おしえて! 神楽の都
マスター名:四月朔日さくら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/21 21:19



■オープニング本文


「ああ、いらっしゃいませ。……見かけない顔ですね、どうなさいましたか」
 神楽の都、開拓者ギルド。
 そこにひょいと現れたのは神威人の血を引いている小柄な少女だった。受付係が微笑みながら声をかける。
「ここが開拓者ギルド……」
 少女はきょろきょろと、ひどく物珍しそうに建物のなかを見回す。
「ああ……私、まだ神楽の都に来て間もないので」
 ギルドのみならず神楽の都そのものが、知らないことに満ち溢れている。好奇心旺盛そうな瞳で、少女はそう笑った。
「なるほど。じゃあ今回は見学目的で?」
 受付係が尋ねると、少女はちょっと困ったような顔をしてそれを曖昧に否定した。照れ笑いを小さく浮かべながら。かわいらしい犬耳がぺたんと垂れる。
「ううんと……それもあるんですけど、実は……」
 何やら、簡単な依頼も持ち込んでいるようだ。
 受付係は微笑むと、少女に詳しい内容を聞かせてもらおうと、調書を作り始めた。


 家族のみんな、元気ですか?
 私は今、神楽の都にたどり着きました。
 半ば無理やり飛び出してごめんなさい。
 連絡はなるべくするようにします。
 でもとりあえず、今日あった出来事を――。


「……なるほど。急ぎの依頼ではないですけれど、確かに。ええと……来風(らいか)さん、ですね? 確かに承りました」
 受付係は合点のいった、という顔でおおまかな調書、そして依頼書の作成をさらさらと仕上げる。
 来風は開拓者として神楽の都に住むことになったはいいものの、頼りになる知り合いがいない。
 もともと住んでいたのも理穴の一地方、この神楽の都がきらびやかに見えたのも仕方がない。
 だから、この都をよく知る開拓者たちに教えてもらいたいのだという。
「あと、私……草双紙の作家にもなりたいんです。こういう形なら、いろいろな人の話も聞けるかなって、そう思ったので……」
 確かに、腰からは大事そうに矢立がぶら下がっている。懐にはおそらく、それを書き留めるための帳面も。
「大丈夫、初心者のフォローもギルドの役目だから。……素敵なお話を書いたら、ぜひ見せてくださいね?」
 受付係はそう言って笑い、依頼書を完成させた。

『神楽の都を案内できる開拓者募集。
 楽しい話題を提供できる人歓迎』


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
果林(ib6406
17歳・女・吟
サフィラ=E=S(ib6615
23歳・女・ジ
雲雀丘 瑠璃(ib9809
18歳・女・武


■リプレイ本文


 都観光当日。
 集合場所になっているギルド前には、依頼人である来風がそわそわと待っていた。と、明るい声が近づいてくる。
「あ、こっちでいいのかな?」
「犬耳って話だし、あの子だと思う」
「私が先に行って聞いてまいります! ええと、来風さんでしょうか?」
 そう言いながらぴょこぴょこと近づいてきたのは狐耳も愛らしいメイド姿の獣人、果林(ib6406)。後ろからはスタイルの良いエルフの女性やおとなしそうな狐獣人の少女、そして中性的な容貌の少年が追いかけてくるように歩いてきた。来風は目を丸くしたものの、すぐに頷く。
 少年は来風の前に立つと、笑って手を差し出した。握手をしたいということなのだろう。
「僕は空賊団長の天河 ふしぎ(ia1037)。今日はみんなで案内するから、大船に乗った気持ちでいてくれるといいんだぞ」
 すると来風はそれまでちょっと伏せ気味だった耳をぴんと立て、
「よ、よろしくお願いしますっ」
 まさか空賊と呼ばれる存在にこんなに早く身近で会えるなんて思ってもいなかったのだろう、嬉しそうに頬を赤らめた。
 ふしぎは更に後ろにいたサフィラ=E=S(ib6615)と雲雀丘 瑠璃(ib9809)を紹介する。聞くと、彼女たちも同じ空賊団の一員なのだという。
「む、こちらか? 私は皇 りょう(ia1673)と言う。都見物をしたいというのはお嬢さん?」
 和気藹々とした雰囲気のところにやってきたのは銀髪の女性。しかし、その立ち居振る舞いに隙はなく、十分な実力者であることがすぐに分かる。来風と同じく犬耳の少女剣士・杉野 九寿重(ib3226)も、笑顔で挨拶を交わした。
「私自身も都に慣れるまでは見回るだけでおっかなびっくりだったものです。初心にかえっての都案内、手助けしたいと思いました」
 はきはきとした九寿重の言葉に、来風も嬉しくなったらしい。
「はい、よろしくお願いします」
 また深々と礼をする。礼儀をちゃんとわきまえた、しっかりした少女だ――先程から様子をうかがっていた琥龍 蒼羅(ib0214)は、表情に出すことのないものの、そう思う。口数少なく落ち着いた雰囲気の蒼羅は、俺もいるぞとそっとアピール。
 最後にやってきたのは水鏡 絵梨乃(ia0191)だ。ふしぎたち空賊団とも面識のある彼女は挨拶を済ませると、来風をじいっと値踏みするかのように眺め回す。
「え、あの……?」
 ちなみに来風の服装は、若草色の草木染め。この都では地味にも思える昔ながらの装束だ。裾に少しだけ幾何学模様が刺繍されているのが、特徴といえば特徴か。年齢を考えればやや華奢な体格。美醜については、愛嬌のある顔立ちといえよう。
「だーいじょうぶ。眺めるだけで我慢するから心配するな」
 絵梨乃の言葉にはちょっとした笑いが含まれている。決して他人を不快にするものではないが、
「そうは言っても困ってるみたいだから!」
 馴染みのあるふしぎにたしなめられて、絵梨乃もちょろっと舌を出した。しかしまだ都に来て間もなく、世間知らずな少女には少しばかり刺激が強かったようで、赤面している。
「これで全員揃ったようだ……時間にも限りはある。効率良く回りたいものだ」
 蒼羅の言葉に頷きつつも、
「でも、せっかくの一日、楽しんでもらいたいなー♪」
 そう言いながら来風を抱きしめようとするサフィラ。それを瑠璃が、慌てて止めようとする。
 さて、どうなることか。


「来風さんは、ええと、見たいところなんてありますか? 特にないなら、私たちである程度絞りましたけど」
 まだ開拓者となってからそれほど間がないという瑠璃が笑顔を作りつつ、でも少しどもりながら問いかける。神楽の都は広いとはいえ、開拓者にとって馴染みの施設はそうそう多くない。そんな開拓者としての生活に直結した施設などを案内しようということなのだろう。更に瑠璃は、年齢の近い獣人の来風に対して、もっと仲良くなりたいと思っているようだった。
「と、特には、ないです……けど」
 来風も、これだけ目立ちそうな集団と歩くのは今までになかったことなので、つっかえつっかえ応じる。
「ではまず、折角ここにいますし……ギルドについて」
 九寿重が微笑した。
「ここは主に掲示される仕事などの依頼をこなすことによって、開拓者が経験を積んでいく……そのための斡旋所です。あと、鍛錬という意味なら、御前試合というものもありますね。ほら向こうに見える、あそこでやるんです」
 御前試合会場を手で示した九寿重の、ギルドについての説明には来風も頷く。その流れは今回の依頼を通じて理解した部分も多いし、ギルドに掲げられた依頼はどれも魅力的で、それだけでも一つの物語になりそうだと感じていた。
 そのことをボソリと漏らすと、蒼羅は「ふむ」と唸る。
「なら次は図書館に行くか。草双紙を書く参考にもなろう」

 図書館は田舎住まいだった来風にとって初めて見る場所だった。
 広い館内には沢山の書架、そこに沢山の本が並んでいる。来風は目を輝かせた。
「……俺は主に依頼で遭遇するアヤカシの下調べに使ったりするな」
 事前知識があれば、行動の無駄も危険も減る。蒼羅はそう言って手近な書物を取り、紹介する。
 草双紙も別の書架に沢山詰め込まれていた。来風が聞いたこともない書物も多い。思わず読んでみたくなったが、今は案内をしてもらっている最中なのだから、それはまた後日だ。少し残念そうな表情を浮かべているのが目についたのか、蒼羅が苦笑した。
「後で、草双紙とかを売っているような店も案内しようか?」
 まだ都を知らない彼女には、それだけでも十分過ぎる収穫だろう。来風は嬉しそうに頷いていた。


「さて、そろそろ飯時かな。都には美味しい蕎麦屋が多いが、私の行きつけに案内しよう」
 りょうが笑う。辿りついたのは表通りからは少し奥まったところにある、雰囲気のいい店だった。自分の意志で道を進もうとする来風殿は立派なものだ、りょうは微笑みながらそう言う。
 それぞれが自分の好きな蕎麦を頼んでしばしの休憩。ちなみに獣人たちはあまり熱すぎないメニューを選んでいた。更に言うと、果林と瑠璃は冷やしきつねである。流石狐。
 そう言えば、と話を持ちかけたのは果林だ。
「依頼を受ける際、経験談なども聞きたいと伺っていましたが、今少し披露しましょうか」
 すると、周りのみんなもそうそうと、とっておきの話を持ちだしてくる。
「とりあえず、来風さん。わかっておられるとは思いますが……依頼に限らず、子どもたちには注意してくださいね。尻尾や耳を遠慮無くもふもふされちゃいますから」
 瑠璃のその言葉に身に覚えがあるのだろう、果林と九寿重もぶるりと震えて頷けば、
「最近の仕事だと、私は風に飛ばされかけました……」
 耳を伏せるのは九寿重。かと思えば蒼羅は過去に出会った奇妙なアヤカシの話を披露する。
 もふらそっくりなものや、南瓜提灯に取り憑いたもの。
「アヤカシは千差万別、だからこそ予想外の事態も起こりえる。だからこそどんな時も自分を信じ仲間を信じていねばな」
 もちろん今もだ、と言うとふしぎを見つめる。仲間の多い彼の意見を聞きたいのだろう。
 ふしぎはそれに対し、
「僕は仲間をもちろん信じているし、自分自身だって信じている。大丈夫、僕も仲間も、間違いなんかおこしたりしないさ」
 空賊団の団長という立場もあって、はっきりとした物言いで応じた。周りに信頼に足る仲間がいることが嬉しそうな、そんな声で。
 そんなことを言っている間に蕎麦も到着し、のびてしまわないうちに、と皆が一斉にすすり始める。おすすめというだけあって確かに美味しい。この店に初めて来た面々も、舌鼓を打つ。
「さて、次はどこに行こうか?」
 サフィラと絵梨乃の姐さんコンビが、笑った。


 サフィラが案内したのはアル=カマル街。
 天儀とは異なる文化を持つアル=カマル、その独特の衣装に身を包んだ褐色の肌のエルフは、その中の服屋で踊り子衣装一式を見繕い、ものは試しと来風に着せてみる。
「こ、これでいいですか?」
「うん、よく似合ってる♪」
 華奢な身体にそれは確かによく似合っていたが、着慣れない服装に照れのせいか思わず耳が伏せてしまう。
「これは可愛いね。来風もほら、もっと自信持って」
 絵梨乃もそう可愛がる。流石に今は試着だけだが、来風は異国の風俗に触れて目を白黒させるばかり。実は果林もジルベリア育ち、纏うのもジルベリアの女中――メイドの服装だったが、こちらはまだ違和感なく受け入れられていた。
 次はどこだろう? 来風は初めて見る異国料理を頬張りながら、自信ありげな絵梨乃についていった。

「ここは鍛冶場。持っている武器や防具を強化する施設だよ」
 絵梨乃が頼んで中の様子を見せてもらうと、多くの職人たちが武器などの精錬をしていた。
 そしてここでまことしやかな噂話を伝える。その名も五パーセントの悪夢。なんでも、強化は必ずしも成功するわけではなく、油断していると布だろうが食物だろうが、何でもくず鉄と化してしまうのだとか。
 中には強化する女性下着を鍛冶場の職人などがくすねてくず鉄を渡すなんて噂もあるらしいが、真偽の程は不明だそうだ。
「でも、強化するためには、もとになる武具を持ってなければいけませんよね? ではそれを売っているお店もご案内しましょう」
 今度は果林が、来風の手を引いた。

「ここが僕たち開拓者御用達、万商店だよ」
 ふしぎがそう言うと、果林も頷いた。これまた繁盛しているのだろう、見事な店構えである。
「ここでは天儀以外の道具も販売しているんですよ」
 故郷のお品などもあるかもしれませんし、ふと懐かしくなった時などに訪れるとよろしいですよ。
 果林はそう言うと、ただ、と一つ付け加えた。
「時々とても珍しい掘り出し物もあるのですが……運任せの籤ですので、無駄遣いには重々お気を付け下さいね?」
 ふしぎも思い出したかのようにしみじみ頷く。
「本当に恐ろしいよ。だから、はじめのうちは支給品や、知りあう先輩開拓者に余り物を分けて貰うのがいいんだぞ」
 あとの方の言葉はこっそりと耳打ち。歴戦の開拓者たちも恐れる籤に興味が無いわけではなかったが、やめておくのが賢明そうだ。

 おやつ時、絵梨乃の案内してくれた甘味処で餡蜜を食べる。
 りょうの話では団子や蒸したての饅頭など、店毎の名物は違うということだったが、この店のおすすめは餡蜜らしい。上品な甘さが口の中に広がった。
 近くには蒼羅が紹介したかった書物を商う店もあり、来風も気に入ったようだ。
 そしてまた、自分たちの経験や思い出の話に。
 サフィラの話す異国の伝承は興味深い。その一方で、
「私は、幼い頃に生き別れになった双子の姉を探すために開拓者になったんです」
 瑠璃がそう言うと、来風は目を瞬かせた。
「そうしたら、天河隊長のところで再会できたんですよ! いつか、紹介しますね」
 泣いたり笑ったり百面相でその話をする瑠璃。それはとてもドラマチックな話だ。来風は少し眩しそうに彼女を見つめる。なにか思うことがあるのだろう。
「そういえば、開拓者には相棒がつきものだが……もふらさまは愛らしいな。怠け者が多いのが難点といえば難点だが、きっと深い思慮があるのだろう。精霊の御使いなのだから」
 自分のことを「馬鹿真面目」と言われるらしいりょうは、それでももふらについて熱っぽく語る。普段の男勝りな猪武者ぶりを知る仲間が見れば、もふらに対する愛情のようなものが逆に新鮮かもしれない。
「ああ、それなら」
 瑠璃がぽん、と提案する。
「相棒を探しに、港にいってみます?」
 ふしぎも頷いた。
「そうだな。飛空船もあるし」
「飛空船……?」
 来風がオウム返しに問いかける。
「そう、僕ら空賊団の飛空船さ!」


 来風は驚きに満ちた表情で、港にやってきていた。
「港は相棒が必要なとき、お世話になる場所だから覚えておくといいよ。あと、最近は見ての通り、飛空船もね」
 ふしぎの表情はちょっぴり自慢げだ。そっとゴーグルに触れながら、思い出を語る。
「このゴーグルをくれた人に憧れて、僕は空賊になって。今は沢山の仲間も、船もある。もっともっと大きくなる、もういないその人のぶんまで……」
「ふしぎは空や空賊の話題になると熱くなるからねー」
 そう笑うサフィラの横にはいつの間にか相棒たるからくり――メイド服姿のヤーウィが付き従っている。
「これは……からくり、でしょうか」
 尋ねられて、サフィラは自慢げに笑う。
「うん、そうだよー! ええとね、からくりっていうのはこう、ひとりでにがしょーんって」
 と言いかけるところに言葉をかぶせるように、
『要するに、生きている人形と思ってくだされば問題ありません』
 ヤーウィが冷静に対応する。そのでこぼこコンビぶりが逆にコミカルで、来風はつい笑った。
 少し離れたところではりょうがもふらを撫でている。蒼羅もいろいろ物色しているようだ。
「そういえば、来風様の夢は草双紙の作家と伺いましたが」
 果林が問うと、来風は小さく頷いた。
「わたしの故郷は決して裕福ではなかったけれど、小さい頃から祖母や母に沢山のお伽話を聞かされました。開拓者の話も、いろいろ聞いて……自分にその資質があるとわかったとき、それを物語にできたら素敵だろうって、そう思ったんです」
 それはとても大変なことであろうが、同時にとても魅力的にも思えた。
「なるほどね。どうしてなのかなって思ってたけど、そうだね、開拓者の冒険譚は確かに読本なんかにはうってつけだ。夢にむかって頑張ってほしいな、ボクもそう思う」
 絵梨乃が納得した顔で頷く。九寿重も、
「立派な夢だと思いますよ」
 そう言って応援してくれた。
(私は……私の夢……故郷を追われた身で、あてもなく彷徨っていたところを雇っていただいて……)
 果林がぼんやりと考え、そしてひとつ頷く。
「私の今の夢は……天河様や空賊団の皆様と一緒にいられる今の幸せをずっと続けることですね!」
(それでもいいんですよね、主様……?)
 今は亡き故郷の主人を思い出しながら、そう微笑む。ふしぎはその言葉に、
「大丈夫、僕がずっと、今よりももっと、果林を幸せにするから」
 そう言うが、真っ赤になってしまった果林や、サフィラや絵梨乃の生ぬるい視線などにようやく自分の言葉の意味に気づき、思わず顔を赤らめた。


「本当にありがとうございました」
 夕刻、ギルド前に戻ってくると、来風は深く礼をする。
「いや。こういうのは、矢張り先達がいてこそだからな」
 蒼羅の言葉に、りょうも頷いた。
「開拓者の生活は大変だが、実りも多い。よき生活を祈るよ」
 絵梨乃は最後くらいお姉さんらしく、と頭を撫でてやる。
 ――そんな一つ一つが、きっとまた貴重な経験になったに違いない。
 頷く来風の顔は、とても晴れやかだった。