合掌。
 そんな一方で、柚乃は友人でもある来風(iz0284)にと土産のもふらお守りを選んでいた。
(……無病息災……がいいかな、うん)
 友人の笑顔を思って、柚乃も頬が緩む。
 ナルターも、一息ついたところですごもふ様にこっそり良縁祈願のお願いごと。口にだすのはさすがに恥ずかしいので、そのもふ毛を撫でるにとどめておいたが。
 また、ケロリーナが最後に提案した福男ならぬ「福もふ」――もふらさまに抱きついて一番幸せそうな人を今年一番の福が来るとする催しも順調に進む。もふらさまをもふるときはみんな幸せそうで、結局はみんなが「福もふ」になりそうだ。


 日もとっぷり暮れ、一通りが終わってから。
「今日は楽しかったもふ〜」
 すごもふ様がひとり、もっふっふと笑った。すでに巫女役の開拓者たちも帰っており、そこにいるのはもふらたちばかり。
「……楽しい時間をすごすことができたのは何より良いこともふ」
 まったくもって、そのとおり。
 あくまで臨時の神社だったけれど、皆の心にふわりと幸せが舞い降りたのは間違いないだろう――