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■オープニング本文 「うーん‥‥」 ひとりの少女が、狭い部屋の中を行ったり来たり。低く唸りながら、難しい顔をしてうろうろと。 少女は、街の片隅にある小さな団子屋の店主である。小さいなりに固定の客があり、彼女とその幼い妹が食べてやっていくには十分な収入があった。‥‥のだが。 「賊が女の子無視して草団子だけかっさらうとか‥‥意味分かんない」 たったいま少女がぼやいたように、中央へ売りに出すはずだった団子を見知らぬ二人の男に根こそぎ奪われてしまったのだ。おまけにその男たちは、草団子を作るのに必要な薬草がある森へと逃げて行ったため、いまから草を摘み直しに行くわけにもいかない。貧相な賊に薬草の知識があるとも思えないので、恐らく単に身を隠せる森へ逃げただけだろうが。ともかく、この面倒な事態をどうにかしなければ。これからの生活だってかかっているのだ。 「お姉ちゃん‥‥」 「大丈夫! ちょっとでかけてくるから、留守番しててね」 心配そうに見上げてくる幼い妹に気丈な笑顔を見せると、少女は街へと駈け出して行った。 ――ところ変わって、ギルドの受付。 「‥‥というわけで、お礼はあんまり出せないんですが、無事解決したら作ったお団子を差し入れします。もちろん、開拓者さんにも‥‥こんな依頼でも大丈夫ですか?」 「はい、お任せ下さい」 不安そうな少女に、受付の女性はにっこり微笑んで見せた。 「では、男たちの特徴など、わかることがあればお話し下さい」 「聞いてくれますか!? そうですよね! だって、ふんじばってしかるべきところに突き出してやらなきゃですもんね!」 待ってましたとばかりに少女は語り出し、文句八割の情報交換が始まった。 |
■参加者一覧
星鈴(ia0087)
18歳・女・志
奈々月纏(ia0456)
17歳・女・志
大河内 明菜(ia0821)
16歳・女・志
巳斗(ia0966)
14歳・男・志
フィー(ia1048)
15歳・女・巫
雷華 愛弓(ia1901)
20歳・女・巫
瀬崎 静乃(ia4468)
15歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●女だらけ?の作戦会議 街の片隅にある、小さな団子屋。事情により開店休業状態で閑散としていた店の前が、この日はやたら賑わっていた。というか、華やいでいる。 「ウチ、藤村ゆーねん。宜しくお願いするわ〜」 眼鏡をかけた温和そうな少女、藤村纏(ia0456)の言葉を皮切りに、わいわいと自己紹介がされていき、雑談のような流れで依頼内容へと移行していく。まるで茶会でも開いているかのようだが、こう見えてならず者を捕らえるための作戦会議の真っ最中である。 「男の娘なんですから、普段からこの恰好でオッケーですのに」 たとえ、店の奥で雷華 愛弓(ia1901)の手により店主を除いたほぼ全員が可愛らしく着飾られていたとしても。準備しているものが、人数分のおにぎりと水筒だったとしても。 「さ、依頼人さんにも話聞いたし、そろそろいこか」 星鈴(ia0087)が言うと、一同はそれぞれ店主の少女に声をかけ、店を後にした。向かうは町はずれの森。目指すは、お団子‥‥ではなく、ならず者の確保。 ●森の中で 「‥‥泉の花を鑑賞するのは楽しみだね、お姉様」 手にした地図を確かめながら、瀬崎 静乃(ia4468)が呟く。隣の纏はのんびりとそれに同意し、手荷物の水筒を揺らした。 作戦としては、三組に分かれて森を探索。目標である男たちと遭遇したら呼子笛で合図を送りつつ仲間のいるほうへ誘導。現れなかった場合は、集合地点まで行き、女性だけの散歩及び湖畔での昼食会を装って誘い出す。 別働隊も同じように散策を装いつつ周囲を警戒し、且つ森に荒らしまわった形跡がないか確かめていた。 ――そして、小一時間後。 「あ‥‥」 「ありゃ」 「そっちもなん‥‥?」 がさり、と、下草をかき分けて、図ったかのように三方向からそれぞれの組の先頭を歩いていた巳斗(ia0966)、星鈴、纏が顔を出した。 「作戦2‥‥?」 「‥‥ですね」 首を傾げて問うフィー(ia1048)に、どことなく項垂れた様子で巳斗が頷く。合流した面々は、日当たりのいい広場に敷布やおにぎりの包み、水筒などを広げていった。 「これで捕まるといいんですけど‥‥」 「なぁに、賊もいつまでも森に引きこもっているわけにはいかないでしょう」 心配そうに俯く大河内 明菜(ia0821)に、どう見ても年下としか思えないからす(ia6525)が妙に老成した口調で答えた。敷布の片隅にちょこんと正座をしてお茶を嗜む仕草と容姿がいまいち噛み合っていない。 「それにしても、ええとこやね」 「そうですね。色々忘れてのんびりしちゃいます」 星鈴がおにぎりを頬張りながら言い、巳斗はお茶を啜りながら同意する。他の面々も同様にそれぞれ雑談に興じていたが、開拓者の耳は此方を窺いながら近づいてくる二つの足音を聞き逃してはいなかった。 ●女だらけ?の捕縛大会 捕縛は、呆気なく終わった。呆気なさ過ぎて、依頼の趣旨は薬草摘みのお使いだっただろうかと思ってしまうほどだった。 「なんや、張り合いないなぁ」 男二人を縛り上げた縄の片端を掴みながら、星鈴が嘆息する。もっと手ごたえのある賊を想像していたのか、心底物足りなさそうだ。 元より空腹に耐えかねての突発的な追剥だったらしく、締め上げるまでもなく許しを請うて、ついでにおにぎりも請うてきた。わざわざ賊に喰らわせるために作ってきた香辛料たっぷりのおにぎりがあるのでそれを渡してやったのだが、勢いで完食した数秒後にのた打ち回った。さすがに哀れに思い、巳斗がお茶を差し出したのだが、残念ながら賊専用の香辛料入り激渋茶だった。 盗みを働いたこと自体は許されないことだが、運要素という意味であまりに不憫すぎる。 「消毒‥‥する‥‥?」 「ひぃぃっ!」 持参したヴォトカと包帯を手に、フィーが迫る。その様子は、手当をしたがっているというよりは、竦み上がる男の様子を楽しんでいるようにも見える。 「皆さーん、こっちは摘み終わりましたですよー」 「ボクも、完了です」 愛弓が元気よく薬草の束を握った手を振ると、少し離れた位置で巳斗も手を掲げて合図をした。 「私も、終わりました」 最後に明菜が立ち上がり、衣服の裾を払った。 「ほんなら、後はこいつらをしょっ引くだけやね」 星鈴が実にいい笑顔で縄を引く。最早抵抗する気力もないようで、賊はふらふらと立ちあがり、覚束ない足取りで後に続いた。 「‥‥‥‥お団子‥‥」 「もちろん、忘れちゃいませんとも」 捕らえられた賊の数歩前には、穏やかにのんびりと会話するフィーとからすが。 「よほどお腹が空いていたんですね‥‥」 「でも、女の子を困らせるのはだめなのです」 左わきには、僅かにとどめを刺してしまった申し訳なさを感じる巳斗と、賊に対して憤慨しつつもどこかご機嫌な愛弓が。因みに、愛弓は巳斗の手を引いて歩いているので、一見するとお姉さんと妹のような図になっている。 「そうやなぁ、強盗はあかんよなぁ」 「選択を誤りましたね」 背後には、縄を持った星鈴と淡々と正論を吐く明菜が。 「ええ景色やね‥‥もうこないなとこで悪さなんかしたらあかんよ?」 「そうだね。‥‥二度も同じことが出来る風には見えないけど、ね」 右隣には、やんわり諭す纏と、そんな纏に聞こえないよう尤もな毒を吐く静乃が。 本来ならば四囲を若い娘に囲まれている状態は実に喜ばしいことであるはずなのに、この切ない有様。静乃が言うように、彼らは二度とこの街で悪事を働くことはない‥‥いや、街で見かけることすらなくなるだろう。連行される道中、街の大通りで一生分の恥を晒し歩いたのだから。 ●お団子END 「皆さんっ、本っ当ーに、ありがとうございました!」 受け取った薬草の袋を胸に、依頼人の少女は何度も頭を下げた。 「いえいえ、困ったときはお互い様です」 にこにこと人好きのする笑顔で巳斗が答え、他の面々もそれに同意する。 「薬草まで摘んできていただいて‥‥あっ、お礼にお団子作りますね!皆さんはどうぞゆっくりしてて下さい」 「急がんでもええよ〜」 バタバタと奥へ駆けていく依頼人である少女の背中を、纏の声がのんびりと追いかけた。はたして追いついたかどうか定かではないが、奥から聞こえてくる作業の音の中に不穏な落下音が紛れていたのが気にかかる。 「‥‥大丈夫やろか」 「大丈夫でしょう。お言葉に甘えて寛がせてもらいましょ」 ゆったりと落ち着いた口調で言うと、からすは縁側に足を投げ出して腰かけ、出されたお茶を取った。天気も朝から変わらず良好で、薄っすら陰り出した陽の作る薄墨色の影が、少しずつ涼しくなりだした仲秋の風が、なんとも穏やかな風景を作り出している。 「出来たーっ」 少女が奥へ引っ込んでから一刻ばかりして、奥から姿を見ずともわかるほど嬉しそうな声が開拓者一同の元へ届けられた。 「皆さん、お待たせしました!おやつにはちょっと遅くなっちゃいましたけど、どうぞ召し上がってください」 「わぁ、おいしそうやね」 「いただきますっ」 ぱくり。と、一口。 「おいしい‥‥ね、お姉様」 「はわ‥‥ほんまやね」 隣の纏に話しかける静乃の表情は、一見すると森を探索していた時と変わりなく見えるが、どこか雰囲気が柔らかくなっているように見える。 そんな二人と少し離れた位置で団子を頬張るは、星鈴、巳斗、愛弓の三人組。終始ほわほわした笑顔でいる巳斗と、それを幸せそうに眺める愛弓。そして‥‥ 「‥‥っ、‥‥あ‥‥」 じっくり団子を堪能していた星鈴の動きが止まった。じわじわと赤く染まっていく顔は、決して夕陽のせいなどではないだろう。 「星鈴さんも可愛らしいですっ」 「っ!?」 緩みきった顔を見られて照れていたところへ、愛弓の容赦ないとどめが突き刺さった。 「それにしても皆さん、女性ばかりなのに賊を一網打尽にしちゃうなんて、すごいですね!開拓者さんってかっこいいんだなぁ‥‥」 団子のおかわりを笑顔で差し出しながら、少女が感嘆のため息をついた。約一名、一瞬体が硬直した者があったが、それに少女が気付くことはなかった。 (「‥‥いまさら男でした、なんて言っても仕方ないですよね‥‥はぁ‥‥」) 巳斗の苦悩は続く、かもしれない。 一方縁側では、フィーとからすが地につかない足を遊ばせながらお茶と団子を堪能していた。 「‥‥おいし‥‥」 「お茶のおかわりはいかがかな?」 「ん‥‥もらう‥‥」 夢中で団子を頬張るフィーに、頃合いを見計らってからすがお茶を差し出す。まるで姉妹のような、会話だけ聞いていれば親子のような、でも見た目だけならほぼ同年代という、なんとも不思議な光景である。 明菜は、全員が視界内に収まるようちょっと離れた位置に座り、他の面々を見るともなしに眺めていた。任務中からそうだったが、彼女は他者と積極的に関わることをしない。が、代わりに和を乱すこともしない。退屈しているのかといえばそうでもなく、皆でわいわいしている様子を近くも遠くもない位置で眺めることを楽しんでいるようだ。 (「‥‥参加して良かった」) 湯のみで隠した、僅かにほころんだ明菜の口元に気付いた者は、はたして。 |