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■オープニング本文 ● 開拓者ギルドなんて場所にはいろんな人がいる。 どうしてそうなった、と頭を抱えたくなるような依頼も複数ある。 そんな中で、十歳くらいのちびっ子三人組がギルドの扉をくぐった。キョロキョロと、興味深そうな――ひどくワクワクした顔で。 ● 「開拓者ってやっぱり凄いなあ」 子どもの一人、いかにも腕っ節の強そうな少年が目を輝かせて周囲をきょろきょろと見つめた。 「そりゃあね、誰にでもなれるものじゃないし。前に本で読んだだろ?」 そう冷静な声で言うのはひょろりとしたのっぽの少年だ。小さな耳が頭にあるのを見ると、神威人なのだろう。 「でも、人の力になれるっていうのはやっぱり凄いよね……あこがれちゃうなあ」 紅一点の少女が笑う。少年二人は一瞬その微笑みにとろけていたが、まあしかたがないのだろう。その子はたしかに可愛らしかった。色白な肌に淡い茶色の巻き毛、まるで絵物語に出てくるお姫様のよう。 「で、今日ここに来た目的、忘れてないよな?」 「もちろん」 三人は頷くと、やや緊張した面持ちでギルドの受付に声をかけた。 「あ、あの……!」 ● 「……開拓者の一日を追いかけたい、だぁ?」 受付の青年は目を丸くした。それからすぐに笑い出す。 「子どもはそれよりも寺子屋なんぞに行ったりした方がいいだろう。ほらほら」 「それが、実は寺子屋からのお題なんです!」 相手にしようともしなかった青年職員は、子どもたちの悲痛そうな叫びに顔に「?」を浮かべたまま、子どもたちの意見を聞くことにした。子どもたちは話を聞いてくれることに感謝しつつ、一番頭が切れそうな神威人の少年が説明をする。 「つまりですね、いろいろな職業の人の一日を追いかけて、それをまとめる――そんなお題が出てるんです。近所の商店の人や、親でもいいんですけれど」 「俺のおじさんがもと開拓者で、いろいろ教えてくれたんだ。だから、開拓者の普段の生活みたいなものを見てみたいんだよ」 少年が頷いた。そして遅ればせながら自己紹介をする。中心人物な少年が大地、神威人の少年がタダシ、そして少女は瑠璃。 「……つまりが、開拓者の神楽の都での一日、って形でいいのかい? それなら依頼というか、手伝いはできるけれど」 「ありがとうございます!」 瑠璃が嬉しそうに頷いた。 ● 開拓者に休日とはっきり言える日は少ない。 そんな開拓者を追いかけたい少年少女たち。 ――彼らの目には、どのように開拓者がうつるのだろう? |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
悪来 ユガ(ia1076)
25歳・女・サ
烏珠丸(ia2576)
10歳・女・志
からす(ia6525)
13歳・女・弓
明王院 未楡(ib0349)
34歳・女・サ
ホタル=マドワカシ(ib9738)
15歳・女・シ
藤本あかね(ic0070)
15歳・女・陰
錘(ic0801)
16歳・女・サ |
■リプレイ本文 ● さて、その日。 三人の子どもたちは、再びギルドへとやってきた。 「こんにちはー!」 大地が威勢良く声を上げる。すると、 「お、おまえたちかい? あたしたちの生活が見たいっていう子どもは」 からっとした明るい声で、婆娑羅者な雰囲気を持った大柄の女性が声をかけてきた。そして、そのまま大地の頭をわしわしと撫でる。 「あたしは悪来 ユガ(ia1076)。見ての通りの合戦屋さ。こいつは相棒の忍犬で、鬼丸」 ――それでもたまには、明日を担うチビどもと触れ合って教育するなんていうのもバチが当たるわけじゃないだろ。 ユガはそう思いながら、続けざまにタダシと瑠璃の頭も撫でる。鬼丸は大柄ほうだが、それでも子どもに対して接する態度はきちんと心得ているのか、手のひらを差し出した大地と瑠璃をぺろりと舐めた。子どもたちも楽しそうに声を上げる。 「おれは寺子屋に行ったことはないのじゃが、開拓者の勉強をするのを同じ十歳としては見過ごせんのじゃ! じゃから協力してやるのじゃ!」 どこか堂々とした立ち振舞いをするのは、今回の子どもたちと同い年の黒尽くめの少女――こちらも忍犬連れ、ただしこちらは随分とヘタレっぽいが――の烏珠丸(ia2576)だ。烏珠丸はイタズラっぽい大きな黒い瞳をくるくるさせながら、白い歯を見せて笑う。 開拓者という身分上、普段から周囲は年上ばかり。同世代の子どもたちと遊ぶことの少なかった烏珠丸は、きっとそういうこともあってこの依頼を選んだのだろう――本人もそれにはあまり気づいていないが。 「わぁ、あたしは瑠璃っていうの、よろしくね!」 同世代の開拓者、しかも女の子ということで気持ちも随分楽になったらしい。瑠璃がふんわりと笑う。 (そういえば、俺も昔はあんなふうにきらきらした瞳をしていたんだろうか……そしてあの三人に、俺はどんな風にうつっているのだろうな) 羅喉丸(ia0347)はそんなことを思いながら、少年少女のじゃれ合いをどこか懐かしそうに眺めていた。彼の子ども時代の思い出といえば、故郷を襲撃したアヤカシを開拓者が撃退したというものがどうしても大きい。それが何しろ、彼の開拓者への歩みのきっかけなのだから。 「でも、きちんと寺子屋の宿題に取り組むなんて偉いですね」 そう言いながら、明王院 未楡(ib0349)がほわりと微笑む。大家族のお母さんでもある彼女、子どもたちの扱いは慣れたものだ。 「開拓者としての姿よりも、その日常を……ということですっけ?」 ほわんとした口調で呟いた彼女、次の瞬間ぱっと顔を明るくさせた。 「ああ、ならもし良かったら、お夕飯を一緒にどうです? もちろんご家族の許可をとってから、になると思いますけどね」 「ほんとうですか?」 タダシが目を輝かせる。三人の中でも聡いほうの彼は、開拓者の素の姿を見るのに適しているのはやはり家だと考えているのだろう。夕飯程度なら、無理できないわけでもない。 「うちは小料理屋と民宿を兼ねた店を営んでいるんですよ。子どもも多いですし、大歓迎です」 少女めいた笑顔は、とてもではないが十人からの母親には見えない。そして彼女の家庭環境はたしかに、学ぶべきものが多そうであった。 「まあ、とりあえずそれは後回しだな。それまではまだ時間がある、色々見て回ろう」 羅喉丸がくすりと笑う。ついでに皆で夕飯というのも乙なものだと言いながら。 「でも……普段の生活にも、いろいろあるものです」 そう囁くように、錘(ic0801)がぽつりと言う。 そう。都での開拓者の日常は、依頼がない日にも何かと忙しい。 せっかくなら、そんな風景も見てもらおう――彼女なりの考えであった。 「……まず、依頼がない日でも、ギルドには訪れるものだし」 新しい依頼の有無や、過去にあった依頼の報告書を確認するのも開拓者としての日常のひとつなのだから。 ● そんな訳でギルド内部を改めて見回す。 開拓者というのは毎日が日曜日のような、あるいは毎日が仕事のような、不思議な職業だ。……いや、職業というのは若干語弊があるかもしれないが。 「この間はゆっくり見てる余裕なかったけど、こんなかんじなんだなー」 大地がキョロキョロと周囲を見回す。志体もちでない少年にとって、開拓者ギルドという場所はある種の憧れなのだろう。 「……依頼に入るときは、ここにある案内を見て、そして入るの。例外も、あるけど」 淡々と説明をする錘。 「休日だからって鍛錬を怠るわけでもないしね、ふふ」 そうしゃなりしゃなりと歩きながら話すのは藤本あかね(ic0070)だ。この少女、いわゆる『ナニカをこじらせた』と表現できる風体で、今回も『色っぽく頼り甲斐のある(美人で)熟練の開拓者であるアテクシ』というよくわからないがとにかく自分によっているような言動をするのであった。 連れているミヅチの水尾も、どこか背筋をぴんと伸ばしている。いずれも、子どもたちが自分を見つめているということをちゃんと自覚しているからの言動だ。ギルドの方にも頼み込んで『ちょっとした依頼の例』を掲示してもらうように頼んである。 「ええと、悪辣なるエビの退治……恐ろしいアヤカシね。でも藤本は……陰陽師はうろたえない!」 時々チラチラ後ろを盗み見ながらそんな言動に対する反応を確認するあかね。けれど、もちろんそんな言動のうさんくささは開拓者のみならずギルド職員、子どもたちにも生ぬるいほほ笑みを浮かばせるほどになっていて。 でもそれを本人の前でいう度胸の持ち主はいなかった。 それを冷静に見つめながら、からす(ia6525)が解説をする。 「まあ、こうやってギルドで依頼を得ることから開拓者の仕事がはじまるね。アヤカシ退治が多いと思われがちだけれど、実際には資材の運搬や遺跡調査、猫探しなんてものまである。宴会の誘いなんていうおよそ仕事らしからぬものもね。まあだからこそ何でも屋なんて言われるわけだ」 あかねはそんな『依頼を受ける開拓者』役として今回は動いている感じである。本人はそんなこと、考えてもいないだろうけれど。 「受付で依頼を受ける旨を伝えてから相談したりして、例えば遠い場所の依頼ならば精霊門が開くまでに準備をすることになるね。装備や相棒の準備が主なところかな」 「ワシの主はワシ以外にも相棒多くての、相棒のとっかえひっかえも大変じゃろうて」 そんなことを彼女の相棒であるジライヤ・峨嶺が老獪な口調で言いつつ笑う。 そんなやり取りも楽しいのか、大地はうんうんとうなずき、瑠璃も持ってきた帳面にそれをサラサラと記す。図解なども入れたりしているが、その図が存外上手でユガが思わず声を漏らしたくらいだ。 ● 「ああ、そういえば日課といえば……俺はたいてい毎日のように鍛錬をしているな。そういうのも見てみたいか?」 羅喉丸が提案すると、子どもたちは 「開拓者の実力って見てみたいな!」 「うん、きっと格好良いよね」 「ぼくたちを助けてくれるのが、開拓者の役目……だもんね」 いかにも子どもらしい好奇心をみせて、ニコニコ笑う。 「じゃあ、そういうところを見せるか……俺の所属している拠点に行くのはどうだ?」 「え、拠点も見られるの? すごい楽しみ!」 そういえば『拠点』という存在そのものが、一般人に馴染みの薄いものなのだろうということも忘れていた。 特に子どもであれば拠点という単語に『秘密基地』のようなものと同じ響きを感じとるのだろう、もうそわそわしっぱなしだ。 「ん……分かった。では、そちらに行こうか。開拓者も他と同じ、日々の積み重ねがものをいうものだからな」 仕事のあるなしに問わず、日々の鍛錬は量の違いこそあるだろうが、誰もが鍛錬を欠かすことはないだろう。それを目の当たりにできるのだから、興奮しないわけがない。 そして開拓者たちも、子どもたちに喜んでもらえる趣向を考えていた。 その拠点は、泰国流れの調度が揃っている、泰拳士たちの憩いと修練の場であった。 道場はちょうど誰も使われていない様子らしい。それを見てとると、開拓者たちはさっさとそこに乗り込んだ。やましいことをするつもりはないのだから堂々とすればいい、そう促されて子どもたちもそわそわしながら正座をする。 「でも、鍛錬っつってもただ虚空に向かって拳を振るうようなだけでは面白く無いだろ? だから、模擬戦みたいなのを見せてやろうと思ってさ」 ユガがニヤリと笑いながら、丁寧にくるんであったものを取り出す。出てきたのは鬼棍棒だ。今回は殺傷能力などを下げてあるが。さすがに大きな得物だったから、包んであったのだが――ユガはそれを軽々と持ち上げると、ぽんぽんともてあそぶ。それに小角の髪飾りで鬼っぽい扮装というわけだ。彼女がアヤカシの役どころをしたいという意思表示なのだろう。 「羅喉丸、こんなんはどうだい? 面とかはいいだろう、美形とはいえない顔立ちだからな」 そう言って、大きな声で笑う。でも恐ろしさをあまり感じないのは、彼女のざっくばらんで豪快な性格に嫌味を感じることがあまりないからだろう。 「ああ、いいんじゃないか。子どもたちもこういう芝居がかったほうが何かと面白く見てくれるだろうしな」 羅喉丸が頷くと、烏珠丸も楽しそうに笑った。 「うむ、よく似あっておるのじゃ! せっかくだし、おれも少し混ぜてもらおうかのう」 「応。では、いくか」 そう言うと、ユガはすうっと息を吸い、そしてよく通る声で叫んだ。 「朔の月、天隠れ、不意に見えし冥き影、其は天地に仇なす悪逆の――鬼」 大見得を切ると同時にビリビリと部屋中に広がっていく、静かな闘気。そして言うのが終わるかどうかというところで、彼女はすっと羅喉丸に接近し、鬼金棒を振りかぶった。 一方羅喉丸は泰拳士。それも歴戦の開拓者ということもあって、その不意打ちのようなユガの動きに追いつくと、その金棒を腕で受け止める。 開拓者の身体能力は一般人のそれをはるかに凌駕しているというが、それをこうやって目の当たりにするのは初めてで、子どもたちはすっかり祭りの出しものか何かを見ているような興奮状態。 技能こそ使用は控えめだが、躍動感のある動きはまるで演舞のよう。 からすが提供した茶を飲みつつ、子どもたちと並んで見ていた自称『うちうじん』のホタル=マドワカシ(ib9738)も、開拓者としての経験がまだ浅いせいか、彼らと同じくらいの視点で見つめている。目をキラキラと輝かせ、胸を高鳴らせて。 「すごいのですね……!」 一流の開拓者ともなれば、その動きの切れ味は半端なものではない。彼らすべてがそれに相当するかはともかく、目標にすべき存在だと認識したのだろう。そしてそれは、子どもたちも同様だ。 「かっこいいね!」 「開拓者って、やっぱり凄い!」 思わずはしゃいでいる。そしてユガがわずかに身体を落としたところを見逃さなかった烏珠丸が、その一瞬の隙を狙って木刀を振り下ろす。――もちろんそれは寸止めにしたが、それでも緊張感のある模擬戦に、観客たちは思わず拍手をしたのだった。 「……三千世界の果てまでも、その断末魔は鳴り響く――」 そう言いながら獲物を置いて、ユガは笑った。 ● 鍛錬で流した汗を手早く拭い、早めに回りたかった箇所をひと通りまわり終えて、少し遅い昼食をとるために適当な食事処に入った。開拓者はともかく子どもたちはどうするかと始こそ悩んだが、子どもなりにしたたからしく、授業の一環だからということで、親からちょっぴりお金をあずかっているようだった。 「そういえば、ホタルもまだ初心者なのでオチビちゃんたちと一緒にお勉強です」 ホタルがそう言いながら、自分で簡単にまとめた天儀におけるアヤカシとの歴史を読みはじめる。 「前史千年ごろに天儀にアヤカシが現れたらしいのですよ。そして魔の森が発見されてからどんどん広がって……」 興味深そうに聞いている子どもたち。とはいえおおざっぱな天儀の歴史は寺子屋でも習ったりするので、しっかりと聞いているのはタダシのみである。他のふたりは何かとホタルの周りをうろちょろしている鬼火玉のまーずあたっくを見つめていることのほうが多かった。むしろ触ってみたいらしい。 「……そうやって何年か前から開拓者の数がどーんと増えたのです。アル=カマルの人や修羅さんたちとも交流が始まって、開拓者さんたちが頑張っているのですよ。もちろんわたしホタルもそんな一人ですけども」 そうやって歴史を再認識すれば、今まで見えなかったものも案外見えてくる。ふだん当たり前すぎて見えない何かが。 「でも、なんだかんだ言って、やっぱり開拓者ってすごいなー!」 大地が目をキラキラさせながら叫ぶ。 「うん、開拓者がいなかったら、魔の森に飲み込まれている地域はもっと多かったかもしれないしね」 タダシも歴史を思い返しながら、うんうんと頷いた。 「寺子屋でもこういう習い事を教えるのねえ……学ぶことは大事よねえ」 そう未楡に言われて、こっくりと子どもたちは頷く。そしてそれを見た烏珠丸も頷いた。 「じゃのう。そういえば、開拓者の心得というもの、お前たちはわかるか?」 烏珠丸の唐突な問いに、目をパチクリさせる三人。 「それはな、開拓者というものは一般人を守る立場だということじゃ。じゃから、最後まで守りぬくのじゃ。……そう、おなじ十歳でも、もし今襲われたりしたら、おれがみんなを守ってやるのじゃ」 「かっこいいー!」 大地はいかにも子どもらしく目を輝かせる。開拓者という存在は、それだけ特殊な存在であることを理解したわけだが、それは一層彼に憧れを抱かせたようだ。 「開拓者も決して怖いもんじゃない。そりゃ、いろいろな人がいるから、あたしみたいな強面もいるわけだけどさ、実際に触れ合えば案外気易いもんだ」 「開拓者さんって、怖いとは思ってなかったけど、ほんとうにごく普通の人なんですね、志体もちってだけで」 瑠璃が笑うと、烏珠丸とからすも頷いた。 「まあ、慣れないうちは恐ろしく見えるかもしれぬがのう」 「うむ。それに、きみたちの平穏を守る手伝いのようなものだ、なくてはならぬ存在と思ってくれていい」 ふたりの少女開拓者はそう言って、開拓者を身近に感じて欲しいと伝える。 「でもまずは港だな。相棒が気になるんだろう?」 ここに相棒を連れてきている者もいるが、港に待機している相棒だっているのだ。 羅喉丸の問いに、ご飯を頬張りながら三人の子どもたちは嬉しそうに頷いた。 からすも微笑む。 「港には大型の相棒がいることが多い。なかなかの見ものだぞ」 ● ちょっと歩いてみれば、港には程なく到着した。 そこまでの道では烏珠丸の相棒・ジロウが瑠璃や大地にすっかり懐いたらしく、彼らの後ろをちょこまかとついていくような感じになっている。 「ジロウはこう見えても勇敢な忍犬なのじゃ! おれの頼りになる相棒だからの!」 主である烏珠丸が誇らしげに言う姿は、いかにも同世代の子どものちょっとした自慢のようで、見ている方も微笑ましい。 また、錘の相棒である人妖の葵が気さくに話しかけてもきた。 「でも、開拓者ってとにかく変人が多いんだよね……見ててそう思わない?」 人妖の彼女から見ての感想らしいが、子どもたちも曖昧に笑うしかなかった。さすがに開拓者ばかりの場所で、開拓者の世話になっている手前すぐに頷く訳にはいかないが、個性的な人が多いというのはたしかに印象づいたようだ。 葵の主である錘も、寡黙なせいかどこか不思議な少女という印象が強い。道すがらにある万商店や鍛冶場などを簡単に解説もしてくれたりしたが、開拓者によってはそういう場所で、依頼で得た報酬を使い込んでしまうと聞かされて思わず声を出してしまったくらいだ。何しろそう話す錘の服装は必要最低限の軽装。この年頃の少女ならもっとおしゃれしてもいいのに、である。 (……そういう意味では、面白い人はたしかに多いかもね) 結果、子どもたちはそんなふうに思ったようだ。 そして、港で待ち受けていたのは。 「うわぁ……!」 思わず大声を上げる子どもたち。主の命を待って待機している龍や、さまざまな駆鎧、滑空艇なども見受けられる。 「すごいね、すごいね……っ」 大興奮の状態で、それらを見つめている。と、 「さっきの依頼、済ませてきたわ」 あかねがまたしゃなりしゃなりと歩いてきた。うん、すっごく目立ってます。 どうやら先ほどの模擬依頼は漁師の手伝いだったらしく、相棒にその手伝いの褒美としてエビをちぎって与えていた。 子どもたちは「この人も変わってるね」と小声で言い合っているが、幸か不幸かそれに彼女は気づいていないらしい。あかねはそのまま水尾に近づくと、ちゅっとその頬らしき部分に唇を当てた。 (魚臭いけど、我慢よ……っ) いやそんな我慢しなくていいんだけど。 「でも本当になんでもいるんだな、相棒って」 三人の中でも特に大地が興奮しきりなのに気づいたのか、羅喉丸が笑った。 「ん、お前……もし良かったら乗ってみるか?」 「いいの?」 目を丸くさせていたがすぐに顔いっぱいに笑顔を浮かべておおきく頷いた。 「ああ。……頑鉄、頼んだぞ」 鋼龍の頑鉄はわかったというふうに頷くと、子どもたちを背に乗せて飛んだ。もちろん、その主である羅喉丸もちゃんと付き添いで乗っている。未楡もこちらに駿龍がいるということで、その相棒・斬閃を子どもたちに紹介する。名前に反して優しい性格の駿龍は、主とその小さな来客に、喉を鳴らして歓迎の意を示した。 「……ちなみに私の相棒も、こちらには龍が四体と鷲獅鳥がいる。来るといい、紹介しよう」 多くの相棒を従えているからすが、ふっと笑う。 「アヤカシ退治には、ときに相棒の力が欠かせないからね」 ● 「それではお母様たちに、お夕飯だけでもいいかきいてみましょうか?」 開拓者とて生業を持たないわけではない。そんなある意味二足のわらじをはく未楡の生活も、たしかに気にならないといえば嘘だった。 「かあちゃんへの説得は自分たちでやるよ。寺子屋の調べ物でって言えば、きっと大丈夫だからさ」 ワルガキに見えても、このへんはやはり賢い子どもたちなのだろう。「ちょっと待ってて」と言って家に戻ってまもなく、外食の許可を三人ともきっちり得て戻ってきた。ついでに未楡の家には他の仲間達もいきたいようで、結局今回の打ち上げも兼ねて全員で押し寄せることになった。 「おもてなしの作業にはもちろん裏方もありますけど、せっかくだしうちの子ども達も交えてお夕飯にしましょうか」 未楡は十人以上の子どもを食堂に招き、開拓者らとともにひとつの鍋を囲んで食べる。人数が多いので食べるのも一苦労だが、逆にそれが面白く感じられてたまらない。 「あっちの子は、未楡さんにあまりにてないね?」 そう大地が指摘すると、未楡は少し微笑んだ。 「ああ……確かにあの子とは血のつながりはありませんけれど、そんな子はたくさんいるんですよ、ここには。でも、そんな子どもたちも大切な家族ですよ」 開拓者であるとともに多くの子どもたちの母であり、そして民宿の女将でもある彼女の微笑みは慈母という響きがぴったりであった。 ● 「今日はどうもありがとうございました」 子どもたちが声を合わせて礼をする。 「また遊びに来るくらいなら、歓迎するぞ」 「だね。開拓者であると同時に君たちの友人でもあるから」 烏珠丸とからすが頷き、ユガもニッと笑う。 「ではホタルも帰るのです。さよーなら」 彼が帰るのは空だという。……どこだ。 それはともかく、貴重な経験をした子どもたち。 一般人の理解を深めるのも開拓者の仕事。 きっと素敵な思い出となるのだろう―ー。 |