|
■オープニング本文 ──大規模な作戦が始まって数週間。 開拓者ギルドに近い茶屋「萌き屋」は、いつもより暇である。 ギルド利用客を当て込んで早朝から深夜まで営業しているが、ぱったり‥‥とまではいかないが、それなりに落ち込んでいた。 「これは、困りましたね」 帳簿を見ていた長兄 青葉が、ぽつりと言う。 これからの季節は、暖房用の燃料代も掛かる。 冬に備えて蓄えを少しでも増やしたいところであるのに少しずつだが毎日赤字が出ている。 「品数を減らしますか‥それとも限定食を出して呼び込むか‥」 「売れ筋の定食と小鉢+αに絞って、暫くは酒の肴類は、菓子にも転用できる木の実類を多くするのもいいと思いますよ?」と次女 若葉がめがねを直し乍ら言う。 「木の実かぁ‥山に行けば仕入れずに済むよね? 栗とか茸とか乾燥させれば保存の効く食材もあるし、栗とか銀杏とか、季節のものはやっぱり出したよね?」 「もみじもくりごはん、すき。つくるよ♪」 末っ子の双葉に便乗するのは、外見ギャルの天然娘 長女の紅葉である。 「そうですね‥‥サツマイモとかもおいしい季節ですね」 昨年出したスイートポテトや甘露煮や甘納豆は、茶請けに評判が良かったのを思い出す青葉。 「冬の野菜も地方の農家にキープしておいて貰えばその分、安くなりますね」 隔して萌き屋の表に「仕入れの為に臨時休業」の紙が張られるのであった。 *** 「で、一体なんの用?」 扉の前に立つ巨大な背負い籠を担いだ双葉とリスの小さな耳飾と大きな付け尻尾に大きな風呂敷包みを持った紅葉、大八車を引く大きなもふらさまを見比べる開拓者。 「青葉と若葉は農家に野菜の交渉に行っちゃったし、俺と紅葉で出来る事っていったら芋堀りか栗拾いだけだし」 茸狩りは、素人には危険だからできないと言う。 「それに店で使う量って行ったら並みじゃないしな」 こうしてもふらさまにも来てもらっている位だと胸を張る双葉。 「もみじは、もふちゃんやみんなのおべんとうがかりなの♪」 おにぎりを一杯作ったと大きく豊かな胸を張る。 「そんなに高額は出せないけどさ。弁当と賃金は出すし、実はもうギルドの方には依頼の予約をいれているんだ」と言う双葉。 「つまり‥頭人数キープな訳だ」 双葉が顔なじみである自分に物を頼み込むのは、こんな時が多いので慣れっこである。 ──そう、ここまではいつもある双葉のお願いであった。 「いやーーーーーーっ!!!!」 絡まるアヤカシのツルが、足首から太股へ。短い着物の裾を割って中に入り込んでくる。 必死に身動き裾を押さえる紅葉の体にツルは絡みつき、その豊かな体を吊り上げる。 「畜生っ! 紅葉に何するんだ!」 「ふたばちゃん、ふたばちゃん! たすけて!」 必死にアヤカシに取り付く双葉の小さな体が、アヤカシのツルで弾き飛ばされる。 アヤカシに捕らえられた紅葉は、半狂乱である。 「やぁああああっ!」 頭から血を流したまま再びアヤカシに突っ込もうとする双葉を取り押さえる。 「馬鹿野郎、死ぬぞっ!」 「知るかっ!! 紅葉ーーーーーーっ!!!」 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
蓮見 椿(ia0512)
32歳・女・陰
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰
野乃原・那美(ia5377)
15歳・女・シ
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
太刀花(ia6079)
25歳・男・サ |
■リプレイ本文 「芋掘りのお手伝いとギルドからの紹介で来ましたが‥こんな時にまでアヤカシですか」 朝比奈 空(ia0086)が、紅葉を空高く吊り上げた蔓アヤカシを忌々しく見つめる。 「秋空に似合うのは、雲か赤とんぼ位です‥無粋な客にはお帰り願いたいものですね」 「まったくじゃのぉ」 双葉をがっしり羽交い絞めにしているバロン(ia6062)が頷く。 双葉は空から神風恩寵を受ける間も紅葉の身を案じてジタバタと大暴れをしていた。 「紅葉さんを思う気持ちは判りますが余りにも無謀ですし、酷な言い方ですが‥他の方々が救出に向かう際にも足手纏いになります」 きっぱりと空に言われてぐぅの音も出ない双葉。 下を向き、唇を噛む。 そんなやりとりがされる一方──、 「こんなところにまでアヤカシなんてね。にしても羨ましい‥じゃないか♪」 くねくねと動く蔓に思うところがあるらしく、思わず本音が出てしまった野乃原・那美(ia5377)。 紅葉を縛り上げた蔓は、大きい紅葉の胸が更に大きく見える形に絡まっている。 「楽しい芋掘りにいきなりアヤカシ登場のなんて『へびぃ』な展開と思っていましたが、これはなんともまぁ」 やっぱり若くて綺麗な子はいいですよね。と変な関心をする真珠朗(ia3553)。 紅葉の肉付きのよい太腿や綺麗な桃尻が惜しげもなく目の前に晒されている。 「‥‥‥‥‥‥‥(ごくり)‥‥」 思わずつばを飲んでしまったのは、太刀花(ia6079)。 体を這いずる蔓から逃れようと身悶えをする度に大きく開いた胸元からポロリと乳が零れ落ちそうである。 「おにーさんはどきどきですよ」 へらへらと笑いながら楽しそうにしている真珠朗。 「見るな、ばかぁあっ!」 「‥‥‥‥‥はっ!」 姉の別な意味の危機を察知し、バロンの腕の中でジタバタと暴れる双葉の声に我に返る。 「ア、アヤカシめっ! 純真無垢な紅葉さんになんて事を‥待っててください紅葉さん、すぐに助けます!」 そう言う太刀花だが、紅葉の胸元から目が離せない。 「‥‥(ボソ)‥‥クサれ‥‥ヤ‥シ‥‥私のオモチャを‥」 ずっと黙ったままであった蓮見 椿(ia0512)が、ボソリと言う。 一同が振り返ると、暗雲立ち込めるオドロ蛇とゴゴゴゴ‥という書き文字が似合う黒オーラを背負った椿がいた。 「私のオモチャに、何をしてくれてるのかしら?」 顔を上げた椿の顔には大きな「怒り」マークが浮かんでいる。 「芋と泥だらけの紅葉ちゃんと双葉君を弄った後、萌き屋で美味しいご飯で楽しくすごそうと思っていたのに‥‥‥このクサれ蔓が‥‥」 黒いオーラが一掃暗さを増す。 「『私』が泣かせるから楽しいのよ! 勝手に泣かせるんじゃない!!」 紅葉が泣かされ、双葉が傷を負わされた為に女王様スイッチが入ってしまったようである。 やっぱり自分で助ける。と暴れる双葉。 「いい女のために命をかけれるのがいい男って話ですが。まあ、それだけではダメって話で‥双葉君、聞いています?」と真珠朗。 「放せ! お前らになんか任せて置けるか!!」とバロンの腕の中で益々暴れる双葉。 「馬鹿者! 姉を助けたくてもおぬしは『開拓者にあらず』。邪魔じゃ、下がっておれ!」と一喝するバロン。 親程歳の離れた者に怒鳴られた事がない双葉がびっくりして暴れるのをやめた。 実際、自分でも無理を言っているのは十分に判っているのだ。 だが、それでも助けに行きたいと思うのが家族の情である。 見る間に凹んでいく双葉。 どうやら普段のツンツンぶりは、大人に混じって生活する双葉なりの生活の知恵(虚勢)らしい。 (「こんな時に最終兵器炸裂なんて‥‥ずるいわ‥」) そういう「趣味」がない者でもクラリと来てしまうという噂の双葉の(大粒の涙を浮かべた)へにょり顔の直撃を受けた椿が、必死に気持ちを立て直して言う。 「兎に角、紅葉ちゃんがキズモノにされちゃう前に、助けないと」 「紅葉さんは私達が助けます、ですから信じて待っていて頂けますか?」 「皆の言う通りじゃ。ここはわし等を信じろ」 バロンとて双葉と同様にアヤカシに対して激しい怒りを感じていたが、さりとて冷静にならねば年上の自分が怒りを露わにすれば双葉が動揺すると堪えて言う。 「双葉の役目は戦うことではなく、傷ついた紅葉を慰めてやることじゃろう?」 双葉が怪我をしたら紅葉が悲しむだろう。と諭す。 最早「常連客」というよりも「臨時雇用従業員」のように萌き屋の兄弟達と親しく付き合う三笠 三四郎(ia0163)が、くしゃくしゃと双葉の頭を撫でる。 「私達の力を信じなさい。必ず助けます」 「‥‥判った。皆を信じる‥」 下を向いたまま頷く双葉を見て、バロンが静かに地面へと降ろした。 「さて、それじゃあちゃっちゃと助けてアヤカシも倒しちゃおうか♪」 「そうと決まれば、あたしは接近戦しかできませんから囮要員に回ることにしましょうかね」 両の拳を打ち鳴らし、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)が元気に言う。 「とんだ『芋掘り』になりましたね」 「最早『芋掘り』というよりも『草刈り』ですが、ここで退治しておかなければ畑の所有者や近隣の方も迷惑でしょう」 「きっちり刈って差し上げるべきですね」 「植物系かー。斬り心地はやっぱり植物と同じなのかな♪」 「どうなんでしょうかね?」 「芋掘りだからって棍を置いてきたのは、ちょっと失敗でしかねぇ」 まぁ、今回は両手がフリーって事でOKという事にしましょう。と真珠朗が言う。 ● 紗耶香が疾風脚、那美が早駆で左右からアヤカシに一気に迫っていく。 鞭のように唸る蔓をさっと避ける紗耶香。 それに対し那美は紅葉と丁度反対側の位置でアヤカシに向かって飛び上がった。 「あん♪ 捕まっちゃった♪」 わざとアヤカシの捕まった那美。 腕に絡み付こうする蔓を胡蝶刀とダガーで斬りながら、胴に巻きついた蔓で体が持ち上げられるままにする。 ヘソの方から下へと。脇から胸元へと入っていく蔓。 太股から上と這い上がる蔓が那美の体を弄っていく。 体の敏感な場所を掠め、擦れていく蔓の刺激を楽しんでいく那美が短く艶声を上げる。 「ん♪ あっ♪ あん♪ ──うふ‥意外と変態さんなアヤカシだー♪」 目のやり場に困る男達に比べて、女達の動きは早かった。 空は、双葉を後ろから羽交い絞めにしながらも器用に目を覆い、 椿は、呪縛符でアヤカシを動きを封じる。 「うん、意外と上手いかも‥‥でも、お痛はそれ位にしないとね♪」 感じたことがない激しい刺激で、すでにぐったりと気を失っている紅葉を見て潮時だと判断する那美。 アヤカシを間近で観察しながら蔓を楽しむ抜け目なさはシノビならではなのかもしれない。 「さて、堪能したし真面目に行こうかな♪ 動きを鈍らせるよ!」 己を縛る蔓を切り裂き地上へと降りると同時にアヤカシの前に大きな水柱が立つ。 水遁である。 「もう流石に捕まるつもりはないのさ♪ サービスの時間は終わりなんだからね!」 そういってペロリと唇を舐める那美。 「体当たりよ!」 式(巨大イソギンチャク)に乗った椿が鋭く命じる。 体当たりを食らったアヤカシの紅葉を縛る蔓が一瞬、緩む。 「今だ、蔓を切るぞ! 一度で切れねば、同じ場所を続けて狙え!」 年の功より亀の甲。酸いも甘いも体験済みのバロンが鷲の目を使い、紅葉を拘束する細い蔓へと矢を放つ。 紗耶香と真珠朗がアヤカシの体を駆け上がり、矢を目印に一撃を食らわせるが、紅葉を縛る蔓は中々外れない。 「ちっ、ならばもう一撃!」 拳を振り上げる紗耶香と真珠朗を狙って蔓が迫る。 「そっちだけじゃない! こっちにもいるぞ!」 グレートソードの太刀花と阿見の三四郎がアヤカシの体を支える軸を狙う。 反撃を食らわせるアヤカシの蔓が錐のようにとがり二人を襲う。 「下がって!」 空が声をかけると同時に浄炎を発動させる。 「精霊よ‥清なる炎で以って、招かざる者を焼き尽くせ‥!」 「いい加減、紅葉ちゃんをお放しっ!」 炎に焼かれ苦しむアヤカシに椿が斬撃符を食らわせると流石の蔓も断ち切れる。 落ちていく紅葉の体に気がつき思わず手を伸ばす三四郎。 太刀花の、紗耶香の指先を、掠めて落ちていく。 「──!!!」 「ナイスキャッチですね♪」 真珠朗が両腕で紅葉の体を抱きとめにんまりとする。 抱きとめられた衝撃で気がついた紅葉が薄目を開ける。 「白馬は、ちょいと今日は用意していないんで、これで勘弁してくださいよって話で」 紅葉をお姫様抱っこで抱え、バロンと空、双葉の待つ方へと走っていく。 その背に向かって容赦なくアヤカシの蔓が延びていく。 三四郎と太刀花がその背を守るが、紅葉を抱えてでは、そうスピードが上がらない。 「ここで抱き心地のよい女の子とおさらばするのは勿体無いですが、仕方がない。太刀花さん、パス!」 「パ、パス?」 脚を取られた真珠朗が掛け声とともに紅葉を放り投げる。 慌ててキャッチしようとする太刀花から紅葉を掠め取っていったのは、椿のイソギンギャクである。 ずっぽりとイソギンチャクの触手の中に落ちる紅葉。 「あんな蔓よりも、私の式の方が可愛いでしょ?」 ヌメヌメとした粘液に濡れた触手が縛り上げられ赤く腫れた傷に触れる。 「あっ、あっ‥‥ああ、やっ! ‥はっ‥‥はふっ‥っ‥く‥ふっ‥」 過敏なった皮膚に触れられ、思わず艶声を上げる。 「蓮見さん。それ、力が抜けます」 うっかり見入りそうだ。と太刀花が言い、 「あ、それ気持ちよさそう♪」 木葉隠を使い、アヤカシを阻んだ那美がすばやく寄って来て言う。 「ごめんなさい、今日は紅葉ちゃん専用よ♪」 にんまりと笑う椿。 「蓮見さん‥私としては、憤死しそうな双葉が心配ですよ」 援護射撃をするバロンとそれを守る空に代わって抑える重石代わりのふらさまに踏まれながらギャアギャアと文句を言っている双葉を心配する三四郎。 「んー‥泣いている双葉君より怒っている方が双葉君らしくていいと思うけど?」 しれっと言う椿に「たしかに」と苦笑する三四郎。 「大丈夫か?!」 バロンの言葉に粘液でヌメヌメになった紅葉をペッと空の前で吐き出すイソギンチャク。 服が一部破れてあられもない姿になった紅葉に卒倒しそうな双葉。 「紅葉ちゃんと双葉君を、安全な所へ」 頷く空。 「紅葉さん、お怪我の方は大丈夫ですか?」 空が放心状態の紅葉を抱きかかえて畑の端っこにある作業小屋へ向かう後をもふらさまに双葉が引きずられていくのを見届ける一同。 「これでもう怒りを抑える必要はないな‥‥覚悟するが良い!」 猛る怒りを、強射を込め、弓を強く引き絞るバロンの一撃がアヤカシを突く。 「特別に2度目の骨法起承拳をお見舞いして差し上げますよ。今日はそれなりに役得もありましたからねぇ」 転ばしてくれたお礼を兼ねて、サービスです。と刺さった矢ごと、拳を叩き込む真珠朗。 「ありったけの符の力で刻んであげるわ」と椿が再び斬撃符を振るう。 「さっさと倒してお芋掘りの続きだよ♪」 思いつく限りの芋料理の名前を並べながら紗耶香が蹴りを食らわせる。 「俺も負けていられませんね」 このままでは単なる「むっつり」と双葉にマークされて店に出入り禁止になる困ると、グレートソードを振るう太刀花。 三四郎が一太刀をを浴びせ、ようやくアヤカシはその動きを止めた──。 ● 「私よりも先にあんな事‥‥絶対に許さない」 消滅していくアヤカシの破片を、まだ気の収まらない椿が、小声でブツブツ呪いの言葉を言いながら、ブーツでグリグリと踏んでいる。 そんな中、ヌメヌメになった空が、同じようにヌメヌメの紅葉と双葉、もふらさまを連れて戻ってきた。 どうやら気を取り戻した紅葉に抱きつかれたようである。 「みんな、ありがとーなの。もみじ、ちょベリベリはっぴーのサンキューなの♪」 「うむ、怪我も対した事なかったようじゃな。よかったのぉ」 目の前にいるバロンに抱きつく紅葉。 紅葉を撫でるバロンの顔が、愛用の黒い外套にべっとりヌメヌメがついたのに気がつき、一瞬引きつる。 その顔が楽しかったのか、子供のように次々に抱きつきヌメヌメ被害者を増やしていく紅葉。 「おそろい♪」 「わー! やめ!!」 「楽しそうね。‥‥そういえば、芋掘りに来たのよね」 この後、芋堀りをするの? と、アヤカシが瘴気に返ったのを見届け、戻ってきた椿が言う。 「芋は掘って帰らなきゃ今日何の為にここまできたのか判らないよ」という双葉。 「俺は気力と体力がまだ残っているからなんとかなるが‥‥」 三四郎が、一同の顔を見回す。 「先にお風呂に入りたいところですが、これから泥で汚れる事を考えればこのままでも致し方ないでしょうねぇ」 「それで報酬を貰う事になっているんだしね」 斯くして当初目的の芋掘り続行となり、一同の見守る中、もふらさまが畝を前足で起用に掘り返していくと、土の間から芋特有の赤い皮が見えた。 それを皆で引きずり出し、持ってきた籠へと次々に放り込んでいく。 那美といえば、最初のうちは芋掘りを手伝い、芋の蔓を切っていたが、アヤカシの斬り心地と対して変わらないと飽きてしまって「ミミズが出た」と騒ぐ他の女達の姿を眺めていた。 「んふふふ、可愛い子を見ていたほうが楽しいかも♪」 「はいはーい。ここいらで一休憩入れましょう。お昼ですよー♪」 お湯が沸かされ、昼食の準備がされる。 収穫したての芋を使って紗耶香が、揚げたての芋の天麩羅と芋ご飯を皆に配っていく。 「他に食べたいものがあれば言ってくださいね。勿論、シンプルな焼き芋も作れますよ〜☆」 材料さえ揃えてくれれば何でも作れる。と言う紗耶香。 「すごいですね」 「一応、料理人ですから☆」とにっこり笑う。 さっきお鍋をご近所に借りに行った時、分けて貰った栗でデザートに栗きんとんも作ったと言う。 おにぎりを配りに来た紅葉に声をかける太刀花。 「リス、駄目になっちゃいましたね」 紅葉の手足に残る赤い痣を見る。 空の術が効いたのもあるが、紅葉が軽症で済んだのは、リスのコスプレがクッションにもなっていた部分も大きい。 「また、もみじつくるからへいきだよ。みんな、もみじのコス、かわいいっていってくれるから、がんばるの♪」 ぐっと拳を握る紅葉。 「そうだ‥‥これ、お店で渡せませんでしたから。よかったら貰ってください」 左手を挙げた招きもふらさま型の根付を渡す太刀花。 「もみじに? うれしいの♪」 余程、嬉しかったのであろう。 すうっ、と紅葉の顔が寄ってきた──。 ちゅっ♪ 「だいじにするね♪」 太刀花の頬にキスをすると貰った根付を握り締め、双葉に走って報告に行く紅葉。 思わず両手でガッツポーズをする太刀花が、午後も作業を続けられたかは、ギルドの報告書に一切記載されていない──。 |