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■オープニング本文 ● 「そろそろ暑い季節になってきたな……」 ギルドの職員が、ぽつんとつぶやく。足元においた桶には井戸水が入っていたのだが、それもこの暑さでは随分とぬるくなってしまった。足をつけて涼んでいたのだが、今はそれもほぼ効果なしといえよう。 「夏ですからねえ」 別のギルド職員も、胸元をややくつろげさせてそこに扇子で風をあおいでいる。だらしなく見えるかもしれないが、そのくらいしないと暑くてたまらないのだ。 「海行きたいな」 「川でもいいです、とにかく涼みたい」 一人が言い出せばそれに乗っかることの多いのは常のこと。 「せめて気分だけでも涼しくありたいな……ん?」 一人の職員が、ふと目にした依頼書。まだ墨跡も黒々と、入ってきて間もない依頼とわかる。 「なになに……水着……しょー……?」 それは安州に程近い街からの案内状だった。 ● 「どうにも宣伝効果が足りない」 『春夏冬』の若者はむう、とうなった。 「みなさんどうにも新しい街ということでまだ遠慮しているのかもしれませんね……どんな人も歓迎なんですけど」 そう応じるのはやはり青年――ここは春夏冬の青年会。ちょうど会議の真っ最中である。 「季節にちなんだ催事――そうだな、こんなのはどうだ?」 呉服商の跡継ぎで今は修行も兼ねてこの街に暮らしている若者が提案する。 「観光大使を作るんだ。今の時期なら楓川での水遊び目的も兼ねて、水着姿になってもらうとかな。開拓者も支持する街! ってことで、相棒さんと一緒に水着になってもらうとかも面白いかもしれんん」 「……なるほど」 何しろここは青年会。 水着姿を歓迎したくなるのも当然であった。 ● 観光大使求ム! 朱藩国安州近在にある街「春夏冬」にて、観光大使となってくれる開拓者を募集します。 今回のお題としては水着姿になれる方。近くには川もありますので、遊ぶことも可能です。 相棒とご一緒に水着を着て、ひと夏の思い出をつくりませんか。 水着の意匠などは開拓者さんにお任せ。こちらで要望に応じた水着をご用意いたします(但し風紀を乱すような水着はご遠慮ください)。 ● 「……何だコレ」 開拓者たちはその依頼書を見て、突っ込みどころに困ったという。 ただ、川遊びは魅力的なのかもしれない――何人かがそう思ったのか、ギルドの受付に向かったのだった。 「あの、あそこにある……」 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
ニーナ・サヴィン(ib0168)
19歳・女・吟
リスティア・サヴィン(ib0242)
22歳・女・吟
十野間 月与(ib0343)
22歳・女・サ
ルッチェ・ニマーニュ(ic0772)
19歳・女・砲
ジャスミン・ミンター(ic0795)
18歳・女・騎
小松 ひよの(ic0889)
16歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ● 今年は本当に暑い。 天儀全域を巡る交易商人たちがそう言いながら汗を拭うのだから、信憑性の高い情報なのだろう。 そんな夏だからこそ、涼し気な水着を纏った観光大使が必要とされる――そう言い出したのは青年会の若者たちなのだが――と思うのも、ある意味必然であった。 まあ、水着の「もでる」も兼ねているわけで、商売人たる彼らにとってはいろいろな意味で願ったり叶ったりな存在である。 そうして、春夏冬の街に八人のうら若き女性たちがやってきた。 「春夏冬の街ってきてみたかったんですー!」 そう無邪気に笑うのは、狼の神威人である小松 ひよの(ic0889)。まだ開拓者になって間のない彼女だが、駿龍のいあると一緒に、いかにもワクワクした表情を浮かべている。 一方、観光大使の内容を聞いて驚いているのは炎龍のリリオーヌとともにやってきたルッチェ・ニマーニュ(ic0772)。連れであるジャスミン・ミンター(ic0795)に、ちょっと忌々しそうな視線を向ける。 「おい、観光大使じゃねーのかよジャスミン? 水着になるだなんて、これっぽちも聞いてねーぞ」 苛立ちの混じった声でそういうと、ジャスミンはおっとり笑みを浮かべて楽しそうに返す。 「あら、観光大使には違いありませんわよ?」 残念ながらというか、今回の仕事は「水着姿の観光大使」なのだから、ジャスミンの言い分は正しい。改めてそう説明すると、ルッチェは頭を抱えて渋い顔ながら、納得はしたようだ。 「……確かに、水着も服っちゃぁ服だけどさあ。まあ、深く考えちゃダメか……それにしても男どもの考えることってわかり易い、よなあ」 確かに水着なんて男性諸氏のあこがれである。うら若き乙女の水着姿なんて、喜ぶ輩のほうが多いに決まっている。だからこそ、二人とも苦笑するしかないのだった。 また、自宅が民宿をやっている十野間 月与(ib0343)は、今回の依頼を興味深げに思っていた。 (お客様を集めるための手段って意味なら、あたいにとってもいい勉強の機会になるかもしれないし……それに、素敵な方々が参加を検討しているってことは、女を磨く目の保養って意味でもいい機会になりそう) ギルドで観光大使募集の依頼を見た瞬間、頭がそれだけ回った。 そしてその結果、今回の話に乗ることになるまでに時間はそうかからなかったのである。 同行しているのはからくりの睡蓮。長い黒髪を翻した睡蓮は、いかにも女性的なメリハリある体型で、それを覆うのは白と緋の色の巫女装束なのだから、なんとも言えない色香を醸し出していた。主たる月与も、女性的な肢体の持ち主であり、釣り合いのとれた主従関係である。 「それにしても、要は水着を着て、この街をもり立てるようなことをすればいいんだろう?」 水鏡 絵梨乃(ia0191)が頷きながら、依頼内容を噛み砕いて反芻する。確かにこうやって公に水着を着用して云々という機会は滅多にあるものではない。そして、可愛い女の子についちょっかいを出したくなるという絵梨乃なら、尚更。 「面白そうだな。眺めているだけでも退屈はしなさそうだし、ね。皆の水着姿、たっぷり堪能させてもらおうか」 傍にいる迅鷹の花月にもそう言って笑いかける。そう、楽しむことが第一だから。その一方でちょっと悩んだような表情を見せているのは葛切 カズラ(ia0725)だ。彼女はまだ今年の水着を決めておらず、悩みつつも参加である。街からも貸し出しはするが、それだけでは飽きたらぬということなのだろうか。 「でも、こんな機会はたしかに珍しいし、思い切り楽しんじゃいましょう。暑さが吹き飛ぶくらい盛り上げて、ね」 そう微笑むのは義姉妹のリスティア・バルテス(ib0242)を伴って参加した、ニーナ・サヴィン(ib0168)。 ちなみにニーナとリスティアの関係は厳密に言うと、リスティアがニーナの兄と付き合っているからこその関係でもあるのだが、もともとニーナとリスティアが仲良く意気投合したのがそもそものきっかけなのだから、人生というのは本当に何が起きるかわからない。 そしてそんな主二人を眺めて、その相棒たち――リスティアのからくり・クロードとニーナのからくり・アリスもつい苦笑を浮かべるしかなく。 「そうね、今日は絶好の天気だし――川遊びも遊び倒して、楽しい依頼にしようね」 二人はクスクスと笑いあった。 ● さて春夏冬の街には、様々な商店の支店が存在しているが、その中でも特に目を引くのが呉服商の『旭屋』である。 今回の水着の手配をしてくれるのも、この店の厚意があってこそ。 「ええと、どんなのがいいかな……」 水に濡れても大丈夫な素材も数多く揃えられており、それを其々の身の丈などに合わせて裁断・縫製してくれるのだという。 「これ可愛いのですー!」 ひよのが手にとったのは浅葱の生地。但し、それをまず合わせるのは本人ではなく相棒だ。その生地に、白で鱗のような文様を入れてもらって、ひよのはご満悦。イアルの藍色の鱗と、うろこ柄の文様との取り合わせが、綺麗な色使いになって絶妙な雰囲気を醸し出している。ちなみにひよの自身はといえば、照れくさそうにしながら露出度の低い水着をあつらえてもらうことになった。 「それにしても水着というのが風紀を乱すというのが、どの程度を指すのかはちょっと心配かな。地域や時代で、こういう流行り廃りや考え方って変わるし」 そう言いながら月与が取り出したのは、数年前に作ったメッシュと紐で構成された扇情的な水着。まずはこれくらいの露出度の上に女神の薄衣を羽織ると言うものが大丈夫かどうか青年会にも確認をとる。青年会の方も好意的で、この薄衣がいい具合に際どいところを覆い隠しているので大丈夫、という結論に達した。 服装が扇情的なだけではなく、それをうまく覆い隠すという技術が認められたようなものだ。確認をとった上で、からくりの睡蓮と並んで揃いになるような、扇情的でありつつも卑猥さのない絶妙な配分で、水辺で戯れる精霊などを想定したような、白いホルターネックのラップモノキニを誂えてもらう。その上に羽織る薄衣が濡れたりしても野暮ったさも卑猥さもない、それでいて女性らしさを醸し出せる――そんな水着姿に仕上がった。 逆に、カズラの用意していた深紅のモノキニは、それこそ彼女の女性らしい肢体を覆い隠すには布の面積が少なく、上に羽織ものをつけることを青年会の方から要請された。あまりに扇情的な服装が、『観光大使』という役目からは随分雰囲気が外れてしまうと認識したためであろう。女性らしさというのは人それぞれの認識があるが、慎ましやかというのも女性の美徳なのだから。ちなみに相棒のユーノは、王道とも言える白地に水玉模様のセパレートタイプ。可愛らしい雰囲気の水着で、こちらは満場一致で採用された。 「でもこうやって見ると、色んな生地もあるし、色んな意匠が揃っているもんなんだなぁ」 絵梨乃が興味深そうに声を上げた。彼女が選んだのは、白地に桃色の花が散りばめられた生地の、ビキニ姿。若干布地の少ないが、それでもちゃんと守るべきところは守っているし、品の良さがどこからか出ている。恐らく女性らしい生地の選択が功を奏しているのだろう。 一方の花月は尾を出す穴を開けたトランクスタイプ。これはこれで可愛らしい。色柄は普段絵梨乃が好んできている藍地に花柄だ。 「うん、よく似あってるよ!」 ちょっと嫌がる姿勢を見せている相棒に対し、絵梨乃はそういって笑顔を浮かべ、目配せした。 ところで女性というのは得てして服装に拘りを持つことが多い。 ニーナとリスティアの仲良し二人組は、お互いに似合いそうな服を選びつつ、それぞれの衣装を決めていく。 ニーナはホルターネックのビキニにデニムのショートパンツという活動的な組み合わせ。ビキニはまるで朝焼けのような、橙から白にかけてのぼかされたような雰囲気で、それが彼女に良く似合った。更に貝殻で作ったブレスレットとアンクレットをつけ、ゆるやかに波打つ髪はひとつに括って橙色のリボンをつけている。からくりのアリスは、桃色の花柄ビキニとミニパレオという出で立ちだ。アリスはといえば、はじめこそ拒絶反応を示していたけれど、『着ないと皆がしょんぼりする』と言われて渋々着用している。アリスという略称だが、このからくり、実はアリスタクラートという正式名称のれっきとした男性型なのである。 かたやリスティアの方はといえば、白を基調にした明るく可愛らしい雰囲気の水着である。こちらの相棒であるからくりのクロードは見たままの男性型なのでまったくの揃いという訳にはいかないが、それでも可愛らしい雰囲気の柄の水着をあえて選んでやった。 「うん、楽しい依頼になりそう!」 乙女二人は笑い合っている。その相棒たるからくり二体は苦笑を浮かべる他なかった。 「……にしても、水着……なぁ」 そう呆れたような声を出すのはルッチェ。 (ま、言うことは言わせてもらうとするか) そんなどこか物騒なことを考えながら、それでも誂えてもらった水着を纏う。ジャスミンと揃いの意匠、ビキニに腰巻のパレオがついたおとなしめのものだ。ただしルッチェのそれは紺、ジャスミンのそれは青。ジャスミンが真夏の青空を想起させるなら、ルッチェは夜空――とでもなるだろうか。 「思った通り。貴女には、奥行きのある深い藍色がよく似合うわ」 (でも深い気遣いの方は無用みたいでしたわね) ジャスミンがそんなことを胸に思いながら、ルッチェに話しかける。ルッチェの持つ騎士の誇りと合理精神が時折起こす歪み。けれども、そう言った彼女だからこそ、天真爛漫な性格を失わせたりしてはいけないのだと、ジャスミンはそう思っている。 観光大使の件だってルッチェ誇りは嫌がっているかもしれないが、その合理性はきちんと理解している――これはあくまでジャスミンの見解だが。 そしてそんな風に思いやりで人を包み守ることこそ、ジャスミンにとっての『道』なのだと、彼女は信じている。 「これ、終わったらいただけるのかしら?」 ジャスミンは既に催事が終わった後のことにまで頭を働かせている。青年会も、どうぞと笑って了解してくれた。 「……でも観光とかそういうならさ、しばらくは暑いんだしそっち方面でサービスを考えたらどうだ? 花火とか、バーベキューとかよ。開拓者に限らず、催し物好きな奴は多いからな」 ルッチェはそう言いながらも着替えを終え、一方の相棒のリリオーヌには店主の趣味で可愛らしい裾のひらひらした女性用の如き水着があてがわれた。龍ながらも牝であることは、とても大事なことなのだろう。 ジャスミンの相棒・人妖ヘキサには主の趣味なのか、何種類もの水着が用意されている。しかしそのヘキサときたら苦虫をかみつぶしたような顔。 「いや、俺の水着姿とかはどうでもいいんだがよ、減るもんじゃないし」 明らかに文句タラタラの口ぶりで、二人を睨みつける。 (あの姐ちゃんたち、仮にも貴族の娘だってこと忘れてないか? 別に減るもんじゃないし、とか思ってそうだよな……) 貴族たる慎みを、とお目付け役たるヘキサとしてはなにかにつけて思うのだが、それがうまくいった試しはあまりない。ある意味『兄貴分』としての悲しい性なのかもしれないが。 だから今日も、逆らい切れないことはわかっている。それなら、良家の息女たる二人を守ろうと、小さな身体で決意するのだった。 ● 「それでは紳士淑女の皆さん! 当『春夏冬』の観光大使たるうら若き乙女たちをご紹介いたします!」 そんな言葉で、観光大使のお披露目会は始まった。相棒を肩に載せ、あるいはエスコートしてもらい、果ては相棒の背に乗って現れる開拓者たち。 しかし全員に言えるのは、誰もが可愛らしい乙女であるということであろうか。何人かについては『可憐』と言うよりは、『妖艶』かもしれないが。 そんな中、いの一番に出てきたのは絵梨乃。 花月のもつ『大空の翼』を用いて空からふわりと舞い降りたその姿は、丈の短い浴衣姿だが、それをはらりと脱げば可愛らしい水着姿のお出ましである。しょっぱなからの如何にも開拓者らしい演技に、誰もが思わず声を上げた。優雅に歩きながらもその口元には余裕ある微笑み。花月もゆったりとそのそばを舞い、楽しそうな演出に一役買っている。 「さすが開拓者ですなぁ」 誰かがそんなことを漏らした。 ニーナとリスティアは、このお披露目会の前に事前調査を行なっていた。例えば街の美味しいお店やかわいい土産物店。 「女の子が好むポイントがあれば、女の子だけじゃなくて、恋人へのおみやげを……なんて客も増えるんじゃない?」 なるほど、それは一理ある。 そのそばをアリスが憎らしそうに見つめているが、そんなものもどこ吹く風。それを察したクロードが、慰めるかのようにポンと肩をたたいたりもしたけれど。甲斐甲斐しくティータイムの準備をしつつ、披露する機会を伺うクロードは、まさに執事の鑑とも言える。 「そうね、折角だし――この街の歌を作ってみたの。聞きたいー?」 リスティアはうまい具合に観客をじらせる。ニーナの方もハープを準備して、そうして二人は奏でる楽曲に合わせ、この街の売りとなりうる点を抑えて歌い始めた。 その節回しは明るく踊りだしたくなるような馴染み易いメロディ。 「はい、アリス、ここでターン!」 ニーナが指示をすれば、アリスも言われるままにくるりと一回転。 クロードはそれを微笑みながら見つめている。そして一曲歌い終え、拍手が鳴り止む頃、 「とりあえず一休みも大事ですよ、お嬢様がた。お茶の用意もしてありますから、こちらへどうぞ」 そう微笑むクロードの準備は周到であった。 「あたいはそういう音楽で……とかはできないけどね。その代わり、武器はあるよ? この身体、っていうね」 月与は意味ありげに微笑むと、睡蓮とともに壇上に立つ。そして霊刀「ホムラ」を手に、戦場で奉納するような剣舞を披露した。 あらかじめ濡らしておいた髪や肌、着衣などから雫が舞い、それがきらきらと太陽の光にあたって得も言われぬ効果を見せている。 「そうそう。後で、せっかくだから地元の食材を使った料理を振る舞うからね!」 オカン属性――とも言える彼女の発言に、胸をときめかせたものは少なくない。 紺地の水着に髪飾り、そしてサンダルを合わせたルッチェは、炎龍の身体の大きさを逆に武器と捉え、リリオーヌの身体を巧みに使ったアクロバティックなショウを見せる。……勿論、水着が外れたりせぬように気をつけてはいるが、それでもそのあたりはしっかりした呉服商の誂えた品、ちょっとやそっとで傷ついたり脱げてしまったりするような品ではない。 跳躍から龍に飛び乗ってさらに急上昇、そして急降下。こんな行動をするのも相棒に全幅の信頼を置いているからだろう。リリオーヌも楽しそうに声を上げた。こういう楽しさは、互いの意志が疎通できていないと分かち合えない。 そんなルッチェをジャスミンは優しく見守っていた。 彼女は日焼けなどに弱いので、外套をまとったりなどして対策している。 (そういえば安州といえば珊瑚や真珠が名産でしたね……) 安州の交易の中継点であるという春夏冬の街には、様々な商品が並んでいる。それこそ、珊瑚や真珠も、決して安い値段ではないが手に入ってしまうのだ。このあたりは安州にも顔のきく豪商たちがこの街の活性化に一役買っている影響もあるだろう。 「こういう品揃えの良さも、アピールポイントになりそうですわね」 真珠でできたネックレスを試着して、ジャスミンがおっとりと微笑む。 (夜会服に似合いそう……こう言うのはぜひ他の人にも知って貰いたいところですわ) 何しろ曲がりなりにも貴族の令嬢である。やはりこういうものには弱いのだろう。 (全くふたりともすっかりのせられてるな……ま、悪い気分じゃないならいいか) ヘキサも苦笑を浮かべつつ、結局二人に翻弄されてしまうのだった。 「それにしてもお揃いって初めてですー。水着は照れくさいけれど、お揃いなのはとっても嬉しいのです。ね、いある君?」 ひよのはそう言いながら、相棒をなでさする。彼女が着ているのはいあるのそれによく似た雰囲気の、胸布と短い袴の水着。尾を出す部分を作らなければならないので、恥ずかしいのを我慢してのセパレートタイプだ。それでもホルスターの準備はきちんとしているあたり、やはり職業病のような何かがあるのだろう。 ところでそのいあるであるが、あさっての方向を向いていた。主の言うことなど知らぬと言った風に。それでもひよのはめげない。イアルに抱きついて相棒との仲の良さを必死にアピールする。 (それにこうやって抱きついちゃえば、露出も減りますしね、えへへ) さりげなく、でもしっかり考えているひよのである。 カズラはというと、その場の雰囲気に合わせるということで、ユーノとのスキンシップなどをこっそり展開していたりした。 (やっぱり可愛いわねぇ……ふふ) そんな彼女の心境などいざしらず、戯れているさまは確かに可愛らしいといえるものであったろう。 ● そして折角の水着で、近くに川のある状況。遊ばない手はない、と言わんばかりの絶好の機会である。 ひよのが嬉しそうに水辺に駆け寄るが、彼女自身は泳げるわけではないのであくまで傍観――のつもりだったのに、いあるに押し込まれてしまった。冷たい水を感じ、慌てて銃に耐水防御を施す。 一方月与は先程の宣言通り、とれたての川魚や野菜を使って家庭的な料理を拵えていた。 「こういう味も、街の特産にすればいいんじゃないかな」 笑いながら、料理の腕前を披露する。 ルッチェは泳げないが、相棒に思い切り水浴びをさせたかったり、これでしっかりものである。相棒が楽しそうに水を体中に浴びる姿に、思わず笑顔。 「うん、悪くないな。ちゃんと観光大使の仕事はするから安心しろよ?」 ニカッと笑ったその顔は、いかにも元気いっぱいだった。 義姉妹の二人も水の掛け合いっ子などをして、すっかりこの場に馴染んでいる。 「やったなー」 「そちらこそ」 そんなことを言いながら川の水を掛け合う姿は、まさしく水の妖精のような感じで、可愛らしい。 「でも、いい依頼に入れてよかった。最近の暑さで、ちょっと茹だってたしね」 「あ、それは同感」 仲のいい二人はお互い笑い合った。 (兄さんにも見せたら?) ニーナが悪戯心を出して提案すると、リスティアは真っ赤になって苦笑する。 (そ、それは、ええと……エヘへ) 「もう、おあついことで!」 思わずそんな言葉が口をついて出るくらい、幸せそうなリスティアであった。 そのころ絵梨乃はそっと仲間の背後に近寄って、水着の紐をこっそり緩めていた。 (水遊びでこういうハプニングはつきものだろ?) 人為的なのがちょっと引っかかりはするが、それは確かにそうかもしれないので否定はしきれない。 けれど絵梨乃もそのくらい楽しんでいるという証拠で、それはありがたい話だった。 ――本人は観光大使という名義を忘れかけていたけれど。 ● 「今回はどうもありがとうございました」 青年会の若手商人たちが頭を下げる。 これがどのくらい効果を持つかわからないが、それでもなにもしないでいるよりはいいだろう。 「こちらこそ、すごく楽しかったです!」 そんな言葉が、誰からともなく発せられた。 「それは良かった」 青年会の面々もほっとした表情を浮かべる。 「また、今度はゆっくり遊びに来てくださいね」 春夏冬の街は、いつでも皆さんを待っていますから――。 商人たちの言葉に手を振りつつ、開拓者たちは別れを告げたのだった。 |