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■オープニング本文 ● もふらさま。 その存在は即ちもっふりした精霊。愛らしい一面を持ち、同時になまけものであるがそれを許容できてしまうなにかを秘めている。 だからこそ、もふらさまが 「つかれたもふ〜」 とか、 「おかしたべたいもふ〜」 とか、そんなことを言ってもなんだかんだで受け入れてしまうわけなのだけれど。 そんなある日。 「……もふらさまがいなくなったあ?」 ギルドに持ち込まれてきたのはそんな子どもたちの泣き声。 「うん、僕の家の近くの横丁にね、いつももふらさまがいたんだけどね、今日見たらいなかったの。ううん、三日くらい見かけてないの」 依頼主たる少年は、泣きじゃくりながら説明する。 もふらさまがいなくなる事自体については、そうおどろくべきことではない。何しろ精霊なのだから、人間や他の動物とその成り立ちようからして異なっているので。 ――けれど、職員は唸った。 実はもふらさまが行方不明になると報告をうけたのは、今日だけで三件目だ。 いずれも街で惰眠をむさぼ……もといのんびりしている、いわゆる固定の主を持たないもふらなのだが、気がついたら数日前から行方がわからないとか何とか。 (変な事件とかじゃなけりゃあいいけど) 何しろもふらさまは天儀固有の精霊。他の儀で根付くことをしない、そのあたりも謎の多い精霊なので、行方不明ともなればその所在をはっきりさせなければならない。懸念事項があまりにも多すぎる。 「……開拓者の出番だな」 幸い、もふらさまが大好きと豪語する開拓者に心当たりがある。あとで来たらこの話を知らせようと、ギルドの職員は頷いた。 ● ――一方その頃天儀某所にて。 「もふたちのだいすきなあきがきたもふ!」 「「「もふ!!!」」」 もふもふした塊が、もふっと手を上げた。 「あきはおなかがすくもふ!」 「「「もふ!!!」」」 「おいしいもの食べに行くのはもふたちだってしたいもふー!」 「「「もふー!!!」」」 そしてその白いもふもふの塊たちは、ずももももっと動き出した。 秋ならではの、味覚を求めて。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
ハーヴェイ・ルナシオン(ib5440)
20歳・男・砲
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
黒曜 焔(ib9754)
30歳・男・武
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ● ――そんなわけで集まった開拓者たち、なのだが。 「もうっ、もふもふったらどこに行っちゃったんだよ……。すごいもふらに進化したからって、最近チョーシ乗りすぎなんだよっ」 そう言って全身からプンスカオーラを発しているのはすごいもふらであるもふもふの主、エルレーン(ib7455)。その怒りっぷりはなんだか可愛らしくて、微笑ましいものなのだが。 「私のおまんじゅうちゃんも……行方不明なんだ……っ。もしかしたら同じ事件に巻き込まれているのかもしれない……!」 こちらももふらのおまんじゅうが相棒の黒曜 焔(ib9754)。エルレーンとは打って変わって怒っているというよりもしょんぼりしている。大切な相棒がいなくなって衝撃を受けているのだろう。 「もふら捜索依頼か……いやそれもいいのだけれど、最近うちの戦馬も行方しれずでな。どうにもものすごい嫌な予感しかしないんだが……どちらにしろ双方ともにできるだけ急いで探さないと……」 弓馬の嗜みがある篠崎早矢(ic0072)が言うには、もふらではなく彼女の半身ともいえる相棒の戦馬・夜空が同じように行方不明。 戦馬まできちんと成長している相棒ゆえ、こちらも拉致されてもおかしくないといえばおかしくないが、幸か不幸か夜空は決して見栄えの良い戦馬ではない。これは早矢が実用性を重視して選んだからでもあるのだが、とにかくこちらも気になるといえば気になる事件である。 (とはいえもふらさまのことだ、それほど心配をしなくてもいい気はするが……) そう思いつつも受けた依頼はしっかりこなす、それが開拓者。羅喉丸(ia0347)は少し唸った後、 「もしこれが事件として、考えられる可能性としては……他の儀の好事家たちに売りつけるために、密輸団がさらっていった、という可能性がおそらく『最悪の可能性』だな」 何しろもふらは天儀固有の精霊。どんなに探しても他の儀で発生したという例を聞いたことがないのだ。それゆえ、一部の儀では『もふらを持っていること』自体が一種のステータスシンボル、自慢の種になるのだとか。 「かすか、大丈夫かな……」 普段はぴんとはった耳と尻尾を持つ来風(iz0284)も、今回は流石にうなだれ気味。それもそのはず、来風の相棒であるかすかももふらであり、そして同じように行方しれずになっていたのだから。 「とりあえず……思うのは、事件の香りがしそうなのになぜかあまりしないのは、やはりもふらさまだから、でしょうかね……」 秋桜(ia2482)がのほほんとつぶやいた。たしかに、集団失踪というのはとても事件の香りがする単語なのになぜかその対象がもふらだと思うとどこかのほほんとした雰囲気になる。 これはある意味でもふらの役得ともいえよう。 もふらのその性質などが、どうにも犯罪と結びつきにくいのだ。 それでも現在起きているのは集団失踪。『最悪の可能性』も脳裏に入れた上での行動が必要だ。 一方でジルベリア出身のハーヴェイ・ルナシオン(ib5440)は、不思議そうな顔でこの事件(かどうかは微妙なところなのだが)の相談に加わっていた。 「でももふらさまがいなくなったって、家出?」 ルナシオンが尋ねる。もふらの生態をまだよくわかっていないのだろう。 「いや、数は少ないが野良……というか、人とともに生活をしていないもふらさまもいてな。そういうものの目撃数も減っているらしいから……」 羅喉丸の説明にふむ、とルナシオンは頷く。 「確かに誘拐だったら困るな。じゃあ、探そう。ちょうど空を飛びたいところだったしな」 「……空?」 来風が不思議そうに尋ねる。 「ああ。俺の相棒はね、滑空艇なんだ。こいつを使って早めに見つけられるよう、頑張るさ」 空から探せば、あるいは見つかるかもしれない。 「そういえばもふららしきものの目撃者がいたとか……その話に従って追跡もしよう」 焔がいつになく慌てた様子でそういうと、他の仲間達もこっくりと頷いた。 ● もふ、もふ、もふ。 白い塊は西に向かって動く。 遠目から見たら、それはまるで地上に落ちてきた雲。 けれどよくよく見ればわかるだろう。 それらが腹をすかせた顔をしたもふらの大群であることが。 ● 「証言によると、朱藩に近い方で白い塊があったとか何とか。もう少し情報を絞れることができればいいんだが」 何人かで聞き取りを行った結果、それらしき目撃は朱藩の方に向かっているということだった。 「なにかむこうにあるのかな……もふもふもそっちに行っちゃったの?」 エルレーンが不思議そうに顔を疑問符を浮かべる。早矢が同じようにちょっと悩んだような顔で、唸りながらつぶやいた。 「朱藩にも港はある。そちらから密輸という可能性はなくはないが……ただ、夜空のようにもふらだけでなく行方しれずになっている生き物はほかにもいるかもしれんしな」 そう。 さすがに実態はわからなかったが、たしかにもふら以外の相棒の一部も最近見かけないという話を耳にしていた。 「これも今回の件と関係があるかないかわからないけれど、気になりますね」 秋桜が眉根を寄せる。焔と羅喉丸は頷きあった。 「やっぱり動いてみないとわからない、か。行くしかないね……」 「ああ。本当に犯罪絡みだとしたら、急がねばならんかもしれんし」 「そうですね……危険なことになってなければいいのですけど」 来風も心配そうな顔だ。相棒と離ればなれになるのは、やはり辛い。また焔は、別の心配もしていた。 (もふらさまたちはきちんとご飯を食べられているのだろうか……特におまんじゅうちゃんは底なしの食いしん坊だし、もしかしたら今もお腹をすかせて助けを求めているのかもしれない……!) 「おまんじゅうちゃん、今行くからな……っ!」 そして各自、準備を整えて出発することにしたのだった。 ● テクテクと歩くと、目撃証言のあった付近というのは比較的すぐにわかった。 何しろあちこちで誤って抜けてしまったと思われるもふらの毛が見かけられたのである。この付近にもふらがいたのは間違いない。ついでにいうと、もふらがつまみ食いしたらしいきのこなども見つかっている。 「……それにしても、黒曜殿の荷物は多いな。いや、俺も他人のことは言えないが」 「何しろうちの子は食いしん坊なので。これくらいならペロリですよ」 この二人、大量の荷物を持って動いていた。どちらも持てるだけ食料を詰め込んできていたのである。……いや、他の仲間たちも荷物の中には随分な量の食料を詰め込んでいる。 皆、もふらという存在が食いしん坊だったり意地汚かったり、そういう性質を持っていることを承知しているからである。 それに、焔の想像のようにもふらが腹をすかせて困っているという可能性も確かに否定はできない。 ちなみに羅喉丸はもふらが好きなのではないかと秋の味覚をあえて買い込んでいたりもする。りんごや柿など、そのほとんどは果物だ。後々これらを童話よろしく落としながら進み、もふらさまたちがこれをたどってきてくれるようにするのが目的なのだとか。 (でも目撃証言から考えると、渡り鳥よろしく秋の味覚を求めて旅立つ姿をなんとなく想像できてしまうのだが……まあ、怠け者なもふら様たちのことだ、そう遠くにはいくまい) そう、もふらといえば怠け者が多い。だからこそ集団失踪に驚きを隠せない者もいるのだが、羅喉丸はそんなもふらの性格を考えてつい苦笑してしまった。 「お主もなんのかんのと真面目なやつじゃのう」 脇でそんなことを言うのは、羅喉丸の相棒で人妖の蓮華。そう言われて、羅喉丸はまた苦笑だ。 「まあ大金をもらうわけだし、報酬分はきちんと働かなきゃな」 今回は開拓者の相棒だけでなく、商人たちがかわいがっていたもふらたちもいないということで報酬自体も多めだ。何しろ荷運びなどでももふらは役に立ってくれる。そうやって天儀でのもふらという存在はとても身近なもので、だからこそ捜索願いもでてしまうのである。 「さて、噂ではこのあたりというわけですが。今はいないということはまた動いたのかもしれませんね。とりあえず事件は解決せねばなりませんね〜。すっちー、いきますよ」 そう秋桜も頷く。そして相棒を服の間から取り出した。服の間に入り込むクセのあるこの相棒、すっちー、というのが迅鷹である鈴蘭の愛称なのである。 そして鈴蘭の方も了解したのだろう。秋桜はゆるゆると迅鷹と同化し、やがてその背にはやわらかな光の翼が生えた。それをひとつ羽ばたかせると、そのままふわりと上空へ舞い上がった。 ややあって秋桜は降りてくると、にこっと笑う。 「そうですね、あちらの方の草が不自然な倒れ方をしていました。ちょうど何かの大群が通り過ぎたあとのような、そんな」 上空からの様子を報告すると、彼女なりの予想を付け加える。 「もふらさまたちも歩きづめでは疲れてしまいますし、この時期なら山菜やきのこがある場所に行けば、案外見つかるやもしれませんねぇ」 山菜もきのこも、この時期は美味い。ちょっと想像したら、誰かの喉がごくんとなった。 「それが一番考えらるかもしれないね……」 焔が頷くと、早矢も 「ふむ。山菜のたぐいなら馬も食べなくはないが……ああ、嫌な予感が更に増してきた……頭が痛いな」 そう言って溜息をつく。 「ああ、そういえば馬の蹄の跡や他の動物の足跡も残っているところはありましたね〜。複数ありましたけれど、その中に夜空さんがいる可能性は否定できません」 以前にも依頼で面識のある秋桜の指摘に、早矢はまた頭を抱えたのだった。 「んー? そちらでもなにか見つかったみたいだな」 ルナシオンが滑空艇から降りてとりあえずの途中経過を報告する。秋桜はなぎ倒された草からもふらの通ったあとではないかと言うと、 「……ふーむ、その可能性は十分考えられるな。こちらもなにか手がかりがあれば狼煙銃で合図するよ」 ルナシオンは今回の仲間の中で一番機動力がある。万が一の場合は足止めをしてくれるだろう。そしてまた、ルナシオンは滑空艇での探索を再開した。 「大体、進化したからって態度も生意気に進化することはなかったんだよっ」 そんな中でエルレーンはといえば、相棒の生意気な態度にプンスカしている。昔はもう少し従順だったはずなのに、嗚呼あの可愛いもふもふはどこへ行った。 とは言えエルレーンもこれまでに随分ともふもふにムチャぶりをしていたような気がしなくもないが、まあそれは目を瞑ろう。今心配をかけているのはあくまでもふもふで、そしてエルレーンはそんなもふもふの相棒なのだから。 「……こんなに心配かけて……見つかったらおしおきしてやるんだよっ」 だからエルレーンは怒っているとはいえ、その表情はやんちゃな弟分に対する怒り半分心配半分のような、そんな感じでプンプンしているのだった。 ● 「もふたちのあきがきたもふ!」 「「「もふ!!!」」」 「おいしいものたくさんのきせつもふ!」 「「「もふ!!!」」」 「だから、たまにはりょこうもいいものなんだもふ!」 「「「もふー!!!」」」 ……こんな声が、草原のどこかで響いているとか、なんとか。 ● 「みつけた!」 滑空艇でいまだ捜索していたルナシオンが合図の狼煙銃をあげる。それを見逃す仲間たちではなかった。 その方角を見れば、たしかにこんもりとした白い塊。このやたら目立つ状態で集団移動していて、よくぞ今まで通報されなかったものだと開拓者たちは逆に感心する。 「そんな場合じゃないよ、もふもふたちも見つけないと……!」 心眼を使いやったらめったらかたまっている気配を探ったエルレーンが、改めて頷く。 「うむ、おまんじゅうちゃん……腹をすかせて泣いているのではないだろうか……」 焔は焔でホッとした表情を浮かべながら、手元の荷物から寿司の折り詰めやら重箱に入った弁当やら、彼の相棒おまんじゅうの好物をザクザク用意する。 「とはいえやっぱり見つかってよかったよ……見つからなかったら本当に悲しいしねえ」 「そうですね……もふらさまはやっぱり愛されている証拠ですね」 それがどういう方向性の愛かはとりあえず置いといて。来風も安堵した表情で、ようやく笑顔を浮かべた。 「む、あちらの方にはもふらだけではなさそうだな。夜空も混じっていそうだ」 早矢が眺めやるのを確かに見れば白いもふ毛が特徴的なもふらだけではなく、茶色や黒い毛並の生き物もちらほら混じっている。もふらについてきた馬や牛、犬猫のたぐいもいるということか。 「結構な数がいるみたいですからね、巻き込まれた可能性もあるのかも?」 来風が指摘するとなるほどと仲間たちも頷く。 「とにかくルナシオン殿が一足先にたどり着いているはずだ。俺達も向かおう」 羅喉丸が声を上げた。 一方、こちらはもふらさまたちのど真ん中に到着したルナシオンである。どうしてど真ん中なのかはこの際おいておくとして、もふらたちの様子は皆いかにもまるまるとしていた。 「あ、なにしにきたもふ」 「もふたちのたべものをとりにきたもふ?」 「ひみつのたべものはひみつもふ!」 もふらたちの中にざわめきが生まれる。このままではまずい――そう思ったルナシオンは荷物袋の中からひょいひょいとワッフルを取り出した。もちろんこれも食い意地の張ったもふらたちに時間稼ぎも兼ねて食べてもらおうと用意したものである。本当に犯罪に巻き込まれていた場合はろくな食事も与えられていない可能性もあったから、念には念を入れていたのだ。 「これ食べないか?」 するともふらたちはあっさりとこれに懐柔されてしまった。 「わー、ワッフルもふー」 「もふがたべるもふー」 「いや、もふもふー」 ……正直、大量のもふら――おそらく三十はゆうに超えて、下手したら百体はいるのではなかろうか――に、食べ物目当てに迫られるとかなり怖い。何しろもふらの胃袋は無尽蔵なことが多いのだから。 (このままじゃヤバイかもな) そう思っていた矢先である。 「もふもふ!」 エルレーンの声がぴんと周囲に響いた。そして見つかったもふもふは哀れなことに尻尾をむぎゅっとエルレーンに掴まれている。 「もうっ、心配かけるんじゃありませんっ!」 「も゛ふう゛う゛う゛ーっ!?」 もふもふは情けない声をあげて、そして 「虐待もふ、これは虐待もふ! 痛いもふー!」 とうとう泣きだした。さすがにもふらの間にもこれは動揺が走る。しかもエルレーンは半ば無理矢理もふもふに正座をさせてしっかりとお説教。もふもふも自分の意見をいうのだが、 「どぉーせ、おいしいものが食べたいってだけでしょーぅ?」 と言われてしまってはぐうの音も出ない。もふもふが隠し持っていた柿をヒョイッと奪って食べるふり。でももちろん、もふもふに愛情があるからこその行動なので、最終的に反省すればちゃんともふもふに返してやる。こんな一言を加えながら。 「でももちろん、分けてくれるんだよねー?」 もふもふ、もう涙目。かと思えば、 「あ、こっちにはおまんじゅうちゃんも……! おまんじゅうちゃん、お腹すかせていないかい!?」 焔の方も相棒を無事発見できたようだが、おまんじゅうの口の周りには山葡萄か何かの紫色の汁がべったり。 「あ、相棒! 集めたおいしいものを、もっと美味しくしてくれるもふ?」 そう言って実に無邪気に首を傾げるおまんじゅう。なんとも緊張感のかけらもない。 「いや、君を探しに来たんだよ……とにかく元気でよかったけど、集めたものってなんだい?」 焔が尋ねると、仲間のもふらたちが器用に運んできた。それを見て、目を丸くする開拓者たち。 「これ、松茸……ですよ、ねえ」 「こっちは秋茄子だな。こいつも焼いたら美味い」 「わぁ……栗までありますよ」 「って、なんで米俵まで持ってるのもふらさまー!?」 そう。これらは全て、もふらたちが美味いもの食いたさに普段の怠け癖も返上して自力で集めてきた秋の味覚の数々なのだ。 「でも、どれも生で食べるよりは火を通したりするほうが美味しい、ですよね……もふらさま、どうするつもりだったんでしょう」 来風が首を傾げると、こちらも無事に見つかったかすかが笑った。 「えっとね、えっとね。これはみ〜んな、みんなにおねがいしておりょうりしてもらうつもりだったもふ。くだものはそのままでもとってもおいしいけど、やっぱりお米はふっくらごはんがおいしいもふ!」 確かにそのとおりだ。人間並みの思考能力を持つもふらさまなだけはある。だからこそ崇められる対象となりえる精霊なのだ。 開拓者たちは顔を見合わせた。この大量の食材をこのままにしておくのは実にもったいない。どこからともなく笑いのさざなみが生まれ、 「じゃあ、少し飯でも作るか」 そんな言葉も笑顔とともにこぼれた。 ――ちなみに、早矢の相棒・夜空は。 もふらたち共々、早矢にみっちり叱られていた。 「もふらさま! うちの夜空においしい出歩き方を教えたのはやはりお前たちか! 夜空を探すほうが察知しやすいから、今回もふらを見つける役に立ったのは僥倖ではあるが……夜空も、悪い友達と付き合ったらダメだって教えただろう! 帰るぞ! うまいものが此方のほうがあるから帰るのが嫌だ? 餌に秋の味覚を加えて走りこみの時間をみっちり倍にするから、それでいいか!」 早矢の間髪入れぬ怒涛の説教に、さすがに夜空も、そしてそそのかしたもふらたちも怯え気味だ。しかし折角だし何かちょっとここで食べていこうと秋桜に説得されて、結局それを食べてからの帰宅ということに相成った。 ● 七輪の上にはほどよく焼けた茄子。 米も工夫して炊き込みご飯にして、みんなで秋の風吹くなか、握り飯にする。 美味しそうなよい香りが周囲に広がる。 「でも、美味しいもの、みんなで食べられるのはうれしいもふ」 かすかがえへっと笑う。 「そうですね……折角だし、すっちーも食べます?」 秋桜は炊き込みご飯を一口分、相棒のために分けておく。鈴蘭は嬉しそうに、懐から顔を出してパクリと食べる。羅喉丸も蓮華に分けてやると、 「これは美味いのう。もふらたちが大移動も納得じゃ」 そう言いながらにっこり笑顔。 「もふらさまもおもしろいことを考えるな。まあ、俺達も程よい休息を兼ねた依頼になった感じだし」 羅喉丸も、そしてルナシオンもそう思いながら笑った。 ● 結局連れ帰ったもふらたちは 「ざんねん、もふたちのぼうけんはここでおわってしまったもふ……」 等と言いながらもまた日常に戻っていった。 そして開拓者たちも。 思いがけない秋の味覚を満喫して、そしてまた次の仕事を探すことになるのだった。 ――なお、もふらさまたちが様々な手段で集めた食材は、開拓者ギルド預かりとなった。開拓者やその相棒たちに振る舞われることになるのだろう。 もふらたちもそれならと、満足したようだ―― |