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■オープニング本文 ● 今日も今日とて開拓者ギルドは騒がしい。 火急を要する依頼を頼む商人らしき男性。 かと思えば、甘い匂いをほんのり漂わせて高名な男性開拓者などを待ち構える、いわゆる開拓者通のお嬢さんたち。 職員や一般の開拓者も慌ただしく動きまわり、そうやってギルドの一日は過ぎていく。 もちろん開拓者も、自分たちで依頼を持ち込むものや、依頼を確認に来るもの、さまざまいるのは当然のことであるが…… 最近神楽の都の開拓者ギルドには、よく神威人の少女が訪れていた。 どんな依頼があるか、どんな開拓者が存在するか、そういうものをよくよく注意して見つめ、そして帳面にさらさらと書きつけている。 職員たちはその様子を止めようとはしない。 彼女が目指しているものを、知っているからだ。 ――来風(iz0284)。 彼女の夢は草双紙の作者になることだ。 志体持ちでありながらその夢を追いかけるさまは微笑ましく映ることが多いらしく、ギルド職員も何かと面白い話題を提供していた。 ● そんなある日のことである。 来風が妙に嬉しそうな顔で、職員のひとりに話しかけた。 「もふらさまと、とうとうご縁ができたんです」 本人ももふもふした犬の尾を持つ来風だが、自分のそれともふらのそれはやはり別物らしい。 もふらを相棒としている人の姿を見たり、もふらが登場する絵物語を探したりしたことで、元々のもふもふ好きが爆発したのだろう、ちびちび貯めていたお金をもふらのお迎え資金としたらしい。懐のほうはすかんぴんのようだが、心から満足そうな笑顔を浮かべている。 「……でも、もふらさまとこんなにしょっちゅう身近にいることができると、やっぱりいろいろ気になることができてしまって。機嫌を損ねたりしないかなあって」 動物を飼ったことのあるものなら、何となく分かる考え方だ。 特にもふらは神の使いとされ、人語を解する。下手な言葉をうっかり口にしたりして傷つけたりしないか、そういうことが気になるのだという。 「そこで、なんですが……もふらさまなどの相棒と仲の良い開拓者さんに、話を聞きたいんです。もちろんもふらさまだけじゃなく、相棒との付き合い方一般ですね。場所は出来れば、相棒と一緒にいられるような、そんな所でじっくりと話を聞きたいのですが……こういうものも、依頼になるんでしょうか?」 来風は深い藍色の瞳をぱちくりさせながら、職員にそう尋ねた。 |
■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
和奏(ia8807)
17歳・男・志
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
ロゼオ・シンフォニー(ib4067)
17歳・男・魔
黒曜 焔(ib9754)
30歳・男・武
雲雀丘 瑠璃(ib9809)
18歳・女・武
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ● 天高くに鳥が飛んでいる。 天気のいい、早春の午後。神威人の少女・来風の誘いに応じた八人の男女とその相棒たちが、都近くの河川敷に集まっていた。相棒も、大きなものから小さなものまで、人それぞれだ。 (深く考えれば考える程ドツボにはまる問題なのに……) 来風が顔をほんのりと染めながら挨拶するさまを眺めやりつつ、色っぽいお姉さんこと葛切 カズラ(ia0725)は艶然と微笑む。 (真面目に考える可愛い子ねぇ。まあ、そういう子はきらいじゃないわ) 全員が円になるようにして座り、その傍らに相棒という形をとっている。身体の大きな、ロゼオ・シンフォニー(ib4067)の相棒の炎龍・ファイアスと、篠崎早矢(ic0072)の相棒である夜空(霊騎)たちはそれぞれの主人の後ろにいるよう控えているけれど。気のよさそうな夜空がふわりとあくびをすると、主にいかにも仲良しであることを強調するかのように擦り寄った。 「篠崎さんと、夜空さんは、仲良しなんですね」 以前にも面識のある来風が、膝の上に己のもふらであるかすかの顎を乗せて頭を軽くなで、微笑む。 「うむ。夜空とは戦友だからな」 彼女の抱く相棒という存在は、文字通りのものらしい。 「夜空は見た目こそあれだが、非常に優秀だ。自慢の相棒だよ」 そう言いながら、夜空を見る目はひどくやさしい。 「飼い犬や飼い猫は、責任のない無職であり、仕事を共にするわけでもないからギクシャクすることもない。可愛いだけでいい」 ふむふむ。 来風は早速いつもの帳面を取り出して、それをサラサラと書き留め始める。見慣れない人が見れば、来風自身がかなり変わりものであったであろうが、やはり以前に来風と面識があり、多少ではあるが彼女の性分を知っている琥龍 蒼羅(ib0214)や黒曜 焔(ib9754)はくすりと笑う程度であった。 そもそも開拓者という存在が、よくも悪くも個性の強い人間の集まりであるのは否めない事実であったし、来風がなりたいという草双紙作家の夢を応援しているからである。 草双紙――いわゆる読み物の一種だが、来風は特に子供向けの作品を書きたいと思っているらしい。今回もふらを迎えたきっかけの一つも、そんな子供向けの絵草紙というあたり、ある意味筋金入りといえる。 概ねのものは今回の依頼について微笑ましく応援したいと思っているようだったが、駆け出し開拓者の来風自身に興味が有るものもいるようで。 (けもみみ……) 神威人は耳に触られるのを不快に思うものが多い。その中でそれに対しあんなことやこんなことを考えていたのは村雨 紫狼(ia9073)。横でからくりのカリンは呆れたような笑顔を浮かべながら、得物の鎖分銅をしっかと握っている。紫狼もそれに気づいているからか、不埒な考えは口にだすことなく冷や汗をかいているようだが。 (しゃんとしていらっしゃればそれなりに見られる方ですのに) 若干ツンデレ気味のカリンである。 ● 「でも、これだけたくさんの相棒さんを一度に見るのは、さすがに初めてです、わたし」 来風は目を丸くした。 羽妖精、人妖、からくり、火龍、霊騎、迅鷹、そしてもふら。 逆に言うとそれだけの数だけ、相棒との付き合い方が存在していると言っても過言ではない。 どの相棒にも同じような付き合い方があるのかはわからない。例えば龍のような相棒に対する接し方とからくりのような相棒に対する接し方では全く異なるものがあるだろう。だが、様々な意見を聞くことによって付き合い方の基礎のようなものが見つかる可能性はあながち否定出来ない。 「来風、紹介しよう。俺の相棒で迅鷹の『瓢霖』だ。顔を合わせるのは初めてだったな」 蒼羅がかたわらの迅鷹をそっと撫でる。キンと冷えて澄んだ氷を思わせるその水色の体。二対の翼を器用に何度か羽ばたかせ、挨拶の代わりをしているようだった。 「綺麗ですね……」 和奏(ia8807)が、ほうっとつぶやくと、彼の肩にちょこんと乗っかっている人妖の光華がその言葉を聞きとがめてちょっぴり顔をしかめた。繊細な美少女風の外見の一方で勝気でワガママ、やや横着で大雑把な性格であるが、同時に寂しがり屋なあたりは実際の人間の少女とほとんど大差のない豊かな感情を持ち合わせている。 「でも確かに、他の方がどんなふうに相棒と接しているかというのは、来風さんのみならず、勉強になりそうです。参考になるようなお話も、聞けそうですし」 邪気のない笑顔を浮かべる和奏。 「そうもふね。かすかも、ご主人様が勉強熱心なのは、うれしいもふ」 寝そべった格好のまま、おっとりとかすかが言うと、周囲は笑いに包まれた。 「来風さん、しばらくぶりですね。それからかすかさんは初めまして」 やはり以前に面識あった雲雀丘 瑠璃(ib9809)が、にっこりと微笑む。その影に隠れるようにしているのは、人妖のそよかぜ。まるで瑠璃をそのまま小型化したような容姿の、可愛らしい人妖だ。 「えっと、よ、よろしくお願いしまぁす」 ちょっと引っ込み思案のようだが、まるで親子のようで、これはこれで可愛らしい。 「もふもよろしくなんだもふ〜」 焔の相棒であるもふらのおまんじゅうが、焔の膝の上でちょこんと座って頷く。もふらの中では小柄なおまんじゅう、特徴的なもふ毛の色もなく真っ白だったりするものだから、こうやって見ているだけだとまるで普通の犬か猫と大差無いようにも見えてしまうくらいだ。食べ物に例えてしまうと、まるでわたあめ。 かすかも平均的なもふらから見るとやや小柄なのだけれど、更に小さいのだ。 そんなおまんじゅうをほてほてと撫でながら、焔はがさごそと荷物を取り出した。どうやらみんなで食べるための弁当を、用意してくれているらしい。 「料理はもともと得意ではないのだけれど、食いしん坊な相棒のために料理の指南書を読んだり、最近は少し研究しているんだ」 焔はそう言いながら弁当箱の蓋をあける。確かに綺麗と言い難いものも多かったが、様々な具材が真心込めて作られていた。おまんじゅうはそんな『相棒』の作ったお弁当をまず一口してから、楽しそうに言った。 「みんなも一緒に食べるもふ?」 いかにも天真爛漫、気まぐれで甘えん坊なもふらというのがわかる。紫狼をずっと監視していたカリンも、これについては美味しそうだとつまんでみる。なんだかんだでマスターである紫狼に食べてもらいたいのだろう。 料理は見てくれではない。そこにどれだけの気持ちが込められているか、それが大事なのだ。 ロゼオも、ファイアスにそれを食べさせるのは難しいけれど、彼自身は美味しそうに食べていた。 ● 少しお腹も落ち着いて、話も和やかになっていく。 「僕は、兄さん……あ、ファイアスのことなんですけれど、やっぱり兄と呼ぶくらいなので、家族と同じように思っています。自分自身が獣人というのもありますしね」 無論ファイアスは火龍ということで人語を解することはないが、その佇まいなどはたしかに兄と呼ぶにふさわしいかもしれない。 「今日は連れてきていないですけれど、僕のところにも女の子のもふらさまはいるんですよ」 そう言って、来風に笑顔。その来風も、焔の作ったらしいちょっぴり焦げ目のついた卵焼きをかすかと仲良く分けっこしていた。 「そうか、ここにいる以外にも相棒がいらっしゃる人はいるんですよね」 来風はそう言えば、と頷く。 「そうだな。うちにも美人の土偶アーマーとからくりが――」 ここぞとばかりに紫狼が複数いる相棒自慢を始めたが、その美少女めいた容姿についてが殆どであったため、さすがの来風も唖然としている。 「まあ、時と場合に応じて相棒を使い分けることも大事ではあるな」 蒼羅がうむ、とうなずいた。 「もふらは会話ができるぶん難しく思うところもあるだろうが……そうだな、俺自身はもふらを相棒としていないが、その代わり、長い付き合いの駿龍や迅鷹などについてを中心に話させてもらうとするか。とはいえどんな相手でも確実に言えるのは、相手を理解するということだ。一方的な関係ではなく、相互の理解を深める」 蒼羅がそこまで言って茶をひとすすりすると、ロゼオも頷く。 「兄さんは……話すことができないから意思疎通が難しくて。戦闘に出るときとか、大事な場面を任せてしまっていたりするから、兄さんがどう思ってるかとか……時々不安になります。それでも、日常生活の面で気を遣えるようになっている……つもりです」 兄と慕うファイアスは火龍であり、そういう意味でも意思の疎通や相互の理解は必要不可欠のものだというのだった。 「私は……そうね、子どもの世話をするように接する、というのを心がけているかしら」 カズラは傍らにいる羽妖精のユーノを見つめながら、そんなふうに言った。 「飼い犬などとは違う扶養家族……そう思って下さるのがよろしいかと思います」 丁寧な口調のユーノはそう言って微笑んだ。 「そうね。人語を解するだけの知能があるなら、性格などを確かめつつ、すこしずつ足りない部分をしつけていくのがいいとおもうわ。難しく考えすぎず、余裕持って接することがいいと思う」 カズラの言葉も確かにもっともで、相棒たちだって千差万別の特徴を持っているはずだ。その中で長所を生かし、弱点を補強するというのは、子どものしつけにも似ているだろう。 「とはいえ、主従関係は忘れてはいけないのですけどね」 ユーノもカズラにその辺りのわきまえ方をしっかり学ばされたのだろう、にっこりと微笑んだ。紫狼に付き従っていたカリンが、もうひとつ付け加える。 「とはいえ、ただ従属するだけではありませんわ。わたくしのマスターのように至らないところがあるというなら、それを身をもって導くのも務めと思っております」 相変わらず鼻の下が伸びっぱなしの紫狼に、カリンは冷ややかな視線を送る。流石に世間知らずな来風も紫狼の視線の怪しさに気づいたのか、目を背けた。 「そ、それでは、和奏さんはどういうふうに相棒さんと接していますか?」 気を取り直し、来風はそれまで比較的物静かに聞いていた和奏と、その相棒の人妖・光華に話を振る。 「そうですね……光華姫は他の相棒さんたちに比べると随分と小さく、そして女の子ですからね。危険な場所へはなるべくお連れしないようにしています。どちらかと言うと人間の女の子と同じでお祭りやお買い物、それも食べ物ではなくて衣装や服飾品、お花などを見てらっしゃることが多いです」 つまり光華からしてみれば、都合の良い財布のような存在とも言える。 「そう言えば、なぜ和奏さんは光華さんを『姫』と呼んでらっしゃるのですか?」 瑠璃が何気なく尋ねると、和奏がちょっと苦笑した。 「姫、は小さな光華、という感じですね。癖のようなものです」 「なるほど。そよかぜもそういう意味では姫ですね」 瑠璃は自分の相棒に、ちょっと微笑みかける。そよかぜは慌てて、瑠璃の外套の影に隠れ、精一杯の照れ隠しだ。 「どんな呼び方でもいいかもだけど、ちょっと恥ずかしいな……で、でも、私は瑠璃と一緒にいると、楽しいよ? だから、かすかさんが楽しいと思えたら……しぜんに自分から一緒にいるように、なるかなあ、と……」 語尾の方はちょっとかすれがちだが、これは恥ずかしがり屋のそよかぜだけに仕方あるまい。でも、瑠璃はその言葉にこくりと頷いた。 「一緒にいて、一緒の時間を過ごすことが大事なんですよね、きっと」 外見が似ていることもあるだろうが、二人のやり取りはまるで姉妹のよう。見ていて微笑ましく、つい誰の顔からも笑みが零れ落ちる。 「相棒とは時にそういう家族のような存在であり、また時に戦友という、状況に応じて関係性が変わる存在だ。まだ迎えたばかりなのだろう、焦る必要はないはずだ」 蒼羅の言葉はじんわりじんわりと胸に染みこんで。 「そうですね。ありがとうございます」 そう、ほほえみかけた。 「らいか?」 かすかは来風の顔を見上げ、そして優しく尾を振る。 「だいじょうぶ? かすかがついてるもふよ?」 精霊だからだろうか、来風の小さな心の動きを汲み取ったらしいかすかが、心配そうに声をかけた。 「大丈夫。かすか、わたしのそばに来てくれてありがとうって、心の底から思えたの」 だからこそ出会えた人も多くいる。それがうれしいのだと、少女は笑う。 ――たしかに変な人もいるけれど。 今もいかにもな視線を感じて背筋が寒くなる来風であるが、きっとそれもかすかは察知してくれているのであろう。天真爛漫だけど、やさしいもふら。 かすかに出会えてよかった。 来風はもう一度そう思うと、かすかをぎゅっと抱きしめた。 ● 「でも、相棒というのは家畜とも、飼い犬などとも、全く違うな。ただ飼いならすなら可愛いだけでいい、家畜ならば様々な手段で利益を生じさせねばならない。しかして相棒とは戦場の友――いわば一蓮托生の関係だ」 早矢が言葉を発する。 「そういう関係だからこそ、例えば霊騎の腹帯を締めた後などにしぜんに褒めてやれる。そういうさりげない一言が普段の関係を表すといってもいいだろう」 ――なお、彼女は馬術に秀でた家に生まれたせいもあるのか、馬に対しての愛情はなみなみならぬものがある―― 「人馬一体などと言う言葉もある。やはりお互いの性格や癖などを知り尽くして補い合える関係、それが理想だろう。他の相棒にも似たことは言えるんじゃないだろうか? 幸せの青い鳥なんてものは別に遠くにいるわけではない。例えばうちの夜空は見てくれがいまいちという理由で売れ残っていたが、反面小回りも効き山登りが得意だ。主が信じること、それが一番だな」 近くで草を食んでいた夜空が、早矢の熱心な言葉に気づいたのだろう、近づいてきて擦り寄る。たしかに美しいと言いがたい体つきだが、その姿すらも愛おしく感じられるのは、やはり相棒をきちんと信じることができるからだ。 それを見ていたファイアスも、大きな身体をまげてロゼオに擦り寄ろうとする。自分たちの関係のほうが強い絆であると、そう示したいかのように。 「あ、でももふらさまは人の言葉がわかるし、話もできるから……とにかくたくさんおしゃべりをして、意思の疎通を図るのがいいかなと思います。来風様もそのへんは心得ていると思いますけれど、まずはもふらさまの話をきちんと聞いてあげる、それがいいんじゃないでしょうか」 僕のところのもふらさまもそんな感じで仲良くなりましたから、とロゼオは微笑む。 「そうだねえ。みんなの言葉を色々拾っていくような形になるけれど、戦場ではともに戦う戦友であり、日常では特別な絆で結ばれた家族――それが相棒だと思うよ」 焔が頷く。 「気まぐれで甘えん坊のもふらさまなおまんじゅうちゃんは、戦場には基本的に連れていけないけどね。でもそのかわり、無事に帰って相棒を安心させなきゃ、って気持ちにさせてくれるかな」 焔が言えば、おまんじゅうも 「もふをおいてお空に遊びに行ってたから、ずるいと思ってこっそり同じ飛空船であそんでたもふ」 ……あれ? それじゃああまり意味ないんじゃ……? 「おっきな子と幸せそうにしてたから、もふはいらない子なのかなって思ったもふ。でも、もふのためのおみやげ探してくれてたり、もふかいなくなったら悲しいってお耳と尻尾しょんぼりしたりしてたもふ……そういうふうに思ってくれるのが、とってもとっても、嬉しかったもふ!」 おまんじゅうはそう言って、自分の冒険を語ってくれた。そして、その影にあったふたりの信頼関係を。やはり、かけがえのない存在なのだ。おたがいにとって。 「お弁当はありましたけど、この辺りでもうひとつ仲良くなるための材料を……」 瑠璃がそう言って取り出したのは、山のようなぼたもち。聞けば家で待っている別の相棒が作ってくれたのだという。 「みんなで美味しいものを食べれば、仲良しですわ♪」 たしかにそのとおりだ。先ほどの焔の弁当にしろ、みんなで食事を摂ることが仲良しになるための一つの方法と言って過言ではない。 すでにそよかぜも両手でぼたもちを掴み、小さな口ではぐはぐと食べている。瑠璃も同じようにぼたもちにかぷりと噛み付いた。 おやつを食べながらのんびりとしている。なんだかすごく贅沢な時間を過ごしている気分で、皆が笑いあった。 「一緒に過ごすこと、いっしょに食事をすること、それが相棒と折り良く過ごすコツだろう。俺の場合はアヤカシ退治に行く時に同行してもらうが、そうすれば戦闘に関することは実戦で教えることができるからな。もちろん性格などの違いもあるだろうから全てが全て同じとはいかないだろうが……基本を知っていれば、役に立つ日もあるだろうしな」 「そうですね。もふらさまにかぎらず、すべての相棒で言えること……本当にためになります」 かすかと戯れつつも必要なことはちゃんと書き留めているようで、来風もこくこくとうなずきながら筆を動かしている。 「わたくしたちのような相棒も、自意識や考えを持っておりますから。来風さんも、かすかさんたちに自然に接してみるのはいかがかしら?」 カリンの言葉。ちなみにすでに主であるはずの紫狼は彼女の得物でダウンされている。それでも幸せそうな夢を見ているような笑顔なのが逆に恐ろしいが。 「いろんな相棒がいて、いろんな意見があって……すごくためになります。相棒と暮らす開拓者も、きっといろんな人がいるのでしょうね」 来風の意見はもっともで、それを聞いた開拓者も、あるいは相棒も、頷く。 「基本というのはあるかもしれないけれど、千差万別なのは確かですね……でも、なんだかこの話を聞いていたらそれだけでお話になりそう。文章をもっとまとめたら、いつか皆さんに見て貰いたいと思います」 ――開拓者の、相棒との暮らし方。 それは志体持ちにしかわからぬことも多いであろうし、あるいは普通の飼い犬や家畜にも通じるものもあるかもしれない。 でも、その響きはたしかに面白そうと感じさせるものが会った。 「私、その時は一番に読ませてください」 瑠璃が言うと、ロゼオや和奏も自分も読みたいという。更にはおまんじゅうやユーノまでもがそれを楽しみにしているようだった。 そう、本を読むというのは本当に素敵なことだから。 ――開拓者の、あるべき姿を描く。 作家になりたいという来風の漠然とした夢は、ほんの少しだけ形が見えてきたのかもしれない――。 |