もふっとほっと試着会
マスター名:四月朔日さくら
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/11/16 23:04



■オープニング本文


 そろそろ風も冷たくなってきた。
 街に住む者たちも、綿の入ったはんてんなどを纏うようになる。
 季節は――移り変わっていく。


「寒いね、かすか」
 来風(iz0284)はそう言いながら、襟巻きを更にひと巻き。
 開拓者はギルドからの支給品などで飢えることはない。けれど、十分な冬の準備にはやはりちょっと困ってしまう。
 特に来風のような、報酬の殆どを文房四宝や本に変えてしまうのでは、たまったものではない。
 開拓者になって二度目の冬、先日送られてきた母のお手製の新しい冬物の服を着てはいるけれど、それだけではやはり寒いのだ。
「さむいもふねー」
 相棒のもふら・かすかも頷いた。といってももふらだから、モッフモフのもふ毛に覆われているのだけど。
「たまには何か、あったかい仕事もしないとなあ……」
 チラリ、と来風はかすかを見る。かすかもよくわからないといった顔で首を小さくかしげた。


 翌日。
「……もふ毛を使った新作衣装の作成手伝い?」
 来風がギルドで目についた『あたたかい依頼』――それはこんなものだった。
 依頼主は天儀各地を旅する商人団。
 寒い地方で、軽くてあたたかく、そして丈夫な衣装を扱うことが多いのだという。
「そこの商人団長がね、新しい服の案がほしいということなんだ。もちろん、その服は試作品を作ることになるんだが……折角なら、ジルベリアや泰などの他の儀の服装を参考にしたらどうかってことでね。それなら開拓者に手伝ってもらうのが得策だろうということになったらしい」
 なるほど。
「報酬としてはそこそこだ。来風ちゃんもどうだい、こういうの」
 いかにも寒そうに見える来風の姿を見て、ギルドの職員が目配せした。
 確かに――それはそれで面白そうだ。
 来風は頷くと、手続きを始めたのだった。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
黒曜 焔(ib9754
30歳・男・武
ミラ・ブルー(ic0542
15歳・女・弓
シンディア・エリコット(ic1045
16歳・女・吟


■リプレイ本文


(もふ毛をつかった新しい服のデザイン……!)
 それだけで、柚乃(ia0638)の心は弾んでいた。もともともふらが大好きなお嬢様、もふ毛をつかった用品はすでにいくつも存在しているものの、更に増えるのが楽しみらしい。
 しかも今回は時折依頼を頼まれている来風(iz0284)も同行するという。来風の相棒ももふらだ、あわよくばもふってやろうという心意気がバッチリである。

「ジルベリアのほうが寒いから……そちらの衣装が基本よね。で、狙い目は働く人たち……だとすると……」
 ブツブツと呟きながら考えているのは礼野 真夢紀(ia1144)。
 働く人に暖かい格好を、そんなふうに考えだすと止まらないのが真夢紀という少女である。何やら雑記帳に書き留めたりして、過去に見たことのある冬装束を思い返したり、そこからさらに良い案がでないものかと考えこんでいる模様。

「でも、もふ毛をつかったあたらしい商品かー。面白そうだなっ」
 そう言ってニッと笑うのはルオウ(ia2445)。ジルベリア人とのハーフという出自のせいか、着ているものもいろいろ折衷気味だが、
(たしかにだいぶ寒くなってきた……とは言っても、さすがに着ぐるみじゃあマズイよなあ……)
 まるごともふらさまなどなら、すでによく出回っている。そういうものよりも、ちょっと奇抜で、そして軽くてあたたかいものを創りあげたい。
「もふらさまの毛の一番の特徴はやっぱりあの『もふもふ』感だよな。そこは外せねえ……ッ!」
 握りこぶしを作ったルオウは、なにかいいひらめきがないかと街を歩き始めた。

(そうか……もうジルベリアでは雪も降っている、そんな時期なのね)
 フェンリエッタ(ib0018)は少し目を細めながら、襟巻きをもうひと巻き。
(でも、重ね着をする分動きにくくなるし、工夫も必要……その割にかゆいところに手が届くようなものってなかなか無くて……私も皆さんのアイデアを参考にしちゃおうかしら)
 寒い冬に慣れているジルベリア出身のフェンリエッタでも、やはり寒いときは寒いものである。そんな時には故郷からの生活の知恵も大事だが、あたらしいアイデアを取り入れることも大事だ。
(今度の発表会、うまくいくといいわね)

「もふ毛……? ああ、もふらさまの毛、かあ……」
 張り紙を見て一瞬悩んだのはエルレーン(ib7455)。しかし横でもふもふしている相棒を見て、ちょっと考えを変えたらしい。
「確かにあれだけもふっていれば、一年に一回くらいはズバッと切っちゃえばいいよね」
 それを小脇で聞いて震えるすごいもふらのもふもふ。
「これがおかねになる、ってなったら……うちで毎日くっちゃねしてるのに戦えないあのもふらもちょっとは役に……げへへ」
 何やら黒いことを考えているらしいエルレーン。もふもふが怖がってます。ああ、一体どうなることか。
 その一方でもふらマニアの黒曜 焔(ib9754)はとろけてしまいそうな笑顔を浮かべていた。
(もふ毛に包まれるなんて想像しただけで気持ちよさそうだ……何という幸せ!)
 もふらさまの可愛らしさも相まって客層は絞られてしまうだろうが、それを抑えて余りある魅力を引き出したいと思う焔。
(楽しみだな……)
 すでに脳内は未来に飛んでいた。

 ジルベリアで被服を生業とする家に生まれたミラ・ブルー(ic0542)は、どこか懐かしい気持ちにかられていた。
(お針子さんのお仕事……実家を思い出して、とっても懐かしいですぅ……)
 実家がそれだけのものを扱っているだけあって、家で見かけたもふもふの洋服は種類も様々。笑顔を浮かべながら、いろいろな可愛いもふもふがいっぱい見られたら嬉しいなあと思いながら、手元では毛糸での編み物をちまちま動かしていた。それはそれは、楽しそうに。

 そうして思い思いの考慮期間を経て、発表会の日と相成るわけである――。


「それでは今日はよろしくお願いします」
 膝の上にかすかを載せた状態の来風が、座ったままにっこりと笑う。横にいるのは今回の依頼主、ややでっぷりした印象の中年男性だ。商人らしいその男性は頷くと、笑顔を浮かべてとうとうと話し始めた。
「お集まりいただきましてありがとうございます。もふらさまの毛、いわゆるもふ毛はみなさんもご存知の通り保温性に優れた被服素材であります。天儀では結構極普通に着られているものですが、他の儀にもふらさまがいないという事実から、もふ毛を用いた冬物衣料は天儀での着用がほとんどでありました。そこで、ここでジルベリアや泰などの衣服のデザインを取り入れたりすることによって、」
 その辺りを延々と話し始めるといかにも長ったらしい。ルオウが適当なところで、
「いや、それはまあいいから」
 と上手い具合に話題を転換させてくれたおかげで何とかなったものの……ちょっと前途多難かもしれない。
「それじゃあ、せっかくの衣装を拝見させてくれますか、皆さん?」
 まだ言い足りないらしい商人がそう言うと、開拓者たちは頷いた。


「もふらさまの毛の感触を残して仕立てるのなら、少しゆるめの毛糸にするのがいいと思うんですぅ〜」
 ミラが身につけているのは、色鮮やかな毛糸で編み上げたセーターやマフラー、手袋、帽子などという防寒具一式だ。
 もふらはもともと毛並みの白っぽいものが多いし、色も様々に染めることが出来そうだ。
「肌触りが少し変わっても良いなら、もふんどしの要領で、生地を織ってからその間にもふ毛をたっぷり入れて、キルト状にして上着を作ったら……きっとあたたかでふわふわな防寒上着になるですぅ〜」
 パッチワーク風のジャケットを羽織っているのも可愛らしい。
「本当は、ふわふわな感触をそのまま楽しめたら一番ですけどぉ〜」
 織物として使うからにはそうは言っていられない。しかし、早速アイデアが山のように飛び出してきて、満足そうな商人だった。

「デザインなどは得手ではないのですが、もふ毛と聞いていてもたってもいられず……」
 そんなことをいうのは柚乃。そっとかすかに手を伸ばし、その柔らかな毛並みに触れて満足そうである。
「とりあえず幾つか箇条書きにしてみました」
 少女はそう言って一つ一つ解説していく。
 一、身体を締め付け過ぎると結構が悪くなって末端の冷えが進むかもしれないこと。
「フィット感というのも大事ですけれどね」
 一、肩や肘などの可動域を妨げると動きづらいかもしれないこと。
 それに、
「首元や袖口に隙間があると寒気が侵入して体を冷やしてしまいますよね」
 そう、防寒には首元や耳、足元を暖めるのが効果的なのだ。でも、と柚乃は言葉を続ける。
「そのままだときぐるみ一番になってしまうんですよね……なので」
 そこまで言って少女はふわりとケープをまとい、くるりと一回転。ケープには獣を模した耳のついたフードも付いている。首元にはおしゃれな結び紐のリボン、そして内側には小さなポケット。
「うーん、女性や子供向けになっちゃうかもしれないかな……?」
 生産量が決して多くないもふ毛を十分に使うのなら、特に暖めたい部分の裏地にするのがいいかな? と柚乃は首を傾げつつ。
 しかしそこに一人の勇者(?)が降り立った!
「いや、そのもふらさまの可愛らしさこそもふらさまのもふらさまたるべき部分だと思うのだよ。だからこそ主要な客層の想定は子どもや可愛いもの好きの女性にして――」
 そう、それは紛うことなきもふらさまスキーの焔である。ばさあっと彼が羽織ったのはもふらさまの耳付きフードのついたもふもふのコート。
「もふらさまには色んな色のもふらさまがおられるから、コートの色も様々作れるのではなかろうか。フードの周りにも、もふらさまを想起させるような色を使えば一層いいと思うのだよ……」
 腰紐は男性にもお勧めな紐型と可愛さ重視のリボン型、更にもふらさまの尾のようになった帯なども思いついたのだよと照れくさそうに笑う焔。そしてさらに、先端に小さなもふらさまぬいぐるみの取り付けられたもふもふマフラーもつければ完璧だ。小さなもふらさまが肩に乗っているような愛らしさがある。
 ……ただ、三十路男の着用するものとしては少々言葉に迷うところがあるが。
「いえ、焔さん。柚乃は焔さんの服装、とても可愛らしいと思います」
 似たもの同士というやつだろうか、もふらさまが導いた友情(?)は、耳付きフードをかぶった青年と少女に笑顔を作らせたのだった。更に、
「俺も似たようなデザインなんだぜ!」
 獣人向けに耳付きのデザインのフードが付いた、もふもふコートを纏ったルオウもニンマリと笑顔を作っている。
「こいつはもふ毛は表裏全面。そんで、裏返すと違うデザインになるようにしたらいいんじゃねえかな? 冬場辛いのは耳とかの露出したところだと思ったから、こういうフードにしたんだけど……」
 更に尻尾も覆えるようにという心配りの結果が、全身を覆いやすいデザインのモフッとしたコートになったのだという。
「きぐるみほどすっぽりじゃなくてもある程度覆えて、生地はやや薄めで動きやすく、そんでもって防寒性はもふもふ感を堪能できるように補って……ファッション的には動物っぽく仕上げてみたら、こうなったんだ」
 なるほど、わかりやすい説明である。カッコいいと呼ばれたい年頃とはいえ少年体型のルオウにはまだまだ似合うデザインで、誰もがその愛らしさに目を奪われた。
「やっぱり、こういうデザインは万国共通なんですね」
 柚乃が微笑むと、焔も優しく頷くのだった。


「まゆは少し実用的なものをと」
 真夢紀がそう言って用意したのは一品ではなかった。
 ジルベリア風の毛糸をつかったセーターとチョッキ――これは値段こそ安くはないがすでに一部で実用化されているものではある――に、足に履く下着、いわゆる股引。それにマントに、長足袋、首巻まである。
「もふらさまの毛で毛糸ができるのはもふら〜などで判っていることですし、皆さんもそういう案は出していると思いますし。下に長袖のシャツを来て、チョッキなどを着た上から着物を着たら、温かいんじゃないかなって。あとこちらは、泰服の下半身を考えて……泰服ってジルベリアのズボンみたいな形ですから、その下に履くものをもふらさまの毛で織り上げたもので作ったら温かいかなあって思うんです」
 なるほど、触り心地も抜群で温かそうだ。
「マントはみなさんも提案していますけれど、こうすれば背中の防寒になりますからね。背中が温かいと体も温かく感じますし、内側にふわふわの毛が密集しているように織り上げればどうかな、って。長足袋は、長さを膝くらいまでにして、紐でくくって留めるんです。足袋の生地の内側にもふ毛生地を使って二重構造にすれば、寒さを逃がしにくくなりそうですから」
 そして首巻は『もふら〜だと裾が邪魔という人向け』なのだそうだ。至れり尽くせりとはまったくこの事である。
「全身をまるっと包むのと一緒に、内側からも温かくなるような下着などを身につければ、二倍温かくなるんじゃないかな」
 心もほっこり温かくなるような笑顔を浮かべて、少女は楽しそうに頷いた。

「みんな色々考えているのね。私はまずはオーバースカートかしら」
 フェンリエッタはそう言って、くるりと厚手の布を前掛けのように巻きつけた。
「太ももも冷えるとなかなか温まらないけれど、下半身は重ね着がしにくいから……これなら何にでも重ねられるし、腰回りを眺めにすればお腹や腰もゆったりカバーできるわ。じっさい、天儀でも前掛けはよく使われているし、違和感はないでしょう?」
 なるほど、道理である。ひざ掛けを巻きつけるだけではない、衣装としての心配りが見られるデザインはたしかに可愛らしかった。
「マフラーは首にぴったりする形でボタンどめするようなものなら、かさばらないし風で解けたりもしないかなって思うの。長さはちょうど首一周程度で、幅は首の倍くらいかしら? 折り返した部分を飾り襟にすれば、該当の外に出してみせることもできるし、アレンジも効くと思うの。手袋だって、裏地付きのミトンは温かいけれど細かい作業には不向きだから……指ぬき手袋ってあるじゃない? あれのミトン版で、屋内で使えるようにするの。例えて言うと、ミトンの小指第一関節あたりで切ったような形。あ、もちろん親指の先もね。それで手首はしっかり覆えるとあたたかそう……ただ毛が直に触れると痒くなる時もあるから、綿か何かの裏地もあるといいかもしれないわ」
 こちらもかゆいところに手が届く発想の数々。フェンリエッタは来風に向き直ってにこりと微笑む。
「来風さんは冬に読み書きをすると指先が悴んじゃったりしないかしら? こういうふうにすれば指先も使えるし、あまり冷えずにすむと思うの」
 来風は言われて頷いた。
「冬はたしかに指先がすぐに冷たくなってしまうんです。こういうものがあると、大分違うと思います」
 フェンリエッタはそれを聞いて、また微笑む。
「それならこれは来風さんに使ってもらうのがいいわね。じっさいに使う人が試すのが一番だもの」
 そう言って、手袋をそっと来風に手渡した。来風はその優しさに、ぬくもりを感じたのだった。


「でも、もふらさまの毛ってすごいねぇ……こんなにあったかいんだ」
 実際に着てみてそう感激しているのはエルレーンである。彼女が提案したのはごくありがちなコート。もふ毛を押し固めて圧着した、ごくシンプルなものである。染色も可能なはずなので、色展開も期待ができるだろう。
「でもだいじなのは……どれだけもふ毛が取れるか、だよねえ」
 コートのすべてをもふ毛で作るとしたらかなりの量が必要だろう。それはさすがに難しい。
「そこはたしかにそうですね」
 商人も頷いた。
「それなら、マフラーやストールみたいな小物かなあ……?」
 エルレーンは他の人も提案している、布の量もかからない、値段的にも手を伸ばしやすいものを提案してみる。
「手袋とかもいいけど、ポシェットとか……夢はふくらむねぇ」
 そして商品に『もふらさま印』のタグでブランド化を図るという考えだ。
「これで、天儀でもふってるもふらさまたちも、一大ぶらんどでぶーむになるの!」
 ――彼女の心に一瞬、『もふ毛狩りの小遣い稼ぎ』という黒い単語が宿ったが、幸か不幸か気がついたものはいなかった、ようだ。



「開拓者さん、今回はありがとうございます」
 商人はペコリと一礼。
「いえ、こういうのは楽しいですよね」
 誰もが笑顔でそう頷く。
「是非暖かい冬を過ごせるよう、頑張ってください」
「こちらこそ。開拓者の皆さんも、凍えませんよう」
 そう、もう冬がやってくる。
 でもきっと今年はあたたかに過ごせると、彼らはそう思えた。