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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ● 「どうしようもふ……」 来風(iz0284)が、青ざめた顔でつぶやいている。 いや、来風にしては微妙におかしい。 主に、口調が。 語尾に『もふ』がつくなんて、まるでもふらのようだ。ちなみに彼女の横では、淡いはちみつのような色合いのもふら・かすかがすやすやと眠っている。 「……何で、かすかがここで寝てるもふ……? てゆーか、これ、来風の身体もふ……!」 ――察しの良い人はお気づきになったであろう。 この来風、中身がかすかである。 「おきるもふー!」 来風(の中のかすか)が、もふらを揺り起こす。ふにゃ、と起きたもふらは――こちらも愕然とした。 『え……どうしてわたしが目の前にいるの……?』 ご想像通りというか。中身は来風であった。 「これは一大事もふ! とりあえずギルドに行くもふ!」 かすかは慌てて支度をする。そしてかすかになってしまった来風を連れてギルドにたどり着くと―― 同じように相棒と中身が入れ替わってしまった開拓者が続々と現れていた。 ● 『と、とりあえず、どうしようもないから』 かすか(の中の来風)は同じような境遇の開拓者たちに声をかけ、一緒に対策を練り始める。 「でも、まるで夢みたいもふ〜。かすか、人間になってみんなみたいに過ごしてみたかったんだもふ」 来風(の中のかすか)がほんわリとほほえんだ。 まあ、うん。そう思ってる相棒は少なからずいるだろう。 そしてこれがもし『夢みたい』なことならば―― 「それならいっそ、たまには主従逆転生活で楽しんでみようもふ!」 来風(の中のかすか)が、無邪気に笑った。 |
■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
荒屋敷(ia3801)
17歳・男・サ
此花 咲(ia9853)
16歳・女・志
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
黒曜 焔(ib9754)
30歳・男・武
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓
紫ノ眼 恋(ic0281)
20歳・女・サ
守氏之 大和(ic0296)
15歳・女・シ |
■リプレイ本文 その帳面の冒頭には、こんなことが書かれていた。 【 ……その日各地で発生した、『開拓者と相棒の肉体が入れ替わってしまう』という奇妙な事態。 わたし――来風(iz0284)も、その事態に遭遇したひとりとして、同様の状態に陥った方たちから聞いたその日の出来事を、ここに記しまとめてみたいと思う。】 ●〜文中より引用〜 (前略) ……例えば、こんな一例。 朝起きてみたら、横で寝ていたはずの人妖の朱雀と自分がが入れ替わってしまった、杉野 九寿重(ib3226)。 彼女たちは、のちにこう語ってくれた。 「朝起きてみたら、いつもよりも視線が低くて、しかも横で私自身が悶えていて、驚きました」 『そうそう。毛皮もふもふするのが大好きなアタシがその際優先対象のワンコと入れ替わってしまってたんで、ある意味至福過ぎたのだよねっ。出雲は逃げるワンコを追い回すんだけど、その必要もなくじっくり堪能できるんだからっ』 「そうそう。逆に鏡をみてみると、私と朱雀が入れ替わっているようで愕然としてしまいました……」 九寿重は思い出したらしく、ほろりと涙していた。 『鏡見て、もうそれは後ろから撫で回すように犬耳をさわさわして。思わずビクッとするのだけど、手のひらの感触はいつものアタシよりも手応えが確かで、本当に感動してしまったのだよねっ』 そこから、朱雀がいかにも嬉しそうに、【いかに九寿重の犬耳や尻尾を堪能したか】を身振り手振り付きで語りはじめた。ざっと小半時は語ってくれたであろうか。わたしも九寿重も相槌は打つものの、その情熱が半端無かったので、正直怖いくらいであった。 「……そんな様子を横目で見ていて、ため息しか出ませんでした。とは言っても、いつまでも落ち込み続けているわけにはいかないのでしたけど……そのうち私の気配に気付きましたしね。それで、こう言ったんですよ、朱雀……!」 『うん、『元ワンコっ、アタシが本当に主になったからには命令を聞くんだよっ!』って』 聞くだに恐ろしい命令の数々に、九寿重は逃げるしかなかった。しかし、ひたすら追いかけられてしまったらしい。 彼女にとって、それは災難な日であり、相棒にとって、それは最高の日であったといえるのだろう。…… (後略) ● ではその日を実際に振り返ってみると―― 『……いやまあ、俺が猫又になるのは問題ないんだよな』 猫又の身体で、そうぼやいているのが開拓者の荒屋敷(ia3801)だ。その横で楽しそうに鏡を何度も見つめ返している、小麦色の肌の青年――しかしその精神は猫又の博嗣。 「いやーおれさ、一度でいいから人間の身体って入ってみたかったんだよなっ」 楽しそうに自分の姿を何度も眺めては普段と全く異なる動きをするその四肢をもぞもぞと動かしている。 『気持ちはわからなくはないけどさ……俺もへんてこだとは思うけど、まあ楽しいし。ただ……』 そんな相棒を見ながら、荒屋敷はそこで言葉を区切る。 (……ただ博嗣が俺の身体に入られると、あいつ、何しでかすかわかんないんだよ! それは俺の身体なんだからな!) そう叫びたいのをぐっと堪える。それに気づいてか気づかずか、博嗣は少し首を傾げたが、すぐにけろっとした顔で、とんでもないことを言った。 「……しっかし人間が着るこの服ってのは、体の動きが悪くなってよくねえな。これでどうやって屋根に上ったりするんだよ?」 そうして、猫又の見ている前でもそもそと帯をとき、袴と単をすぱーんと脱ぎ捨ててあっという間に褌のみの姿となった。もちろん、目の前で見ている猫又――荒屋敷はフワッと毛を逆立てる。 『ちょ、な、何やってるんだてめー!』 「いや、邪魔だからさ」 博嗣は悪びれもせずにそう言うと、するするとした軽い身のこなしで屋根に上る。眼下に広がるのは、春らしい香りを含んだ風が吹き抜ける神楽の都。 「ふーん、人間の目線ってやつはこうなのか。これはこれで面白いな」 楽しそうに言葉を漏らす博嗣と裏腹に、 『変態と思われるのは俺なんだぞー! さっさとおりてこい!』 荒屋敷が語気を荒げて叫ぶと、博嗣は面倒くさそうな顔をしつつもこれまたふわりと地面に着地する。そして先ほど脱ぎ捨てた服の帯を手にとって、にいっこりと笑った。……気持ち悪いくらいの笑みで。そして猫又の身体をひょいっと抱きかかえると、 「んー、今日のご主人はかわいーなあ……でもちょっとお遊びが過ぎるんじゃないっすかね……?」 素早く猫又の手足を縛り上げる。動けなくなったところを抱きかかえたまま、博嗣は楽しそうに駆け出した。――着物を軽く羽織ったままの姿で、猫がやっと通れるくらいの隙間や側溝を無理やりかいくぐりながら。 『と、とりあえずギルドに行ってみるんだ! 何かわかることがあるかもしれない!』 「……へいへい、わかったっすよ」 荒屋敷が怒気をはらんだ声を出したことで、ようやく博嗣も頷いた。渋々、という感じだったけれど。 ● さて、こちらは―― 「……あれ?」 『……あれ?』 違和感を覚えた主人と相棒、起き抜けに揃って間の抜けた声を出したのは此花 咲(ia9853)と羽妖精のスフィーダ。キョロキョロと視線を彷徨わせ、そして現実に直面する。 「『あーーーー!?』」 お互いに驚くのも無理は無い。なんといっても、普段の自分が、目の前にいるのだから。 「こ、これは一体どういうことですの、私がマスターで、マスターが私だなんてっ」 『これは、間違い無く一大事なのですー!』 スフィーダも、咲も、完全に混乱している。 『まずはご飯を食べてギルドへ行ってみるのですっ、このままでは依頼も何もできないですからっ』 羽妖精の姿をした咲が、いかにも開拓者らしく提案をする。困ったときの開拓者ギルド、それは開拓者にとってはお約束とも言える言葉。咲の身体に入ったスフィーダも、その意見には賛成する。 「ああ、それは確かにそうですわね! まずはひと通り支度をして――」 そう言いかけて、スフィーダはふと咲の身体を眺め見た。ぺたぺたと撫で回し、そして夜着から着替えようとして、ポツリと呟く。 「……ちょっと、マスター?」 その言葉には驚きが含まれている。着慣れぬ相棒サイズの服――普段スフィーダが着ているようなジルベリア風のドレスはさすがに照れくさくて、人妖の着物を選んだのだけれど――を身につけながら、咲はその言葉に首を傾げた。 『ん……なんです?』 咲もなれぬ身体で着替えている真っ最中なのだが、スフィーダの発する声がどこか震えているのだ。気になって、尋ねると―― 「この胸、いくらなんでも小さすぎませんこと? ドレスを着ようとしたのに、ほら、スカスカですわ!」 どこからか引っ張り出してきたドレスを身体に当ててみたものの、胸元が寂しい――彼女はそう言っているのだ。それを聞いた咲は真っ赤になったり真っ青になったりして、そしてブワッと大粒の涙が溢れだした。 『よ、余計なお世話なのですー!?』 普段は体の大きさそのものが異なるからあまり感じなかったが、スフィーダはかなりスタイルが良い。そのことに戸惑いを隠せなかった咲は、スフィーダのその言葉が完全にとどめの一言になってしまったようで、涙をおさえるのにはなかなかに時間がかかってしまったのだった。 『こほん。……と、ともかく、食事も終わったし、ギルドへ行ってみましょう』 「そうですわね。もしかしたら、同じようなことになっている人が他にもいらっしゃるかもしれませんし」 二人はお互いの身体にまだ違和感を感じながら、ギルドへと向かうことにしたのだった。 ● ――こうやってそれぞれ、開拓者ギルドへとたどり着いた開拓者たち。 状況を説明すると幸か不幸か同様の事態になっている者が何組かいるということで、とりあえずはそういった者たちだけで集える、他人にあまり気づかれにくい場所――ちょっとした座敷を用意してもらった。 もちろんギルドの職員も最初は半信半疑だったが、ギルドが今までに扱った情報と、相棒――つまり中身が開拓者――の語る情報があまりにも合致していて、信じるほかなかったのだ。と言っても今すぐギルドがどうこうできることでもないので、ていよく隔離されたような感じである。 「来風、同じようなひとがいっぱいもふね?」 本来来風の相棒であるもふらのかすかは、来風の姿で無邪気に言う。 『確かにそうですね……』 来風(身体はもふらであるが)も頷いて、そしてむう、とうなった。 『私のところは相棒が先に目覚めたこともあって、財布を持ちだして……行きつけの茶屋で、甘いものを食べまくっているおまんじゅうちゃんがいて……おかげで財布がすっかり軽く……』 悲しそうにつぶやく、真っ白い小柄なもふら。来風とも面識のあるそのもふらの中身は、黒曜 焔(ib9754)である。その横で無邪気そうに笑っている焔の中身が、当のもふら・おまんじゅうだ。大好きな甘いものを、自分の手でおもいっきり食べることができたことが満足だったらしい。 「もふが相棒の姿になって、相棒がもふの姿になって〜……かすかちゃんたちもおんなじ、仲間もふね〜」 普段どこかおっとりした雰囲気の焔の口から、更におっとりした言葉を言われると、どう返事をしていいものやら悩んでしまう。 『ぶひーん!』 と、嘶きが聞こえる。それでも人語を解せる相棒と入れ替わることができたのはある意味幸運だったのではないか、と言っているらしい。 起き抜けに見た景色が馬小屋と藁、手が蹄――すなわち相棒の霊騎・夜空と化していた篠崎早矢(ic0072)は、どうやらそう言いたいらしい。 早矢の身体を使っている夜空がぽつぽつと言うには、 「僕も気がついたらこの姿になっていて、どうしたらよいかわからなかった。人間の食すものがよくわからないのでとりあえず藁を食べようかと思った時に、篠崎がこの状況を理解したのか、僕の身体でやってきてくれた……あの時はひどく助かった」 霊騎と人間ではほかの相棒よりもずいぶんと勝手が違う。騎乗する側とされる側ということもあって、いくら外見がよく鍛えた早矢の姿であっても、中身が夜空では馬術の心得がまるでないわけで、ここに来るまでもずいぶんと苦労したらしい。 いや、霊騎である夜空の身体で慌てて自分の家に向かおうとする早矢の姿も街の中ではずいぶんと奇異だったらしいが、そのあたりはよくしつけを受けた馬が何か目的を持って走っているという認識で通ってしまったらしい。この辺りは日頃の行いも良かったのがずいぶんと救いになっている。 『ぶひーん』 霊騎が頷く。似たような状況の開拓者や相棒が複数いた事にずいぶん安心感を覚えつつも、その相棒が自分の姿でおかしなことを起こさないように注意を払わねばな、と言いたいらしかった。 ● 「しかしたしかに、この姿は落ち着かない」 そう言ったのは、くるんとした尻尾と垂れ気味の耳を持つ愛らしい少女――守氏之 大和(ic0296)。しかしここにいることから察しが付くであろうが、当然中身は別である。 『そう言えばやまちゃんは……まさか……?』 やまちゃん、というのは大和のあだ名。大和と同じ拠点に所属する焔が恐る恐る声をかける。 本来の彼女は見た目に違わぬもっとのんびりとした雰囲気なのだが、今日はやけにクールなのだ。そして彼女の相棒となれば―― 「大和なら、あそこだ」 静かに指をさすのは空。 そこには、おぼつかない雰囲気で空を舞う駿龍がいた。……つまり現在の大和の身体を動かしているのは、駿龍の『ぽち』なのである。 流石に他の仲間達もこれには衝撃を隠せない。 『一応確認しますけど、あなたがあの駿龍なんですね?』 そう尋ねたのは羽妖精の咲だ。大和はその問いに、ため息混じりに重々しく頷く。 「早く戻りたいのはやまやまだが、大和があまりにも楽しそうなのでな」 『ああ、その気持ち! まったく、うちの博嗣もそういうふうにいて欲しいんだけどな』 荒屋敷(姿は猫又)がため息をつくと、 「なにか言ったか、ご主人?」 博嗣(姿は人間)がぐりぐりと猫又の頭を小突く。こちらはこちらで、苦労していそうだ。 一方その頃―― (でも、なんとか飛べたけど、なんでぽちみたいにうまく飛べないんだろ?) 空中で駿龍の翼を羽ばたかせながら、大和は思う。ギルドに来るまでの道は、背中に自分の身体になっているぽちを乗せてきたのだけど、当のぽちは振り落とされないようにかなり必死になってしがみついていたようだ。 それでもはじめは満足に翼を動かすことも出来なかったのだから、大きな進歩である。 空から見る景色はいつも見る都とずいぶん異なっていて。 (あ、なんだかあれ……) 駿龍は歯を何度か噛みあわせた。そして、目についた大きな木に――齧り付こうとする。 我が道を行くこの少女、噛み癖があるのだ。彼女にとっては挨拶程度の行為なのだが、それを駿龍の身体でやるのはさすがに危険である。 外にいたほかの開拓者がそれに気づいて、慌てて止められてしまったのだけれど。 ● やがて、ギルドの職員が原因調査中であることを伝えてきた。 『ふむ。とりあえず原因究明をしてくれるならば、そう慌てることでもないか』 落ち着いた様子で跳んだり素振りしたり、大物ぶりを見せるのはからくり・白銀丸の身体になっている紫ノ眼 恋(ic0281)。その横では片目に眼帯をした狼獣人の女性が慌てた声を出している。こちらが本来の恋の姿で、中身は白銀丸だ。 「ちょ、やめてくれよ! 万が一宝珠がずれたらどーすんだよ、おい聞いてるのか?」 しかし恋は全くそんなことを気にもしない様子で、用意してくれた座敷からすたすたと出て行こうとする。 「おい、どこ行くんだよ」 『いや、暇だし戦闘依頼が出てないか見てくるかと』 「俺の身体を再起不能にでもしたいのかお前。そこから絶対に動くな、いっそ寝てろ」 しかしたしかにこのまま時間を潰すのももったいない。 と、どこかでくううう、と可愛らしくお腹の鳴る音がした。 「……かすか、慌てててご飯食べてなかったもふ」 来風の姿でかすかが照れくさそうに言う。外を見れば、もう昼飯時だ。 『は、そう言えば今日の夕食はどうしよう……このままでは外食もできそうにないし、この手で炊事というのも無理な話だし……かと言って、おまんじゅうちゃんに炊事を任せてしまうのは……』 焔が寂しそうにつぶやく。たしかに夕食は由々しき問題の一つであった。特に、人間と同じように動けるならともかく、焔は今もふらの身体。その相棒はといえば、ギルドまでの二足歩行で疲れたと言って、思いきりもふららしく、ごろんごろんとだらしない格好をしている。ある意味正統派もふらの言動ではあるが、このままではどうしようもない。 『確かにいい時間だな……せっかくだし、昼食会でもするか? もちろん来風殿や、ほかの皆さんも。皆で食べるほうが、食事もうまいというものだ』 腹が減っては戦はできぬ。 恋(ただし姿はからくり)が提案すると、何人かが呼応するように頷いた。 このまま閉じこもっていても、たしかにどうしようもないのだ。 仲間たちはギルド職員に事の事情を説明して、ギルド近くの原っぱで昼食を摂るために、厨房の使用許可をもらうのだった。 『あ、私は折角なので、この姿で手合わせしてみたいのです。そちらの許可もいただきましょう』 羽妖精姿の咲も提案する。もともと模擬試合で毎日修練を怠らない咲とスフィーダ、万が一元に戻らないことがあっても困るので、体をならす必要があるだろう。 『それならなおのこと、ご飯も食べないとですね』 もふら姿の来風が笑った。 ● 「そうだ、魚か何かを料理するなら、そこらの川でとってきてやろうか?」 荒屋敷の姿をした猫又が、料理と聞いてウズウズと仲間たちに尋ねる。 『だーかーらー、人間姿のおめーが魚とろうとしてどうすんだ! もしそれで冷えたりしたら、最終的に風邪引くのは俺の身体なのわかってないだろ!』 荒屋敷が声を荒げるが、博嗣の方はどこ吹く風。楽しそうに着物を脱ぎ捨てると、近くの川へと飛び出した。 「仲が良いのだな」 大和の姿で駿龍のぽちが微笑む。 「何しろ、うちの主は……」 チラ、と外にいる駿龍を見やると――この姿では手伝えないしと外にいた焔(の姿のおまんじゅう)に齧りつこうとしていた。一大事のように見えるが、これ、普段の大和にとっては日常茶飯事なのが厄介なことでもある。 (ほむほむさんの尻尾を齧らせてもらおうと思ったら、こっちがおまんじゅうちゃんでおまんじゅうちゃんがほむほむさん? あれ? じゃあどっちを噛めばいいのでしょう……) 彼女の選択肢に【どちらも噛まない】は最初からないらしい。 その横で霊騎の姿の早矢は、もさもさと草を食んでいた。自分の身体でおかしなことを相棒がしでかさないか、注意を払いながら。 「食えるもんと食えないもん、あるなら教えてくれよ。ちゃんとその辺りは注意するからさ」 てきぱきと支度をする恋――の姿の白銀丸。割烹着にまとめ髪、更に三角巾までして、完璧な家政婦姿である。 (中身があたしの時より、女子力が、高い……!) 恋本人は震えざるを得ない。いや一応料理はできるのだけれど、白銀丸にはかなわない、という方が適切かもしれない。 (しかしそう言えば、白銀丸は普段は物を食べられぬのだよな……折角の機会だ、牡丹餅でも作ってやるか) 彼女が入れ替わったのが人と殆ど変わらぬ行動のできるからくりだったのはある意味幸運なのだろう。もそもそと支度を始めた。 やがて出来上がったのは、巻き寿司に野菜料理、あじの揚げ物。 他の仲間達の好みも考えて、博嗣がようよう捕まえてきた川魚はそのまま塩焼きに、またもふらたちの好きそうな芋料理なども添えて。 その横には少しばかりいびつな牡丹餅も並んでいる。他の料理は殆どが白銀丸の手作りだが、牡丹餅だけは恋が作った力作だ。 外に茣蓙を敷いて集まると、皆の手が一斉に伸びた。 「わあ、おいしそうもふ〜」 おまんじゅうとかすかが、嬉しそうに甘いものに手を伸ばす。どれもこれも確かにかなりの出来栄えで、はじめて人間の食物を口にした夜空やぽちも、ぎこちなくではあるが美味しそうに頬張っている。 相棒の姿をした開拓者たちも頬張っては笑顔を浮かべた。 風も心地よく、春爛漫の世界。 誰が人間で誰が相棒かなんて関係なく、楽しそうに食べる姿は共通の認識で。 「そう言えばさきほど模擬試合をしたのですが、結局マスターにはかないませんでしたわ」 一汗流したスフィーダが、そう言ってちょっとしょんぼりする。 『いつもと同じ感覚で体を動かしたり、私を真似てみようとしてもまだ隙だらけだったり……また食事が終わったら、特訓ですよ』 咲は笑う。……その笑顔が逆に怖くもあるが。 『でもみんな、なんだかんだで楽しそうで何よりです』 もふらの姿のまま、来風がくすりと笑う。 『ここで落ち込んでいても始まらないからね』 焔は経済的な理由では落ち込みたいが、それでも相棒が楽しそうな姿を見るのは悪くない、と思ったらしい。 『癒されるな……』 そんな焔に頼んで撫でさせてもらった恋は頷く。 『この体じゃあたしは食べられないけど、白銀丸が楽しそうだしな』 ひとの食べ物を口にすることのできた嬉しさを顔いっぱいに浮かべている狼獣人の姿を見て、苦労も吹っ飛んでしまったらしい。 やがて誰からともなくあくびが出る。 春の午睡は、なんと心地よいものだろう。 そう微睡みながら、誰もがぼんやりと考える。 ――それでもやはり次に起きたときは、元通りであるといいな、と。 とろりと訪れた春の睡魔は、やがて全員を飲み込んだのだった。 幸せな夢を、伴いながら。 |