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■オープニング本文 「できた〜♪」 みてみて。と弟の双葉に出来上がったばかりのお手製弁当を見せる紅葉。 「げっ! 菓子ばっかじゃん」 どこが弁当なんだ。と双葉は長姉に食って掛かる。 「弁当って言うのは、こうだっ!」 出来上がったばかりの弁当を見せる双葉。 いびつなおにぎりが並び、詰められた魚の切り身は焼きムラがあり、煮物はびちょびちょ‥‥ちょっと物体Xっぽい。 「二人とも間違っています。美しいお弁当というのは、こうです!」 眼鏡を直しながら次女の若葉が弁当を見せる。 「あ、ずるい。店の残りもんじゃん!」 「経済的と言ってください」 ムダは敵だと若葉が切り返す。 妹弟達のやり取りに長兄の青葉がクスリと笑う。 「皆、お弁当は出来ましたか?」 「「「は〜い!」」」 「では、よろしい。さあ、皆さんが桜の下で待っていますよ。さっさと持って行きましょう」 今日は兄弟4人で切り盛りする飯茶屋「萌き屋」とお店に来るお客様達の親睦会である。 両手に抱えきれない荷物は、ご近所に住み着いたもふらさまに酒瓶と楽器を担いでもらって皆で花見に出発である。 「いいお天気ですね」 きっと楽しいお花見になるだろう。と青葉は言った。 |
■参加者一覧 / 井伊 貴政(ia0213) / 橘 琉璃(ia0472) / 蓮見 椿(ia0512) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 巴 渓(ia1334) / ルオウ(ia2445) / 倉城 紬(ia5229) / 御凪 祥(ia5285) / 設楽 万理(ia5443) / 雲母(ia6295) / からす(ia6525) / 神咲 六花(ia8361) / 和奏(ia8807) / リエット・ネーヴ(ia8814) / 木下 由花(ia9509) / ベルトロイド・ロッズ(ia9729) / 琥龍 蒼羅(ib0214) |
■リプレイ本文 礼野 真夢紀(ia1144)は、いつものように遠く離れた郷里の家族への文を書く為に筆を取る。 ──前略 姉様、ちぃ姉様、お花見に行ってきました。 ──まゆの時々通っている萌き屋さんの親睦会です。 ──今日は親睦会についてお手紙いたします。 さくさくと草を踏みしめ丘を上がる。 ちょっと日差しは暑いが、風があるので心地いい。 「弁当をツマミに、花見酒‥‥悪くないです」 ふふっ‥‥と笑う橘 琉璃(ia0472) 。 「呼ばれてきたぞ」 何時ものように煙管を吹かせ雲母(ia6295)もやってきた。 「こんにちは〜♪ さしいれに『桜火』を持ってきましたよ」と木下 由花(ia9509)。 由花から酒を受け取る青葉。 「俺のさしいれは、これかな?」 大きな袋を差し上げる琥龍 蒼羅(ib0214)。 中にはラフォーレリュートと三味線が入っているのだと言う。 「今日は皆が演奏すると言うので俺も持ってきた」と笑う蒼羅。 「蒼羅さんと一緒演奏できるのならば皆も喜びましょう」 にっこりと笑う青葉。 ──萌え屋さんのご飯は美味しいですの。 ──お弁当が用意されているようですが、開拓者の人は良く食べるし、 ──人数もいますから、まゆもお弁当作りました。 設楽 万理(ia5443)が「美形ぞろいで一部紳士淑女の憩いのスポット」と評す萌き屋は、舌の肥えている者や自ら包丁を握る料理上手な開拓者も集う場所でもある。 今回の親睦会は花見と言うのもあって弁当持参の者も多い。 「まゆもお持ちしました」 重箱を抱えてやってきた真夢紀。 一つ持ちましょう、と若葉がいう。同じ本好きと言う事で真夢紀は、萌き屋では若葉と良く話す事が多い。 「それ、僕が持ちます」 神咲 六花(ia8361)が声をかけ、真夢紀と若葉が持っているお重をひょいと持つ。 六花は少し前から萌き屋に通いはじめた客である。 依頼で街に立ち寄る程度であるが、それでもいつも立ち寄ってくれている馴染み客だ。 「お弁当全部手作りなんですね。私は先附の小鉢ぐらいしか作れないので‥‥」 羨ましがる若葉に「先附は季節感や彩が大事で結構難しいのだから、すぐに上達する」と笑う真夢紀。 「僕も今度お店に言ったら美味しいとか不味いとか言ってあげるよ」 「ありがとうございます」 にっこりと笑う若葉から「たいした事がない」と目を逸らす六花。 「紅葉さんと久しぶりに会うのも久しぶりですね」 「いいさんだ〜、おひさしぶりりん♪」 大きな重箱を片手に現れた井伊 貴政(ia0213)にピョンと抱きつく紅葉。 「もみじね。いいさん、おみせにこなくてちょーさびしかったよ」 スリスリと貴政に懐く紅葉が、きゅるっと上目使いに貴政を見上げる。 「お世辞でも嬉しいですね」 「紅葉さんは、いつでも薄着ね」 寒くないの? という万理に大丈夫と答える紅葉。 「私なんかようやく暖かくなってきたし、これでやっとロングコートとおさらばねって箪笥の奥にしまったばかりなのに」 冬が辛かったという万理。 「その挙句大規模合戦だったでしょう。今年はコートが大活躍だったわ」 薄着が好きな万理にとって待ち望んだ春である。 「春、花見、そして美形。目福の季節到来ね」 「紅葉ちゃん、若葉ちゃん。皆、元気〜?」 大徳利を持ってやって来た蓮見 椿(ia0512)。 「つばきさんだ〜♪」 タタタ‥‥と走っていったが、木の根に足を取られてすってーん! と豪快に転ぶ。 (「いつもの事ながら、何だか放っておけない感じなんですよねぇ」) 「たまにはのんびりするのも良いわね。私は、毎日のんびりしてるけど」と椿。 「開拓者の皆さんは、私たちと違って合戦やら何やらで大変だとお聞きしていますよ」 にっこりと笑いながら徳利を受け取る青葉。 「花見に来たぜー!」 ルオウ(ia2445)が萌き屋の兄弟達を見つけると大きく手を振った。 「祥さん、お越しくださってありがとうございます」 青葉が頭を下げる。 普段、このような場に来ない御凪 祥(ia5285)が参加したのも花の宴だからかもしれない。 「お嫌ではありませんでしたか?」 「いや、花見そのものは好きだな。早春の梅に今が盛りの桜も然り」 「紅葉ねーちゃん、くるしいよ〜っ」 リエット・ネーヴ(ia8814)をギュッと抱きしめる紅葉。 紅葉曰くリエットは「ちっちゃくってにゃんこみたいでかわいい♪」である。 倉城 紬(ia5229)もまた「ちいちゃい白いぷるぷるわんこ」に見えるらしく思いっきり抱きつかれているが、紬といえば、真っ赤な顔で照れながら「はわわわ‥‥」とオロオロとしていた。 紅葉がちっちゃい女の子が好きなだけならば、からす(ia6525)もターゲットになりそうであるが、からすの落ち着いた雰囲気から「魔法の使える黒にゃんこ」に見えるらしく抱きつきたいのを我慢しているらしい。 「そうなのか?」と若葉に尋ねるからす。 たぶん、と肩をすくめる。 「しかし、すごい荷物ですね」 からすの抱えた荷物を見て若葉がいう。 「折角の花の席だから茶屋でも開いてみようかとな」 簡易畳や墨、湯を沸かす釜等一式を持ってきたと言う。 「お茶屋さんを開くんですか?」 キラキラとした目で尋ねる由花。 「うむ、緑茶からほうじ茶、桜茶。薬草茶まで色々揃えてきた」 どんな茶(リクエスト)でも飲ませて見せようとからす。 「ほらぁ、もう皆集まっているよっ!」 同じ小隊のベルトロイド・ロッズ(ia9729)に背中を押されてやってきたのは和奏(ia8807)である。 「ベルトロイドさん、自分はお弁当を持ってお花見に行くのは初めてで‥‥」 「萌き屋の方でも用意してくれるって言ったんだからさ。こういう時は手ぶらでもいいの!」 たまたま親睦会に参加すると知った二人は一緒に行こうと待ち合わせたが、待ち合わせ場所に中々やって来ない和奏。 心配して家に押しかけたベルトロイドは『人気☆お花見弁当』というタイトルの冊子を前に悩んでいる和奏を発見し、がっくりするのだった。 「なにやっているんだよ〜」 「見れば見る程どれも美味しそうで‥‥ベルトロイドさんは、どれがいいと思います?」 早めに待ち合わせていたのが幸いしたが、今から弁当を作っていては遅刻である。 「お弁当を作っている場合じゃないよ」 箪笥から適当な服を選び、和奏に押し付けるベルトロイド。 着替えた和奏を引っ張って大急ぎで来たのであった。 「遅いぞ〜」 来ないんじゃないか心配した、と双葉。 「ん、色々あってね」 息を切らしながら集合場所にやってきたベルトロイドは、ちらりと和奏をみる。 「あー‥‥桜がきれいですね」 そんなベルトロイドの気持ちも知らずか、のんきに笑う和奏だった。 ──萌き屋に皆さん、お越しになっている方達ばかりですので、簡単なご挨拶をした後、いよいよお花見の開始です。 「俺はサムライのルオウ! よろしくなー」 「酒と美味い弁当、桜に釣られてきた、よしなに」 「御凪 祥だ。よろしく」 「神咲 六花です。僕は、いつも楽しい時間を贈ってくれる皆にお礼がしたくて参加かな?」 「‥‥‥(ぼー)‥‥‥」 「あ、あの‥‥よ、よろしく‥‥倉城 紬です」 ──毛氈の上に上手で色々なお弁当が並びます。 「さて、お楽しみの酒宴‥‥いやさ、花見だ」 巴 渓(ia1334)の言葉にドッと沸く。 「花を肴に祝宴でしょ?」 「それこそが楽しみというもの」 「いやいや、たしかに政治紛争絡みの合戦は、どうも息が詰まってかなわんかったが、さすがに全員がドンチャン騒ぎじゃ、開拓者の品格が問われるだろう?」という渓。 「渓さんは、マジメだな」 「そういえば‥‥リエットさんは、お弁当を‥‥持ってこなかったんですか?」 「そう言う紬ねーは? 私、紬ねーの美味しいお弁当が食べられると思って作って来なかったです」 「萌き屋さんのお弁当があるので‥‥‥私が作って‥‥もし、余ってしまったら‥‥」 オロオロとする紬に対し、さっきまで出ていた虎猫縞の耳がポンと消えるリエット。ちょっとテンション下がり気味である。 それならば一緒に食べませんか? と貴政。 「全員に少量ずつお裾分けできるように一杯作ってきましたので」 料理好きな貴政は、料理屋での助っ人経験もある。 広げる重箱には綺麗に煮物やら焼き物等が並んでいる。 「どうやらお弁当が足らないというのはなさそうですから」と琉璃。 持ってきた弁当の中身は、煮物、唐揚げ、玉子焼きがぎっしりと詰まっている。 真夢紀が作ったお弁当は、色とりどりの筍のおにぎり、葱・解し鱈子の2色の玉子焼き、菜の花の辛し和え、ウドと高野豆腐の煮物、新牛蒡と牛肉の甘辛炒め、そして定番の唐揚げが本格的な弁当であった。 「辛し和えは菜の花がなかったら大根か株で作っても良かったんですが、丁度八百屋で良い菜の花があってよかったです」 「凄い豪華だ〜」と関心するリエットに、 「菜の花は、外でなければ茹でたのをポン酢で食べても美味しいですよ」 お料理好きが多いので料理談議に花が咲く。 「あ、すごい。この筍ご飯」 真夢紀の作った筍ご飯は、筍のほかに蕨や薇、油揚げに人参が入って食感と彩が同時に楽しめるようになっていた。 「外で食べる事を考えてお稲荷さんのように油揚げでご飯を包む方法もあったんですが、それだと筍の風味がちょっと落ちる気がしましたのでオーソドックスな形にしてみました」 オオ〜ッと歓声が上がる。 この鳥の照り焼き、最高です♪ と言いながらもむもむと弁当を食べている由花。 「見目麗しい方々を見ながら、美味しいお弁当。しあわせですよね〜♪」と由花。 「桜はいいのか、桜は」と突っ込む双葉。 「ちゃんと見ていますよ。まぁ、どっちかというと『花より団子』なんですけれど‥‥でも双葉さんのは、ちょっと〜」 「今、それをいうのかよ」 大体、由花が食べている弁当は若葉が店の残りを詰めただけじゃん、という双葉。 「シ〜っ(内緒でしょっ)!」と唇の前に指を立てる若葉。 「若葉は節約が得意なのか?」と蒼羅。 「得意というか‥‥必要だから覚えたというか‥‥」 「俺はまだ開拓者となってから日が浅いので色々と物入りなんだが、どうやったら節約できるかな?」 「そうですね‥‥」 持ち物リストを付けるのはどうでしょうか? という。 配給品でダブった場合、それを万商店に売ってしまえばいいという事らしい。 甘味には桜餅を作ってきました、と真夢紀。 もみじもつくったよ〜、と真夢紀の作った桜餅の隣に並べる紅葉。 「ならば、私は茶を煎れよう」とからす。 同じ桜餅でもかなり形状が違う。 「紅葉さんの‥‥桜餅は‥‥東方の桜餅です。真夢紀さんのは‥‥西方の‥桜餅です」 紅葉のは、餅粉を薄く溶いたものを桜色に染めて焼いたもので餡を巻くものである。 一方の真夢紀の作った桜餅は、蒸した餅米に紅と含んだ蜜を吸わせる手の込んだもので、呼び方もそれぞれ正式には違うと教える紬。 「難しい話は抜きにして(ぱく)‥‥は〜ぁ(ハート)どっちも最高です♪」 お代わりを要求する由花。 「だってどれも美味しいですから♪」 ──お腹が膨れたら皆で花札をして遊んだり、演奏したり、花見の楽しみ方はそれぞれのようです。 春の陽は思うよりも暑く喉の渇きを訴えるものも少なくない。 「やあ、お茶は如何かな?」 桜の樹の下に茶席を設けたからすは、通りすがりの者に気軽に声を掛ける。 「冷たいものが欲しければ冷茶もあるが、もしも飲みすぎているのであれば、薬草茶もある」と微笑むからす。 リエットがルオウと祥にお酌をする。 「肴は‥‥足りていますか?」 「ああ、それよりもう一杯貰おうか」 「楽しいですね〜♪ 春はこうでなくてはね♪」 ごくごくと杯を開ける由花。 「蒼羅さんは足りています?」 「ああ、俺は十分だ」 「しかし花見はいいなぁ、そう思わんか」 酔いの為ではないが、ついつい同じ言葉を繰り返す雲母。 いや、もし酔っているとしたら華(花)にだろう。 「梅に桜に・・・‥月もいい、とてもいい」 上手い酒と肴、憂さを一時忘れてのんびりと過ごす最高の喜びだ── 「この先に『月の台(うてな)』と呼ばれる場所があるそうですよ」 「ほほぅ、それは是非とも行かねばな」 そういって楽しそうに杯を空ける雲母。 「ベルトロイドさん、大丈夫?」 全身が真っ赤になっているベルトロイド。 「色が白いからね。飲むとすぐに赤くなるんだ」 でも全然酔っていないという。 「小さい頃から飲んでいるのでそこそこ強いんだけどね」 こういう時は損だ、という。 「‥‥‥(もむもむ)‥‥‥」 ぼーっと花を見ながら弁当を食べる和奏。 たまに何かを思い出したようにじーっと桜を見つめたりしている。 ベルトロイドが酒を飲むかと徳利を差し出せば杯を出し、これは上手いぞと皿を差し出せば皿を受け取りもくもくと食べていた。 それで楽しいのかと問われれば、和奏にとって花見は、ぼーっと桜や人を眺るのがお花見であった。 興が乗ってきた渓が杯を片手に一句詠む。 『春風に 舞い散る花の美しさ 空しき世にこそ 尊き日々よ』 「こんな下らない日常こそ、って奴さ」 「良い句ですね」 「そうか?」 嬉しそうに杯を空ける。 ふと見れば六花と双葉の笛、蒼羅のリュート、若葉の三味線、青葉の太鼓。軽やかな桜の曲に合わせて由花と紅葉が踊っている。 「花見だけど、どう考えても、紅葉ちゃんと双葉君を見てる方が楽しいわよね」 「馬鹿やって、酒飲みながらヤジを飛ばす‥‥舞い散る花の様に儚い瞬間さ」 「ふふ‥だからこそ花見はいい」 ひらりと一片の花びらが杯に落ちる。 ぐいっ──とそのまま飲み干す。 ふと、祥が槍を持って席を立つ。 「何しに行くの?」 「御凪にーはお腹が一杯になったから腹ごなしの運動だって」 「花を愛でながらの一振りは最高だぞ」と祥。 「その気持ち判るなぁ」と万理。 私も打ってこようと弓を持って歩いていく。 「この辺りなら人気も少ないし大丈夫よね」 きょろきょろと辺りを見回す万理。 「こうひらひらと目の前に落ちてこられるとやりたくなっちゃうのよね」 弓に矢を番えると舞い落ちる花びらをパスパスと打ち抜き始める。 びゅ〜っと風が吹き。桜吹雪が舞い踊る。 「それって私に対する挑戦?」 ぺろっと唇を舐めると更にすばやく舞い落ちる花びらに向かって矢を放つ。 「ん〜? なんだかデジャヴ‥‥あ、そうか。確か、これ秋に散る落ち葉でやったなぁ」 ケラケラと笑う万理。 酔っ払いな奇行には半年という時間は関係ないようであった。 ──詠いや演奏を披露していると珍客が迷い込んできました。 ──ならず者達です。 ──どうしてこの人達は、どこに現れても空気が読めないんでしょうか? 「ようよう、楽しそうだな。俺達も混ぜてくれよ」 ドカドカと履物のまま毛氈に上がり、お膳を蹴散らしながら勝手に座るならず者達。女子供が多い宴席、集るには丁度いいだろうとの狼藉であろう。 「静かに楽しむなら花見の席、どうぞ一緒に楽しましょうっていえるけど、ちょっと大人気ないよ」 「何だとコラ?!」 つかみ掛かってきた男の腕を払うベルトロイド。 一方、右腕をつかまれそうになった紬が月歩を使って一気に逃げる。 それが癇に障ったのか益々ならず者達が絡んでくる。 (「‥‥余興か何かでしょうか?」) ぽやっとならず者達を見る和奏。 「どけっていってんだよ」 「賑やかですが、ちょっと煩い、かも‥‥」 「なんだと?」 「もう少し周囲のコトを考えて愉しんでいただければ嬉しいのですが」 宴席で暴れるならず者を初めて見る和奏。 相手がどうしてそんな行動をするのか理解できずにいた。 「てめぇ喧嘩売ってんのか、コラァ?」 「喧嘩を売っているつもりはないのですが‥」 「和奏、相手にしちゃ駄目だって!」 (「多少脅せば済むか?」)と思う蒼羅。 青葉が、ボスらしい男の前に進み出て頭を下げる。 「申し訳ありませんが、この席はお店をご利用いただいておりますお客様達との親睦会です。お静かにしていただければ、どうぞご参加くださいと申し上げますが、何卒ご遠慮いただければと‥‥」 「こっちとら男ばかりだ。嫌なら女と酒を置いていけ!」 ドカッと男の足が青葉の顔を蹴る。 それを見て、若葉に抱きかかえられた紅葉が小さく悲鳴を上げる。食って掛かろうとする双葉を制して男達の間に立つ貴政。 六花は懐に入れた陰陽符「乱れ桜」にさっと手を伸ばす。 青葉の頭を男の足が再び踏みつける。 「しつけぇんだよ。帰るのはお前だろう」 髪を掴まれ顔をねじ上げさせられたが、その顔を見て、リーダーが口笛を吹く。 「おやおや‥‥こいつは中々の美丈夫じゃねぇか」 「よく見れば何人か、男にしとくには別嬪が混ざっているぜ」 「陰間茶屋にでも叩き売れば酒代になりそうだ」 ゲラゲラと笑う男達に──ブチッ──何かが切れた音がした。 青葉と掴む男の腕に雲母の煙管から「ポン!」とタバコの火が飛ぶ。 「熱ぃ!」 「おや、悪い。飛んだかね?」 「穏便に‥‥と我慢をしていたが、その無礼な態度許し難し」 目にも止まらぬスピードで男に近づくと青葉と掴んでいた腕をくるりと捻り上げる渓。 間接に決まり、男がうめき声を上げる。 「拳士は伊達じゃないんだぜ‥‥無粋な乱入者にはご退場願おうか」 「大人しく花見に参加したいってなら兎も角、その態度はないだろうが」とルオウ。 慌ててリエットが重箱を片付け、周りの野次馬達を万が一に備えて非難させていく。 「なんだと、てめぇ」 「おやおや、私の邪魔をするとは‥‥いい度胸じゃないか」 身の程を知らせてやろう、とボキボキと拳を鳴らす雲母。 ──二度と他の花見客のご迷惑にならないように皆できっちり(拳で)話し合いです。 リエットは両手に重箱を持ったまま、吹っ飛んでくる草鞋を器用に避けている。 その脇で真っ赤な顔をしながらオロオロしている紬。 「ど、どうしましょう‥‥」 幽霊のようなアヤカシならば男でも大丈夫だが、生身は苦手である。 ならず者の鼻先に祥の投げた紅槍が突き刺さる。 「人が槍を振っている間に──」 突き出された拳を掴んで捻り、バランスを崩した所で足払いをする。 すってんと転んだ所でしたたかに鳩尾に一撃を食らわせる祥。 「流血沙汰は、こちらも困るんでな」 開拓者が一般人にその力を振るって罰せられないのは、原則的にギルドを通した依頼のみである。それとてやりすぎれば処罰や罰金が回ってくる場合がある。 蒼羅は抜刀せずに相手の刃を鞘で払っていく。 「楽しいお弁当の時間を邪魔するなんて、許せないですっ!! しかも手ぶらでっ!!」 何か持ってきていればいいのか? 由花。 たぶんいいんです。きっと、はい──神楽舞・攻と「抗」を舞う由花に突っ込めるヤツはいなかった。 「誰の邪魔をしたか、身の程知らずめ!」 弓を木の鞭のようにバシバシと振るいならず者を打ち据える雲母。 「花の宴を邪魔したのみならず、女、子供を泣かすとは!」 怯え泣かすなど言語道断と本気の大魔王が降臨したようである。 容赦ないその姿を見て「がんばれ〜」と最早何も考えていない女(紅葉)と、「大丈夫かなぁ?」と心配する子供(双葉)。 「小手、脛、小手。ほら、おじさん。脇が甘い!」 槍の柄を器用に使い、バシバシとならず者を叩くベルトロイド。 「ほら、今度は懐が開いた」 石突ですばやく突きを食らわせる。 ひっくりかえたならず者に、 「酒は、飲んでも飲まれるな、だよ」という。 「大体、刃物はご法度でしょう。こっちも本気になっちゃうよ?」 男の取り出した短刀を叩き落すルオウ。 「やっぱ、男といえば相撲だろう」 がっしりと相手の帯を掴んで力任せに振り回す。 「てめぇ、好き勝手ばかり言いやがって!」 やられっぱなしはイケてないと思ったのか、ならず者の男もがっしりとルオウのベルトを掴む。 「はっけよ〜い、のこった。ってか?」 勝負だ! とルオウはいった。 「貴政は、協力しに行かなくっていいのかよ」と貴政に尋ねる双葉。 「僕の役目は、とりあえず萌き屋の面々を守る事ですから」 「『とりあえず』ってなんだよ。とりあえずってのは!」 ガウガウと文句を言う双葉。 「おや、双葉くん『も』守って欲しかったですか?」 「‥‥んなもん、いらないぜっ!」 「双葉くんも可愛いですね」 にっこり笑う貴政がガシガシと真っ赤になって反論する双葉の頭を撫でる。 貴政にも姉がいるので双葉の気持ちも判る。 「(でも‥‥それはそれ、これはこれ)紅葉さんは譲る気ありませんよ」 きゅっ紅葉を抱きしめる貴政。 「なっ‥‥! その手を離しやがれ!」 (「困っている紅葉ちゃんも、怒ってる双葉君も、相変わらず可愛いわね」) 一方、若葉は混乱していた──。 目の前には襲い掛かってくるならず者から若葉を守り、傘で打ち据える六花がいる。 しっかりしていると言われ続けていた為か普通に女の子として守られた事がないのである。 「大丈夫?」 「えっ?! だ、大丈夫です!」 若葉の様子が変だと後ろを向いた六花にならず者が襲い掛かる。 そのまま傘の柄を突き出しならず者を昏倒させる六花。 「それならいいけど‥‥」 「それ以上は、駄目よ?」 傍観を決め込んでいた椿であるが、笑顔で呪縛符を取り出し呪(しゅ)を唱えると巨大イソギンチャクが出現した。 ──でもちゃんと最後には仲直りです。 イソギンチャクに捕まり、ヌルヌルヌメヌメにされたならず者達は大きくやる気を失っていた。怪しげな世界に飛び込まなかったが、精神的ダメージはかなり大きそうである。 「無粋な横槍には、お仕置きでしょう?」 くすくすと黒い微笑を浮かべ、赤い縄を取り出す琉璃。 「そう言えば、綺麗な桜の木の下には、死体が埋まっているらしいわよ?」 椿の言葉にゾゾゾ‥‥と捕まったならず者達の血の気が引く。 ぐるぐると縄で縛られ、転がされるならず者達。 その状態ならば動けないからと紬が神風恩籠を施していく。 「さて、このまま樹に吊るすか、それとも根元に埋めるか‥‥どちらがいいですかねぇ」 「まあ、大分反省しているようだしな‥‥大人しくしているのならば私の座敷に来るといい。暴れなければ追い出さないよ」 と、からすが男達をゾロゾロと引っ張っていく。 座敷に上げると縄を解いていくからす。 包帯と止血剤で紬が手当てする程ではなかった者達の手当てをする。 「さて、何を飲むかい?」 酒と茶と薬湯、薬草茶があるとからす。 「酒を飲み花見を楽しめ。喧嘩なぞ無粋だよ」と、ニコリと笑う。 「尤もまだ暴れたりないというのならば‥‥‥‥傷口にヴォトカを擦りこもうか?」 可愛らしいはずの笑顔が恐ろしく見える。 さすが開拓者である。 飴と鞭の使い方が、上手である。 男達はからすに言われるまま、大人しく茶を啜っている。 「ついでにこれも飲むといい」 怪しい色をした薬草茶が男達の前に置かれる。 酔い止めとからす特性の睡眠を促す薬草茶だという。 「大丈夫、明日の朝はすっきりしているはずだよ」 今は薬が効いているが、効能が切れれば痛くなるだろう? といった。 「これにて一件落着かな?」 「そうねぇ、ちょっと怪我人が出たけど」 宴会の続きをしてもいいんじゃない? 酒宴の続きをする者や個別に花を見て回る者もいる。 さっきからどうも様子の可笑しい若葉を六花は思い切って誘う。 二人で桜を見て回るが、若葉はどうもぎこちない。 クシャンと小さなくしゃみをする若葉に自分のしていた襟巻きを外し巻く六花。 「まだ、寒いから‥‥」 「‥‥六花さん、ありがとうございます」 礼を言う若葉から慌てて目を逸らす六花。 「何か様子が変だけど、どうしたの?」 「なんだか私って役立たずだな、って‥‥」 皆のように特別な力もない。 料理がめちゃくちゃ得意なわけでもない。 「性格もオバサンみたいだし‥‥」 「そんな事ないよ、若葉は頑張って皆の面倒をみているじゃないか」 今日は若葉を労ってあげたくて参加したのだと六花がいう。 その言葉に恥ずかしそうに頬を染め、下を向く若葉。 静かな沈黙が流れる。 懐から笛を取り出し、一曲吹く六花。 若葉もそれに併せて笛を吹く── 「‥‥また、来年もこうやってお花見がしたいね」 傾く夕日に照らされる桜を見ながら六花がいった。 ──この後、月見酒を楽しむ方達はその場に残ることになり、親睦会はお開きになりました。 「月下に照らされし桜もまた美しき」 樹に登りうっすらと月の明かりに浮かび上がる桜を愛でつつ桜花を飲むからす。 宴も楽しいが独り飲む酒も楽しからずや── ふふっ‥‥と笑うからすだった。 ──いつか姉様、ちぃ姉様と一緒にお花見を出来る日を楽しみに。 まゆ より── |