|
■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ● 桜舞う、春。 それは出会いと別れの季節。 それは、この『学園』でも同じこと。 『学園』―― 小学校から大学までの一貫教育を行う、国内でも有名なマンモス校だ。生徒だけではなく、彼らの家族、そしてそこに住まう者達の衣食住を支えるものなど、多くの人間が出入りしているそこは既に都市として形成されていた。 しかし、春は何かと慌ただしい。 卒業をして去っていくものもあれば、新たに『学園』の一員として仲間に迎えられるものも数多いからだ。 ――そして今日も、また。 『学園』は、新たなる仲間を加える。 察しの良い人はわかるだろう。 そう、君たちの中にそれはいる。 多くの人がごった返して賑やかなオリエンテーションの雰囲気の中、さて、どう動こう? 在校生諸君も、新入生に何かを教えたりして先輩風を吹かせるチャンス! 教師ならば、あるいは今年こと生徒になめられないようになどと気持ちを新たにするのもいいかもしれない。 これを機に顧客を増やそうと奔走する学園都市のお店もあるかもしれない。 もう一度聞こう。 ――さあ、キミはどう動く? |
■参加者一覧 / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / 白漣(ia8295) / 以心 伝助(ia9077) / 杉野 九寿重(ib3226) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / フランヴェル・ギーベリ(ib5897) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 金剛寺 亞厳(ib9464) / 黒賀 リコ(ib9472) / 乾 炉火(ib9579) / 黒曜 焔(ib9754) / 音野寄 朔(ib9892) / 伊波 楓真(ic0010) / 伊波 蘇乃(ic0101) / 紫ノ眼 恋(ic0281) / レオニス・アーウィン(ic0362) / アミア・カルヴァ(ic0376) / 鶫 梓(ic0379) / 徒紫野 獅琅(ic0392) / システィナ・エルワーズ(ic0416) / ジャミール・ライル(ic0451) / 文殊四郎 幻朔(ic0455) |
■リプレイ本文 ● 春。 『学園』も新しい仲間を加える段取りが進み、一気に慌ただしくなる。 いや、『学園』は特殊な事情で年中編入を受け入れてはいるのだが、やはり新学期となるとどうしても人が増える――そういうことだ。 新年度の始まり、そして新しい環境に胸を高鳴らせる生徒たち。 そんな『学園』の一日を、追ってみようか―― ● 「うーん、春ねー。新入生たちもいるけど、新任教師や実習生も来るから人が増えるわ」 そう言いながら伸びをしているのは、体育教師の文殊四郎 幻朔(ic0455)。女性らしいまろやかな体つきで背伸びをするその側には、ちょっと緊張した面持ちの女子が二人、並んで立っていた。 教育実習生の、紫ノ眼 恋(ic0281)と鶫 梓(ic0379)である。 『学園』の大学部生だが、教職課程の一環として中高の授業を担当することになっていた。ちなみに恋は体育、梓は音楽の担当である。とはいえ、幻朔と梓は以前から面識のある二人。一方の恋は教育実習という新しい舞台に緊張していた。と同時に、幻朔をちらりと見て思う。 (しかし文殊四郎先生……でかいな) あえて何がとは言わないが、まあ女性ならではの劣等感が生まれる。幻朔の肢体は、思春期の少年や一定年齢以上の男性には少々目の毒なくらいだ。 (それに梓殿はしっかりもので、女子力も高いし……) 横で微笑んでいる梓は、クールかつ清楚な、どこか少しお嬢様めいたところのある女性だ。しかしその梓も、恋の耳や尾を見てもふりたいなどと考えているとは、当の恋には気づかれていない。 「そう言えば梓、あんたあの子とはうまくいってるの? 引かれてたりしない?」 あの子――どうやら梓の恋人のことらしい。梓は笑う。 「もちろんよ。それに直すほどのおかしな趣味は持ってないと思うんだけどね」 二人の会話はいかにも女子力高い、いわゆる女子トーク。 (ああああたしだって、立派な教師目指して頑張ればいつかきっと……!) いつかきっとどうなるのかはいまいち不明瞭だが、多分おそらく関係ない。が、恋はそんな二人を見て心のなかでそう思う。 「とりあえずは勝手知ったるとは思うけれど、ひと通り校内を案内するわね。これも、担当教官の勤めだし」 幻朔はふふっと笑って立ち上がり、体育科の準備室の扉を開けた。 ● 入学式もひと通り終わり、学園内の生徒たちは一気に活気づいていた。 いわゆるオリエンテーション期間は、様々な部活や同好会、サークルが、新入部員を求めて派手な宣伝活動を行ったりする、ところによっては学園祭よりも賑やかになる期間である。 もちろん、そういったことに興味なくしている生徒や教師もいるが、熱に浮かされたような独特の空気に学園中が包まれていた。 ――しかしそんな中、仏頂面で歩く青年が、一人。片手に教科書を持ち、背中には大きなうさぎのぬいぐるみを括りつけている彼の名はラグナ・グラウシード(ib8459)。 人は彼のことを、『ダブリのラグナさん』と呼ぶ。 いつ頃から学園にいるかわからないだとか、そもそも彼が何年生に所属しているのかが不明だとか、とにかくいろいろと現在進行形で伝説を樹立中なのである。リベラルな校風ゆえに制服の規定も緩いので、制服で学年を推し量るのも困難――というわけだ。 パッと見たところ、ラグナ青年は大学生ほどに見える。留年したのは自分の努力不足と、しょっちゅう図書館で勉強してはいるのだが…… と、そこへまだ目新しそうな制服を着た少女が現れた。来風(iz0284)である。キョロキョロと周囲を見回しながらラグナに近づくと、彼女は尋ねた。非モテの彼は、突如現れた少女にビクッとしてしまう。 「あ、在校生の方ですよね! 編入したばかりなのですが、どうも道に迷ってしまって……図書館へはどう行ったらいいでしょう?」 「ああ……、それなら私もこれから行くところだ。ついてくるといい」 そういう時期だとわかってはいるが、彼の頭は今年こそ留年しないということでいっぱいになっている。それでも人混みを避けて図書館にたどり着くと、来風は丁寧にお礼を述べた。一旦彼女と別れ、ラグナはいつもの席に座り、うさぎのぬいぐるみをちょこんとその上においてレジュメを読んだりもしてみるが…… 「ああ……幾ら考えても、問題の意味が分からない……どうしよう、うさみたん……このままじゃまた留年だお」 ショボンとうなだれてしまっていた。 来風と同じように入学したばかりで、学園の熱気に当てられそうになっているエルレーン(ib7455)。 「うう……知らない人たちがたくさんだよぅ」 周囲を珍しそうに見渡して、不安と期待に胸を高鳴らせながら、ちょっと不安そうにキャンパスを歩いている。身に着けている制服がまだ新しいことで新入生と見抜いたのだろう、様々なサークルが彼女に勧誘に来ていた。 (今年はとうとう部長です……更に頑張らないと。部員獲得の機会ですからね) そんな中の一人、剣道着姿の杉野 九寿重(ib3226)もまた、緊張しつつもエルレーンに声をかける。 「剣道などいかがですか? 道場で活動しているのですけれど……後ほど演武などを行いたいと思っているので、もし良ければ見に来てくださいね」 経験者へはツテのありそうな部員たちに勧誘を頼んである。初心者を呼びこむことが、部長としての最初の関門だろう。 しかし、エルレーンは部活よりもまず学校に馴染むことを考えていた。 「ねえねえ、勉強って……大変かなぁ? あるばいと、って、みんなやるの? あとあと、それから……」 優しそうな雰囲気の九寿重に思わずしがみつくようにして、エルレーンは矢継早に問いかけていく。 (こういう人に学園を教えるのも、先輩としての役目――ですね) 九寿重はそれならと、自らの部室で彼女の問いに答えてやることにした。 入部云々よりも困っている人を見捨てられない質なのだ。 ● ――さて、こちらは所変わって保健室。 とはいってもこのマンモス学園、保健室も一つで足りるわけがない。 そんな中の一つをほぼマイルーム状態にしているのが乾 炉火(ib9579)。学園内でも有名な……セクハラ保健医である。とは言っても腕は確かだしユーモアもあるので、なんとなく憎めない人物だった。 「センセー、ちょっと怪我しちゃったんで、診てくれますか?」 今日もそう言ってドアを開ける少年が一人。背は低いがバレー部で頑張っている、徒紫野 獅琅(ic0392)だ。ちなみに中学三年生だが、年上の彼女持ちである。 「オリエンテーションで怪我したのか? 落ち着きのないやつだなぁ」 「ちょっと調子に乗ってアタックしたら、着地に失敗しちゃって……って、先生、もっと下です、足首です」 たわいないやり取りをしつつも、炉火はきちんと包帯を巻いていく。しかしそこからゆっくりと指を上へとすべらせ……足首から膝裏、そして太腿を撫でるようにしていく。 「尻餅ついたならこっちも打撲してるかもなぁ?」 「あ、いや、そこはぶつけてませんって!」 そう言いながら獅琅の臀部を撫でる手がいちいち艶かしい。すわ、獅琅のに訪れる貞操の危機――!? と、その瞬間。 「何やってるんすかあんたはまたああああああ!」 そう言いながら青年がガラッと扉を開け、ついでにたまたまもっていた硬球を炉火の顔面にぶん投げた。体育教師の以心 伝助(ia9077)である。 実はとある事情で炉火と養子縁組をしているという、ちょっと複雑な事情の持ち主。本人は隠したいと思っているらしいが、在校生には概ねバレバレである。 今は広いキャンパスで迷子になった生徒がいないかどうかを案内を兼ねて巡回中だったのだが、たまたま通りかかった保健室での情事未遂に遭遇したため慌てて駆けつけたのである。 「生・徒・に・手・を・出・す・な、って何百回言えばわかるんすか、ったく。ほら、お前も早く戻ったほうがいいす」 伝助はそう促してまずは生徒を戻し、たのだが―― 「イテテ……なんだよ、嫉妬か? それじゃあ親子の触れあ……ってぇ!」 顔をおさえながらそんなことを冗談めかして言う炉火。それならと今度は伝助を押し倒そうとしたが、小柄な体育教師に逆に反撃をしっかり食らうはめになったのだった…… 獅琅がその隙に逃げ出したのは言うまでもない。 ● 「さて、今年も色んな子に、グライダーの楽しみを味わって欲しいんだぞ!」 屋上でそう言って鼻息を荒くしているのは天河 ふしぎ(ia1037)。女子と見まごう細身の体だが、しっかり男子生徒である。グライダー部の部長をしているのだが、何故か部員は女子ばかり……ふしぎ自身には理由がわからないらしいが。 「天河さん! きょうのためにたっくさんクッキーを作ってきました! 空からばらまいてくれますか?」 そんなふしぎのところに、こちらも女子力の高い可愛らしいところのある少年が、バスケットに山盛りなほどの手作りクッキーを持ってくる。同級生で調理部の部長をしている白漣(ia8295)だ。こちらも自慢のクッキーで新入部員を募ろうという作戦である。 ふしぎのグライダーテクニックはかなりのものなのだが、なにかとやんちゃ盛りの少年らしくときどき騒ぎを起こしていたりもする。まあ、ご愛嬌というやつだ。 「うん! 一緒に部員を集めようなっ」 というと、準備していたグライダーで――飛んだ! 「グライダー部、新入部員募集中だよ……! 君も一緒にこの空を駆ける楽しさを味わおう!」 そう言いながらチラシとクッキーをばらまき、そして更にアクロバット飛行。 「うわぁ、天河さん、やっぱりすごいなあっ」 白漣も楽しそうに歓声をあげた。しかし―― 「おい、何をしてるんだ!」 下から教師が見ていることに気づき、「あちゃー」と目を背ける。白漣の方も、テンパッてしまった。このパフォーマンス、当然ながら無許可なのであった。 さて、その下からグライダーパフォーマンスを見ていた教師――外国文学担当のレオニス・アーウィン(ic0362)は、新学期からの授業に使う教材や資料を準備室に運ぶその途中だったのだが、顧問をしている社会学部(ただし活動内容のせいか周囲からは『旅行研究会』略して『旅研』等と言われているが)の部長であるシスティナ・エルワーズ(ic0416)に呼び止められていた。 「レオニス先生、部員増やさないと予算がおりなくて次のりょ……研究に行けませんよ。勧誘してきますから、先生も何かいいアイデアあったら教えて下さい」 部費で旅行に行くというおいしい部活の割りにはあまり部員が多くない。それもひとえに、レオニスの突発野外演習癖のせいなのだけれども、当のレオニスはあまり気づいていない模様で、それはそれでシスティナの悩みのタネの一つでもある。 「む。それは良くないな……システィナ君はとりあえず、活動内容についてチラシを配るなりするといい。私はそうだな、入部した新入生の歓迎会を兼ねた小旅行を考えておく。私もこれを片付けたら手伝おう」 レオニスはそう言うと、また準備室へと歩き出す。 (史跡があって、少し歩けるようなところ……がいいだろうか) 既に山登りもそのプランに含まれているらしいが、それを言えば部員たちに反発されそうだな、などと苦笑する。と、近くを通りかかった、見慣れた顔に挨拶しようとして、――一瞬ぽかんと口を開けてしまった。 「あ、レオニス先生。いよいよ新学期ですね」 そこにいたのは人気マスコットキャラ『もふらさま』のきぐるみに身を包んだ現国教師、黒曜 焔(ib9754)だったのだ。なぜこんな格好をしているかというと、 「もふランド研究会顧問として勧誘活動をしないといけないから、この格好で。可愛いですよね、もふらさま」 焔は授業教材としてもふらさまグッズを使うなど、リベラルな学園の中でも面白いと評判だが、同時に微妙に残念な雰囲気の教師である。 「では、また」 焔は楽しそうな声とともに、屋外へと飛び出していった。 ● 「わあ……これが学び舎なのですね! うち、すごく憧れてたんです。……でもあれ、どうして憧れてたんだろ……」 そう言いながら、真新しい制服を着ている少女が一人。名を、黒賀 リコ(ib9472)という。何となく幼さの残る顔立ちに、おどおどとした不安をほんのりと浮かべている。見知った顔はいないかと周囲を見回していると、見覚えのある古き良きバンカラな雰囲気の青年を見つけた。いや、今時の言葉で言うとちょい悪、だろうか。 「あ、ゴン様! ……じゃなかった、ゴン先輩!」 近所に住んでいる強面の青年で、金剛寺 亞蔵(ib9464)だ。 「おお、リコ殿ではないか。いやあ、晴れ姿を見ることが出来て、拙者カンゲキでござるよ」 亞蔵が豪快に笑う。見た目からも想像がつくとおり、学園の(自称)番長なのだ。ざっくばらんな気さくな性格とそのガタイの良さから、なんとなくそういうことになっている。実際頼ってくれる生徒もいたりするので、あながち全くの嘘ではない。 そう、今のリコのような。 特にリコは亞蔵にとっては馴染みある後輩ということで、変な虫がつかないか心配だったりしている。 「今日は授業はないけれど、人は多いですね……」 「ああ。新学期のお祭りみたいなものでござるゆえ」 「なるほど」 亞蔵の後ろをちょこちょこついて回りながら、リコは亞蔵にいろいろ問いかけていく。 「うむ、ああやって呼び込みも多いのでござるよ」 亞蔵がそう頷いて指し示すのはもふらのきぐるみ――焔だ。 「学園へようこそもふ〜。私たちはもふランドを遊びつく……いや研究して、テーマパークのあれこれを考察する同好会もふ〜」 手作りの看板を持って、愛嬌を振りまいていく。なお、女子学生が目の前を通るときの声がイケボになっているのは仕様である。在校生もおおよそ中の人の見当がつくからだろう、楽しんで見つめている。 が、もふランドでの豪遊のために三食が安物の缶詰生活という三十路には、きぐるみの中で長時間の活動は限界だった。足がもつれてくる。 「み、水が……ほしいもふ……」 「……ゴン先輩、なんだかあのもふら、大変そうです」 目撃していたリコが、亞蔵にそう囁く。 「そろそろ昼休みでござるしな。飯でも食うとするでござる」 亞蔵はそう言って頷くと、焔にそっと近づいた。 「センセ、大丈夫でござるか……? 拙者たちと飯を食べぬでござるか?」 その言葉に、よろけていた焔が頷く。 「といっても、拙者のは購買の惣菜パンがほとんどでござるが」 「そういうのばかりでは栄養が偏るから、うち、お弁当作ってきました。お野菜も食べてくださいね、ゴン先輩」 リコは二人分の弁当を用意していたらしい。 「すまないね。お礼と言っては何だけれど、もふランド研究会に入部はどうかな?」 ペットボトルの水を飲み、分けてもらった惣菜パンをひとくち食べてから、しっかり営業活動をする焔であった。 「賑やかね……やはり新学期だから」 セーラー服をまとった大学生、音野寄 朔(ib9892)は微笑みながら頷く。生徒会役員であり、茶道部の部長でもある彼女は校内案内をかって出ていた。ついでにちょっと疲れた様子の子がいれば、茶室へと勧誘を兼ねて案内するという目論見である。 「なにせ、学園は広いから」 お抹茶と和菓子を提供しながら、話を聞くのも楽しいのだ。 「あ、あの、生徒会の人?」 呼び止められて、朔は振り向く。そこにいたのは茶色いショートカットの少女、エルレーン。九寿重の剣道部紹介も終わり、また校内をウロウロしていたのだが―― 「学食に行ってみたいの……でも、ばしょがわからなくて」 「そういうことね。案内してあげるわ」 朔は頷いて、学食へと案内する。学食と購買は建物が別で、特に購買はちょっとしたホームセンター並みの広さを誇るシロモノだ。しかも商品の種類も豊富で、無いものは無いなどと言われている。 そしてそこのヌシであるのは、このたび学園を卒業して正式に購買の店長として学園職員になったからす(ia6525)である。朔とエルレーンが近くを通った時に、ちょいと呼び止めた。 「おや、今年も迷子かい? 生徒会も大変だね」 からすはつい先日まで学園生徒だったし、購買店長として既に有名人であったので、いろいろと話題を提供してくれる。 「こちらは購買の店長でからすさん。頼りになる人よ。……そう言えば、また新しい茶菓子を頼みたいのだけど」 「ああ、後で来るといい。今は昼食時で、ゆっくり相談にのる暇はないからね」 からすの笑顔はあくまでもミステリアス。そして今年も、購買入り口には『新規バイト募集』の張り紙があった。自主性を重んじるこの学園、更にそこの購買ともなればほとんどの運営は学生の手に委ねられている。 「そこの新入生も、興味があったら考えてみるといいよ」 「あ、ありがとうなの!」 エルレーンもペコリと礼をした。 ● 「授業がないのは嬉しいですよね」 そうふんわりと口にするのは礼野 真夢紀(ia1144)。運動系の部活に所属しているが、身の回りに料理上手が多いこともあって、台所事情は万全。 (今年は故郷から進学する人もいるって話だし、こんな陽気ならお花見もいいかな……?) 案外食いしん坊の真夢紀、学園都市の中で花見をする気まんまんだ。もっとも、他の部活などでも似たような計画を立てているものは多いが。 場所取りなどの段取りを頼んで、料理を手分けして作っていく。 「あ、こっちこっち。ようこそ学園へ!」 真夢紀は昔なじみの顔が学園の制服姿で近づくのを見て手をブンブンと振った。 「すっごい大きな学校だよね! みんなで探検だよ!」 リィムナ・ピサレット(ib5201)もまた転入生。気さくで元気な性格ゆえに、友だちはあっという間にできている。そんな友達たちと、学園のあちこちを巡っていたのだが―― 「……あれ? ここどこ? みんなとはぐれちゃった……」 今、薔薇園の近くにいたのはリィムナ一人。ひとりきりでも怖くなんてないもん、と薔薇園の中に入っていく。そこで見たのは、丹精込めて育てられた色とりどりの薔薇。なんだか秘密の場所を見つけた気分になって、鼻歌交じりに散策する。と、足を滑らせて茨の中に突っ込みかけてしまう。 「キャッ……!」 リィムナが思わず声を上げると、 「危ないっ!」 それを聞きつけたらしい青年が、慌ててかばった。学園でもめったにお目にかかれない、白い男性用の学生服――しかしよく見れば、体つきは女性のそれである。 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)。薔薇城とも呼ばれるこの薔薇園によく出没することから、薔薇城の王子様などと呼ばれて女生徒からは絶大な人気を誇っている。しかし本人はといえば根っからの同性愛者で、子猫ちゃんと呼ぶ本気の恋人が複数いるらしい。ちなみにストライクゾーンは十歳前後、というわけでリィムナはまさに直球ど真ん中だったりするわけで。 「あ、あの、ありがとうございました」 その優雅な物腰などは、フランヴェルを王子様と思っても仕方ないくらいで。リィムナもほんのり頬をそめている。 「大丈夫かい、お嬢さん?」 「あ、でも、怪我をしてる……これ、よかったらどうぞ!」 フランヴェルの頬に掻き傷を見つけたリィムナは慌ててランドセルから絆創膏を取り出して差し出す。 「ありがとう。でもボクは平気さ。それよりも迷ったのなら、小等部まで案内するよ」 (可愛い子がまた一人……明日からいっそう楽しくなりそうだな) フランヴェルは受け取りながら、心のなかでそっと笑った。 ● 伊波 楓真(ic0010)と伊波 蘇乃(ic0101)の兄弟は、そんな喧騒から少し離れたところを並んで散歩していた。いい年齢になった兄と弟、それでもなんだかんだで仲はいい。 と、 「うーん、どうしたものか」 そんな唸り声を上げる青年が目についた。アミア・カルヴァ(ic0376)という名だが、伊波兄弟はまだその名を知らない。 「どうしたんだい?」 兄の蘇乃が問いかければ、弟の楓真も頷いて 「困っているみたいだけど、もしかして道に迷ったのかな。よかったら案内しますよ」 そう言いながらアミアに自己紹介をする。彼もまた、名前を名乗った。 「ありがとう。学園は広いから、すっかり迷ってしまって」 「あるある。僕たちもはじめはそうだったし」 「そうそう、遠慮なんかしなくていいですよー?」 蘇乃がにへらーと笑う。妙に緊張感のないその笑顔が、逆にずいぶん救いになっているようにも思えた。 ――が。 「ここ通るとかなり時間短縮できて便利なんですよー」 蘇乃が示したのは天井裏の道無き道。地図にないことを指摘しつつ、アミアが思わず困ったような表情を浮かべているのに楓真が気づくと、大丈夫、と言わんばかりににっこり笑ってサムズアップ。 「これぞまさにニンジャの通る道! これで君もニンジャマスターだ!」 「は、はあ……」 (ダメだこの兄弟……早く何とかしないと) 二人のテンションに押し切られていたが、それでも決して不快なわけではない。案内はたしかに正確だし、きちんと目的地である食堂に予想より早くたどり着くことが出来た。 「せっかくだし、みんなでお昼ごはんでも」 「そうだね、友達になれた記念に」 三人はそれぞれメニュウを選ぶ。 しかし気づけば熾烈なおかず争奪戦となり、アミアは白米と味噌汁だけが残った定食を口に含みながら、心のなかで母に報告をするのだった。 そう言えば、この学校にはまだまだ不思議な教師がいる。ジャミール・ライル(ic0451)もそんな一人だ。普段は養護教諭だが、ダンス部の副顧問もしている。申し訳程度に来た白衣姿で保健室で眠ったり、女の子の恋愛相談にのったりしているものの、こう見えて人気者である。 「新学期はいいよね〜……なんてーか、こう、ふれっしゅな感じで」 今もジャミールは部活の勧誘をしながら新入生を眺めている。いや、可愛い子を物色しているのかもしれないけれど。 (ガキには興味ないけど、新任教師で可愛い女の子とかいたらお近づきになりたいよねー) そう思っていると、実習生二人――恋と梓がふらりと歩いている。 「ねえねえ、いろいろこの学校のこと教えるけれど、今度食事でもどう?」 素性は分からないが生徒では無さそうだと踏んで、かるーく声をかける。もちろんそういうことに慣れていない恋は真っ赤になるし、梓は恋人もいるからと素気無く返すだけ。一言で言えば、ジャミールの作戦は失敗である。 「ああ、そうだ。友だちのサークルを見に行かない?」 梓が笑って提案した。 ● 「あ、朔!」 「あら梓、ごきげんよう」 幻朔も伴ってやってきたのは茶道部の部室。朔もちょっと一息ついているところだった。そしてそこにはほかにも―― 「あ、先生こんにちは」 「獅琅!」 梓の恋人でもある獅狼もここに。人目もはばからず、梓は恋人に抱きつきに行く。 「……梓、あんたももうちょっとその趣味なおした方がいいわよ? 獅琅くん引いているじゃない」 そう幻朔に指摘されても、スキンシップは止まらない。これには恋も朔も苦笑するしかなかった。 「それでも清楚って言われるんだから梓は得よね……私なんか歩く十八筋なんて言われてるのに」 そう言いながら、幻朔はどさくさ紛れに恋の尻尾をもふもふしようとする。 「……先っぽだけでいいから、ねッ?」 「って、先っぽって……まさか尾か、尾のことか! これは狼の誇りであって触るのはやめてっ」 しっかりいじられている恋。でも目の前に茶菓子が並べば、それで機嫌が治ってしまうあたり現金なものだ。 「それにしてもさっきは災難だったんですよ、保健室に行ったら」 「保健の先生が好みなの?」 炉火との顛末を話そうとする獅琅の言葉にかぶせるようにして尋ねる梓。決してそんなことはないのだが、響き自体はいいなと思うので否定しきれない。 「保健の先生になる勉強もした方がいいのかしら……」 神妙な顔で呟く梓に、恋は 「難しく考えないのが一番だ」 と抹茶をすすった。 ● ――気がつけばあっという間に時間は過ぎていく。 来風は呆然とした顔のまま、下校の放送を聞いていた。 手の中にはぎっしりと、サークル勧誘のパンフレット。 こんな世界も、いいものかもしれない。 ぼんやりそう思いながら、来風は桜散る風の中、一人佇んでいた。 風になびく髪が、ふわふわと世界の終わりを告げている。 夢は、きっともうすぐ覚めるから。 |