【魔法】僕の相棒が人型(略
マスター名:四月朔日さくら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/21 17:45



■オープニング本文

※このシナリオはIF世界を舞台としたマジカルハロウィンナイトシナリオです。
 WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。


 ――目が覚めたら、隣に見知らぬ少年が眠っていた。
「!?」
 月島千桜(iz0308)はガバっと起き、目を丸くして少年を見つめる。
 まったく見覚えがない少年だ。茶色い髪の、まだ十になるかならぬかといった風体。まだ眠っているものの、目鼻立ちはスッキリとしていて、どちらかと言うと美少年の部類に入るだろう。だけどなぜか、それよりも愛嬌のある感じが先に立つ少年――そんな印象をうけた。
 ただどちらにしても、まったく知らない少年がいきなり横に眠っていれば、驚くのも当然なわけで。思わず千桜は上ずった声を上げる。
「あ、あんた、だれよっ?!」
 すると少年はパチリと目を開け、ふんわりと笑顔を浮かべて擦り寄ってきた。そして嬉しそうにいう。
「おはようご主人様、今日もいい天気だねっ」
 まるっきり意思の疎通ができていない。千桜は叫ぶ。
「だ、か、ら。あんたは、誰なのよーっ!?」


 ……結果。
 少年の首に見覚えのある首輪があったことで、正体はあっけなくわかった。
 千桜の相棒である忍犬の、「まる」だったのだ。
 それにしても愛らしい柴犬だったはずのまるが、なぜこんなことに。
 ……いや、かわいい少年ではあるのだが。

 で、とりあえずこれをどうしたものかとギルドに持ち込むことにした。ギルドに行けば、何かわかるかもしれない――
 嬉しそうに後ろをついてまわるまる少年とともに、千桜はギルドに向かった。

 しかし甘かった。
 蜂蜜よりも甘かった。

 ギルドには同じように、何故か人間になってしまった相棒を連れた開拓者で溢れかえっていたのだから――


■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
カルマ=B=ノア(ic0001
36歳・男・弓
ジャミール・ライル(ic0451
24歳・男・ジ
ウルリケ(ic0599
19歳・女・ジ
リズレット(ic0804
16歳・女・砲
コリナ(ic1272
14歳・女・サ


■リプレイ本文

 朝起きると、相棒が人間と変わらない姿になっていました。
 さあ、どうする?


「まゆき〜まゆき〜」
 朝。礼野 真夢紀(ia1144)を呼ぶ、可愛らしい声。見れば、白い耳と二股になった猫の尾がついた見知らぬ女の子が、布団のそばでニコニコ笑っていた。三歳くらいだろうか? 肩甲骨ほどまでの真っ直ぐな黒髪と青い瞳は、どことなく幼いころの真夢紀にも似ている。
「……え?」
 ニコニコ笑っている女の子の、特徴的な耳と尻尾。どこか舌っ足らずな幼い声は、聞き覚えがある。
「こ、小雪?」
「うん! まゆき、おはよ〜なの〜!」
 小雪――彼女の小さな相棒は、そう言って嬉しそうに飛びついた。
 服はとりあえず、姉が作ってくれていた小雪用の晴れ着を着せる。ちゃんとそれも今の小雪の外見にあう大きさに変わっているのは不思議だけれど、もう相棒が人間になる以上の不思議はないだろうから、気にしない。
 そうしてギルドにやってきた――


 真夢紀はそこで、ほうじ茶を一口のんだ。
 ここはギルドの控え室の一つ。同じような相談を持ち込んできた開拓者の処遇に困り果て、いったんこの部屋に放り込んでいるらしい。開拓者とその相棒が並んで円になるように座っている。
 小雪の方はやはり猫舌気味らしく、湯冷ましを入れた湯のみを両手で掴んで飲んでいる。
「ほう、お前も猫舌か」
「うん! ここ、こゆきのなかまい〜っぱいなのぉ!」
 そんなことを小雪と話しているのはダークスーツに身を固めた、金髪碧眼のジルベリア系美男子――ただし猫又の尾が見え隠れしている――だ。
「こら、ミハイルさん! イケメンだからって言っていいことってあるんだから〜!」
 その脇にはアーニャ・ベルマン(ia5465)が座っている。どうやらこの青年は彼女の相棒でミハイルというらしい。しかも起きた時の話を聞くとその……素っ裸で、横にいたという。慌てて用意した服装だが、妙にしっくりとしているのは全体的に漂う硬派な雰囲気のせいもあるのだろうか。
「もう、嫁入り前の娘の隣で裸で寝てるなんて……信じられないですよ!」
 アーニャは思い出したのか、わずかに頬を染めながらぷりぷり怒る。
「俺だってビックリだ! そもそも、服を着るなんてそもそも猫にとっては苦痛だぞ」
「だからって!」
 ミハイルは怒られてもそれなりに涼しい顔。主従関係とかのない、対等な関係であるのがわかる。
「でも、きれいなふくをきるの、こゆきはすきだよ?」
 幼い口調で小雪がそう言えば、ミハイルは
「女性は可愛いほうがいいものだ。俺はあくまでハードボイルドだからな」
 普段からつけているゴーグルを胸ポケットから取り出し、すちゃりとかける。まるでどこぞの秘密工作員か何かのようだ。
「お嬢、なんだかちょっとあの人怖そうな感じですな」
 少し癖のある長い髪に紺の袷と羽織。どこか若旦那風の、三十路も半ばという男性――と思われる――が、ひそひそ話になってない声の大きさで、ひそひそと隣りに座っているウルリケ(ic0599)に声をかける。
「いややっさん、それ向こうの人にもきっちり聞こえてると思うんだけど……」
 いかにもおっとりした感じのやっさんと呼ばれた人物は、目をパチクリさせる。
「そうかね?」
「うん。とりあえずギルドの方も困惑気味みたいだし、様子見しかないですねー」
 ウルリケはそう言って、中央に置かれたせんべいを一口。
「それにしてもいつも思うんだが、諦めが早いな、お嬢」
 やっさん――霊騎のヤス――は、どこか生暖かい視線をウルリケに向ける。
「あなたねえ……これ、自分のことなんだから……しかもいつもって」
 これはこれでいいボケと突っ込みである。まあどうしようもないから今日は休業かしら、なんて笑うウルリケ。
「……それにしても、いつまでこの状況が続くのでしょうか?」
 ほんのり不安そうにしているのはジルベリアの血を引く神威人、リズレット(ic0804)。横にいる貴婦人然とした銀髪の女性が相棒らしい。どことなく風貌がリズレットに似ている。
「とりあえずはリズレットのしたいようになさればいいと思いますわ。確かにこのままでも埒が明きませんし」
 銀髪の女性はリズレットの手をそっと取り、優しく微笑む。
「ありがとう、スヴェイル。だったら少しだけ、甘えても……いいでしょうか。いつもは一緒にいる時間も限られてしまっていますし」
「ええ、もちろんですわ」
 スヴェイルの正体は駿龍。普段なら街中を一緒に歩くことさえままならぬ関係だ。だからこそ、やはりともに過ごして仲良くなりたいと思っているのだろう。
「でも、どうしてこうなってしまったのでしょうね……?」
「それは私にもあいにくわからないですが……大丈夫ですわ、リズレット」
 そうやってスヴェイルはリズレットに頷く。
(まるで……本物のお母様みたい)
 リズレットはそう思いながら、頷き返すのだった。

「ところでさぁ」
 そう声をかけたのは、アル=カマル出身のジャミール・ライル(ic0451)。やはり今回の件に巻き込まれた一人だ。
「みんな可愛い女の子が多いのに、なんでうちは男だったんだろうなー。ねぇわー、男はねぇわー」
 そう言って、横にいる相棒を見やる。ジャミールの相棒、迅鷹のナジュムはアル=カマル系のどこか知的な雰囲気漂う黒髪の青年になっていた。ちなみにジャミールは最初はどこかで間違ってナンパしたのではと、必死になって昨夜の出来事を思い出したりもしたらしい。正体がわかった途端に興味をなくした、とも付け加えていたが。
 ナジュムの体格はジャミールとあまり変わらないらしく、彼の服を着ているが、その中でも一番控えめなものを選んでいるらしい。着る人によって随分と印象も変わるのだなと、ぼんやり月島千桜(iz0308)は思っていた。
「よくわかんないけど無視して遊びに行こうと思ったら、仕事儲けろって小言もらってここにきたってわけ」
 でもこの状態では仕事どころではない。
「でも、前にも似たようなコトがあったけどいつの間にかもとに戻ってたし。今回も気にせずに楽しんじゃっていいと思うわ♪」
 そう『先人の知恵』的なことを言うのは御陰 桜(ib0271)。横に座っているのは肩で切りそろえられた黒髪と、濡れたような黒い瞳が印象的な十代半ばの幼さの残る少女だ。犬の耳と尻尾が付いているところを見ると、もとは忍犬――いや、又鬼犬らしい。首筋の桃の花のあざを見て、千桜がピンときた。
「ああ、この子は桃さんなんですね」
 そう微笑みかけると、犬耳少女がこくりと頷く。はじめは桜の手持ちの衣装を着ていたらしいのだが、なにぶん体型の違いもあって一揃え買ってあげたのだという。ローライズのショートパンツに、おへそが出る丈のチューブトップ、それにジレ。
「動きやすくて、嬉しいです」
 どうやら好奇心旺盛な少女らしい。そしてどちらかと言うと今回の件も普段の練習にも活かせそうだと思ったり、人語の勉強をなると考えていたりと努力家の面が際立っている。
「折角だし、神楽の都をゆっくり見たりとかもしたいです」
 それはどの相棒も結構考えているようで、そして開拓者たちも似たようなことを考えていて。
「んー、たしかにこういうのってめったにないよねえ。うだうだ言っててもしょうがないし、ってことでお嬢さんたち。これも何かの縁ということで、お近づきにお茶なんでどうでしょう♪」
 そんなことを笑うのは渋みがかった中年に差し掛かっているまるでだめなおっさん(でもそれを指摘されるのはまだ嫌らしい)、カルマ=B=ノア(ic0001)。
 彼の相棒、忍犬のアスワドは起きてすぐにカルマの顔をひと通り舐めまくって主に変質者扱いされそうになったらしい。犬の姿ならわかるが、今の彼は黒髪黒目の童顔な青年である。確かにそう考えるとちょっと異質な光景を思い浮かべてしまう。
 しかも、このアスワド。元気でやかましく、女の子と主人たるカルマが大好きないわゆるアホの子である。その行動がおかしいということにちっとも気づいていない。と言うかむしろ
「僕、人間の姿になれてすっごく嬉しいんです! だってご主人とお話できるんですよっ! 今まで言葉の通じなかった相棒さんたちともお話ができるし!」
 という、それこそ尻尾があれば千切れんばかりに振りまくっていそうなことを恥ずかしげもなく堂々というのである。キラキラと目を輝かせながら。
「ま、こいつのこれはともかく、せっかくならギルドじゃなくてどっかの茶店にでも行ってさ」
 カルマはにまりと笑う。そして、一言付け加えた。
「ああ、おいちゃん女の子にしかお金出さないからね。イケメンには特に出さないからね!」
 ジャミールとナジュムをチラッと見たのは……おそらく気のせいではないだろう。


 そんなわけでギルドの職員に一応外出する旨を告げ、九人の開拓者と九人の相棒たちは街を歩く。
「……でも、本当にどうしたらいいんでしょうか」
 そう不安そうにするのはコリナ(ic1272)。まだまだ駆け出しの彼女としてみれば、不安要素は多すぎるくらいだろう。
 特に彼女の相棒は無口、と言うか言葉を発することが出来ないので、それも不安を煽っているのかもしれない。見た目は見目麗しい二十歳前後の女性で、腰ほどまでの長い銀髪と灰色の瞳がひどく印象的なのだが――彼女は本来、命を持った存在ではない。いまは服の奥に隠れているが、その胸には風宝珠らしき結晶が埋め込まれている。
 カイムという名前のこの相棒は――滑空艇なのだ。
 しかし言葉を発しない代わりに表情がくるくると変わり、少し無愛想にも見えるコリナよりも更に気ままで自由な印象を受ける。まあ、もとが命を持たないこともあるためか、精神的にはどこか幼さがあるのだけれども。見ていると、カイムは嬉しそうにステップを踏みながらあちらこちらを見て回っている。慌てて手を取り、離れないようにと促す。こくりと頷くカイムはしかし、食事が他の相棒と同様に可能なのかもわからない。そんなこともあって、カルマの誘いには早々に辞退を申し出ていた。
「とりあえずみんな状況は似たり寄ったりだし、様子を見るしかないからねー。それよりおじさま太っ腹ー」
 なんだかんだで同行しているジャミール。男には奢らない、といっていたカルマだが、ジャミールのほうがその辺り一枚も二枚も上手のような気がする。そんなジャミールの姿を見て、ナジュムはひとつ溜息をつく。
「俺としてはこんな奴が相棒だと思うと、少し頭が痛くなるな」
「えーどういうことよ、そんな風に言うかなフツー」
 冷静沈着なナジュムはやや潔癖でもあるらしい。相棒であるジャミールの女癖の悪さのようなものが、少しばかりナジュムの癇に障るようだ。
「せめて女性に菓子を奢るくらいの甲斐性をだな」
「だって俺金ないしー?」
 ジャミールはあくまで我が道を行く。それを見て苦笑するものもいたりして。
「でもね、こゆきしってるよ〜。こーゆーひとって『ろりこん』っていうんでしょ?」
 結局カルマのお誘いには応じなかった真夢紀だが、途中までは方向が同じ。しかし小雪が思いがけない言葉を言うので、真夢紀は思わず言葉を失った。顔を赤くして、
「こ、小雪、そんな言葉どこで覚えたのっ」
 そう尋ねると、小雪は無邪気に笑う。
「まゆきのもってるうすいほん!」
 薄い本、とは開拓ケットなる催しで売買される自費出版の絵巻などの総称だ。様々な需要に合わせ、さまざまな本があるのだが……
(開拓ケットの本置き場、考えなおさないと……)
 真夢紀は小雪の手を掴み、一足先に買い物のためにわかれたのだった。
「ああ、リゼも少しばかり別行動をと思います。スヴェイルは本来駿龍で、折角ですので一緒に街を見て回りたいと思いますし」
 いつまでこの現象が続くのかわかりませんから、リズレットはそう言ってペコリと礼をする。
「まあ、……ありがとう、ございます!」
 スヴェイルは嬉しいやら照れくさいやらで頬を僅かに朱に染めている。
「そうですか。それなら確かに折角の機会というやつですから、街を自分の足で歩くのもいいと思います。僕達と違って、龍はなかなかそういうわけにいかないですから」
 したり顔で頷きつつもどこか寂しそうに鼻を鳴らすアスワド。人懐っこい彼は、他の同類たちともっと話したかったに違いない。
「ありがとうございます。それでは、また会うかもしれませんが……とりあえず失礼致しますね。スヴェイル、一緒に買い物にでも行きましょう?」
 リズレットはそっとスヴェイルの手を取り、手を振って仲間たちと別れたのだった。
「……私も、ではまた」
 コリナとカイムも、雑踏の中へと消えていく。残ったのは、六人の開拓者とその相棒たち。


「さて……さっきのお嬢ちゃんたちはとりあえず別行動だけど、他は基本一緒かな?」
 カルマがあらためて確認をとる。みんななんだかんだでおごりという言葉に弱いのがしみじみわかった。特にアーニャはとても楽しそうにしている。すわモテ期到来か、とはしゃいでいるのだ。その横でミハイルが渋い顔。
「おいアーニャ、彼氏いるだろ思い出せ」
「そんなものいるわけないじゃない、彼氏いない歴=年齢なんだし。カルマさんもジャミールさんも素敵よね〜」
 実のところ現実のアーニャには彼氏がきちんといるのだが、都合よくスパっと忘れているらしい。そんな相棒の姿を見たミハイル、溜息をつくしかなかった。
(でもこれがそんな都合の良い夢なら……せめて夢でもいいからこの姿で想いを伝えたかった、な)
 その一方で想い人は人間だったりする仙猫のミハイル、切なげな吐息を吐いて、気分は少しばかりメランコリィ。
「せっかく奢ってもらえるって言うなら付き合わない理由はないわね♪」
 桜は桃の手をとって、あでやかに微笑む。自分の魅力を十分に理解しているからこその笑顔。そのかたわらの桃はどこか無邪気に、ふんわりと微笑んでいた。
「おいしいもの、私も食べたいです」
「ね♪ ただ桃は人の姿とはいえわんこだし、念の為にわんこが食べても大丈夫なものにしておきましょうネ♪」
 とは言えとても相棒思いの桜、桃の健康にも気を遣っているのだった。
「こうなったら今日はとことん休憩ですねー。やっさんも、のんびりしましょう、ええ」
 ウルリケはといえば隣を歩くヤスにそう声をかけ、とんと背中を叩く。いつもしている何気ない仕草だからこそ、ヤスもなんとなく安心できるというわけだ。しかし、
「まあいざとなれば背負って戦場にのぞ――」
「そんな妙な真似ができるかっ!」
 霊騎ゆえの恥じらいのないヤスの発言に、ウルリケは思わずパアンとひとつ大きな平手を背中にお見舞い。力強い平手は、なんだかんだでやっぱり主従関係を物語っているようにも感じられる。
「あと、あらかじめ言っておくけれど、お酒はあまり飲みすぎないでねー」
 このヤスという霊騎、実は元からかなりの酒飲みでもある。人の姿であるのならば、ともに杯を交わすのもまた面白かろうが――なにぶん今回はよくわからない状況になっている上、他の開拓者達と同席での食事処行きである。これでみっともない姿を晒すのもどうかと思うし、というわけだ。
 そうこう言っているうちに千桜が手頃な店を指さす。そこはよく開拓者たちが利用する、茶店の一つだった。


 リズレットはスヴェイルと並んで買い物をする。滅多にない経験だけに、スヴェイルも胸ときめかせながら物珍しそうに街を見つめていて、それがどこか愛らしい。時には親子と間違えられたが、それも嬉しい誤解だ。
 やがて、一息つくという段になって入ったのは――カルマたちのいる茶店だった。
「あれ……皆さんもこちらに?」
 聞き覚えある声がして振り向けば、真夢紀と小雪もいた。やはり開拓者御用達ゆえ、足を向けやすかったらしい。
「こゆきね、あたらしいおようふくをかってもらったの〜」
 見ればたしかに、小雪が来ているのは先ほどとは違う、ちょっと可愛らしいジルベリア風のワンピース。足元も、大きさのあった靴を履いている。かなりお洒落さんだ。
「まあこれも何かの縁ですし、リゼもご一緒させてもらいます」
 リズレットとスヴェイル、真夢紀と小雪も一緒に席につき、無邪気に笑う。
「今日はリズレットに、こんなものを買っていただいたんです」
 スヴェイルが取り出したのは可愛らしい襟巻きだった。これを元の姿に戻った時も付けたいということで、少し大きい物を選んでいる。
「こういうものが欲しくても、普段は主張できませんからね」
 スヴェイルの言葉に、ヤスやナジュム、アスワドが頷いた。
 普段の彼らは人間の言葉をある程度理解することはできるが、自分から伝えることはできない。お洒落の好きな女性であればなおのことだろう。
「だから、今日は嬉しいんです」
 優しく微笑んで礼を言うと、リズレットは
「気にしないでいいんです。これもいつもお世話になっているお礼ですから」
 そう言いながらも少し顔を赤らめた。
「おいジャミール。お前も少しはナンパとかではなく、こういった心配りをした方がいいんじゃないか」
 チラリ、とナジュムが己の相棒を見やる。ジャミールは微妙に引きつった笑顔を浮かべた。
「お前さー、なんなの?」
「素直な意見を言っているまでだ」
 ナジュムは茶をすすりながら、慣れない黒文字を使い芋ようかんを口に含む。耳を引っ張ったりして相棒を諌めるあたりはある意味つつけない代わりの癖のようなものだろう。
「あーあー、やっさん、そんなに飲んで」
「何言ってるんです、お嬢こそ」
 一方で既にヤスはすっかり出来上がっている。ウルリケには注意されたものの、誘惑に勝てなかったのだ。そして突き出された盃を断ることもなかなかできず、なんだかんだでウルリケもしっかり飲んでしまっていた。二人して陽気に笑い、そしてカルマにも酒をすすめる。
「まあ、女の子にすすめられるのも悪い気はしないねぇ」
 そう言いながらカルマもぐびり。そして近くに座っているアーニャに問いかける。
「でも可愛いのに彼氏いないんだ? 意外だねえ」
「可愛いって、そうですか〜?」
 アーニャもまんざらではない様子。嬉しそうに饅頭を頬張っている。
「沢山食べていいからねー、沢山食べる子はおいちゃん好きよ」
「奢りでいいのですね? ありがとうございます〜!」
 笑顔のアーニャに対し、苛立ちを隠せないのはミハイルだ。アスワドを睨みつけ、首元のスカーフをつかむ。
「おいこの、お前の主人を何とかしろっ」
 それでもアスワドは驚くでもなく、むしろなぜダメなのかがわからない、という顔をしている。
「なんだか結局騒がしいわね♪ でもそれが開拓者らしいっていうのかシら?」
 桃と一緒に焼き芋を食べていた桜は、くすりと笑った。


 ――夕暮れの港。
 コリナはカイムを伴って、そこにいた。
「私はあなたのことはもちろん、剣も防具も、大事な相棒だと思っています」
 それはこの現象が始まってから、ずっと聞きたかったこと。
「大切な存在だと。だからこそ、あなたや他のモノたちが、私をどう思ってくれているのか、知りたいんです」
 首を小さくかしげるカイムに、コリナは尋ねた。
「カイム、……これからも、こんな私と一緒にいてくれますか?」
 カイムは一瞬大きく目を見開いた。そして、当然だというように大きく頷く。コリナはぱっと顔を明るくさせた。
 だってそれは、絆の証のようなものだから。
「これからも、そばに居てくださいね、カイム」


 夜の帳が下りても、茶店は賑やかなままだった。
 ああ、しかし目が覚める。
 ゆっくりと夢が終わりを告げようとする。
 現実を思い出し、あるべき姿へ戻ろうとする。

 けれど、この一日はきっと忘れられぬだろう。
 忘れようとしても、忘れられぬ。
 人と相棒の入り混じる、夢のような一日――