【魔法】学園は大騒ぎ!
マスター名:四月朔日さくら
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/16 00:30



■オープニング本文

※このシナリオはIF世界を舞台としたマジカルハロウィンナイトシナリオです。
 WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。


 ――そんな校内放送が流れて、一瞬ゆらりと頭を揺らす生徒たち。
「……あれ、なにしてたんだっけ?」
 生徒の一人がぼんやり声を上げると――
「何言ってんだよ、お前。今日は学園祭だろ? あんまり疲れて寝ぼけでもしたのかよ?」
 そう、友人に突かれる。
 ……そうだ、そうだった。
 今日はこの生徒数六万とも言われる国内有数のマンモス学園の学園祭。
 小等部から大学部、大学院まで揃ったこの「学園」では、毎日のようにおかしな出来事が起きているのだけれど――今日はそれに輪をかけておかしい出来事が起きても不思議じゃない。
 何しろ学園祭。
 生徒はもちろん教師たちも浮足立って、今日のこの日を待ち望んでいたのだ。
 屋外には屋台村が作成され、校舎内では占いや似顔絵、簡易プラネタリウムなんていうものも準備されている。
 生徒は小学生からいるものだから、間違えて未成年にアルコールを飲ませないようにとか、そんな注意もしなきゃいけないけれど、小学生たちだって自分のクラスや部活の出し物で駆け回っていたりするのだ。

 だって学園祭だもの。
 何が起きるかなんてわからない。

 開拓者ってこともこの場では関係なく。
 ただ、学園祭を楽しもうじゃないか。


■参加者一覧
/ 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 皇・月瑠(ia0567) / 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / ワイズ・ナルター(ib0991) / 真名(ib1222) / ケロリーナ(ib2037) / 常磐(ib3792) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / フランヴェル・ギーベリ(ib5897) / 果林(ib6406) / 羅刹 闇詠(ib6420) / 黒羽 修羅(ib6561) / エルレーン(ib7455) / イーラ(ib7620) / 神定・千景(ib7866) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 黒曜 焔(ib9754) / 法琳寺 定恵(ib9995) / ジャミール・ライル(ic0451) / 零式−黒耀 (ic1206) / 戦艦大和(ic1281


■リプレイ本文


 ポンポン、と空砲があがる。
 いかにも一大イベントの始まりといった感じの朝だ。
 空は青く高く、典型的な秋晴れ。心地よい風の吹く、穏やかな日。
 だけど今日は――学園祭。
 学園で一番、賑やかな日。


「いよいよ学園祭です……みんな、頑張りましょう!」
 生徒が一堂に集まっての全校朝礼は、この学校にはない。生徒数がおおすぎて、そんなことが出来る場所がないのだ。というわけで、校内放送を使ったアナウンスが流れる。
 声の主は中等部三年の生徒会役員、柚乃(ia0638)のものだ。おとなしい少女だが、やはりこういうときは少し声が上ずっている。
 生徒会役員と学園祭実行委員はこのあともミーティングなどがあるのだから、それもしかたがないといえよう。
「なお、風紀委員及び各種役員は、ホームルームのあとで第三生徒会室に集合してください。繰り返します……」
 そしてそれを静かに聞いているのは購買のヌシ、からす(ia6525)。一見柚乃とそれほど年齢が違わないように見えるが、彼女は既に大学を卒業している身である。
「……今年も慌ただしい日になるんだろうな」
 例年の文化祭の盛り上がりを思いながら、からすはぽつり、そんなことをつぶやいた。

 学園祭は当然といえば当然だが、学園の内外の人間が入り乱れてごった返す。部活動やクラスごとの出し物の関係で慌ただしく動きまわる客引きや、あるいはなにか目的があって学園祭を訪れた部外者――もっぱら家族や、学園都市の住民たち――がそこかしこにいて、広い学園構内といえどどこもかしこも人だらけ。
「こういう時だからこそ、気を抜いてはいかんのだよな」
 大柄な体躯、二の腕に【見回り中】の腕章をつけた教師の皇・月瑠(ia0567)が、あらためて周囲を見て回る。しかしこの男、実は担当教科は高等部の家庭科。そのごっつい指から生み出される繊細なレース編みや美味なる料理の数々は、高等部生徒をして学園七不思議の一つと言われている。
 ……と言っても、七不思議が一体いくつあるのか、正確なところは誰も知らないのだけど。七不思議研究会なる部活もあるらしいというくらいで、さすがマンモス学園には謎も多い。
 ともかく、月瑠は屋外の出店をチェックして回っていた。
「あ、センセー! 折角だからうちの店のクレープ食べてってよー」
 なんていう営業上手な客引きの生徒にいくらか味見を兼ねて買わせてもらったりもしているが。そんな出店の中の一軒には剣術部もあった。小柄な中等部の女子生徒――礼野 真夢紀(ia1144)が、楽しそうに焼きそばを作っている。
「おや、礼野の妹か? 美味そうだな、こいつは」
 真夢紀の長姉は剣術部の部長。そのためか、中等部二年の真夢紀のことも、教師たちにはよく知られていた。
「あ、おじさま先生! はい、一緒に秋の味覚を使ったおやつなども販売しているんですけれど、焼きそばはやはり剣術部の恒例ですから」
 真夢紀はにっこり笑う。パックに入った焼きそばは、半熟の目玉焼きが上に乗っていて、いかにも美味しそうだ。ちなみに『おじさま先生』は月瑠のあだ名である。
「ひとつ買うか。剣術部も頑張るんだぞ」
 月瑠は学園祭で用いられる通貨代わりの食券を一枚渡すと、焼きそばと割り箸を受け取った。
「和奏(ia8807)先輩は見物にいっているみたいですけどね。クラスイベントのお手伝いもあるそうですし」
 剣の道を志すものを受け入れる剣術部は、さまざまなタイプの剣術を取り扱っている。古流剣道からフェンシング、更にスポーツチャンバラまで。そんな中でおっとりした高校二年の和奏も参加している。しかし今日は
(TVで活躍している有名人とか来るのでしょうか?)
 などと思いながら、構内の展示などをあちこち眺めていた。


「……今日こそは! 先生をデートに誘うわ! 綺麗って言わせてやるんだから!」
 リベラルな学校で化粧やアクセサリの規定も緩いこの学園。しかしやはり学外の人間もやってくる人もなればその意気込みが伝わってくる生徒は少なくない。
 ソフトボール部に所属する高校二年の真名(ib1222)も、そんな気合たっぷりに薄付きの色つきリップクリームや、さりげないおしゃれに気を使っていた。
 彼女が誘いたい『先生』というのは、地歴担当のイーラ(ib7620)だ。アラサーではあるが、なかなかの男前で人気がある。本当は彼も見回りなどをしなければならないのだが、早速真名に見つかって、学園祭デートを頼まれた。まあ教師の数も多いしたまにはいいかとOKする。真名の顔がパッと輝いたのは言うまでもない。……しかし。
「んー……この店のたこ焼き美味しいですねっ」
「んあ、美味いな。さて、ではたこの産地で有名なところはどこか覚えているか?」
 何かとで店の内容と、授業の復習を絡めるイーラ。
「先生、そんな難しいことはとりあえず置いといて、せっかくの学園祭を楽しみましょうよー」
「でもこの前授業でやったばかりだろう、記憶はどこに行っちまったんだろうなぁ?」
 ほんのりぶーたれる真名の額を、軽く小突くイーラ。真名もそう言われてしまうと、言葉に詰まらざるをえない。
「ところで先生、今日の私、どう見える?」
 じいっとイーラを見つめる真名。教師と生徒――その一線は当然ながら超えることはなくて。
「無理して化粧したり、急いで大人になることはないんじゃねぇか? そのうち、嫌でもなっちまうんだし、さ」
 しかしそう言ってきかせるイーラの眼差しは優しい。
「まあ、今日は祭だからな。ジュースくらいはおごってやるさ」
 そう言って、二人はフレッシュジュースの出店に乗り込んでいくのだった。


「いやあ、やっぱり賑やかだねえ」
 そんなことを言って第三保健室の窓から祭の様子を眺めているのはダンス部副顧問の養護教諭、ジャミール・ライル(ic0451)。白衣こそ着てはいるものの、どうにもその素行は保健室を根城にしたジゴロ崩れである。女子生徒からの人気は、どこかナンパなお兄ちゃんという雰囲気もあってかそれなりに上々なのだけれど。
「文化祭は外部から人来るから楽しみにしてたのになー」
 いわく、けが人や急病人の発生も考えられるので保健室での待機を命じられているのであった。仕方ないのでベッドを占領してふて寝をしているが、もちろん戸が開けばその相手をするのは当然のことで。
 そこへ運がいいのか悪いのか、やってきたのは戦艦大和(ic1281)。至極テキトーに「後はよろしく〜」と任せ、ジャミールはここぞとばかりに保健室を抜けだした。
「さ、女の子でもナンパすっかなー」
 たまには学外の大人な女性もいい。白衣を着たままのジャミールはにんまり笑って、歩き始めた。

 法琳寺 定恵(ib9995)と神定・千景(ib7866)は、学年こそ違うものの友人同士。人混みをあまり好まない千景をよそに、定恵は出店の景品でもらったうさぎのパペット片手にくるくると歩き回る。やがて少し疲れたのだろう、屋上で少し休憩することにした。
「さすがにここだと風が気持ち良いな……」
 定恵がそう言えば、千景も頷く。
「ああ、あれだけ人がいると流石に……って、おい、定恵、どこにっ」
 千景が大声を思わず上げるのも無理は無い。気づけば定恵は低めのフェンスを乗り越えようとしていたのだから。慌てて千景が引っ張り、悪戯を止めようとする――が。
 どんがらがっしゃーん。
 勢い余ってふたりとも、屋上のコンクリートにフェンスごと雪崩れ込むような形になってしまった。目を丸くする定恵と千景。けれど、定恵はなにか悪巧みを思いついた顔をして、手にしていたパペットの口を千景の口元にチョンと当てた。
 呆然としている千景に、定恵は笑う。
「奪っちゃったー♪」
 まるでどこかの青春ドラマか何かのワンシーンのようだが、よく考えるとふたりとも男だったりする。
「お前、一体何をっ……」
「――なーんてね。びっくりした?」
 びっくりも何も、千景は驚きすぎて顔を赤らめてしまっている。
「か、からかうのもいい加減にしろ!……ったく」
 ぷいとそっぽを向く千景に、定恵は
「そんなに怒らなくてもいーじゃん?」
 と、どこかのんびりした受け答えをしていた。

 昼頃ともなれば、腹をすかせた学生たちも屋台や喫茶店などの食物を扱う出店などにやってくる。
 また、からすが運営する学園購買には最近フードコートも設置されており、そちらも密かな人気だ。買ったものをそこでゆっくり座って食べられるということで、出店で買ったものをフードコートで食べる人もいなくはない。そんな様子を眺めながら、からす自身はデザートコーナーの近くに設置されているカウンターで、珈琲や紅茶を提供していた。ハロウィンの季節ということで、それらに関する商品のセールをやっていることも宣伝しながら。
 この日ばかりは学園外部からのバイトもいるのだが、ホームセンター並みのその広さに圧倒されているようだ。
 そこにやってきたのは月島千桜(iz0308)。なんでも自分の所属しているサークルが行っている喫茶店が予想外に好調で、用意していた菓子の補充をしなければならないのだという。誰からしても嬉しい悲鳴ではあるが、逆にあまり他のサークルやクラブの出店をみられないので複雑そうな顔だ。
「まあ、無理はするんじゃない」
 そう千桜に笑いながら、サービスの紅茶を振る舞うからすだった。
「あら、そんな店ならわたくしも後でお邪魔したいわ」
 背後から二人に声をかけたのは、小等部の副養護教諭、ワイズ・ナルター(ib0991)。膝上のタイトスカートに白衣というやや扇情的とも言える姿で校内の巡回をしているらしいが、年齢不詳の生徒も多いこの学校では、知らない人なら学生のコスプレとも勘違いされかねない。とはいえきちんと教諭資格を持った大人の女性である。
「ああ、ぜひいらしてください。大学部の――」
 犬耳のついたメイドカチューシャを揺らしながら、千桜が場所についてパンフレットを見つつ説明する。そんなやりとりも微笑ましいものだった。


「学園祭、学園祭♪」
 壁新聞部と学園祭実行委員を兼任しているケロリーナ(ib2037)は、かえるのぬいぐるみを手に、楽しそうに鼻歌を歌いながら校内を巡回している。今年編入してきたばかりのケロリーナにとってははじめての学園祭、心が弾むのも無理は無い。
 手に持っているのは、ちょっと前の自分のような『右も左も学園がわからない人のために』と、ケロリーナが提案して作成されたスタンプカード。あらかじめもろもろのクラスや部活、サークルに手伝ってもらっているが、今のケロリーナは自由時間。スタンプラリーの様子を確認してついでに見物をしていこうという心づもりである。
「えっと、次は文芸部ですの」
 文芸部には来風(iz0284)が所属している。面識こそあまりないが、人当たりの良さそうなおねえさまという印象を持ったようだった。
「らいかおねえさま〜♪」
「あら、ケロリーナさん。いらっしゃい」
 さすがに学園祭実行委員すべての顔は覚えていないが、印象に残っていたのだろう、来風も微笑んで挨拶を交わす。
「こちらはなにをしているのですの〜?」
 ケロリーナが尋ねると、来風は手元にあるシンプルな表紙の本を見せる。
「うちの部活ではね、毎年こうやって物語や詩を作ってまとめて、一冊の本にしているの。まあ、同人誌ね」
 部員の数は多くないが、積極的な生徒が多いために毎年それなりの評価をもらっているのだとか。ケロリーナもそれをパラパラとめくり、
「なんだかたのしそうですの〜♪」
 そう笑って、来年は他の部活も入ろうかな? と考えたりする。と、
「あ、来風さん。こんにちは、ずいぶん楽しそうですね」
 そこに現れたのは真夢紀。手作りの焼きそばや芋ようかんを差し入れにやってきたのだ。
「わあ、真夢紀ちゃんありがとう! 美味しそう!」
 来風も素直にそれを受け取ると、にっこり笑う。
「文芸部の冊子、楽しそうですね。一冊買ってもいいですか?」
 真夢紀はどうもそちらもお目当てだったらしく、照れくさそうに尋ねた。
「喜んで! ありがとうございまーす!」

 こちらは調理部。
 調理室を借りて、手作りデザートなどを提供することで毎年人気の出店だ。
 この部活に、料理が趣味ということで何故か半ば無理矢理入部させられたのは常磐(ib3792)という中学一年生。本来は調理担当なのだが、気づけばウェイターも担当させられていた。ときどき外部の人間だろうか、尻尾をさわろうとする輩もいるがそれにはきちんと(?)抗議をしたりする。どこか大人びたところはあるものの、やはり歳相応ということなのだろう。
 なんとか休憩時間に入ったところで、掛け持ちしている天文部のプラネタリウムの確認に行きがてら、道々の出店も確認する。そんな中で、ふと目に留まったのは蝶の形を模した髪留めだった。
(……姉貴、こういうの喜ぶよな、きっと)
 土産に買って帰ろう。常磐はちょっぴり楽しそうに、財布を取り出した。
(それにしても……いつにもまして賑やかだよなあ)

 そう、そんな賑やかな学園祭で何も起きないわけがなく。
 高校三年のあるクラスで行われている縁日では、朝から喧々諤々の大騒動が勃発していた。
「何で私のうさみたんがあそこにいるのだ!」
 そう怒鳴るのはラグナ・グラウシード(ib8459)、通称「ダブリのラグナさん」。
 ――ことは学園祭開始直前。
(どいつもこいつも学園祭だと浮かれおって……!)
 ラグナはいつものとおり、一人で苛立ちを隠せぬままに学園内をうろついていた。彼は残念なことに圧倒的にモテない――いや、美形な方ではあるはずなのだが。
「うさみたん……私の友達は、うさみたんだけだお」
 ちなみにうさみたんとは、ラグナがいつも背負っているピンクのうさぎのぬいぐるみである。が、そこに現れたのは永遠のライバル的存在にして謎の腐れ縁、エルレーン(ib7455)!
「このおばかさん、みんながじゅんびしてるのになにしてるの……! ちゃんとしごとしないなら……こうだあっ」
 そう言って軽くぽかぽかと殴った後、うさみたんをヒョイッと取り上げてしまったのである。
 そしてあろうことかうさみたんをそのまま縁日の輪投げの景品に――。愕然としたのはラグナである。宝物であり唯一のお友達であるうさみたんを奪われ、逆上するのも無理はない。しかしエルレーンは涼しい顔。
「くやしかったらとってごらんよ!」
「ぐぬぬ……」
 そしてラグナは朝からずっと輪投げに挑戦しているが、肝心のうさみたんがいまだにとれていないのである。その代わりキャラメルやドロップ、小さな玩具といった景品は彼の足元に山のように積まれている。
「何をやっているんだ?」
 そこを通りかかったのはワイズ。白衣を翻らせ、教室のちょっと異様なムードに気づいて入ってくる。
「それが……」
 クラスメイトの説明で、ワイズもあらかた納得がいった模様。そして言葉少なに輪投げに挑戦すると――うさみたんは投げた輪に見事に収まった。うさみたんを、ワイズが獲得したのだ。
「うさみたん……!」
 滂沱の涙を流すラグナ。しかし――その頭にフカフカとした感触が当たる。そう、まるでぬいぐるみのような……ハッと手を頭に回すと、そこにはうさみたんが。慌てて周囲を見回すものの、既にワイズの姿は見えなくなっていた。


 いっぽう別の高校三年のクラスでは、コスプレ喫茶なるものが開催されていた。担任の水鏡 絵梨乃(ia0191)の助言もあって、かわいい女子生徒の魅力を思い切り全面に押し出されているせいか、客の入りもなかなか好調。
「みんな、塩梅はどう?」
 絵梨乃が顔を出すと、生徒たちはきゃあっと歓声を上げて教師に近づいた。
「今年は大盛況ですよー!」
「変な目で見る人もいないし、こういうコスプレも面白いですねっ」
 表で接客をしているのは大半が女子。男子は逆に厨房で一生懸命料理の準備をしている。
「折角だから、ボクもオムレツをもらおうかな。昨日までに叩き込んだ腕前のほど、期待してるよ」
 そう言われて生徒たちは一瞬緊張したものの、すぐ楽しそうに
「はいっ!」
 と気持ちの良い返事をした。
「食べ終わったらボクも手伝うよ。無事に終わったら打ち上げしよう!」
 太っ腹な担任の一言に、またもわあっと盛り上がるクラスだった。

 ところで。
 この学校には性別不詳に見える生徒も少なからずいる。
 中性的な容姿――といえばいいのだろうか。
 そして高等部二年のグライダー部部長、天河 ふしぎ(ia1037)もそんな一人だった。しかし、今年の文化祭は一味違う。
(恋人ができてはじめての文化祭だもん、一緒に楽しみたいな)
 そう、クラスメイトの果林(ib6406)と、嬉し恥ずかしの恋人関係になったのである。
 このクラスも行っているのは喫茶店。果林は少し胸元の開いたメイド服で、思わず顔を赤らめつつもウェイトレスをこなし、ふしぎも何故かセーラー服の『ウェイトレス』として活動していた。
 とは言え休憩時間には、慌てて着替えをひと通り済ませて二人で様々なイベントを覗きに行く。
「わあっ、あの出し物とか面白そうだね、ふしぎさん!」
 果林は実に嬉しそうに、あちらこちらの出店を覗いて回る。ふしぎもそれにやさしい笑みを浮かべながら、
「見たい出し物があったら一緒に行こうか? コンサートや、購買の特売なんかもあるみたいだよ」
 しかしそれに果林は答えず、照れくさそうに少女は恋人の腕に己の腕を絡ませる。ふしぎも思わず顔を赤らめるが、それでも幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「あ、このブローチ可愛いね。果林に似合いそう」
 パッと目についたのは美術部の作成したブローチ。それを買って果林の胸につけてやると、少女は嬉しそうに「ありがとう」と微笑んだ。
「後で、私も贈りたいものがあるんです。気に入ってくれるといいんですけど」
「うわあ、楽しみだな」
 ふしぎはすっかり恋人の優しさに夢中のようだった。


 学園にはいろんな部活があるが、部員が幽霊部員ばかりで顧問が一番張り切っている――というのは、黒曜 焔(ib9754)が顧問をつとめる『東京もふランド研究会』の右に出るものはないだろう。
 そもそも東京もふランドとは、人気キャラクター『もふらさま』の可愛らしさを売りにしたテーマパーク。
 この研究会の活動も、もふランドへの年間パスを使っての入り浸りを中心としたアクティブなんだかよくわからない部活である。
 そんなわけで出店の方も、もふランドの観光案内マップやまるごともふらを身に付けた焔やもふらさまをイメージしたウェイター・ウェイトレスに扮した生徒たちが行う喫茶店などである。もちろんメニューももふらさまだらけ! ちなみに、
「ちゃんともふランドには許可をもらっているからね」
 そんなことを強調していたりして。
「そこの可憐なお嬢さんたち、もふの店で休憩していかないもふか?」
 まるごともふらを身につけ、かわいい女子生徒たちにその外見とは似つかわぬいけぼで話しかける焔。と、
「もふらさま……いいんですかっ?」
 嬉しそうな声を上げて尋ねてきたのは、生徒会役員の柚乃だ。実は彼女も密かにもふランドの年パスを持っているもふらさま好き。まるごともふらの触り心地にうっとりしながら、もふらさまマニアにしかわからないトークを焔と二人で実に楽しそうに話すさまは、いつものおとなしく地味なイメージとはまるで違った印象を受けるのだった。

 邦楽研究会に所属している羅刹 闇詠(ib6420)は、大学一年。彼の得意とするのはもっぱら地唄三味線である。病気で声を失ってしまった友人の黒羽 修羅(ib6561)とともに、学園祭を満喫しようという考えであった。もともと言葉に不自由しがちな修羅だが、闇詠がそばにいればそれも殆どハンデにならない。彼の言いたいことを闇詠が代弁してくれるのだ。
 そんな中で闇詠の部活はステージ発表の段になる。若干緊張気味ではあったが、それでも間違えることなくきっちり仕事をこなした闇詠に、修羅は『おつかれさま』と唇を動かし、ポンポンと頭を撫でる。その対応に、闇詠はにっと笑顔を浮かべた。
「それじゃあ、展示でも見て回ろうか。どこか行きたいところとか、あるか?」
 修羅にそう尋ねると、彼はちいさく首を横に振る。彼は無意識のうちに、闇詠の保護者的存在になっているのだ。
「そう言えば、和太鼓部の先輩が引退公演だって言ってたな……そっち行ってみるか」
 修羅は、こくりと頷いた。

 和太鼓部は体育館内ステージでの公演真っ最中だった。
 その中でもひときわ目立つのは、大学四年の零式−黒耀(ic1206)。黒目黒髪の、小柄ながら凛々しい女性である。
 しかしその体躯にもかかわらず、奏でる音は勇壮かつ男前。半被にねじり鉢巻姿で、汗を零しながら叩く姿は美しいと言っていいだろう。
 やがて公演が終わり、闇詠と修羅が舞台から降りた黒耀に近づく。
「お疲れ様でした。いい演奏でしたよ」
 同じ邦楽を嗜むもの同士、面識がないわけではない。それでも少し驚いたようで、
「ああ、ありがとう」
 そう、表情の見えにくい声で応じた。知人が聞けば、いつもよりも弾んだ声であることがわかっただろう。
「先輩はこれから予定とかありますか?」
「ん? そうね、何でももふランドの研究会があるのだとか。ちょっと行ってみようかと思うのだけれど」
 実は黒耀、もふもふ好きである。それなら三人で、と修羅が筆談で提案するので早速向かうこととなった。
 そこでまたもふもふ談義に華が咲くのは少し別の話である。


「それではお待たせいたしましたー! 今回の学園祭の目玉イベント、アイドル部の登場です!」
 屋外の特設ステージでは黒山の人だかりができていた。
 アイドル部――それは学生アイドルとそのプロデュースをする人たちのための部活動。リィムナ・ピサレット(ib5201)はそんな中の一人で、スカウトされたことをきっかけに小学生アイドルとして活躍している少女である。
 そんな彼女が密かに憧れているのは、高等部在籍の男装の麗人、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)。白い男性用学生服に身を包んだその姿は『薔薇城の王子様』なる異名を持つほどである。リィムナとは仲のいい友人――であるが、ちょっとばかり変わり者といえば変わり者だろう。言及はしないが。
 フランはあらかじめアイドル部に話を通しておいた――リィムなのコンサートにサプライズゲストとして登場できるように、と。
 やがてリィムナの出番となった。フリルいっぱいのメイド服に、猫耳猫尻尾といういわゆる『猫メイド』姿で、アイドル活動の時だけは口調もそれを意識した語尾に変わる。
 軽快なメロディが流れて、どっと観客席から歓声が上がった。リィムナのヒット曲、『ねこねこカワイイにゃん♪』の前奏だからだ。この曲は猫の鳴き声と『カワイイ』という単語のみで構成された、かなり前衛的なアイドルソングだが、逆にその潔さがいいと熱狂的ファンも多い。
 と、そこにいつもと違うアレンジのエレキギターが入る。一瞬驚いたリィムナが振り返って更に驚いたのは、それを演奏しているのがフランだったからだ。しかも見事なパフォーマンスつき。……こっそり猛練習していたのは、内緒だ。
 そんなサプライズもあるなか、リィムナは一曲をしっかり歌い上げた。フランも、バックバンドで演奏してくれている。
「みんにゃ、ありがとにゃ♪」
 子どもだけど中身はしっかりアイドル、ファンを喜ばせるのが一番の仕事。笑顔を常に忘れずに、観客に夢や希望を振りまいていく。
 そして、憧れのフランにまるで子猫のようにジャンプし、抱きとめてもらう。キャーッという歓声はあるものの、相手が女性だとわかっているからむしろ観客も微笑ましく見つめてくれている。そのままフランはリィムナをお姫様抱っこし、リィムナは手を大きく振って退場した。
 ――それを見ていた和奏はポツリ。
「やっぱり、学園祭はすごいですね……」


 長い一日も、もう終わり。夕日が学園を赤く照らしている。
 まだ最終日までは時間があるけれど、学園の各所で今日一日の終わりを祝した三本締めなどが行われている。
 そんな中、果林はふしぎと屋上を訪れていた。
「ふしぎさん、目を閉じてもらえる……?」
 果林がそっと問いかける。ふしぎは素直にそれに従うと、何かが頭にそっとかかるのを感じた。
「グライダーゴーグルなの。空を翔けるという夢、素敵だと思う……もし実現したら、私も一緒に連れて行ってね」
 顔を赤く染めた果林が優しく微笑むと、ふしぎも嬉しそうに頷いた。
「うん、絶対一番に果林と一緒に飛ぼうね!」


 学園の見る夢は終わる。
 学園祭という、楽しい夢が。
 そして開拓者たちもまた、いつもの毎日に戻るのだろう――