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■オープニング本文 「‥べらんめぇ畜生(ヒック)。毛深いのがどこがいけねぇってんだよ!!」 その夜、定吉は大層酔っていた。 馴染みの飲み屋の親父が、定吉の深酒が過ぎると叩き出してから2刻。 あっちこっちでベロンベロンになるまで飲み続けていた。 「てやんでぇ馬鹿野郎、女はおめぇ一人じゃねぇって言うの‥‥‥‥お花ちゃ〜〜〜んっ(ぐすっん)、ちくしょー毛深い俺は駄目だってのかよ」 定吉は先日以前から思いを寄せていたお花に思い切って告白をした。 結構、仲も良かったし、周りからもお花は定吉に好意を寄せているという後押しを受けて、告白をし、お花からOKを貰ったのだった。 以来、ラブラブカッvルとしてお花の両親公認も貰い、いよいよ本日目出度くデートの帰り、船宿で同衾と相成ったが、ここで問題が発生した。 「いや、キモいっ!」 着物を脱いでふんどし姿になった定吉を、お花は思いっきり拒否をした。 定吉は、かなり毛深い男だった──。 髭や髪は、やや濃いが並みレベルであったが、体毛がかなり濃かった。 嫌いな人から見れば猿や熊並みといってもいい程のもじゃり感である。 朝髭を剃っても夕刻には生える。 髭剃り後も青剃りであったし、夕刻ジョリジョリであっても、それが男らしいといってくれたのに。 脛から腿、腹、胸までぎっちり繋がり犇く毛を見たお花は「人類外」と叫び、飛び出していった。ラブラブと思っていた恋人の一言は、定吉のハートをざっくり、ばっくり傷つけた。 「ちくしょ〜〜〜ぅ、毛がなければいいのかよ(うぇっぷ)」 剃った所で何の解決にならないのは定吉とて百も承知である。 「大体、気持ち悪いだと。畜生め、男も女も皆、ツルツルになっちまえばいいんだよ!」 そんな定吉をクスクスと笑う女の声がした。 『お前の望みかなえてやろうか?』 「どこの誰でぇ?!(ヒック)」 定吉の前にちょこんとイタチのような獣が座っていた。 人通りが少ない夜半とはいえ、街中である。 ここで可笑しいと思うのが普通であるが、定吉は大層酔っていた。 『ツルツルになりたいんだろう?』 耳元で声がした。 びっくりして振り返ると闇を固めたような黒髪に青白い肌。 口の紅だけが別の生き物のように蠢く女がいた。 定吉がゴクリと唾を飲む。 『女を見返してやりたいんだろ?』 「おうよ! 全身ツルツルの剥きたてゆで卵みたいにしてくれ!」 『‥‥後悔するなよ?』 「男に二言はねぇ!」 定吉の言葉に獣の体が大きく膨らんだ。 「ぎゃあああああああっ!」 悲鳴に驚き出てきた近所の住民が見たものは── 闇夜にゲラゲラと笑う女の声を残し、全身の毛という毛を剃り落とされ、真っ裸で道に転がる定吉の姿だった。 *** 「──というのが2週間前にありまして」と開拓者を前に話す受付係。 以来、謎の女の連れたかまいたちが毎日のように現れ、全身の毛をそり落とされた男女が発見されるのだという。 「まあ‥依頼主からも女の方は中・上級アヤカシの可能性が高いが、そこまで高額の契約金を支払えないということで、実行犯(?)である『かまいたち』を退治して欲しいとのことです」 人の言葉を理解する中・上級アヤカシを退治するともなれば金が掛かる為、余程の恨みか金のあるヤツではなければほいほい頼めない代物である。 「ところで今の所、死人や怪我人は、出ていないんだよな?」 そうだ、という受付係。 「被害者を検分した警邏と医者の話によれば着物を切り裂いて、頭髪、眉毛から指毛、尻の毛まで剃られているようですが‥」 つまり、このかまいたちに負けるとかなり恥ずかしい姿を人様に晒す事になるという。 「どうします? 受けますか?」 そう受付は尋ねた。 |
■参加者一覧
湖村・三休(ia2052)
26歳・男・巫
琴月・志乃(ia3253)
29歳・男・サ
ルーティア(ia8760)
16歳・女・陰
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
モハメド・アルハムディ(ib1210)
18歳・男・吟 |
■リプレイ本文 「男女問わず服もバッサリ。それはまあ‥‥」 メモを取っていたエルディン・バウアー(ib0066)の顔が一瞬緩む。 エルディンらは依頼を受ける事を決めた直後、事情聴取の為に事件現場と被害者宅を訪問した。 ついたての向うにいる被害者は、18歳の少女である。 奉公先から帰る途中、途中までは他の奉公人と一緒だったが、慣れた道と途中一人になった所を襲われていた。 「髪の長い綺麗な女の人に声を掛けられた途端に‥‥」 「‥‥バッサリですか。それは大変でしたね」 ギルドで教えてもらった事と対して差がない。 「どこにいても迷惑だが特に街に出るのは厄介だ。きちっと掃除しとこか‥‥」とオラース・カノーヴァ(ib0141)。 「カマイタチを葬って夜の街に平和を齎したいですね」とジークリンデ(ib0258)が頷く。 被害者達に共通している事は人気が途絶えた時、1人でいる所に突然女が現れる。 その女に話しかけられた直後、カマイタチが襲っていた。 どうやら女が被害者を選び、カマイタチが襲っているようである。 その他、被害者に共通しているのは、失恋や恨み、何かしら不満がある者が選ばれている。 「逆恨みが発端とはいえ哀しいことですね」 やれやれと首を振るジークリンデ。 「しかしまあ、何でわざわざ毛とか剃ってくんねやろな?」と琴月・志乃(ia3253)。 「恨みの念が篭っているから剃るのかねぇ?」 髪は頭に直接生えているからと言われればその通りであるが、他の体毛は悪戯目的か、本当の目的を隠すためか? 「目的とかどうでもいいよ。アヤカシは纏めて倒すだけ」とルーティア(ia8760)。 「人間の生活圏内で活動してるアヤカシはそれなりに奸智が働く」 何か目的があるかもしれないが、 「しかぁし、俺がここに来たのが運の尽き」 尻尾を掴んでやる。とオラースがにやりと笑う。 「髪は女性の命とも申します。アヤカシの遊戯でつるつるにして良いものでは御座いませんので早々にご退場頂いたほうがよろしいですね」とジークリンデも頷く。 出現時刻は、全員ほぼ同じ。 地図で見てもきっちり一直線に移動している。 慌てふためく被害者達が気が付くと切られた服を残して女アヤカシとカマイタチが消えている。 「逃走経路は不明か‥‥空に消えたか、闇に消えたか、ふむ」 ちょっと厄介だな。と対して厄介と思っていない口調で言うオラース。 「カマイタチ程度の小物相手だったら、必殺のカグラダンスを使うまでもねぇな。しかし、綺麗な女アヤカシか‥‥むふっ」と湖村・三休(ia2052)が何かを期待するように怪しげな含み笑いをする。 出現予想地点に囮を立て、確実にアヤカシをおびき寄せることにした開拓者達。 ありがたい事に道筋には防犯用の常夜灯があるようである。 「荷物(松明)が減るってのは楽だな」 片手に松明を持てば、両手武器は、武器に持ち帰るのに時間が掛かる。 「しかし、ある程度は剃られる事を確定で動いたほうがよさそうな気がします」と宿奈 芳純(ia9695)が仲間を見回して言う。 だが、部分で済む場合と、丸坊主にされるのとでは、どっちが悲惨なんでしょうかね‥‥と深刻な顔をする。 「髭なら剃られても比較的簡単に生えるしな‥‥」とオーラスが髭を撫でる。 カッパ禿ならそのまま開き直って髷を結う事もできるだろうが中途半端に切られれば揃うまで時間が掛かるだろう。 「俺は正直、服やら毛やら剃られた所でどうやっちゅうこたないねんけど、なんとなく女性陣がなぁ‥‥」 ん〜。と顎を摘む志乃。 「戦士たるもの、常に不測の事態には備えないといけない。備えあれば‥‥うれしいな?」 誰も囮をしないなら着替えも用意したから囮をやっても良いとルーティア。 「それに剃ろうにも自分、そもそも生えていません」 ルーティアの大胆発言に一瞬、固まる男性陣。 「ま‥‥女の子は除外ということで」 うんうん、と一同が頷く。 「俺も囮に向かないな」と三休がつるりと頭を一撫でする。 どこもかしこもピッカピカで剃られるとしたら尻毛くらいだと笑う。 「ビンナスバ・イラルサダカ、喜捨の為でしたら、神様も髭を失うことを責めはしないでしょう」 祖国の風習と宗教上の理由から髭を蓄えている異国人のモハメド・アルハムディ(ib1210)。 着ている服装も天儀とは大きく違い、かなり目立つ為に囮を買って出る。 「うむむ‥‥カマイタチに剃らせるのは、ちょっと勿体ねぇな」と三休。 「毛を剃るのが好きなんですか?」 皆の視線が三休に集まる。 「ふ‥‥毛剃りの時間ってのは、人に残された数少ない至福の瞬間だ。じょりじょりと少しずつ毛を落としていく、あの感触、あのさっぱり感。 その喜びを黙ってアヤカシにくれてやる程、俺はお人好しじゃねぇ」 むふぅ。と三休の鼻が広がる。 こんな所にカマイタチのライバルがいたか? と更に皆の視線が三休に集中するが──。 「『自分の毛は自分で剃る』そんな当たり前の自由を守るために戦うぜ。サンキュッ!」 どうやら他人様の頭髪までは剃らないようであると知り安堵する。 もう一人の囮役に、やはり喜捨の為だとエルディンが立候補するが、 「偉大な先人たちも立派にカッパでしたので、きっとカッパになっても神はお許しになるでしょう」と言いながら、やっぱりカッパ禿は嫌なようである。 *** 人気も少ない丑三つ時、土蔵の脇を2人の酔っ払いがひょうたんを片手に歩いていく。 「だっからですねぇ〜、その辺がジルベリアの限界なんですよぉ〜。きぃてますかーーーーーっ!」 エルディンが、モハメドの耳元で叫ぶ。 「ナァム、勿論ですよ。嫌なことはパァっと忘れて‥‥ビッサハー! カンパーイ!」 「かんぱーい! 帝国のバカヤロー、教会弾圧はんたーい!」 「インシャッラー、きっといい方向にいきますよ」 あっちフラフラ、こっちフラフラと川に転落しそうな位、ご機嫌な足取りである。 それをジッと物陰から見つめる者達がいた。 「今のところアヤカシらしい影は見当たりませんね」 人魂で作り上げた鳥の眼から周囲を監視している芳純が言う。 ──仲間の開拓者たちである。 「しかし、お二人とも迫真の演技ですね‥‥」 「上等、上等。あの位の迫真の演技が丁度いいぜッ。あれで引っ掛からなければノーサンキューってな」 実際、たまたま通りかかった女の子が係わりたくないとそそくさと早足で通り過ぎていく。 その後姿を目で追う2人。 「昨今、ジルベリア人は珍しくなくなったと思ったのに‥‥‥‥‥‥」 怖がらせましたかね? とエルディン。 「メシュ・ファーフェム‥‥、判りません‥」 珍しいという点ではモハメドの国の方が珍しいだろうと言った。 「それにしても天儀の女の子ってかわいくね?」 「ハサナン、そうですね」 そんな酔っ払いトークをしているエルディンとモハメドの前の常夜灯が一瞬揺らぎ、闇が一層黒さを増したように感じた。 (『‥‥いよいよ、お出ましのようです』) 芳純の『声』に隠れている開拓者たちに緊張が走る。 *** 『‥‥お前たち、遊んでいかないかい?』 長い黒い髪の女が立っていた──。 (「ゾァハルーコム‥‥、現れましたね‥‥」) エルディンとモハメドが、目配せをする。 側に件のカマイタチがいないかと眼を凝らした途端、 ──パラリ。 エルディンの髪とモハメドの髭が落ち、大きな鎌を光らせたカマイタチが立っていた。 クスクスと笑う女アヤカシが、カマイタチが剃り落とした毛を摘み上げる。 『ふーん? 染めているのかと思ったが‥‥噂に聞くシルベリア人かい? まるで猫の毛のようで‥‥奇妙だねぇ』 「ふわふわの金髪が奇妙ってどういうことですか!?」 『‥‥が、考えようによっては珍しいモノが作れるかも知れないねぇ‥‥生皮を剥いでもって帰るのも一興か?』 女アヤカシが、フゥとエルディンの毛を吹き飛ばす。 「アィンディー・アスイラ・アァンク、あなたにはお訊きしたい事があります。リマーザー、なぜ人の毛を剃ろうとするのですか」 『聞いてどうする? お前たちは何も出来ないよ』 「アナー・アファヒム、わかりました。話していただけないというのならこちらが調べるだけです‥‥」 「ヤッラー(かかれ)!」 バラバラと物陰から飛び出し、女アヤカシとカマイタチを取り囲む開拓者達。 『開拓者か‥‥思ったより早かったねぇ』 「どんなに恐ろしい顔をしているのかと思ったが、こいつはアヤカシにしておくのが勿体無い別嬪だな」 妖艶な美女の姿をした女アヤカシを見た三休が思わず口笛を吹く。 「オッケーオッケー! これでバトルにも一層気合が入るってもんだぜッ!」 『とんだ生臭坊主だねぇ‥‥お前を食ったらお腹を壊しそうだよ』とクスクスと笑う女アヤカシ。 「そいつは困った。俺達の依頼はカマイタチ退治だ。あんたの分が入っていない。報酬が出ない仕事はノーサンキューだぜッ」 依頼外は断る、と志乃も言う。 三休や志乃の言葉に女アヤカシが楽しげに眼を細める。 『面白い奴らだねぇ‥‥まあ、いいさ。お前(カマイタチ)、遊んでおやり』 *** 「これからダンスタイムだ。熱く激しく舞い踊るぜッ!」 「男のみならず、婦女子までもを切り裂く不届きモノ。神に代わってオシオキです!」 三休とエルディンの叫びが重なる。 ホーリーアローを放つジークリンデの胸元をカマイタチの鎌が掠める。 紙一重で交わしたつもりがワンピースの留め金がカマイタチの鎌ではじけ飛ぶ。 ポロリとジークリンデの豊かな胸があらわになった。 「キャーっ!!」 慌てて胸を隠すジークリンデ。 「服はいいけど、髪はやめろーっ!」と叫びながら発気を放つルーティア。 大事に伸ばしている髪を切られてなるものかと、更に隼人を発動し、十文字槍を激しく突き出す。 「瘴気に戻れイタチ野郎!」 オラースのエルファイヤーが激しい炎柱を作り出し、芳純の式がカマイタチに襲い掛かる。 「‥‥」 「‥‥‥‥」 「‥‥‥‥‥‥‥‥うふふ‥‥よくも‥‥」 フルフルと打ち震えていたジークリンデがゆらりと立ち上がる。 「許しませんっ!!」 矢継ぎ早にエルファイヤーを放つジークリンデ。 激しい火柱があちらこちらに立ち上る。 慌てふためくカマイタチ。 くるりと男性陣を振り返り、 「みていませんよね?」と氷の美貌に恐ろしいまでの闇微笑を浮かべるジークリンデ。 ゾクっ──うんといえば命に係わると慌てて頷く一同。 カマイタチが素早い動きに袂や毛を剃られながらも徐々にカマイタチを追い詰めていく開拓者たち。 『何時まで遊んでいるんだい?』 女アヤカシがつまらなそうに欠伸をした。 「ソァリーヤ・ジッダン! 速い!!」 女アヤカシの言葉にカマイタチのスピードが急に上がる。 ──と、同時に志乃の腕が切られた。 慌てて飛びのく志乃。 「いよいよ、本性発揮っちゅう訳や」 スカッ── 「ギッ?」 予想外の三休のムーンウォーク(月歩)にカマイタチの鎌が空を切る。 「食らえ、ディストーション・オブ・パッワー(力の歪み)!」 くるりと身をかわし、逃げるカマイタチ。 「ちっ! ちょろまかと」 モハメドが短刀を振るうが、カマイタチに避けられる。 「ザハブーホム! 行きましたよ!」 モハメドをかわしたカマイタチがエルディンに迫る。 エルディンのフローズがカマイタチの体に纏いつき、動きを鈍らせた。 「今です!」 開拓者たちが一気に畳み掛ける。 「逃がさないよっ!」 ルーティアが払い抜けでカマイタチに迫る。 「今度は外さねぇぜッ! ディストーション・オブ・パッワー!」 「祝福を受けし聖なる矢よ、我が力となりて敵を射よ!」 三休の力の歪みとエルディンのホーリーアローがヒットする。 ヨレヨレのカマイタチに戻れと言う女アヤカシ。 「逃がせへんよ」 退路を防ぐ志乃の地奔に乗った一撃がカマイタチを貫いた。 闇に返っていくカマイタチ── 「アルハムド・リッラー、よかった、無事に終わったようです」 そういって短刀を懐に納めるモハメド。 「あ! 女アヤカシがいない!」 逃がした。と地団駄を踏むルーティア。 「逃がしたのは残念ですが、依頼のカマイタチは退治できましたし、それで『良し』としましょう」 女アヤカシとのバトルも想定し、余力を残していた芳純がルーティアを慰める。 「怪我した奴はいるかぁ? ヒーリングを決めてダンスはフィニッシュぜ」 三休が怪我人達に神風恩寵を施していく。 *** カマイタチを退治した一行は、女アヤカシの手がかりがないかと周辺を手分けして調査する。 「ヤー・イラーヒー、残念です‥‥。何か見つかるかと思いましたが‥」 女アヤカシは、カマイタチが倒れるのを見届けずに立ち去っていたようで何も気配が残っていなかった。 三休の施しで全員怪我は対した事がなかったが、髪や髭を切られてボロボロである。 「しかし、あっちもこっちも切られましたが、今度散髪に行ってきますかねーー」 登る朝日を見ながらエルディンが言う。 「ラーキン、しかし‥‥散髪もいいですが、その前に服を買いに行ったほうがいいですよ」 「服?」 エルディンはさっきの戦闘で背中をバッサリ切られ、白い尻がプリリンと半ケツ状態である。 「‥‥どおりで背中がスースーすると思いました」 真っ赤になるエルディンであった。 |