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■オープニング本文 ● もふら様が見てる。 いやこれ、もふらさまの技能だけれど、あまりにも名前が完成している気がしませんか? そう言い出したのは来風(iz0284)だった。 「んー? どういうこと?」 ギルドの職員が、不思議そうにたずねる。 「あ、いえ。もふら様が見てる、って、主語と述語がある、ひとつの文章として成立しているなあって思っちゃったんです」 「ああ、なるほど。誰が言い出したかは知らないけれど、確かに。しかもものすごく的確な表現ですよね」 ここでごく簡単な国語のお勉強。 「もふらさまが見てる」を文法的に分解すると、 「もふらさま(名詞)が(助詞)見(動詞)てる(助動詞)」。 「もふらさまが(主語)見てる(述語)」。 こうなるわけである。 でも、とまた来風は言った。 「もふらさまに実際、あのつぶらな瞳で見つめられたりしたら、とっても幸せな気分になりますよね……」 ほわわんと顔をとろけさせる来風。 いや、技能としての『もふら様が見てる』はそういう感じではないのだけれど。 「ああ、なら、もふらさま牧場とか、興味あるんじゃないですか?」 「あります!」 職員の言葉に即答する来風。職員はくすりと笑った。 「牧場ではないんですが、ちょっと面白い依頼が届いていますよ。なんでも安州の方で、『もふらさまの笑顔選手権』なるものを開催するのだそうで――」 「行きます!」 こちらもまた、即答だった。 そんな訳で、もふらさまの笑顔を見たいがために、相棒のもふら・かすかを伴って、初めて朱藩に足を踏み入れる来風なのだった――。 |
■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
倉城 紬(ia5229)
20歳・女・巫
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
黒曜 焔(ib9754)
30歳・男・武 |
■リプレイ本文 ● 「ここが……安州……」 神楽の都とも、故郷の理穴とも異なる賑々しい街並みを見て、来風(iz0284)はぽかんと口を開ける。傍にいたもふらのかすかも同様だ。 「すごい人もふね」 「そうだね……このままじゃ会場に辿りつけないかも。ここのギルドでもう一度道順を確認して、早く行かなくちゃ」 幸か不幸か、彼女は会場が『愛犬茶房』という名称であることしか知らない。 一部の人にはすでに名のしれた、トンデモ茶房――それが『愛犬茶房』の実態だ。今までにも、もふらに着せ替えさせたり、パイ投げ合戦をやったりなどという一風変わった催しがよく行われている。当然ながら、来風はそれらの出来事を知らない。 「とりあえず、地図は都でもらっているけど……慣れないところだとやっぱり緊張しちゃいますね」 「らいかはいつもおっとりさんだから道に迷うんじゃないもふ?」 「そんなことはない……と思いたい、な」 来風は乾いた声で、小さく笑った。 会場までの道は比較的すぐに分かった。参加者と告げて控え室に入ると、そこには見知った顔もちらほら。 もともと『愛犬茶房』の支配人は開拓者を陰ながら支援している人物だという。そんな訳で、この店と縁のある開拓者は少なくない。 今回集まった開拓者にも、そういう面々がいた。 「わあ、『笑顔選手権』だって……出てみようよ、もふもふ」 そう言いながら『愛犬茶房』に入るのはエルレーン(ib7455)ともふらのもふもふ。しかしもふもふの方はあまり乗り気でないようで、 「えー……めんどくさいもふよ」 と、少々ぶーたれている。それでももふもふを半ば引っ張るようにして、 「もうっ、もふもふはどーしてそういうふうに文句ばっかりなの?」 と引っ張りこんでくるエルレーンは、流石……とでも言うべきか。そしてそこで、やはり見覚えのある顔に出会った。 以前にも何度か依頼で顔を合わせたことのある、黒曜 焔(ib9754)である。 (もふらさまの笑顔選手権……なんて心躍る催しなのだろう!) はじめはそう思って観客になろうとしていただけだったのだが、(主に相棒のもふら・おまんじゅうの影響もあって)万年金欠の彼ははたと気づいた。 (おまんじゅうちゃんと参加したら、依頼の報酬で生活費も少し潤って一石二鳥なのではないか……!) 「ゆくぞ、おまんじゅうちゃん!」 ……そう意気込んできたはいいものの。 「相棒はもふをなんだと思ってるもふ……」 こちらもめんどくさそうな顔をしているもふらのおまんじゅう。 まあもとより、もふらという存在は面倒臭いことが苦手なのだからしかたがない。 しかし参加者控え室でエルレーンを見かけたり、なんとか会場にたどり着いた来風に挨拶をしたりなどしているうちになんだかそれだけでも楽しくなってきたようだ。 「そういえば、来風ちゃんは朱藩に来るのが初めてだそうだね。後で、どこか案内できるようならしてあげようか?」 いつもの三割増しイケボで笑う焔。年齢を問わず女性には頼もしくあれと、そう幼少期から教わってきたのだろう、その態度は滅多なことでは崩れることがない。しかも、 「かすかちゃんも、今日はまるで春の菜の花畑のように可憐だね、かわいらしい」 それはもふらに対しても有効らしい。かすかはキャッと声を上げたあとで照れくさそうに来風の背後に隠れてしまう。もふらとて褒め言葉には弱いのだ。 「あの、かすかが照れているので……」 いつもと勝手の違う場所でのこういうやり取りに、来風も若干面食らってしまったようだが、おまんじゅうがくすくすと笑う。 「相棒は女の子を見るといつもこんな風もふよ。だから今日は、流石のもふも心配もふ」 とは言えもふら愛の深い焔のこと、なんとかなる。そんなことを思いながらもふらは笑った。 一方、控え室の一角では。 「はー、ここが『愛犬茶房』、ですか……そして、もふらの笑顔、ですか」 そうつぶやいたのは相棒のすごいもふら・もふ龍を伴ってやってきた紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)。すごいもふらといっても見た目には全くといっていいほど変わりがないのだけど。 「……ねえもふ龍ちゃん」 紗耶香は優しい声で問いかける。 「なんもふ?」 もふ龍も、きょとんとした顔で尋ね返す。 「笑顔ですって。笑顔……見せられるわよね?」 紗耶香の言葉に、いつものもっふりした笑顔を浮かべてこっくりと頷くもふ龍。その姿がまた愛らしい。 紗耶香の家は小料理屋。せっかくなのでその自慢の料理を披露しがてら、もふ龍の愛くるしい笑顔で皆様に訴えかけようという作戦である。 もふ龍も主の考えが飲み込めたらしく、ふわふわ〜と笑った。――残念ながらこれは控え室なので、採点(?)の対象にはならないけれど。 「もふ〜☆ もふ龍も頑張るもふ〜☆」 その甘えっぷりがやっぱりもふらで、紗耶香は優しくそのもふ毛を撫でてやった。 「来風さんは初めましてですね、今回はよろしくお願いします」 そう礼儀正しくおじぎをするのは倉城 紬(ia5229)とその相棒、百八と書いて『じょや』と読む。見た目はおっとりした少女だが、その実少女の性質はたとえて言うなら子犬のそれだ。 「それから大会の運営委員の方にも……」 よろしく、と言おうとして見慣れた顔に気づいた。 「倉城様は以前にもこちらにおいでですね、ええと……もふらさまきせかえの時に」 「ああ!」 紬も思い出したようだ。 もふらさまきせかえ――それは有り体に言ってしまえばもふらさまをおもいっきり着飾らせてしまおうという、道楽から生まれたちょっとした遊戯だ。 紬はその際にも参加していたが忘れていたのだろうか、言われてみれば見覚えのある女中姿の女性が微笑みを浮かべている。 「あの節はお世話になりました、今回もよろしくお願いします」 「ええ、こちらこそ」 当たり障りなく挨拶を済ませ、紬は百八にもう一度説明をする。 「いいですか、百八。この大会はもふらさまの笑顔を皆様に披露する大会でして、つまりあなたが主役なんです……聞いています?」 しかし淡いオリーブ色の毛並みに包まれたもふらは、話こそ聞いてはいるがそれに従順に従おうという雰囲気があまり見られない。 ……まあ、それがもふらっぽさといえばそれまでなのだが。そして紬もはたといつもの相棒の姿を思い浮かべる。 「……そういえば、この子の笑顔って、酔った時くらいしか見ていない気がします……」 最大の難関にぶち当たり、頭を抱えてしまった。 「すみませ〜ん、これってもふらさまが相棒でなくても参加は出来るんですよね?」 そう言ってやってきたのは犬連れの、メリハリある肢体の女性。犬はといえば、首についた桃のような模様が愛らしい又鬼犬である。受付担当の青年は微笑んだ。 「ああ、はい。ごく一般的なもふらさまとなりますが……大丈夫ですか?」 「はい! ちょっとわんことふれあえるお店で息抜きしようと思ってたところで、そしたらなんか面白そうなことヤってるみたいなんで、飛び入りみたいになっちゃうかもしれないんですけど」 「ああ、そのくらいは歓迎ですよ。それではお名前を」 「あたしは御陰 桜(ib0271)。で、このコが桃。ヨロシクね」 「わん!」 桜の挨拶に合わせるようにして、桃も元気よく鳴く。 ちょうど折よくもふらがやってきたところだ。ふかふかのもふらに挨拶しながら、一人と一匹と一体はゆっくりと控え室に入っていった。 ● さて、それではいよいよ大会の始まりである。 順番は抽選の結果、エルレーン、紬、来風、桜、紗耶香、焔の順だ。 まずは会場のひな壇に現れたエルレーン、その手にはほっかほっかと湯気を立てるものを持っている。 ――もふもふは食べ物に意地汚い。 そう、エルレーンはそのもふもふの性格をよく把握した上で、できたての肉まんをこれ見よがしに見せびらかしたのだ! 「ほ〜ら、もふもふ……肉まんだよぅ」 エルレーンのその口調はとても楽しそうで、一方でもふもふはよだれを必死になってこらえながら前足を肉まんに対して伸ばす。 「もふっ! は、早く我輩によこすもふ!」 ああ、よだれこぼれおちそう。そしてその瞬間のエルレーンの行動は、まさに非道であった。 「あーんっ!」 と、自ら一口かじってみせたのである。そしてほっぺた蕩けそうとばかりにふーとため息。 「えるれん、よこすもふっ、よこすもふっ!」 このままではもふもふが暴れ始めてしまう――その時。 「はいっ、もふもふ!」 もふもふの鼻面に押し付けられたのは、エルレーンがかじったものと同じ肉まん。そしてもふもふは、といえば―― パァァァァ(*´∀`)ァァァァ そう、エルレーンの読みが見事に的中し、非常に晴れやかな笑顔を見せてくれた。 「いいこだよー、もふもふ♪」 エルレーンはそう言って、もふもふを抱きしめ、ついでにくすぐってみる。元々は肉まんで笑わなかった時の作戦だったのだが、もうその辺りはグダグダだ。 「ねえねえもふもふ、ふかふかになってよ」 「え〜? まったく面倒もふな、えるれんは」 一人と一匹はそんなことを言いながら、会場傍の空き地に移るのだった。 紬と百八は舞台に出ると、きちんと会釈をした。 「もぶぅ! 百八もふもふ、よろしくお願いする、もふもふ〜」 その挨拶の様が可愛らしくて、観客たちからもつい笑顔が溢れる。その笑顔に紬もつい微笑みを返しながら、紬は懐に隠し持っていた何かを取り出した。 ――紬は考えていた。ただ笑顔を見せて、というだけでは百八も困ってしまうだろう。かと言ってくすぐるだけではやや物足りない感じがする。 (……仕方がありませんね、これはあまり使いたくはありませんでしたが) 百八の方はといえば、 「えがお、もふ? 百八は笑うのが苦手だけど、それでも大丈夫もふ?」 説明を聞いていたとはいえ、どういうふうに笑わせるかまでは秘密にされていたらしい。はじめのうちは実際笑顔を浮かべる方法がわからないらしく、困惑しているばかり。ただ百八の頭のなかにあったのは、せっかく海洋都市安州に来たのだから、新鮮なお刺身が食べられるかなぁ、とか、美味しいお店を見て回りたいなぁ、とか。 手っ取り早く言えば、食欲に直結する発想ばかり。 そこに見せられたのは――脂の程よくのった、赤身の魚! 「百八、今日は特別ですからね?」 紬がくすくす笑いながらそれを百八にくわえさせる。嬉しそうにそれを咀嚼して、こっくんと飲み込むと、ふわぁと笑顔を浮かべた。 ――とりあえずここまでに誰もが思ったのは、 (もふらって、食べ物に弱い……) ということだった。 ● 「ら、来風ですっ、よろしくお願いします」 来風はこんな人前に立つなんて経験が殆ど無い。顔を少し赤らめて、照れくさそうにしている。一方のかすかは怖いもの知らずというか、怖じけることなくぴょこぴょこと壇上で歩き回っていた。 「かすかもふ」 ようやく落ち着いたと思ったら、簡素に挨拶。そしてなんというか……むだに口をモゴモゴさせている。 どうやら既に食べ物で釣る作戦に出ているらしい。 「かすか、笑うのは好きもふ、でも笑えって言われて笑うものじゃないもふ」 ごもっとも。口の中にあるのは飴玉だろうか、モゴモゴとさせつつそうしゃべるものだから、口調がどこかくぐもっている。 「かすか、ええと……あとでおいしいものあげるから、笑って?」 来風が緊張気味に言うと、小さく首を傾げさせるかすか。 「おいしいものってなにもふ?」 「うっ……安州の名産品とか、かな」 「ほんともふ?」 「ほんと!」 「なら、食べたいものいっぱいあるもふ、ぜーんぶ来風のおごりもふ♪」 その瞬間のかすかの笑顔ときたら! しかし来風は溜息をつかざるを得なかった。何しろ、かすかは今回の直前に『安州うまいもの大全』なる本をどこからか見つけて読み込んでいたのだから。 (ああ……また今月も本をあまり買えないことになりそう……) しょぼんと垂れた耳からわかる来風の胸の内なぞいざしらず、かすかは無邪気に笑っていた。 「今日はもふらさまを借りての参加で〜す!」 桜が微笑み、桃がワンと鳴く。そばにいるのはごくごく一般的なもふら(近在の街から連れてきたらしい)。 桜の手には、何やら手帳。それを読み上げながら、桜が行動に移る。 「じゃあ、さくせんいち! くすぐってみる!」 単純極まりないが、それゆえに効果があるかもしれない。特に絆で結ばれた関係ではないから、食べ物で釣るよりも単純な方が賢明だろう。 「笑わせるなら単純だけどコレかしら?」 桜はこちょこちょともふらさまをくすぐり、同時に桃はペロペロともふらさまを舐めてやる。でもやがて、ふわっと笑顔を浮かべたのは桜のほうで。 「それにしてもなんだかこの手触りは、むしろあたしのほうが笑顔になってくるわねぇ……」 何しろもふらさまである。もっふもっふである。触り心地は最高だ。桃が普段弱い腹を重点的にくすぐってみるものの、もふらさまは結構触られ慣れしていることもあってか笑うまでには至らない。 「そのくらいじゃあ、このもふを笑わせられないもふ」 もふらさま、ちょっぴり得意げ。普段からの絆がないぶん、そうすぐに打ち解けるというわけにもいかないのだろう。 「うーん、それじゃあ、さくせんに! かわいいものでかこんでみる!」 あらかじめお願いしていた『愛犬茶房』の犬達をずらりともふらさまの周囲に呼ぶと、そのまだ大人になりきっていないわんこに 「もふらさまが遊んでくれるって、せっかくだから遊んでもらおう♪」 そう提案。なるほどもふらを持っていないからこその搦め手だ。 「もふは心が広いもふから、遊んでやってもいいもふ」 このもふらさま、もしかして見つめられ慣れているのだろうか。尊大な態度やもっふりした感じはいかにももふららしいが、まだ満面の笑顔とまではいかない。 「じゃあ、とっておき! さくせんさん! すごいげいをみせてみる!」 こういう時って目を輝かせて笑顔になったりするよね、と桜は桃を呼ぶ。 「桃、……」 そうしてヒソヒソと打ち合わせ。了解とばかりに桃は一声吠えると、桜は懐から鞠をふたつ取り出してそれをヒョイッと投げた。同時に。 すると、桃は赤から柔らかい薄桃色へとオーラの色を変えながら、綺麗に同時にくわえたのである! 「おおおお、いまのは何もふ?! もう一回見たいもふ!」 さすがのもふらさまも興奮気味だ。目をキラキラ輝かせて、思わず前足で拍手までしている。 そしてその表情は――満面の笑顔。 「決まったわね、桃♪」 桜が優しく相棒の頭を撫でると、又鬼犬は誇らしげに 「わんっ」 と吠えた。 ● さて、次は紗耶香の番だが――何しろ紗耶香の場合は一味も二味も違う。 何が違うって、そもそも相棒のもふ龍がもふらたちの憧れの的・すごいもふらなのだ。どこがどうすごいのか、本人もいまいちわかっているか怪しいけれど。 あと、もふ龍はもふら(いやすごいもふらだけど)として非常に珍しく働き者。 「ご主人様、もふ龍も頑張るもふ!」 「ええ、もふ龍ちゃん。頑張りましょうね」 この会話が成立して、なおかつ発言通りの行動ができるもふらはそんなにいるのだろうか、いやいまい(反語)。 しかも紗耶香の小料理屋では、もふ龍は自ら仕事の手伝いまでしているのだ……! これはもふらという種から見れば、かなり例外中の例外。 そして紗耶香の意見によれば、もふ龍はそんな紗耶香の料理を美味しそうな顔で食べている客を見るときの顔というのが一番嬉しそうなのだという。 そんな訳で、紗耶香が厨房を借りて作った特製餃子と特製焼売を器用に頭の上に載せて、運んでいく。満面の笑顔で。……ある意味これは営業用の笑顔という表現もできそうだけれども、もふ龍は実際とても嬉しいのだ。 「もふ〜、餃子と焼売もふ〜☆ 美味しいから、みんな食べるもふ〜☆」 もふ龍の配る点心を口にすると、慣れない厨房で作っていうはずだが流石という感じの出来栄え。店内にいる人々も、もふ龍の愛くるしいお手伝いと美味しい料理に顔を綻ばせる。 そしてそうやって嬉しそうに働くもふ龍を見ると、紗耶香はちょっと胸がきゅんとなる。 紗耶香のもとに来てすぐはまだ警戒をしていたもふ龍、当時は柱の影から文字通りの『もふら様が見てる』状態だったのだ。それが 「大変そうだから手伝ってあげたもふ」 とのことで、見様見真似で店の手伝いをはじめてくれて、今に至るのだ。 「これからの季節は厨房はもちろん、夜も暑いでしょうから、なかなか抱きもふらをしてあげられないでしょうけど……でもこれからも一緒に頑張ろうね」 ひと通り終わって座っている紗耶香のもとに近づいたもふ龍は、ひょいと紗耶香の膝に抱っこされ、そしてもふもふされている。 「もふ〜、もふ龍も頑張るもふ〜☆」 この美しい主従(?)愛。 流石としか言いようがなかった。 そして最後は焔。 しかしもふ龍の活躍を目の当たりにして、自分の相棒をちらりと不安そうに見やる。 相棒はいつも通りというか、ドヤ顔としかいい用のない顔をしていた。 なまけ癖があって、めんどくさがり屋で、大飯ぐらい。もふららしいもふらという意味ではこちらのほうが圧倒的に大多数のはずなのだが、もふ龍の献身ぶりに驚きを隠せなかったらしい。 「でも、突然笑えって言われても困るもふ、作り笑いは無理もふ」 おまんじゅうはこくりと頷く。 「もふに笑って欲しかったら、それなりのことをしてもらわないともふ」 と、焔はにっこり笑っておまんじゅうをなで、 「おまんじゅうちゃんはかわいいねえ」 そう何度も言ってみせる。実際焔はそう思っているのだから、この言葉に偽りない。そしておだてに弱いのももふららしいというか、 「可愛いって言われたもふ〜! みんなも可愛い可愛いってしてくれないかなもふ?」 チラチラと店内を見回して、可愛いと言ってもらえないかと目で訴える。 「おまんじゅうちゃんかわいいよ」「かわいいー」 パラパラとおまんじゅうに対して声が掛かる。それに対してぱっと顔を輝かせるが、まだ満面の笑顔と言うまでは行かない。 「可愛がられると嬉しいもふ。無視とかされると激もふぷんぷん丸もふ。鉱物を発見したらついよだれが出て、味を思い出してニヤニヤするもふ。そして眠くなったら……眠るもふ……」 なんとおまんじゅうの豪胆なこと。この会場のど真ん中でうつらうつらし始めてしまったではないか。 「おまんじゅうちゃん、眠っちゃダメだ……この作戦はあまり使いたくなかったが」 焔はそう言いながら携帯している食料をばらっと取り出す。そして鼻面に近づけて、おまんじゅうの耳元でこうささやいた。 「おまんじゅうちゃん、終わったら好きなお店で美味しいものを食べに行くぞ!」 「ホントもふ!?」 ――と。 まるで全部演技だったかのように、キラキラした笑顔を浮かべていた。 (……ひょっとしてこれでは生活費を稼ぐはずが……) 焔は嫌な予感しかしない。 懐の中身を想像して、ため息をつけばつくほど、おまんじゅうは笑顔になるのだった。 ● 「でも、やはりもふらさまの笑顔に優劣をつけるのは無理というものですね」 女中頭が言う。 「だって、もふらさまは皆愛らしいですから」 しかし次の瞬間、すべてのもふらが嬉しそうに笑った。 もふらは食べるのが大好きで、褒められるのも大好き。 そんな当たり前のことを思い返しながら、人も、もふらも、誰もが笑顔を浮かべていた。 |